草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

日本は、なぜ戦争を始め、なぜあんなひどい負け方をしたのか。『昭和史百冊』平山周吉 著

昭和史百冊

平山周吉 著

 毎年、夏が来ると終戦記念日の特集が恒例のように行われる。今年もそうなるかもしれないが、
刮目すべき本書が出たことで、少しは戦争への理解が進みそうだ。
 もう78年もたっているので、戦争経験者はほとんど鬼籍に入りつつある。この間、何万冊の戦争関連の本が出たことだろうか。このあたりで一度整理しておこうか。日本はどこで間違ったのか。あるいは負けるべくして負けたのか。いや日本は悪くない。実は実質的には勝っていたのだ。
 など、さまざまな論調の本がある。本書には400冊以上の本が取り上げられている。少ないと見るべきか、多いと見るべきか。どれも読みごたえのある本ばかりだ。著者平山周吉氏は元文芸春秋社の編集者で多くの戦争関連の本を手掛け、雑誌の編集に携わってきた。
 氏の書評文を読めば、その本を買って読みたくなる。本の勘所をよく押さえ理解している。この本で取り上げられた100冊の本、「定番書」として取り上げた300冊以上の本は昭和史と戦争史を語るためには必読の本ばかりである。回想記、評伝、戦争日記、兵隊の体験談、戦災の記録、昭和の日本人のもっとも良質な記録がここに残されている。氏の選択としていいところは学術的な研究書や「一見ちゃんとした」装いの本ではなく、あまり人に知られていない雑書の類まで目を通していることだ。あるいは近年の発見、独自の見方などまで目配りがいい。
 例えば、大岡優一郎著『東京裁判 フランス人判事の無罪論』(2012年、文春新書)と三井美奈著『敗戦は罪なのか――オランダ判事レーリンクの東京裁判日記』(2021年、産経新聞出版)があげられる。東京裁判の11人の判事の内、無罪説をとったのはインドのパール(パル)判事が有名だが、この2書で、フランスのベルナール判事とオランダのレーリンク判事がともに日本無罪論に組みしていることを知った。それぞれフランスとオランダの先進的な法律家が日本は無罪だと言っているのだ。彼らの言説をもっと日本人は知るべきではないか。
 実は戦後の言論空間というものも、ある意図、あるバイアスのもとに歪められてきた。これは平山周吉氏が書いた画期的な評伝(『江藤淳は甦える』)のテーマとなった江藤淳氏が名著『閉ざされた言語空間』で指摘した事実である。78年かかっても戦争の実態、昭和史の実態は理解されていないし、記録もされていないのかもしれない。
 今も日本では新聞・テレビによるプロパガンダ・洗脳が行われているかもしれない。われわれがもっと気づくべきなのは、書きとどめられた細部の一点であり、それには書籍は最も適している。昭和史の総合ガイドとして、読書案内として本書は多くの読書愛好家に勧められる本である。

(担当/木谷)

 

著者紹介

平山周吉(ひらやま・しゅうきち)

1952年東京都生まれ。雑文家。慶応義塾大学文学部国文科卒。雑誌、書籍の編集に携わってきた。昭和史に関する資料、回想、日記、雑本の類を収集して雑読、積ん読している。著書に『昭和天皇「よもの海」の謎』(新潮選書)、『戦争画リターンズ――藤田嗣治アッツ島の花々』(芸術新聞社、雑学大賞出版社賞)、『江藤淳は甦える』(新潮社、小林秀雄賞)、『満洲国グランドホテル』(芸術新聞社、司馬遼太郎賞)、『小津安二郎』(新潮社)がある。boid/VOICE OF GHOSTより刊行中のkindle版『江藤淳全集』責任編集者。

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なぜ数学者には黒板が必要不可欠なのか? 『数学者たちの黒板』ジェシカ・ワイン著 徳田功訳

数学者たちの黒板

ジェシカ・ワイン著 徳田功訳

誰もが、かつて黒板に板書された授業の内容をノートに写して勉強した経験があると思います。その意味で黒板は身近とも言えますし、一方である時期を過ぎれば疎遠になってしまうものでもあります。そんな黒板は、数学を研究する人にとって、実は私たちの想像以上に重要な存在なのです。本書は、普段垣間見ることの少ない数学者の黒板を写真に写し、その数式を書いた数学者のエッセイを収めた、異色の数学エッセイ×黒板写真集です。

