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草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

重罪人は火あぶり、牛裂、釜煎。減刑されても、耳そぎ鼻そぎ。

江戸時代の罪と罰
氏家幹人 著  

◆残酷時代を経て、将軍吉宗による減刑化の時代へ

 江戸時代の刑罰といえば、磔や打ち首、獄門などが思い浮かびますが、戦国時代の気風残る江戸初期には、さらに過酷、非情な、想像を絶する処刑法が、全国各地で執行されていました。罪人の手足を二頭ないし四頭の牛につなぎ、牛をそれぞれの方向に走らせて罪人の身体を引き裂く「牛裂(うしざき)」、油や湯を沸騰させた大釜に罪人を放り込む「釜煎(かまいり)」など。また、罪人の家族・親族というだけで、幼児までもが処刑(縁坐の刑)されていたというから、言葉もありません。さらには、大名自らが刀の切れ味を見るために、幕府から罪人を貰い受け、試し斬りしていた事実。

 しかし、これほど惨い仕打ちをしていて、よいものか。統治者としての仁慈を民に示すべきではないか。そんな声が、江戸中期ごろより、幕府、諸藩の良識者の中から聞かれるようになります。その代表格が、徳川八代将軍・吉宗です。

 吉宗は、刑罰基準や重要判例などを網羅した『公事方御定書』を編纂し、拷問乱用の禁止、従来は死罪だった密貿易の罪を遠島、耳そぎ鼻そぎに減刑するなど、刑罰改革を断行(耳鼻そぎは吉宗なりの温情だった)。諸藩も、吉宗の方針に従い、極力減刑化していこうと努めます。江戸時代の刑罰の残忍な面を紹介するだけでなく、為政者たちの改革への努力に着目している点に、本書の良さがあります。

◆武士の辻斬りは武勇の証

 ところで、本書では、江戸初期の残忍な気風の顕著な例として、武士の人斬り習俗についても紙幅が割かれています。往来を歩く庶民を、武士が衝動的に一刀両断。そんな馬鹿なことが、現実にあった。決して珍しくなかったというのです。

 戦国時代を生き抜いてきた猛者たちにとって、泰平の江戸時代はある意味でなんとも過ごしにくい時代だったようで、たとえ実戦から遠ざかっても、せめて人を斬る感触を忘れないでいることが、武士であり続ける証。そんな思いで、庶民を斬る。中には常習的に斬る輩もいたようです(武士が武士を斬るのは憚られたとのこと)。

 こんな話があります。伊予松山藩や米沢藩では、正月の祝い膳に浅漬を一切れ添えた。なぜか。それは「一切れ」が「人斬れ」に通じる、ということで、武門にとって目出度い、というわけ。本気でそう信じているところが、現代人には想像を絶します。本書では人斬り習俗に関して、水戸黄門こと徳川光圀の若かりし頃の人斬り体験、南方熊楠が語る辻斬りの歴史、千人斬り文化論など、興味深い話が沢山紹介されています。

◆小伝馬町牢屋敷の内部が明らかに

 さて、本書の後半では、時代劇などでおなじみの江戸小伝馬町の牢屋敷の内情が詳細に解説されています。囚人のリーダーである牢名主の指揮による自治制度、身分・性別に応じた牢獄の部屋割り、先輩囚人による新入りへのしごき(&リンチ)、囚人の等級別食事メニュー、牢屋のトイレの厳格すぎる使用法など、娑婆とは全く異なる独自の文化には、興味をそそられることでしょう。また、火災時の囚人の緊急釈放の様子、恩赦の制度なども興味深い。

 ここではひとつ、本書より具体的にご紹介します。吉田松陰の獄中レポートです。
 松陰は、嘉永七年(一八五四)、下田に再来航した米国船で海外密航を企てて失敗し、小伝馬町の獄舎に入牢、半年間を獄中で過ごします。その時の牢内の様子を『江戸獄記』等にしたためています。日照や風通し悪く、疫病や疥癬などの皮膚病が蔓延、重病人や死者多数、等々、詳細な記述がなされていますが、面白いのは、松陰が獄舎入りする場面。牢内に入ると、松陰は服を脱がされ、牢名主から「きめ板」と呼ばれる板で背中を殴打され、「よくきけ、牢内で無事に過ごすための金をいくら持っているか」と迫られる。松陰「一銭も持たぬ」牢名主「お前、命が惜しくねえのか」……と問答が続き、松陰が入牢した経緯(米国渡航を企図した罪)を告げると、牢名主以下囚人一同、驚愕、感動の嵐!!(重罪人ほど崇敬された)……その後松陰は牢名主代理にまで昇進し、まずまず快適な獄中ライフを送ったのだとか。

 本書は、法令集などの古文書の現物や各種絵図、約三十点を収載しているので目でも楽しめますし、史料の生の声を届けるべく原文を極力紹介しつつも、原文の意訳や解説が非常に丁寧になされているので、理解しやすい内容になっています。本テーマに関心のある方だけでなく、日本人の歴史の一端を知りたい方にも、ぜひご一読いただきたい一冊です。

(担当/貞島)

 著者略歴

氏家幹人(うじいえ・みきと)

一九五四年福島県生まれ。東京教育大学文学部卒業。歴史学者(日本近世史)。江戸時代の性、老い、家族を中心テーマに、独自の切り口で研究を続けている。著書に『かたき討ち 復讐の作法』『江戸人の性』(いずれも草思社文庫)、『江戸藩邸物語』(中公新書)、『武士道とエロス』(講談社現代新書)、『江戸人の老い』(PHP新書)、『江戸の少年』(平凡社ライブラリー)、『サムライとヤクザ』(ちくま文庫)、『不義密通』(洋泉社MC新書)、『旗本御家人』『幕臣伝説』(いずれも洋泉社歴史新書y)などがある。

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