草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

なぜ、「宗教」と「市場」は、ここまで台頭したのか?

すべては1979年から始まった ――21世紀を方向づけた反逆者たち

クリスチャン・カリル著 北川知子訳

過激なイスラム主義者台頭の源流をたどるリアルな現代史

「イスラム国(ISIS)」など、イスラム系過激派が世界中を震撼させています。でも、少なからずの日本人にとってイスラムは遠い世界。そもそもなぜ、こんなにイスラム主義者が活発に活動しているのか、という疑問が増している方もいるのではないでしょうか。

 ベテラン・ジャーナリストが書き下ろし、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙Best of 2013にも選ばれた本書は、その問いを解くうえでも必読の一冊となります。

 本書が描くのは1979年前後の世界情勢。その年、イギリスでは、サッチャーが女性初の首相に就任。中国では鄧小平が経済改革を開始。イランでは、ホメイニーが国王を追放し、イラン・イスラム共和国を樹立。ヨーロッパでは、初の東欧出身ローマ法王ヨハネ・パウロ二世が祖国ポーランドを訪問。年末にはソ連の軍事侵攻によってアフガン紛争が始まります。

文字通り、激動の1年ですが、当時、その意味を予見できた者はいませんでした。

 本書では1979年のこれらの出来事とその背景を詳細に描きながら、その年こそ、市場と宗教が60年代に大きな影響力を持った社会主義に替わって、社会を再び動かし始めた歴史の転換点であり、今日、21世紀の政治経済状況を形づくっていると論じます。「イスラム国」に代表される過激なイスラム主義者の活動もまた、その源流はアフガン紛争を契機に活発化したムジャヒディーン(イスラム義勇兵)やアル・カイーダへと行きつくのです。

◆日本にとっては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の年

 本書ではサッチャー、ヨハネ・パウロ二世らの4人が、市場あるいは宗教を重視した点を「反革命的」ととらえ、Strange Rebels(一風変わった反逆者たち)と呼びます。一見、無関係に見えるそれぞれが、実は「社会主義」が大きな影響力を持った60年代にピリオドを打つ点で共通していたことを浮き彫りにしていくさまは、ドキュメンタリー映画さながらの展開で、読む者を魅了します。

 著者クリスチャン・カリルは、ニューズウィーク東京支局長として東京に滞在していた5年間に本書の構想を練り、執筆しました。さて、1979年は、日本にとってはどんな年だったのか。本書冒頭の『日本語版に寄せて』から一部引用しておきます。

”1979年、アメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン アメリカへの教訓』が刊行された。日本がなぜ、第二次世界大戦後に脅威的な経済復興を遂げたのかを探究した名著である。副題が示すように、ヴォーゲルは日本企業の目覚ましい成功を通して、アメリカの読者に教訓を与えたいと考えていた。この頃、アメリカ人は長引く不況に苦しみ、自信を失っていた。過去百年の間、日本は欧米の先進国に追いつこうと懸命に努力してきたが、いまや立場は逆転したかに見えた。(略)

当時はほとんど理解されていなかったが、中国の新しい指導者、鄧小平は、日本に倣って強力に近代化を推進し、世界に門戸を開放したいと側近に語っていた。1978年に東京を訪れた際には、中国はまさに劇的な変化を遂げようとしているとほのめかしたが、日本側の誰もこの言葉を真剣には受け止めなかった。”――『日本語版によせてより』

(担当/三田)

著者略歴

クリスチャン・カリル/Christian Caryl 

ジャーナリスト。フォーリン・ポリシー誌寄稿編集者、ニューズウィーク元東京支局長。1984年イェール大学卒業。海外特派員として豊富な経験を持つ。ドイツ語、ロシア語に堪能。本書は初の著作。

訳者略歴

北川知子(きたがわ・ともこ)

翻訳者。奈良女子大学大学院修士課程(社会学専攻)修了。国立国会図書館勤務を経て翻訳業に従事。訳書に『ビジネスで一番、大切なこと』 (ダイヤモンド社)、『人類5万年 文明の興亡』(筑摩書房)、『スイスの凄い競争力』(日経BP社)ほか多数。

f:id:soshishablog:20150126104533j:plain f:id:soshishablog:20150126104544j:plain

Amazon.co.jp: すべては1979年から始まった: 21世紀を方向づけた反逆者たち: クリスチャン カリル, Christian Caryl, 北川 知子: 本

楽天ブックス: すべては1979年から始まった - 21世紀を方向づけた反逆者たち - クリスチャン・カリル - 4794221029 : 本

すべては1979年から始まった | 書籍案内 | 草思社