草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

ジャレド・ダイアモンド著・草思社文庫『若い読者のための 第三のチンパンジー』:「人間」はなぜこれほど奇妙に進化してしまったのか?

 ジャレド・ダイアモンド博士の第一作をより読みやすくコンパクトに
 ピュリッツァー賞受賞の『銃・病原菌・鉄』が世界的ベストセラーとなったジャレド・ダイアモンド博士は、1992年に初めての著作『人間はどこまでチンパンジーか?』(The Third Chimpanzee、新曜社刊)を発表、いきなりベストセラー作家となりました。
 その後『文明崩壊』『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(いずれも草思社刊)『昨日までの世界』(日本経済新聞出版社刊)を続々と発表、いずれも話題の書として多くの読者を得ています。
 本書は大部の書である『人間はどこまで…』を、その刊行以降に発表された最新の研究成果をふまえつつ、「For Young People」シリーズで定評のあるレベッカ・ステフォフ氏が、中心となるテーマをコンパクトに編集し、関連する興味深い写真を数多く配置したものです。

 「人間」はなぜこれほど奇妙な生きものなのか?
 本書は「サル学」の本ではありません。ダイアモンド博士が一貫して追究しているのは「ヒト学」あるいは「ホモ・サピエンス学」と呼ぶべきものです。
 この書名は、ヒトとチンパンジーのDNAレベルでの比較から生まれたもの。チンパンジーには、いわゆるコモンチンパンジーとボノボ(ピグミーチンパンジー)の2種類がいますが、彼らとヒトとは、DNAのなんと98.4%が同じ。いわば人間は「三番目のチンパンジー」だというのが書名の由来。
 たった1.6%の違いが、なぜ人間と他の動物のとてつもない違いを産み出したのか? なぜ人間はなぜこれほど奇妙な動物なのか? 道具を作り、言葉を操り、農耕を行い、巨大な都市を造りあげ、環境から収奪し、特定の生物を絶滅させ、人間同士で大量に殺戮し合う。この「人間」とは何なのか? これが一貫したダイアモンド博士の問題意識です。

 ダイアモンド博士が展開していくテーマが凝縮された「入門書」
 この大きなテーマが、多様な学問領域、進化生物学、生物地理学、人類生態学、古環境学、古病理学、文化人類学、言語学などの幅広い知見を縦横に駆使して考察され、博士の柔軟で新鮮な思考に驚かされます。
 本書では、『銃・病原菌・鉄』以降の著作でさらに展開されていくさまざまなテーマの根幹がコンパクトに記述されています。いわば「ジャレド・ダイアモンド入門」のインデックス書と言ってもいいかもしれません。
 たとえば本書の第4部「世界の征服者」は、『銃・病原菌・鉄』で展開される文明の格差・偏在の問題。旧大陸の人間が新大陸を征服し、なぜその逆は起こらなかったのかという考察につながっていきます。
 第5部「ひと晩でふりだしに戻る進歩」は、『文明崩壊』で展開される、巨大な文明がなぜ跡形もなく崩れ去っていったのか、なぜそれが繰り返されてきたのかという問題につながります。
 第2部「奇妙なライフスタイル」では、『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』で考察されるセックスとメイティング、他の動物とあまりに異なる人間の「性」の問題を通じて、人間が生み出す文化文明の奇妙さを問います。

 「人間」はどこから来たのか? どこに向かっているのか?
 これらの問題の考察は、「人間とは何か」を突き詰めることであり、私たちがどこから来たのかを検証し、私たちがどこに向かっているのかを見極めることにつながるものです。現在、私たち人類が向き合っている複雑に絡みあった問題の見取り図であり、総目録でもあります。
 解答の見えない難題におおわれている現在こそ、ぜひ多くの読者に読んでいただきたい一冊です。
 巻末には『人間はどこまでチンパンジーか?』の訳者である長谷川眞理子先生に非常に示唆に富んだ「解説」を寄せていただきました。

 

