草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

『バノン 悪魔の取引』「訳者あとがき」より:秋山勝(本書訳者) 『バノン 悪魔の取引』ジョシュア・グリーン 著 秋山勝 訳

バノン 悪魔の取引

―― トランプを大統領にした男の危険な野望

ジョシュア・グリーン 著 秋山勝 訳

 

バノンとトランプ、暗黙のうちに結ばれた「悪魔の取引」
 2016年アメリカ大統領選でヒラリー・クリントンを制し、ドナルド・トランプを第45代大統領に仕立てあげた男、スティーブ・バノン――本書は、トランプの元側近中の側近だった人物の正体とその桁はずれの経歴、またこの人物が奉じる危険で際どい思想を明らかにした1冊である。…ご一読いただければ、バノンとトランプとのそもそもの出会いや二人がどのような関係にあったのか、また暗黙のうちに結ばれた両者の盟約とは何かが了解していただけるはずだ。この点を了解していなければ、2017年8月18日のバノン退任の意味、そして2018年に起きた一連の騒動のいきさつや思惑をすんなりと理解することはできないだろう。

 

「アメリカの政治史上、もっとも危険な策謀家」
 著者のジョシュア・グリーンがバノンを知ったのは、原書が刊行される6年前の2011年初夏のことだった。当時、香港から帰国したバノンは保守系プロパガンダ映画のプロデューサーとして活動していた。…グリーンはひと目でバノンの存在感に圧倒された。…そうして書き上げた記事が「アメリカの政治史上、この男はもっとも危険な策謀家」である。 
記事は2015年8月8日、ブルームバーグ・ポリティクスに掲載された。…この記事をベースに、バノンや関係スタッフへの取材を改めて行い、さらにはトランプ本人とのロングインタビューを踏まえたうえで、投票日翌日の朝までの出来事が本書には書かれている。

 

主流メディアを手玉にとる巧妙な戦略
 バノンがトランプ陣営の選挙参謀に就任したのは2016年8月17日。11月8日の本選挙まで、その時点ですでに3カ月を切っていた。だが、ロバート・マーサーという奇矯な大富豪の支援を受け、トランプとは無関係な場所で反クリントンの包囲網はすでに周到に進められていた。トランプにすればまさに渡りに船である。注目すべきはそのメディア戦略だ。ブライトバート・ニュースと政府アカウンタビリティー協会(GAI)との連携、さらに主流メディアを手玉にとり、リベラルなメディアに反クリントンの記事を書かせる手口はまさにバノンならではのものだろう。そして、選挙資源を北中西部地域、すなわちラストベルトに集中させていく。民主党を見限った白人労働者を取り込むことで、劣勢にあった陣営の立て直しをバノンは見事に図った。

 

アメリカの政治史上かつてない逆転劇
 こうして、アメリカの政治史上かつてない番くるわせが実現する。当のアメリカ国民のみならず、世界中の誰もがその結果に息をのんだ。開票のさなか、トランプ陣営のスタッフが「やばいな。本当に大統領になってしまうぞ」と声を漏らすような衝撃である。その衝撃的な事実がなぜ起きたのか。本書を読まれたいま、それは偶然などではなく、起こるべくして起きた必然のなりゆきだと納得できるのではないだろうか。


アメリカを導いた〝影のナンバー2〟
 政権移行にともない、バノンも大統領の最側近としてホワイトハウス入りを果たす。任命された首席戦略官は新設ポストで、上級顧問としての権限は〝影のナンバー2〟である首席補佐官にほぼ匹敵した。ホワイトハウス在任は8月18日までと1年にも満たないが、この間、メディアとは激しく対立している。ニューヨーク・タイムズの電話インタビューに、トランプの勝利を予想できなかったメディアは口をつぐめと言い放つと、主流メディアは野党だと切り捨てた。「イスラムは世界最大の脅威」と叫び、「行政国家の解体」を宣言、パリ協定離脱へとアメリカを導いた影の中心人物こそスティーブ・バノンにほかならない。

 