黒板はなぜ数学者にとって重要なのでしょうか。それは、「黒板に書くとき、私の中では、五感が総動員される。チュークの感触や音を感じ、チョークの粉の匂いを嗅ぎ、『黒板への書き込み』が、紙面への書き方とは違うことを知る」という人がいるように、黒板は数学者自身の身体の延長のようなものだからだと言えそうです。時間をかけて数式を展開していくことが思考を整理し、さらにほかの研究者たちと議論を共有するツールともなっているのです。「その長い歴史にもかかわらず、黒板は、数学について考え、伝達するための比類なきテクノロジーだ 」という言葉が、黒板のツールとしての洗練度を象徴しています。
それ以外にも、「黒板は数学者にとって真の魔力を持つ対象だ! 」「私は黒板が絶対になくならないでほしい。もしそうなったら、数学にとって大きな損失になるだろう」「黒板が私の人生を変えたと言っても過言ではない」「黒板は楽観主義を生み出す」「ホワイトボードは私にとってそこまで魅力的ではない」「寝室に黒板を備え付けるべきだと妻を説得し、実際にそうした 」……など、とにかく熱い黒板への思いがつづられていて、数学に興味のない方でもその想いがじかに伝わってくるものになっています。

本書に取り上げられているのは、アラン・コンヌ、ミーシャ・グロモフ、アンドレ・ネヴェス、カソ・オクジュ、クリスティーナ・ソルマニ、テレンス・タオ、ギルバート・ストラング、ヘルムート・ホーファー、スン=ユン・アリス・チャンといった数学界で名声をすでに得ている人に加えて、これからの数学界を担う活力にあふれる新人も含め、実に100以上の黒板と、その黒板に寄せた数学者の言葉が収められています。

代数学に興味のある人は言うまでもなく、黒板で授業をしている教育関係者の方、そしてかつて黒板で学んだことのあるすべての人に、本書をおくります。

(担当/吉田)

 

「テレンス・タオ」

 

「時枝正」

「エレーヌ・エスノー」

 

著者紹介

ジェシカ・ワイン(Jessica Wynne)

写真家、1972年生まれ。ファッション工科大学写真学科准教授。1999年にイェール大学芸術学部修士号を、1994年にサンフランシスコ芸術学院で学士号を取得。彼女の作品は、「 Turn Shake Flip」(Celebrate Contemporary Art, Eyestorm Books)(2001)、「 25and Under: Photographers」(W.W. Norton & The Center for Documentary Studies at Duke University)(1996)などの書籍にも収録されている。自身の作品はモルガン・ライブラリー、サンフランシスコ近代美術館、カルティエ現代美術財団の永久コレクションに収蔵されており、ミラノ・トリエンナーレ、ホイットニー美術館、クリーブランド現代美術館、アートバーゼルなどで展示された。

訳者紹介

徳田功(とくだ・いさお)

立命館大学理工学部機械工学科教授。筑波大学にて物理学専攻。東京大学にて博士号(工学)取得。著書に『機械力学の基礎』(共著、数理工学社)、訳書に『不確実性を飼いならす』(白揚社)、『インフィニティ・パワー』(丸善出版)、『同期理論の基礎と応用』(丸善出版)など。

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平和とは、非暴力に憎み合うこと 『戦争と交渉の経済学 人はなぜ戦うのか』クリストファー・ブラットマン著 神月謙一訳

戦争と交渉の経済学

――人はなぜ戦うのか

クリストファー・ブラットマン著 神月謙一訳

 

