草思社のblog

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なぜ零はゼロなのか。「霽れる」が「晴れる」より古くからあったのはなぜかなど、漢字の成り立ちを「雨かんむりの漢字」を例に多彩なエピソードを通じて解き明かす。 『雨かんむり漢字読本』円満字二郎 著

雨かんむり漢字読本

円満字二郎 著

 「霾」という漢字がある。雨かんむりの下に狸のような字形が描かれている(偏が豹の偏)。今、これを読める人は何人いるだろうか。音で「ばい」と読み、訓で「つちふる」と読む。中国北部のいわゆる黄砂が巻き上がる砂嵐のことだ。とくに冬から春にかけて、ゴビ砂漠など中央アジアからの偏西風に乗って北京の北から遠く日本海側まで吹き寄せてくる。最近では中国の劇的開発のあおりを受けて黄土の黄色い土だけでなく排気ガスや工業由来のスモッグまでも運んできて北九州あたりでは迷惑がられている。
 「霾」という漢字をタイトルに使った詩が三好達治にあるという。昭和14年刊行の『春の岬』という詩集に収められている。昭和13年に浅間山が大噴火したことも関係しているのか、浅間山をうたった詩だ。噴火による黄塵や噴煙のことをこの一字で表現している。
 「霾」という字が比較的知られているのは俳句の世界である。春の季語にもなっている。俳句をやる人には少しは知られているらしい。この「霾」が季語として採用されたのは比較的新しく大正時代ぐらいからだという。満州に日本人が開拓に出かけたころからで、満州俳壇でよく使われていたからだという。満州の土煙を舞い上げる風景を読んだ俳句に頻出するようになった。それ以後、「霾」という漢字はとんと使われないようになった。
 ところで作今の黄砂は激しく、その影響は韓国から日本全土にまで及ぶという。中國が大成長を遂げて、黄砂はますます猛威を振るい、本国北京では目も開けていられないひどさだという。再びこの字が人々の注目を集め、頻繁に使われる時代が来るのだろうか。それも嫌な時代だが。
 一つの漢字をめぐってもこれほどたくさんの話題や歴史がある。本書『雨かんむり漢字読本』は漢字うんちく学の格好の入門書である。

(担当/木谷)

著者紹介

円満字二郎(えんまんじ・じろう)

1967年、兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの担当編集者として働く。2008年、退職してフリーに。著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『数になりたかった皇帝 漢字と数の物語』(岩波書店)などがある。

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