草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

なぜ「情報隠蔽」は悪いことなのか? 『大惨事と情報隠蔽』ドミトリ・チェルノフ+ディディエ・ソネット著/橘明美+坂田雪子訳

大惨事と情報隠蔽
――原発事故、大規模リコールから金融崩壊まで

ドミトリ・チェルノフ+ディディエ・ソネット 著 橘明美+坂田雪子 訳

◆人はなぜ情報を隠したがり、それはなぜ大惨事を引き起こすか。徹底検証し対策を示す

 「こんなこと上司に報告すると、また面倒なことになるな…」と考えて、見なかったことにする。「今までずっとうまく行っているんだから、そんなこと気にする必要ないよ」と深刻さを過小評価し、報告しない――。事の大小はあれ、こんな経験、あるのではないでしょうか?
 昨今、政界・官界・財界など、世の中じゅうで問題となっている「情報隠蔽」。情報隠蔽が問題なのは、それが不正の徴候だからというだけではありません。情報が共有・公開されないと、恐るべき大惨事が起こる可能性があるからなのです。本書は、大事故や社会的事件、消費者問題や経済危機などの大惨事の主因が情報隠蔽(特にリスク情報隠蔽)にあることを25余りの幅広い事例から示したノンフィクションであると同時に、その対策をリスク管理やリスク・コミュニケーションの専門家である著者が示すビジネス書です。
 著者によれば、情報隠蔽にはいくつかのパターンがあります。たとえば、リスクの存在を認めると、コストのかかる対策をしなければならなかったり、儲け話を見送ることになったり、期日に仕上げることが不可能になったりするからと、その情報を隠蔽するパターン。また、「日本のものづくりは優秀で、日本人は勤勉だからそれは問題にならない」〔日本〕とか、「資本主義に毒されていない我が国では、そのような問題は起こりえない」〔旧ソ連〕などの、国家主義的な「おごり」により、リスクを矮小化したり、無視したりする形の情報隠蔽。さらには、従業員の待遇が悪いことなどから、担当者が頻繁に辞めて入れ替わり、現場の履歴やノウハウの情報が共有されなくなるという、広義の情報隠蔽のパターンもあります。
 どれもこれも社会のあらゆるところで、私たちがよく目にし、耳にする事柄ですが、本書ではそれらが深刻な大惨事へと発展した事例を検証します。読者は、ページを繰るごとに身につまされ、自分の所属する会社や組織を、情報隠蔽が起こりにくいものに変革しなければならないと、強く感じさせられることでしょう。

◆トヨタ・リコール問題、福島原発等を含む日米欧露亜の多様な事例。共通項が明らかに

 本書の強みの一つは、事例の豊富さと幅広さです。日米欧露およびアジアの事例を偏りなく検証しています。日本の例ではトヨタ・リコール問題や福島原発、水俣病が取り上げられるほか、情報共有・公開がうまく行った例として、トヨタ生産方式やソニーのバッテリーリコールを紹介。業種・分野の多様さにも特筆すべきものがあります。この種の本で取り扱われることがほとんどない、エンロン事件やサブプライム危機などの金融の大惨事、独ソ戦初期におけるソ連軍の失敗や、SARSの世界的感染拡大といった社会的大事件が取り扱われているのです。もちろん、メキシコ湾原油流出やチャレンジャー号爆発事故、インド・ボーパールの毒ガス漏洩などの工業的大事故、豊胸手術用シリコン不正製造やフォルクスワーゲン・ディーゼル排ガス問題などの消費者問題も取り扱われます。
 驚かされるのは、これらの事件事故が、洋の東西、業種・分野の多様さを越えて、どれも同じような情報隠蔽に端を発して起こったとわかること。ノンフィクション好きの方にオススメなのはもちろん、会社組織のリスク管理担当者や、経営に携わる方々が是非とも読むべき一冊です。

(担当/久保田)

著者紹介

ドミトリ・チェルノフ
チューリッヒ工科大学の「企業家リスク」講座に所属する研究者。ロシアで一五年以上にわたりコーポレート・コミュニケーション(企業広報)のコンサルタントを務め、とくにクライシス・コミュニケーション(危機管理広報)に注力してきた。

