草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

中国の強硬な主張の底に潜む危うさ。『「中国」という捏造』ビル・ヘイトン 著 小谷まさ代 訳

「中国」という捏造

――歴史・民族・領土・領海はいかにして創り上げられたか

ビル・ヘイトン 著 小谷まさ代 訳

「5000年にわたる歴史をもつひとつの国、ひとつの民族」という虚構。
その虚構を根拠にしつつ、中国はこれからどこへ向かおうとしているのか。

習近平は言う。「五〇〇〇年以上にわたる歴史のなかで、わが国は優れた文明を作りあげ、人類に卓越した貢献をし、世界における偉大な国家の一つとなった」。だが、実際には「中国」とは近代になって強引に創り上げられたものにすぎない。「中華民族の均一性も、中国の国境線も、さらには国民国家という概念さえも、すべて一九世紀後半から二〇世紀前半に捏造されたものなのだ」(序章)中国が五〇〇〇年間ずっと統一国家であり統一国民であったという神話の虚構性を、「中国(チャイナ)」という国名と概念の導入から、歴史、民族、言語、領土、領海など広範にわたって詳細な資料をもとに検証する。

(担当/藤田)

 

◎本書内容より

「中国」(ヂォングゥオ=チャイナ)――国名がなかった国。近代西洋諸国の圧力に直面するなかで近代化する日本を見て国名を創り出す。
「漢族」――白人種に対抗する黄色人種としての「漢族」と「満州族」だが、満州人を切り離し漢人だけを特別な「漢族」とする。
「中国史」――「五〇〇〇年」にわたって「一つの国民」として優れた文明を築いたとする。
中華民族」――多民族を同化し「中華民族」という一つの「中国国民」と創り上げる。 
「中国語」――多様な言語を排して統一された国家言語を創り上げる。
「領土」――「国境」などなかったが、近代西洋に対抗するため地理学者らによって「領土」が創出される。同時に中国全体が領土に対する過度の不安を発症する。
「領海」――南シナ海等の紛争の根源。想像力を駆使して空想の産物たる「地図」が創り上げられる。

 

◎目次より

序章 「五〇〇〇年にわたる歴史」
「百年国恥」を忘れるな/中華人民共和国の正統性/故意に構築された「中国(チャイナ)」

第1章 「中国」の捏造――国名のなかった国
「チャイナ(中国)」は西洋人が作りだした概念/中国(ヂォングゥオ)は国名ではなく特定の文化を持つ場所/チャイナの起源/イエズス会修道士が果たした役割/自国の正式名称がない/満州人を排除する革命/〈中華〉を復活させる/「中華」思想が政策の基本原理

第2章 「主権」の捏造
世界秩序の再構築をめざす中国/朝貢儀式によって「天下(万国)」の支配者たることを示す/アヘン戦争の勃発/太平天国の乱と第二次アヘン戦争/西洋の技術を学ぶ「自強運動」/西洋の「主権」の概念と中国語の「主権」の違い/近代化を促進する日本と伝統的な世界観を固持する清国/清国と朝鮮の朝貢関係の終焉/日清戦争の敗北によって清朝の世界秩序は終わりを告げる/現代中国の「主権原理主義」とは何か

第3章 「漢民族」の捏造
華僑を利用する中国共産党/臣民を民族で分類/黄遵憲の「黄色人種」という考え方/白色人種に対抗する黄色人種/漢族が「黄帝子孫」という捏造

第4章 「中国史」の捏造
中国五〇〇〇年の歴史という物語/近代化を教え導くイギリス人宣教師/改革派のジャーナリスト、梁啓超歴史観/新しい国民を誕生させ新たな国民国家を創出する/新しい歴史教科書『最新中学教科書 中国歴史』/二〇〇〇年間一貫して存続していた「中国民族」という虚妄/ナショナリズムの幻影、「現代中国」版の歴史解釈

第5章 「中華民族」の捏造
習仲勲習近平の政策/改革派・梁と革命派・孫の共生関係/漢民族が他民族を同化する/清王朝の滅亡と「五族共和」/民族を融合し、一つの〈中華民族〉を形成するという孫文の夢/新疆ウイグル自治区の「再教育」訓練所

第6章 「中国語」の捏造
香港・広州での地方文化撲滅への抗議活動/北京語のネイティブは広東語を理解できない/「言文合一」の試み/国民を統一させるための言語改革/統一言語(国語)の創出をめぐる二人のワン、王照と汪栄宝の闘い/北京方言を標準とした新たな「国語」の誕生/一つの国家には一つの国民と一つの言語

第7章 「領土」の捏造
清帝国は国境線を画定したことがない/放棄された台湾/国家防衛の鍵となる地理学/領土ノイローゼを発症させた「国恥地図」/ナショナリズムを推進するための歴史・地理学教育/国民党の最後の砦となった台湾/亡国の恐怖と「国恥意識」

第8章 「領海」の捏造
南シナ海問題の悲劇/領有権主張の根拠となった三日間の調査/革命派に広州を明け渡した李準提督/中国の間違った翻訳が戦争危機を引き起こす/想像の産物だった南シナ海の地図/中国の想像上の境界線が領有権を主張する/南シナ海の紛争当事国には領有権を主張する根拠がない

結論 「中国の夢」
歴史における中国の国際的地位の回復/中国特有の民族社会主義の構築/ナショナリストの想像力によって捏造された神話

 

著者紹介

ビル・ヘイトン(Bill Hayton)

英国のシンクタンク王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)のアジア太平洋プログラム研究員、BBCワールドニュースのジャーナリスト。著書に『南シナ海』(河出書房新社刊)など。

