草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

鉄道開業150周年。電車もいいけど、駅のデザインにも注目してみませんか?『東京の名駅舎』大内田史郎 著 傍島利浩 写真

東京の名駅

大内田史郎 著 傍島利浩 写真

皆さんは、電車で目的の駅の改札を出た後に、うしろを振り返ったことがあるでしょうか?
誰もが利用しているのに、普段は見過ごされている駅舎。
しかし、そこには設計者がデザインに託したさまざまな思いや考え方が込められています。
本書は、そんな駅の「建築としてのデザイン」に着目した、ありそうでなかった書籍です。
東京圏の、70以上の駅舎を収録しています。いくつか、登場する駅舎を紹介します。

まずは、東京の駅といえば東京駅ですが、これは駅舎のカテゴリーに限らず、「様式建築の横綱」と呼ぶことができます。また、同じレトロな建築でも、小湊鐵道のように、壮大なデザインではないけれど、風土にマッチするような佇まいのものもあります。
また、第一線で活躍する安藤忠雄隈研吾といった建築家たちが、一級の現代建築として設計した、高輪ゲートウェイ駅などの駅舎も収録されています。さらには、竜宮城のような片瀬江ノ島駅、SL機関車の形をした真岡駅など、普通の建物ではありえないような形のものさえも存在しているのが、駅という建築の面白さです。

駅舎と一口に言っても、そこには非常に豊かな形が存在しています。それは、駅舎の機能が満たされていれば、そのほかは案外自由であるということなのかもしれません。また、形はさまざまに異なっていても、そのまちの歴史や地域性に見事に合うように計画されているという点ではどの駅でも共通しています。駅舎とは、そのまちと鉄道をつなぐ形としてデザインされているのです。
この本を読んだ後は、ぜひ改札を出てから後ろを振り返ってみてください。
そこには、そのまちの名建築としての駅の姿が見えるはずです。

(担当/吉田)

 

■風格のある様式建築
旧新橋停車場、東京駅、両国駅、旧原宿駅南甲府駅…

■スタイリッシュな現代建築
高輪ゲートウェイ駅、銀座線渋谷駅、日立駅上州富岡駅

■最新の木造駅舎
戸越銀座駅旗の台駅参宮橋駅

インパクトのある個性的な駅舎
片瀬江ノ島駅真岡駅国道駅土合駅

帯文:藤森照信

 

著者紹介

大内田史郎(おおうちだ・しろう)

工学院大学建築学部建築デザイン学科教授 。1974年静岡県生まれ。1999年工学院大学大学院工学研究科修士課程修了、東日本旅客鉄株式会社入社。2001年から2012年まで東京駅丸の内駅舎の保存・復原に携わり、2006年に「東京駅丸ノ内本屋の意匠と技術に関する建築史的研究」にて東京大学大学院から博士(工学)の学位を授与。2014年工学院大学建築学部建築デザイン学科准教授、2020年から現職。一般社団法人DOCOMOMO Japan 理事。著書に『東京建築遺産さんぽ』(エクスナレッジ)、共著に『建築学の広がり』(ユウブックス)がある。

写真家紹介

傍島利浩(そばじま・としひろ)

1965年大阪生まれ。1991年より藤塚光政に師事。1996年よりフリーランス。建築、インテリア、プロダクト、アート、人物を中心とした雑誌、広告、竣工写真などを手がける。1999年、写真展「都市放浪 PART l」(セラトレーディング)開催。2000年、写真展「都市放浪 PART ll」(セラトレーディング)開催。2006年、株式会社プンクトゥム設立。2016年、iPhone写真展「iSnap 4s+6」(ANOTHER FUNCTION)開催。共著に「日本の不思議な建物 101」(エクスナレッジ)、「日本の美しい酒蔵」(エクスナレッジ)、「東京建築遺産さんぽ」(エクスナレッジ)、「奇跡の住宅 旧渡辺甚吉邸と室内装飾」(LIXIL出版)がある。


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その目の異常、「心の叫び」かもしれません!『心をラクにすると目の不調が消えていく』若倉雅登 著

心をラクにすると目の不調が消えていく

若倉雅登 著(井上眼科病院 名誉院長・心療眼科医)

■目からの警告サインを無視してはいけない!

