草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

内田樹の原点! カミュ、レヴィナス、ブランショを読み解く 『前–哲学的 初期論文集』内田樹 著

前–哲学的 初期論文集

内田樹 著

◆内田樹氏の若き日の論文を集成

 本書は思想家・内田樹氏が若い頃に書いたフランス文学、哲学についての論文を集めたものです。多くはフランス文学者として駆け出しの80年代から90年代にかけて執筆されました。論文という「定型のしばり」がある文章は、独特の緊張感に溢れています。

◆カミュ、レヴィナス、ブランショを読み解く

 本書に収録された作品は、内田樹氏が偏愛するカミュ(『異邦人』『ペスト』『カリギュラ』『シシュポスの神話』)、レヴィナス、ブランショを題材にしたものです。
「20世紀の倫理――ニーチェ、オルテガ、カミュ」では、カミュの「私の興味はいかに行動すべきかを知ることにある。より厳密に言えば、神も理性も信じないときに人はいかにして行動しうるのかを知ることにある」という問題提起を引いて、「なぜ人を殺してはいけないのか」という主題に一つの回答を示します。
 著者の原点である倫理的なテーマに真摯に向き合った七篇を是非ご高覧ください。

(担当/渡邉)

 

【目次】
はじめに
20世紀の倫理――ニーチェ、オルテガ、カミュ
アルジェリアの影――アルベール・カミュと歴史
「意味しないもの」としての〈母〉――アルベール・カミュと性差
鏡像破壊――『カリギュラ』のラカン的読解
アルベール・カミュと演劇
声と光――レヴィナス『フッサール現象学における直観の理論』の読解
面従腹背のテロリズム――『文学はいかにして可能か』のもう一つの読解可能性
解題

 

著者紹介

内田樹
1950年、東京都生まれ。思想家、武道家。神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。著書に『ためらいの倫理学』、『レヴィナスと愛の現象学』、『他者と死者』、『私家版・ユダヤ文化論』(小林秀雄賞)、『日本辺境論』(新書大賞)、『日本習合論』など多数。伊丹十三賞受賞。

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激変期のクルマ界は、コロナ禍でも止まれない。『2021年版間違いだらけのクルマ選び』島下泰久著

2012年版間違いだらけのクルマ選び

島下泰久著

※2020年12月23日ころ書店店頭に並ぶ見込みです。

●車種別徹底批評。国産車の小改良・新型を網羅。

2019年12月中旬から2020年11月の国産各社の新登場車やフルモデルチェンジ(FMC)は、プロトタイプ発表も含め合計21と、コロナ禍にもかかわらず大変なニューカー・ラッシュとなりました。さらにマイナーチェンジ(MC)や車種追加は62にもおよび(いずれも編集部調べ)、つまり国産車の状況はこの1年で完全に変わったと言えます。とくに、「コンパクトカー」「SUV」「スポーツカー」「EV・PHEV・FCV」のセグメントには新型車やMCが集中し、「総入れ替え」に近い状態。昨年のクルマ選び知識はまったく通用しないのです。

例年同様、『2021年版』もこの新登場車、FMC、MC、車種追加のほぼすべてを、第一級のモータージャーナリストである著者が1人の目で網羅。車種別に徹底的に批評し、さらにセグメントごとの動向解説やライバル比較も行うことで、クルマ選びのガイドとしてはもちろん、クルマビジネスの理解にもマストな1冊となりました。また今期からは著者Youtubeチャンネルと連動、記事内のQRコードから試乗動画が閲覧できるようになっています。進化した『間違いだらけ』を、ぜひお楽しみください!

 

◎第1特集:百花繚乱! コンパクトSUV

ヤリスクロスvsキックスvsフィットクロスター、ハスラーvsタフト、外国車小型SUV一挙紹介など

◎第2特集:レクサス、“愚直”なプレミアム

佐藤プレジデント独占インタビュー、LS/LC/UX300e批評、レクサスのビジネス分析

 

2021年版の指摘

・なんと日本はスポーツカー爛熟期に突入した!