◆リアリズムに基づき「なぜ人は戦うのか」を理解し、戦争を避ける方法を模索する

 ウクライナへのロシアの侵攻、アフリカや中東での内戦、さらには北朝鮮のミサイル発射や、台湾を巡る中国の発言など、世界では緊張が高まり、戦争や小競り合い、力を誇示しての恫喝が増加しているようにも見えます。私たちはこの事実をどのように捉えるべきなのでしょうか。非暴力的な決着へといたるために、何かできることはないのでしょうか。本書は、内戦やギャングの抗争などのさまざまなレベルの戦いについて、現場への介入も含めた研究を行ってきた政治経済学者が書いた、戦争を理解し、平和への道を探るための必読書と言える本です。
 暴力や戦争については、数十年にわたり、経済学や政治学、心理学で研究され、さらには現実世界での介入の知見が蓄積されてきました。そこからは、いくつもの直観に反する洞察が得られています。
その1つが、「人々はめったに戦わない」ということ。世界には何百万もの敵対する集団の組み合わせがありますが、暴力に発展するのはそのごく一部に過ぎません。ほとんどの敵同士は、取引で何らかの妥協をし、非暴力的に互いを憎み合うことを選択しています。理由は簡単で、戦争はコストがかかり過ぎるから。戦争は、利害の対立を解決するには最悪の方法なのです。
 2つ目の直観に反する洞察は、「戦争の原因は少ない」ということです。本書では、戦争の原因が、たった5つに類型化できることを示しています。取引を拒絶し、大き過ぎるコストも厭わず戦争に突入する原因は、5つしかないというのです。
 では、どうすれば平和は実現するのでしょう。本書には、敵対する集団同士が平和を望んでいる場合には、驚くほど簡単に暴力は終結し、ギャング同士でさえもそれを行っていることが示されています。より困難な状況下でも、先の「5つの原因」に取り組むことで、暴力の動機を減らし、取引に向かう動機を増やせることが、実例とともに明らかにされます。

◆世界の頭脳が推薦する、いま読むべき本

 本書には数多くの推薦の言葉が寄せられています。

「ブラットマンは偉大なストーリーテラーであり、その洞察は我々全員にとって重要である」
――リチャード・セイラーノーベル経済学賞受賞者。『NUDGE 実践 行動経済学』著者)
「ブラットマンは、経済学や政治学の分析手法を、暴力に悩まされたコミュニティでの広範な研究に応用することで、紛争の問題に重要な新しい視点を提供している」
――ロジャー・マイヤーソン(ノーベル経済学賞受賞者)
「最も重要なトピックに関する、最も重要な本」
――タイラー・コーエン(経済学者。『大格差』著者)
「ブラットマンは、暴力は人間の本質の不可分の一部であると主張したり、人類は戦争への性向をほとんど克服したと宣言したりする無用な二項対立を避け、人間社会が紛争を解決するためにいかにさまざまな戦略を駆使しているか、そしてなぜこうした努力が時としてつまずくのかを説明する」
――ダロン・アセモグル(経済学者。『国家はなぜ衰退するのか』著者)
「経済学者は、貧しい国の人々は毎日、自分たちが貧しいことを心配しながら目覚めていると想像している。そうかもしれないが、もっと根本的には、彼らは不安定で暴力にさらされているのだ。この最も基本的な人間の問題を前景化することは、今日の世界を理解するために不可欠である」
――ジェイムズ・A・ロビンソン(経済学者。『国家はなぜ衰退するのか』著者)

 

目次より

序章
「なぜ殺し合うのか」という問いに直面するとき
暴力はどれほど大きな問題か
戦争は例外であり、通常は選択されない
なぜ最も憎悪する敵同士でも戦争を避けるのか
戦争が起きる5つの理由

第1部 戦争を引き起こすもの

第1章 人々はなぜ戦いを避けるのか
犯罪組織でさえ抗争を避けビジネスを優先する
ゲーム理論が示す「戦わないという戦略」の正しさ

第2章 抑制されていない利益
武装勢力の元司令官が語った「おとぎ話」
独裁者や寡頭独裁者はなぜ問題となるのか
アメリカ独立革命の不名誉な側面
「抑制されていない私的利益」はどう働くか
「抑制と均衡」は権力者のインセンティブを変える

第3章 無形のインセンティブ
戦いでしか得られないもののために戦う
義憤――不公正への抗議そのものに喜びを感じる
道義的憤りが交渉領域を大幅に縮小させる
名誉と威信――命を危険にさらしても得たいもの
イデオロギー――理念のため頑なに妥協を忌避する
暴力そのものの喜びは無形のインセンティブ
妥協を拒んで交渉領域が狭まることの意味

第4章 不確実性
ギャングのリーダーが自分の強さを誇示する理由
敵と味方の実力差を評価する際の不確実性
ブラフと私的情報は不確実性をより大きくする
ライバルが多数いると評判はより重要になる
アメリカ対サダム・フセイン――そこにあった不確実性

第5章 コミットメント問題
予防戦争――敵の台頭を阻止するための戦争
第一次世界大戦は予防戦争だったか
アテネ対スパルタのコミットメント問題
パイ図で考えるコミットメント問題の論理
ジェノサイド――少数派台頭への恐怖が暴走するとき
内戦が長引きやすいのもコミットメント問題のせい
再びイラクへ――不確実性とコミットメント問題
「5つの原因」が重なり合い交渉領域を狭めた

