草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

水産業のルーツを探る  『江戸前魚食大全』(冨岡一成著)より

 先日、CSの教養番組で日本古来の漁業に北方型と南方型の二系統があることを解説していました。日本列島に押し寄せる北の寒流と南の暖流は、日本海側では能登半島付近で、太平洋側では銚子沖で合流し、これを境に日本列島近海の魚介類の分布を南北に大きく二分します。
 寒流域にある北方型漁業の特徴はいわば小種多量型で、サケ・マス・ニシン・昆布など、漁獲対象は少ないながら、季節性が強く毎年決まった時期に大群であらわれたので、ときに潤沢な獲物に恵まれました。ただし漁法はいたって素朴であったので大量漁獲は望めません。保存法も天日と冷風の自然利用による素干しが一般的で、スルメ、みがきニシン、棒ダラ、カズノコなどがその代表です。
 いっぽう暖流域の南方型漁業ではブリ、マグロ、カツオなどを筆頭にさまざまな魚種が漁獲対象となりそれに応じて網、釣り、もぐり漁など漁法も多様化しました。漁業形態は北方型よりも複雑であり、また先進的な面が強かったと考えられます。また、なますやたたきといった生食が早い時代からおこなわれていました。魚は活き活きしているのが旨いという感覚も南方型漁業の特徴だったようです。
 ところが、両者のちがいは自然条件によるものとばかりも片づけられない、もうちょっと込み入った事情がありました。結論的に申し上げると、北方型は古モンゴロイド系の縄文人に伝わる伝統であり、これに対して南方型は東アジア沿海よりの渡来系弥生人の集団である海人(あま)族よりもたらされたと考えられます。
 漁撈技術において優位性を持つ海人族は西日本を中心とする沿岸一帯を席巻するように生活圏を広げていきました。とはいえ一方が他方を駆逐するような形をとらなかったことで、漁場をめぐる争いなどはあったにしろ、民族同士の棲み分けはできていて共存関係にあった。それが自然地理的条件とあいまって北方型漁業と南方型漁業というきわだった流れが後世まで残されたと考えられます。とはいえ海人族のもたらした先進技術が、のちの日本の水産業をひらくルーツになったといえるでしょう。
 海人族は古代・中世の日本で海川を舞台として自由闊達に活動しました。かれらは魚貝をとり、海辺で製塩をおこないます。そして船を巧みに操って交通、物流を担うとともに、ときには武装して権力者の水軍となり、激しい戦闘をくり広げたのです。漁民と呼ぶには、あまりに多彩な活動をおこなうかれらは「海民」と総称されます。
 今回は『江戸前魚食大全――日本人がとてつもなくうまい魚料理にたどりつくまで』より、日本の水産業のルーツともいえる海人族の特徴についてみていきましょう。