・ホンダF1撤退。その説明に誰が納得できるのか

・今のクルマは30年後には楽しめないかもしれない

・SUVは今、最もクルマ選びが面白いジャンルだ

・クルマ好き社長の就任で日産に希望が見えてきた

 

※カバー画像のダウンロードが下記リンクより可能です。

https://tinyurl.com/2021machigaidarake

 

〈著者略歴〉

島下泰久(しました・やすひさ)
1972年神奈川県生まれ。立教大学法学部卒。国際派モータージャーナリストとして自動車、経済、ファッションなど幅広いメディアへ寄稿するほか、講演やイベント出演なども行なう。2020-2021 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『間違いだらけのクルマ選び』を2011年から徳大寺有恒氏とともに、そして2016年版からは単独で執筆する。YouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」の主宰など更に活動範囲を広げている。

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何があっても大丈夫! 安心に満たされた人生に変わる本。 『自分と調和する生き方』川井かおる著

自分と調和する生き方

川井かおる 著

●コロナ禍で不安が募っている人に向け、「新しい生き方」を提案します。

私たち日本人は小さい頃から、「まわりに迷惑をかけないよう」、つねにまわりに意識を向けて生きてきました。ずっとまわりに合わせて生きていると、それが当たり前となり、いつしか自分にとって何が本当に大切なのか、自分が何をしたいのかがわからなくなってしまいます。
ところが、幸か不幸か、現在はコロナによる長期の外出自粛によって、自分と向き合う時間が圧倒的に増え、あらためて「自分は本当はどういう生き方をしたかったのか」、を問い直すきっかけとなっています。 
本書は、そうした迷える人のために、郵政省時代から広く人材教育に携わり、ライフワークとして坐禅会や瞑想会を主宰するなど、人間の心の教育にも深い関心を寄せてきた著者が、人間誰もが持っている「意識」の力を使い、本来の自分を取り戻し、毎日を楽しく生きるための方法を伝授するものです。

●何があっても大丈夫! すべては「自分」から始まっています。

今、意識をどこに向けているでしょう?――実は普段から「意識」を意識的に使うことで、誰もが自分の思う通りの現実を創ることができると著者は説きます。
もし、今、「これから先どうしょう?」と意識が不安に向いているとします。すると、≪どうしよう?≫と、不安にエネルギーが供給され、ますます不安が大きくなっていくというのです。まわりを見まわしても、愚痴ばかり言っている人、「めんどくさいなあ」「嫌だなあ」が口癖の人は、いつ会っても同じようなことを言っていませんか? 
「意識」が現実を創っている。そして「意識」の向け方こそがしあわせのカギ。そこに気づけば、人生は大きく変わり始めます。
他人やまわりを気にして、外側に意識を向けることをやめ、100パーセント自分の内側に意識を集中する。そうすることで、まわりに振り回されることがなくなり、自分の内側にエネルギーが集まって、どんどんパワフルで元気になっていきます。
ぜひ混迷の時代の今、多くの方に読んでいただきたい一冊となっております。
さあ、自分の中の新しい扉を開けて、変わることを楽しんでみませんか?

(担当/吉田)

著者紹介

川井かおる(かわい・かおる)

1962年愛知県一宮市生まれ。東京理科大学理学部第一部応用数学科を卒業後、郵政省(現総務省)に入省。郵政研究所などを経て、郵政大学校の教官として教育に携わる。その後、郵政事業庁、日本郵政公社、日本郵政グループ本社で数々の役職を歴任。2019年3月に約31年間の会社人生を早期退職で卒業し、独立。勤務期間中から、兼業として、執筆、講演、企業や大学での講師を務め、坐禅会や瞑想会を主宰、整理収納アカデミア顧問など、幅広く人間教育に関わっている。早期退職の7年前から週末に東京を離れる週末移住を始め、自然の中での暮らしも楽しんでいる。

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「怪しげな東洋人」という役柄が彼の忘れられた理由ではないか『占領下のエンタテイナー』寺島優 著