訳者紹介

小谷まさ代(こたに・まさよ

翻訳家。富山県生まれ。富山大学文理学部卒業。主な訳書に、『中国共産党』(リチャード・マグレガー著、第23回アジア太平洋賞大賞を受賞)『中国「絶望」家族』『ならず者国家』『本当に「中国は一つ」なのか』『米国特派員が撮った日露戦争』『日本帝国の申し子』『アメリカがアジアになる日』(以上、草思社)、『成功にはわけがある』(講談社)、『ドリームウィスパラーの超潜在開発スペシャル』(ヒカルランド)、『ナタリー・ポートマン』(ブルース・インターアクションズ)、『I LOVE YOU, MOM』(ぶんか社)、『心ひとつで人生は変えられる』『エラ』『完全なる治癒』『多重人格はこうして作られる』(以上、徳間書店)、『絵で見る人体大地図』(同朋舎出版)などがある。

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「抜擢する力」を失った球団に未来はない『2023年版 プロ野球 問題だらけの12球団』小関順二 著

2023年版 プロ野球 問題だらけの12球団

小関順二

プロ・アマ合わせて5800試合以上を球場で観戦してきた
ドラフト研究の第一人者が、12球団の今シーズンを徹底分析!

チームの高齢化への危機感がまったく感じられない楽天
新球場エスコンフィールドでの清宮幸太郎の躍進が期待される日ハム、
外国人頼りの体質をついに乗り越えたDeNA、
昨年開幕1勝15敗からのCS出場で底力を示した阪神……。
混戦必至の今シーズンの行方を
ドラフト分析の第一人者が膨大な観戦データをもとに鋭く予見する、
プロ野球ファン必読の決定版ガイド!

12球団 今季はどうなる?

オリックス  若手の「抜擢タイミング」を外さない指導者の眼力
ソフトバンク  投打ともに「切り札不在」を招いたフロント戦略の功罪
西武  西武らしい「ドラフト1位」蛭間拓哉にかかる期待
楽天  安田悠馬、武藤敦貴の抜擢で今年こそ「若返り」を!
ロッテ  新監督に託された「元・超高校級」素材の本格化
日本ハム  個性豊かな若手野手陣による「魅惑の打線」が完成!?
ヤクルト  「ポスト村上宗隆」を見すえた戦略的なドラフト指名
DeNA  「ドラ1捕手」松尾汐恩の圧倒的ポテンシャル
阪神  レギュラーを狙う「高校卒野手」の実力と課題
巨人  「甲子園のスター」入団で世代交代が始まるか
広島  ドラフト指名に垣間見える球団の「危機管理」能力
中日  今こそ「古臭い価値観」からの脱却をはかるべき

(担当/貞島)

 

目次

パシフィック・リーグ 戦力徹底分析!

オリックス 
若手の素質〝発現期″を見逃さないファーム指導者の眼力
スタメン分析――メジャー107本塁打の実績は鵜呑みにできない
ピッチングスタッフ分析――プロ野球界に革命を起こした剛腕の中継ぎ陣
ドラフト分析――2位内藤鵬にかかる将来の主軸の期待

ソフトバンク 
投打の切り札を育成することが常勝球団復活の早道
スタメン分析――メディアが騒ぐほど大補強は脅威でない
ピッチングスタッフ分析――ファームに塩漬けされるドラフト1、2位組
ドラフト分析――即戦力を期待しないドラフト戦略がよく見える1位イヒネ

西武 
黄金期のチームと異なる主力のドラフト指名順位
スタメン候補――森友哉がFA移籍して野手陣の層の薄さがむき出しに
ピッチングスタメン分析――平良海馬の先発転向は吉か凶か
ドラフト分析――1位蛭間拓哉が若手の強打不足を解消してくれるか

楽天 
チームの高齢化への危機感がまったく感じられない
スタメン分析――安田悠馬、武藤敦貴の抜擢で若返りを
ピッチングスタッフ分析――早川隆久、藤平尚真が優勝を狙うキーパーソン
ドラフト分析――大学生、社会人ばかりの投手偏重指名に違和感が

ロッテ 
吉井理人新監督に託された元超高校級の素質開花
スタメン分析――ライバルを客観視できるようになった安田尚憲の本格化に期待
ピッチングスタッフ分析――佐々木朗希と種市篤暉を軸に組む強力なローテーション
ドラフト分析――1位菊地吏玖は黒田博樹を彷彿とさせる本格派右腕

日ハム 
新球場、エスコンフィールドが清宮幸太郎のホームランを後押しする
スタメン分析――オーダーを考えるのが一番楽しい打線
ピッチングスタッフ分析――リリーフ陣の命運を託された移籍組の2人
ドラフト分析――1位の二刀流、矢澤宏太と2位金村尚真に即戦力の期待

セントラル・リーグ 戦力徹底分析!

ヤクルト
前年ヒット0本の長岡秀樹をリーグ屈指の遊撃手に変えた育成上手
スタメン分析――ディフェンスの要、中村悠平の守備力は古田クラス
ピッチングスタッフ分析――新守護神はシュートで内角を攻め続けた木澤尚文
ドラフト分析――ドラフト2、3位で〝ポスト村上宗隆″候補を指名

DeNA
外国人頼りの体質を乗り越えて上位進出した22年
スタメン分析――高校卒ルーキー、松尾汐恩抜擢のすゝめ
ピッチングスタッフ分析――今永昇太の後を継ぐエースは小園健太しかいない
ドラフト分析――88年谷繫元信以来、球団史上2人目の捕手のドラフト1位

阪神 
1勝15敗からスタートしてCS出場は実力の証
スタメン分析――長打不足を補うリーグ断トツの俊足集団
ピッチングスタッフ分析――先発、リリーフとも役者が揃い、優勝候補に躍り出る
ドラフト分析――2~5位に高校生の投打の逸材が並ぶ将来性志向