「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」
「ホワイトハウスのラスプーチン」「バノン大統領」「トランプを操る男」などの異名をとったが、自身に抱いていたバノン本人のイメージはそうではないようだ。大統領選直後の2016年11月18日、エンターテインメント業界の情報誌ハリウッド・リポーターに対し、バノンは単独インタビューを許可している(このときのライターが『炎と怒り:トランプ政権の内幕』の著者マイケル・ウォルフである)。
「闇とはいいものだ。ディック・チェイニー、ダース・ベイダー、サタン、それは力だ」「私は白人至上主義者ではない。私はナショナリストで、経済ナショナリズムを信奉している」とバノンらしい言葉が続く。
記事の最後に発したひと言は「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」であった。

(抜粋)

著者紹介

ジョシュア・グリーン
1972年生まれ。ジャーナリスト。コネチカット大学卒業後、ノースウェスタン大学メディル・ジャーナリズム研究科で学位を取得、その後ワシントン・マンスリー、アトランティックの記者や編集デスクなどを経て、現在、ブルームバーグ・ビジネスウィークの上級通信員として国内問題を担当している。ボストン・グローブ、ニューヨーカー、エスクァイア、ローリングストーンなどへの寄稿のほか、Morning Joe(MSNBC)、Meet the Press(NBC)、Real Time with Bill Maher (HBO) Washington Week(PBS)などの番組にも定期的に出演している。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、デヴィッド・マカルー『ライト兄弟』、曹惠虹『女たちの王国』(以上、草思社)、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(以上、朝日新聞出版)など。

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日本の鉄道は特殊すぎて世界で役立つ場所が見つからない。 『日本の鉄道は世界で戦えるか 国際比較で見えてくる理想と現実』川辺謙一 著

日本の鉄道は世界で戦えるか
――国際比較で見えてくる理想と現実

川辺謙一 著

◆「世界一」というのは思い込みに過ぎない!?

 日本は、新幹線という世界で初めての高速鉄道を、1964年に実現した国です。日本の鉄道は、その後もどんどん便利になりました。毎年、新規開業や延伸があり、相互乗り入れや増発などでサービスが向上し続けたのです。ですから、日本人は「日本の鉄道は世界一」と、ごく自然に考えてきました。当然、新幹線の輸出もうまく行くはず、でした――。
 新幹線を含む鉄道の海外展開は、アベノミクス成長戦略における「インフラ輸出」の一環として重視されています。日本の鉄道は優秀だから、海外へどんどん輸出できて当然、と思っていた方も多いでしょう。でも、その割には海外から「引く手あまた」という状況にはないようですし、苦戦しているというニュースも耳にすることがあります。一体これは、どうしてなのでしょう。
 本書は、日本の鉄道の実力、特性の本当のところ、すなわち日本の鉄道の「立ち位置」を明らかにするべく、日英仏独米のおもに5カ国の鉄道を国際比較するものです。

◆世界の鉄道利用者の3割が日本! あまりに特殊な日本の鉄道

 本書の第1章の章題は「日本の鉄道は特殊である」。読み始めれば、今まで何の疑問もなく見てきた日本の鉄道が、世界のなかでは、あまりに変わった存在であることに驚かされます。
 たとえば、日本は鉄道利用者の数が極端に多い国です。世界中で鉄道を利用している人のうち、3割が日本の鉄道の利用者というほど。新幹線と他国の高速鉄道とを比べても同様です。日本の東海道新幹線では、1時間に10本を超える時間帯もあるほど高密度な運転間隔となっていますが、他国ではせいぜい1時間に1~2本程度。日本くらい高速鉄道の需要が大きな国はほかにないでしょう。
 本書を読み進めるうちに、「日本の鉄道は特殊すぎて、世界で役立つ場所が見つけられない」という現実が徐々に明らかになります。それだけでなく、その特殊性に気づかない国民は現状認識を誤って、鉄道に過大な期待を抱いており、そのことが鉄道関係者に大きなプレッシャーとなっていることもわかることでしょう。さらには、日本の鉄道の未来が、実は楽観できるものでないことも……。
 日本の鉄道は、日本で、そして世界で、どのように生き残っていけばいいのか? 鉄道ファンだけでなく、鉄道業界に身を置く方や、鉄道業界の将来に興味のある方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
(担当/久保田)

著者略歴

川辺謙一(かわべ・けんいち)

交通技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書は『東京道路奇景』『日本の鉄道は世界で戦えるか』(草思社)、『東京総合指令室』(交通新聞社)、『図解・燃料電池自動車のメカニズム』『図解・首都高速の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・地下鉄の科学』(講談社)、『鐡道的科学(中国語版)』(晨星出版)など多数。

