水危機を乗り越える!
――砂漠の国イスラエルの驚異のソリューション
セス・М・シーゲル 著 秋山勝 訳
◆日本は「水」の輸入大国だった!
「水ストレス」という言葉があります。人びとが利用できる水の量が減り、日常生活に不便を感じる状態を表す言葉。世界的な水不足が進行するなか、きわめて高い水ストレスに直面している国は37か国もあるといいます。
じつは日本も「水ストレス・高レベル」の国なのです。「水と安全はタダ」「湯水のように遣う」などといわれる、人口の100%が安全な水を利用できる日本が?
意外かもしれませんが、問題は食糧です。食糧自給率が40%を切る(カロリーベース)という日本が輸入する大量の食糧(農畜産物)の生産には、大量の水が必要です。バーチャルウォーター(仮想水)と呼ばれるこの水を換算すると、日本は世界有数の水輸入国だというのが現実です。世界の水危機はけっして対岸の火事ではないのです。
◆人口増大が水危機を加速させている
2025年には世界人口のじつに3分の2が水不足に直面するという予測もあります。現在、加速している水危機は、温暖化などによる気候変動、そして何よりも人口の増加が引き起こしているといわれます。
世界の人口は毎年8000万人ずつ増加しており、これにともなって水の需要が毎年640億㎥ずつ増加するという試算があります。人口が増え、生活水準が高まっていけば、食糧生産や工業生産が増大し、それは水を含めた資源への負荷がさらに増大することを意味します。
ジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』(草思社刊)で指摘されているとおりのことが、いままさに地球規模で加速的に進行しつつあるのです。
◆21世紀は水をめぐる戦争の時代
水資源の枯渇は、当然のようにその争奪戦を生み出します。20世紀は「石油」をめぐる戦争の時代だったが、21世紀は「水」をめぐる戦争の時代になる――と、世界銀行元副総裁のイスマイル・セラゲルディン氏は1995年の時点で述べています。
国境を越えて流れる大河川の水資源分配をめぐり、世界各地で紛争の火種がくすぶっています。たとえばナイル川流域のタンザニア、エチオピア、エジプト。ヨルダン川をめぐるイスラエル、ヨルダン、パレスチナ。チグリス・ユーフラテス川とトルコ、シリア。インダス川とインド、パキスタン。メコン川をめぐっての中国と東南アジア諸国――。
◆砂漠の国は、どうやって水危機を乗り越えたか?
この水危機を乗り越えるにはどうすればいいのか?
日本もまた問題解決のための高度な技術をもっていますが、注目すべきなのが、国土の60%が砂漠というイスラエルです。イスラエルはさまざまなイノベーションを積み重ねて水問題を克服、いまでは豊かな水の国を実現しています。
本書は、イスラエルで建国以来、連綿と続けられてきた「水」に対する多様な手法やシステム、技術革新を詳細に紹介、さらにグローバルビジネスをも構築してきたその軌跡を分析したものです。
節水、再生水、海水淡水化。あらゆる方法で、あらゆるところから水を絞り出していくのがイスラエルの手法。
たとえばシムハ・ブラスという人が開発した「点滴灌漑」によって農耕地灌漑に使用される水の量が大幅に抑制されました。さらに、少ない水量で生育する品種を改良、また塩分を含む地下水でも育つ作物を生み出すなど、「限られた水」を最大限に利用しつくすさまざまな技術が産み出されています。
◆水を生み出すシステムが、グローバルビジネスをも生み出す
また廃水のリサイクルシステム。棄てられていた水から再生水を生み出すのみならず、その行程でさまざまな汚染物質(医薬品などの残留物もふくむ)を取り除き、水資源の汚染をも軽減させています。さらに無尽蔵にある「海水」の淡水化システム。巨大な淡水化プラントは、大量の水を生産すると同時に、その技術を輸出することで巨大な水ビジネスの市場をも生み出しているのです。
21世紀世界の難問である「水危機」をいかに乗り越えるか。その解のひとつを、この砂漠の国が示しています。日本ではまだあまり知られていない、イスラエルの水問題への取り組み、その斬新なイノベーションの数々は多くの示唆に富んでいます。
全米ベストセラー、M・ブルームバーグ氏やT・ブレア氏などが強く推奨する、まさにいま必読の一冊です。
(担当/藤田)
著者紹介
セス・М・シーゲル
1953年、ニューヨーク市生まれ。コーネル大学卒業後、ヘブライ大学で国際関係学を専攻。その後、コーネル大学法学院で法務博士号を取得。弁護士、起業家、アクティビスト。水資源、国家安全保障、中東問題をテーマにニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルをはじめ、ヨーロッパ、アジアのメディアに数多く寄稿するほか、フォーリン・アフェアーズ誌を刊行する外交問題評議会の会員である。
訳者紹介
秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、バーバラ・キング『死を悼む動物たち』、ジョン・ゲヘーガン『伊四〇〇型潜水艦 最後の航跡』、ティム・ジューダ『アベベ・ビキラ』、ジョージ・サイモン『他人を支配したがる人たち』(以上、草思社)、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』、ゲイル・カーリッツ『アメリカの中学生はみな学んでいる「おカネと投資」の教科書』(以上、朝日新聞出版)など。
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