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草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

可能なかぎり公正に描き出した「朝鮮の戦時動員」の実相。

外国歴史

検証 日本統治下朝鮮の戦時動員 1937-1945

米コースタル・カロライナ大学歴史学部准教授 ブランドン・パーマー 著/塩谷紘 訳

◆なぜ〝空白〟の研究領域となったのか

 本書に「序文」を寄せたマイケル・ロビンソン氏(米インディアナ大学歴史学部准教授)はそのなかで、四十年前に朝鮮研究のテーマを「李光洙」にすると決めたときの韓国人学者の反応について書いています。李光洙は日本統治時代に活動した優れた文学者・思想家ですが、戦後韓国では〝親日派〟の筆頭として槍玉にあがっている人物です。ロビンソン教授が自身の研究テーマについて複数の韓国の歴史学者に助言を仰いだところ、大半の人から「李光洙の書いたものは読んではいけない」、研究の対象にするだけの価値はないと告げられた由。本書の著者パーマー教授が「はじめに」で、「朝鮮における戦時動員の実態は英語圏の歴史文献からは完全に欠落している」、すなわち〝歴史の空白領域〟になっていると述べているのも宜なるかな。戦時動員を含めた統治史研究の分野が、海外の研究者の純粋な考究を阻む環境でありつづける所以の一端が垣間見られるエピソードです。

◆研究者の前に立ちはだかる壁

海外の研究者は言語のハンディキャップだけでなく、こうした頑迷な民族感情のハードルをも乗り越えねばならず、さらにその先には、扱う資料(とくに戦後の文献)が史実に即しているか否かを見極めるセンシティブな作業が待っています。本書巻末の「引用・参考文献」に載っているハングル文献を見ると、「日本帝国主義者による非人道的な朝鮮人動員と賃金搾取」『盗まれた国とさらわれた人々』等々、史実よりも「加害者=日本、被害者=朝鮮」の図式を前提とした内容であることがタイトルから容易に察せられるものが大半です。戦後の日本語文献も同様。しかも朝鮮大学校教員・朴慶植氏が一九六五年に書いた『朝鮮人強制連行の記録』のほか数えるほどしかない。ちなみに徴用・徴兵を言い換えて今や広く流布している造語「強制連行」は朴氏の著作で初めて使われたものです。これらを手掛かりに歴史の空白を埋めていく過程は、まことに困難なものであろうと推察されます。

◆総督府の弱さ、人々の主体的な選択――通説とは異なる実相

 パーマー教授はこのような厳しい研究環境のなか、日中戦争・太平洋戦争下朝鮮の戦時動員(志願兵制度・徴兵制度・労務動員=徴用)の実態を検証するという難題に挑み、英語・ハングル・日本語の膨大な資料を読み込み、ときに韓国系米国人指導教授とのあいだで意見の対立を見つつ博士論文(於ハワイ大学)を執筆、その論文をもとに本書を上梓しました。教授のこの研究は日韓のいずれかに与するためのものでないことは強調しておくべきでしょう。すなわち、あくまでも公正な視点からのアプローチだということです。そうやって得られた研究成果から見えてくる実相は、人的資源の育成や戸籍制度の整備が後れていた朝鮮総督府は動員に気乗り薄だったこと、戦況の悪化により動員やむなしとなると、まずは法律をととのえ、実施に際しては朝鮮の人々に協力と承諾を求めたこと、一方、朝鮮の人々は協力するか否かを自らの意思で積極的に決定できる立場にあったことなど、悲惨一辺倒で語られる「動員体験」とは明らかに異なります。ロビンソン教授は序文で、本書を「植民地研究の新しい潮流の訪れを象徴するもの」と評していますが、これを嚆矢として、事実に立脚した動員研究、統治史研究がいっそう進むことを期待してやみません。

(担当/A)

著者略歴

ブランドン・パーマー(Brandon Palmer)

コースタル・カロライナ大学歴史学部准教授。1970年生まれ。97年ブリガム・ヤング大学にて修士号取得(国際関係論)、2005年ハワイ大学マノア校にて博士号取得(朝鮮史)。著書に、ハワイ大学マノア校名誉教授ジョージ・アキタ氏との共著『「日本の朝鮮統治」を検証する 1910-1945』(Japan in Korea:Japan’s Fair and Moderate Colonial Policy(1910-1945)and Its Legacy on South Korea’s Developmental Miracle) 。2014年、同書および本書の研究成果により第1回「寺田真理記念・日本研究賞」(研究奨励賞)を受賞

塩谷 紘(しおや・こう)

ジャーナリスト。1940年生まれ。AP通信社勤務、リーダーズ・ダイジェスト誌日本版編集長、文藝春秋北米総局長を経て、フリー・ジャーナリスト活動を展開。訳書に『「日本の朝鮮統治」を検証する 1910-1945』『「幻」の日本爆撃計画――「真珠湾」に隠された真実』ほか。

 

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