目次

はじめに
第1章 日本の鉄道は特殊である
1・1 鉄道利用者数が極端に多い国、日本
1・2 なぜ日本で鉄道が特異的に発達したのか
第2章 日本の鉄道を海外と比較
2・1 英仏独米日の鉄道をくらべる
2・2 鉄道史をくらべる
2・3 鉄道の現状をくらべる
第3章 日本と海外の都市鉄道をくらべる
3・1 米英仏独日の都市鉄道をくらべる
3・2 都市鉄道史をくらべる
3・3 より具体的にくらべる
第4章 日本と海外の高速鉄道をくらべる
4・1 日英仏独米の高速鉄道をくらべる
4・2 高速鉄道史をくらべる
4・3 リニアとハイパーループによる高速化
4・4 より具体的にくらべる
第5章 空港アクセスと貨物の鉄道を国際比較
5・1 空港アクセス鉄道
5・2 貨物輸送
第6章 イメージと現実のギャップ
6・1 日本人は鉄道が好き?
6・2 日本の鉄道技術は世界一なのか
6・3 鉄道ができると暮らしが豊かになるのか
6・4 鉄道に対する認識のギャップ
6・5 認識のギャップが過剰な期待を生じさせる
第7章 これからの日本の鉄道と海外展開
7・1 鉄道の維持は難しくなる
7・2 鉄道が時代の変化に対応するには
7・3 鉄道の海外展開を成功に導くには
7・4 「競争」から「融合」へ
第8章 国際会議で見た日本の鉄道の立ち位置
8・1 第9回UIC世界高速鉄道会議
8・2 イノトランス2016
おわりに
参考文献

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「ギリシア哲学」の「ロゴス」が再び我々には必要ではないか 『こどもギリシア哲学』齋藤孝 著 オフィスシバチャン 絵

声に出して読みたい・こどもシリーズ
こどもギリシア哲学

―― 汝自身を知れ!

齋藤孝 著 オフィスシバチャン 絵

 中沢新一氏が最近提唱しているのが西洋的な「ロゴス」に対してインド的な「レンマ」という概念である。「群像」2月号から氏は「レンマ学」という連載を始めて一部で注目されている。内容はなかなか難解だが、要は西欧的「ロゴス」が行き詰った現代ではそれと対立する「全体を一瞬で把握する直観的」思考「レンマ」が必要だということだ。

 ここで対比されている「ロゴス」というのは「ギリシア哲学」由来の「ロゴス」である。本書でも紹介しているヘラクレイトスの「ロゴスに従え」という有名な言葉がある。ロゴスはただ「理」(ことわり)と表記されたり、理論、理性、言語であったりする。西欧哲学や自然科学の根幹にあるものという意味では、われわれの近代文明にとっては最重要な概念の一つであるはずだ。中沢氏はこれを批判的にとらえて、最新の物理学や量子力学では、ロゴスが描いてきた世界観では理解できない現象があるとして、「ロゴス」から「レンマ」の時代へと、もはや世界は移りつつあるとも言っている。相変わらず人を煙に巻くことが得意の氏だが、はたしてそれは正しいのだろうか。

 「ロゴス」という理性や理論、物事の筋道、論理的に考え、論理的に他者を説得する手続きなどは、古来日本にもあったとはいえ、西洋から意識的に学んだものの一つだ。小学生にも有用であり、本絵本シリーズでも、東洋的な「論語」の教えに次いで「ギリシア哲学」をテーマに据えた。むしろ「ロゴス」がいまだ確立していないことのほうが問題であり、「ロゴス」を小学生の時期から徹底的に教育することのほうが重要ではないかと思うのだが、いかがだろうか。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとうたかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『宮澤賢治という身体』(世織書房、宮沢賢治賞奨励賞)『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)など多数。近著に『語彙力こそが教養である』(角川書店)『こども孫子の兵法』(日本図書センター)『世界の見方が変わる50の概念』(草思社)など。NHK・ETV「にほんごであそぼ」企画監修など、マスコミでも活躍中。

オフィスシバチャン/絵

静岡県出身、東京都在住。グラフィックデザイナー、 Webデザイナーを経て、 フリーランスのイラストレーターとして独立。書籍、雑誌、広告をメインにイラストを制作。

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膨大な情報を頭の中でどう知性に変換すればいいのか? 『東大教授が教える知的に考える練習』柳川範之 著

