草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

すべてが視覚化する時代に、「触れたい」建築を考える『建築と触覚 空間と五感をめぐる哲学』ユハニ・パッラスマー著 百合田香織訳

建築と触覚

――空間と五感をめぐる哲学

ユハニ・パッラスマー 著 百合田香織 訳

SNSメタバース空間の登場など、世界がますます視覚を重視していくかのように感じられる昨今。そんな視覚以外の空間体験が薄まっていくような時代に、空間における五感の重要性を考えるのが本書のテーマです。
建築は、視覚の芸術である側面を強くもちつつも、触れたくなるような質感や温度・光の質の調節、静寂を生み出すといった、五感のすべてを統合する術として誕生しました。それがどのようにして視覚を重視するようになったのか。あるいは、そのことを批評した思想家や建築家にはどのような人がいたのか。それを古代から現代の建築家まで考察し、今あるべき「触れたくなるような」建築の姿を問いかけます。

思想の面では、哲学や美学に多分に触発されています。例えば、デカルトと比較しつつ、メルロ=ポンティについて「ポンティの哲学の著作は、一貫して知覚全般、なかでも特に視覚に主眼をおいたものだ。ただデカルト的な外部観察の眼とは違い、メルロ = ポンティの言う見る感覚とは『世界の肉』の一部という肉体化された視覚である」と述べ、身体的な感覚を伴った視覚の在り方について考察していくことで、視触覚的な建築についての考察を展開していきます。西洋を中心にしていますが、谷崎潤一郎岡倉天心にも言及があります。

また、建築家への言及ですが、最大の巨匠であるル・コルビュジエについてみてみましょう。彼は雑誌などのメディアにどう建築が映えるかを非常によく計算していた人であり、そういう意味では視覚的建築を重んじた人でした。「建築は造形のものだ。造形とは、目に見えるもの、目が測れるものだ」という言葉もあるほどです。しかし、実際の作品では、「コルビュジエの作品において手は眼に劣らぬほど献身的にその役割を果たしていたのだ。コルビュジエのスケッチや絵画には触覚の要素が力強く現れているし、そうした触感的な感覚はコルビュジエの建築に対する考えにしっかり組み込まれている」と著者は述べます。そのほか、アアルトやツムトア、安藤忠雄といった現代建築家の作品における五感についての設計についても触れています。

このように、古代だけでなく近代、現代の優れた建築家は、視覚重視に陥ることなく、建築空間における五感の統合ということを意識してきていました。彼らのこの遺産を、現代において正しく批評的に継承することで、視覚の流行に流されない、人間にとって「親密な関係性」をもつことができる空間をいまでも作り出すことができるはずです。そして、建築というリアルな空間を扱うものこそが、五感の重要性について世に問いかけるうえで最も有効なものでもあるはずなのです。あらゆるものが視覚重視になっているいま、それに対する批評性を空間そのもので建築が提示していくということが、これほど求められている時代もないのではないでしょうか。

日本では、高名な建築批評家であった長谷川堯氏(長谷川博己の父)が『神殿か獄舎か』のなかで、権威的な視覚重視の建築を批判し、親密さのある装飾性や触覚的な建築の重要性を訴えていました。本書で直接言及されているわけではないものの、問題意識としては非常に連続性があり、長谷川氏の主張を、別の角度から現代に呼び起こすような読み方もできると思います。

著者は、ヘルシンキ工芸大学学長、フィンランド建築博物館館長、ヘルシンキ工科大学建築学部教授・学部長を歴任しており、「The Thinking Hand: The Thinking Hand: Existential and Embodied Wisdom in Architecture 」、「The Embodied Image: The Embodied Image: The Imagination and Imagery in Architecture 」(John Wiley & Sons)のほか、『知覚の問題-建築の現象学- Questions of Perception-Phenomenology of Architecture-』(エー・アンド・ユー)に「七感の建築」という論考を寄稿していますが、日本語で読める単著は今回が初であり、待望の翻訳と言えます。本書は、ArchiDailyが選ぶ名建築書ベスト125に、ラスキンヴェンチューリといった錚々たる名著とともに選ばれており、海外ではすでに高く評価されています。https://www.archdaily.com/901525/116-best-architecture-books-for-architects-and-students

最後に、本書をラスムッセン以降の最重要建築理論家だと賞賛する建築家スティーヴン・ホール氏が本書に寄せた言葉を引きます。
「この雑音だらけの現状のなかで、本書は、深い思索の孤独と決意――かつてパッラスマーが『静寂の建築』と呼んだもの――を呼び覚ます。……『私たちの存在の深み』は薄氷の上に立たされている」

(担当/吉田)

 

目次より
前書き 「薄氷」スティーヴン・ホール
序論 世界に触れる

第一部
視覚と知識
視覚中心主義への批判
ナルシストの眼とニヒリストの眼
声の空間と視覚の空間
網膜の建築、立体感の喪失
視覚イメージとしての建築
物質性と時間
「アルベルティの窓」の拒絶
視覚と感覚の新たなバランス

第二部
身体中心
複数の感覚による経験
陰影の重要性
聴覚の親密さ
静寂、時間、孤独
匂いの空間
触覚の形状
石の味
筋肉と骨のイメージ
行為のイメージ
身体的同化
身体の模倣
記憶と想像の空間
多感覚の建築
建築の役割

