草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

中国の行動原理はいつも同じだ。著者の指摘は先見性に満ちている

鳥居民評論集 現代中国を読み解く

鳥居民 著

◆徐才厚、人民解放軍№2の逮捕を著者ならどう見たか

 7月初めに中国人民解放軍の元最高幹部、徐才厚の逮捕という衝撃的ニュースが流れました。ついに軍の中枢まで汚職の摘発は進んだかと思い、著者の鳥居民氏ならこれをどう読んだかと感慨深いものがありました。去年1月惜しまれつつ亡くなった鳥居氏はわが国有数の中国ウォッチャーとして半世紀以上にわたって中国国内の暗闘を解説してきました。その足跡の一端は1970年に刊行された『毛沢東 五つの戦争』(草思社刊、現在草思社文庫)をはじめ、近年の『「反日」で生きのびる中国』(同)などの著作で読むことができますが、2005年に産経新聞のコラム「正論」の常連寄稿家となってからは月二回ぐらいのペースで、相変わらずわかりにくい共産中国の国内の動きを長年の知識と独自の情報収集によって明快に解読してくれていました。多くの中国通識者も感嘆し、注目する重要な指摘に満ちたものでした。本書には死の直前2012年の11月までのコラムがまとめられていますが、これを読めばその連続した延長上に今回の大ニュースがあったことと、その意味が明らかになるはずです。

◆胡錦濤、習近平政権の権力闘争のターゲットは腐敗層、軍部、江沢民派など

 氏の著書『毛沢東 五つの戦争』では毛沢東の共産中国の行動原理を外交の常識や国際情勢とは切り離して、独自の国内事情から読み解くことの重要性を他に先駆けて指摘しました。中国ほど国内の権力動向や内政が外交よりも第一優先となる国はないという指摘です。『「反日」で生きのびる中国』(2004年)においても江沢民の「反日愛国主義教育」は日本を仮想敵として、国内の不満を抑え、団結を固めるために必要だったという指摘でした。それほどこの14億もの人口と巨大な国土を抱える国家の運営は難事で、常に権力者は疑心暗鬼だということです。(この指摘も著者が初めて国内で指摘したものです)。

 本書の第二章の最後に収められた月刊正論のエッセイ「尖閣危機でほくそ笑む国有石油会社と人民軍」に尖閣列島や南沙諸島への威嚇的な進出を進めているのは国有石油会社とその利権を有する人民解放軍であるという指摘がありますが、まさにここに中国政府のコントロールが行き届かない今日の問題点の一つがあるということです。江沢民以来の軍部優遇策により肥大化した人民解放軍は国家予算を食いつぶし、腐敗の温床になっているらしい。今回の逮捕はその打開の一歩となるのでしょうか。

◆資源小国、高齢化社会、大格差社会の中国を憂える

 著者は中国は資源小国であり(エネルギー資源が不足しており輸入に頼らなければならない)、あと十から二十年で高齢化社会になり(一人っ子政策のため子供が少ない)、役人社会のため利権による腐敗で超格差社会になっている(超金持ちが国外に資産を持ち出している)という認識でした。これを乗り越えるためにはどうするか。中国に残された時間は少ない。超高齢社会になり成長が鈍化する前に腐敗をなくし、格差を少なくし、突出する軍事予算の歯止めをかけることが必要であり、国際的な紛争を起こすことは考えられない、大きなレジームチェンジ(和平演変)は望まないであろうというのが著者の指摘です。

 本書を読むとその豊富な歴史知識と現実的な予測分析により、現代中国を読み解く力が読者に備わってくるはずです。

(担当/木谷)

著者略歴
鳥居民(とりいたみ)

昭和3年東京に生まれ横浜に育つ。横浜一中(現希望ヶ丘高校)卒。その後水産講習所(現東京海洋大学)をへて、台湾政治大学へ留学、独立運動に関わる。昭和40年代より著述をはじめる。中国現代史、日本近現代史、横浜郷土史などで多くの著作を残す。著書に『毛沢東5つの戦争』『周恩来と毛沢東』『横浜山手』『日米開戦の謎』『昭和二十年・既刊13巻』『原爆を投下するまで日本を降伏させるな』『横浜富貴楼お倉』『「反日」で生きのびる中国』『近衛文麿「黙して」死す』『それでも戦争できない中国』『鳥居民評論集 昭和史を読み解く』(いずれも草思社)『山本五十六の乾坤一擲』(文藝春秋)などがある。平成25年、心不全で急逝、享年84歳。

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