第6章 誤認識
アインシュタインフロイトの往復書簡
「速い思考」に働く心理的バイアスの数々
自分に対する誤認識――自分の能力を過信する
他者を誤認識する――誤った投影と誤った解釈
集団での意思決定に紛れ込むバイアス
誤認識と激情の恐ろしい相互作用
5つの論理を集約し診断ツールとして使う

第2部 平和をもたらす術

第7章 相互依存
競争を平和裏に処理するための4つの方法
宗教対立が起こりづらい都市の特徴
経済的相互依存は交渉領域を広くする
社会的な交流は分極化を抑制する
遠くの人との道徳的、文化的な結び付き

第8章 抑制と均衡
内戦が終結し優れた大統領が就任すれば万全か
なぜ安定した社会は多くの中心を持つのか
多中心的な体制になれば戦争は起こりづらい
抑制と均衡は権力との長い闘争の末に実現する

第9章 規則の制定と執行
犯罪組織間で取り決められた暴力を抑制する制度
国家――暴力を抑制し鎮定する強力な存在
無政府状態で暴力を抑制する「名誉の文化」
無政府状態にある国際社会での制度の意義

第10章 介入
カリスマ人権活動家の活躍と失敗
戦争という「厄介な問題」に介入する5つの手段
懲罰――経済制裁に効果はあるか
執行――平和維持部隊の派遣などの効果
調整――和平協議の仲立ちをする調停者
社会化――自制、他人への共感、理性的判断など
インセンティブ――戦わないことの価値を高める

第11章 戦争についてのよくある議論の真偽
戦争に関する直観的理解の妥当性を評価する
女性がリーダーになれば戦争は減るか
貧困をなくせば紛争は防げるか
その他の直観的理解を裏切る事実
戦って解決させる方がよい、という主張

結論 漸進的平和工学者
戦争の一挙解決を夢想することの危うさ
平和工学者のための十戒
    Ⅰ.容易な問題と厄介な問題を見分けなさい
    Ⅱ.壮大な構想やベストプラクティスを崇拝してはならない
    Ⅲ.すべての政策決定が政治的であることを忘れてはならない
    Ⅳ.「限界」を重視しなさい
    Ⅴ.目指す道を見つけるためには、多くの道を探索しなければならない
    Ⅵ.失敗を喜んで受け入れなさい
    Ⅶ.忍耐強くありなさい
    Ⅷ.合理的な目標を立てなければいけない
    Ⅸ.説明責任を負わなければならない
    Ⅹ.「限界」を見つけなさい

謝辞

参考文献

原注

 

著者紹介

クリストファー・ブラットマン(Christopher Blattman)

シカゴ大学ハリス公共政策大学院教授。同校の開発経済センターの副センター長を務めている。経済学者、政治学者であり、その暴力、犯罪、貧困に関する世界的な研究は、ニューヨークタイムズワシントンポスト、ウォールストリートジャーナル、フィナンシャルタイムズ、フォーブス、スレート、Vox、NPRなどで広く取り上げられている。

訳者紹介

神月謙一(かみづき・けんいち)

翻訳家。青森県生まれ。東京都立大学人文学部卒業。国立大学の教員を13年間勤めたのち現職。主な訳書に『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』(草思社)、『微生物・文明の終焉・淘汰』、『暇と退屈の心理学』(共にニュートンプレス)、『デジタル・エイプ』(クロスメディア・パブリッシング)、『格差のない未来は創れるか?』(ビジネス教育出版社)、『INSPIRED』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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世界最古の木造建築「法隆寺」のすべてを解説した名著が、ハンディサイズに!『【普及版】法隆寺 世界最古の木造建築』西岡常一・宮上茂隆 著 穂積和夫 イラストレーション

【普及版】法隆寺

――世界最古の木造建築

西岡常一・宮上茂隆 著 穂積和夫 イラストレーション

法隆寺が世界の最古の木造建築であることは周知の事実ですが、その価値は古いということにあるのではなく、法隆寺に込められた、古代日本人がもっていた技術や知恵を知ることができることにあるといえます。名門宮大工で法隆寺の大工棟梁だった故・西岡常一氏と、古建築の第一人者故・宮上茂隆氏による正確でわかりやすい文章に、穂積和夫氏の精密なイラストをあわせて法隆寺のすべてを明らかにした名作が、待望のハンディサイズになりました。これまでは大きくて現地へ持ち運ぶことができなかったのが、普及版はコンパクトなので実物を見ながら手元で詳しい解説を見ながら鑑賞することが可能になりました。