 

著者紹介

ユハニ・パッラスマー

現代のフィンランドを代表する建築家、建築思想家。ヘルシンキ工芸大学学長、フィンランド建築博物館館長、ヘルシンキ工科大学建築学部教授・学部長を歴任。著作にThe Thinking Hand: The Thinking Hand: Existential and Embodied Wisdom in Architecture (John Wiley & Sons, 2009)、The Embodied Image: The Embodied Image: The Imagination and Imagery in Architecture (John Wiley & Sons, 2011)などがある。

訳者紹介

百合田香織(ゆりた・かおり)

神戸大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。専攻は建築/建築史研究室。公務員として公共プロジェクトに従事し英国赴任同行を機に退職。建築を巡りつつ翻訳スクールに通い翻訳者として活動を始める。訳書『名建築は体験が9割』『名建築の歴史図鑑』『世界の夢の動物園』(以上、エクスナレッジ)、『配色デザインカラーパレット』(ビー・エヌ・エヌ)など。

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キャンセルカルチャー、ポリコレ問題を知るための必読書『傷つきやすいアメリカの大学生たち』グレッグ・ルキアノフ/ジョナサン・ハイト著 西川由紀子訳

傷つきやすいアメリカの大学生たち

――大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体

グレッグ・ルキアノフ 著ジョナサン・ハイト 著 西川由紀子 訳

◆全米ベストセラー『アメリカンマインドの甘やかし』、ついに邦訳

 本書は、アメリカでベストセラーとなったThe Coddling of the American Mind(直訳すると『アメリカンマインドの甘やかし』)の全訳です。アメリカの大学におけるキャンセルカルチャー、ポリコレ問題の実態を紹介し、その原因を分析、対策までを提言して高く評価された本です。
 アメリカの大学では近年、立場の異なる論者の講演に対し、学生たちが破壊や暴力を伴う激しい妨害を行うことが増えています。また、教員の発言の言葉尻を悪意に捉えて、学生達が激しいデモで糾弾、さらには当の教員や学部長、学長などを軟禁し、暴言を浴びせるなどの事態に発展した例もあります。

◆意見の表明・研究発表を躊躇させる、表現の自由・学問の自由の危機

 本書の中で、そのような多くの事例が紹介されていますが、事態は典型的には次のような流れで発生・進行します。①教員や講演者が政治的に賛否両論ありうる意見や研究結果を明らかにする(または、そうしようと試みる)。②それを「差別的」などとして学生達が集団で糾弾。ときには暴力や脅迫も使われる。③大学側は学生達の行動について、是正指導や処罰を行わない。それどころか、学生達の行動に理解を示し、要求を丸呑みする。④同僚の教員は、陰では対象となった教員を助けることもあるが、巻き添えを恐れて表立っての支持は行わない。⑤講演者は講演中止を余儀なくされ、当の教員は辞任を選ばざるを得なくなる。⑥教員達や学生達の間で、議論の余地ある見解を表明することに対する萎縮が起こる。
 なぜこのような事態は発生し、収拾がつかなくなるまで悪化してしまうのでしょうか。本書では原因として、「現代の学生達は、受験競争の激化などのため、親たちに過保護に育てられている」「大学の教員が左派に偏っており、政治的多様性に乏しい」「アメリカ社会の政治的二極化が進んだ」「アメリカ国内で政治的な問題が近年多発し、学生達が社会正義に敏感になっている」「大学が企業化し、職員が官僚化している」などが挙げられています。著者らは背景を詳しく分析し、アメリカの大学や思想、社会が抱えている問題を指摘、学生達やその親、大学の教職員に対して改善のための指針までを示し、米国で非常に大きな反響を得ました。

アメリカでは大学への信頼が大きく低下している

 上記のような事態が主な原因となり、アメリカでは大学をはじめとする高等教育への国民の信頼が、近年、大きく低下したことが世論調査で明らかになっています。
国際的な大学ランキングでは、上位の多くをアメリカの大学が占めており、日本でもそのことは大きく報道されていますが、一方で、アメリカで大学不信が増大していることはあまり知られていません。
 しかも、上記のような事例の多くは、国際的な大学ランキングで上位に位置づけられるような、名門校で起きています。本書では、イェール大学、ブラウン大学、カリフォルニア大学バークレー校などの有名校での事例が紹介されています。本書は、アメリカの大学教育や研究環境に関する、日本ではあまり語られることのない側面を明らかにする本でもあります。
 ポリコレ問題やキャンセルカルチャーに興味のある方には必読の本であるだけでなく、教育問題やアメリカの社会問題に興味のある方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

 

※本書の原書に関して、批評家のベンジャミン・クリッツァーさんが、ウェブメディア「現代ビジネス」にて、よくわかる紹介・解説を書いています。
こちらもぜひご覧ください。

アメリカの大学でなぜ「ポリコレ」が重視されるようになったか、その「世代」的な理由
アメリカン・マインドの甘やかし』(1)
https://gendai.media/articles/-/77766

「ポリコレ」を重視する風潮は「感情的な被害者意識」が生んだものなのか?
アメリカン・マインドの甘やかし』(2)
https://gendai.media/articles/-/77812