海人たちは、長い期間をかけて日本に渡ってきた。単一の集団ではなく、移動ルートもいくつかあったと考えられる。それぞれに漁撈方法や航海術も異なっていて、素潜り漁の得意な集団もあれば、突き漁をおこなう集団もある。沿岸に定着する集団もあれば、漂泊的な移動をおこなう集団もある、といった具合だ。弥生時代中期から古墳時代にかけて、およそ一〇〇〇年のあいだに列島各地に広がったが、いくつかの代表的なグループに分かれる。
現在の福岡県宗像(むなかた)市鐘崎(かねさき)を根拠地とする宗像海人は、朝鮮半島から壱岐・対馬を経由して北九州に渡ってきた倭人である。操船術に長けた集団で、朝鮮半島、中国大陸への遠洋航海も日常的におこなった。
また、潜水漁によるアワビとりを得意とする。おそらく「魏志倭人伝」に出てくるのは宗像海人なのだろう。かれらはあらたな漁場を求めて、半島伝い、島伝いに移動した。壱岐の小崎浦、対馬の曲まがり、山口県角島(つのしま)近郊の大浦、石川県の輪島などはいずれも鐘崎の枝村であり、海士(海女)のアワビ漁で知られている。
同じく北九州でも、福岡県の粕屋郡志賀島を根拠地とする安曇(あずみ)海人は、むしろ沿岸漁業を得意としたようだ。移住地域は、九州から瀬戸内海の沿岸地域を席巻するように広げて近畿に入り、そこから渥美半島、伊豆半島にまで達した。渥美や熱海、滋賀などの地名は、安曇、志賀島との関連が指摘され、海人によって開かれた土地ではないかといわれる。かれらのうちには「陸上がり」をして、内陸部に入植した集団もいたという。糸魚川から姫川沿いに南下して、長野県の安曇野を開き、そこから各地に安曇の地名をもつ集落が広がったというのだ。安曇海人は、ヤマト王権により阿曇連の姓を賜っている。中央政府との結びつきが強く、古代海人族のなかで最も勢力を張った集団であった。
一方、中国沿海から台湾、沖縄方面を経て九州西南地方へたどりついた者たちもいる。かれらは熊襲と呼ばれるが、後にヤマト王権に仕えた者は隼人と称された。『肥前国風土記』に「白水郎(海人)と隼人は言葉も顔立ちも似ている」とあるが、どちらも倭人なのだから当然である。ただし数世紀を経て、両者の性格はかなり異なってくる。中央政府に対して、北九州の海人たちが恭順的なのに比べて、隼人はかなりの抵抗を示した。民俗学者沖浦和光氏の『瀬戸内の民族誌』(岩波書店・一九九八)によれば、隼人系海人族は後に瀬戸内海水軍の中核として成長していく、最も戦闘的な海民集団であったという。
海人族=海民の移動によって海上交通がうまれ、人とモノが運ばれていく。集落と集落が海上ルートで結ばれて交換経済が発達し、離れた場所ともネットワークがつながる。少なくとも三世紀の邪馬台国の時代までに、日本列島周辺と朝鮮半島、中国大陸を結ぶ海上ルートが開かれていた。
現代は陸上交通が主流だが、それは最近の一〇〇年ほどのあいだにつくられたもので、それ以前の約二〇〇〇年間は、海を中心とする流通がおこなわれてきた。その根本をつくったのが海民の全国的な伝播であったといっても、決して大げさではない。

 およそ四世紀半ばにヤマト王権が成立すると、有力な「海民」が傘下に組み入れられ、八世紀以降の律令制国家では朝廷に海産物を貢納する贄人(にえびと)のような「特権的海民」をうみだす一方、貿易や物流による大きな利益をもたらす「海民」たちの多くが大社寺や権門勢家の貴族たちの荘園や公領に囲い込まれていきました。
 このうち「特権的海民」から魚問屋や廻船人がうまれて、水産物流通を形づくるようになり、のちには生鮮市場をひらくにいたります。荘園・公領においては漁奴的な生産者であった「海民」たちも戦国時代になると自治的な村をつくり、これが近世以降の漁村の基礎となりました。
 深淵な「海民」の歴史を詳述しようとすれば、相当読みごたえのある大著にならざるをえないのですが、『江戸前魚食大全』はたったの20数ページでまとめているのだから、ずいぶんと無茶をしたものです。けれども、江戸時代以前の水産業のあらましをざっと俯瞰できてしまえるし、ちょっと婦人雑誌的にいうと収納上手な奥さまといったまとめかたになっていて、必要な知識はあらかた入っているから便利といえるでしょう。

(筆者/冨岡一成)

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江戸前魚食大全 | 書籍案内 | 草思社

江戸前魚食大全: 日本人がとてつもなくうまい魚料理にたどりつくまで | 冨岡 一成 | 本-通販 | Amazon.co.jp

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冬景色の中へ、探しに行きたくなる不思議な現象の数々。 『雪と氷の図鑑』

雪と氷の図鑑

武田康男  著

◆雪と氷の不思議とその科学を170点あまりの写真で紹介・解説する初めての図鑑

 「霜柱」と「霜」はどう違うのか? 池の水はどこから凍りはじめるのか? 美しい雪結晶ができる温度は? 本書はこのような雪と氷の不思議を美しい写真で紹介し、その科学を解説する初めての図鑑です。
本書の著者は『楽しい気象観察図鑑』『世界一空が美しい大陸南極の図鑑』(いずれも草思社)など、空や気象に関する写真満載の本を多数著してきた武田康男さん。その武田さんがこれまで撮りためてきた雪と氷に関する現象の写真から、選りすぐって一堂に集めました。
 誰もが知っている、雪の結晶や池の氷などが美しい写真で紹介されるのはもちろんのこと、あまり馴染みのない雪と氷の現象の写真も数多く掲載・解説されています。たとえば、しぶき氷(湖などに風が吹いて巻き上がったしぶきが周囲の物体に凍りついたもの)、雨氷(氷点下まで冷やされ過冷却になった雨粒が地表の物体に落ちてきてすぐに凍ったもの)、ジュエリーアイス(北海道・十勝川から流れてきた透明な淡水の氷が、河口周辺の海岸に打ち上がったもの)、氷紋(氷の上に薄く雪が積もったとき、氷の下からしみ出した水が雪を融かしてできる模様)といったもの。雪国で暮らしている方も、改めてこうした現象を知れば、冬の空の下に本物を探してみたくなることでしょう。