ディディエ・ソネット
チューリッヒ工科大学の「企業家リスク」講座を担当する金融学教授で、金融危機研究所(FCO)所長。チューリッヒ工科大学リスクセンター共同設立者、スイス金融研究所のメンバーでもある。邦訳されている著書に『[入門]経済物理学―暴落はなぜ起こるのか?』(PHP研究所)がある。

橘明美(たちばな・あけみ)
英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学文教育学部卒。訳書にチャールズ・マレー『階級「断絶」社会アメリカ』(草思社)、ピエール・ルメートル『その女アレックス』(文藝春秋)ほか。

坂田雪子(さかた・ゆきこ)
英語・フランス語翻訳家。神戸市外国語大学中国学科卒。訳書にマイケル・ラルゴ『図説 死因百科』(共訳)、クリストフ・アンドレ『はじめてのマインドフルネス』(共に紀伊國屋書店)ほか。

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ボランティアはなぜ、被災地に通い続けるのか? 『震災ジャンキー』小林みちたか 著

震災ジャンキー

小林みちたか 著

◆被災者でもなく、ジャーナリストでもない。ボランティアが見た東日本大震災の深層

 2011年3月11日の東日本大震災から6年以上の月日が経ち、その間に起こった事柄はさまざまな形で報道され、書籍としても著されてきました。本書は、震災被害に遭った当事者でもなく、あるいはジャーナリストや研究者としての立場からでもなく、ボランティアの視点からで書かれたルポルタージュです。

 震災発生当時、NPO法人AAR Japanに所属していた著者は、東北の被災地に入って支援物資配達などの業務を行い、非常に厳しい現場を体験しました。恐るべき現実のなかに身を置いた被災者たちは、ボランティアである著者の支援活動に対して、一様の反応を表すわけではありませんでした。
 高台に新しく家を建てたばかりに自分だけが助かってしまったと泣きながら、近隣の人のために支援を要請する女性。「ほどこしは受けない」と厳しい表情で必要最低限の物資だけを受け取る避難所のまとめ役。孤立した小さな島から電話で、底をつきかけた飲料水を届けてほしいと話しながらも、そのおっとりと落ちついた口調でこちらの心まで静めてくれるような、島の区長。著者はそれら一人ひとりに、心を動かされたり、近づきがたいと感じたり、本当に役に立てているのだろうかと自問したりしながら、緊急支援活動を続けました。
 著者はその後、AAR Japanを退職しますが、ひきつづきボランティアとして被災地に何度となく足を運び、支援活動を続けます。緊急支援の折に知り合った被災者とも親交を温めてきました。本書には、震災直後に知り合った被災者と被災地の変化や、その後の支援活動の中で知り合った被災者たちの様子が描かれています。そこにあるのは、冷徹な分析でも、型にはまった同情でも、イデオロギー的な言辞でもありません。その場に身を置き、困っている人を助けようと体を動かした人間だけが語り得る、震災の現実が記されています。

◆何のため、誰のためのボランティアか。支援する側も自問自答を繰り返す

 ときに「自己満足にすぎない」「偽善だ」と中傷されることもあるボランティア。実際に、配慮を欠いた《支援》は被災者に負担をかけるだけに終わることもあります。被災者の「ありがとう」という言葉や、笑顔とは裏腹に、「ありがた迷惑」な《支援》だったということも。困っている人がいて、それを助けるという、一見単純なことであっても、本当に役立つのは難しいという事実に、著者や仲間のボランティアが自問自答する姿も、本書には描かれています。そのような葛藤を抱えながらも、ボランティアたちはなぜ、支援を続けたいという気持ちを持ちつづけるのでしょう?
 被災地の現実をこれまでとは異なる視点から考えてみたいという方はもちろん、今後ボランティアに身を投じてみたいと考えている方にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

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動物園で象を詠んだり、1月1日に鉄腕アトムを詠んだり 『1ランクアップのための 俳句特訓塾』ひらのこぼ 著