【本書目次より】
はじめに 人間を人間であらしめるもの

第1部 ありふれた大型哺乳類
 第1章 三種のチンパンジーの物語
 第2章 大躍進
第2部 奇妙なライフサイクル
 第3章 ヒトの性行動
 第4章 人種の起源
 第5章 人はぜ歳をとって死んでいくのか
第3部 特別な人間らしさ
 第6章 言葉の不思議
 第7章 芸術の起源
 第8章 農業がもたらした光と影
 第9章 なぜタバコを吸い、酒を飲み、危険な薬物にふけるのか
 第10章 一人ぼっちの宇宙
第4部 世界の征服者
 第11章 最後のファーストコンタクト
 第12章 思いがけずに征服者になった人たち
 第13章 シロかクロか
第5部 ひと晩でふりだしに戻る進歩
 第14章 黄金時代の幻想
 第15章 新世界の電撃戦と感謝祭
 第16章 第二の雲
おわりに なにも学ばれることなく、すべては忘れさられるのか
 
解説:長谷川眞理子(総合研究大学院大学・学長)

 

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【近刊予告】「自分の加齢臭」と闘い克服した著者が、効果のあった方法を伝授!! 大人のニオイケア『改訂新版 加齢臭読本(仮)』奈良巧 著

7月上旬 刊行予定

◆加齢臭対策は「頭皮ケア」「体内ケア」の時代に

 小学校高学年のころからワキガで、同級生に「オヤジくさいよ」と言われていた著者の奈良さん。大学生になり、初めて付き合った女性からのクリスマスプレゼントは、高級ブランドのセッケンでした(ワキガ用)。のちに、ワキの悩みは入浴や銀イオンスプレーの習慣で克服したものの、40代を迎えたころに新たに発生した「謎の脂くさいニオイ」をご家族から指弾され、その正体が加齢臭であることにずいぶん後になってから気づいたといいます。
 この謎の脂くさいニオイと闘い、苦難の末、みごと克服した著者が、試して効果のあった方法を2012年に小社刊『加齢臭読本』にまとめられました。それから5年が経過し、加齢臭研究に大きな変化がありました。2013年にマンダムが主に40代男性の脂くささが「後頭部と首筋」から発生することを突き止め、これを「ミドル脂臭(ししゅう)」と命名(加齢臭の一種)。2017年には、資生堂がコエンザイムQ10を摂取すれば加齢臭が激減すると発表。今や加齢臭は、セッケンでのボディケアだけでなく、頭皮ケア、サプリを飲んでの体内ケア、という領域に入ってきているのです。
 この近年の加齢臭研究の進化と、それに合わせた加齢臭対策商品の充実を受け、最新の加齢臭対策を大幅に加筆したのが、 このたびの改訂版です。

◆加齢臭対策の新商品を、実際に試して徹底批評!

 改訂新版の本書では、資生堂、ライオン、マンダム、ペリカン石鹸など、メーカー各社の加齢臭商品の開発担当者や広報担当者を独自に取材し、商品のすごさの秘密を深く聞き出しています。また、それらの商品を著者自身が試し、効果を検証されています。
 たとえば、ペリカン石鹸が2016年に発売開始した、頭皮洗い専用セッケン「HARIHAIR(ハリヘア)」。髪のハリがなくなってきた、毛が細くなってきた、と悩む男性の髪をシャキッと根元から立ち上げる効果があるだけでも嬉しいのに、頭皮の皮脂もしっかり洗える、という優れもの。皮脂汚れの酸性を、固形セッケンの弱アルカリ性で「中和」することで、綺麗サッパリに洗えるという仕組みです。
 著者が実際に試してみると、まず泡立ちのすごさにびっくり。濡らした頭にくるくるとこすりつけるだけで、キメ細かい硬めの泡が「ぶわーーー」っと立つのだそう。著者は日ごろから洗髪の際は「洗髪専用ブラシ」を愛用し、かつ「二度洗い」を心がけているので、泡はさらにきめ細かく、しっかり立つようです。この泡、頭に使うだけではもったいない、とのことで、残った泡で顔や首筋、全身まで洗ってしまうといいます。このセッケン、皮脂を吸着する「泥」「炭」成分や、皮脂の酸化を防ぐ「柿渋」が配合されており、体全体の加齢臭対策にもなるのです。 
 さて、こうした優れもののセッケンで頭皮ケアをしても、実は「ニオイ(ミドル脂臭)は約6時間で復活します」(マンダム広報担当者)とのこと。つまり、夜せっかく入念に洗髪しても、朝には嫌~なニオイが発生しており、そのニオイを職場まで持っていくことになってしまうわけです。忙しいビジネスパーソンの皆様には朝風呂はもちろん朝シャワーでさえ、そんな時間ないよ、というのが実情でしょうが、そんな方々を救ってくれるのが、マンダム「ルシード カラダと頭皮のデオペーパー」。植物フラボノイドと緑茶エキスがたっぷり沁み込んだペーパーで、朝の出社前に、皮脂の多いスポットである「後頭部と首筋」をぬぐうだけ。著者も日々取材で人に会うという仕事柄、このペーパーを愛用しているといいます。これを持っていれば、午後の昼食後でも、夕方過ぎでも、気になったときにひと拭きすれば、安心。心のお守りがわりにもなります。

