草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

覇権を失っても社会実験で世界をリードする欧州の実像

巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?―― 縮みゆく国々が仕掛ける制度イノベーション

国末憲人  著

◆右翼ポピュリズムの台頭に悩むEU 諸国

日本より早く低成長期を迎えたヨーロッパ各国。かつてほどの勢いはそこには見られません。グローバル経済への対応策としての統一通貨ユーロの導入やEUの誕生は、「右翼ポピュリズムの台頭」という激烈な副作用を起こし、伸びしろのない各国を悩ませています。

今年5月末に行われた欧州議会選挙でも、極右政党の躍進が報じられました。日々の報道からは、ヨーロッパにはネオナチ的な極右が跋扈するのだろうかと極端なイメージを持ってしまいそうな勢いです。

さて、実際のヨーロッパは、今どうなっているのでしょうか? フランスを中心に長らく欧州を取材してきたベテランジャーナリストによる本書は、断片的なニュース報道からは、なかなか見えてこないヨーロッパ、EUの現在を知る上で格好の情報源となっています。

近代以降、日本は常にヨーロッパに憧れ、欧州諸国をお手本にしてきました。かつての師匠の輝きはかなり薄れていますが、民主主義や人権、法による秩序といったお家芸の普及に関しては常に世界をリードし、そのための社会実験にも余念がありません。

◆選挙制度、人権など、制度のイノベーションに挑む

本書は欧州で現在進行中の様々な社会実験に横串を通して見せることで、欧州が得意とする制度のイノベーションのあり方、そして時にそれが世界ルールになってしまう「欧州のご都合」を浮き彫りにして見せます。

例えば、極右政党の台頭への対策としてフランスでは、選挙での当選議員の比率を男女で均等にするパリテ(男女同数)法を導入したり、選挙の候補者を 6 段階で評価する 「多数派診断法」の投票実験などが試みられています。

また死刑廃止に連なる人権意識の啓蒙活動、スペインやベルギーで積極的に試みられてきた他国の人権侵害を裁く「普遍的管轄権」も欧州ならではの思想が反映された取り組みです。

このほか最近では、世界的に需要のある原発の廃炉にもフランス、イギリス、ノルウェーが積極的に取り組み、代替エネルギーの主導権争いにも余念がありません。

あらたなシステムを作ることで制度のイノベーションを起こし、何かしらグローバルな影響力を行使しようと目論む欧州諸国。その老獪さに、日本は、追いつけるのだろうか? 読み終えたあとに、そんな問いが残る示唆にとむ一冊です。

(担当/三田)

著者紹介

国末憲人(くにすえ のりと)

1963年岡山県生まれ。1985年大阪大学卒。1987年パリ第2大学新聞研究所を中退し、朝日新聞社に入社。富山、徳島、大阪、広島勤務を経てパリ支局員、外報部次長、パリ支局長、GLOBE副編集長を務める。2014年7月より論説委員。著書に『サルコジ』(新潮選書)『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(同)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』(草思社)『イラク戦争の深淵』(同)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)など多数。

 

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