1ランクアップのための 俳句特訓塾

ひらのこぼ 著

 俳句上達はなかなかに難しい。上達の要諦を述べた本は古今あまたあり、この本の著者ひらのこぼ氏の以前の書『俳句開眼100の名言』(草思社)では、100冊以上もあるその一部を紹介している。また、言語芸術であるだけにその極意は、抽象的、精神論的になりがちである。「見たままを詠め」と言われても、凡人にはにわかにはわかりにくい。
 その上達法に風穴を開けたのがひらのこぼ氏の出世作『俳句がうまくなる100の発想法』(草思社文庫)である。これは「裏側を詠んでみる」(羽子板や裏絵さびしき夜の梅――荷風)とか「名前を付けてみる」(吉良常と名づけし鶏は孤独らし――穴井太)とか、名句を発想の型に分類して、すぐに活用できるようにした本で、その臆面のない分類にかえって洒落気を感じたものである。
 ひらのこぼ氏は元コピーライターでまた、理数系の大学を出ていることもあり、妙に合理的であり、理論的にアプローチをするところが面白い。
 今回の本でも、2章、3章の無理やりにでも俳句を作ってしまえとでもいうべき、集中トレーニングの設定が大変ユニークである。

「毎日、動物園に通って動物の顔を見て一句」、
象も耳立てて聞くかや秋の風――永井荷風)、
また、「毎日誰かの忌日だったり、記念日だったりするので、それをお題に一句」、例えば1月1日は鉄腕アトムの日ということなので、
年新た無敵の空がありにけり――こぼ)
「好きな俳人と10番勝負してみよう」、というところでは、例えば正岡子規とでは、
秋風や伊予ヘ流るる汐の音――子規)
向こう面張りて野分の過ぎゆけり――こぼ)
などとやってみる。

 ほかにも〈俳筋力〉アップのトレーニング法をいくつか紹介しているが、大真面目にならず、俳諧的センスの本質に適ったノウハウであるところが、本書の良い点である。

(担当/木谷)

著者紹介

ひらのこぼ

昭和23年、京都生まれ。大阪大学工学部卒業。汽船会社設計部を経て、昭和48年広告会社へコピーライターとして入社。奈良市在住。平成10年、銀化(中原道夫主宰)に入会。現在、銀化同人。著書に『俳句がうまくなる100の発想法』『俳句がどんどん湧いてくる100の発想法』などの俳句発想法シリーズのほか、『俳句発想法歳時記』春・夏・秋・冬+新年各篇(以上、草思社文庫)などがある。

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半世紀の封印を破って刊行された、元米大統領による驚愕の第二次世界大戦史! 裏切られた自由【上】ハーバート・フーバー 著 ジョージ・H・ナッシュ 編 渡辺惣樹 訳

裏切られた自由【上】
――フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症
ハーバート・フーバー 著 ジョージ・H・ナッシュ 編 渡辺惣樹 訳

 本書『裏切られた自由』(原題FREEDOM BETRAYED:Herbert Hoover’s Secret History of the Second World War and Its Aftermath)は、第31代アメリカ大統領ハーバート・フーバー(任期1929~33)が20年の歳月をかけて第二次世界大戦の過程を検証した回顧録です。
 スターリンと手を組んだルーズベルト大統領を「自由への裏切り」と批判した本書は、アメリカでも完成後、半世紀の長きにわたって公開されませんでしたが、2011年にフーバー研究所から刊行され、話題を呼んでいます。
 国家の意思決定の仕組みを熟知し、同時にさまざまな機密情報にもアクセスできた元大統領が、同時代の政治指導者としての使命感から精魂をかたむけて世界大戦の実情を記録したのが本書です。原書は1000頁を超える大著で、日本語版では上・下巻に分割しての刊行になりました。上巻(本書)には開戦前の国際情勢の分析から1944年までが、下巻(*2017年11月に刊行予定)にはヤルタ会談以降の状況と補足資料が収録されています。
 本書には数多くの特筆すべき記述があります。たとえば、真珠湾攻撃にいたる日米関係について関係者の証言をまじえて分析し、日米戦争はルーズベルトの欺瞞に満ちた外交によって引き起こされた、と結論づけています。また著者は、大戦中に各地で行なわれた首脳会談について詳細に記録しています。戦後世界の枠組みを決めることになる会談の裏でどのようなせめぎ合いがあったのか。首脳外交の現場を熟知した著者ならではの分析には説得力があります。
 本書の膨大な記述は、従来の歴史認識に根本的な見直しを迫るものです。それはとりもなおさず、あの戦争における日本側の立場を擁護することにもつながるのですが、ここで強調しておきたいのは、フーバーは決して日本贔屓の政治家ではなかったという点です。彼の経歴や大統領時代のスタッフを見れば、むしろ逆であった可能性が高いでしょう。
 しかし、そのような人物の手による著作だからこそ、本書の記述には大きな価値があるのです。第二次世界大戦の一方の当事者として、私たち日本人に必読の一冊と断言します。