◆食事、生活習慣など「トータルケア」で加齢臭を消去

 本書では、「セッケンをどう選ぶか」「体や頭皮のどこをどう洗うか」のほか、「保湿習慣やワキ汗対策は?」「食事や生活習慣は?」「衣服の洗剤は何を選ぶ? 洗濯機は?」、さらには「他人のニオイにはどう対処すべき?」など、加齢臭対策を網羅的に紹介してあります。
 ニオイが気になる男性であれば、読むと読まないでは、人生が変わるといっても過言ではないでしょう。また、女性にも加齢臭があることがわかっていますので、女性にも、自身のケアとして、あるいは夫や彼氏へのプレゼントとしても、お求めいただけるかと思います。
 夏も近づいてきているこの時期、かばんに一冊、本書をしのばせて、セルフケアのお供にしていただけると幸いです。


著者紹介

奈良巧(なら・たくみ)
1958年生まれ。早稲田大学卒業。出版社での編集記者を経て、50歳よりフリー記者。得意テーマは、加齢臭、アンチエイジング、現代栄養学とサプリメントについて、コンビニ・ファミレス・外食文化と健康について。「週刊ポスト」「夕刊フジ」等の雑誌・新聞に、主に健康に関する記事を寄稿。著書に『加齢臭読本』(2012年、草思社)、企画・構成に『「コンビニ食・外食」で健康になる方法』(浅野まみこ著・草思社)、『麺屋武蔵ビジネス五輪書』(矢都木二郎著・学研)。

『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』刊行記念! ビジネスパーソンのための超速『鬼谷子』講座 第四回「人を動かしたあとにするべきこと」 『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』高橋健太郎著

 超速『鬼谷子』講座も今回が最終回。
 最後にご紹介するのは、『鬼谷子』が教える「人を動かしたあとにするべきこと」です。

・人を動かしたら去る
 この講座でも述べてきたように、『鬼谷子』の術は、安全圏から人を動かす術です。
 ひそかに周囲を観察し、それとなく言葉を投げかけ、誰からも知られることなく、あたかも自然にそうなったかのように他人を動かすのを理想とします。

 人を動かすには何らかの「行動」が必ず伴います。
 これは避けようがありません。
 観察も周囲への言葉がけも、どんなに目立たないように行っても「行動」です。そして、そうした具体的な「行動」がある以上、周囲の人間に「あいつ、人を動かそうとしてるな」なんて知られてしまうリスクは、必ず出てきます。

 こうした状態を、『鬼谷子』は「陽」(日の当たる状態)と呼んで危険視します。
 もちろん、『鬼谷子』では、こうした避けがたい「陽」の状態においても、なおかつ、人に知られるリスクを最小限化する技術もまた説いてます。

 ただし、『鬼谷子』がもっとも重視するのは、なによりも「陽」の状態から一刻も早く去ることです。つまり、人を動かしたら、すぐに目立たない場所に消える。
 これが鉄則なのです。

・虚栄心が身を滅ぼす
 人を動かすのに成功した人間が、もっとも陥りがちな罠。
 それは「あの人を動かしたのは、実はオレなんだ」などと吹聴して回ることです。
 動かしたのが難しい相手であればあるほど、それによって得られる功績が大きければ大きいほど、人はどうしても、それが自分の手柄であることを周囲にアピールしたくなってしまうもの。

