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この理不尽な生をいかに生きるか『万人のための哲学入門 この死を謳歌する』佐々木中 著

万人のための哲学入門

――この死を謳歌する

佐々木中 著

紀伊國屋じんぶん大賞第一回大賞受賞作『切りとれ、あの祈る手を』の著者、佐々木中による待望の書き下ろし作品です。

哲学入門と題される本書は、これまで数多く書かれてきたいわゆる哲学入門書とは趣を異にします。ギリシャ時代から時代を追って哲学史が解説されるわけではありませんし、哲学用語の説明があるわけでもありません。

そもそも私たちは哲学に何を求めているのか。憂いや悩みなく毎日を過ごしていくことができれば、哲学に興味を持つことはないでしょう。行き詰まりを感じたり、先行きに不安を抱いたりして、うまく時間が経っていかないような状況に陥った時に、はじめて私たちは真に哲学を希求するのではないでしょうか。

著者は、「哲学とは死を学ぶこと」だとして、死について徹底的に考察します。あなたは死ぬ。そして私も死ぬ。人間は生まれてくることを選べないのに、生まれてきた以上は死ななければならない。なんと理不尽なことか。そしてこの理不尽な生をいかに生きればいいのか――。

この根源的な問いに対して、まるで高僧の説教のように嚙んで含めて説き、時にこちらを煽動するかのように畳み掛けてくる文体は、まさに著者の真骨頂です。

終盤、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を引用しながら議論は深められ、真理が語られます。そして跋文であっと驚くような「燈火(ともしび)」が瞬きます。実にスリリングな啓発書である本書を是非ご高覧ください。

(担当/渡邉)

 

内容紹介

『切りとれ、あの祈る手を』の著者、
待望の書き下ろし作品!

本当に読みたかった哲学入門、誕生。
最初で、最後で、最短の一冊。

「みんな」の欲望と、あなたの欲望。「みんな」の不安と、あなたの不安。
そこから、哲学は「普遍」へとあなたを導きます。
あなたを超えたものへ。

 

【「序」より】

 ――そもそも、私にはあなたが誰なのかも全く知ることができない。

 一応、この本は「哲学入門」と題されているわけですから、何かしら哲学ということに興味がおありなのかなとは思います。しかし――、「哲学」という日本語はフィロソフィ(philosophy)を西周が翻訳したものであって、当初は「希哲学」と訳されていたとか、そもそも哲学とは「知を愛する」ことであってその動詞の用法はヘロドトスの『歴史』に出てくる小アジアのリュディアの首都サルディスを訪問したギリシャの賢人ソロンに対して国王クロイソスが述べた言葉が初出であるとされているとか、形容詞の用法はそれより古くヘラクレイトスが述べているとか、あなたはそういうことが聞きたいのではないのではないか。

 哲学入門を書くことになり、私も「哲学入門」と題する本を何十冊か読んでみました。すると、それらが大体二つのパターンに収まることがわかった。つまり、一つは「コンパクトな哲学史」とでも呼ぶべきもので、もう一つは「問題集」と呼ぶべきものです。

「コンパクトな哲学史」の方は、その名の通り圧縮された哲学の歴史の叙述です。古典ギリシャ時代から始まりカントからヘーゲル、ハイデガーへと哲学が経巡って来た歴史を短く辿り直して見せるものである。これはいわゆる大陸哲学系の著者に多いようです。

 もう一つの「問題集」の方は、「心身問題」や、「自由意志の問題」、「神の論証の問題」などの伝統的な哲学的問題を列挙し、著者が自分なりの回答を与えて見せるものです。これはいわゆる英米哲学系の著者に多く見られます。

 もちろん、そうした本を読んで勉強にならないわけではないでしょう。しかし、繰り返します。あなたはそういうことが聞きたいのではないのではないか。――この本は、そんなあなたのために書かれた本です。

 とはいえ、繰り返します。私はあなたのことを何も知らない。ですが、一つあなたのことを当てて見せましょう。どんなにあなたが隠そうとしても、あなたのことを一つだけ確実に当てられる。そのことを私は知っています。


 それは、あなたが死ぬということです。
 さて、私たちの哲学入門は、ここから始まります。

 

目次

生まれてくることを選べない
「とりあえず」と「たまたま」
哲学とは死を学ぶこと
複製の生、劣化コピーの欲望
「自分自身の死」
「死の搾取」
死と宗教
不確実な私の死
葬礼、文化の起源
儀礼の問題
「根拠律」と儀礼
「救済」と「記憶」の問題

 

著者紹介

佐々木中(ささき・あたる)