また、本書は法隆寺について分かるのみならず、日本建築についての基本的な理解が得られるように内容が充実しています。当時の技術で、どうやってあんなに高い構造物を立てることができたのか、大きく伸びる庇の重さをどのようにそれぞれの部材が支えているのか、内部に施された壁画は何を表そうとしているのか、そういった細部が余すところなく解説されているのです。日本建築史について学びたい建築学生にはもちろんのこと、イラストやアニメーションにおいて、古建築の設定を知りたい時の参考資料としてもこれほどわかりやすいものはありません。日本建築に幅白く興味をお持ちの方に、ぜひお手に取っていただければと思います。

(担当/吉田)

 

著者紹介

西岡常一(にしおか・つねかず)

1908年奈良県に生まれる。1995年没。西岡家は、鎌倉時代にはじまる法隆寺四大工の一人、多聞棟梁家につながる宮大工の家柄。明治のはじめ祖父常吉氏の代に法隆寺大工棟梁を預かる。常一氏は幼少より祖父常吉氏から宮大工の伝統技術を教え込まれ、1934年に法隆寺棟梁となる。20年間にわたった法隆寺昭和大修理で、古代の工人の技量の深さ、工法の巧みさに驚嘆したという。法隆寺金堂、法輪寺三重塔、薬師寺金堂、薬師寺西塔などの復興の棟梁として手腕をふるった。文化財保存技術者、文化功労者斑鳩町名誉町民。著書に『木のいのち木のこころ(天)』(草思社)『蘇る薬師寺西塔』(共著、草思社)『木に学べ』(小学館)『法隆寺を支えた木』(共著、日本放送出版協会)『斑鳩の匠・宮大工三代』(共著、徳間書店)ほか。

宮上茂隆(みやかみ・しげたか)

1940年東京に生まれる。1998年没。東京大学工学部建築学科卒業。論文「薬師寺伽藍之研究」で工学博士号を取得。1980年、竹林舎建築研究所を開設。日本建築の歴史研究と復元設計に専念した。歴史研究では古代寺院建築、中世住宅建築、近世城郭建築、数寄屋と茶室など幅広く、建築設計では国泰寺三重塔(富山県)掛川城天守(静岡県)大洲城天守(愛媛県)などがある。主要論文に「豊臣秀吉築造大坂城の復原的研究」「安土城天主の復原とその史料に就いて」主要著書に『大坂城』『模型・薬師寺東塔』『復元模型・安土城』『薬師寺伽藍の研究』(いずれも草思社)などがある。

イラストレーター紹介

穂積和夫(ほづみ・かずお)

1930年東京に生まれる。東北大学工学部建築学科卒業。長沢節氏に師事して絵を学ぶ。松田平田設計事務所をへてイラストレーターに。アイビーファッションや『間違いだらけのクルマ選び』(徳大寺有恒著)のイラストなど、おもにファッションや自動車などの分野で活躍してきたが、現在では本シリーズに代表されるように日本の歴史的な建造物や街並み、歴史風俗などを描くことに意欲的に取り組んでいる。昭和女子大学非常勤講師。著書に『日本の建築と街並みを描く』(彰国社)『大人の男こそ、オシャレが似合う』(草思社)『絵本アイビーボーイ図鑑』(愛育社)『自動車のイラストレーション』(ダヴィッド社)ほか多数。

Amazon:【普及版】法隆寺 世界最古の木造建築:西岡常一・宮上茂隆 著 穂積和夫 イラストレーション:本

楽天ブックス: 普及版・法隆寺 - 世界最古の木造建築 - 西岡 常一 - 9784794226716 : 本

売春、ドラッグ、酒、犯罪、戦争、人種差別、民族差別、リンチ――。二十世紀日米ジャズの裏話満載! 『欲望という名の音楽 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ』二階堂尚 著