東大教授が教える知的に考える練習

柳川範之 著

◆記憶することに能力を費やすのではなく、考えることに能力を使うべき時代

 現代において、人間は、自らの思考力をどのようなことに使うべきでしょうか。
いまや、ネットの爆発的な普及によって、誰もが大量の情報を簡単に手に入れることができるようになりました。単純な知識はネットで調べればすぐにわかるようになったので、覚えるためにわざわざ頭を使う必要が少なくなってきています。
 しかし、楽になった一方、あまりにも情報が簡単に手に入るようになったために、自分で考えたり、頭を使って工夫したりするクセがつきにくくなるという新たな弊害が生まれています。これはこの先人間を脅かすと言われる人工知能(AI)の急速な進捗が叫ばれ、変化が激しい今の時代に、大きな問題となっています。
 本書はこうした現状をふまえ、人間が「頭を使う」意義をあらためて問い直し、情報洪水時代の今だからこそ、自分の頭で考えることの重要性を説くものです。

◆「考えるとは情報を『調理』すること」「忘れてしまう情報は、どんどん捨ててかまわない」

 では、そもそも大量情報時代においてじっくり考えることとはどういうことなのでしょうか? たくさんの情報を使って何をすればいいのでしょうか? ……著者はこのような現代ならではの問題・疑問に答え、自らが実践する「頭の使い方」を具体的に紹介していきます。 
 本書の「知的に考える練習」を通じて、情報のたんなる受け売りではなく、どんな状況においても、自分自身の独自の考え、メッセージを頭の中から自由自在にアウトプットできる力が磨かれることは間違いありません。いわば、勉強においても、仕事においても、人生においても応用できる、あらゆる思考のもとになる「考える土台」が身につく本と言えます。
 本書は社会人はもとより、中学生や高校生でも十分読めるようにやさしい言葉で書かれています。ぜひ多くの方に知っていただければ幸いです。

(担当/吉田)

■目次より 
1章 情報洪水時代で変わる「頭の使い方」
2章 頭の中に質の良い情報が集まる「網」を張る
3章 知的に考えるための「調理道具」を揃える
4章 情報は流れてくるまま、流しっぱなしに
5章 頭に残った情報は熟成し、やがて知性に変わる
(小見出し)●考えるとは情報を「調理する」こと●考える土台を鍛えれば、より高度な思考が可能になる●入ってくる情報は絞らず、意図的に間口を広げておく●あがかないで機が熟すのを待つ●いかに違う情報同士を積極的にくっつけていくか●教養や歴史の本当の意義●絶えず視点を変え、頭を揺らす思考実験を…

著者紹介

柳川範之(やながわ・のりゆき)

1963年生まれ。東京大学経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤にともないブラジルへ。ブラジルでは高校に行かずに独学生活を送る。大検を受け慶応義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続ける。大学を卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。現在は契約理論や金融関連の研究を行うかたわら、自身の体験をもとに、おもに若い人たちに向けて学問の面白さを伝えている。著書に『法と企業行動の経済分析』(第50回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社)など。

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『間違いだらけのクルマ選び』刊行記念イベントを行います!

島下泰久トークイベント
「クルマの話をしよう!」

『2018年版間違いだらけのクルマ選び』(草思社刊)の刊行イベントとして、著者・島下泰久氏とモータージャーナリストの竹岡圭氏のトークライブを開催!

クルマのおもしろ話なら何でもアリの、ゆるめのトークを展開します。『間違いだらけ』執筆の裏話から、いま大注目のクルマ、今年期待のニューカーなどの話題のほか、来場いただいた方の疑問・質問にもガンガン答えて、積極的に脱線していきます!

金曜の夜、クルマ話に花咲かせる時間をお楽しみください。トークの後、著者サイン会も行います!