一九七三年青森県生まれ。哲学者、作家。水戸第一高校中退。東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻博士課程修了。博士(文学)。京都精華大学教員。二〇二〇年うつ病と診断され、闘病を経て現在寛解に至る。『定本 夜戦と永遠――フーコー・ラカン・ルジャンドル』(河出文庫)、『切りとれ、あの祈る手を――〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』(河出書房新社)など著書多数。訳書にフリードリヒ・ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』(河出文庫)。

Amazon:万人のための哲学入門 この死を謳歌する:佐々木中 著:本

楽天ブックス: 万人のための哲学入門 - この死を謳歌する - 佐々木 中 - 9784794227584 : 本

懐かしくて新しい健康の教科書『心と体が乱れたときは「おてんとうさま」を仰ぎなさい』小林弘幸 著

心と体が乱れたときは「おてんとうさま」を仰ぎなさい

――人生が大きく変わる自律神経のルール

小林弘幸 著

「自律神経は、ちょっとしたことで乱れてしまうもの。散らかりっぱなしの部屋、小さなウソ…。これをやったらまずいと少しでも感じるような行いを重ねていると、自律神経によくない影響が出てしまいます。逆に、ほんのちょっとずつでもいい行いを重ねている人は、自律神経が乱れず、心身ともに健康な状態を保っていけます」と著者の小林弘幸教授は語ります。

「『おてんとうさまが見ている』と思って行動することが実は自律神経をコントロールして心身の健康を守っていく―これこそが日本の老若男女、すべての人に実践してほしい健康のメソッド」であること、そして、自律神経と「陰徳を積む」ことの不思議な関係性が、本書でわかりやすく解説されています。

昔から親や先生に「おてんとうさまが見ているよ」と言われて育ってきた私たち。そんなふうに言われると、幼少期でもちょっと背筋が伸びるような気持ちになったものです。
そんな記憶があったとしても、「おてんとうさまのことなんて、最近、意識したことがなかった」という方は多いのではないでしょうか。

令和の今の時代、この言葉が使われる機会が減っているかもしれません。
でも、人は意識の持ち方で大きく変わるもの。「おてんとうさまはちゃんと自分の行動を見ているから」という思いで日々陰徳を積むようにしていけば、自律神経が整い、心と体のコンディションが整ってくるはずです。

成功や健康、幸せを心身ともにかたちづくっていくためのノウハウを、人気イラストレーターの森ゆみ子さんの愛らしいイラストとともに紹介する本書は、まさに懐かしくて新しい健康書。森さんのイラストを見ているだけでも、ふと力が抜けて幸せな気持ちになり、自律神経が整ってくるかもしれません。

太古の昔から日本人の健康を守ってきた「おてんとうさま」の存在を、ぜひこの機会に再認識してみてはいかがでしょうか。

「はじめに」より 著者からのメッセージ
私は、日中バタバタとしてあまりに忙しいときや、ストレスや焦りで自分を見失いそうなとき、よく空を見上げます。そして、“今日も空が青いなあ”“今日もおてんとうさまがしっかり輝いているなあ”といったことに意識を傾けます。すると、心と体にほんの少しの余裕が生まれ、周りの喧騒から離れて“ふっと我に返る”ことができるのです。

(担当/五十嵐)

 

目次

はじめに

PART1 
自律神経は「よい行動」で整えられる
何か「よいこと」をしようとするときは、すでに自律神経が整っている
大谷翔平選手はなぜグラウンドに落ちているゴミを拾うのか?
誰も見ていないところで行う行為が本当は一番重要なのです
因果応報。自分がやったことは、いつかすべて自分に返ってくる
ご利益は期待してもいい。「これをやっていれば、いつかいいことがある」と思っていれば、それでいい
「身の回りの小さなこと」から自分を立て直していくのが一番いい
自律神経はあなたの心と体を「ちょうどよい感じ」に調整するためのシステムです
自律神経のバランス傾向には4つのタイプがあります
人間はおてんとうさまの光でスイッチが入るようにできている
「自分はこれだけやったんだ」という努力を、誰も知らなくてもおてんとうさまは見てくれている 
『君たちはどう生きるか』が教えてくれること
「聖人君子」になろうとしなくていい。むしろ、ダメな自分、できない自分を認めてリカバリーすることのほうが大事
人生はプラスマイナスゼロ。たとえいろいろなマイナスがあっても最終的に少しでもプラスになればそれでいい

