草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

70代からでも間に合う! ボケ・寝たきりリスクが激減! 『死ぬまで介護いらずで人生を楽しむ食べ方』新開省二著

死ぬまで介護いらずで人生を楽しむ食べ方

新開省二 著

◆20年におよぶ、のべ5000人の高齢者の追跡調査からわかったこと

 「いつまでも元気で、自立した生活を送るにはどうすればいいのか?」
これは本格的な高齢社会に入った今、誰もが抱える切実な課題です。しかし、残念ながら高齢期の健康度には、人によって大きな差が生じます。歳をとっても自立した生活を送れるか、それとも要介護になってしまうのか、その差はどこから生まれるのでしょうか? 
 著者の研究によると、高齢期の健康は「栄養状態」と深く関係があることがわかってきました。いったん「低栄養状態」に陥ると、血管の壁がもろくなり、脳卒中など心血管病のリスクが高まり、認知症や寝たきりの進行を促進し、健康寿命が大きく損なわれるというのです。
 本書は栄養面からの老化予防を中心にして、健康長寿の極意をわかりやすくまとめた一冊です。自分の老後に備える上でも、親の老後が心配な方にも非常に役に立つ内容となっています。

◆寝たきりに最適な「多様食」とは?

 では、実際にどのように食べれば健康寿命を延ばすことができるのでしょうか?
著者は、健康長寿のためのもっとも効果的な食べ方として、さまざまな食品からまんべんなく栄養素をとる、「多様食」を提唱しています。加齢がおよぼす体の問題により、高齢者は若い人と同じように食べても、栄養をうまく体内に吸収できなくなっています。その点、多様食にすれば食品に含まれる多くの栄養素が、消化する際、互いに補完しあうので栄養が体に吸収されやすくなります。その結果、栄養状態がよくなることで、筋肉、骨、内臓、血がしっかりと増え、健康で長生きできる体につながるというわけです。
 うれしいことに、研究の結果からいくつになっても食習慣を変えることで、健康寿命が延ばせることがわかっています。たとえ70代、80代からでも遅くはないのです。ぜひ本書に書かれていることを実践し、楽しく充実した高齢期を過ごしていただければ幸いです。

 (担当/吉田)

 

もくじ

はじめに
1章 高齢期の健康は「食べ方」で決まる
・「粗食信仰」が老化を促進する
・高齢期の健康は「栄養状態」が決め手
・まったく違う中年期の健康常識と高齢期の健康常識
・寝たきり予防は七十代からでも間に合う
・食べることが最強の老化対策
・要介護にいたる二つのプロセスとは
・高齢者を対象にした大規模調査からわかったこと


2章 なぜやせている人は死亡リスクが高いのか?
・健康長寿の三大条件
・病気があっても長生きできる
・やせている人より太めの人のほうが長生き
・総コレステロール値は高めがいい
・食欲は生命力
・低栄養によって死亡の危険度は一・五倍高まる
・みんなが誤解しているコレステロール
・健康診断のデータはうのみにするな
・「かむ力」が弱い人は要注意
・肉食が心と体を元気にする


3章 体をむしばむ「低栄養」の本当にこわい話
・なぜ高齢者は栄養が足りなくなるのか
・タンパク質が不足すると体はどうなるか
・低栄養は「脳卒中」「心筋梗塞」を引き起こす
・血液ドロドロよりこわい血管ボロボロ
・認知症は脳の栄養不足
・「かくれ低栄養」が増えている
・食生活を変えれば健康寿命は延ばせる

 

4章 老けない、ボケない、高齢期の正しい食べ方
・キーワードは「多様食」
・「多様食」とは「栄養素密度が高い」食事のこと
・多様な食生活は寝たきり予防につながる
・基本は「食べて動く」
・老化しない頭と体をつくる一四項目
・肉と魚、どっちが健康的?
・ご飯の食べ方
・ときにはてんぷらや揚げ物を
・牛乳はやっぱり健康にいい
・時代の淘汰から生き残った食品には価値がある
・香辛料、調味料にはボケ防止の効果
・世の中の健康情報を楽しく活用する