アメリカでの「ポリコレ」の加熱のウラにいる「i世代」の正体
アメリカン・マインドの甘やかし』(3)
https://gendai.media/articles/-/77976

ポリティカル・コレクトネスの拡大と「2010年代のアメリカ社会」の深い関係
アメリカン・マインドの甘やかし』(4)
https://gendai.media/articles/-/78045

 

<目次>

はじめに
3つのエセ真理を広める神
 なぜこの本を書こうと思い立ったか
 原書が刊行された2018年までの3年間の激動
 原書タイトルの「甘やかされた」に込めた意味
本書の概要

第1部 3つのエセ真理とその弊害

第1章 脆弱性のエセ真理:困難な経験は人を弱くする
ピーナッツアレルギーのパラドックス
困難に学び適応し成長する力=反脆弱性
「危険」や「トラウマ」という言葉の意味の拡大
討論会のために用意された「セーフスペース」
iGen(=Z世代)とともに安全イズムが広まった
まとめ

第2章 感情的決めつけのエセ真理:常に自分の感情を信じよ
自分の感情を過信すると不安は増幅する
うつの治療に効果を発揮する認知行動療法
 悪意ない言葉を糾弾「マイクロアグレッション」
「不快」を理由とする講演キャンセルが横行
まとめ

第3章 味方か敵かのエセ真理:人生は善人と悪人の闘いである
言葉尻をとらえて教員を糾弾、辞職へ追い込む
人間は簡単に味方と敵に分かれてしまう
アイデンティティ政治のあり方は2種類ある
 共通の人間性を訴えるアイデンティティ政治
 共通の敵を持つアイデンティティ政治
 現代的マルクーゼ理論――白人男性は「悪」
 共通の敵を持つアイデンティティ政治が有害な理由
「共通の人間性」を強調することの現代的意味
まとめ

第2部 エセ真理が引き起こしたこと

第4章 脅迫と暴力が正当化された
名門UCバークレーで起きた流血の講演妨害デモ
言葉を「暴力」と認定し、本物の暴力を正当化
UCバークレーの暴力後も脅迫・暴力は続いた
死者が出たシャーロッツビルの暴動とその後
授業・講演の妨害が増加した2017年秋
「言葉は『暴力』」と教えることが有害な理由
まとめ

第5章 大学で「魔女狩り」が起きている
無実の者を標的とする運動は「魔女狩り」である
論文が集団処罰の標的となった事例
反論のための論文撤回要求という新しい動き
大学教員の政治的多様性が低下、左に偏っている
全米有数の進歩的大学で起きた魔女狩りと暴力
大学は3つのエセ真理の過ちを何度も犯した
まとめ

第3部 なぜこうなったかに関する6つの論題

第6章  二極化を促進するスパイラル
学生たちと大学に何が起きたのか。6つの論題
政治的二極化が進み沸点に達した
キャンパス外の右派による威嚇行為
キャンパス外からもたらされる脅威が現実に
まとめ

第7章 不安症とうつ病に悩む学生の増加
うつや不安を抱える学生が増えている
未熟で脆弱、不安・うつが多い世代「iGen」
SNSは子どもの心の健康を悪化させるか
なぜ女子の方が心の健康悪化の傾向が強いのか
iGenが大学入学、カウンセリング需要が急増
SNSなどと精神疾患の関係は研究途上だが……
まとめ

第8章 パラノイア的子育ての蔓延
子どもを一人歩きさせることへの非難
親の恐怖を増幅させてきたもの
犯罪が減少しても親の妄想的恐怖は増大
すべてを危険ととらえて過保護にすることこそ危険
「過保護」にしていないと逮捕――親への圧力
社会階級によって過保護の程度に違いがある
パラノイア的子育てに見られる認知の歪み
まとめ

第9章 自由遊びの時間が減少
子どもにとって遊びは欠かせないもの
自由遊び、野外遊びの時間は減少した
子ども時代が受験準備のために費やされる
熾烈な受験競争、履歴書アピール競争
自由遊び時間減少で民主主義運用能力が低下?
まとめ

第10章 大学の官僚主義が安全イズムを助長
学生を守るためとして大学が採る異常な対応
教員以外の職員が増大。大学が企業化
大学が極端な市場重視に。学生はお客様扱い
職員が認知の歪みの手本を学生に示している
 過剰反応の事例
 過剰規制の事例
「不審なものを見かけたら、通報してください」
「ハラスメント」のコンセプト・クリープ
対立の解決を第三者に頼る「道徳的依存」
 まとめ

第11章 社会正義の探求の時代
「社会正義の時代」を経験した若者たち
 心理学による正義の実用的直感的定義
 分配的正義に関する心理学研究
 手続的正義に関する心理学研究
平等な機会と権利――均衡的手続的社会正義
平等な結果を目指す社会正義の問題点
結果の格差は必ずしも不正義のせいではない
まとめ