 しかし、『鬼谷子』的にいえば、それこそがもっとも危険な行為なのです。
 なぜか?
 周囲の心情面と情勢面に次のようなリスクが生まれるからです。

1,(心情面のリスク)功績は周囲の嫉妬を生む
 嫉妬は必ずその人を引きずり降ろします。必ず将来禍根になるのです。

2,(情勢面のリスク)功績はその人間をキーパーソンにする
 功績のある人間は、一目置かれます。つまり、周囲から注目されるようになり、「陽」の状態から抜け出せなくなるのです。

 周囲から注目されて一挙手一投足が注目され、しかも嫉妬までされるという得意絶頂の状態こそ、失敗の谷へ転落するまであと一歩。

 この最低の状態をなんとしても避けるというのが、安全圏から人を動かすために、最後に行わなければいけない『鬼谷子』の術の総仕上げなのです。そのための方法には、例えば次のようなものが考えられるでしょう。

1,物理的に、あるいは心理的にその場を去る
2,功績を人に譲る
3,逆に「成功ではない」と吹聴する

・「転円」こそ究極
 いずれにせよ、『鬼谷子』では、人を動かすには「自然であること」がもっとも大事であると説きます。
 状況を見て人を動かし、成功したのなら成功を観察して動き、失敗したのなら失敗を観察してまた動く。これを自然と流れるように淡々と行っていく。
 これこそが『鬼谷子』の説く究極の境地である「転円」です。

 その動きの自然さが極まれば、自然さに紛れて誰が誰を動かしたのかすら、周囲にわからなくなります。
 周囲から見たときに「何かわからないけど、あの人が急に動き出して事態が進展した」、そんな印象しか残らないような人の動かし方を目指すのが『鬼谷子』の術なのです。

(筆者:高橋健太郎)

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満映、キン・フー、チャン・イーモウの関係 『新装版 キン・フー武侠電影作法』キン・フー/山田宏一/宇田川幸洋著

 キン・フー監督の現在の中国語映画史上での評価は、例えば2011年に台湾金馬影展執行委員会というところが発表した中国語映画のオールタイムベスト100というリストを見ればよく分かる。9位に『龍門客桟』、15位に『俠女』が入っている(ちなみに1位はホウシャオシェンの『悲情城市』)。他の評価もほぼ同じで、香港、北京等の映画評論家協会での発表でも、かなり上位(ベストテン内)にキン・フーの作品が入っている。
 いまや中国語映画界はその市場規模や表現レベルにおいて黄金時代を迎えているが、その歴史は決して順調なものではなかった。その中で戦前の日本が作った満州映画協会や中華電影といった国策映画会社が、ひそかな人脈的影響を与えているのは面白い。
 本書『新装版・キン・フー武侠電影作法』(元の初版1997年)にキン・フーが香港で第一作目『大地児女』、二作目『大酔侠』を撮った時の撮影監督が西本正であり、映画技術を教えてもらった師匠の一人であるというくだりが出てくる。共産革命を逃れて香港へ渡ったキン・フー青年が美術助手や俳優を経験しながら念願の監督になる。このあたりの記述は知られざる1950~1960年代の胎動期の香港映画界を描いていてとても面白い。これを補完する形で読んでいただきたいのは本書と同じく山田宏一さんがまとめた(山根貞男さんと共著)『香港への道』(西本正聞き書き、筑摩書房、2004年)である。
西本正は中川信夫監督の『東海道四谷怪談』(新東宝)の撮影監督として有名だが、そのころ香港に技術指導的な立場で渡り、何本も映画を撮っている。この西本正は戦前は満州映画協会でニュースカメラマンとして修業を積んだ人である。
 キン・フーの1950年代の香港映画界の回想には巌俊とか李麗華とかの名前が出てくるが、この人たちは上海の中華電影時代の役者である。西本正の回想では1980年に中国を再訪したときに成都の撮影所で責任者になっていた馬守清という人に30年ぶりに会って涙するところが出てくるが、この馬守清という人は西本正の満映時代の同僚のカメラマンで、岸富美子著『満映とわたし』(岸は満映のスクリプター、文藝春秋社、2015年)にもその名が出てくる。日本が負けて満映が八路軍に接収されたときに共産党側の代表者の一人になった人という。西本正と馬守清は満映が養成した最先端の映画技術者(カメラマン)だった。資金がふんだんにあったので満映には設備も機材も人材も世界で最先端のものをそろえていたのだ。この馬守清の弟子筋の一人が今を時めくチャン・イーモウ(張芸謀)監督である。ハリウッドと中国の資本が手を組んで作った『グレイト・ウォール』が今春公開されている。
 長い間政治に翻弄されて、中国的で豊かな映画表現を実現できないできた中国映画がかすかな系譜をつないでようやくここまで来た現在だが、『グレイト・ウォール』がその成果の一つというのも情けない気もするが。
 本書を読んで、東アジアの一世紀の政治的混乱とそれと関係なくたくましく花開くキン・フー的映画精神の系譜を考えると思わず楽しくなる。