5章 死ぬまで介護いらずの体をつくる毎日の習慣
・高齢でも自立した生活を保つには
・フレイルをチェックする一五項目
・六十代後半からはメタボ対策よりフレイル予防が大切
・歩くのが遅いだけで、心血管病のリスクが約三倍に
・握力が弱くなるほど死亡率が高くなる
・群馬県草津町でのフレイル予防の取り組み
・フレイル予防の三本柱は「栄養」「体力」「社会参加」
・予防活動によって介護発生率は約半分に
・病気は減らなくても要介護が減った理由
・まずは「外出」の機会を増やそう
・骨を強くする
・老いない体は骨と筋肉が要
・高齢期はレジスタンス運動が効果的
・運動効果を高める食べ方
・血管を健康にする
・タバコはただちにやめなさい


6章 おいしいものを食べに、外に出かけよう
・「閉じこもり」と認知症の関係
・「外出頻度やや低め」も健康に悪い
・足腰が悪くても外出を続ければ回復の可能性がある
・買い物も通院も立派な外出
・長い睡眠時間は老化を促進する
・「閉じこもり」やすいタイプとは
・地域デビューは手軽な老化防止策
・男の老い方、女の老い方
・高齢期の問題点は「食」にはじまり、「食」で終わる
・食の三つの力
・地縁を有効に使う
・口を開けば、心も開く
・追いじたくは、豊かな食卓から

あとがき

 

著者紹介

新開省二(しんかい・しょうじ)

東京都健康長寿医療センター研究所副所長。医師・医学博士。1984年愛媛大学大学院医学研究科博士課程修了。愛媛大学医学部助教授(公衆衛生学)を経て1998年より東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)勤務、2015年より現職。この間(1990-91年)カナダ・トロント大学医学部に旧文部省在外研究員として留学。日本老年医学会、日本老年社会科学会、日本体力医学会、日本衛生学会の各評議員や厚生労働省「健康日本21(第二次)策定専門委員会」委員、長寿科学総合研究事業、JST-RISTEX研究開発事業などの主任研究者を歴任。日本公衆衛生学会奨励賞(2006年)、都知事賞(2007年、研究、発明・発見部門)など受賞。

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ジャレド・ダイアモンド著・草思社文庫『若い読者のための 第三のチンパンジー』:「人間」はなぜこれほど奇妙に進化してしまったのか?

 ジャレド・ダイアモンド博士の第一作をより読みやすくコンパクトに
 ピュリッツァー賞受賞の『銃・病原菌・鉄』が世界的ベストセラーとなったジャレド・ダイアモンド博士は、1992年に初めての著作『人間はどこまでチンパンジーか?』(The Third Chimpanzee、新曜社刊)を発表、いきなりベストセラー作家となりました。
 その後『文明崩壊』『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(いずれも草思社刊)『昨日までの世界』(日本経済新聞出版社刊)を続々と発表、いずれも話題の書として多くの読者を得ています。
 本書は大部の書である『人間はどこまで…』を、その刊行以降に発表された最新の研究成果をふまえつつ、「For Young People」シリーズで定評のあるレベッカ・ステフォフ氏が、中心となるテーマをコンパクトに編集し、関連する興味深い写真を数多く配置したものです。

 「人間」はなぜこれほど奇妙な生きものなのか?
 本書は「サル学」の本ではありません。ダイアモンド博士が一貫して追究しているのは「ヒト学」あるいは「ホモ・サピエンス学」と呼ぶべきものです。
 この書名は、ヒトとチンパンジーのDNAレベルでの比較から生まれたもの。チンパンジーには、いわゆるコモンチンパンジーとボノボ(ピグミーチンパンジー)の2種類がいますが、彼らとヒトとは、DNAのなんと98.4%が同じ。いわば人間は「三番目のチンパンジー」だというのが書名の由来。
 たった1.6%の違いが、なぜ人間と他の動物のとてつもない違いを産み出したのか? なぜ人間はなぜこれほど奇妙な動物なのか? 道具を作り、言葉を操り、農耕を行い、巨大な都市を造りあげ、環境から収奪し、特定の生物を絶滅させ、人間同士で大量に殺戮し合う。この「人間」とは何なのか? これが一貫したダイアモンド博士の問題意識です。