第4部 賢い社会づくり

第12章 賢い子どもを育てる
過保護をやめ、たくましく育てる
1.かわいい子には旅をさせ、人生の厳しさを体験させよ
2.油断すると、自らの思考が最大の敵以上の害となる
3.善と悪を分け隔てる境界線は、すべての人間の中にある
4.〈大いなるエセ真理〉に立ち向かう学校に協力する
5.電子デバイスの使用時間を制限し、使い方を見直す
6.新しい全米基準:大学入学前の奉仕活動または就労

第13章 より賢い大学へ
大学が希求すべき最も重要なものは「真理」
1.自分のアイデンティティを探求の自由を結びつける
2.多様性ある学生を迎え入れ、使命を果たす
3.〈生産的な意見対立〉を志向し、啓蒙する
4.コミュニティを取り囲む大きな円を描く

結び より賢い社会へ

謝辞
付録1 認知行動療法の実践方法
付録2 表現の自由の原則に関するシカゴ大学の声明
参考文献
原注

 

著者紹介

グレッグ・ルキアノフ(Greg Lukianoff)

教育における個人の権利のための財団(FIRE)の会長兼CEO。アメリカン大学とスタンフォード大学ロースクールを卒業し、高等教育における言論の自由憲法修正第1条の問題を専門としている。著書にUnlearning Liberty: Campus Censorship and the End of American Debate and Freedom from Speech(自由の学習棄却:キャンパスでの検閲とアメリカの議論と言論の自由の終焉)がある。

ジョナサン・ハイト(Jonathan Haidt)

ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授(倫理的リーダーシップ論)。1992年にペンシルバニア大学で社会心理学の博士号を取得後、バージニア大学で16年間教鞭をとる。著書に『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を超えるための道徳心理学』(紀伊國屋書店)、『しあわせ仮説:古代の知恵と現代科学の知恵』(新曜社)がある。

訳者紹介

西川由紀子(にしかわ・ゆきこ)

大阪府生まれ。神戸女学院大学文学部英文学科卒業。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修了。ITエンジニア、青年海外協力隊ベリーズ)を経て翻訳家に。訳書に『理系アタマがぐんぐん育つ 科学の実験大図鑑』(新星出版社)、『人に聞けない!?ヘンテコ疑問に科学でこたえる!どうしてオナラはくさいのかな?』(評論社)など。

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国際的映画ビジネスの大変さ、日本映画の契約意識の低さなど。『黒澤明の弁護士』乗杉純 著

黒澤明の弁護士

乗杉純 著

 本書は第6回(2021年度)文芸社草思社W賞金賞受賞作のノンフィクションである。
著者の乗杉純氏は弁護士で個人事務所を経営している。国際間の契約の交渉、知的所有関係などに長けていて、黒澤プロとも近年までさまざまな案件で仕事を請け負っていた。
 本書は3章に分かれているが前の2章が黒澤明関係の仕事の話であり、3章は大島渚監督『戦場のメリークリスマス』製作の話である。3章は著者が初めて映画の契約の仕事に足を踏み入れた作品ということ、また『乱』と同じプロデューサーの話ということで、ここに付け加えた。
 黒澤明監督の『乱』は仲代達矢主演の戦国時代劇で超大作であり、『赤ひげ』(1965)『どですかでん』(1970)のあと、『トラ・トラ・トラ!』の降板、自殺未遂などをへて『デルスウザーラ』(1975)でようやく復調した黒澤が満を持して企画した作品である。製作費がかかりすぎるということから、フランスからの出資を求めて日仏合作になった。結局あとから企画された『影武者』(1980)の方が先行し、『乱』は1985年に完成した。出資条件や何かで、すったもんだが繰り返され、難航した契約交渉に1980年代初めの段階で著者も加わり合意に至った過程が本書では回想として描かれている。『乱』は結局興行では赤字だったが、アカデミー賞外国映画賞をとっている。
 外国の独立映画プロデューサーが個人としてかなりしたたかであることは有名であり、どれも曲者である。『乱』のサージ・シルバーマン(一般にはセルジュ・シルベルマンと呼ばれている)も例外にもれず、一度約束したことを反故にしたり、記憶にないと言ったり、自分に都合のいいように契約条件を持っていこうとする。若い弁護士の彼が翻弄され頑張る姿がここでは描かれている。シルバーマンはルイス・ブニュエルのフランスでのカムバック(メキシコからの)に大いに貢献し晩年の『欲望のあいまいな対象』『自由の幻想』などを手掛けた名物映画人である。ユダヤ人で強制収容所の体験があるという。その人物像、それに振り回される黒澤明のイライラぶりが興味深い。この過程はヘラルド・エースの原正人(『乱』の日本側のプロデューサー)の著作等でも語られているが、法律家当事者の眼で描かれているのは貴重である。
 本書で特に興味深いのは第2章の『七人の侍』再映画化権の訴訟である。『七人の侍』は今日では映画史の上できわめて高く評価されていて、映画史上のベストワンに押す人も多い名作中の名作である。にもかかわらず東宝の扱いはぞんざいであり、当初ハリウッドのアルシオナプロというところへ再映画化権をすべて売り渡していて、しかも黒澤・橋本忍小国英雄の三人の脚本家の了解も得ていなかった。のちにこの映画の世評が高まるうちに黒澤のところへ再映画化の許諾を求める人が多くあらわれ、権利が売られていて黒澤本人には権利がないということがわかり、訴訟が発生したのだ。
 このややこしい訴訟を1960年代にまでさかのぼって糸をときほぐすように解明し、何とか着地に持っていったのが著者の仕事であり、実は日本の映画会社に監督や脚本家の著作権への配慮がなかったことの典型的事例である。時は流れて今では著作権の扱いも慎重になっているが、天下の東宝でさえ近年までこんなありさまだったのだ。
 本書は法律の実務家から見た映画製作の実情を描いた稀少な体験談・記録として読むに値する作品になっている。