占領下のエンタテイナー

日系カナダ人俳優&歌手・中村哲が生きた時代

寺島優 著

 本書(『占領下のエンタテイナー』)の201ページに1952年2月の『NHKスター・オン・パレード』の写真が載っている、占領末期のおそらくNHKラジオ主催による当時の花形歌手共演のいかにも豪華な歌謡ショーの写真である。そこに写っている、舞台に横並びに立った歌手(および歌う映画スター)の名前を左から上げると「久慈あさみ(社長シリーズの社長夫人役が有名)、越路吹雪、中村哲、淡谷のり子、灰田勝彦、ディック・ミネ、鶴田浩二」とある。中村哲以外は今でも記憶される、そうそうたる名前のスター、歌手であるが、いま彼一人、忘れられた存在になっているのはなぜだろうか。
 それはおそらく、中村哲が時代の寵児であり、占領下日本、植民地日本を体現していた(し過ぎていた)からなのではないか、というのが編集者の推理である。
 これは戦後日本の「恥ずかしい」時代であった。
 訪米から帰国したスター女優田中絹代は飛行機から降りて来るなり投げキッスをして「アメション女優」と揶揄された。日大ギャング事件の主犯は捕まった時「オーミステイク」とつぶやいて流行語になった。トニー谷は「トニイングリッシュ」なる珍妙な英語もどきを連発した。戦争に負けてアメリカに占領された日本はアメリカ人になろうとして懸命だった。恥も外聞もなくアメリカ人の物まねをする人も多く、また「パンパン・オンリーさん」の時代でもあった。
 その時代、英語ができて歌をうたえる中村哲、日系カナダ人二世の彼は進駐軍キャンプでスペシャルAランクの芸能人としてわが世の春を謳歌していた。戦後、多くつくられた日米合作映画の常連であり、東宝のB級娯楽映画にもよく出ていた。口ひげを蓄えたがっちりした体格、英語も得意だから「怪しげな東洋人」といった役どころが多かった。
『五十万人の遺産』という映画がある。三船敏郎主演で三船唯一の監督作品である。フィリピン山中に残された山下将軍の埋蔵軍資金を探しに行くサスペンス映画だが、ここにも中村哲は出演していて三船を追い詰める謎の東洋人をやっている。
 この口ひげの茫洋とした風貌が、いかにも植民地日本に似合っているのである。何か後ろ暗い商売、密輸などで大儲けしていそうな男、インチキそうな英語(実際の中村はちゃんとしたネイティブの英語をしゃべったが)を使い、アメリカ人風の立ち居振る舞い、彼が体現していたのは戦後日本人の典型ではないのか。中村は1960年代から70年代にかけて初期のテレビ番組やテレビCМに出演しながら次第に姿を見せなくなっていく。
 日本は高度成長期を迎えてもはや戦後ではないと言われるように、占領時代は忘れたかのようになった。日本人は中村哲のことは忘れたかったのかもしれない。植民地日本の恥ずかしい過去、それは忘れられたとはいえ、いまでも本質は植民地のままではないか、と彼の顔を本書の写真で見るとしきりに思い起こされる。

(担当/木谷)

著者紹介

寺島優(てらしま・ゆう)

本名・中村修。1949年、東京都出身。武蔵大学人文学部社会学科卒業後、東宝株式会社に入社、宣伝部勤務。山口百恵・三浦友和の文芸シリーズや『ルパン三世カリオストロの城』(宮崎駿第1回監督作品)、『火の鳥2772愛のコスモゾーン』(手塚治虫総監督)などの宣伝を担当。また、当時のゴジラ映画全作品を日替わり上映した『ゴジラ映画大全集』(日本劇場)を企画宣伝。1978年、週刊少年ジャンプのマンガ原作賞に入賞。翌年に『テニスボーイ』(小谷憲一)で連載デビュー。他に『雷火』(藤原カムイ)『競艇少女』(小泉裕洋 )『スポーツ医』(ちくやまきよし)『三国志』(李志清)などマンガ原作多数。80年12月に東宝を退社後はTVアニメの脚本(本名)も執筆。『それいけ!アンパンマン』では「バイバイキ~ン!」「元気100倍!アンパンマン」といった決め台詞を創案。2019年には初の舞台脚本『かぐや姫と菊五郎』を書き下ろす。1999年、山梨県の富士北麓に移住。趣味は、音楽と映画とタップ。

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蝶は視覚動物なので、あんなに奇麗なのだ。『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』海野和男 写真・文