 ダイアモンド博士が展開していくテーマが凝縮された「入門書」
 この大きなテーマが、多様な学問領域、進化生物学、生物地理学、人類生態学、古環境学、古病理学、文化人類学、言語学などの幅広い知見を縦横に駆使して考察され、博士の柔軟で新鮮な思考に驚かされます。
 本書では、『銃・病原菌・鉄』以降の著作でさらに展開されていくさまざまなテーマの根幹がコンパクトに記述されています。いわば「ジャレド・ダイアモンド入門」のインデックス書と言ってもいいかもしれません。
 たとえば本書の第4部「世界の征服者」は、『銃・病原菌・鉄』で展開される文明の格差・偏在の問題。旧大陸の人間が新大陸を征服し、なぜその逆は起こらなかったのかという考察につながっていきます。
 第5部「ひと晩でふりだしに戻る進歩」は、『文明崩壊』で展開される、巨大な文明がなぜ跡形もなく崩れ去っていったのか、なぜそれが繰り返されてきたのかという問題につながります。
 第2部「奇妙なライフスタイル」では、『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』で考察されるセックスとメイティング、他の動物とあまりに異なる人間の「性」の問題を通じて、人間が生み出す文化文明の奇妙さを問います。

 「人間」はどこから来たのか? どこに向かっているのか?
 これらの問題の考察は、「人間とは何か」を突き詰めることであり、私たちがどこから来たのかを検証し、私たちがどこに向かっているのかを見極めることにつながるものです。現在、私たち人類が向き合っている複雑に絡みあった問題の見取り図であり、総目録でもあります。
 解答の見えない難題におおわれている現在こそ、ぜひ多くの読者に読んでいただきたい一冊です。
 巻末には『人間はどこまでチンパンジーか?』の訳者である長谷川眞理子先生に非常に示唆に富んだ「解説」を寄せていただきました。

 

【本書目次より】
はじめに 人間を人間であらしめるもの

第1部 ありふれた大型哺乳類
 第1章 三種のチンパンジーの物語
 第2章 大躍進
第2部 奇妙なライフサイクル
 第3章 ヒトの性行動
 第4章 人種の起源
 第5章 人はぜ歳をとって死んでいくのか
第3部 特別な人間らしさ
 第6章 言葉の不思議
 第7章 芸術の起源
 第8章 農業がもたらした光と影
 第9章 なぜタバコを吸い、酒を飲み、危険な薬物にふけるのか
 第10章 一人ぼっちの宇宙
第4部 世界の征服者
 第11章 最後のファーストコンタクト
 第12章 思いがけずに征服者になった人たち
 第13章 シロかクロか
第5部 ひと晩でふりだしに戻る進歩
 第14章 黄金時代の幻想
 第15章 新世界の電撃戦と感謝祭
 第16章 第二の雲
おわりに なにも学ばれることなく、すべては忘れさられるのか
 
解説:長谷川眞理子(総合研究大学院大学・学長)

 

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【近刊予告】「自分の加齢臭」と闘い克服した著者が、効果のあった方法を伝授!! 大人のニオイケア『改訂新版 加齢臭読本(仮)』奈良巧 著