(担当/木谷)

著者紹介

乗杉純(のりすぎ・じゅん)

東京生まれ。1971年、早稲田大学第一法学部卒業・司法試験合格。1975年、ミシガン大学ロースクール留学(LLM)。1995年、乗杉綜合法律事務所設立。企業間の国際的商取引契約を得意とする。

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北欧のコテージに現れる生物たちの出会いが生む、生命への思索『森の来訪者たち 北欧のコテージで見つけた生命の輝き』ニーナ・バートン著 羽根由訳

森の来訪者たち

――北欧のコテージで見つけた生命の輝き

ニーナ・バートン著 羽根由訳

リス、ミツバチ、キツネ、ワタリドリ、アナグマ
詩人のコテージには、さまざまな生物たちとの出会いがあふれています。本書は、コテージがもたらす生命への哲学的な思考を、詩的に紡いだサイエンス・エッセイです。著者はスウェーデン文学の最高峰であるアウグスト賞の受賞作家で、叙情豊かな文体が生命への想像を膨らませてくれます。

スウェーデンの郊外にあるコテージには、豊かな自然に囲まれていることから、様々な動物がやってきます。例えば、リスの出会いはある意味予想どおりにかわいらしいものですが、コテージの天井裏に四六時中いれば、時にはその「生活」音は、著者をいらだたせもします。しかし、そういったリアルな体験をし、それを詩人の感性で言葉にすることで、生命の本質に迫ってゆきます。
その生物たちへのまなざしは、詩的な響きに満ちています。

「(ミツバチは)紙をつくる才能を持って生まれ、それで自分の生涯を満たすはずだったのだろう。これは一種の詩ではないだろうか?」
「優れた話し手は、話の本筋から脱線するのを避けるものだが、生命にとっては分岐こそが重要だった。」
「一個の遺伝子は百の和音を持っているとも言われ、他の遺伝子と相まって、古いテーマをまったく新しいサウンドに変えることができる」

そしてこれらは、単なる比喩にとどまるものではありません。著者にとって詩を書くことは、自然界の営みとそのまま地続きの行為であり、つまり人間が文章を書くことは、とても自然的な行為だということが、本書の最大のメッセージなのです。

「実際、スウェーデン語で『アルファベット』を意味するbokstavは、ブナ(bok)材に文字を刻んだことに由来する。それ以来、何十億ものアルファベットが木材チップからつくった紙に書かれている。文字と紙は協力して、ミツバチが花から蜂蜜をつくるよりも素晴らしいものを創造しなければならない。書くことの目的は、未来へ向けて生命の本質を伝えることではないだろうか。」

SDGsなど環境問題が注目される昨今ですが、本書のように身近な生命に耳を傾け、自然とは何かということについて想像力を羽ばたかせることから始めるのが、実はとても大事なことなのかもしれません。

(担当/吉田)

著者紹介

ニーナ・バートン(Nina Burton)

抒情詩とサイエンスを組み合わせた独自のスタイルで有名なスウェーデンの詩人・エッセイスト。2016年、『The Gutenberg Galaxy Nova』でスウェーデン国内でもっとも権威あるアウグスト賞(ノンフィクション部門)を受賞。スウェーデン・ノーベル・アカデミーのエッセイ賞なども受賞している。

訳者紹介

羽根由(はね・ゆかり)

大阪市立大学(現・大阪公立大学)法学部卒業。スウェーデン・ルンド大学法学部修士課程修了。共訳書にラーゲルクランツ『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』(2015)、ルースルンド&トゥンベリ『熊と踊れ』(2016、以上、早川書房)、ノーデンゲン『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる』(誠文堂新光社、2020)、『海馬を求めて潜水を』(みすず書房、2021)など。単訳書にゴールドベリ&ラーション『マインクラフト 革命的ゲームの真実』(KADOKAWA、2014)、エルンマン他『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社、2019)、『ノーベル文学賞が消えた日』(平凡社、2021)などがある。

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ダイエット論争に突きつけられた決定的エビデンス『運動しても痩せないのはなぜか』ハーマン・ポンツァー著 小巻靖子訳

運動しても痩せないのはなぜか

――代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」

ハーマン・ポンツァー著 小巻靖子訳

◆1日の総消費カロリーは、運動しても増えていなかった!

 ダイエットに関して長年にわたり論争となってきた問題に、ついに決定的な証拠がもたらされました。ダイエットばかりか、栄養学やスポーツ科学、果ては人類学までの常識をひっくり返すその研究を発表した人類学者こそが、本書の著者ハーマン・ポンツァー氏です。研究内容は世間に大きな衝撃をもたらし、ニューヨークタイムス紙やBBCなどの一般向けメディアでも大きく取り上げられました。
 その「決定的な証拠」とは何かを一言で言えば「運動しても1日の総消費カロリーは増えていなかった」ということ。つまり、運動したところで、それだけで痩せることはなく、痩せるためには摂取カロリーを減らすしかない、ということです。しかしだからといって「運動なんか意味がない」という結論には決してなりません。逆に、運動しても1日の消費カロリーが増えないからこそ、運動は必ずしなければならない、と結論づけられるのです。どういうことでしょう?