 まばたきが増える、まぶしい、目が痛い、急激な視力低下……。目に明らかな不具合があるのに、眼科の検査では異常が見つからない。最近こうした原因不明の目の不調を訴える人が増えています。重症化するとまぶたがうまく開閉できない、光がまぶしくて室内でもサングラスをかけざるを得ない、目を少し動かすだけで吐き気がするなど、日常生活に支障をきたすほど深刻な状態となると言います。
 著者は、その原因が、「眼球」自体にはなく、視覚を司る「目と脳の連携システム」にあると指摘します。いったい「目と脳の連携システム」に何が起こっているのでしょうか。

■脳の働きが落ちると、なぜ目と心に不具合が出るのか

 私たちは普段、無意識のうちに目と脳が緻密に連携することによって、「ものを見る(判断する)」ということをしています。しかし、近年「目」をめぐる環境は激変し、近距離でのスマホタブレットの長時間の使用により、私たちの目はつねに、人工的な強い光と人工画像による強い刺激にさらされるようになったのです。
 今や目から脳へと入る情報量はかつてないほど膨大になり、そのため脳に過度なストレスがかかっているというのです。そして、目と脳の酷使により、脳の働きが落ちているのです。
 著者によれば、脳の働きが落ちることで、目と脳の連携システムに不具合が出て、目や目の機能が低下したり、精神状態が不安定となり、うつの症状が出ることもあると強く警鐘を鳴らします。そのため普段からの「目の使い方」の見直しが急務だと言います。

■目の使い方を見直し、人生の質を向上させる

 本書は目の不調に悩む方に向け、眼科で診断がつかない症例を数多く治療してきた神経眼科・心療眼科の第一人者である著者が、目と脳との関係に踏み込んで、不調の根本原因をやさしく解きほぐします。さらには、「きょろきょろ運動」や「視環境の整え方」など、普段から目と心を健康に保つ秘訣や方法などもわかりやすく教えてくれます。
 ぜひ多くの方に知っていただければと願っております。

(担当/吉田)


■目次
1章    あなたの目と脳は疲れ切っている
・急増する原因不明の目の不調 
・ものは眼球だけで見ているわけではない 
スマホで人間の視環境が激変 
・目からの情報過多は脳への負担を増やす 
・ものを見るプロセスは脳に入ってからが本番 
・目と脳の深いつながり 
・脳のバランス制御システムを崩しやすい現代社会 
・目の疲れや痛み、不快症状は脳から来ている 
・心療眼科的アプローチの重要性

2章    あまりに目を酷使する現代人の悪習慣
スマホで目の使い方が単一に 
・近視化した状態はすぐには戻らない 
・過剰な近見は自律神経のバランスも崩しやすい 
スマホが目に悪いのは「光」のせいでもある 
・「まぶしい」と訴える患者さんが一番多い 
・視機能のパターン化は脳のエネルギーを奪う? 
・子どものスマホ依存、ゲーム依存はとくに危険 
・新たな現象「スマホ内斜視」「子どもの心因性の視力低下」 
・目の持久力の低下、集中力の低下が問題 
・眼精疲労は単なる目の疲れではない 
・目からの警告サインを無視してはいけない 
・見え方の質の低下は心の不調に直結する 

3章    目の不調の裏にある心の異常
・感覚で感じる不調は数値化できない 
・心療眼科で扱うもの 
・「視野が狭い」の背景に隠れていたのは? 
・心の叫びが視力低下につながることがある 
・生活の質も心の質も低下する目の病気「眼瞼けいれん」 
・視界にノイズが生じてしまう「小雪症候群」 
・原因不明の現代病はすべてつながっている? 
・心を元気にするための薬が目の不調をつくっている 
・薬の影響と眠れないことへの恐怖 

4章    心がラクになると、目も癒える
・疲れたら思い切って休む、心の叫びを無視しない 
・ストレスへの耐性を少しでも上げていく 
・自分にあった明るさ、視環境をつくろう 
・きょろきょろ運動で目と脳の使い方に変化を 
前頭葉を活性化させよう 
・自分の症状に納得することの大切さ 
・むずかしい病気との付き合い方 
・生体リズムを尊重し、自然回復力を取り戻す 
・睡眠不安、睡眠依存から抜け出そう 
・弱音を吐く、自分をほめる 
セーフティネットが心の安寧をもたらす 

5章    視界良好、快適な目が人生の質を向上させる
・目も老いる 
・老眼だけではない、目の加齢変化 
・症状にとらわれない、こだわらない 
・病気も人生も俯瞰すると気持ちがラクになる 
・「医者任せ」をやめてみる 
・患者と医師のあるべき関係 
・病気に人生を振り回されてはいけない 
・大事にしたい「後ろに前進する」という考え方