7月上旬 刊行予定

◆加齢臭対策は「頭皮ケア」「体内ケア」の時代に

 小学校高学年のころからワキガで、同級生に「オヤジくさいよ」と言われていた著者の奈良さん。大学生になり、初めて付き合った女性からのクリスマスプレゼントは、高級ブランドのセッケンでした(ワキガ用)。のちに、ワキの悩みは入浴や銀イオンスプレーの習慣で克服したものの、40代を迎えたころに新たに発生した「謎の脂くさいニオイ」をご家族から指弾され、その正体が加齢臭であることにずいぶん後になってから気づいたといいます。
 この謎の脂くさいニオイと闘い、苦難の末、みごと克服した著者が、試して効果のあった方法を2012年に小社刊『加齢臭読本』にまとめられました。それから5年が経過し、加齢臭研究に大きな変化がありました。2013年にマンダムが主に40代男性の脂くささが「後頭部と首筋」から発生することを突き止め、これを「ミドル脂臭(ししゅう)」と命名(加齢臭の一種)。2017年には、資生堂がコエンザイムQ10を摂取すれば加齢臭が激減すると発表。今や加齢臭は、セッケンでのボディケアだけでなく、頭皮ケア、サプリを飲んでの体内ケア、という領域に入ってきているのです。
 この近年の加齢臭研究の進化と、それに合わせた加齢臭対策商品の充実を受け、最新の加齢臭対策を大幅に加筆したのが、 このたびの改訂版です。

◆加齢臭対策の新商品を、実際に試して徹底批評!

 改訂新版の本書では、資生堂、ライオン、マンダム、ペリカン石鹸など、メーカー各社の加齢臭商品の開発担当者や広報担当者を独自に取材し、商品のすごさの秘密を深く聞き出しています。また、それらの商品を著者自身が試し、効果を検証されています。
 たとえば、ペリカン石鹸が2016年に発売開始した、頭皮洗い専用セッケン「HARIHAIR(ハリヘア)」。髪のハリがなくなってきた、毛が細くなってきた、と悩む男性の髪をシャキッと根元から立ち上げる効果があるだけでも嬉しいのに、頭皮の皮脂もしっかり洗える、という優れもの。皮脂汚れの酸性を、固形セッケンの弱アルカリ性で「中和」することで、綺麗サッパリに洗えるという仕組みです。
 著者が実際に試してみると、まず泡立ちのすごさにびっくり。濡らした頭にくるくるとこすりつけるだけで、キメ細かい硬めの泡が「ぶわーーー」っと立つのだそう。著者は日ごろから洗髪の際は「洗髪専用ブラシ」を愛用し、かつ「二度洗い」を心がけているので、泡はさらにきめ細かく、しっかり立つようです。この泡、頭に使うだけではもったいない、とのことで、残った泡で顔や首筋、全身まで洗ってしまうといいます。このセッケン、皮脂を吸着する「泥」「炭」成分や、皮脂の酸化を防ぐ「柿渋」が配合されており、体全体の加齢臭対策にもなるのです。 
 さて、こうした優れもののセッケンで頭皮ケアをしても、実は「ニオイ(ミドル脂臭)は約6時間で復活します」(マンダム広報担当者)とのこと。つまり、夜せっかく入念に洗髪しても、朝には嫌~なニオイが発生しており、そのニオイを職場まで持っていくことになってしまうわけです。忙しいビジネスパーソンの皆様には朝風呂はもちろん朝シャワーでさえ、そんな時間ないよ、というのが実情でしょうが、そんな方々を救ってくれるのが、マンダム「ルシード カラダと頭皮のデオペーパー」。植物フラボノイドと緑茶エキスがたっぷり沁み込んだペーパーで、朝の出社前に、皮脂の多いスポットである「後頭部と首筋」をぬぐうだけ。著者も日々取材で人に会うという仕事柄、このペーパーを愛用しているといいます。これを持っていれば、午後の昼食後でも、夕方過ぎでも、気になったときにひと拭きすれば、安心。心のお守りがわりにもなります。

◆食事、生活習慣など「トータルケア」で加齢臭を消去

 本書では、「セッケンをどう選ぶか」「体や頭皮のどこをどう洗うか」のほか、「保湿習慣やワキ汗対策は?」「食事や生活習慣は?」「衣服の洗剤は何を選ぶ? 洗濯機は?」、さらには「他人のニオイにはどう対処すべき?」など、加齢臭対策を網羅的に紹介してあります。
 ニオイが気になる男性であれば、読むと読まないでは、人生が変わるといっても過言ではないでしょう。また、女性にも加齢臭があることがわかっていますので、女性にも、自身のケアとして、あるいは夫や彼氏へのプレゼントとしても、お求めいただけるかと思います。
 夏も近づいてきているこの時期、かばんに一冊、本書をしのばせて、セルフケアのお供にしていただけると幸いです。