◆雪道・雪崩・積雪などの被害を引き起こす、雪の性質も科学的に解説

 日本は実は、世界でも有数の積雪国です。雪と氷と言えば、雪国の方にはその美しさや恩恵以上に、危険や苦労の方が先にイメージされるかも知れません。本書では、除雪の苦労やアイスバーンの雪道の危険さ、雪崩や落雪による被害についても写真とともに紹介しています。積もった雪が「ざらめ雪」に変化したり、地吹雪で吹きだまりに吹き寄せられたり、あるいは屋根や電柱に冠雪がくっついていく様子など、雪害を起こす雪の性質についても、科学的に解説していますので、雪に困っている方にも興味深い内容となっています。
 また、富士山の12か月の雪化粧の変化を比較する写真や、南極やモンゴル、ロシア、北米など、海外の雪と氷を捉えた写真、あるいは高山の万年雪や、最近になって発見された日本の氷河の写真など、貴重な写真も多く掲載。雪と氷の現象の奥深さ、幅広さを感じていただけることと思います。冬の景色がこれまでと違って見え、雪や氷が待ち遠しくなる一冊です。

(担当/久保田)

◆著者紹介

武田康男(たけだ・やすお)

1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科)。第50次南極地域観測越冬隊員。気象予報士、空の写真家。日本気象学会会員、日本雪氷学会会員。現在、大学の非常勤講師、講演、執筆、写真・映像撮影、テレビ番組制作などをしている。著書に『楽しい気象観察図鑑』『世界一空が美しい大陸 南極の図鑑』『雪と氷の図鑑』(以上、草思社)、『雲の名前、空のふしぎ』『不思議で美しい「空の色彩」図鑑』(以上、PHP研究所)、『武田康男の空の撮り方』(誠文堂新光社)など。

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Amazon:雪と氷の図鑑:武田康男 著

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文庫版『昭和二十年』全13巻、未完の完結。故・鳥居民が明らかにしたこととは。

 日本が未曾有の試練に見舞われた太平洋戦争最後の一年を一月一日から十二月三十一日まで、ときの推移に従って、日本の全社会がどのように動いたかを描く巨大ノンフィクション、『昭和二十年』。著者の急逝のため未完に終わった本シリーズ全13巻の文庫版刊行が、このたび完結した。

 その第13巻に付された、担当編集者による「編集部あとがき」をここに公開します。


『昭和二十年』第13巻 編集部あとがき

 鳥居民著『昭和二十年』はここで絶筆となっている。二〇一三年(平成二十五年)一月四日朝、連絡があり、鳥居民(本名池田民)氏が倒れられ、救急搬送されたが、絶命したとのことであった。朝のシャワーを浴びている最中だったとのことである。享年八十四。

 大作『昭和二十年』はここで未完となった。生前、「別冊文藝春秋」誌の対談で丸谷才一氏、井上ひさし氏により、完成すればギボンの『ローマ帝国衰亡史』に匹敵する昭和日本の全社会史になるだろうと言われた稀有な試みは、残念ながら完結しなかった。鳥居民氏ご本人が一番無念だったであろう。あるいは鳥居民氏らしく、自嘲気味に「仕方ないですね」と笑ったであろうか。

 鳥居民氏は編集者と前年十二月中旬、新宿駅頭で別れた時に「『昭和二十年』第十四巻は八割がた完成しているから年明けには渡せるでしょう」と言っていた。しかし、残されたパソコン・データ内にあった原稿を精査してみたが、完成原稿というには程遠く(いつもの空手形であったのだろうか)、これをそのまま刊行することは、氏の遺志にそぐわないと考えたため、多少整理の手を加え、完成されていた部分だけを、かなり縮小した形で『昭和二十年/別巻』として後日、刊行する予定である。