巨人 
2年続けて首位から3、4位に陥落した原監督に神通力は残っているか
スタメン分析――増田陸を突破口にして若手抜擢の流れを
ピッチングスタッフ分析――高校卒の1位指名が統一ドラフト以降ゼロ人
ドラフト分析――松井秀喜以来の甲子園のスター野手が1位で入団

広島 
高校生主体のドラフトができたのは有望な投打の若手がいたから
スタメン分析――捕手専業で首位打者に輝いた森友哉の再現を
ピッチングスタッフ分析――左腕、床田寛樹を軸にした地力のある編成を
ドラフト分析――2位内田湘人に鈴木誠也2世の声が

中日
旧来の日本的な価値観を引きずっている時代遅れの球団
スタメン分析――ポイントゲッターは相変わらず外国人頼り
ピッチングスタッフ分析――高校卒三本柱の誕生に期待
ドラフト分析――4位山浅龍之介の超高校級の強肩が注目の的

 

著者紹介

小関順二(こせき・じゅんじ)

スポーツライター。1952年神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。プロ野球のドラフト(新人補強)戦略の重要性に初めて着目し、野球メディアに「ドラフト」というカテゴリーを確立した。2000年より年度版として刊行している『プロ野球 問題だらけの12球団』シリーズのほか、『プロ野球 問題だらけの選手選び─あの有名選手の入団前・入団後』『甲子園怪物列伝』『「野球」の誕生 球場・球跡でたどる日本野球の歴史』(いずれも草思社)、『ドラフト未来予想図』(文藝春秋)、『野球力 ストップウォッチで判る「伸びる人材」』(講談社+α新書)、『間違いだらけのセ・リーグ野球』(廣済堂新書)、『大谷翔平 奇跡の二刀流がくれたもの』『大谷翔平 日本の野球を変えた二刀流』(いずれも廣済堂出版)など著書多数。CSテレビ局スカイ・A sports+が中継するドラフト会議の解説を1999~2021年まで務めている(22年は入院で参加できず)。同会議の中継は20年度の衛星放送協会オリジナル番組アワード「番組部門中継」の最優秀賞を受賞。15年4~7月に、旧新橋停車場 鉄道歴史展示室で行われ好評を博した「野球と鉄道」展の監修を務める。

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動物たちへの愛の賛歌『英雄になった動物たち 胸をゆさぶる100の物語』クレア・ボールディング著 白川部君江訳

英雄になった動物たち

――胸をゆさぶる100の物語

クレア・ボールディング著 白川部君江訳

この本には、喜び、悲しみ、感動、笑い、すべての物語がある!

9・11テロで倒壊寸前のビルから主人を救い出したイヌ、
ナチスに翼を撃たれてもレジスタンスを貫いたハト……
英国の人気作家が綴る珠玉のノンフィクション!

 

「私がこの本を執筆したのは、キリンやサイにイヌやネコ、ネズミにチンパンジー、ウマ、ヒツジ、ブタといった、ありとあらゆる動物たちをほめ称える方法を見つけたいと思ったからだ。それはある種の歴史をたどる旅であり、文化、芸術、スポーツ、戦争、そして現代のライフスタイルの検証でもある。この本は、彼らの知性や忠誠心、勇敢さ、愛情、美しさを称え、彼らすべてに捧げるオマージュである。ここに登場する動物たちは私にとってのヒーロー(主人公)だ。」(はじめにより)
本書は物心つく前からイヌやポニー、ウマたちに囲まれて育ち、後に騎手としても活躍した著者が贈る動物賛歌であり、古今東西、動物と共に歴史を歩んできた人間の姿を描く力作ノンフィクションです。様々な動物たちの物語を味わいつつ人間の歩いてきた道を顧みることのできる一冊です。

(担当/貞島)

 