著者紹介

奈良巧(なら・たくみ)
1958年生まれ。早稲田大学卒業。出版社での編集記者を経て、50歳よりフリー記者。得意テーマは、加齢臭、アンチエイジング、現代栄養学とサプリメントについて、コンビニ・ファミレス・外食文化と健康について。「週刊ポスト」「夕刊フジ」等の雑誌・新聞に、主に健康に関する記事を寄稿。著書に『加齢臭読本』(2012年、草思社)、企画・構成に『「コンビニ食・外食」で健康になる方法』(浅野まみこ著・草思社)、『麺屋武蔵ビジネス五輪書』(矢都木二郎著・学研)。

『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』刊行記念! ビジネスパーソンのための超速『鬼谷子』講座 第四回「人を動かしたあとにするべきこと」 『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』高橋健太郎著

 超速『鬼谷子』講座も今回が最終回。
 最後にご紹介するのは、『鬼谷子』が教える「人を動かしたあとにするべきこと」です。

・人を動かしたら去る
 この講座でも述べてきたように、『鬼谷子』の術は、安全圏から人を動かす術です。
 ひそかに周囲を観察し、それとなく言葉を投げかけ、誰からも知られることなく、あたかも自然にそうなったかのように他人を動かすのを理想とします。

 人を動かすには何らかの「行動」が必ず伴います。
 これは避けようがありません。
 観察も周囲への言葉がけも、どんなに目立たないように行っても「行動」です。そして、そうした具体的な「行動」がある以上、周囲の人間に「あいつ、人を動かそうとしてるな」なんて知られてしまうリスクは、必ず出てきます。

 こうした状態を、『鬼谷子』は「陽」(日の当たる状態)と呼んで危険視します。
 もちろん、『鬼谷子』では、こうした避けがたい「陽」の状態においても、なおかつ、人に知られるリスクを最小限化する技術もまた説いてます。

 ただし、『鬼谷子』がもっとも重視するのは、なによりも「陽」の状態から一刻も早く去ることです。つまり、人を動かしたら、すぐに目立たない場所に消える。
 これが鉄則なのです。

・虚栄心が身を滅ぼす
 人を動かすのに成功した人間が、もっとも陥りがちな罠。
 それは「あの人を動かしたのは、実はオレなんだ」などと吹聴して回ることです。
 動かしたのが難しい相手であればあるほど、それによって得られる功績が大きければ大きいほど、人はどうしても、それが自分の手柄であることを周囲にアピールしたくなってしまうもの。

 しかし、『鬼谷子』的にいえば、それこそがもっとも危険な行為なのです。
 なぜか?
 周囲の心情面と情勢面に次のようなリスクが生まれるからです。

1,(心情面のリスク)功績は周囲の嫉妬を生む
 嫉妬は必ずその人を引きずり降ろします。必ず将来禍根になるのです。

2,(情勢面のリスク)功績はその人間をキーパーソンにする
 功績のある人間は、一目置かれます。つまり、周囲から注目されるようになり、「陽」の状態から抜け出せなくなるのです。

 周囲から注目されて一挙手一投足が注目され、しかも嫉妬までされるという得意絶頂の状態こそ、失敗の谷へ転落するまであと一歩。

 この最低の状態をなんとしても避けるというのが、安全圏から人を動かすために、最後に行わなければいけない『鬼谷子』の術の総仕上げなのです。そのための方法には、例えば次のようなものが考えられるでしょう。

1,物理的に、あるいは心理的にその場を去る
2,功績を人に譲る
3,逆に「成功ではない」と吹聴する

・「転円」こそ究極
 いずれにせよ、『鬼谷子』では、人を動かすには「自然であること」がもっとも大事であると説きます。
 状況を見て人を動かし、成功したのなら成功を観察して動き、失敗したのなら失敗を観察してまた動く。これを自然と流れるように淡々と行っていく。
 これこそが『鬼谷子』の説く究極の境地である「転円」です。