◆運動に使われなかったカロリーが不必要な「炎症」を起こし、現代病の原因に

 著者の発見を裏返せば「運動しなくても1日の消費カロリーは減らない」ということでもあります。となると、運動に使われずに余ったカロリーは、別のことに使われているはず。じつは、これが体に良くないことを引き起こすのです。余ったカロリーの使い道として、もっとも身体に悪いと思われるのが「炎症」。本来であれば必要のないところで、余ったカロリーは炎症を起こします。これがアレルギーや関節炎、動脈疾患のほか、さまざまな「現代病」の原因となっているのです。運動すれば、これらのムダな炎症が抑えられ、健康が維持される、というわけです。

◆最新の「消費カロリー測定法」で狩猟採集民、都会人、類人猿などを計測

 しかし、なぜこんなに大事なことが、100年以上の歴史を持つ栄養学や代謝の科学の領域で気づかれないままだったのでしょうか。じつは意外にも、動物の1日の消費カロリーを正確に測定するのは最近まで非常に難しく、推定することしかできませんでした。そこに著者らは、「二重標識水法」という新手法を持ち込み、先進国の人や狩猟採集民、さらにはオランウータンやチンパンジーなどの類人猿まで、数多くの対象の消費カロリーを測定したのです。その結果、上記の発見に至っただけでなく、その他にも驚くような発見がいくつもなされたことが、本書に綴られています。たとえば「オランウータンも、チンパンジーも人間より何割も消費カロリーが少ない」「一般に成人の1日の消費カロリーは2000キロカロリーとされているが、これは間違い。じつはそれよりずっと多い」など。さらにこれらの知見から発展して、スポーツ科学や人類学についても、衝撃的な事実がいくつも明らかになっていきます。自分自身の体に興味のあるすべての人が、ぜひ読んでみるべき一冊といえるでしょう。

(担当:/久保田)

目次

第1章 ヒトと類人猿の代謝の定説が覆った
    ◇ライオンから奪ってでも、食料を手に入れる
    ◇カロリーに関する一般的な理解はまちがいだらけ
    ◇ヒトは哺乳類の中で特別に成長と老化が遅い
    ◇類人猿を対象とする実験が非常に困難な理由
    ◇オランウータンの消費カロリーは非常に少なかった
    ◇霊長類の代謝の速さは他の哺乳類の半分にすぎない
    ◇ヒトだけが飛び抜けて他の霊長類より代謝が速い
    ◇狩猟採集民と先進国の人では代謝はどう違うのか

第2章 代謝とはいったい何か
    ◇知っているつもりで、実は説明できないこと
    ◇わかりやすくいうと代謝とは何か
    ◇「あなたはあなたの食べたものでできている」
    ◇昼食に食べたピザは体の中でどうなるか
    ◇カロリーの燃焼とはATPをつくることである
    ◇脂肪の燃焼と糖質制限ダイエット
    ◇植物が大量絶滅の原因となったことがある
    ◇ミトコンドリアを味方にして酸素が利用可能に
    ◇基礎はわかった。で、運動すれば痩せるの?

第3章 カロリー消費量研究に起きた革命
    ◇カロリー消費量測定が重要な研究課題である理由
    ◇消費カロリーの測定はどのようにされてきたか
    ◇「歩く」「走る」「泳ぐ」のにかかるエネルギー
    ◇安静時の体0のエネルギー消費はどれくらいか
    ◇BMRを超える基本的身体機能のエネルギー消費
    ◇エネルギーを効率よく使い子孫を多く残すゲーム
    ◇動物の寿命は代謝率で決まるのか
    ◇一般的な総カロリー消費量推定法はまちがっている
    ◇二重標識水法で正確な総カロリー消費量を測定
    ◇ヒトの代謝の科学の新時代が始まった

第4章 親切で、適応性に富み、太ったサル
    ◇トレッドミル代謝から離れて、発掘へ
    ◇180万年前の人類化石がユーラシア大陸
    ◇ユーラシアにやってきた侵入種・ホミニン
    ◇初期人類は利己的で怠け者のベジタリアン
    ◇ヒトは分け合うことで大成功をおさめた
    ◇「分け合い」がヒトの代謝革命を起こした
    ◇「分け合い」と「代謝向上」のマイナス面

第5章 運動しても痩せないのはなぜか
    ◇ハッザ族の驚くほどの回復力と適応性
    ◇ハッザ族は厳しい環境で重労働をしている
    ◇ハッザ族のエネルギー消費は先進国の人と同じ
    ◇制限的日次カロリー消費モデルで考えると……
    ◇運動しても痩せないのはなぜか
    ◇ダイエット番組参加者を追跡調査した研究結果
    ◇脳は厳格にエネルギーの収支を監視している
    ◇肥満の原因を代謝が低いせいと考えるのは誤り
    ◇私たちの研究への反響は予想外に大きかった

