声に出して読みたい旧約聖書<文語訳>
齋藤孝 著
いま世界は一神教同士の戦いで紛糾している。
旧約聖書は新約聖書と対になるキリスト教の聖典と受け取られているが、実はユダヤ教の聖典でもあり、イスラム教の聖典(啓典とも言う)の一つでもある。世界の大宗教の源流となっているだけでなく、十字軍以来何かと火種となっているキリスト教とイスラム教の対立が同じルーツから出ていることがわかる。どうも互いに相手を認めない一神教の苛烈さがテロなどの騒動の一因ともなっているらしい。
日本というある種ぬるま湯的環境にいてはわからない対立の厳しさは旧約聖書を読むことで少しは理解できるようになるだろうか。
確かにこの文書は人類の最も古い記録文書の一つであり、ひどい苦しみを生き延びてきた民族の歴史である。ユダヤ民族の苦難の歴史を書き留めたさまざまな文書から構成され、紀元前400年頃に成立したと言われるが、それ以前、天地創造から始まる2500年間ぐらいの歴史がつづられている。
神によって理不尽とも言える試練を与えられながら、戒律によって神と契約を結び、聖地エルサレムへ帰還を果たすユダヤ民族。大洪水に遭ったり(ノアの箱舟)、大火災に遭ったり(ソドムとゴモラ)、奴隷として連行されたり(バビロン捕囚)、これでもかこれでもかというぐらい、まことに悲惨で不条理な神による試練の連続である。
これを読んでいると、なぜか現代の不条理さも少しは納得できるような気になってくるから不思議である。残酷で意味のないことに耐えるということが人間の要諦なのだということらしい。本書は長くて読みにくい、旧約聖書を理解するために、著者が巧みにダイジェストした絵入り、図入りの便利な本としておすすめしたい。
(担当/木谷)
著者紹介
齋藤孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。『宮沢賢治という身体』(世織書房、宮沢賢治賞奨励賞)、『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)、2001年刊行『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)は続篇(第6巻まで刊行)、関連書をあわせて260万部を超えるベストセラーとなっている。「声に出して読みたい日本語」の古典教養シリーズに『論語』『親鸞』『志士の言葉』『古事記』『新約聖書〈文語訳〉』『禅の言葉』がある。近著に、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『語彙力こそが教養である』 (角川新書)など多数。
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