PART2 
自分を律して「よい行い」をしていると、「運」が寄ってくる
自律神経は「自分を律する」ことによって整えられる神経である
なぜ、超一流の人は「あいさつ」や「敬語」を大事にするのか
「お年寄りには席を譲る」と決めておく。自分の中でルール化しておけば、迷わないしブレない
「片づけ」は自律神経を整える基本行動である
見習うべきは「修行僧の生活」!? 自分を律するには生活の行動リズムを正すことも大切
「今日はどんないいことをしようか」と考えていると、毎日がワクワクしてくるようになる
善か悪かはそう簡単に割り切れない。どうすべきか迷ったときは、おてんとうさまに自分を照らし合わせる
おてんとうさまは、人間にとって自分を映す「鏡」のような存在なのです
日々陰徳を積み重ねていると、少しずつ「運のいい人」になっていく
「運気」をつかむには、「人事を尽くして天命を待つ」の姿勢が大事になる

PART3 
他人や周囲に振り回されずに済む「人とのつき合い方」
自律神経を乱す最大の原因は人間関係だった
人間関係を無難にこなす一番のコツは、「日光東照宮の3匹の猿」になること
本当に大切な人間関係は10人程度。合う人は合うし、合わない人は合わない。だから、人によってつき合う距離感を変えるべき
他人を期待しすぎない。他人を信用しすぎない
困っている人全員に手を差し伸べようというのは、「きれいごと」でしかない
ボランティアは、向いている人と向いていない人がいる。無理してボランティアに参加しなくても、自分なりにできることを見出して、自分なりに貢献をしていけばOK
人には4番バッタータイプもいれば、9番バッタータイプもいる。背伸びをしたり無理をしたりせず、自分が役に立てそうなところでやれる役割を果たせばいい
SNSで多くの人とつながれば、他人に振り回されて自律神経が乱れるのは当たり前。だからこそ、自分を揺らがせないためのルールを持つことが必要
自分が他人にしたことは忘れて、自分が他人にしてもらった恩は一生忘れない

PART4 
「おてんとうさま3行日記」で1日1日、自分を整える
「おてんとうさま3行日記」を毎晩の習慣にすれば、おてんとうさまに恥じない行動を取れるようになっていく
1日にひとつ、「今日はこれをやった」ということをつくる
人生はやっぱり修行。きっと、おてんとうさまはその修行の様子を見ている
人生は「敗者復活戦」。今日、失敗したとしても、明日「やり直し」ができる
「ゴール」を目指すのではなく、「スタート」を目指すようにする
おてんとうさまを仰いで今日生まれたように世界を眺めてみる
いつ死んでも後悔のない生き方ができるかどうか。それが日々の行いにかかっている

 

著者紹介

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)

1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部教授。1987年順天堂大学医学部卒業。1992年同大学大学院医学研究科を修了し、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」。著書に『自律神経の名医が教える すごい「悩み方」の技術』(草思社文庫)など多数。

Amazon:心と体が乱れたときは「おてんとうさま」を仰ぎなさい 人生が大きく変わる自律神経のルール:小林弘幸 著:本

楽天ブックス: 心と体が乱れたときは「おてんとうさま」を仰ぎなさい - 人生が大きく変わる自律神経のルール - 小林 弘幸 - 9784794227461 : 本

短歌の読み方がわかる!『はじめての近現代短歌史』髙良真実 著

はじめての近現代短歌史

髙良真実 著

本書は明治時代から2023年までに発表された作品の引用と鑑賞を含む、短歌史入門書です。

万葉集から連なる和歌というわが国のもっとも伝統的な表現形態を受け継ぎながらも、おおよそ百二十年前に与謝野鉄幹や正岡子規が先導した短歌革新運動を経て、今日の一大ブームにまで至っているのが短歌です。

この間には「短歌滅亡私論」や「歌の円寂する時」「第二芸術論」といった短歌という芸術形態を否定的に評価する考え方も唱えられました。

しかし黎明期において浪漫主義や写実主義、自然主義といった理想を掲げてシーンを席捲していった天才たちの仕事は、モダニズム、前衛短歌、学園闘争世代の短歌、「女歌」、ライトヴァース、ニューウェーブ、ポストニューウェーブと、時代ごとの社会状況の変化を反映させて、ゼロ年代、テン年代、それ以降と、今日まで途切れることなく更新されてきました。

文学というジャンルのなかでは、小説がもっとも多くの読者を得ているのはたしかでしょう。とは言え、詩歌のなかでは、短歌が特に若者を圧倒的に惹きつける魅力を持つのはなぜなのでしょうか。

期待の新鋭歌人にして評論家である著者による書き下ろしデビュー作が本書です。「短歌史とは秀歌の歴史のこと」だと位置づけているように、豊富な引用はアンソロジーとしても読んでいただけますが、歌人たちがそれぞれの生きる時代のなかで、何を感じ、考え、作品化していったか、表現の根底にひそむ謎の一端が解き明かされる点こそ本書を紐解く醍醐味です。是非ご一読ください。

(担当/渡邉)

 