 

開催日時:2月2日(金) 19:30~21:00(19:00開場)

場所:フィアット/アバルト松濤 

   東京都渋谷区松濤2-3-13  http://tricoloretoto.com/

参加費:¥2,500円(書籍『2018年版間違いだらけのクルマ選び』+1ドリンク)

    ※書籍または電子書籍ご持参の方はドリンク代1,000円のみ

定員:50名

お申し込み・お問い合わせ 03-6804-9555(フィアット/アバルト松濤)

 

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なぜ零はゼロなのか。「霽れる」が「晴れる」より古くからあったのはなぜかなど、漢字の成り立ちを「雨かんむりの漢字」を例に多彩なエピソードを通じて解き明かす。 『雨かんむり漢字読本』円満字二郎 著

雨かんむり漢字読本

円満字二郎 著

 「霾」という漢字がある。雨かんむりの下に狸のような字形が描かれている(偏が豹の偏)。今、これを読める人は何人いるだろうか。音で「ばい」と読み、訓で「つちふる」と読む。中国北部のいわゆる黄砂が巻き上がる砂嵐のことだ。とくに冬から春にかけて、ゴビ砂漠など中央アジアからの偏西風に乗って北京の北から遠く日本海側まで吹き寄せてくる。最近では中国の劇的開発のあおりを受けて黄土の黄色い土だけでなく排気ガスや工業由来のスモッグまでも運んできて北九州あたりでは迷惑がられている。
 「霾」という漢字をタイトルに使った詩が三好達治にあるという。昭和14年刊行の『春の岬』という詩集に収められている。昭和13年に浅間山が大噴火したことも関係しているのか、浅間山をうたった詩だ。噴火による黄塵や噴煙のことをこの一字で表現している。
 「霾」という字が比較的知られているのは俳句の世界である。春の季語にもなっている。俳句をやる人には少しは知られているらしい。この「霾」が季語として採用されたのは比較的新しく大正時代ぐらいからだという。満州に日本人が開拓に出かけたころからで、満州俳壇でよく使われていたからだという。満州の土煙を舞い上げる風景を読んだ俳句に頻出するようになった。それ以後、「霾」という漢字はとんと使われないようになった。
 ところで作今の黄砂は激しく、その影響は韓国から日本全土にまで及ぶという。中國が大成長を遂げて、黄砂はますます猛威を振るい、本国北京では目も開けていられないひどさだという。再びこの字が人々の注目を集め、頻繁に使われる時代が来るのだろうか。それも嫌な時代だが。
 一つの漢字をめぐってもこれほどたくさんの話題や歴史がある。本書『雨かんむり漢字読本』は漢字うんちく学の格好の入門書である。

(担当/木谷)

著者紹介

円満字二郎(えんまんじ・じろう)

1967年、兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの担当編集者として働く。2008年、退職してフリーに。著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『数になりたかった皇帝 漢字と数の物語』(岩波書店)などがある。

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その地に家を建て実際に暮らす女性が体験した日々の新鮮な驚き 『女たちの王国 「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす』曹惠虹著 秋山勝 訳

女たちの王国

――「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす

曹惠虹 著 秋山勝 訳

ヒマラヤ山脈東麓、美しい湖のほとりの不思議な国

 シンガポールの中国系女性である著者は、世界有数のファンド企業の弁護士としてカリフォルニアとシンガポールを中心に、世界を飛び回るまさに企業戦士。が、その苛酷で競争的な男性原理のビジネス社会に疲れ果て、ある日辞表を出して仕事をやめてしまう。
 自由の身になった彼女の目にふと留まったのが、自らの父祖の地である中国の奥地にある「モソ」の社会。現在もなお「母系社会」が息づいているその秘境の集落に心吸い寄せられた彼女は、ヒマラヤ東麓のそのはるか彼方の地に赴き……そして本書のお話が始まるわけです。

家の中心はお祖母さん。その娘、その孫娘が代々受け継ぐ

 多民族国家中国には現在も55の民族が存在しているそうです。そのなかでも本書の舞台となった「モソ」の人たちは、雲南省と四川省とが接する地にある「ルグ湖」という美しい湖のほとりに暮らしています。人口は約4万人、農業を中心とする伝統的な社会ですが、近年はその地の風光明媚とめずらしい社会構造が話題となり観光地としても盛んになってきたようです。
 そのめずらしさが、純粋な「母系社会」であること。
 これは「父系社会」をひっくりかえしたような社会。お祖父さんが家長となり、その息子の長男、孫の長男が代々家長を継ぎ、お嫁さんはその「家」に嫁いでその一員となる。というのが父系社会ですが、モソでは、お祖母さんが家長となります。
そしてその娘、孫娘と家長を継いでいきますが、「長女」とは限らないそうです。家長にふさわしい女性が家の中心になっていきます。