著者紹介

若倉雅登(わかくら・まさと)

井上眼科病院名誉院長。1949年東京生まれ。80年北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年井上眼科病院院長、12年から現職。07年より日本心療眼科研究会共同代表、14年NPO法人目と心の健康相談室を立ち上げ、現在副理事長。その他東京大学非常勤講師、慶應義塾大学非常勤講師、北里大学客員教授日本神経眼科学会理事長を歴任。現在は井上眼科病院で神経眼科、心療眼科を専門とした予約診療、眼球使用困難症調査研究(厚労省)に関わるほか、著作、講演、相談室や患者会などでのボランティア活動を行っている。

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どうして私には好きになってくれる相手がいないんだろう。『失われたモテを求めて』黒川アンネ著

失われたモテを求めて

黒川アンネ 著

 本書は、小さい頃からずっと太っていることがコンプレックスで、自分に自信を持てず、異性との交際に消極的だった著者が、モテを求めて奮闘する2年半の様子を綴った記録です。
 シャネルの口紅を買いに行ったり、映画や本からモテのヒントを学んだり、ランニングをしたり、マッチングアプリ用に資生堂フォトスタジオで写真を撮ったり……。
 ある時は、整った顔立ちをしたファッションセンスの良い友人から「一人に執着してはダメだよ、次に行かなきゃ」「1年に100人と会え」とアドバイスをもらい、飲み会で知り合った男性を誘ってみます。
 またある時は、お笑い芸人が六本木ヒルズの多目的トイレで不倫をしていたという報道に接し、「私は(多目的トイレに呼び出されたら)行く側の人間かもしれない」と、恋愛関係の非対称性について考察を深めます。
 そしてまたある時は、「エロいと思ってほしいからパイパンにしているけど、実際には自分がすごく快適」との友人の勧めを受けて、陰毛の永久脱毛にチャレンジ。
 最終章では、海外の友人から精子提供を約束され、不妊治療を体験、一つの卵子を凍結するに至ります。
 「モテ」とは一体何なのか。なぜ人は誰かを求めるのか――。そんな根源的なテーマに取り組む著者の姿は決して他人事ではありません。誰もが一度はモテに悩まされたはず。是非ご一読ください。

(担当/渡邉)

【目次】
1 臆することなくシャネルで口紅を買う
2 失われたモテ
3 「ともかく人に会え」
4 子どもと避妊
5 どうしてモテたいの?
6 モテの途中下車?
7 一人でいること
8 (ソフィア・ベルガラに学ぶ)自信を持つこと
9 モテは生死に直結する―就職活動について
10 新型コロナ時代のシングル女性
11 明るい部屋でのおこもり生活
12 コロナ禍でモテを世界中で味わってみたら……
13  短絡的ハッピーエンド思考について
14 三浦春馬なき世界で
15 内から輝きを放つ、自信が香り立つ顔が私もほしい
16 思い直すとしっかりと傷ついている、そんな経験
17 「Go To行きませんか?」
18 銀座キラキラ生活で穏やかさの感触を手に入れる
19 どうして私たちはパートナーが欲しいと思うのだろう?
20 「パイパン」問題
21 ラフォーレ原宿で膣トレボール購入
22 一つの卵子を凍結できました
あとがき

 

著者紹介

黒川アンネ(くろかわ・あんね)

編集者、翻訳者、コラムニスト。1987年生まれ。一橋大学社会学部在学中にドイツに派遣留学。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。現在は都内の出版社勤務。

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香港の自由を「暴力」で守ろうとした若者たちが思いのたけを吐露した貴重な記録!『香港秘密行動』楊威利修 著 勇松 訳