 その動きの自然さが極まれば、自然さに紛れて誰が誰を動かしたのかすら、周囲にわからなくなります。
 周囲から見たときに「何かわからないけど、あの人が急に動き出して事態が進展した」、そんな印象しか残らないような人の動かし方を目指すのが『鬼谷子』の術なのです。

(筆者:高橋健太郎)

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満映、キン・フー、チャン・イーモウの関係 『新装版 キン・フー武侠電影作法』キン・フー/山田宏一/宇田川幸洋著

 キン・フー監督の現在の中国語映画史上での評価は、例えば2011年に台湾金馬影展執行委員会というところが発表した中国語映画のオールタイムベスト100というリストを見ればよく分かる。9位に『龍門客桟』、15位に『俠女』が入っている(ちなみに1位はホウシャオシェンの『悲情城市』)。他の評価もほぼ同じで、香港、北京等の映画評論家協会での発表でも、かなり上位(ベストテン内)にキン・フーの作品が入っている。
 いまや中国語映画界はその市場規模や表現レベルにおいて黄金時代を迎えているが、その歴史は決して順調なものではなかった。その中で戦前の日本が作った満州映画協会や中華電影といった国策映画会社が、ひそかな人脈的影響を与えているのは面白い。
 本書『新装版・キン・フー武侠電影作法』(元の初版1997年)にキン・フーが香港で第一作目『大地児女』、二作目『大酔侠』を撮った時の撮影監督が西本正であり、映画技術を教えてもらった師匠の一人であるというくだりが出てくる。共産革命を逃れて香港へ渡ったキン・フー青年が美術助手や俳優を経験しながら念願の監督になる。このあたりの記述は知られざる1950~1960年代の胎動期の香港映画界を描いていてとても面白い。これを補完する形で読んでいただきたいのは本書と同じく山田宏一さんがまとめた(山根貞男さんと共著)『香港への道』(西本正聞き書き、筑摩書房、2004年)である。
西本正は中川信夫監督の『東海道四谷怪談』(新東宝)の撮影監督として有名だが、そのころ香港に技術指導的な立場で渡り、何本も映画を撮っている。この西本正は戦前は満州映画協会でニュースカメラマンとして修業を積んだ人である。
 キン・フーの1950年代の香港映画界の回想には巌俊とか李麗華とかの名前が出てくるが、この人たちは上海の中華電影時代の役者である。西本正の回想では1980年に中国を再訪したときに成都の撮影所で責任者になっていた馬守清という人に30年ぶりに会って涙するところが出てくるが、この馬守清という人は西本正の満映時代の同僚のカメラマンで、岸富美子著『満映とわたし』(岸は満映のスクリプター、文藝春秋社、2015年)にもその名が出てくる。日本が負けて満映が八路軍に接収されたときに共産党側の代表者の一人になった人という。西本正と馬守清は満映が養成した最先端の映画技術者(カメラマン)だった。資金がふんだんにあったので満映には設備も機材も人材も世界で最先端のものをそろえていたのだ。この馬守清の弟子筋の一人が今を時めくチャン・イーモウ(張芸謀)監督である。ハリウッドと中国の資本が手を組んで作った『グレイト・ウォール』が今春公開されている。
 長い間政治に翻弄されて、中国的で豊かな映画表現を実現できないできた中国映画がかすかな系譜をつないでようやくここまで来た現在だが、『グレイト・ウォール』がその成果の一つというのも情けない気もするが。
 本書を読んで、東アジアの一世紀の政治的混乱とそれと関係なくたくましく花開くキン・フー的映画精神の系譜を考えると思わず楽しくなる。

(担当/木谷)