目次

1 余命宣告を受けた騎手と負傷の愛馬との復活物語──アルダニティ  
2 博士と「高度に知的な鳥」との研究生活30年──アレックス  
3 敵機を探知し、船で逃げ延び、飛行隊にも参加した子イヌ──アンティス  
4 領空侵犯してきたドローンを攻撃し、無力化するイヌワシ──アラミスとそのきょうだいたち  
5 アイルランドが生んだ史上最高の障害競走馬──アークル  
6 戦火のシリアで兵士に救われた子イヌが兵士をPTSDから救う物語──バリー (Barrie)  
7 40人以上の命を救ったスイスの山岳救助のシンボル犬──バリー(Barry)  
8 路上生活の薬物依存症者を世界的ベストセラー作家に変えた街ネコ──ボブ  
9 飼い主と旅先ではぐれ、4000キロの道程を傷だらけになりながら帰巣したイヌ──ボビー・ザ・ワンダー・ドッグ(奇跡の犬ボビー)  
10 アレキサンダー大王と共に東方遠征を果たした名馬──ブケパロス  
11 ビンラディン急襲の米海軍特殊部隊に唯一参加したイヌ──カイロ  
12 炭鉱内の有毒ガスを検知し、あまたの労働者を救ったカナリア  
13 馬術競技史上最も偉大な「ポニー」サイズの名馬──カリズマ  
14 米軍通信部隊の伝書鳩による「失われた大隊」救出作戦──シェール・アミ  
15 第二次大戦で最多の勲章を受けた米軍の軍用犬──チップス  
16 ペットから野生に戻されたライオンと飼い主との再会物語──クリスチャン  
17 インドからロッテルダムへ、7カ月の航海を経てスターになったサイ──クララ  
18 ダリやピカソがその画才を絶賛した天才チンパンジー──コンゴ  
19 対ナチス戦に臨む諜報員たちの極限の緊張状態を癒したイヌ──クロミー  
20 人間の遺伝子のにおいを嗅ぎ取り、数多くのがん発見に貢献したイヌ──デイジー  
21 爆発物探知に尽くし、パリ同時多発テロの銃撃戦で散った警察犬──ディーゼル  
22 クローン技術で生まれた世界初の哺乳動物──ドリー  
23 煙探知器より先に自宅の火災を察知し、飼い主を救ったオカメインコ──ディラン  
24 ネコ史上唯一宇宙に飛び立ち、無事に帰還した“スペースキャット”──フェリセット  
25 公務にあたる動物保護の法改正に寄与した警察犬──フィン  
26 患者の尿から88%の精度でがんか否かを識別した医学界のスター犬──フランキー  
27 第一次大戦の戦場で昼夜、負傷者の救護に尽くしたロバ──ガリポリ・マーフィー(ガリポリのマーフィー)  
28 第二次大戦下の香港の戦いで日本軍を恐れさせた「軍曹」犬──ガンダー  
29 ガリア人の侵攻からローマの危機を救ったガチョウ  
30 第二次大戦下のイタリア戦線であまたの米兵を救った伝書鳩──G・I・ジョー  
31 亡き飼い主の墓を14年守り続けたスコットランドの忠犬──グレーフライアーズ・ボビー  
32 文豪ディケンズの愛鳥。またはロンドン大空襲を生き抜いた唯一のカラス──グリップとグリップ  
33 ノルマンディー上陸作戦開始の第一報を味方側に伝えた伝書鳩──グスタフ  
34 9年間、毎日午後3時に渋谷駅で主人を待ち続けたイヌ──ハチ公  
35 さまざまな議論を呼んだチンパンジーの宇宙飛行──ハム  
36 人間そっくりにおしゃべりするアザラシ──フーバー  
37 3年間で1600キロを自力で旅したカバ──フーベルタ  
38 第一次大戦で敵味方問わず兵士を救った看護師とその飼い犬の悲話──ジャック  
39 第一次大戦に従軍したヒヒと、鉄道員信号手を務めたヒヒ──ジャッキーとジャック  
40 9・11テロやハリケーンに遭った人々の探索・救出に尽くした救護犬──ジェイク  
41 第二次大戦下の英国で爆撃跡からの生存者発見を諦めなかった救助犬──ジェット  
42 優れた狩猟犬にして、超能力を有した稀代のイヌ──ジム  
43 聴覚障がい者の生活を支え、人生との向き合い方さえ変えた聴導犬──ジョヴィ  
44 第二次大戦で世界初の「動物戦争捕虜」になりつつも生き抜いた奇跡のイヌ──ジュディ  
45 視力を失い自死をも考えた医師に安らぎと生活を取り戻させた盲導犬──キカ  
46 2000語を理解し、1000以上の手話を使い分けたゴリラ──ココ  
47 第二次大戦下のソ連で食料や荷の運搬に務めたフタコブラクダ──クズネチク  
48 ソ連の宇宙船スプートニク2号に搭乗したイヌ──ライカ  
49 18世紀の英国の見世物で数々の知的芸を披露したブタ──ラーネッド・ピッグ(教養のあるブタ)  
50 日中戦争、第二次大戦下を生き、戦後台湾の発展に貢献したゾウ──リン・ワン  274
51 ガラパゴス諸島で天涯孤独に生きた「最後のピンタゾウガメ」──ロンサム・ジョージ(ひとりぼっちのジョージ)  
52 銃乱射事件や災害の被災者の心のケアに当たる「セラピー・ポニー」──マジック  
53 英国のドッグレース界に君臨した最初のスーパースター犬──ミック・ザ・ミラー  
54 障害馬術界の頂点に立ち、英国民に愛された芦毛の名馬──ミルトン  
55 第二次大戦下の北ビルマで日本軍と戦う英国兵を癒し、士気を高めたラバ──ミニー  
56 食肉解体で首を落とされた後も元気に1年半生き続けたニワトリ──ミラクル・マイク  
57 座礁したクジラの親子の命を救ったハンドウイルカ──モコ  
58 行方不明のネコをずば抜けて高い確率で見つけ出す探偵犬──モリー  
59 外来種としての殺処分をケネディ大統領の恩赦で免れたマングース──ミスター・マグー  
60 スマトラ島沖地震による大津波を察知し、少女の命を救ったゾウ──ニン・ノン  
61 飼い主一家の少女の死を機に家を飛び出し、旅に出たイヌ──パディ・ザ・ワンダラー(さすらい犬パディ)  
62 サッカーW杯の試合結果を次々と的中させたタコ──パウル  
63 サッカーW杯の優勝トロフィー盗難事件を解決に導いたイヌ──ピクルス  
64 英国最大の公開オーディション番組での演技で国民を熱狂させたイヌ──パッズィー  
65 紛争地域での地雷除去に命がけで奮闘しているネズミたち  
66 朝鮮戦争で大砲や砲弾の運搬を担った米国で最も偉大な軍馬──レックレス  
67 障害競走グランドナショナルの存続の危機を救ったレジェンド馬──レッドラム  
68 第二次大戦中、氷の海で溺れかけた味方兵士を泳いで救出したイヌ──ライフルマン・カーン(ライフル銃兵カーン)  
69 第二次大戦のロンドン大空襲のなか100人以上の市民を救ったイヌ──リップ  
70 連続窃盗犯の犯行を阻止し、血液鑑定による逮捕につなげた鳥──ロッキー  
71 中東での自爆テロのあと、即座に2発目の爆発物を発見したイヌ──セイディ  
72 9・11テロで倒壊寸前のビルから盲目の主人を救い出した盲導犬──ソルティとロゼール  
73 1970年代アメリカの象徴となった伝説の競走馬──セクレタリアト  
74 爆弾テロで瀕死の重症を負うも奇跡の復活を遂げた英王室騎兵隊の馬──セフトン  
75 カナダ軍の一員として第一次大戦を戦い抜いた「軍曹」馬──サージェント・ビル(ビル軍曹)  
76 クリミア戦争で英仏軍を飢餓から救ったネコ──セヴァストーポル・トム(セヴァストーポリのトム)  
77 微量の引火性液体をも嗅ぎ取り、火災の原因を突き止めるヒーロー犬──シャーロック  
78 群れを嫌い、鉄の意志で6年も放浪生活をしたヒツジ──シュレック  
79 中国人民解放軍からいわれなき砲撃を受けた英国船内でネコ大奮闘──サイモン  
80 第二次大戦下の太平洋の島々で日本軍と戦った米国のカモ──サイワッシュ  
81 第二次大戦下の太平洋で米兵を癒し、救い、基地復旧にも努めたイヌ──スモーキー  
82 南アフリカの動物施設で見事な「脱走」を繰り返すアナグマ──ストッフェル  
83 第一次大戦を前線で戦い、米国で最多の勲章を受けたイヌ──スタビー  
84 優れた聴覚でペルシャ湾の機雷除去に努めたハンドウイルカ──タコマ  
85 和歌山電鐵貴志駅の「駅長」などを務めた世界的ネコ──たま  
86 食肉加工される寸前で大脱走した2頭の子ブタのきょうだい──タムワース・トゥー(タムワースきょうだい)  
87 密猟者に角を切り落とされたあとも生き延びた初のサイ──タンディ  
88 重度の自閉症の少女の心を解きほぐし、その画才を開花させたネコ──スーラ  
89 第一次大戦で沈没しゆくドイツ艦船から脱出したブタの物語──ティルピッツ  
90 感染症流行で孤立する町を救ったアラスカ「犬ぞり」チームのリーダー犬──トーゴー  
91 第二次大戦中、ナチスに翼を狙撃されてもレジスタンスを遂行した伝書鳩──トミー  
92 オーストラリア大陸を初めて周回した航海者の相棒を務めたネコ提督──トリム  
93 ハリウッドでもカンヌでも脚光を浴びた演技派映画スター犬──アギー  
94 第二次大戦で3度も「撃沈された艦船」から生還したネコ──アンシンカブル・サム(不沈のサム)  
95 流麗な演技で数々の世界記録を樹立した天才馬術馬──ヴァレグロ  
96 モーツァルトが愛した、楽曲をほぼ完璧にさえずるムクドリ──フォーゲルシュタール  
97 第一次大戦でドイツ軍に最後まで屈しなかったウマ──ウォリアー  
98 虐待され重い障害を抱えながらも希望を捨てなかったイヌ──ウィーリィ・ウィリー(車いすのウィリー)  
99 第二次大戦に「ほぼ人間扱い」で参戦し、連合国軍勝利に貢献したヒグマ──ヴォイテク  
100 19世紀、スーダンからフランスまで船で渡り人気者になったキリン──ザラファ