香港秘密行動

楊威利修 著 勇松 訳

 この本は「逃亡犯条例」の改正に端を発する香港での騒乱(2019年)の際、過激な抗議活動で注目を浴びた「勇武派」と称される若者たちにインタビューしたルポです。当時、抗議デモ参加者の大半は非暴力の抵抗運動で香港の自由を守ろうと考えていましたが、本書で取り上げる若者たちは活動の初期から、中国共産党が背後にいる香港政府と対峙するには市民が覚悟を決め、武装して戦うしかない、という考えをもっていました。黒ずくめの格好で現場に現れ、時に警官に火炎瓶を投げつけたりもしていた彼らはいま海外に逃れ、それぞれに苦難の日々を送っています。本書の著者は志を同じくする香港人として極秘裏に彼らとコンタクトを取り、心のひだにまで入り込むようなインタビューに成功しました。一線を越えて戦った若者たちについて、〈その強さも弱さも、戦術的な賢さも政治的な無知も、格好よさも脆さも、上品でないドロドロした部分も含めて、その実態、行動、思考をあますことなく描いている〉(「解説」より)のがこの本です。
 本書をお読みいただければ、香港の若者たちに根づいている本土意識(香港を自らの「ふるさと」と考える意識)の強さに驚かれるのではないかと思います。また、彼らの言葉のところどころに日本文化への親しみが感じられる点にも、ぜひご注目いただきたいと思います。著者も日本の読者に向けた本書冒頭で、こう書いています。〈香港人はつねづね日本への旅行を「里帰り」とふざけて言っているが、それはたんなる戯言ではなく、深い意味が含まれている。……本書の最初の出版が奇跡的に日本に決まったことは、ある意味では「里帰り」とも言える。……日本の友人たちが抱いている勇武派や香港の抵抗闘争に関する疑問に対し、このインタビューにもとづく物語がその回答となり、あわせて彼らが直面している困難と曲折の理解に少しでも役立つことを希望する〉
 返還から25周年を迎える香港はいま、ジョージ・オーウェルの『1984』のような超監視社会になり、民主化を支持していた大多数の人たちも「国家安全維持法」が壁となって、声を上げられない状況が続いています。この厳しい状況を打破する方途はなく、負け戦を承知で圧政と戦った若者たちの言葉も、香港がどのような都市であったかを後世の人びとに伝える証言として歴史に刻まれるのかもしれません。しかし香港を飲み込んだ強権統治こそは、現在の日本が直面している巨大な脅威でもあります。そうした観点からも、ぜひお読みいただきたい一冊です。

(担当/碇)

 

【目次】

日本の読者へ 

序文 

第1章 懐かしいのはあのときの自分であり、そのとき僕の心の中にいた彼女なんだ 
出境したときは二人、戻ったときは一人/七十九日目の挫折/一転、冬眠生活へと堕落/泣きながら彼女を守る/黒衣のブラックユーモア/マスクを外し、はじめて顔を合わせる/五秒の距離/阿呆と鬼/血の債務が民兵を育てる/連合戦線と頓挫した計画/血縁より深い結びつき/あの日の写真/階級の距離/僕にはわからないし、答案も書けない

第2章 私は「何もない」人間なんかじゃなかった 
古い音楽、古い映画/催涙弾の中で羊鍋を食べる/裏山での聯校活動/心の傷/MK妹、火炎瓶を作る/香港理工大学での攻防戦/「また誰か、大学から出てきたよ」/うつ病の再発、望郷の思い

第3章 いつの日か、あのヘルメットをとり戻す機会があるよ
火炎瓶を投げる人間とは/単独行動のメリット/八百香港ドルの大冒険/敵の弾が尽きるまで/必要なのは暴動だった/内部での主導権争い/降伏とは言わない降伏/最後の尊厳

第4章 立ち上がった以上、代償を払うことも覚悟しておくべき 
覆面をかぶれば別の男になれる/勇武派はいつ生まれたのか/前線でのファッションショー/スパイ扱いで危機一髪/「水になれ」は役に立ったか/涙が涸れれば静かになる/逃れる理由、残る理由/勇気のない人間が爆弾を作る

第5章 曖昧さゆえに、失敗は運命づけられていた 
香港の冬はまだ燃えていない/消去された記憶/たいまつは継承される/風雨もなく晴れもなく

第6章 みんなが生きてさえいれば、それで十分だ 
剣を振るい、盟約を絶つ/引き金を引く勇気/押収された爆発物/ロマン主義の代償/香港の「法治」への幻想/香港に欠けているもの

第7章 父親には「戦車にひき殺されたいのか」と言われたけど
物資調達グループに参加/三万三千香港ドルを手渡された日/こんな娘を産んだ覚えはない/「暴徒」たちのメッセージ/中国に帰りたい母親/恋は風塵の如く/物資組を再び始動させる

