草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

飛んでくる蝶から見えてくるもの『蝶が来る庭 バタフライガーデンのすすめ』海野和男 著

蝶が来る庭

バタフライガーデンのすすめ

海野和男 著

 本書『蝶が来る庭――バタフライガーデンのすすめ』で著者が繰り返し述べていることは以下の一節に表れている。
「ぼくの事務所がある東京の千代田区でも30種類ほどの蝶がいて、日本全国では240種類ほどの蝶がいます。どの地域でどんな植物を植えるかで、やってくる蝶の種類は異なります。蝶はとてもよく研究されている生きもので、幼虫が食べる植物も種類によって決まっているので、どんな蝶が来るかで、その地域の自然について知ることができます。」(本書11ページより)
 アサギマダラという日本列島を南北に移動することで有名な蝶はヨツバヒヨドリやフジバカマという花に寄ってくる。自生のフジバカマは以前に比べめっきり少なくなったので園芸種を植えるとよいと本書には書いてある(食草にはイケマ)。野生種のフジバカマの衰退とともにアサギマダラも見かけなくなったが、いま各地でフジバカマを育てる蝶の愛好家が増えてアサギマダラも増えているらしい。
 ヒョウモンモドキという絶滅危惧種の蝶がいる。広島県世羅町はこの蝶の好むアザミ類を植えて保護している。アザミというのはとげがあるためか園芸種としてはあまり人気がなく、売っていない場合が多い。ノアザミを種から二年がかりで育てるといい、と著者は述べている。 
 その他、さまざまにバタフライガーデンの作り方を本書は述べている。だが、そうした実用的知識の面白さを通して、花と蝶との関係をこれほど見事にとらえた本は少ないのではないか。「蝶よ花よと育てられ」という言葉があるが、お花畑に蝶が舞いというイメージは古来、最も穏やかな楽園のイメージでもあり、人間が暮らす自然に恵まれた理想郷でもある。蝶と花の関係を見直して、われわれの暮らす環境に思いをいたすのも本書の効用の一つである。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。昆虫の魅力にとりつかれ、少年時代は蝶の採集や観察に明け暮れる。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学び、卒業後、昆虫を中心とする自然写真家の道に進む。著書『昆虫の擬態』(平凡社)は1994年、日本写真協会年度賞受賞。ほかに『昆虫顔面図鑑』(日本編・世界編)(実業之日本社)、『大昆虫記 熱帯雨林編』(データハウス)、『蝶の飛ぶ風景』(平凡社)、『デジタルカメラで昆虫観察』(誠文堂新光社)などがある。また草思社より『すごい虫の見つけかた』『甲虫カタチ観察図鑑』『世界のカマキリ観察図鑑』『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』『海野和男の蝶撮影テクニック』。日本自然科学写真協会会長、日本動物行動学会会員など。海野和男写真事務所主宰。1990 年に長野県小諸市にアトリエを構え、バタフライガーデンを作る。公式ウェブサイトに「小諸日記」がある。http://www.goo.ne.jp/green/life/unno/diary/

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蝶が来る庭 | 草思社

名著を紐解き、大思想家の声に触れる喜び! 『難しい本をどう読むか』齋藤孝 著

難しい本をどう読むか

齋藤孝 著

◆長引くコロナ禍の今こそ、名著を紐解くチャンス

「有名だから知っているけど、一度も読んだことがない本」「かつて3行だけ読んで放り出してしまった本」……。
長引くコロナ禍でかつてなく人とのコンタクトが制限されている今だからこそ、難しい本に時間とエネルギーを注ぎ込む大きなチャンスです。
名著を紐解き、最高の知性に触れることは、教養豊かな人生を送る契機になることでしょう。

◆難しい本を読むための共通ルールと14作品の解読法

本書では、齋藤孝氏が古今東西の難解とされる名著を読むための「共通ルール」と、14作品の具体的な解読法を伝授します。
「解説書に頼る」「時代背景・著者の動機を理解する」「著者の『好き・嫌い』に注目する」「肝になる部分だけしっかり読み解く」「キーワードを攻略する」「3色ボールペンを使いながら読む」「著者の主張に耳を傾ける」の7つの共通ルールが順に解説されます。
著者がこれまで、磨き深めてきた読書法の決定版を是非ご高覧ください。