欲望という名の音楽

――狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ

二階堂尚 著

本書のカバー写真は、戦後の横浜を舞台にした黒澤明監督の『天国と地獄』(1963年)からのカット。山﨑努が演じる研修医が、ジャズ・バンドが大音量で演奏し人々が踊り狂う喧騒にまぎれて、売人からヘロインを入手するシーンです。実際、戦後のある時期まで、横浜は日本で最も質のいい「ブツ」が手に入る街でした。なぜ横浜なのでしょうか?
ジャズの歩みを丹念に辿れば、この音楽が二十世紀アメリカの裏面史と深い関係があったことがわかります。わが国においてジャズが本格的に盛んになったのは敗戦後ですが、戦後初期の日本のジャズもまた、人間のどす黒い「業」とともにあったのです。
RAA(特殊慰安施設協会)、米軍放送、Vディスク、伊勢佐木町モカンボ・セッション、ハナ肇植木等守安祥太郎秋吉敏子、ヘロイン、ヒロポンマイルス・デイヴィスチャーリー・パーカー、「jass」、カンザス・シティニューオリンズ禁酒法、「朝日の当たる家」、クレージーキャッツ山口組美空ひばり、シカゴ、アル・カポネ、『ゴッドファーザー』、ベニー・グッドマン、ジョン・ハモンドフランク・シナトラガーシュウィン、『ポギーとベス』、「奇妙な果実」、ビリー・ホリデイ……。
社会の暗部が垣間見える興味深いエピソードに満ちた「二十世紀日米ジャズ裏面史」を是非ご堪能ください。

(担当/渡邉)

 

[目次]
第一章 ジャズと戦後の原風景
ジャズとセックスは手を取って歩みゆく
ビ・バップとGIベイビー
横浜の雑居ビルで記録された「地下室の手記
日本のビ・バップの二人の先駆者――守安祥太郎秋吉敏子

第二章 みんなクスリが好きだった――背徳のBGMとしてのジャズ
ジャズとドラッグはどこで出会ったのか
クスリと音楽をめぐる幻想と真実
売春のBGMとしてのジャズ
「セックス」という名の音楽
非常時における「快楽」と「不道徳」の行方
ニューオリンズに落ちた売春婦の哀歌
歌詞から浮かび上がる「WASP対非WASP」の構図

第三章 戦後芸能の光と影――クレージーキャッツ美空ひばり
戦後エンターテイメントの二卵性双生児
クレージーキャッツと高度成長時代
ジャズと「反社」と芸能界
美空ひばりの戦後――アメリカに背を向けた天才シンガー
日本初のコミック・バンドと美空ひばり
山口組三代目と美空ひばり、その宿命的関係
美空ひばりはなぜ日本語でスタンダードを歌ったのか

第四章 ならず者たちの庇護のもとで――ギャングが育てた音楽
「狂騒の二〇年代」のシカゴとジャズ
ピアニストが見た「ジャズの偉大なパトロン
黒人を志願したユダヤ人ジャズマン
悪徳政治家の懐で生まれたジャズ
ジャズと原爆――カンザス・シティヒロシマナガサキ
カンザス・シティとニューヨークをつないだ男

第五章 栄光と退廃のシンガー、フランク・シナトラ
「ザ・ヴォイス」と呼ばれた男がジャズにもたらしたもの
ゴッドファーザー』で描かれたシナトラの虚構と真実
「二〇〇人を殺した男」とフランク・シナトラ
セレブリティたちの闇のネットワーク
ボサ・ノヴァの神」としてのフランク・シナトラ

第六章 迫害の歴史の果てに――ユダヤ人と黒人の連帯と共闘
ビル・エヴァンスユダヤ人か、あるいはユダヤ人とは誰か
「幻想の黒人」のイメージを身にまとったユダヤ
「スウィングの王」と「史上最強のジャズ・レーベル」のオーナー
「黒人性」と「ユダヤ性」のハイブリッド・ミュージック
『ポーギーとベス』に表現された「音楽の坩堝」
三人のユダヤ人と最高のジャズ・シンガーが生み出した名曲

 

著者紹介

二階堂尚(にかいどう・しょう)

文筆家。1971年、福島県浪江町生まれ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業後、フリーの編集ライターとなる。カルチャーメディア「ARBAN」にて音楽コラムを連載中。