第8章 不満を発散する道が封鎖されたとき、爆発する土壌が形成される 
次の「魚蛋革命」を渇望する日々/立法会八階の民建聯オフィス/レンガを投げるのなら前にこい!/危険なリクルート活動/致命的な戦略のミス/自分の過大評価と、敵へ過小評価/拳銃はどこにあるのか/警察による自作自演説をめぐって/もう何も動かせないよ

第9章 なかったふりをすることと、本当に何もなかったこととは違う 
排水溝に逃げ込み、一人戦う道を進む/馬鹿野郎、なんであたしの肩を殴ったんだい?/台湾式のプロセス/暴動鎮圧隊にペンキ卵を投げる/階下にイヌがいる/勇武派はマニキュアを塗ってはいけないのか/忘れっぽい香港人

第10章 僕は少数派になることができてうれしいですよ 
ヘラジカの沈黙/必要なのは武力/麻袋襲撃を決行/大棠山の都市伝説/可能性A、可能性B

解説

 

著者紹介

楊威利修(やんうぇんりー・しゅう)

英国統治時代の香港に生まれる。中産階級の家庭に育ち、学校卒業後はスラッシャー(仕事や職種を複数持つ人)として生計を立てる。雨傘運動失敗ののち、汎民主派支持や「民主中國建設」の観念から脱却。2019年の「逃亡犯条例」改正反対運動では、抗議闘争者のために友人らと後方支援活動をおこなう。その後香港を離れ、海外に逃亡した勇武派への支援・協力を続けている。

訳者:勇松(ゆうしょう)

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尹錫悦・新大統領は韓国を正常化できるか。どう考えても無理だろう。『韓国の大統領はなぜ逮捕されるのか 北朝鮮対南工作の深い闇』西岡力著

韓国の大統領はなぜ逮捕されるのか

――北朝鮮対南工作の深い闇

西岡力

 韓国の大統領選が3月に行われて、この5月に新大統領・尹錫悦(ユン・ソギョル)が誕生した。文在寅(ムン・ジェイイン)・前大統領の悪夢の五年間が終わって、韓国は正常化できるのではないかという日本の一部に期待があるが、それは無理だろうと著者は言っている。0・7ポイント差という僅差での勝利は、いまだに社会に分断があり、極左的勢力が根強く勢力を保っている証拠である。しかも肝心の尹氏に保守の気概があるわけでなく、文在寅政権で検事総長に任命されて保守派粛清(朴槿恵弾劾逮捕など)を行った当事者であり、ただ権力闘争で追われ下野して対立候補になっただけの人間だ。
 ただし、文憎しの思いがあるなら、文の在任中の不正を暴いて逮捕ぐらいはしてくれるのではないかと支持者は思っているだろうが、いまのところそういう動きもないようだ。
 韓国の大統領は、全斗煥盧泰愚から始まり最近の李明博朴槿恵まで、とくに保守系の大統領はことごとく退任後逮捕されてきた。また盧武鉉のような革新系でも、退任後に親族の汚職を追求され自殺に追い込まれることもあった。権力の移行期に過去の遺恨が噴き出して報復的な訴追が行われることが多かった。
 尹大統領の今後の施策については予断を許さないが、ウクライナ侵攻が勃発後、米国は米韓日の三国の結束を固めようとし、中ロ北朝鮮への備えを強くしているので、従来の親北反日反米政策を当面は軌道修正してくるのは間違いない。かといって、北朝鮮の工作が社会の隅々まで行き渡っている現状、いつ親北的な南北連邦国家が生まれて来るかもわからない。本書は朴槿恵文在寅政権下のこの10年でどのように親北(韓国風に言うと従北)化が進んだかをつぶさにたどり、いま韓国社会が直面している危機の構図を、韓国問題の第一人者が最新情報をもとに描いた韓国論である。
 韓国大統領はいつ何時、逮捕されるかもしれないという、危ういパワーバランスの上に立っている。そのことを思い出させてくれる警世の書である。

(担当/木谷)

著者紹介

西岡力(にしおか・つとむ)

1956年、東京都生まれ。国際基督教大学卒業。筑波大学大学院修士課程修了。外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務、『現代コリア』編集長、東京基督教大学教授などを経て、現在(公財)モラロジー道徳教育財団教授・歴史研究室室長。麗澤大学客員教授。「救う会」会長。歴史認識問題研究会会長。著書に『日韓誤解の深淵』(亜紀書房)『増補新版・よくわかる慰安婦問題』(草思社文庫)『でっちあげの徴用工問題』『日韓「歴史認識問題」の40年』(草思社)『わが体験的コリア論』(モラロジー道徳教育財団)など。