【目次】
[第1部]難しい本の読み方「理論編」
やさしいものばかり読んでいると脳は退化する
今、難しい本を読むことの意味
チャレンジする勇気を持とう
「難しさ」は「意味のない難しさ」と「意味のある難しさ」に分けられる
無意味な「難しさ」に付き合ってはいけない
海外の人文書が難しくなってしまう理由
読めない原因がどこにあるのかを問う
本を読んだらアウトプットする
〈難しい本を読む7つの方法〉
[方法1]解説書に頼る
[方法2]時代背景・著者の動機を理解する
[方法3]著者の「好き・嫌い」に注目する
[方法4]肝になる部分だけしっかり読み解く
[方法5]キーワードを攻略する
[方法6]3色ボールペンを使いながら読む
[方法7]著者の主張に耳を傾ける

[第2部]難しい本の読み方「実践編」
ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル『精神現象学』
カール・マルクス『資本論』
フリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラ』
フェルディナン・ド・ソシュール『ソシュールの思想』
西田幾多郎『善の研究』
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』
マルティン・ハイデガー『存在と時間』
メルロー=ポンティ『知覚の現象学』
エマニュエル・レヴィナス『全体性と無限』
ミシェル・フーコー『監獄の誕生 監視と処罰』
ジョン・ロールズ『正義論』
トマ・ピケティ『21世紀の資本』
インド哲学『原典訳 ウパニシャッド』『ウパデーシャ・サーハスリー』

(担当/渡邉)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『宮澤賢治という身体』(世織書房、宮澤賢治賞奨励賞)、『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)、『話すチカラ』(ダイヤモンド社)、『思考中毒になる!』(幻冬舎)など多数。

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「あらゆるものが感染する時代」を生きるために『感染の法則 ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで』アダム・クチャルスキー著

感染の法則

ウイルス伝染から金融危機、ネットミームの拡散まで

アダム・クチャルスキー 著 日向やよい 訳

収束の兆しが見えないコロナウイルスは、私たちに「感染」する最たるものですが、これ以外にも、リーマンショックなどの金融危機の連鎖から、ネットミームの拡散、さらには肥満、犯罪、自殺まで、私たちは驚くほど様々なものが「感染」する時代を行きています。本書は、これらの感染について、「どのように物事が広がり、収束してゆくのか」を、数理的な視点を用いながらわかりやすく解説しています。
マラリアなどとの闘いの歴史の中で感染症数理モデルが発明されますが、ここでは私達にもなじみの言葉になった「再生産数R」や「集団免疫」「スーパースプレッダー」といった考えがどのように誕生したか、またどの要因がそれらにとって重要なのかに詳しく触れられます。また感染爆発の仕組みに迫る章では、「ネットワークの構造」自体の重要性が述べられます。例えば、「異類結合」型のネットワークはハイリスクの人とローリスクの人の間にリンクが有り、最終的に巨大な感染を引き起こしやすいのですが、リーマンショックがあれだけ大きな連鎖になったのは、銀行同士のつながり方がこの異類結合だったからなのです。これ以外にも、ネットにおいて意図的に「バズらせる」ことが可能かどうかや、「正しい情報に晒され続ければ人の考えは改まるのかどうか」「孤独感はなぜ伝染できるのか」「東日本大震災のときに流れたデマはどうすれば減らすことが出来たのか」といった興味深い問題も取り上げられています。この感染時代に生きるすべての人の「知的なワクチン」となる、これ以上ないほどタイムリーな1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

アダム・クチャルスキー

1986年生まれ、ロンドン在住。ケンブリッジ大学で数学の博士号を取得。ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で数学モデリングを教えながら統計学や社会行動の論文を発表する。著書に『文庫 ギャンブルで勝ち続ける科学者たち: 完全無欠の賭け』(草思社)がある。

訳者紹介

日向やよい(ひむかい・やよい)

会津若松市出身。東北大学医学部薬学科卒業。主な訳書に「新型・殺人感染症」(NHK出版)、「死体捜索犬ソロが見た驚くべき世界」(エクスナレッジ)、「RAW DATA(ロー・データ)」(羊土社)などがある。

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「なにもできない。でも、力になりたい。」誰もがそう思った3.11から10年。『「陽」 HARU Light&Letters』平林克己 写真 横川謙司 文