 

著者紹介

クレア・ボールディング

多数の受賞歴をもつイギリスのブロードキャスター、作家。全英No.1ベストセラーとなったデビュー作『My Animals and Other Family(我が家の動物と家族たち)』は、2012年のナショナル・ブックアワード(現ブリティッシュ・ブックアワード)のバイオグラフィー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2015年刊の第2作『Walking Home(歩いて帰ろう)』も高評価を得る。その後もベストセラーとなった児童小説3部作のほか、2018年には「世界本の日」のために『The Girl Who Thought She Was a Dog(自分のことをイヌだと思っていた女の子)』を書き下ろすなど、積極的に執筆活動を行っている。テレビ、ラジオのスポーツ番組やドキュメンタリーで25年にわたりプレゼンターとして活躍。BBCのオリンピック、パラリンピック中継で2000年アテネ大会から2020年東京大会まで6大会にわたりメインキャスターを務める。スポーツ分野における女性の活躍推進の提唱者でもあり、2022年6月、スポーツと慈善活動への貢献により大英帝国勲章コマンダー(CBE)を受章。同性のパートナーでBBCキャスターのアリス・アーノルドと2匹のネコとともにロンドン在住。

訳者紹介

白川部君江(しらかわべ・きみえ)

大学卒業後、コンピューターメーカー勤務を経てフリーの翻訳者に。訳書にゴーピ・カライル『リセット─Google流最高の自分を引き出す5つの方法』(あさ出版)、ポール・J・ザック『トラスト・ファクター─最強の組織をつくる新しいマネジメント』(キノブックス)、共訳書にマーク・スティックドーンほか『THIS IS SERVICE DESIGN DOING.─サービスデザインの実践』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。

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五七五音の定型と季語のおさめ方が俳句の要諦だ『音数で引く俳句歳時記・春』岸本尚毅 監修 西原天気 編