内容紹介

前世紀で止まっていた「短歌史」という時計が、
ついに甦った。今が何時か、やっとわかった!――穂村弘

短歌の読み方がわかる!
明治時代からテン年代以降まで、
豊富な秀歌の引用と鑑賞、丁寧な時代背景の解説で、
短歌の流れがおもしろいように理解できる。

短歌史を知ることの何がうれしいのか。短歌史の醍醐味は、過去の短歌の読み方がわかるようになることです。どんな短歌が良いものなのか。それを時代ごとに積み重ねていくと短歌史ができあがります。短歌史とは秀歌の歴史のことです。その時代の色眼鏡をかけてみると、いままでピンとこなかった歌がおもしろく読めるようになるかもしれません。(「はじめに」より)

 

目次

はじめに

第一部 作品でさかのぼる短歌史
二〇二一年以降の短歌/二〇一〇年代の短歌/二〇〇〇年代の短歌/一九九〇年代の短歌/一九八〇年代の短歌/一九七〇年代の短歌/一九六〇年代の短歌/一九五〇年代の短歌/一九四〇年代の短歌/一九三〇年代の短歌/一九二〇年代の短歌/一九一〇年代の短歌/一九〇〇年代の短歌

第二部 トピックで読み解く短歌史
第一章 明治時代の短歌
短歌革新運動/東京新詩社『明星』の浪漫主義運動/根岸派の写実主義運動とアララギ派/自然主義/短歌滅亡私論

第二章 大正時代の短歌
アララギの乱調子/大正二年の衝撃/大正歌壇の様子/アララギの発展と離反者たち/
女性歌人はどこにいったのか/口語短歌の系譜/『日光』と口語短歌/歌の円寂する時

第三章 昭和の短歌1(~昭和二〇年)
伝統短歌/プロレタリア短歌/定型短歌のモダニズム/自由律短歌のモダニズム/
『新風十人』/戦争と短歌/戦場と軍隊と

第四章 昭和の短歌2(昭和二〇~三〇年代)
終戦直後の歌壇と第二芸術論/『人民短歌』と民衆/戦後派の新歌人集団/女人短歌会・女歌論/前衛短歌運動/六〇年安保と短歌/六〇年代の前衛と戦中派の再評価/戦後の女性歌人

第五章 昭和の短歌3(昭和四〇年代以降)
学園闘争世代の短歌/土俗論・回顧的な七〇年代/「内向の世代」の新人たち/七〇年代「女歌」論リバイバル/八〇年代女性シンポジウムの時代/ライトヴァースと消費社会の短歌/「サラダブーム」と歌壇の動き

第六章 九〇年代~ゼロ年代の短歌
俵万智以降の女歌論/短歌のニューウェーブ/冷戦崩壊前後の短歌と社会詠/ニューウェーブの受容と文体変革/世紀末・歌壇の膨張(ネットや朗読)/ポストニューウェーブと口語の深化/ゼロ年代歌壇の動きと論争/ゼロ年代の総括

第七章 テン年代以降の短歌
東日本大震災後の議論/学生短歌会と世代間の断絶/テン年代前半の歌壇論議/テン年代後半以降のフェミニズム

おわりに

 

著者紹介

髙良真実(たから・まみ)

一九九七年、沖縄県生まれ。歌人、文芸評論家。早稲田短歌会出身。第四〇回現代短歌評論賞、第四回BR賞受賞。同人誌「Tri」、「滸」、短歌結社竹柏会「心の花」所属。

Amazon:はじめての近現代短歌史:髙良真実 著

楽天ブックス: はじめての近現代短歌史 - 高良 真実 - 9784794227089 : 本

「女とお酒」の世界史をたどる!『女たちがつくってきたお酒の歴史』マロリー・オメーラ 著 椰野みさと 訳

女たちがつくってきたお酒の歴史

マロリー・オメーラ 著 椰野みさと 訳

古代からず~っと、世界のいろんなところで、
お酒とお酒の文化は、女性たちがはぐくみ発展させてきたのです。

 人間の歴史はいつでも「酒」とともにあった。あまり知られていないことですが、じつはその「酒」はいつの時代でも「女性」とともにあったのです。

 発酵食品である「酒」は、飲料できる水もなく栄養事情の厳しい古代から、「食料」のひとつとして世界各地で女たちがつくってきました。古代メソポタミアでは酒の醸造は女たちの仕事でした。そして酒は進化していきます。中世の修道女はホップを加えたビールを生み出し、女性錬金術師が蒸留の技術を見出しています。世界のいたるところで、女たちが酒の製法を守り伝え、その愉しみ方もどんどん広め、豊かな飲酒文化をはぐくんできました。