「陽」 HARU Light&Letters

3.11 見ようとすれば、見えるものたち。

平林克己 写真 横川謙司 文

2021年02月13日、10年という時機をまるで見定めたかのように、東北で大きな地震が起きました。2011年3月11日、東日本大震災から10年。日本中が一丸となって復興に向かった被災直後。それから月日が経ったいま、その後の復興は順調に進んでいるでしょうか、それとも停滞しているでしょうか。新型コロナウイルスに見舞われ、誰もが目の前のことで精いっぱいではありますが、見過ごしてはいけないことを、見過ごしてしまってはいないでしょうか。本書は、震災以降、復興ボランティアに従事しながら平林克己氏が撮りためてきた写真と、その写真を各地で展覧した際に横川謙司氏が添えた、これからの世界を見据えるための言葉をまとめた、気づきのための道しるべとなるような写真集です。
3.11から今日まで、熊本地震や西日本豪雨、台風19号、さらにはコロナと、異常気象や災害が絶え間なく日本を襲うようになりました。この10年間の間にかけた数々の困難は、未だ出口が見えない状況にあると言えます。そういった人知を超えた巨大な脅威にたいして、人は麻痺してしまったり、無力感を覚えたりしてしまいます。しかし、それらに正しく向き合った先に、進むべき道が見えてくるものではないでしょうか。すべての写真に収まる太陽は、超越的な自然そのものであると同時に、希望の象徴のようでもあります。本書に寄稿くださった作家・玄侑宗久氏はこう述べます。「朝陽とは、あまりに非情で平等だからこそ、なけなしの弱い心にも希望を芽生えさせるのではないか」。大きすぎる数々の困難を乗り越えるきっかけを、本書から掴み取っていただければ幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

平林克己(ひらばやし・かつみ)

写真家。獨協大学卒業後、カメラを手に渡欧。東日本大震災では復興ボランティアに従事する傍ら、被災地に昇る朝陽を撮り続ける。これまでに開催した写真展は二十数回を数え、日本国内のみならずベルギー、フランス、中国、韓国、台湾など世界で高い評価を受ける。

横川謙司(よこかわ・けんじ)

慶應大学卒業後、広告代理店・電通に入社。コピーライターとしてこれまでに80 社超の広告制作を手がける。東日本大震災を機に平林克己と出会う。共に東北を旅する中で、「Light&Letters」の構想を抱き、平林の写真にコピーで加勢。受賞歴に、日経広告賞、朝日広告賞、広告電通賞、日本雑誌広告賞、TCC 新人賞、ACC 賞、ギャラクシー賞など。

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頁をめくるたびに心が和む、魅力いっぱいの言葉の絵本!『フィンランドの不思議なことわざ』カロリーナ・コルホネン著 柳澤はるか訳

フィンランドの不思議なことわざ

マッティの言葉の冒険

カロリーナ・コルホネン著 柳澤はるか訳

えっ、なにコレ……? ちょっと謎めいたフィンランドのことわざが盛りだくさん! 
世界幸福度ランキング3年連続1位のフィンランド発、
頁をめくるたびに心が和む、魅力いっぱいの言葉の絵本!

 この本はフィンランドの人気絵本マッティ・シリーズの最新刊で、フィンランドの味わい深いことわざ・言い回しをマッティが文字通り「体当たり」で表現しています。ちなみに「マッティ」とは、
・馴れ馴れしいのが苦手
・雑談や自己主張も苦手
・褒められるのも苦手
・混んでいるところが苦手
・コーヒーとサウナが好き
・平穏と静けさを愛する
……という「ごく一般的なフィンランド人」の特徴を体現したキャラクターで、フィンランドではコミック部門売り上げで年間No.1を記録したこともある人気者です。
また、本シリーズの第1作目が(『マッティは今日も憂鬱』、方丈社、2017年)が邦訳された際には、その性格が「日本人にそっくり!」ということで反響を呼びました。謎めいたフレーズに込められた先人の知恵、そして先人からのエールを、マッティの愉快な七変化ととともに味わっていただければ幸いです。

【不思議なことわざ・例】
◎ネコのしっぽはネコが上げるもの
→他人の評価を期待せず、自分で自分を誇りなさい

◎勇者は濃いスープを飲む
→果敢に挑戦する人には幸せが訪れる

◎簡単ソーセージ!
→お茶の子さいさい!

◎カラスはカラスの声で歌う
→みんな頑張っている

◎茂みに腰を下ろして考えよ
→大丈夫、きっとなんとかなる

◎ほら、玉ねぎ!
→これで全部! 以上!


(担当/碇)

著者紹介

カロリーナ・コルホネン

フィンランドのデジタルデザイナー。 夫と2匹の猫と暮らす。趣味はコンピュータゲームと空想。毎朝、コーヒーは必須(できれば2杯)。

訳者紹介

柳澤はるか(やなぎさわ・はるか)

東京在住の翻訳者。翻訳や執筆、講演を通じてフィンランド文化を紹介している。訳書に『マッティは今日も憂鬱』『マッティ、旅に出る』『フィンランドの幸せメソッドSISU(シス)』(いずれも方丈社)がある。

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難読漢字は日本語の歴史を知る「化石」として残っている。『難読漢字の奥義書』円満字二郎著