音数で引く俳句歳時記・春

岸本尚毅 監修 西原天気 編

 1音の季語に「蚊」がある。夏の季語で、例えば「掌やぺしやんこの蚊の欠くるなく」(加田由美)という風に使われる。またこれはかなり極端な例であるが、最長25音の季語に「童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝い日」という季語があり、某歳時記にも載っている。「どうていせいまりあむげんざいのおんやどりのいわいび」と読み、冬の季語であり、12月8日、聖胎祭のことという。例句には、遊び句風に「童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝い日と歳時記に」(正木ゆう子)がある。
 これら数ある季語が音数ごとにまとめられた歳時記があれば便利ではないかという発想のもとに本書は作られている。というのも俳句の実作では、実は最も重要な要素の一つが「音数」だからである。実をいうとこれまで類書がなかった理由の一つに、俳句という芸術ジャンルにあまりむき出しに「音数」のことを持ち出すのは無粋だという意識があったからかもしれない。ところが「音数」の問題は実作者の頭の中では、まず真っ先に気に掛かる事柄で、何事も「音数」なくして始まらない。
 監修者の俳人・岸本尚毅氏は「はじめに」の中で次のように述べている。
「俳句は五七五の定型詩です。五七五のかたちにきれいに並んだ言葉の美しさは俳句の大きな魅力です。四季折々の風物である季語を詠みこむこともまた、俳句の魅力です」
「定型と季語。俳句にとって大切なこの二つの事柄を、句作のさいには同時に考える必要があります。しかし、それが案外難しい」
 このように述べ、
「針山も見えて彼岸の尼の居間」
という高浜虚子の句が、推敲を重ねて、
「針山も見えて尼寺梅の花
に改稿された事例を引きながら、虚子がおそらく考えたであろう「彼岸」から「梅の花」に季語を替えたプロセスを推理している。この句は春の尼寺の居間に、妙に俗世的な裁縫道具の針山を遠見で見つけた感興をうたった句だが、最初の句では、「針山」と「尼の居間」が離れすぎているので、これをつなげたいため、別の季語をさがしたのではないかと推論し、「梅の花」だけでなく「八重桜」「リラの花」「雪柳」など同じ五音の春の季語を候補として考えることができると述べている。このエピソードはそこにはまる季語の「音数」が重要であることを示している。
 岸本尚毅さんの推薦文に、
「良い季語を思いついたのに、五七五の定型に合わない。
そんなときにとても重宝な俳句歳時記です。
定型を大切にしながら季語を生かす句づくりに必携」
とあるように、季語が音数ごとにまとめられた本書はとても便利な、画期的と呼んでもいい歳時記と言えるでしょう。

(担当/木谷)

 

監修者紹介

岸本尚毅(きしもと・なおき)

俳人。1961年岡山県生まれ。『「型」で学ぶはじめての俳句ドリル』『ひらめく!作れる!俳句ドリル』『十七音の可能性』『文豪と俳句』『室生犀星俳句集』など編著書多数。岩手日報山陽新聞選者。俳人協会新人賞、俳人協会評論賞など受賞。2018・2021年度のEテレNHK俳句」選者。角川俳句賞等の選考委員をつとめる。公益社団法人俳人協会評議員

編者紹介

西原天気(さいばら・てんき)

1955年生まれ。句集に『人名句集チャーリーさん』(2005年・私家版)、『けむり』(2011年10月・西田書店)。2007年4月よりウェブサイト「週刊俳句」を共同運営。2010年7月より笠井亞子と『はがきハイク』を不定期刊行。

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冷たく燃える詩情に戦慄する、衝撃の第二歌集!『霊体の蝶』吉田隼人 著

霊体の蝶

吉田隼人

 

「霊魂(プシケエ)と称ばれてあをき鱗粉の蝶ただよへり世界の涯の」
「みなそこにみなもはかげをなげかけてながるる時は永遠の影」
「蓮(はちす)いちりんみちたりて燃ゆ生き死にの条理のよそに浮かむかにみえ」

 

本書は2013年に連作「忘却のための試論」で角川短歌賞を受賞、2016年にデビュー歌集『忘却のための試論』により現代歌人協会賞を受賞した新進気鋭の歌人吉田隼人氏による第二歌集です。
本集のページをめくってまず気づかされるのは、文体の洗練です。第一歌集以上にぎりぎりまで研ぎ澄まされた文語の調べと漢語とが緊張感を孕みながら均衡し、古典的な格調の高さが感じられます。
そしてもう一つ驚かされるのが、作品に通底する世界観です。荒涼たるこの世界に生きる苦悩がモチーフとなり、彼岸の森閑とした世界へのあこがれと、此岸での時に毒々しいまでに華やかで劇的な苦しみとが、やはり作品の中に緊迫しながら同居しています。
このことは、西田幾多郎の文章をエピグラフとした作品群をはじめとして、哲学用語が違和感なく歌われていることの理由でもあって、徹底的に厳しい内省を強いたうえで認識された明澄な世界観――伝統的に理想とされてきた「幽玄」に近い境地――がかくも美しく表現されていることは奇跡的といっても過言ではないでしょう。
冷たく燃える詩情を是非ご堪能ください。

(担当/渡邉)

 

[収録歌より]

うちそとのかなしみのごと風すさび身熱(しんねつ)はただ吹かるるばかり
灯もひとつともしておきぬ たましひのあくがれいづる夜(よ)と知りしかば
生きて在る罪をおもへば山桜うすくれなゐに黙(もだ)してばかり
ともしびのゆらぎのこころ安からずこの世のよその風に吹き消(け)ぬ
こころみだるる陽気のさなか希死の蝶うかみつ消えつ花にただよふ
たまのをのもゆらに鳴りてしづまりしこころにぞなほもゆる火のたま
ふかくれなゐの腹みせて藻のまに消ゆるゐもりのいのち致死の毒もつ
目覚めとは断念の謂(いひ) 春の雪ふりつむさなか駒よいななけ
闇に眼はいよいよ冴えて宙空に息詰まるほど花のまぼろし
みづからを赦しえざりし夜の涯のラムプに焼けて蝶か詩稿か

[「あとがき」より]

パンデミック以前はいちおう自分のなかでルールを決めて歌を作っていました。能う限り文語を用いること、「われ」「わが」「吾」といった語を用いないこと、助詞の「が」を主格で用いないこと、内面の空虚と肉体の荒廃とを『試論』より洗練されたかたちで表現すること、など。ルールに反した歌および性に関する表現を含む歌はほぼすべてこの集からは落としました。
中井英夫が『黒衣の短歌史』に採録した「光の函」という吉井勇釈迢空について触れた文章で、意味の追求から解放され、空虚ななかにただひたすら光を湛えただけの函のような歌を称揚し、また別の箇所でそうした歌の詠み手として浜田到を挙げていたことがこのような集を編む気持ちにさせたようなところがあります。

 

目次

内心の春
のちのこころの
瞑想録(レ・メディタシオン)
全休符
アンチ・ノスタルジア
二十歳(はたち)より先は晩年
穢土に春
青の時代
結晶嗜癖(クリスタロフィリア)
永遠なるものの影
Self-Destruct System
やまぶきのしみづ
建築の寓意
勝ち逃げの自殺
駒よいななけ
うたびとの墓
抹消と帝政