(担当/木谷)

著者紹介

キン・フー(胡金銓)
一九三二年、北京の裕福な家庭に生まれる。一九四九年、香港へ亡命。美術助手、俳優などを経て、一九六五年、ショウ・ブラザースの『大地児女』で監督第一作を撮る。『龍門客桟』(『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』)『侠女』(カンヌ映画祭・高等映画技術委員会大賞)など生涯に長短篇一三作品を香港・台湾で監督。ハリウッド進出の直前、一九九七年急逝。
山田宏一(やまだこういち)
映画評論家。一九三八年、ジャカルタ生まれ。東京外語大学フランス語科卒業。近著に『ヒッチコック映画読本』(平凡社)『ヒッチコックに進路を取れ』(共著、草思社文庫)など。
宇田川幸洋(うだがわこうよう)
映画評論家。一九五〇年、東京生まれ。著書に評論集『無限地帯』(ワイズ出版)。

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『ライト兄弟』「訳者あとがき」より――秋山勝  『ライト兄弟』デヴィッド・マカルー著 秋山勝訳

『ライト兄弟』「訳者あとがき」より――秋山勝

 

 本書はデヴィッド・マカルーのThe Wright Brothersを全訳したものである。原書は2015年5月に刊行、発売されるや大反響を呼び、5月27日から7月5日の7週間、ニューヨークタイムズのベストセラーリスト(ノンフィクション部門)の第1位を占め続けた。各新聞がこの本を記事としてとりあげ、また多くの書評で紹介されるなど、広範な支持を得て、いまも変わらずに読み続けられている。

 

 ライト兄弟は日本人も敬愛を寄せる偉人である。アメリカ人としては、発明王エジソンと並び、偉人中の偉人として変わらぬ支持を得てきた。子供のころ、伝記を通じてウィルバーとオーヴィルの発明に読みふけった方も多いはずだ。自転車商会を営みながら、試行錯誤と刻苦のはて、二人はついに世界ではじめて、有人の動力飛行に成功した。ただ、児童向けに書かれた伝記の多くは、1903年12月17日にキルデビルヒルズの砂丘から舞い上がったライトフライヤー号の成功をもって大団円を迎える。

 

 たしかに、本書においても初飛行の成功は前半部分の山場である。だが、世紀の発明をこのとき目撃していたのはわずかに5名。それも救護基地の二名と地元の住民で、公式の飛行とはおよそ言いがたいものだった。しかも、試験飛行の場所といえば、近郊の住民さえその名前を知らない荒涼たる土地で行われ、歴史を一変させることになる発明の誕生に、このとき世界はまったく気がついていなかった。

 

 兄弟の発明を信じたのはごく少数の人間に限られた。のちに合衆国大統領タフトがいみじくも口にしていた「預言者は、おのが郷おのが家の外にて尊ばれざる事なし」のように、追放された預言者は活路をヨーロッパに求める。そして、二人の発明を世界がどのように受け入れていくのか、それについて書かれたのが本書の後半である。父親であるライト牧師のように、兄弟は新時代の到来を告げる説教師としてヨーロッパへと布教の旅に乗り出していった。

 

 フランスのル・マンで迎えた世紀の展示飛行。離陸したフライヤー号に観客は驚愕して押し黙ると、次の瞬間、驚きと狂喜で観覧席は弾け、観客はいっせいに場内になだれ込んでいった。この飛行に先立ち、世に容れられない預言者への嘲笑と愚弄が繰り返し書き込まれているだけに、なんともカタルシスを覚える光景である。それまで常識とされた科学原理が一蹴され、革新的な技術によって新しい時代の扉が解き放たれた瞬間でもあった。