 『昭和二十年第十四巻』は「ポツダム、そのあいだの日本」と題され、七月三日から七月二十八日までを扱う予定であった。六月二十二日の和平への政策転換以降、対ソ交渉もはかどらず、事態は小康状態となる。その間、国内は地方都市への激しい空襲や東京の再疎開問題に関心は向けられていた。トルーマンは戦艦オーガスタで太平洋をわたり、ポツダムへ向かい、チャーチル、スターリンと会談する。戦後の荒廃したベルリンとポツダムの状況、そこで日夜繰り広げられた、虚々実々の駆け引きが描かれる。天皇保全条項が除かれたポツダム宣言が発表されるまで。

 このあと『昭和二十年』は二巻ないし三巻で第一部が完結し(八月十五日だけは一日一巻で描かれる予定だった)、第二部は三巻か四巻で終わるはずであった(となると全二十巻ぐらいか)。鳥居さんはいつまで(何歳まで)生きるつもりだったのであろうか。戦後編の構想は、ほかに書き残した著作などから、かろうじて推し量ることができるかもしれない。氏の昭和史関係の著作はほかに『日米開戦の謎』『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』『山本五十六の乾坤一擲』(この書だけ文藝春秋社刊、他はすべて草思社刊)『近衛文麿「默」して死す』『鳥居民評論集 昭和史を読み解く』があり、後の二書に多少、氏の戦後史観をうかがうことができる。

 『昭和二十年第一巻』は正月、熱海大観荘での近衛の述懐から始まるが(どうやったら綺麗な顔で死ねるか、という)、昭和二十年十二月半ばの近衛の自殺までが主筋の一つであったようだ。八月三十日マッカーサーが厚木にやって来るが、近衛はそれ以前からすでに動き始める。だが、E・H・ノーマンの登場によって木戸対近衛の対立は、鳥居氏言うところの戦後日本を規定した木戸・ノーマン史観の勝利に終わる。十月はじめ徳田球一、志賀義雄が府中刑務所から解放される。十一月近衛が駆逐艦アンコンに呼ばれ査問される。ノーマンがマッカーサーに提出した、いい加減な戦犯リストをもとに日本は裁かれることになった。沖縄は、満州は、中国大陸はどうなったか。いよいよ風雲急を告げる昭和二十年の日本。あたかも安手の娯楽映画の予告編のようであるが、このあとは鳥居民氏の志を引き継いでどなたか有為の研究者に書いていただければと切に念じている(鳥居氏の蔵書・資料は草思社で保管しているが未整理のままである)。

 このシリーズ独自の指摘として例えば次のようなことが挙げられる。

(1) 二十年二月の重臣上奏は貞明皇后の前年末からの働きかけにより行われたこと。
(2) 木戸内大臣の責任の大きさ。開戦時および和平への転換で判断を誤ったこと。
(3) 昭和十九年春からの大陸での一号作戦(大陸打通作戦)が戦後の局面をすっかり変えたこと。
(4) 原爆投下とトルーマンの確信犯的行動。など

 死んだ子の齢を数えるようだが、もし完成していたなら、本書は朝日新聞的・NHK的ではないまったく別の昭和史観がありうるということを示せたはずなのだ(この未完の部分だけでも十分に伝わってくるのだが)。それはおそらく昭和を生きて、何も言葉を残さずに死んでいった多くの民衆の本音の部分に、これまで書かれたどの史書よりもっと深く響いたはずである。
 ここまで読んでくださった読者の方々にお礼を申し上げます。
 
 (担当・木谷)

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毎日を素敵に暮らせる「小さな家」をつくりませんか? 小さな家のつくり方―― 女性建築家が考えた66の空間アイデア

小さな家のつくり方

―― 女性建築家が考えた66の空間アイデア

大塚泰子 著

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 ◆「小さな家」成功の秘訣は、家に対する「固定概念」を捨てることから!