(担当/碇)

以下、本書より引用

 いま二人の独裁者(ヒトラーとスターリン)が死闘を繰り広げている。二人はイデオロギーに凝り固まった夢想家であり、兄弟のようなものである。……我が国(アメリカ)は防衛力をしっかりと整備し、両者の消耗を待つべきである。……我が国の掲げる理想にもかかわらずスターリンと組むことは、ヒトラーと同盟を組むことと同じであって、アメリカ的理念への叛逆である。

 国民も議会も我が国(アメリカ)の参戦に強く反対であった。したがって、大勢をひっくり返して参戦を可能にするのは、ドイツあるいは日本による我が国への明白な反米行為だけであった。ワシントンの政権上層部にも同じように考える者がいた。彼らは事態をその方向に進めようとした。つまり我が国を攻撃させるように仕向けることを狙ったのである。

 ハルは自身の回顧録の中で、ここ(本書)で記した日本政府との交渉の模様をほとんど書いていない。そして交渉についてはただ否定的に書いている。……その文章には真実がほとんど書かれていない。 

 近衛(首相)の失脚は二十世紀最大の悲劇の一つとなった。彼が日本の軍国主義者の動きを何とか牽制しようとしていたことは称賛に値する。彼は何とか和平を実現したいと願い、そのためには自身の命を犠牲にすることも厭わなかったのである。

 ルーズベルト氏は「非帝国化構想」を持っていた。彼の標的はドイツ、イタリア、日本だけではなかった。彼はイギリス、フランス、オランダの非帝国化を目論んでいた。そうでありながら、彼の構想には一か国だけ例外があった。巨大できわめて攻撃的な帝国ソビエトであった。

 著者紹介

ハーバート・フーバー(Herbert Hoover)
1874年アイオワ生まれ。スタンフォード大学卒業後、鉱山事業で成功をおさめ、ハーディング大統領、クーリッジ大統領の下で商務長官を歴任、1929年~1933年米国大統領(第31代)。人道主義者として知られ、母校スタンフォードにフーバー研究所を創設。1964年死去。

編者紹介
ジョージ・H・ナッシュ(George H. Nash)
歴史家。ハーバード大学で歴史学博士号取得。2008年リチャード・M・ウィーヴァー賞受賞(学術論文部門)。フーバー研究の第一人者として知られる。著者に“Herbert Hoover and Stanford University”他。

訳者紹介
渡辺惣樹(わたなべ・そうき)
日本近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の根源1858-1908』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)『朝鮮開国と日清戦争』『アメリカの対日政策を読み解く』など。訳書にマックファーレン『日本1852』、マックウィリアムス『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』など。