Bibliographie
あとがき

 

著者紹介

吉田隼人(よしだ・はやと)

1989年、福島県生まれ。県立福島高校を経て、2012年に早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系卒業。早稲田大学大学院文学研究科フランス語フランス文学コースに進み、2014年に修士課程修了、2020年に博士後期課程単位取得退学。高校時代より作歌を始め、2013年に第59回角川短歌賞、2016年に第60回現代歌人協会賞をそれぞれ受賞。著書に歌集『忘却のための試論』(書肆侃侃房、2015年刊)、『死にたいのに死ねないので本を読む』(草思社、2021年刊)。

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破綻国家・北朝鮮がなぜミサイルを撃ちつづけられるのか?『ラザルス 世界最強の北朝鮮ハッカー・グループ』ジェフ・ホワイト著 秋山勝訳

ラザルス

――世界最強の北朝鮮ハッカー・グループ

ジェフ・ホワイト著 秋山勝訳

日本政府が名指しで非難、注意喚起をうながした「ラザルス」グループとは?

 昨年10月、警察庁金融庁・内閣サイバーセキュリティ―センターが連名で、「北朝鮮の下部組織」としてのハッカー集団「ラザルス」について名指しで非難した。このハッカー集団が奪取した暗号資産などの被害総額は800億円とも1300億円ともみられている。ラザルスの秘匿された行動の痕跡を詳細に追いかけたのが本書である。
「ラザルス」の名が一躍知られるきっかけとなったのは、2014年のソニー・ピクチャーズエンタテインメントへのハッキング事件。膨大な量のメールや個人情報が晒され、未公開映画が流出するという事態となった。2016年にはバングラデシュ中央銀行がハッキングされている。さらにワナクライと呼ばれるランサムウエアが世界中にばらまかれ、イギリスの医療システムが攻撃、甚大な被害が発生。そして現在では、世界中の巨大な暗号資産が次々に食い物にされている。こうして奪取された金は、フィリピンやマカオなどを舞台に、事情を知らない人間まで利用するという巧妙な手法によって洗浄(ロンダリング)されていた。本書では、これらの驚くべき実態が次々と明らかにされていく。

それはもはや軍事組織。選び抜かれた精鋭サイバー兵士たちが世界を食い荒らす。

 ラザルスの上部組織と特定されている「北朝鮮」は、経済的に破綻しているにもかかわらずなぜ存続できているのか。その資金源はどこにあるのか? かつてスーパーノート(偽100ドル札)や覚醒剤の製造が取りざたされたが、それらが身をひそめると入れ替わるようにハッキングが始まっている。
 本書は北朝鮮国内でサイバー兵士のようにハッカーを育て上げるシステムにも言及する。もはや北朝鮮ハッカー組織は軍隊と呼ぶべき恐るべき脅威でしかない。
 ラザルスの標的は世界に広がっているが、日本はその最たる好餌のひとつと見て間違いないだろう。この巨大な犯罪は、しかしつねに秘密裡に行われており、次々と新たな方法が生み出されているはずだ。本書はこうした新たな脅威について、明確な危機意識を持つうえできわめて貴重な情報に満ちた一冊である。

(担当/藤田)

 

本書目次

プロローグ ラザルスグループ

第1章 ジャックポット
キャッシュカードの束を持つ男たち
「隠者の国」の隠された一面
標的はATMのシステム・プログラム
無効にされた暗証番号
FBIが銀行に発した極秘の警告
逮捕されたのはただの「運び屋」
銀行襲撃の背後にいる者たち

第2章 破産国家
終わっていない戦争
粉飾されていた「北の楽園」
過激な孤立主義が破滅へと導く
「出身成分」という階級制度
金日成が犯した二つの誤算
性に執着した国家主席
二代目国家主席のジレンマ
強制収容所のおぞましい日々
どこから資金を調達しているのか?

第3章 スーパーノート
偽100ドル札の精度
本物よりシャープな印刷
捕まった元赤軍派・田中義三
本物の印刷機・用紙・インク
イングランドの運び屋
モスクワの北朝鮮大使館
覚醒剤の製造拠点
アメリ東海岸での一斉摘発
偽札作りをやめた真意

第4章 〈ダークソウル〉
韓国で開かれた新たな戦端
グーグル会長が見た北朝鮮の内側
コンピューター化の真の狙い
切り札は核兵器開発
支配階級に許された無制限のアクセス
ハッカー育成の選抜システム
急速に向上する攻撃能力
非対称性サイバー戦争

第5章 ハリウッドをハックする
襲われたソニー・ピクチャーズ
「これは始まりにすぎない」
金正恩が殺されるコメディ映画
システム侵入の波状攻撃
未公開映画作品を流出させる
さらされる何万通もの個人メール
「本当に北朝鮮か」という人たち

第6章 フォールアウト
ウィキリークスで暴露された個人情報
一生払い続ける情報流出の代償
その名は〈ラザルスグループ〉  
北朝鮮を甘く見たバラク・オバマ
金正日にとっての「映画」
処刑される高官たち

第7章 事前準備
反応しないプリンター
10億ドルの送金指示
極秘扱いされたハッキング 
暴かれていく襲撃の手口
裏の裏をかく戦術 
書き換えられたアクセスコード
ソニー襲撃とバングラデシュ銀行を結ぶもの

第8章 サイバースレイブ
中国に派遣された男
謎をつないだメールアドレス
実行犯の顔写真つき履歴書
北朝鮮企業のビジネスモデル
なぜ北朝鮮のために働くのか  
選り抜きのサイバー兵士たち
人質として拘束される家族