 「限られた土地にどうやって理想の住まいを建てるか」、土地の値段が高い都会において、家を建てようとする際、誰もがぶつかる課題です。しかし、むしろ著者は「小さな家」のほうが表面的な広さとは違う心地良い「ゆとり」に満ちた空間をつくれると断言します。

 そのためには、まず、家に対する「固定概念」を捨てること。これが小さな家づくり成功の最大の秘訣だとします。なぜなら世間一般の家の概念にとらわれていると、どうしても玄関、洗面所、各部屋のクローゼット、リビングなどをいかに土地に収めるか――その視点で家づくりを進めてしまい、その結果、家のパーツをぎゅうぎゅうに詰め込んだだけの、せまくて住みづらい家ができあがってしまうからです。

 著者の提案するアイデアは斬新です。本来独立しているはずの空間である玄関とテラスとリビングをまとめてしまったり、玄関と階段室を一体化したり、クローゼットを各部屋につけず一ヵ所にまとめてみたり、廊下につくったりetc。実際に狭小敷地や変形敷地、日照条件が厳しくお困りの方はもちろんのこと、これから新居をつくろうと思っている方や、リフォームしたいと思っている方まで、幅広くお役にたてるよう66のアイデアをまとめています。

◆小さな家に住めば、自然に断捨離! モノに振り回されない生き方ができる

 さらに、小さな家の魅力は住んでからも大いに発揮されるといいます。それはモノに振り回されない生き方ができることです。広ければ、あれもこれもと家具やモノを買い集めることもできますが、小さな家では余分なモノを置くスペースがないのですから、自然と自分が本当に必要とするものだけに囲まれたシンプルな生活になります。

 自分の目の届く空間に必要なモノだけがある。そんなすっきりした最小限の暮らしは、精神的なゆとりをもたらすでしょう。小さな家での暮らしは、今この瞬間を味わい、楽しみ尽くすことに意識を向けられるのではないか――小さな家をつくりつづけて、今著者はそんなふうに考えるようになったそうです。

 こうした著者の考えに賛同するように、最近は子育て世代のお客さん以外に、「小さな終の棲家を建てたい」という年輩の方もとても増えているとのこと。

ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊となっております。

(担当/吉田)

著者紹介

大塚泰子(おおつか・やすこ)

建築家。ノアノア空間工房代表取締役。大妻女子大学非常勤講師。1971年千葉県生まれ。日本大学生産工学部建築工学科卒業。同大学院生産工学研究科博士前期課程建築工学専攻修了。大学院修了後、1996年株式会社アーツ&クラフツ建築研究所に入所、杉浦伝宗に師事する。「ちっちゃな家#1」、敷地わずか9.6 坪の母の家が初めての担当作品となる。その後「ちっちゃな家」シリーズとして反響を呼ぶ。2003年有限会社ノアノア空間工房を設立。「どうしたら建築がゆたかさを育てるのか」をテーマに、これまでに約80軒の住宅設計、20店の店舗設計を手がける。趣味は写真と旅行。自分で手がけた建築はできるだけ自分の手で撮影したいと思っている。

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幸せな老い暮らしは、どうあるべきかーー。 『理想の老人ホームって、何だろう』

理想の老人ホームって、何だろう

―― 常識にとらわれない介護70か条

片山ます江 著

◆介護福祉界のパイオニア的経営者の問いかけ

 著者の片山ます江さんは、介護事業のパイオニアとして知られる女性起業家。専業主婦から30代後半で保育所運営を始め、続いて使われなくなった企業の保養施設を低コストで素早く介護施設に転用する独自の手法を編み出しました。
 日頃から「100人いれば100の杖」を信条に、お仕着せのサービスを嫌い、人間の尊厳を大事にした施設運営を推進し、そのアプローチは「伸こう会」方式と言われ、介護業界でも異彩を放っています。
 本書では、「老人ホームって何だろう」という問いを著者自らが立て、理想の老人ホーム、介護のあり方を問い直す形で、「空間づくり」「食事」「コミュニティとの関係」「家族との関係」「ホスピタリティ」「終末」「スタッフ」といった観点から「理想の介護70か条」としてまとめました。

◆これからの時代における介護と老人ホームのあり方

 「事務スペースはガラス張り」「ありがとうは悪魔のささやき」「食堂の椅子は人数よりも少なく」「『福祉バカ』になってはいけません」「人生経験の豊富な人が相手だという意識を」「いつまで働くかはその人が決めればいい」………。
 70の条件には、福祉の仕事に携わる人には「えっ」と思いそうな言葉や介護ビジネスの枠を超える大胆で斬新な提案が続きます。