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裏切られた自由(上) | 書籍案内 | 草思社

元米大統領の大著をもとに、まったく新たな第二次世界大戦像を提示! 『誰が第二次世界大戦を起こしたのか』渡辺惣樹 著

誰が第二次世界大戦を起こしたのか

――フーバー大統領『裏切られた自由』を読み解く

渡辺惣樹 著

 本書は、第31代アメリカ大統領ハーバート・フーバー(任期1929~1933)の大著『裏切られた自由』を翻訳した渡辺惣樹氏が、同書の読みどころを紹介しながら、新解釈の「第二次世界大戦史」を提示する本です。『裏切られた自由』はフーバーが20年の歳月をかけて第二次世界大戦の経緯を詳細に検証した記念碑的な歴史書で、日本語版の上巻が本書と同時に刊行されました。この大著を翻訳した著者・渡辺氏は北米在住、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作群が高く評価されている近現代史研究家です。2013年に小社より刊行された『日米衝突の萌芽1898-1918』で第22回山本七平賞奨励賞を受賞しています。
 アメリカが全体主義国と戦った「正義の戦争」という従来の大戦史観とはまったく異なる視点から第二次世界大戦を記述したフーバー元大統領ですが、渡辺氏は「フーバーは自身の感情を抑え、可能なかぎり『資料に語らせる』ことを心掛けて『裏切られた自由』を書き上げた」と書いています。世界各国の政治指導者、また軍関係者とも直接やりとりできる立場にいたフーバーの記録は第一級の史料と呼ぶにふさわしい価値があります。本書はその『裏切られた自由』をより深く理解するための格好の解説書であり、同時に、同書の克明な記録をもとに「始まりも終わりも腑に落ちないことばかり」(本書より)だった第二次世界大戦の謎に迫る意欲作でもあります。
 第二次世界大戦をめぐる数々の疑問、たとえば、なぜあのタイミング(1939年9月)で大戦が始まったのか、なぜアメリカは恐怖政治の首魁スターリンと手を結んだのか、なぜ日本側の必死の対米和平交渉は実らなかったのか、そして、二度目の世界大戦という悲劇的な事態を招いた最大の責任は誰のどのような意思決定にあったのか――。こうした疑問に本書は明快な答えを出しています。その答えは、ぜひ本書および『裏切られた自由』をお読みいただきたいのですが、間違いなく言えるのは、フーバーの提示した論点に触れずして第二次世界大戦を語ることはもはやできない、ということです。これまでの歴史認識にラディカルな変更を迫る一冊です。

(担当/碇)

本書より

 フーバーはスタンフォード大学で鉱山学を学んだ技術系の人物であった。それだけに歴史の細部をおろそかにしなかった。同時に一次資料を重視した。F・D・ルーズベルトの進めた外交の全貌をなんとしても正確に把握し、それを世に知らしめたかった。その気持ちが『裏切られた自由』を大著にした。……著者もフーバー同様に歴史は細部に宿ると信じている。日本の戦後教育を受けた者にとっては驚くべき事実が、フーバーが見逃さなかった歴史の細部にちりばめられている。ぜひ、ゆっくりと時間をかけてそれらを読みとってほしいと思っている。

 著者紹介

渡辺惣樹(わたなべ・そうき)
日本近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の根源1858-1908』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)『朝鮮開国と日清戦争』『アメリカの対日政策を読み解く』など。訳書にマックファーレン『日本1852』、マックウィリアムス『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』など。

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「共産主義」とか「万有引力」で、とたんに世界は違って見えた。 『世界の見方が変わる50の概念』齋藤孝 著

世界の見方が変わる50の概念

齋藤孝 著

 かつてマルクスが「共産主義」という概念を唱え、ニュートンが「万有引力」と言ったとたんに、当時の人びとに世界は、まったく違って見えたのではないか、と著者は言う。「概念」というものには、それほど強いインパクトがある。
「概念」とは現実の事象の中に共通性や法則を見つけて言葉にしたものだが、本書では哲学用語や各種理論などを中心に取り上げている。
「パノプティコン」という概念をまず真っ先に取り上げているが、これは最近では「テロ等準備罪」いわゆる「共謀罪」に反対するキャンペーンで朝日新聞が使っていた用語である。もともとは刑務所の設計構想で、「一望監視方式」と訳されるが、ミシェル・
フーコーが『監獄の誕生』で監視社会化する現代社会についての比喩として使って有名になった。過剰な監視や規制が社会を委縮させるのだという反論に「パノプティコン」が使われるととたんに強くなる。概念があるのとないのとではがらりと変わるのである。
 概念は抽象的なものであるが、これを現実に当てはめて考えることで具体的になり、さまざまな示唆が与えられる、と著者は言う。2番目に取り上げている「野生の思考」という概念はレヴィ・ストロースがアマゾンの未開民族を研究して考えたもので、西欧的な「文明の思考」にたいしてあり合わせの材料を組み合わせて成果を上げる彼らのやり方を評価して言った言葉だ。例えば「原子力発電」が文明の思考だとすると地方の「道の駅」の発想などが典型的な「野生の思考」(ブリコラージュ=間に合わせ仕事)ということになる。
 この本には50個の概念が載っているが、このうちの数個でも自分の武器として使ってみてほしいというのが著者の提唱である。困難な現実を打ち破るために必要な知恵を与えてくれるかもしれない。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『宮澤賢治という身体』(宮澤賢治奨励賞)『身体感覚を取り戻す』(新潮学芸賞)、ベストセラーとなった『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞)などがある。近著に『語彙力こそが教養である』『こども 孫子の兵法』『夏目漱石の人生論 牛のようにずんずん進め』がある。