 ところが、酒と飲酒文化が発展し女性の存在感が増して経済力を生み出すようになると、男たちが取り上げて女たちを排除しようとする。中世では酒をつくり愉しむ女たちに「魔女」のイメージがかぶせられたといいます。でも、繰り返されるあの手この手の抑圧を闘い抜いて活躍した女傑たちはつねに存在していたのです。

 古代から中世、近世、現代、そして21世紀の現在にいたるまで、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アメリカ大陸、アジア、そして日本も含めた「女と酒」の知られざる世界史を、時系列に沿ってキーパーソンとなった女性たちの活躍を中心に、豊かなエピソードと軽快な辛口ユーモア満載でたどったユニークな一冊です。

(担当/藤田)

 

本書目次

はじめに
ガーリードリンクって何?
錬金術のようなアルコールの世界
女と酒の新たな発見の旅

第1章 酔った猿とアルコールの発見――有史以前
高カロリーのアルコールが進化をもたらす
古代メソポタミアで女性が仕切っていた醸造業
ビールをつかさどる女神ニンカシ
古代エジプトではビールは労働者階級、ワインは上流階級
ハンムラビ法典によって自由が失われていく女性たち

第2章 クレオパトラの飲酒クラブ――古代世界
酒好きだったクレオパトラ
古代ギリシャでは女性の飲酒は言語道断
エトルリアの女性は酒好きで驚くほど美しい
並外れた知識と能力を身につけたクレオパトラ
ローマ帝国で世界初のガーリードリンク
ローマにとって危険なカエサルの恋人
クレオパトラとアントニウスの「真似できない生き方の人々」
ローマが恐れた官能的な快楽と反道徳性の象徴

第3章 聖ヒルデガルトと修道女たちの愉しみ――中世前期
ビールの歴史を変えた修道女
貧しい女性の生きる術だったエールワイフ
ホップの効用を世界に広めたヒルデガルト
唐の時代の女性は大いにお酒を楽しんだ
日本の酒造りは少女たちの「口嚙み」
インドの女性たちはお酒で魅力を増す
中世ヨーロッパの女性たちにはアルコールは罪ではなく生存の手段

第4章 李清照と悪魔の日曜学校――中世中期
詩人李清照の酒と文学の世界
お酒の販売でのさまざまな困難
アメリカ先住民はサボテンからワインをつくっていた
モンゴルの遊牧民は男と女が競い合って酒を飲む
自分の声を見つけていた李清照
女の追い出しと日本酒造り
酒に酔った感情を表現した先駆者

第5章 規範を笑い飛ばすメアリー・フリス――ルネサンス期
ブームを巻き起こした男装のメアリー・フリス
独身女性は醸造業から締め出された
アフリカでも女性主導の酒造り
蒸留酒の発見―錬金術師マリア
蒸留業が女性を魔女に仕立てる
メアリー・フリスの偽装結婚

第6章 女帝エカテリーナのウォッカ帝国――18世紀
ロシアの王位に惹かれたエカテリーナの結婚
家事をしながら酒造りをするベトナムの女性たち
初期のアメリカで大規模な施設での醸造を支えた奴隷労働
クーデターの報償はウォッカ
イングランドの「狂気のジン時代」
スコットランドの人気酒ウイスキー
スペイン人による植民地化に反抗した南米先住民の女性たち
フランスの女性がワインを飲む新しい酒場「ギャンゲット」
エカテリーナ大帝がもたらしたビールの大革新

第7章 未亡人クリコと女性たちを虜にした味――19世紀
スパークリングワインの立役者、バルブ=ニコル・クリコ
未亡人となり自由を得たバルブ=ニコル
マクシ族の女性がつくるキャッサバのビール
カクテルのレシピ本
アメリカ西部開拓時代の酒好きの女性たち
19世紀パリのカフェにはレズビアンの女性客が集まった
国際的な人気を得たヴーヴ・クリコのシャンパン
女性がつくっていたアイリッシュウイスキーとスコッチウイスキー
アメリカンウイスキーを密造する武装した女性たち
ウォッカを密造する農村女性たち
シャンパン造りに革命を起こしたヴーヴ・クリコ
日本最大の酒蔵を築き上げた未亡人、辰馬きよ
アルコールの世界における女性たちの影響力

第8章 エイダ・コールマンと「アメリカン・バー」――20世紀
カクテル界の新しい女王エイダ・コールマン
ビール売りで自立する先住民の女性たち
二十世紀初頭のメキシコでも飲酒とプルケの醸造・販売が規制
アメリカの禁酒運動と女性参政権運動
エイダ・コールマンの「ハンキーパンキー」
パリジェンヌを魅了した「緑の妖精」アブサン
アメリカン・バーのもうひとりの女性バーテンダー

