草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

戦国合戦は地形、道路などから見ないと分からない

戦国合戦 通説を覆す

工藤健策著

本書は「信長は本当に天才だったのか」(草思社刊)などの著作がある工藤健策氏の書き下ろし新著である。もともとスポーツアナウンサーであり、プロ野球などに関する著作が多い氏は、また熱心な歴史マニアであり、年来多くの資料を読み込んだり、マイカーを走らせて歴史の現場を訪ねたりしていた。氏が疑問に思っていたのは歴史学者がなぜ現場を踏み、実際に起こったことをリアルに推理しないのかということだった。とくに戦国時代の合戦は、何千、何万という人数の敵味方に分かれての戦いであり、そこには移動、補給、武器、糧秣といった軍事なら当然考えられるべき要素があるのに、従来の記述では十分に考察されているとは思えない。本書は従来の歴史記述にもう少し理数的観点、リアルな考察、常識を当てはめてみるとどうなるかを試してみた、理数的歴史マニアならではの八大合戦の推理である。

◆秀吉は毛利攻めからなぜすぐ戻れたのか

本能寺の変を知った秀吉の電光石火の帰還と光秀打倒は見事な権力掌握の結節点だったが、六月二日朝に起こった信長討ち死にが知らされたあと、230キロ離れた岡山から二万の軍勢が戻って、六月十三日にはもう山崎(京都大阪の境)で光秀を打ち果たしている。こんなことは可能だろうか。信長の死の知らせはまずどのようにもたらされたか。通説では光秀から毛利への使者が秀吉陣営に間違えて入り捉えられたことでことが発覚したとなっているが本当だろうか。著者はまず当時の秀吉が信長の不興を買うのを恐れて各所に情報網を張り巡らせていたはずと推理し、その一つから翌日には信長横死の事実をつかんだと考える。また信長は道路政策がすすんでおり、行く先々の道路を整備させていた。この結果、岡山から山崎までの大軍移動は稀に見る速さとなった。この事情を解明する著者の手さばきは実に見事であり説得力がある。

◆真田幸村の家康本陣への突入経路と家康の逃げ方

 本書の圧巻は最終章の真田幸村の章である。ご存知のとおり真田幸村は今でも人気の高い武将であるが、戦国時代最後の合戦大坂夏の陣で討ち死にした。徳川家康の本陣まで数騎で突撃して後一歩で取り逃がした逸話は大いに喧伝されている。著者は家康を震え上がらせた奮戦を推理し、家康の逃走方向が奈良街道方向だったことに着目している。西の方にいた伊達政宗勢の裏切りを疑ったためであり、本陣突入も伊達の配慮があったと推理する。後一歩で歴史はかわっていたかもしれないと考えると興味は尽きない。通説を疑い、リアルに推理していく本書は歴史マニアには堪えられない面白さである。

(担当/木谷)

著者略歴

工藤健策(くどう・けんさく)

横浜生まれ。明治大学卒業。ラジオ局に入社後、アナウンサー、ディレクターとして野球、ラグビー、サッカー等を取材。1989年度日本経済新聞・テレビ東京共催ビジネスストーリー大賞受賞。1992年度NHK「演芸台本コンクール」佳作入賞。2012年度東京千代田区主催ちよだ文学賞受賞。『信長は本当に天才だったのか』『プロ野球 誤審の真相』『プロ野球  球団フロントの戦い』『プロ野球 最高の投手は誰か』(以上、草思社)、『Jリーグ崩壊』(総合法令出版)、『小説安土城炎上』(PHP文庫)など多数。

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