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西郷は「肚」(はら)ができていた。「肚」はどう作るか。 『声に出して読みたい・こどもシリーズ こども西郷どん』齋藤孝著 平井きわ絵

声に出して読みたい・こどもシリーズ こども西郷どん

齋藤孝 著 平井きわ 絵

 西郷隆盛は身体が大きかった。180センチ、110キロぐらいあったらしい。当時の日本人としてはかなり大柄だ。日本人男性の平均身長が160センチ以下だった時、180センチというのはかなり大きい。西郷は大きな男だったというのはこの肉体的な大きさを言うことと同時に、精神的な大きさも言うことが多い。大らかな慈愛に満ちた心、包容力、志を持った高潔さ、そして何事にも動じない肚のすわった意志力や勇気である。
 最後の「肚がすわった男」というのがあまり作今言われない徳の一つである。齋藤孝先生は目指すべき人間の人格として、論語などに倣って「知・仁・勇」ということを言っている。これに身体の各部所を当てはめ、「頭」に手を当てて「知」、「胸、心臓」に手を当てて「仁」、
「腹、肚」に手を当てて「勇」と覚えなさいと、生徒に指導している。この三つの徳が備わった人間を目指すというのが日本の伝統的な修養なのだが、なかでは「腹、肚」に宿る「勇」という徳が現代では一番忘れられているのではないだろうか。
 西郷の体現している理想の人間像はまさに「知・仁・勇」なのだが、最後の「肚がすわった」「勇気のある」人間というのは、いちばんわかりにくいし、実現しにくい。
「肚」(はら)という字が忘れられているように、知性(知)や他人への優しさ(仁)などはわかるが、西郷のような「肚のすわった器の大きな男」(勇)は現代日本にいるのか。
 パワハラやセクハラなどが昔より厳しく問われ、コンプライアンスに戦々恐々としている現代社会では、そういう人徳は育ちにくいかもしれない。作今の政治家や役人や企業経営者などの顔を思い出せばそれがよくわかる。
 人間の「肚」をどう作るかがこの本(『こども西郷どん』)のテーマの一つである。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)など多数。近著に『語彙力こそが教養である』(角川書店)『こども孫子の兵法』(日本図書センター)『こども論語』『こどもギリシア哲学』(いずれも草思社)など。NHK・ETV「にほんごであそぼ」監修など、マスコミでも活躍中。

平井きわ(ひらい・きわ)/絵

女子美術大学卒業後、企業のキャラクターデザイナーとしての勤務を経て、フリーランスで活動中。

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