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60歳の西部邁と39歳の福田和也が縦横無尽に語り合う『論語清談』西部邁 著 福田和也 著 木村岳雄 監修

論語清談

西部邁福田和也 著 木村岳雄 監修

 本書は2018年1月18日に自裁を遂げた西部邁氏が、2000年に福田和也氏と行った『論語』をめぐる対談を収めたものです。
 福田氏による「まえがき」には当時の混乱する世相の中、「自分の足元を見つめ直そうと始めたことの一つが『論語』の再読」であったとあります。
 漢の時代に孔子の弟子や孫弟子たちによってまとめられた『論語』は中国全土に広がっただけでなく、5世紀頃に初めての漢籍として日本に伝えられました。
 その後、飛鳥時代から江戸時代まで『論語』は日本人にとっての必須の教養として浸透して、明治以降の日本人の知性を形成する礎となりました。
 『論語』に詳しくない方でも「三十にして立ち、四十にして惑はず、五十にして天命を知る」をはじめとしたいくつかの言葉をご存知でしょう。
 本書では、漢学者・木村岳雄氏の監修の下、西部氏、福田氏の二人がこれぞという『論語』の言葉をピックアップし、字義の解釈から歴史の話まで、冗談まじりに縦横無尽に語り合います。
 大変楽しく読み通せば、『論語』のエッセンスが自然に理解できるという一冊です。
 毎年のように自然災害に脅かされ、疫病がはびこり、戦火が止むことのない現在こそ、『論語』の知恵にあらためて学びたいものです。

【「まえがき」より】
 西洋において最も広く読まれ、影響を与えてきた本といえば、聖書である。では東洋でそれにあたる本は何かといえば、『論語』である。
 考えてみたら不思議な話ではないだろうか。小国で多少重い位についたことはあったにしろ、無位無官に等しく人生を終え、何人かの弟子から尊敬を集めて、その内のほんの一握りと肝胆相照らした孔子という人間が、一文明圏と言われるようなものまで構成する思想家となり、彼の言葉をまとめた『論語』が時を超え、国を越えて受け入れられるようになったのだから。(福田和也

(担当/渡邉)

【目次】
まえがき 福田和也

第一章 日本人にとっての『論語
「中庸」の精神と孔子の哲学/『論語』の精神を継承した日本人/「朋(とも)有り、遠方より来たる、亦(また)楽しからずや」/「巧言令色、鮮なし仁」/朋としての友を持つということ/「終はりを慎み遠きを追はば、民の徳厚きに帰せん」/「三十にして立ち、四十にして惑はず、五十にして天命を知る」/「我仁を欲すれば、斯(ここ)に仁至る」/確信としての伝統、運命愛としての孝悌/「行ひて余力有らば、則ち以て文を学べ」

第二章 『論語』と価値基準
「己に如(し)かざる者を友とすること無かれ」/「君子は周して比せず、小人は比して周せず」/場をつくるという意識/「図らざりき。楽を為すことの斯に至らんとは」/「之を道(みちび)くに徳を以てし、之を斉(ととの)ふるに礼を以てすれば、恥ありて且(かつ)格(いた)る」/「関雎(くわんしよ)は楽しみて淫せず、哀しみて傷(やぶ)らず」/「女子と小人は養ひ難し」/「子は怪力乱神を語らず」/フランス哲学の「怪力乱神を語らず」

第三章 孔子の「俗」と「聖」
孔子の出自と儒教の血統崇拝/父の「現実主義」と母の「神秘主義」/「吾少(わか)くして賤(いや)し。故に鄙事(ひじ)に多能なり」/「学びて思はざれば則ち罔(くら)し。思ひて学ばざれば則ち殆(あやふ)し」/「憤せずんば啓せず」/驕気と多欲と態色と淫志/「下剋上」の賤しさと「長幼の序」/徳治と法治の関係/政治家孔子はなぜ急いだか

第四章 孔子の「死ぬ準備」
「帰らんか、帰らんか」/「吾行ふとして二三子と与(とも)にせざる者無し」/「博奕(ばくえき)なる者有らずや。之を為すは猶ほ已(や)むに賢(まさ)れり」/「異端を攻(をさ)むるは斯れ害あるのみ」/「知らざるを知らずと為す、是知るなり」/「甚だしいかな吾が衰へたるや」