増補新版 世界で最も美しい蝶は何か

海野和男 写真・文

人間が歴史的に惹きつけられた自然にある美しいものには、宝石の結晶や夜空の星や植物の花などともに、空に舞う蝶がある。とくに熱帯の大型の蝶には18、19世紀の欧米の博物学者や収集家が夢中になった。本書はその美しさの精髄を集めたものだ。
なぜ蝶は美しいのか。なぜあれほどに美しい色彩や模様をまとっているのか。著者は「はじめに」の中でこう書いている。
「蝶は、他に比べるものがないほど美しく、生物の多様性を表す極致が蝶であると思う。蝶は大きな翅を持ち、その翅に様々な色や模様をつけることで、仲間同士のコミュニケーションに使ったり、敵から身を守るために使ってきた。そして蝶が我々と同じように視覚動物であることが、蝶の多様性に我々が目を見張る大きな理由である」
 この最後の「蝶が我々と同じように視覚動物であることが、蝶の多様性に我々が目を見張る大きな理由である」という指摘が重要である。
 蝶は視覚動物なのである。蝶の目に世界がどのように見えているかはよくわからないが、美しい色彩や模様が彼らを惹きつけ、彼らの関心の中心をなしていることは疑いないようだ。異性を惹きつけるための色彩、捕食者(鳥類など)から身を守るための模様、進化の過程で、そこにどんどん専心し特化していったがための美しさなのだ。
 人間が蝶を美しく感じそれを手に入れようとすることと、蝶が過剰なほど奇麗な模様を身にまとうこととには、同じ視覚動物として方向性において、自然で無理がない一致がある。
「蝶って、自分が美しいということを知っていて、さらにもっと美しくなろうとしてきたんだ」――これって素人の間違った感想なのだろうか。
 とにかくこの見事な色彩と変容を写した写真図鑑を一度見ていただきたい。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。小さい頃より昆虫の魅力にとりつかれる。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学び、その後昆虫を中心とする自然写真家の道に進む。著書『昆虫と擬態』(平凡社)は1994 年、日本写真協会年度賞受賞。ほかに『昆虫顔面図鑑』『大昆虫記 熱帯雨林編』『蝶の飛ぶ風景』『デジタルカメラで昆虫観察』など多数。また草思社より『世界のカマキリ観察図鑑』『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』など。日本自然科学写真協会会長、日本動物行動学会会員など。海野和男写真事務所主宰。1990年に長野県小諸市にアトリエを構える。公式ウェブサイトに「小諸日記」がある。http://www.goo.ne.jp/green/life/unno/diary/

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リニア中央新幹線に「ちゃぶ台返し」はありうるか? 『超電導リニアの不都合な真実』川辺謙一著

超電導リニアの不都合な真実

川辺謙一 著

◆JR東海は、もうリニアを諦めている?

 2027年に品川-名古屋間の開業を目指して建設が進められている「リニア中央新幹線」は、超電導リニア方式の車両が走ることが前提となっています。しかし、その超電導リニアモーターカーの技術がまだ完成していないとしたら、どうでしょうか? 
 超電導磁石をめぐる課題から、知れば不安になるほど複雑な走行原理、さらには車内にトイレの設置がむずかしいという問題まで、超電導リニアには未解決の技術的課題が山積しており、商業的に運用できるレベルにはまだ技術が達していない――。これが本書の結論です。
 ほとんど知られていませんが、JR東海は、こうなることをずっと前から危惧し、ひそかにその対策を講じてきました。実は、中央新幹線は、超電導リニア方式が頓挫した場合には、従来型新幹線方式(普通の車輪がある新幹線)でも開業できるように設計され、現在も建設が進んでいるのです。
 これは単なる想像や推測ではありません。JR東海の経営者が自身の著書にこのことを明確に書き記していますし、技術担当者が学会誌に寄稿した文章の中にも書かれています。また、公表されている中央新幹線のトンネルなどの仕様を詳しく調べれば、従来型新幹線が、問題なく走れることが検証できます。さらには、将来中央新幹線の一部となる予定の「山梨実験線」の様子を見ると、JR東海が実際に中央新幹線を従来型新幹線方式で開業しそうな徴候があることを、本書は指摘しています。
 今、リニア中央新幹線は大井川の水源問題でトンネル着工が遅れたことが、大きな注目を集めています。しかし、この大井川の問題がなかったとしても、リニア中央新幹線はそもそも大きな技術的問題を抱えており、JR東海自身が以前から危惧していたほど、実現が危ういプロジェクトなのです。