理想の介護70か条――(1)「ふつうの暮らしぶり」を大切にしたい (2)介護の世界の常識を疑え (3)型にはまらず柔軟な発想で…(8)マニュアルは最低基準。縛られてはいけません (9)改善の手がかりはクレームにあり…(18)目に付きにくいバックヤードこそ整然と…(29)食事は定時であるべきなのでしょうか?…(35)ひとり合点な「よいこと」の押しつけに要注意…(40)「家族のような介護」は理想でしょうか?…(45)ホームで最期を、「地域死」という選択…(60)採用は経験よりも「一芸」を重視…(68)喜んでもらえる仕掛け、イベントを考え続ける (70)早期にISOの認証を取得したわけ

「福祉の世界なんてまったく知らなかったし、いまだに福祉のことがわからない」と語る”福祉の門外漢”ならではの人間中心の真摯なメッセージは、福祉に携わる人だけでなく、家族や自身の老い暮らしを考える上で必ずや参考になることでしょう。

(担当/三田)

本書の目次から
老人ホームって何だろう――「最高の必要悪」を届けたい
1章 「究極のサービス業」の奥深さを極める
2章「世界でいちばん素敵な老人ホーム」への70か条
3章 経営をゆるがせにしない
4章 理念を言葉に――組織拡大と継承のさなかで
5章 次へのステップ
あとがきに代えて

◆著者紹介

片山ます江(かたやま・ますえ)

社会福祉法人 伸こう福祉会 専務理事 
大阪府出身。1976年に認可外保育園「湘南キディセンター」を神奈川県藤沢市に開園。その後、老人ホーム「グラニー鎌倉」をオープンし、伸こう会㈱を設立。介護施設で初のISO9001を取得するなど常に先進的な取り組みを続ける。その後、伸こう会をベネッセコーポレーションへ売却し、その資金を元に、社会福祉法人伸こう福祉会を設立。2012年に米国の社会起業支援非営利組織アショカからシニアフェローとして選出されたほか、2014年にはダボス会議で知られるシュワブ財団から日本人として初めて"Social Entrepreneur of the Year 2014"に選ばれた。人生の始まりと最後の時間を有意義なものにするために、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービス、有料老人ホーム、ショートスティなどの36の介護事業と8つの保育事業を運営(事業活動収入48.5億円、従業員923人)。

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言葉を使わない抽象的思考力を養う。画期的問題集 『考える力がつく算数脳パズル 絵なぞぺー』〈対象年齢:小学2年~6年〉

考える力がつく算数脳パズル 絵なぞぺー

高濱正伸・川島慶 著

◆問題文がない! 絵を見て答える「なぞぺー」が登場!

 累計53万部、大人気学習教室「花まる学習会」のメソッドが詰まった小学生向け問題集「なぞぺー」シリーズに、新しい仲間が加わりました。今回はなんと、「問題文がない問題集」です。

 本書の問題は、絵を見てそれを正しく表している表やグラフを選択肢から選ぶというもの。お風呂に水がたまるときの「水の量のグラフ」や、ウサギとカメの競争のときの「ウサギ/カメの進んだ道のりのグラフ」、カレーライスを食べるときの「ごはんとカレーの減り方のグラフ」など、楽しい問題ばかり。図で考える力や、グラフや表を読み解く力を身につけます。
 

◆言語を介さずに抽象的な思考をおこなう体験を!

 大人になると、人はおおむね言葉を介して思考・表現するようになりますが、子どもたちは言語だけで考えていない、と本書の著者は言います。最上位の算数・数学力のある子たちは、応用問題でも、問題を見てパッと出題者が何を言わんとしているかわかってしまい、続けて解決の筋道が見える、という体験をしていると言うのです。この「ビジョンの運用」とでもいう、言葉を経由せずに抽象的な思考をおこない、瞬間的な理解を繰り返す体験を、すべての子どもたちにしてもらいたい、という意図を持って本書はつくられました。

 また、本書には、現代的な意味もあります。現代社会においては、複雑な問題を誰にでもわかる形で図や表やグラフに「見える化」「ビジュアル化」して説明することが求められています。それだけでなく、グラフや表から意味を読み取って、課題を設定したり、まわりの人が納得する解決策を示したりする力まで、必要とされます。本書は、そのような、社会に出てから役に立つ力を身につけるきっかけとなることも目指しています。

 『絵なぞぺー』は、他の「なぞぺーシリーズ」と同様、「子どもにも解けるけれど、大人でもむずかしい」問題です。家族みんなでいっしょに楽しんでいただけば、より、子どもたちの思考力育成につながることでしょう。

 

例題: こんな楽しい問題が合計74問!