第6章 ダイエット論争にデータを突きつける
    ◇人類は300万年前から炭水化物を食べてきた
    ◇過熱するダイエット論争と最新の科学的知見
    ◇「スーパーフード」には多くの場合、根拠はない
    ◇脂質悪玉説と糖質悪玉説、論争の真実
    ◇ケトン食などの食事法はなぜ成功するのか
    ◇肥満のわなに陥らないためにはどうすればよいか
    ◇実際の狩猟採集民の食生活はどのようなものか

第7章 ヒトの体は運動を必要としている
    ◇運動しないチンパンジー、運動が必要なヒト
    ◇運動した方がいい理由はたくさんある
    ◇運動に使われなかったカロリーの行き先
    ◇過剰な運動で性ホルモンの分泌が低下する理由
    ◇体にいい運動の量はどれくらいか
    ◇運動で減量はできないが体重維持に運動は必須
    ◇「運動しても痩せない」は〝不都合な真実〟か

第8章 ヒトの持久力の限界はどこにあるか
    ◇超過酷な持久競技選手のカロリー収支
    ◇持久力の限界を決めるのは何か
    ◇何日、何週間、何カ月にも及ぶ持久走での実験
    ◇人間の持久力の限界を示すグラフ
    ◇代謝の限界を決めるのは消化管だった
    ◇妊娠と出産も代謝の限界に支配される
    ◇マイケル・フェルプスは何がすごいのか
    ◇エネルギー消費の上限を押し広げる進化の末路

第9章 エネルギー消費とヒトの過去・現在・未来
    ◇現代人のとんでもないエネルギー消費量
    ◇道具による筋力の有効活用から火の利用へ
    ◇技術が進むにつれ食料獲得が容易になった
    ◇1人当たりの消費エネルギーがゾウ並みに
    ◇「人間動物園」を望ましいものに改造せよ
    ◇数年ぶりに訪れたハッザのキャンプで見たもの

謝辞
原注

 

著者紹介

ハーマン・ポンツァー(Herman Pontzer)

デューク大学人類進化学准教授、デューク・グローバルヘルス研究所グローバルヘルス准教授。人間のエネルギー代謝学と進化に関する研究者として国際的に知られている。タンザニアの狩猟採集民ハッザ族を対象としたフィールドワークや、ウガンダ熱帯雨林でのチンパンジーの生態に関するフィールドワークのほか、世界中の動物園や保護区での類人猿の代謝測定など、さまざまな環境において画期的な研究を行っている。その研究は、ニューヨークタイムズ紙、BBCワシントンポスト紙などで取り上げられている。

訳者紹介

小巻靖子(こまき・やすこ)

大阪外国語大学(現、大阪大学国語学部)英語科卒業。訳書に『移民の世界史』『サブスクリプションマーケティング』『ティム・ウォーカー写真集 SHOOT FOR THE MOON』など多数。

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楽天ブックス: 運動しても痩せないのはなぜか - 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」 - ハーマン・ポンツァー - 9784794226020 : 本

燃えない、壊れない、沈まない…建物を支える「構造」の秘密『世界を変えた建築構造の物語』ロマ・アグラワル著 牧尾晴喜訳

世界を変えた建築構造の物語

ロマ・アグラワル 著 牧尾晴喜 訳

みなさんが今そこにいる建物は、なぜ壊れないのでしょうか。
あまりにも当たり前に利用している建物ですが、それはこれまでに考え出された、
建物を壊さないための工夫の積み重ねによって、日々を平和に過ごせているのです。

本書は、そんな建物を支える構造のアイデアが、どのようにして生み出されたのかを、
世界的な建物の構造設計を担当する現役のエンジニアが分かりやすく語ったものです。

まず建物にとっての脅威は、どんなものがあるでしょうか。
日本に住んでいれば、まず自身が思い浮かぶかもしれません。台風といった自然の力のほかに、火災や建てる地盤が弱いといったことも脅威になりえます。建物が高くなるほど、自身の重さ=重力にあらがう力もより重要になります。
これらのすべてに耐えられなければ、建物は人間を守ることはできません。
構造とは、こういった力に対抗するために人間が生み出した知恵なのです。

ここでひとつ、高層ビルはあんなに高いのに、どうやって地震や風の力に耐えられるのかを考えてみましょう。一つの考え方として、人間と同じように、強い「背骨」をつくって耐えるというアイデアがあります。
働いているオフィスで、エレベーターや階段、トイレが「まとまっている」のがなぜか、考えたことがありますか?これは、それらをまとめて厚い壁で覆うことで、ビルのなかに「背骨」をつくっているからなのです。ですが、これはコンクリート以外の素材ではとても値段が高くなります。
なので別の方法として、鉄骨でできているビルの場合には、亀の甲羅のような「外骨格」を用いることがあります。鉄をVやX字にした「ブレース」構造で建物の全体を覆うことで、外側をつよい殻で覆ってしまうというアイデアです。
このような様々な工夫によって、建物は安全に建てられているのです。