Amazon:欲望という名の音楽 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ:二階堂尚 著:本

楽天ブックス: 欲望という名の音楽 - 狂気と騒乱の世紀が生んだジャズ - 二階堂 尚 - 9784794226426 : 本

友人や師、両親との交流を自叙伝的に描く渾身の傑作批評集! 『放蕩の果て 自叙伝的批評集』福田和也 著

放蕩の果て

――自叙伝的批評集

福田和也

「言葉はどこからもやって来ず、私は言葉を探し、追いかけている」
食って飲んで酔っ払い、月に三百枚もの原稿を書いた批評家・福田和也氏は、現在62歳。病に蝕まれ、食べられなくなり、ついに言葉も遠ざかってしまったと打ち明けます。
「遊びほうけていた高校生の時から今日にいたる、自分の来し方を思い返した。今、自分を支えているものは何かと考えた」(あとがき)と、これまで耽溺してきた文学、演劇、映画、美術、音楽、酒、料理、旅の記憶を回想しながら、友人や師、両親との交流を自叙伝的に描いたのが本書です。
「日本史探訪」、『仁義なき戦い』、三島由紀夫『わが友ヒットラー』、つかこうへい、ミッシェル・ポルナレフイギー・ポップ芥川龍之介『河童』、市倉宏祐、ドゥルーズ=ガタリ『アンティ・エディップ』、ドリュ・ラ・ロシェル『ジル』、ジョルジュ・ベルナノス、永井荷風金子光晴ヘミングウェイ『移動祝祭日』、澤口知之江藤淳、坂本忠雄、石原慎太郎白洲正子坪内祐三石原莞爾北大路魯山人、カラヴァッジョ、松田正平、洲之内徹野見山暁治横尾忠則三浦朱門遠藤周作、セルジュ・ゲンスブールアンドレ・ケルテス『読む時間』、小林旭美空ひばりクリムトツヴァイク獅子文六宇能鴻一郎和辻哲郎丸山眞男清水幾太郎福田恆存山本七平中野重治……。
真実の文章を書くことに対して、前向きに、単純に生きるために書かれた、「復活への祈りの書」を是非ご堪能ください。

(担当/渡邉)

 

[「あとがき」より]
批評は、一個の独立した作品である。
文芸なり、音楽なり、美術なりの鑑賞を出発としながら、感想が批評になる時、批評は媒体から完全に独立した、文芸、音楽、美術、その物になる。
批評ほど、多くの手法やディスクールを必要とするジャンルはない。これは批評が体験の再現ではなく、体験それ自体であるという本質に由来する。恋愛小説、戦争小説は存在し得ても、恋愛批評や戦争批評は存在しない。批評は恋愛自体であり、戦争自体であるからだ。
ゆえに批評が文芸に持つ力は、啓蒙的な忠告や情報の提供ではなく、作品として発する力である。
作品としての性格を持ちながら、批評は最終的に一個の認識である。批評文が様々な様式を消費して世界を作るのは、外部の支えや媒体を用いては届かない認識を求めるからだ。というよりも、この認識への意志によってのみ、批評は作品であることができる。

 

[目次]
第一部 放蕩の果て
私の独学ことはじめ
江藤淳氏の死に際して痛切に感じたこと
妖刀の行方――江藤淳
食うことと書くこと
絵画と言葉
三浦朱門の『箱庭』
Let It Bleed――料理人・澤口知之
声――フランスと日本と
小林旭という旅
世紀末ウィーンをめぐる考察――技術、耽美、人道
獅子文六の内なる日本
『味な旅 舌の旅』――宇能鴻一郎
「目玉だけになるのが難しいのよ」――白洲正子
文学という器――坪内祐三
最後の冒険――石原慎太郎

第二部 思惟の畔にて
鎖国和辻哲郎
『開国』丸山眞男
『私の心の遍歴』清水幾太郎
『総統いまだ死せず』福田恆存
『文化防衛論』三島由紀夫
『私の中の日本軍』山本七平
「雨の降る品川駅」中野重治

あとがき

 

著者紹介

福田和也(ふくだ・かずや)

1960年、東京都生まれ。批評家。慶應義塾大学名誉教授。著書に『日本の家郷』(三島由紀夫賞)、『甘美な人生』(平林たい子文学賞)、『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』(山本七平賞)、『悪女の美食術』(講談社エッセイ賞)、『福田和也コレクション1 本を読む、乱世を生きる』、『世界大富豪列伝 19‐20世紀篇』、『世界大富豪列伝 20‐21世紀篇』、『保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである』ほか多数。

Amazon:放蕩の果て 自叙伝的批評集:福田和也 著:本

楽天ブックス: 放蕩の果て - 自叙伝的批評集 - 福田 和也 - 9784794226617 : 本

海エッセイの傑作 『海のプール 海辺にある「天然プール」を巡る旅』清水浩史 著

海のプール

ーー海辺にある「天然プール」を巡る旅

清水浩史 著

海と太陽、透明感、静寂、自由――きらめく「ノスタルジック・プール」の世界へ。

北海道から沖縄、豪州まで…本邦初!野趣あふれる海のプール遊泳記 

 

