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草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

原発問題も電力問題も、もはや日本国内だけの問題ではない

社会・教育

日本電力戦争――資源と権益、原子力をめぐる闘争の系譜

山岡淳一郎著

◆電気が止まるとその社会は立ち尽くしてしまう

 2011年「計画停電」の夜、街は巨大な暗闇の塊となって横たわっていた。その底に数十万の人たちがじっと息をひそめていると思うと何かうそ寒いものを感じた。現代の社会は電気が止まると機能しなくなる。改めて、というか実体験としては初めてその現実を思い知らされたものである。

社会を支えるのは食糧と燃料である。燃料、つまりエネルギー供給の最大のものが電力だろう。では誰がその安定供給をコントロールしているのだろうか。誰がどのようにして複数ある電源を組み合わせ、途切れることのない供給システムを組み上げているのか。

◆電力供給のシステムがその国の「かたち」を決める

 電力を支配するものは、一国の生殺与奪の権を握るともいえる。まさに国の「かたち」を決める根幹になるものであり、そこでじつに様々な力と欲望が激しくぶつかりあっている。

ことは日本国内だけではない。輸入に頼るほかない日本は、売り手からすれば極上の顧客である。自国の戦略のなかにいかに日本を組み込んでいくか、恐ろしくタフでハードな交渉が大渦を巻いている。本書はそれらを「電力戦争」と名付けた。

◆「官」と「民」、「統制」か「市場」か、の繰り返される争い

 まず日本国内の闘争である。明治半ば、銀座にアーク燈がともって以来、「官」と「民」は繰り返し支配権をめぐって争ってきた。「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門は、官僚を「人間のクズ」とこき下ろし官の支配に抗うが、戦時体制において電力は国家総動員に合わせて国家管理となる。そして敗戦、GHQがこれを解体、分割民営化され現在につながる。

◆「原子力の平和利用」をめぐる国際的な争い

 一方、中曽根康弘らが原子力の研究開発予算を提出。原子力委員会が設立され、正力松太郎が委員長の座に就く。田中角栄も独自の資源外交でウランのルートに足を踏み入れる。「原子力の平和利用」としての原発が誕生する。日本の電力は、水力から火力、原子力へと拡大していくが、そこには奇怪に絡み合った官・民の果てなき闘争が存在している。

 原発はいま廃絶か継続かの争点で激しく論じ合われている。しかしこれは日本国内だけで完結する問題ではない。いま一つの闘争は、国際的な「原子力ムラ」の権益争いである。それは「核」の問題であり、エネルギー安全保障の問題あり、国際ビジネスの問題でもある。

◆「原発輸出ビジネス」が意味するものとは

 昨年秋、日本はトルコと「原発輸出」を正式合意した。福島事故の収束も見えず、原発が停止している状況でなぜ「原発輸出」なのだろうか。詳細は知らないが、輸出原発にはメインテナンス(いつまで?)と事故時の補償という負担があるのではないか。万が一の「事故補償」はいったいどのくらいの規模になるのか。福島でもいまだ見えない状況なのに。

 一方、米国の原子力企業であるウエスティングハウスとGEは東芝と日立に吸収、提携というかたちで姿を消したかのように見える。原発の輸出は日本の産業となり日本の利益になるのかもしれないが、どうやら重要なパテントはウエスティングハウスとGEが押さえたままだという。

 つまり原発輸出においてリスクは日本が背負い、美味しい部分はやはり米国がいただくということではないのか? かつての欧米「植民地」のやり方を思い出さずにはいられない。

◆エネルギーをめぐる資源大国の争い、「顧客」としての日本

 電力をめぐる見えない権益闘争は、日本国内の争いを超えて国際規模に深くその根を張りめぐらしている。東日本大震災から4日しかたたないうちに、あるルートを通じてプーチンから天然ガス等についての中長期的な話し合いを、というオファーがあったという。

 エネルギー貧国日本はまた世界最高値でエネルギー資源を(大量に)買い入れる「お得意さま」でもある。大震災後に言い寄ってきた国はロシアだけではない。資源というカードを持つ国々は、自国への利益誘導という思惑を懐にさまざまなアプローチをかけてくる。その背後には、国を超えた国際的な資源ネットワーク、シンジケートも存在しているという。

◆日本のエネルギー戦略はどこに向かっているのか

 本書は「日本の電力」の背景に蠢く、国内の支配権闘争、国際的な資源帝国主義とも呼ぶべき激しい大渦の実相を詳細に解析していく力作である。

 あまりに複雑かつ多様なエネルギー資源の争奪戦において、日本はしたたかな戦略を展開して自国の生命線を確保できるのか。日本の電力安定供給は自律的にコントロールされているのだろうか。

現状を検証した著者は、それを「海図なき航海」ではないかと嘆息する。

 シェール革命、原油価格下落、さらに中東やロシア、EUをめぐる不安定な国際情勢のなか、感情論ではなく現実的な日本の生命線=エネルギー政策を考える必要がある。本書はそのために必須の情報が密度濃く詰め込まれている必読の基本図書であろう。

(担当/藤田)

著者略歴

山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。東京富士大学客員教授。「人と時代」「21世紀の公と私」を共通テーマとして、近現代史、政治、経済、建築、医療など分野を超えて旺盛に執筆。著書に『田中角栄の資源戦争』『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『あなたのマンションが廃墟になる日』『亀井静香 支持率0%の突破力』(いずれも草思社)、『成金炎上 昭和恐慌は警告する』(日経BP社)、『国民皆保険が危ない』(平凡社新書)、『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)、『原発と権力』『インフラの呪縛』(いずれもちくま新書)、『放射能を背負って 南相馬市長・桜井勝延と市民の選択』(朝日新聞出版)、『気骨 経営者土光敏夫の闘い』(平凡社)ほか多数。

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