第9章 密輸酒の女王ガートルード・リスゴー――1920年代
禁酒法の成立と白人女性の参政権
社会規範を無視するアメリカ女性「フラッパー」の登場
禁酒法のおかげでカクテルパーティーが発展
「密売の女王」ガートルード・〝クレオ〟・リスゴー
日本の「モガ」の出現と、新しいソビエト体制下の女性たち
カナダの禁酒法
莫大な財産を築きメディアの寵児となったクレオ
違法酒場で活躍する女性たち
禁酒法の顔、メイベル・ウィルブラント
禁酒法撤廃を勝ち取った女性たち

第10章 テキーラとズボンとルーチャ・レジェスの栄光――1930~40年代
メキシコの女性たちの葛藤を体現した歌手、ルーチャ・レジェス
韓国でもキムチや酒造りは女性の仕事
武器を持って立ち上がった南アフリカの女性たち
日本の農村には女性限定の酒盛りもあった
ルーチャ・レジェスはテキーラを飲んで女性の真実の姿を表現した
女性のアルコール依存症に対する偏見と闘ったマーティ・マン
「ガーリードリンク」を好まない女性たち
バーカウンターから締め出される女性たち
持ち帰りやすい缶ビールの出現
ルーチャ・レジェスの傷つけられた女性像

第11章 サニー・サンドと「ビーチコマー」――1950年代
ティキ文化発祥のティキ・バー
女性は家庭での良きホステス
イギリスとオーストラリアで女性向けのお酒が発売
人目を引く真っ赤な封蠟
禁酒法廃止後も規制の厳しい地域
ハリウッドの女性セレブたちが愛したビーチコマー
南アフリカ先住民の女性たちの大規模な抗議活動
LGBTQのコミュニティを求めて
ティキはアメリカ史上もっとも長い飲酒文化のトレンドとなった

第12章 レディースナイトはベッシー・ウィリアムソンとともに――1960~70年代
スコッチのファーストレディ、ベッシー・ウィリアムソン
バーに入る権利を獲得した女性たち
女性客を目当てにバーにやってくる男性たち
ストーンウォール暴動の口火を切ったマーシャ・P・ジョンソン
世界でもっとも成功したウイスキー
ワイン業界への女性の進出
テレビでワインを飲む女性
「バーボンの不良女子」
ラクシ造りのために立ち上がったネパールの女性たち
自家醸造が合法となった南アフリカ
ストレートのスコッチはガーリードリンク

第13章 ジョイ・スペンスのアニバーサリーブレンド――1980~90年代
世界初の女性マスターブレンダー、ジョイ・スペンス
妊婦の飲酒は是か非か
男の子みたいに好き放題に騒ぐ女の子
「飲み物から目を離すな!」
二〇〇種以上の香味を嗅ぎ分ける
ウイスキー業界でも女性マスターブレンダーが相次ぐ
ビール業界初の女性ブリューマスターの誕生
アルコポップの流行と衰退
カクテルとスピリッツの世界でもっとも影響力のある女性

第14章 ジュリー・ライナーは午後三時過ぎのバーテンダー――2000年代
人気を集めたジュリー・ライナーのクラフトカクテル
生活の一部として酒を飲む女性たち
ニューヨークのカクテルシーンを変えた「フラットアイアン・ラウンジ」
女性杜氏、町田恵美
ジュリー・ライナーの闘い

第15章 アピウェ・カサニ・マウェラの新風――2010年代
マスター・ブリューワーの資格を取得した最初のアフリカ系黒人
ダイエットを組み合わせたカクテル「スキニーガール」
「ワインママ」への賞賛と非難
黒人女性が過半数を占める酒造会社
ビール造りに情熱を注ぐ修道女
アルコール産業の女性たちが組織化し活動を始めた
女性愛飲家たちの組織
醸造の世界に戻る女性たちの闘い

エピローグ
女性と飲酒の歴史はどこに向かうのか
女性達はこの先もお酒を造り飲み続けるだろう

 

著者紹介

マロリー・オメーラ(Mallory O'Meara)

数々の受賞歴とベストセラーをもつ作家であり、歴史研究家、脚本家、独立系映画会社プロデューサー。愛読家に人気のポッドキャスト「Reading Glasses」で共同ホストを務める。本書は2022年のジェームズ・ビアード財団賞を受賞。その他の著書に『The Lady from the Black Lagoon』『Girls Make Movies』がある。

訳者紹介

椰野みさと(やの・みさと)

早稲田大学第一文学部卒。英語教育系出版社勤務を経て、現在は学術書を中心とした編集職。訳書にサラ・マレー『死者を弔うということ』(草思社)。

Amazon:女たちがつくってきたお酒の歴史:マロリー・オメーラ 著 椰野みさと 訳:本

楽天ブックス: 女たちがつくってきたお酒の歴史 - マロリー・オメーラ - 9784794227508 : 本

 