 

 重力に逆らい、空中を自由に飛翔する技法と技術が、その後、長足の進歩を遂げていったことについては改めて触れるまでもないだろう。1903年の初飛行から66年、同じくオハイオ州出身の飛行士が月面に降り立った。

 

(後略)

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『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』刊行記念! ビジネスパーソンのための超速『鬼谷子』講座 第三回「どうやって人を動かすか?」 『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』高橋健太郎著

 前回は、『鬼谷子』の説く、人を動かす前に必ず行わなければいけない「観察」という作業についてご紹介しました。
 今回は、実際に人を動かすために何をするべきか、その術について、ご紹介します。


・人は「陰陽」で動かす
 『鬼谷子』の根幹には、「陰」と「陽」という考え方があります。
 この「陰陽」という考え方は、『鬼谷子』のあらゆる箇所に様々な形で登場します。
 限られたスペースで、それらをすべて説明してしまうと、かえって意味不明になる恐れがあるのでしませんが、人を動かすのに関係する代表的な「陰陽」だけを挙げれば、次のようなものです。

1言葉(陽)言葉以外の要素(陰)
 まず、『鬼谷子』の術は言葉で人を動かす術ですが、言葉“だけ”で人を動かす術ではありません。むしろ利用できるものは何でも利用するのが、『鬼谷子』の術の特徴です。
 例えば、上司から「明日までに書類を出しなさい」と言われたとします。
 この時、部下が従うのはなぜか? これを「陰陽」で考えれば、次の二つの力の兼ね合いであることがわかります。

(陽)「明日までに書類を出しなさい」という言葉の持つ力
(陰)上司という立場の持つ力

 『鬼谷子』は、言葉の持つ「陽」の力だけでなく、その裏にある現実の持つ「陰」の力をも利用して、相手を動かす術です。
 だからこそ、発言の持つ「陰」の力を最大化するために、自分にとって最も有利な立場を選ぶ技術(忤合の術)なども教えるわけです(ちなみに、自分の立場のコントロールは、自分を安全圏に置くための絶対条件でもあります)。

 その時の発言者の立場の強さ、周囲の状況、ちらつかせる利益・不利益などはすべて「陰」の力です。
 『鬼谷子』の術を使って人を動かすのならば、こうした要素をちらつかせ、醸しだし、最大限に利用しなければいけません。

2前向きな言葉(陽)後ろ向きな言葉(陰)
 相手を動かすためにもう一つ利用すべき「陰陽」が、前向きな言葉という「陽」と後ろ向きな言葉という「陰」です。
 ここでいう前向きな言葉と後ろ向きな言葉とは、ざっと挙げれば次のようなものです。

(陽)前向きな言葉……ほめ言葉、楽観的な予測、利益についての話、相手が聞きたい話、明るい話
(陰)後ろ向きな言葉……非難する言葉、悲観的な予測、不利益についての話、相手が聞きたくない話、暗い話

 「陽」には相手を動かす作用があり、「陰」には相手を止める作用があります。
 したがって、基本的には相手に何かをさせたければ、それについて「陽」の話をすればいいですし、相手のすることを止めたければ、それについて「陰」の話をすればいい。
 これが基本になります。
 単純な例を挙げれば、相手にキャベツを買わせたければ、キャベツを食べることによる効用(利益)の話をし、買おうとしている相手をほめればいいわけです。当然、買わせたくなければその反対。

 ただし、「陰陽」には別の法則もあり、「陰」を言われすぎると「陽」で返したくなり、「陽」を言われすぎると「陰」で返したくなる、というものもあります。
 キャベツの例でいえば、相手が内心キャベツを買いたがってるのに、それを隠している場合。こちらがキャベツに否定的なこと(陰)を言い続ければ、相手もたまらずに、思わずキャベツ擁護(陽)を始めるかもしれません。
 こうした「陰陽」による押し引きも、『鬼谷子』が人を動かすのに利用する要素です。