第9章 逃走迷路
五つの銀行口座
紛糾するフィリピンの公聴会
深まっていく支店長への疑惑
途切れてしまった資金の行方
マネーロンダリングの三段階

第10章 バカラ三昧
カジノに持ち込まれた現金
マネーロンダリングの第二段階
決して負けない賭け方
溶けていく金
フィリピンから中国へ

第11章 陰謀の解明
寄付を申し出る「日本人」支援者
「JICA」を騙る文書
日本と北朝鮮を結ぶ点と線
《ササキタダシ》へのインタビュー
すべてはマカオ

第12章 東洋のラスベガス
二人の中国人
金賢姫金正男
なぜクアラルンプールで殺されたのか?
それぞれの結末

第 13 章 ランサムウェア
ロンドンの病院襲撃
無限に感染拡大するランサムウェア
ウイルスの緊急停止スイッチ
脆弱性利用型不正プログラム
ブロックチェーンの痕跡 

第14章 暗号資産
見せかけの南北融和
暗号資産の恩恵
盗まれた2億3000万ドルの暗号資産
北朝鮮とつながる海運会社
暗号資産の最先端知識

第15章 さらなる強奪
金正恩ドナルド・トランプ
「最重要指名手配」
共犯者たちのネットワーク
ビジネスメール詐欺
ドバイのインフルエンサー

結び 軍事組織としてのハッカー集団

 

著者紹介

ジェフ・ホワイト(Geoff White)
イギリスを代表するテクノロジージャーナリスト。20年以上におよぶ調査報道の経歴を通じて選挙のハッキング、マネーロンダリング、個人情報の売買、サイバー犯罪の実態について報道してきた。「スノーデン事件」やイギリス最大のインターネットサービスプロバイダ「TalkTalk」のハッキング事件に関する記事でいくつもの賞を受賞。本書にもあるBBCのポッドキャスト「ラザルス・ハイスト」はイギリスのアップルポッドキャストのランキングで1位、アメリカでも上位にランクインしている。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒。日本文藝家協会会員。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ケイシー・ミシェル『クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇』、マイク・アイザック『ウーバー戦記』、サイラグル・サウトバイ『重要証人』、パンカジ・ミシュラ『怒りの時代』、リチャード・ローズ『エネルギー400年史』、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、ジェイミー・バートレット『操られる民主主義』(以上、草思社)、ティム・ウー『巨大企業の呪い』、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』(以上、 朝日新聞出版)など。

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何よりも酒場を愛する著者による、名店の蘊蓄、逸話の数々!『東京名酒場問わず語り』奥祐介 著

東京名酒場問わず語り

奥祐介 著

銀座、浅草、湯島、大塚、神田、神楽坂……。居酒屋、立ち吞み屋から、バー、蕎麦屋焼鳥屋鰻屋まで、東京の名酒場を軽妙な文章で紹介する一冊です。
本書がデビュー作となる著者、奥祐介氏は元書籍編集者で、担当する批評家・福田和也氏に「よい酒場はみんなこの人に教わった」と評された人物。
「わが酒都・大塚」の章にあるように、老舗居酒屋「江戸一」に惚れ込んで店の近くに居を構えるなど、何よりも酒場を愛し、多くの店に実際に通って親しんできた著者だからこそ描写できる、現役の店はもちろん、今はなき名店の蘊蓄、逸話の数々に圧倒されます。
そして本書のもう一つの特徴は、独自の文体です。「まえがき」は次のように始まります。「はい、ご免なさいよ。/憚りながら東京のまちで半世紀吞んだくれてるわたし――(中略)吞めるときは吞む。吞めるうちは吞む――以上、わが酒道の覚悟とオキテでありまして、自己紹介でございィ」。落語の影響が見られる、自由闊達、融通無碍な語り口がとにかく楽しいのです。
「せんべろ」と呼ばれる大衆酒場や立ち吞み屋から、貴重な一杯を供してくれる銀座のバーまで、酒場の魅力を十二分に伝える本書は、読むだけでも吞みたくなること間違いなしですが、実際に店を巡る際のガイドブックとしても最適です。巻末には本書に登場するのべ433店(!)の一覧を併録。是非ご一読ください。

(担当/渡邉)

 

本文より

昼酒。
いいねぇ。大好き。
サラリーマンがそろそろランチを終えて席を立つころ、入れ違いにドアを押す。
「へへ、悪いね。あっしはこれから一杯やらせてもらうよ」なんて心でつぶやきつつ、独酌に具合の良さそうな席をさがす。「あすこ、いいですか」……運よく窓際のふたり席を確保する。ここなら相席はない。

 

目次

まえがき

東京の居酒屋四天王
昼酒礼讃
浅草呑み処案内
冷やの季節
ビール天國
銀座バー・フライ
今宵はマティーニ
スウィングしなけりゃ銀座じゃない
おぎりよ今夜も有難う
春日往来贔屓引倒
銀座の百年酒場
つまみ番付
花見電車ご休憩処案内
本家「ガールズバー
一杯入魂
酒縁あり
ガード下がお待ちかね
立呑みでも・しか
浅草宵待ち散歩
居酒屋の相思相愛
わが酒都・大塚
銀座・焼鳥街道
東京駅で逢いましょう
神田ラビリンス
湯島界隈日暮れ酒
墨東ぞめき
春のカクテル
日本酒のカナヅチ
独酌の時間

あとがき
本書に登場する名店一覧 編集部篇

 

著者紹介

奥祐介(おく・ゆうすけ)

1956年、福島生まれ。中央大学文学部哲学科卒業後、光文社に入社。書籍、雑誌の編集に携わる。元学芸編集部、編集長。退職後は、日本文藝家協会事務局長、出版文化社「社史・アーカイブ総合研究所」事務局長、法政大学大学院文学部兼任講師を経て、現在エッセイスト。日本世間学会会員。

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