【海のプールとは】

海辺の岩場を掘ったり、海を必要最小限のコンクリートで囲ったりして造られた海水プールのこと。日本国内に約20ヶ所現存し、多くは1970〜80年代に誕生。潮の干満により自然に海水が循環するプールで、その形状はみな個性的。海の青とプールの水色のコントラストやその一体感は美しく、静寂と自由に充ちている。魚影も楽しめる。

 

長年、海や島を巡る旅を続ける著者による、異色の旅エッセイ。
わずかに人手を加えて造られた海辺の天然プール(=海のプール)が、日本各地に少数ながら現存している。著者は海のプールを「気軽に泳げる場であると同時に、存在の美しさを兼ね備えた文化遺産」であると言い、そのすべてを訪ね、泳ぎます。海のプールの魅力とは何なのか。心の澱(おり)が洗い流され、生きる悦びが込み上げてくる珠玉の一冊です。

(担当/貞島)

 

目次より

はじめに

第1章 海のプール 海岸編

プール「はしご」旅
「猫地獄」からのダイブ――鴨ヶ浦塩水プール(石川県輪島市
「海の喫茶店」を愉しむ――米ノ海水浴場(福井県越前町
三つ葉のような三つのプール――間人親水プール(京都府京丹後市

ローカル線沿いのプール巡礼
“一〇〇メートルの極浅”を平泳ぎ――千畳敷天然海水プール(青森県深浦町
日本海と一体化した開放感――岡崎天然海水プール(青森県深浦町
こみ上げる寂寥――岩館海浜プール(秋田県八峰町
断崖に浮かぶ「小さな海」――侍浜海水プール(岩手県久慈市

第2章 海のプール 離島編

海のプールとその周縁
絶景、透明度…すべてが至高――あやまる岬海水プール(鹿児島県奄美市
塩化マグネシウムという海
「潮垣」は泳げるのか

プール王国の島
広々とした野性的な海空間――海軍棒プール(沖縄県南大東村
波しぶき強烈な“露天風呂”――本場海岸プール(沖縄県南大東村
波に打たれプールに落ちる愉しさ――塩屋海岸プール(沖縄県南大東村
北大東島唯一のプール――沖縄海(沖縄県北大東村
長大なプールで歴史を偲ぶ――玻名城海岸(沖縄県八重瀬町

東京の島プール
美しき二つのプール――乙千代ヶ浜(東京都八丈町
起源謎めく憩いの空間――トウシキ遊泳場(東京都大島町

第3章 海のプール 新旧探訪編

消えた海のプール
師崎プール跡(愛知県南知多町
天津プール跡(千葉県鴨川市
姥の懐マリンプール(茨城県ひたちなか市

北海道の新旧プール
安心して泳げる広大な新プール――厚田海浜プール(北海道石狩市
愉しさ満点の新スポット――元和台海浜公園・海のプール(北海道乙部町
ミニ北海道型海中プール跡(北海道八雲町)

鹿児島の絶景プール
消えた枕崎プール
最高の開放感――台場公園海水プール(鹿児島県枕崎市
「溶岩プール」は泳げるのか
海との一体感を感じる――長崎鼻海水プール(鹿児島県いちき串木野市

第4章 海のプール 番外編

一〇円プールと温泉プール
大人六〇円で贅沢なひととき――東雲市民プール(愛媛県新居浜市
冷たい温泉をどこまでも泳ぐ――津黒高原温泉プール(岡山県真庭市

真冬のプールへ
素朴さが美しいプール――平瀬海水浴場(鹿児島県十島村
野趣あふれるリゾート――磯Sea Garden IKEJIRI(静岡県東伊豆町
神に見守られた静かなプール――赤立神海水浴場(鹿児島県十島村
海に包まれた露天風呂――水無海浜温泉(北海道函館市

シドニー・プール紀行
プールの「聖地」へ
万人のためのプール
ただ海を愛するということ

おわりに

 

著者紹介

清水浩史(しみず・ひろし)

1971年生まれ。書籍編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒。東京大学大学院修士課程修了(政治学)、博士課程中退(環境学)。大学在学中から国内外の海や島を巡る旅をつづける。著書に『深夜航路』(草思社)、『秘島図鑑』『海駅図鑑』『幻島図鑑』『楽園図鑑』(河出書房新社)、『不思議な島旅』(朝日新書)などがある。

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