◆数多くの技術的課題が、未解決。

 本書は超電導リニアの技術的課題を数多く指摘していますが、問題を一言で言うならば「故障する可能性のある部品が多すぎる」ということです。たとえば、超電導リニアが実用化した場合、-269℃の液体ヘリウムで冷やし続ける必要のある超電導磁石ユニットが1編成当たり34個、浮上・着陸のたびに台車から油圧シリンダで出入りするゴムタイヤ車輪は1編成当たり136個となる見込みです。これらのうち1つでも故障すれば、大事故になりかねません。東海道新幹線並みの高頻度運行でも事故を起こさないためには、一つ一つの部品が驚異的な信頼性を持つ必要がありますが、これらは物理的に過酷な条件で使われるものであるため、従来の鉄道ほどの信頼性を持たせるのは非常に困難です。
 中央新幹線は、JR東海が自己負担によって建設する、過去に例のないプロジェクトです。税金が投入されないことから、国民の関心が低いままでしたが、3兆円の財政投融資が行われるなど、非常に公共性が高く、私たち一人ひとりに関係のある計画です。本書が国民的議論のきっかけになることを望んでいます。

(担当/久保田)

超電導リニアの不都合な真実 目次
はじめに
第1章 超電導リニアの心配になるほど複雑なしくみ 1―1 超電導リニアとはいったい何か ◯超電導リニアは「ふわふわ」とは浮かない ◯ レールのないリニアは「鉄道」か ◯「超電導リニア」と「常電導リニア」のちがい ◯「リニアモーター」とは何か ◯ 超電導方式なら自身でも安心、と言えるか 1―2 走行原理は信頼性が心配になるほど特殊で複雑 ◯ 走行の3要素、支持・案内・推進をすべて磁力で ◯ 浮上・案内・推進の力は側壁のコイルとの間で発生 ◯ 低速では浮かず車輪で走らざるをえない理由 ◯ 浮上・着地のたびゴムタイヤ車輪が出入り ◯ 1編成あたり出入りするタイヤは136個  ◯ 車両の速度は遠隔操作でしか制御できない 1―3 極低温を維持する必要がある超電導磁石◯マイナス269℃以下で冷却する必要がある。 ◯ 超電導磁石は病院でも使われている ◯高温超電導磁石の実用化は不透明【コラム】「リニア」という言葉は海外で通じない