著者紹介

キン・フー(胡金銓)
一九三二年、北京の裕福な家庭に生まれる。一九四九年、香港へ亡命。美術助手、俳優などを経て、一九六五年、ショウ・ブラザースの『大地児女』で監督第一作を撮る。『龍門客桟』(『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』)『侠女』(カンヌ映画祭・高等映画技術委員会大賞)など生涯に長短篇一三作品を香港・台湾で監督。ハリウッド進出の直前、一九九七年急逝。
山田宏一(やまだこういち)
映画評論家。一九三八年、ジャカルタ生まれ。東京外語大学フランス語科卒業。近著に『ヒッチコック映画読本』(平凡社)『ヒッチコックに進路を取れ』(共著、草思社文庫)など。
宇田川幸洋(うだがわこうよう)
映画評論家。一九五〇年、東京生まれ。著書に評論集『無限地帯』(ワイズ出版)。

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『ライト兄弟』「訳者あとがき」より――秋山勝  『ライト兄弟』デヴィッド・マカルー著 秋山勝訳

『ライト兄弟』「訳者あとがき」より――秋山勝

 

 本書はデヴィッド・マカルーのThe Wright Brothersを全訳したものである。原書は2015年5月に刊行、発売されるや大反響を呼び、5月27日から7月5日の7週間、ニューヨークタイムズのベストセラーリスト(ノンフィクション部門)の第1位を占め続けた。各新聞がこの本を記事としてとりあげ、また多くの書評で紹介されるなど、広範な支持を得て、いまも変わらずに読み続けられている。

 

 ライト兄弟は日本人も敬愛を寄せる偉人である。アメリカ人としては、発明王エジソンと並び、偉人中の偉人として変わらぬ支持を得てきた。子供のころ、伝記を通じてウィルバーとオーヴィルの発明に読みふけった方も多いはずだ。自転車商会を営みながら、試行錯誤と刻苦のはて、二人はついに世界ではじめて、有人の動力飛行に成功した。ただ、児童向けに書かれた伝記の多くは、1903年12月17日にキルデビルヒルズの砂丘から舞い上がったライトフライヤー号の成功をもって大団円を迎える。

 

 たしかに、本書においても初飛行の成功は前半部分の山場である。だが、世紀の発明をこのとき目撃していたのはわずかに5名。それも救護基地の二名と地元の住民で、公式の飛行とはおよそ言いがたいものだった。しかも、試験飛行の場所といえば、近郊の住民さえその名前を知らない荒涼たる土地で行われ、歴史を一変させることになる発明の誕生に、このとき世界はまったく気がついていなかった。

 

 兄弟の発明を信じたのはごく少数の人間に限られた。のちに合衆国大統領タフトがいみじくも口にしていた「預言者は、おのが郷おのが家の外にて尊ばれざる事なし」のように、追放された預言者は活路をヨーロッパに求める。そして、二人の発明を世界がどのように受け入れていくのか、それについて書かれたのが本書の後半である。父親であるライト牧師のように、兄弟は新時代の到来を告げる説教師としてヨーロッパへと布教の旅に乗り出していった。

 

 フランスのル・マンで迎えた世紀の展示飛行。離陸したフライヤー号に観客は驚愕して押し黙ると、次の瞬間、驚きと狂喜で観覧席は弾け、観客はいっせいに場内になだれ込んでいった。この飛行に先立ち、世に容れられない預言者への嘲笑と愚弄が繰り返し書き込まれているだけに、なんともカタルシスを覚える光景である。それまで常識とされた科学原理が一蹴され、革新的な技術によって新しい時代の扉が解き放たれた瞬間でもあった。

 

 重力に逆らい、空中を自由に飛翔する技法と技術が、その後、長足の進歩を遂げていったことについては改めて触れるまでもないだろう。1903年の初飛行から66年、同じくオハイオ州出身の飛行士が月面に降り立った。

 

(後略)

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ライト兄弟 | 書籍案内 | 草思社

『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』刊行記念! ビジネスパーソンのための超速『鬼谷子』講座 第三回「どうやって人を動かすか?」 『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』高橋健太郎著

 前回は、『鬼谷子』の説く、人を動かす前に必ず行わなければいけない「観察」という作業についてご紹介しました。
 今回は、実際に人を動かすために何をするべきか、その術について、ご紹介します。