・事前の観察で状況と相手の心を見極めておく
 こうした「陰陽」を利用して相手を動かすには、前回紹介した情勢への観察(量権)、動かす相手の心の観察(揣情)が大切です。
 動かしたい相手が、どのような話題にどのように反応するのか、そのために、利用できる状況にはどのようなものがあるのかを見極めなければ、「陰陽」をどのように使うのかの方針も立たないからです。
 つまり、『鬼谷子』の術においては、観察と実行は一体なのです。

 以上の技術の詳細についても、拙著『今日ヒラ』をご参照いただければと思います。例によって宣伝になりますが、本当にこのスペースじゃ書ききれないのでスミマセン(笑)。

 次回は、動かした後の話をご紹介しようと思います。
 『鬼谷子』では人を動かした後に、どのように行動することをすすめているのか? ある意味、他の説得術や人を動かす技術と違うのは、この部分かもしれません。
(筆者:高橋健太郎)

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『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』刊行記念! ビジネスパーソンのための超速『鬼谷子』講座 第二回「人を動かす前にやるべきこと」 『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』高橋健太郎著

 前回、「週一回のペース」と書いたのにいきなり遅れて申し訳ありません。ゴールデンウィークがあるのを忘れていました(笑) みなさん、楽しい時間をお過ごしになられましたでしょうか?

 では、さっそく超速『鬼谷子』講座第二回。今回は『鬼谷子』の説く「人を動かす前にやるべきこと」をご紹介したいと思います。

・すべては「観察」に始まる
 前回書いたように『鬼谷子』の術というのは、自分を安全圏に置きながら、人を動かす術です。
 では、そのためにまず、何をするべきか?
 『鬼谷子』が何よりも重視するのは、自分の置かれた状況の観察です。とにかく周りを観察して、観察して、観察しまくる。その観察が深ければ深いほど、自分の被るリスクは減り、人を動かせる確率は増すのです。

 観察なくして人を動かすのは不可能です。
 仮に、たまたま動かせたとしても、「思わぬ人物の出現」「思わぬ周囲からの評判」「思わぬ事態の成り行き」など、必ずリスクが出てくるもの。それは、『鬼谷子』の術が最も避けようとするところです。

・観察するのは「情勢」と「心」
 では、何を観察するべきか?
 『鬼谷子』では次の二つを観察せよ、と説きます。

1周囲の情勢……誰が偉いか、誰が優勢か、誰が有能か、誰と誰の仲がいいのか、どんな派閥があるか、などなど。この観察を『鬼谷子』では「量権(りょうけん)」と言います。

2周囲の人間の心……動かす相手が、何を好むのか、何を嫌うのか、などを観察する。この観察を『鬼谷子』では「揣情(しじょう)」と言います。とくに相手の抱える狙い(「事」)を知ることができるかどうかは、生命線。

 『鬼谷子』の術において大切なことは、この観察が単に「見る」のとは違うということ。周囲を黙って見ていても、そこからわかることはたかが知れています。
 そうではなく、『鬼谷子』の観察とは、周囲と話すことでより深い情報を探る「動的な観察」なのです。

・すべては話すことで明らかになる。
 『鬼谷子』では、すべての物事は「反覆(はんぷく)」の中で明らかになっていくと説きます。

 「反覆」とは簡単に言えば、こちらからの「投げかけ」とそれに対する「フィードバック」のこと。そして、その「反覆」の中でも、最も重要だと言われるものが「話しかける」と「返事がくる」で成り立つ「会話」という行為。

 つまり、『鬼谷子』の術とは、言葉で観察し、言葉で人を動かす術なのです。
 『鬼谷子』には、「情勢」と「心」の観察のための術がいくつも説かれています。ただし、ここで解説するのはさすがにスペース的にも厳しいので、詳しく知りたい方は、ぜひ『今日ヒラ』をご参照いただければ、と思います。結局宣伝になってしまいますが(笑)。

 今回は、人を動かすためには事前の観察が重要だ、『鬼谷子』の教えを紹介しました。
 観察が終わったら、次に問題になるのは、どのようにして人を動かすか? でしょう。
 そこで、次回は、それについての『鬼谷子』の教えをご紹介しようと思います。

(筆者:高橋健太郎)

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