難読漢字の奥義書

円満字二郎 著

 漢字は中国で紀元前1400年ぐらいに生まれたとされる。中國北部の黄河流域が発祥の地とされる。日本へは4世紀ぐらいに入って来たらしい。古墳時代のことで、古墳の副葬品に漢字が書かれているものがある。ただ何度にもわたって別々の地域から入って来たので中国語読みである「音読み」でも呉音、唐音、漢音などが入り乱れているうえ、さらにうまく発音できなくて中国風訛りになっているものもある。また訓読みというのが画期的な発明で、原日本語の発音で同じ意味の漢字を読んだ読み方である。(一種の翻訳と言っていい。)
 漢字という輸入された文字・言語で、原日本人の間で交わされていた音声としての日本語を書き表そうというのであるから、そこにはたいそうな工夫や技術が生じる。漢字を簡略化した平仮名やカタカナなどの発明をまじえて、何とか使い勝手のいい言語にしようと今日までつとめた日本人の努力は、すごいと言えばすごいのである。この間1600年ぐらいかかっている。自前の言語でない漢字を工夫して使って使って、今や日本語は世界の言語の中で有数の、実に精妙な、そして正確な意味を伝えられる近代的な言語になっている。
 ただし、例えば「瘧」(おこり)とか「膕」(ひかがみ)とか今ではあまり使わない読み方の中に過去の苦闘の歴史が「化石」のように残っているのが面白い。難読漢字が今日クイズなどで興味を集めているのはそんな文化遺産としての日本語の味わいなのだろう。本書はその優れた手引書として申し分なくできている。

 (担当/木谷)

著者紹介

円満字二郎(えんまんじ・じろう)

1967 年、兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの担当編集者として働く。2008 年、退職してフリーに。著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』『四字熟語ときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『数になりたかった皇帝 漢字と数の物語』『漢字の植物苑 花の名前をたずねてみれば』(以上、岩波書店)、『雨かんむり漢字読本』(草思社文庫)などがある。

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生まれながらのランナーが、走ることの本当の意味に気づくまでの物語『人生を走る ウルトラトレイル女王の哲学』リジー・ホーカー著

人生を走る ――ウルトラトレイル女王の哲学

リジー・ホーカー著 藤村奈緒美 訳

過酷な長距離競技で圧倒的な記録をもつ女性ランナーのメモワール

リジ-・ホーカー氏は、2005年、博士課程終了の記念イベントにと、長距離陸上競技のなかでも特に過酷であるとされる「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」に軽い気持ちで参加したところ、いきなり女性部門で優勝を果たしてしまいます。しかしこれは、のちにこの2005年大会を含めて5回この競技で優勝することになる伝説の幕開けに過ぎませんでした。この生まれながらのランナーは、どのような人生を歩むことで、この前人未到の偉業にたどり着いたのか。本書は、この衝撃的なデビュー戦から、ヒマラヤからカトマンドゥまでを走る挑戦を含む、数々のレースの記録について綴られたものです。
これらの挑戦の詳細な描写から伝わるのは、競技の過酷さと、彼女の強靭な精神と身体ですが、もっとも胸を打つのは、自然の荘厳な美しさや、サポートしてくれる人たちや現地の人々の暖かさといった、「走ることでつながっている世界の素晴らしさ」について触れられる部分です。勝敗を超えた「圧倒的な精神の高み」から競技に挑んでいる著者だからこそ、見ることが出来た視点だと言えるでしょう。

人生に試されて初めて知る「走る意味」

筋肉痛とは無縁だと自負する「鉄人」の彼女にも、疲労骨折という魔の手が忍び寄ります。走ることがすべてである人間から走ることが奪われたとき、彼女は真のランナーとは何かという問いに否応なく向き合うことになります。「走れなくても、走ることと関わることはできる」。このとき、彼女は走ることが自分のためだけではなく、世界と関わる方法そのものであるということに気が付くのです。競技の記録という体裁を軽々と超えて、生きることの真理に触れんとする本書。すべての「走る人」にぜひ読んでいただきたい1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

リジー・ホーカー

1973年イギリス生まれ。サウサンプトン大学で海洋物理学の博士号を取得。高低差8500m、155㎞を走るUTMBで5回の優勝を収めるほか、IAU100km世界選手権での優勝など、数々のレースでの受賞歴をもつ。

訳者紹介

藤村奈緒美(フジムラ・ナオミ)

1973年生まれ。東京大学文学部言語文化学科卒。司書職を経て翻訳家となる。主な訳書に、『フィリップ・グラス自伝 音楽のない言葉』、『成功する音楽家の新習慣』(以上、ヤマハミュージックメディア)、『世界の美しい名建築の図鑑』、『世界を変えた本』(以上、エクスナレッジ)などがある。

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