第2章 なぜ超電導リニアの技術が開発されたのか 2―1 従来の鉄道の「スピードの壁」を超えたい ◯鉄輪式鉄道の高速化には限界がある ◯鉄車輪を使わない方式による高速化の探究 ◯浮上式鉄道は戦前から研究されていた 2―2 戦後の浮上式研究「黄金期」から現在まで ◯世界で「浮上式」の開発が盛んになった理由 ◯国鉄、日本航空、運輸省がリニア開発に参戦 ◯消えた空気浮上式・残った磁気浮上式 ◯ドイツではリニアが必要性を失う状況に ◯ドイツは死亡事故発生の末に完全撤退へ ◯日本以外の浮上式鉄道研究の現在 2―3 日本でなぜ超電導リニア開発が進んだか ◯きっかけは斜陽化した鉄道のテコ入れ ◯超電導磁石の研究進展と大阪万博で状況が動く ◯アメリカで超電導リニアの基礎が考案される ◯1970年に超電導リニア開発が本格化 ◯新幹線の利用者急増で求められた第二東海道新幹線 ◯世間の大きな期待と国鉄内からの疑問の声 ◯財政難による開発中止の危機を救った政治家 ◯ついに「技術完成」と主張するにいたる
第3章 超電導リニアは技術的課題が多い 3―1 超電導磁石が抱える2つの避けられない困難 ◯磁力が急低下し正常走行が不可能になる「クエンチ」 ◯クエンチを完全に回避することは不可能 ◯MRIやNMRの超電導磁石でのクエンチ発生 ◯リニア開発当事者が語るクエンチ対策 ◯超電導磁石にはあまりにきびしい使用条件 ◯クエンチ問題は解決済みと考えている? ◯低温超電導磁石に必須のヘリウムは入手困難に 3―2 コストもエネルギー消費量も大きく増大する ◯超電導リニアは建設・車両製造・運用が高コスト ◯エネルギー消費量は1人あたり4倍以上に 3―3 実用化を疑問視する専門家の意見 ◯常電導リニア開発者はどう見るか○故障する可能性のある部品が多すぎるという指摘 ◯「地球約77周分」の走行試験は十分と言えるか 3―4 組織内のディスコミュニケーション ◯多くの課題を認識しつつ開発が続けられた理由 ◯開発者と経営者の認識のギャップが生じる理由 ◯歴代リニア開発トップが否定的だったとの証言
第4章 なぜ中央新幹線を造るのか 4―1 東海道新幹線誕生がすべての始まり ◯計画は半世紀前から存在した ◯日本で新幹線が生まれた2つの要因 ◯世界でもずば抜けて鉄道に向いた国=日本 ◯日本で主流の狭軌では輸送力増強が困難だった ◯東海道本線の輸送力不足解決のための広軌新設 ◯新幹線は「ローテク」だから早期実現した ◯東海道新幹線は日本と世界にインパクト与えた 4―2 新幹線網構想から生まれた中央新幹線 ◯地域間格差の是正のため新幹線網構想が浮上 ◯基本計画の告示から整備計画決定という流れ ◯中央新幹線は優先順位低い基本計画路線だった ◯第二東海道新幹線と中央新幹線 4―3 プロジェクトを推し進めた人々 ◯若手社員の進言がプロジェクト始動のきっかけ ◯JR東海が考えた中央新幹線整備の大義名分 ◯政治家に働きかけリニアを国土計画に組み込む○建設費自己負担公表と震災直後の整備計画決定○財政投融資とスーパー・メガリージョン構想 4―4 異例づくしの中央新幹線建設◯民間事業? 公共事業? 責任の所在が曖昧 ◯なぜJR東海が全額負担するのか○「2段階建設」が財政投融資の呼び水に ◯民間が新幹線を建設するのは初めて
第5章 中央新幹線の建設・運用上の課題 5―1 建設時と開業後のそれぞれに懸念される課題 ◯深く・長いトンネルを造る難しさ ◯既存新幹線網への影響は精査されていない 5―2 中央新幹線は現時点でも必要なのか ◯1987年にまとめた大義名分は今も有効か ◯東海道新幹線の輸送力は1・6倍に増えた ◯東海道新幹線の経年劣化は理由になるのか ◯コロナ危機で露呈した絶対的需要の不在 ◯東京一極集中を是正するどころか加速させる? 5―3 将来は必要になるのか ◯加速する人口減少 ◯働き方改革で交通需要が減少する ◯巨大インフラを維持する人手を確保できるか
第6章 乗客の視点で見るリニアの課題 6―1 超電導リニア車両試乗レポート ◯実験線延長前後でガイドウェイの状況が変化 ◯リニア車内は東海道新幹線よりかなり狭い ◯緩やかに加速するが騒音・振動は小さくない ◯最高速付近での大きな振動と「耳ツン」○着地の衝撃や振動は大きい 6―2 営業運転可能な水準にあるか検証 ◯営業運転を考えると乗り心地に問題が多い ◯シート間隔はエコノミークラス並みに狭い ◯公式サイトは乗り心地について明言していない○「耳ツン」の解決が難しい理由 ◯車内外の気圧変化が高速化を阻む? ◯トイレの設置を困難にする要因が複数ある ◯振動が大きく走行中の歩行は困難ではないか ◯走行中は席を離れられずトイレにも行けない? ◯着地の衝撃とバリアフリーへの疑問 ◯車内の騒音は新幹線より大きく感じた ◯課題を克服しなければ営業運転は困難
第7章 事故の情報公開や対策への疑問 7―1 宮崎実験線で発生した事故・トラブル ◯走行中に試験車両が全焼 ◯4年間に14回のペースで繰り返されたクエンチ 7―2 山梨実験線で起きた事故とJR東海の主張
○山梨実験線ではクエンチ発生なしと主張 ◯山梨実験線でもクエンチは起きていた ◯JR東海の主張と異なる事実 ◯2019年に発生した車内出火で3人が重軽傷 7―3 営業開始後の緊急時対策は万全か ◯ガスタービン/タイヤ/コイルという発火源 ◯ガスタービン発電装置は不要になるか ◯トンネル内火災の対策は十分か
第8章 中央新幹線は在来方式でも開業できる 8―1 経営者と技術者が語るリニア失敗の可能性 ◯在来方式に対応させると語った当事者たち ◯最大勾配を40パーミルとした根拠はドイツに ◯高速運転試験用在来型新幹線車両300Xを開発 8―2 構造物が在来方式の規格に対応している ◯謎に迫るための4つの「規格」 ◯坂とカーブは在来方式に対応している○従来の建築限界がすっぽり収まるトンネル ◯なぜトンネル断面が大きいのか ◯車両限界は在来方式に完全に収まる ◯リニアの車体幅が狭い理由も説明できる ◯車両とガイドウェイの間隔は4cm 8―3 在来方式の開業を匂わす山梨実験線の現状 ◯リニア方式の開業を目指すには中途半端な現状 ◯単線のままですれ違い試験をする気配がない ◯なぜリニア方式には必要ない電柱があるのか ◯JR東海は超電導リニア方式をあきらめた?
第9章 今が決断のとき 9ー1 日本では超電導リニアの実現は難しい? ◯検証で見えた3つの事実 ◯日本には向かないことがわかった技術○日本での実用化は時期尚早 ◯なぜメディアはリスクや課題を報じないのか 9ー2 2020年に訪れた転機 ◯進まなかった国民的議論 ◯東海道新幹線利用者数激減と工事の難航 ◯利用者数前年比6パーセントの衝撃 ◯「一本足打法」企業を襲った危機 ◯中央新幹線の半分の工区で工事が中断 ◯静岡県との交渉決裂と開業延期 ◯広がった中央新幹線不要論 9ー3 いかに決断するか ◯中央新幹線の今後の選択肢は3つ ◯在来方式での開業は現実的か ◯計画中止も茨の道 ◯巨大事業はやめるのが難しい 9―4 提案・有終の美を飾ろう ◯計画中止は失敗ではない ◯技術への過信が招いた悲劇 ◯ドイツのリニア失敗に学ぶ ◯アメリカでの開花を目指す ◯リニアの技術を他分野に応用する ◯禍根なくきれいに終わらせる ◯今こそ国民的議論を
おわりに