著者はこういった工夫を考えるスペシャリストであり、
西ヨーロッパで最高を誇る「ザ・シャード」の構造ほか、さまざまなランドマーク的な建物を担当しています。彼女自身は、幼いころにインドでテロに巻き込まれた経験があり、
建物が人間の命を守らなければならないという構造設計の理念は、概念的なものではなく、
実体験に基づいています。そういった自身のエピソードも交えて語られるので、一人のエンジニアの奮闘記としても読みごたえがあります。

本書を読み終えたころには、身の回りの建物を見る目がきっと変わっているはずです。

(担当/吉田)

目次

エンジニアの/としての物語 STORY
建物が支える力 FORCE
炎を防ぐ FIRE
土を建材にする CLAY
鉄を使いこなす METAL
石を生み出す ROCK
空を目指す SKY
地面を飼いならす EARTH
空洞を利用する HOLLOW
水を手に入れる PURE
衛生のために CLEAN
理想の存在 IDOL
最高の橋たち BRIDGE
夢のような構造を実現する DREAM

著者紹介

ロマ・アグラワル(ROMA AGRAWAL)

構造エンジニア。インド系イギリス系アメリカ人。オックスフォード大学で物理学の学士号を取得した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造工学の修士号を取得。西ヨーロッパ一の高さを誇るビル「ザ・シャード」やノーザンブリア大学歩道橋をはじめとして、数々の有名な建造物の構造設計に関わる。英国王立工学アカデミーのルーク賞を含む数々の国際的な賞を受賞している。

訳者紹介

牧尾晴喜(まきお・はるき)

株式会社フレーズクレーズ代表。建築やデザイン分野において、翻訳や記事制作を手がけている。1974年、大阪生まれ。メルボルン大学での客員研究員などを経て独立。一級建築士、博士(工学)。主な訳書・監訳書に、『幾何学パターンづくりのすべて』、『〈折り〉の設計─ファッション、建築、デザインのためのプリーツテクニック』、『箱の設計─自由自在に「箱」を生み出す基本原理と技術』(以上、ビー・エヌ・エヌ)、『世界の橋の秘密ヒストリア』、『あるノルウェーの大工の日記』(以上、エクスナレッジ)などがある。「AXIS(アクシス)」、「VOGUE JAPAN」、「GQ JAPAN」、「GA」といった雑誌で記事の翻訳・執筆も手がけている。

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『老子』には本当は何が書かれているのか?『真説 老子 世界最古の処世・謀略の書』高橋健太郎 著

真説 老子

――世界最古の処世・謀略の書

高橋健太郎

■日本で誤解されてきた『老子

 『老子』と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか? 中国古典に興味がある方だと、もしかすると「無為自然」「足るを知る」「上善如水」など、『老子』に書かれている有名なフレーズのいくつかが浮かぶかもしれません。またある人は「流れに身を任せよ」「あるがままに生きよ」とラクに生きるための心構えや哲学について書かれた本だと思っているかもしれません。
 しかし、本書で紹介する『老子』はこれまでのイメージとはまったく逆、『老子』を一貫した処世・謀略術の体系として読み解くものです。

■「あるがままでいい」とは「何もしない」ことではない

 事実、歴史的にみると『老子』を真正面から謀略術として理解する行為は、中国や日本において伝統的に行われていた解釈法でした。『老子』は、兵法や戦略の書である『孫子』や『韓非子』に多大な影響を与えていますし、かの毛沢東も『老子』を戦略書として愛読していたと言われています。
 『老子』は単に無欲で厭世的な哲学書ではないのです。

■乱世とも呼べる現代にこそ役立つ老子の教え

 著者は、「『老子』全体を謀略術の体系と解釈してはじめてわかる教えがある」とし、「実社会に生きる我々を、生き残る者と亡びる者、成功する者と失敗する者、勝つ者と負ける者、幸福な者と不幸な者に分けるものの正体がつかめる」と言います。
 本書で紹介される「老子」流処世・謀略の理論の数々は、乱世と言っても過言ではない現代にも通用するものばかりです。
 これまで抽象的で難解だと言われていた『老子』をこれほどまでに明快に解説した本はないでしょう。もう一度『老子』を読み直したい、もっと『老子』を深く知りたい、理解したいという人にも最適です。
 ぜひ新しい『老子』の世界観を堪能していただければ幸いです。

(担当/吉田)

目次より
1章 「あるがままでいい」というウソ──封印された『老子』謀略術
2章 「道」は成功者を必ず殺す──『老子』が喝破した世界の仕組みとは?
3章 『老子』とは「道」を利用した戦略である──「反」と「柔弱」
4章 「足るを知る」本当の意味──人間の欲望が生死を分ける
5章 「王」はいかに人を動かすべきか──権力と敵意の構造
6章 「隠君子」という生き方──なぜ真の成功者は隠れているのか

著者紹介

高橋健太郎(たかはし・けんたろう)

作家。横浜市生まれ。上智大学大学院文学研究科博士前期課程修了。国文学専攻。専門は漢文学。古典や名著を題材にとり、独自の視点で研究・執筆活動を続ける。近年の関心は、謀略術、処世術、弁論術や古典に含まれる自己啓発性について。著書に『鬼谷子』(草思社文庫)、『どんな人も思い通りに動かせる アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(文響社)、『哲学ch』(柏書房)など多数。

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