草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

肩は消耗品であることを知らない日本のプロ野球界に警鐘

プロ野球 最高の投手は誰か

工藤健策 著

昨今のプロ野球の話題は田中将大のメジャーでの快進撃と大谷翔平の球速162キロ越えだろう。メジャーでも通用する日本人投手の能力の高さは他の岩隈、ダルビッシュなどを見ても明らかで、同じ日本人としても誇り高い。ただし田中は7月初めに右ひじ靭帯の部分断裂で故障者リスト入りしてしまった。実はこの本で著者が力説していることだが、日本での酷使がたたったとの見方が多い。今の投手はカットボールやスプリットなどの細かく変化する変化球の多投で肩やひじに負担がかかり、昔よりも故障になりやすい。また大リーグでは常識である球数制限や投げ込み禁止などの科学的な身体管理が遅れていて、妙な根性論(意気に感じて連投に次ぐ連投といった美学)がいまだにまかり通っているため、その弊害も大きい。

 この本は日本プロ野球界に現れた過去現在の名投手25人を「最高の投手は誰か」という問題意識から、その力量や個性を著者自ら見聞したエピソードを交えて描いた人物列伝である。各投手の話の中で一番強く感じることは投手の肩は消耗品であるという一事である。ヤクルトの天才スライダー投手伊藤智仁の選手生命は、エゴイスト野村克也監督の酷使により一瞬にして燃え尽きたというエピソードが書かれているが、投手の適性を見極めない非科学的な酷使によって何人の名投手が選手生命を短くしたか。名投手物語とは肩の寿命との戦いの話であるとの思いを強くする。

 年間200イニング以下、1試合100球から110球まで、練習で300球の投げ込みなんてことはさせない、といった大リーグなら当たり前の管理(というよりお金を投資している分だけ大事にする精神)によって野茂も上原も黒田も選手寿命を延ばし40歳近くになっても投げることができた。

 いま危機にあるのは前田健太や吉見一起である、と著者は警鐘を鳴らしている。

 大谷の160キロ超えの速球も高校出たての若い投手のスピードボールへの傾斜を、由規や松坂の故障例を引いて警告している。

 本書は日本プロ野球界の名投手たちの美談の背後にある投手酷使のタブーに斬り込んだ「名投手残酷物語」として読んでも面白い。

著者略歴

工藤健策(くどう・けんさく)

横浜生まれ。明治大学卒業。ラジオ局に入社後、アナウンサー、ディレクターとして野球、ラグビー、サッカー等を取材。1989年度日本経済新聞・テレビ東京共催ビジネスストーリー大賞受賞。1992年度NHK「演芸台本コンクール」佳作入賞。 2012年度、東京千代田区主催 ちよだ文学賞受賞。著書に『プロ野球をここまでダメにした9人』『名将たちはなぜ失敗したか』『プロ野球 誤審の真相』『野村克也は本当に名将か』『プロ野球 球団フロントの戦い』(以上、草思社)、『江川の四試合』『がんばれ!! ニッポンプロ野球』『jリーグ崩壊』(以上、総合法令出版)、『信長は本当に天才だったのか』(河出文庫)など。

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