草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

戦後史観の見直しをも迫る重大証言

ルーズベルトの開戦責任――大統領が最も恐れた男の証言

ハミルトン・フィッシュ 著

渡辺惣樹 訳

◆慙愧の念から上梓された歴史的証言

そもそも国家間の戦争は、双方が正当と考える利害の衝突の最悪の結果として生じるものでしょう。しかしながら戦後七十年、先の大戦は「正義の軍隊(連合国側)」対「悪の軍隊(枢軸国側)」の戦いであったとする国際的なコンセンサスのなかで、日本は自らの利害の正当性を世界に向かって弁明することを許されず、のみならず日本自身がこの図式に則して戦前を振り返り、戦争を語るのをつねとしてきました。しかし、A・J・P・テイラーがその著『第二次世界大戦の起源』の序文で示唆するように、歴史は〝善悪〟などの(後付けの)道義性で判断されるべきではなく、事実をもって検証されねばならないはずです。

本書は米国大統領フランクリン・ルーズベルトの最大の政敵であった共和党の重鎮、ハミルトン・フィッシュ元下院議員が、第二次大戦への米国参戦に焦点を当て、一九七六年に上梓した回想記の全訳です。

フィッシュ氏は、非干渉主義の立場から米国の参戦に反対していましたが(当時の米国世論の八割強が戦争に反対)、日本の真珠湾攻撃の翌日に大統領が対日宣戦布告を求めて行った議会演説を肯定し、宣戦布告容認を訴えて熱弁をふるいます。対日宣戦布告直後の11日にドイツが対米宣戦布告、これでアメリカはヨーロッパの戦いに参戦します。ところがのちにフィッシュ氏は、大統領が実質的な対日最後通牒(「ハル・ノート」)の存在を議会や国民にひた隠しにしていたことを知り、日本の戦争回避努力を知って、自らの発言を深く後悔します。氏は大統領ら関係者の死後、本書を執筆。開戦に向けての大統領の策謀を詳述し、外交交渉によって避け得たかもしれない大戦にアメリカを導き、あまつさえヤルタ会談ではスターリンに譲歩を重ねて戦後冷戦構造をつくりだしたとしてルーズベルトの責任を厳しく追及したのです。ニューヨークの名門出身、第一次大戦では黒人部隊を指揮して戦い、政治家に転じてからは議会の中枢にあり、ヨーロッパ要路に幅広い人脈をもっていた有力政治家が、終戦から三十余年の沈黙を破って公にした、まさに歴史的証言です。

◆「初めに戦争ありき」だった米英指導者

本書を通じて日本人として何よりもおぞましく思うのは、ルーズベルトにとっての対日参戦は、本来の目的たる対独参戦の〝前段〟にすぎなかったという事実が浮上してくることでしょう。さかのぼれば、一九三九年、ポーランドがヒトラーのダンツィヒ返還要求を突っぱねた結果、ドイツのポーランド侵攻となり大戦の火蓋がきられたわけですが、ではなぜポーランドは強硬姿勢に固執したのか。フィッシュ氏はいくつもの根拠を挙げ、ポーランドの強気の背後にはルーズベルトとチャーチルの使嗾があったと解釈、冒頭で述べた戦後コンセンサスの基となった「大西洋憲章」もまた二人による戦争美化のプロパガンダであったと断じています(5章~14章で詳述)。すなわち英米指導者の意思は「何が何でも戦争」だったということであり、この事実は、従来の太平洋戦争史に強く見直しを迫るものです。それにしても、わが日本外務省はなぜ、米国内の戦争反対世論を日米衝突回避の外交に生かせなかったのか。米国大統領の開戦責任、ルーズベルトとチャーチルの参戦意思の背景とともに、いま一度鋭く考究されて然るべきテーマではないでしょうか。

著者略歴

ハミルトン・フィッシュ

1888-1991年。ニューヨークのオランダ系WASP(通称ニッカーボッカー)の名門に生まれる。祖父はグラント大統領政権で国務長官をつとめ、父は下院議員に選出された政治家一家。ハーバード大学卒業後、1914年、ニューヨーク州議会議員となる。第1次大戦では黒人部隊を指揮して戦う。帰還後の20年、下院議員に選出(~45年)。共和党の重鎮として、また伝統的な非干渉主義の立場から第2次大戦への参戦に反対するも、対日最後通牒(ハル・ノート)の存在を隠して対日参戦を訴えたルーズベルトに同調する議会演説を行なう。後にこれを深く後悔、戦後は一貫してルーズベルトの、ニューディール政策に代表される議会を軽視した国内政治手法とスターリンに宥和的な外交を批判し、大統領の開戦責任を追及した。

渡辺惣樹(わたなべ・そうき)

日本近現代史研究家。1954年生まれ。静岡県下田市出身。東京大学経済学部卒業。米英資料を広く渉猟、日本開国いらいの日米関係、とくに太平洋戦争開戦を新たな視点でとらえた著作を上梓し高い評価を得る。著書に『日米衝突の根源 1858-1908』『日米衝突の萌芽 1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞)『TPP 知財戦争の始まり』、訳書に『日本 1852』『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』『アメリカはいかにして日本を追い詰めたか』(いずれも草思社刊)がある。

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