・人は「陰陽」で動かす
 『鬼谷子』の根幹には、「陰」と「陽」という考え方があります。
 この「陰陽」という考え方は、『鬼谷子』のあらゆる箇所に様々な形で登場します。
 限られたスペースで、それらをすべて説明してしまうと、かえって意味不明になる恐れがあるのでしませんが、人を動かすのに関係する代表的な「陰陽」だけを挙げれば、次のようなものです。

1言葉(陽)言葉以外の要素(陰)
 まず、『鬼谷子』の術は言葉で人を動かす術ですが、言葉“だけ”で人を動かす術ではありません。むしろ利用できるものは何でも利用するのが、『鬼谷子』の術の特徴です。
 例えば、上司から「明日までに書類を出しなさい」と言われたとします。
 この時、部下が従うのはなぜか? これを「陰陽」で考えれば、次の二つの力の兼ね合いであることがわかります。

(陽)「明日までに書類を出しなさい」という言葉の持つ力
(陰)上司という立場の持つ力

 『鬼谷子』は、言葉の持つ「陽」の力だけでなく、その裏にある現実の持つ「陰」の力をも利用して、相手を動かす術です。
 だからこそ、発言の持つ「陰」の力を最大化するために、自分にとって最も有利な立場を選ぶ技術(忤合の術)なども教えるわけです(ちなみに、自分の立場のコントロールは、自分を安全圏に置くための絶対条件でもあります)。

 その時の発言者の立場の強さ、周囲の状況、ちらつかせる利益・不利益などはすべて「陰」の力です。
 『鬼谷子』の術を使って人を動かすのならば、こうした要素をちらつかせ、醸しだし、最大限に利用しなければいけません。

2前向きな言葉(陽)後ろ向きな言葉(陰)
 相手を動かすためにもう一つ利用すべき「陰陽」が、前向きな言葉という「陽」と後ろ向きな言葉という「陰」です。
 ここでいう前向きな言葉と後ろ向きな言葉とは、ざっと挙げれば次のようなものです。

(陽)前向きな言葉……ほめ言葉、楽観的な予測、利益についての話、相手が聞きたい話、明るい話
(陰)後ろ向きな言葉……非難する言葉、悲観的な予測、不利益についての話、相手が聞きたくない話、暗い話

 「陽」には相手を動かす作用があり、「陰」には相手を止める作用があります。
 したがって、基本的には相手に何かをさせたければ、それについて「陽」の話をすればいいですし、相手のすることを止めたければ、それについて「陰」の話をすればいい。
 これが基本になります。
 単純な例を挙げれば、相手にキャベツを買わせたければ、キャベツを食べることによる効用(利益)の話をし、買おうとしている相手をほめればいいわけです。当然、買わせたくなければその反対。

 ただし、「陰陽」には別の法則もあり、「陰」を言われすぎると「陽」で返したくなり、「陽」を言われすぎると「陰」で返したくなる、というものもあります。
 キャベツの例でいえば、相手が内心キャベツを買いたがってるのに、それを隠している場合。こちらがキャベツに否定的なこと(陰)を言い続ければ、相手もたまらずに、思わずキャベツ擁護(陽)を始めるかもしれません。
 こうした「陰陽」による押し引きも、『鬼谷子』が人を動かすのに利用する要素です。

・事前の観察で状況と相手の心を見極めておく
 こうした「陰陽」を利用して相手を動かすには、前回紹介した情勢への観察(量権)、動かす相手の心の観察(揣情)が大切です。
 動かしたい相手が、どのような話題にどのように反応するのか、そのために、利用できる状況にはどのようなものがあるのかを見極めなければ、「陰陽」をどのように使うのかの方針も立たないからです。
 つまり、『鬼谷子』の術においては、観察と実行は一体なのです。

 以上の技術の詳細についても、拙著『今日ヒラ』をご参照いただければと思います。例によって宣伝になりますが、本当にこのスペースじゃ書ききれないのでスミマセン(笑)。

 次回は、動かした後の話をご紹介しようと思います。
 『鬼谷子』では人を動かした後に、どのように行動することをすすめているのか? ある意味、他の説得術や人を動かす技術と違うのは、この部分かもしれません。
(筆者:高橋健太郎)

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