極上の自伝的サケエッセイ!『思えばたくさん呑んできた』椎名誠 著

思えばたくさん吞んできた

椎名誠 著

青春時代の酒盛りからコロナ禍の一人酒まで、酒まみれの日々を綴る。

流木焚き火を囲みヒミツのキャンプ地で、新宿の地下の暗闇酒場で、銀座の屋上で、沖縄の離島で、台湾で、スコットランドで、シベリアで…
約60年にわたる国内外での酒まみれの歳月をつづる。
著者の300冊もの著作の中でも異色の、「まるまる酒だけで一冊」というエッセイ。
冷え冷えのビールへの執念、痛風・尿酸値への涙ぐまし対策(ビールをノンアルビールで割る、等)、コロナ禍での自宅の「酒在庫」チェックの愉しみ…等々、思わず笑える酒ばなしの数々。
著者の自伝的エッセイとしても読める、ファン垂涎の一冊です。

(担当/貞島)

 

目次

1.海釣りと焚き火酒

流木焚き火酒の魅惑
新鮮魚には日本酒だ
冬の焚き火酒のシアワセ
ドロメ祭りでイッキ飲み
春の焚き火にはホットウイスキー
波見酒、火の踊り酒
釣りたてイカの天日干しがウメーヨオー
秋の堤防小サバ釣り
釣り魚の味わいどき
堤防の悲しいサケ
おいしさが海風に乗ってくるようだ
五キロのタコで豪快宴会
宮古島のオトーリ
泡盛のソーダ水割りがヤルぜ!
波濤酒と椰子蟹
八丈島のキツネ
小笠原諸島のラム酒
奥会津の白濁酒
山里の春のしあわせ
北の冬の大ごちそう
赤ワインだって冷やしたほうが 

2.酒と青春

ハイボールの追憶 
真夏のビールデスマッチ
あばれ酒
まぼろしの「くりから」 
納涼スイカロック
パウロさんのサケ
消えた新宿の名物店
スーパーカクテル
ライオンビアホール
銀座の屋上で車座乾杯
謎のスリスリ
沖縄の贅沢「ゆんたく」
早朝とりたてのヤシ酒
酔っぱらいみこし
酒粥
しじみ
しあわせの雪洞宴会
芸者ワルツ
ブランデーのお湯割り     

3.ビール礼讃

音を立ててグラスを磨く
しゃらくさい乾杯
悶絶生ビール
古代の乾杯
うまいビールの不滅の法則
ジョッキの中の氷盤
ラッパ飲みの快楽
痛風問題
ビールと駅弁
麻雀と酒の関係
尿酸値と、救いの神ノンアル
オンザロックのノンアル割り
人生は黒ビールだ
久々の逸品
ランチョンのしあわせ

4.コロナと家飲み、近場飲み

新発見、生ハムの実力
ありがとう、コロナビール
規則的なコロナの日々
いま一番好きなサケと時間
入院とビール
懐かしい居酒屋時代
名古屋のうまさに詫びる
危険な深夜の一人ザケ
国籍不明のサケ
いい奴、瓶ビール
ワインの水割り       
下駄と鴨南
酒を置く場所
春らんまん、秘密の一人酒
わしらの屋上宴会
北風に似合う焼酎の梅干し割り
新宿三丁目がすごいぞ
野球はビール、相撲は日本酒か?
酒場ルポと飲む
大酒飲み大会の実況
お約束の「お迎え」ずずる感

5.人生いろいろ、酒もいろいろ

酒は根性でいくらでも作れる
突然ながら、好きな酒ベスト5
わが浮気の酒遍歴
いきなりハイボールなのだ
ガクンと膝にくる酒
カクテルがよくわからない
なつかしのピスコ
スペイリバーの原液の水割りウイスキー
海のウイスキー『ボウモア』の深い陶酔
極低温のウオトカにトマト丸かじり   
ウオトカ・クミス
ジャガイモ酒を発見!
そろそろグラッパを
カバランにびっくり
ライ麦ウイスキーをさがして
本格サウナはマールかグラッパで
チリワインと子羊の丸焼き
シャンパンの痛い思い出
鍋でシャンパン
氷酒
木から造るサケ

 

著者紹介

椎名誠(しいな・まこと)

1944年、東京生れ。東京写真大学中退。流通業界誌編集長を経て、作家、エッセイスト。『さらば国分寺書店のオババ』でデビューし、その後『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』『銀天公社の偽月』などのSF作品、『わしらは怪しい探検隊』シリーズなどの紀行エッセイ、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『岳物語』『大きな約束』などの自伝的小説、『犬から聞いた話をしよう』『旅の窓からでっかい空をながめる』などの写真エッセイと著書多数。映画『白い馬』では、日本映画批評家大賞最優秀監督賞ほかを受賞。