「結婚」がない。「夫」とか「父親」の概念もない

 もっとも珍しいのは「結婚」という概念がないことです。男女の関係は「走婚」とよばれる自由恋愛で、いろんな相手と、ときには複数の相手との恋愛を楽しみます。そこで授かった子は、あくまで女性の子であり、その女性の家の子であって、「父親」が誰かは意識されないそうです。
 子はすべてその家の家族の一員として育てられ、その家族の一員として生涯を暮らしていくわけで、「他家に嫁ぐ」ということはありません。
 男性のほうは「自分の子」と意識することもなく、もちろん養育の義務もありません。しかし、自分の家の姉妹の子、つまり自分の甥や姪に対しては伯父・叔父としての責任と義務をもつ。立派な大人に育つように見守り教育していくのだそうです。
 つまり祖母を中心に、その娘や息子、そのさらに子どもたち、さらにまたその子どもたちがひとつの「家」として暮らしていくのが、モソの「家母制」とも呼ぶべき母系社会のあり方なのです。そこには「夫」とか「父親」という存在は入ってこないのです。
 ただし、これは規則でもなんでもなく、なかには一組の男女がいっしょに生涯を暮らすケースもあり、けっして強制された制度ではないことも面白い点です。

端正で落ち着いた女性たち、魅力あふれる男性たち

 さて、モソの女性はこのように家を支え、家族を支える存在ですから、みな毅然として落ち着き、静かな自信に満ちたたたずまいをしています。美人というより端正な顔立ちの人が多いそうで、ふだんは化粧したり着飾ったりもしないそうです。異性を相手に自分を美しく見せる必要がないからでしょうか。
 かたや男性はなぜか男前がそろっているそうです。女性が男性に求めるものは、健康で頑健な肉体と魅力的な容貌だといいます。「経済力」は求められません。家を支えるのは女性なので、男性には求められないのだそうです。
 もちろん男性も働きものぞろいで、いわゆる力仕事、農耕の仕事に家畜、狩猟なども彼らの仕事。家を建てたりの土木作業も男の仕事です。
 モソの社会に惹かれた著者は、ある日、モソの男性から「家を建ててここに住めばいい」と勧められます。それであっという間に立派な御殿のような木造家屋を建ててもらいました。建ててくれたのがその男性。口絵にもありますが、ジャッキー・チェンに似た男前でカウボーイハットを粋にかぶっています。
 身長は180センチを超える偉丈夫で、ちなみにDNAを調べさせてもらうと、なんと北欧にルーツをもつ遺伝子を持っているらしいこともわかったそうです。

われわれの社会常識をひっくり返して見せてくれる

 モソの地に家をもち、人びととともに日々を過ごしながら著者はこの母系社会を観察し、自らも体験していきます。地元の子どもたちの「義理の母」になったり、モソの名前をつけてもらい民族衣装を着て、伝統的な祭祀に参加したり。
すべてが新鮮な驚きに満ちていますが、すべてが諍いのない平和な日々に覆われていることにも驚かされます。
 自身がそこで暮らしての体験記だからこそ、モソの社会の魅力がしっかりと伝わってきます。この不思議な「女たちの王国」は、一方で、現在の私たちの社会のややこしい歪みを鏡のように照射してくれるようにも思います。ぜひご一読を。
(担当/藤田)

著者紹介

曹惠虹(チュウ・ワァイホン)

世界有数のファンド企業弁護士としてシンガポールとカリフォルニアの法律事務所で活躍したのち2006年に早期リタイア。現在、シンガポール、ロンドンを拠点に、英字新聞チャイナ・デイリーなどに旅行記を掲載している。2017年刊行の本書は英紙ガーディアン、ザ・ストレーツ・タイムズなどに取り上げられた。モソ人との生活はすでに6年におよび、1年の半分を雲南省の湖畔に建つ自宅で過ごすかたわら、急速に進む中国化の波から地元の農業を守るため社会的企業を展開している。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)

立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、デヴィッド・マカルー『ライト兄弟』、バーバラ・キング『死を悼む動物たち』(以上、草思社)、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(以上、朝日新聞出版)など。

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Amazon:女たちの王国「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす:曹惠虹 著 秋山勝 訳:本

楽天ブックス: 女たちの王国 - 「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす - 曹 惠虹 - 9784794223166 : 本