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地球が平らなら夕焼け雲はできないって、知ってた? 『地球は本当に丸いのか?―身近に見つかる9つの証拠』武田康男著

地球は本当に丸いのか?―身近に見つかる9つの証拠

武田康男著

◆「えっ! これも地球が丸いせいだったの?」と驚く事実の数々

 高層マンション最上階付近に相当する100mの高さに登ると、海抜0m近くに比べて日の出は2分も早くなります。このように、高いところに登ると日の出が早くなるのは、地球が丸いから。地球の丸さにより、高いところからは、地平線が下がって見える(見下ろす)ようになるためです。

 天気のいい日に海辺に立つと、水平線がくっきりと見えます。もし、地球が平らだったら、こうはなりません。地球が平らなら、水平線は無限に遠くにあることになり、霞んでしまうはずだからです。地球が丸いからこそ、水平線までの距離が有限で、はっきり見えるのです。
 

◆豊富な写真と図版で「地球が丸いから起こること」を視覚的に解説

 地球が丸いことは子どもでも知っている科学的事実ですが、なかなかそれを実感できません。子どものころ、「地球は本当に丸いの?」という疑問を抱いても、実感できるようにうまく説明してくれる大人はなかなかいなかったでしょう。納得できないまま大人になってしまった人も、多いのではないでしょうか。

 本書は、誰もが幼少期に抱いたこの素朴な疑問に答える図鑑です。たくさんの写真と図版を使って、地球が丸いからこそ起こる「目で見てわかる現象」を解説し、地球の丸さの影響を視覚的に示します。

 本書を読めば、空の現象や遠くの風景の中に、普段は見逃している「地球が丸い証拠」が隠れていることに気づくことでしょう。著者は、これまで空や雲の現象を写真で紹介する本を多数著してきた武田康男さん。武田さんは、以前、高校の地学教師だっただけあって、とてもわかりやすく解説してくれます。巻末コラムには、地球の大きさを自分で測る方法や、水平線・地平線までの距離の計算方法も書かれていて、地球のスケール感も得られるようになっています。

 本書を読み終えたら、子どもと一緒に山や海へ、あるいはビルの展望台へ、地球が丸い証拠を見つけに行ってはいかがでしょうか。きっと、お子さんは「地球は丸い」ことを納得してくれることでしょう。親子でも楽しんでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

目次

はじめに

第1章    水平線がはっきり見えるということ

第2章    水平線の向こうの景色が沈んで見える

第3章    遠く離れると富士山が下がっていく

第4章    山に登ると地平線が下がる

第5章    太陽の道、月の道

第6章    空に地球の影が見える

第7章    南極と日本で月の模様が逆さになる

第8章    朝焼け・夕焼け・夜光雲・人工衛星

第9章    宇宙からの地球、距離と見え方の違い

コラム1    地球の大きさを測る

コラム2    水平線までの距離を計算する

著者紹介

武田康男(たけだ・やすお)

1960年、東京都生まれ。東北大学理学部卒業後、千葉県立高校教諭(理科)。第50次南極地域観測越冬隊員。気象予報士、空の写真家。日本気象学会会員、日本雪氷学会会員。現在、大学の客員教授・非常勤講師、講演、執筆、写真・映像撮影などをしている。著書に『楽しい気象観察図鑑』『世界一空が美しい大陸 南極の図鑑』『雪と氷の図鑑』(以上、草思社)、『雲の名前、空のふしぎ』『不思議で美しい「空の色彩」図鑑』(以上、PHP研究所)、『武田康男の空の撮り方』(誠文堂新光社)など。

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