あとがき 木村岳雄

著者紹介

西部邁(にしべ・すすむ)

1939年、北海道生まれ。思想家。東京大学教授、秀明大学教授・学頭、雑誌「発言者」主幹、「表現者」顧問を歴任。著書に『経済倫理学序説』(吉野作造賞)、『生まじめな戯れ 価値相対主義との闘い』(サントリー学芸賞)、『サンチョ・キホーテの旅』(芸術選奨文部科学大臣賞)、『ファシスタたらんとした者』ほか多数。2018年、自裁を遂げる。

福田和也(ふくだ・かずや)

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。著書に『日本の家郷』(三島由紀夫賞)、『甘美な人生』(平林たい子文学賞)、『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』(山本七平賞)、『悪女の美食術』(講談社エッセイ賞)、『福田和也コレクション1 本を読む、乱世を生きる』、『世界大富豪列伝 19‐20世紀篇』、『世界大富豪列伝 20‐21世紀篇』ほか多数。

監修者紹介

木村岳雄(きむら・たけお)

1963年、埼玉県生まれ。京都大学文学部卒業。発言者塾で西部邁氏に師事。現在は東洋大学で非常勤講師を務める。また個人で『論語』なとの講読会を主催。


Amazon:論語清談:西部邁著 福田和也著 木村岳雄監修:本

楽天ブックス: 論語清談 - 西部 邁 - 9784794225818 : 本

ウクライナ戦争でも感じた、自然界で弱者が生き延びるための知恵『ダマして生きのびる 虫の擬態』海野和男 写真と文

ダマして生きのびる 虫の擬態

海野和男 写真と文

 この本は作2021年の夏休みに伊丹市昆虫館で著者が行った講演(オンライン)が好評だったので、それをもとにまとめられた本である。著者は50年近く昆虫写真家として努めてきたが、追いかけてきた得意のテーマの一つが「昆虫の擬態」である。1993年に『昆虫の擬態』という写真集をまとめて、その年の自然科学写真協会の年度賞を受賞して以来、日本でのこの分野の第一人者である。本書にはこれまで撮りためた写真から最新の成果まで、昆虫の不思議な生態「擬態」を考えるための格好の写真、典型的な写真、精細な動画(QRコード入り)がまとめられており、それを見ているだけでも楽しい本になっている。
 「擬態」というのは昆虫だけに限らないが、草や花や樹木など周囲の何かにそっくりの真似をして身を隠す(カムフラージュ)、あるいは逆に突然目立つ格好をして目くらましをする(攻撃的擬態)などの生物の生態で、いずれも鳥や爬虫類などの捕食者から逃れ、自然界で生き延びるための各種の方法である。
 いちばん有名なのは本書の表紙写真や序章に詳述しているオオコノハムシという木の葉っぱにそっくりの虫である。この写真を見ていると、何でそこまで葉っぱに似る必要があるのかと驚くほどの擬態である。また25ページのムラサキシャチホコという蛾が、枯れて丸まった葉っぱのように他の葉の上に止まっている写真は、まるでエッシャーのだまし絵のように見えて見事である(平面なのに立体に見える)。ここまでやると本当に捕食者を避けるためだけに進化したとも思えないような不思議感がある。
 この本では、弱者が身を守るために「1章 よくあるものにまぎれる」「2章 目立たないようにする」「3章 強いヤツの真似をする」「4章 驚かせてチャンスをつかめ」「終章 死んだふりをする」という章立てになっていて、虫たちの涙ぐましい、それぞれの進化上の工夫を示している。
これは先のウクライナ戦争でも感じた自然界の摂理のようでもある。日本という国防上の弱者が生き延びるためには、目立たないように身を潜めて、アメリカという強者の威を借りて、最後は「死んだふり」までして生きのびよという教訓なのかもしれない。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。東京農工大学卒。昆虫写真家。著書『昆虫の擬態』(平凡社)は日本写真協会年度賞受賞。ほかに『蝶の飛ぶ風景』(平凡社)『世界のカマキリ観察図鑑』『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』『蝶が来る庭』(いずれも草思社)『虫は人の鏡 擬態の解剖学』(養老孟司と共著、毎日新聞出版)など。日本自然科学写真協会会長、日本動物行動学会会員など。2021年度日本動物行動学会日高賞受賞。海野和男写真事務所主宰。公式ウェブサイトに「小諸日記」がある。

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