例題その1

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例題その2

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例題その3

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 (担当/久保田)

 

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考える力がつく算数脳パズル 絵なぞぺー<小学2年生〜小学6年生> | 書籍案内 | 草思社

北海道新幹線(東京─新函館北斗間)は「3時間30分台」を目指せ!――『全国鉄道事情大研究 青函篇』

全国鉄道事情大研究 青函篇

川島令三著   

◆北海道新幹線の所要時間「4時間2分」は大幅に短縮できる

 「全国鉄道事情大研究」シリーズでこれまで関東、東海、関西、北陸、中国、四国、九州と、各地の鉄道事情を解説してきた著者の7年ぶりの続編、『青函篇』が誕生しました。

 本書『青函篇』では北海道長万部以南、青森、岩手、秋田の計15路線を解説していますが、その中の最重要路線が、この春に開業した新青森─新函館北斗間の北海道新幹線です。旭川までの全線のうち3分の1程度ですが、東北新幹線から直通しており、青函エリアに住む人々にとっては福音といえます。
 しかし問題もあります。ひとつは所要時間です。
 東京─新函館北斗間での最速列車の所要時間は4時間2分。余裕時間の切り詰めなどによって、スーパーの値付けのように3時間58分とすることは可能でした。なのに、4時間の壁を突破することは無理だといわんばかりの4時間2分です。
 北海道新幹線は途中に新中小国信号場─木古内間が貨物列車との共用区間となっており、この区間での最高速度は140キロに制限されています。これがネックなのですが、貨物列車との擦れ違いを避けるなどの工夫によって所要時間は3時間30分台に短縮することは可能だと著者は言います。

◆新函館北斗駅の混雑と接続の悪さは、これで解決

 もうひとつの問題は、新函館北斗駅で在来線に乗り換える際の混雑や接続の悪さです。
 現在、到着列車は12番線を使います。在来線ホームへ行くには2階のコンコースを経由しますが、階段もエレベーターも1か所しかなく、ひどく混雑します。また在来線との接続も30分も空くことがあります。到着ホームを11番線にすることは可能で、そうすれば、在来線との乗り換えは平面移動だけですみます。速やかに改善すべきだと著者は提言します。

◆快速の増発やバス会社との提携により観光開発を

 今回取り上げた15路線のうち観光路線として人気が高いのはJR五能線です。車窓からの景色が風光明媚なため、行楽期には快速「リゾートしらかみ」の指定席券は取れないことが多い。増発すべきですが、その際は弘前に寄らずに直接、青森から川部に行くのがいいと、著者は提言しています。観光するにあたって無駄な時間を省くためです。
 北海道新幹線の開業により、津軽半島周遊といった観光コースも生まれました。中小民鉄の津軽鉄道の出番です。著者はJRやバス会社との提携による観光開発を提言しています。
このエリアの鉄道全般について著者が強く提言しているのは、快速の設定、増発、定期化などの積極策です。便利にすることによって利用増が図れると確信しているからです。
鉄道ファンの方にはぜひともお読みいただきたい一冊です。

*著者は現在、シリーズ続編の『北海道篇』を執筆中で、その後『東北篇』(仮題)も刊行予定です。こちらもご期待いただければ幸いです。

著者紹介

川島令三(かわしま・りょうぞう)

1950年、兵庫県生まれ。芦屋高校鉄道研究会、東海大学鉄道研究会を経て「鉄道ピクトリアル」編集部に勤務。現在、鉄道アナリスト、早稲田大学非常勤講師。小社から1986年に刊行された最初の著書『東京圏通勤電車事情大研究』は通勤電車の問題に初めて本格的に取り組んだ試みとして大きな反響を呼んだ。著者の提起した案ですでに実現されているものがいくつかある。著書は上記のほかに『全国鉄道事情大研究(シリーズ)』『関西圏通勤電車徹底批評(上下)』『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』『東京圏通勤電車 どの路線が速くて便利か』『鉄道事情トピックス』『最新東京圏通勤電車事情大研究』(いずれも草思社)、配線図シリーズ『全線・全駅・全配線』、『日本vs.ヨーロッパ「新幹線」戦争』(いずれも講談社)など多数。

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