著者紹介

川辺謙一(かわべ・けんいち)

交通技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書は『東京 上がる街・下がる街』『日本の鉄道は世界で戦えるか』『東京道路奇景』(以上、草思社)、『オリンピックと東京改造』(光文社)、『東京総合指令室』(交通新聞社)、『図解・燃料電池自動車のメカニズム』『図解・首都高速の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・地下鉄の科学』(以上、講談社)など多数。

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日本文学の巨星が遺した講演録、未収録エッセイ、芥川賞選評 『書く、読む、生きる』古井由吉 著

書く、読む、生きる

古井由吉 著

◆日本文学の巨星はいかに書き、読み、生きたか

 本年2月18日に逝去した古井由吉氏は、68年「木曜日に」を発表してデビュー後、71年「杳子」で芥川賞、80年『栖』で日本文学大賞、83年『槿』で谷崎潤一郎賞、87年「中山坂」で川端康成文学賞、90年『仮往生伝試文』で読売文学賞、97年『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞するなど、文壇に確固たる地位を築き、晩年まで旺盛に作品を執筆してきました。
 本書は、古井由吉氏がいかにして書き、読み、生きたかを語る講演録、単行本未収録エッセイ、芥川賞選評を集成しました。
 作家稼業、日本文学とドイツ文学、翻訳と創作、「私」と「集合的自我」、恣意感と昏迷感、文章の周期、人物と語り手と書き手、夏目漱石『硝子戸の中』『夢十夜』、永井荷風、徳田秋聲『黴』『新世帯』、瀧井孝作『無限抱擁』、馬と近代文学、キケロ、シュティフター、ゴーゴリ、ジョイス、浅野川と犀川、競馬場と競馬客、疫病と戦乱、東京大空襲、東日本大震災、生者と死者、病と世の災い――。氏の深奥な認識が唯一無二の口調、文体で語られます。

◆「ひとつの作品へ宛てて書くことが多かった」芥川賞選評

 19年間務めた芥川賞選考委員としての選評(1986~2005年の39回分)は、「候補作全体の評定よりも、ひとつの作品へ宛てて書」かれることが多く、「しばしば作者の名前を割愛」する独自のスタイルで綴られました。現代文学を担う数々の作家を評価した全選評をまとめてお読みいただけます。

 本書をまとめるにあたりまして、ご遺族に多大なるお力添えをいただきましたことをここに記して感謝申し上げます。

(担当/渡邉)

著者紹介

古井由吉(ふるい・よしきち)
1937年東京生まれ。68年処女作「木曜日に」発表。71年「杳子」で芥川賞、80年『栖』で日本文学大賞、83年『槿』で谷崎潤一郎賞、87年「中山坂」で川端康成文学賞、90年『仮往生伝試文』で読売文学賞、97年『白髪の唄』で毎日芸術賞を受賞。2012年『古井由吉自撰作品』(全8巻)を刊行。他に『雨の裾』『ゆらぐ玉の緒』『楽天の日々』『この道』『われもまた天に』など著書多数。2020年2月永眠。

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