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世界的権威が幻覚剤によるうつ病治療研究を解説『幻覚剤と精神医学の最前線』デヴィッド・ナット 著 鈴木ファストアーベント理恵 訳

幻覚剤と精神医学の最前線

デヴィッド・ナット 著 鈴木ファストアーベント理恵 訳

◆もうすぐ、うつ病・PTSD・依存症を、幻覚剤で治す時代になる

  精神医学と神経科学の世界に今、革命の大波が押し寄せようとしています。うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者に対し、LSDやMDMA、マジックマッシュルームなどの幻覚剤投与を伴う治療を1~2回行うことで、大きな改善が見られるというエビデンスが蓄積しつつあるのです。さらには、強迫性障害、摂食障害や、アルコールや薬物などへの依存症、慢性疼痛に対しても、非常に強力な治療法になり得ると目されています。
 うつ病やPTSDなどいくつかの疾患の幻覚剤療法について、米国などでは臨床試験や承認申請が進んでおり、近いうちに実用化が見込まれています。それだけではありません。すでにオーストラリアでは、MDMAのPTSDへの処方と、サイロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)のうつ病への処方が認められているのです。
 これは画期的なことです。うつ病の治療法は、ここ数十年、進歩がほとんどない状態が続いてきました。このような大きな効果がある治療法の登場は、長く待ち望まれていたのです。日本にも、既存の薬物や治療法が効かない患者が数万から数十万人いると考えられ、自殺などの危険にさらされている方も少なくありません。そのような患者や、その家族にとっても、希望の光となる大きな進展だと言えます。

◆精神薬理学の世界的権威が解説。幻覚剤の有害性は著しく誇張されてきた

 本書の著者は、英国精神薬理学会や英国神経学会などの会長職を歴任してきた、斯界の世界的権威あり、かつ、幻覚剤を用いたうつ病などの治療法研究で世界を牽引してきた研究者でもあります。本書は、その著者が、自らの研究も含め、幻覚剤療法研究の最前線について報告するものです。
 ところで、幻覚剤の摂取に、それによる利益を上回るリスクはないのでしょうか。幻覚剤も他の薬と同様に、用法を誤れば有害となり得ます。しかし、著者によれば、幻覚剤の有害性は実際よりも著しく誇張されて喧伝されていると言います。LSDやマジックマッシュルームなどの幻覚剤には、じつは依存性はありません。また、著者自身の研究でも、幻覚剤は、アルコールやたばこより有害性が低いと評価されています。では、有害性が低いなら、なぜ厳重に禁止されているのでしょうか。
LSDなど幻覚剤の禁止措置は、1960年代後半にアメリカをはじめとする国で始まりました。それは幻覚剤が有害だからではなく、幻覚剤が人々の考え方を変え、当時のベトナム反戦運動などのムーブメントの原動力になることを政府が恐れたからで、政治的意図によるものだと著者は指摘しています。
 世界的権威である著者による本書は、幻覚剤に対する先入観や誤解を解き、うつ病などの治療の未来に希望の光を与えるものとなるでしょう。

(担当/久保田)

 

著者紹介

デヴィッド・ナット(David Nutt)

精神科医。インペリアル・カレッジ・ロンドン付属ハマースミス病院医学部脳科学部門の神経精神薬理学教授。脳内での薬物の影響を研究するために、PETやfMRI、EEGやMEGといった最先端のイメージング技術を駆使。脳画像研究の成果を中心にこれまで500本を超えるオリジナル論文を発表しており、これは世界の研究者の上位0.1%に入る。欧州脳委員会、英国精神薬理学会、英国神経科学学会、欧州神経精神薬理学会の会長職など、科学および医学分野で数々の要職を歴任。一般視聴者向けの情報発信にも注力しており、ラジオおよびテレビに広く出演する他、ポッドキャスト番組も配信。2010年には英『タイムズ』紙の科学雑誌『エウレカ』が選ぶ英国でもっとも影響力ある科学者100人に、唯一の精神科医として選出された。2013年には、科学のために立ちあがった功績により、科学ジャーナル『ネイチャー』と慈善団体センス・アバウト・サイエンスの共同イニシアティブであるジョン・マドックス賞を受賞。2017年にはバース大学から名誉法学博士号を授与された。

訳者紹介

鈴木ファストアーベント理恵(すずき・ふぁすとあーべんと・りえ)

学習院大学法学部政治学科卒業、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際関係学修士課程修了。外資系企業、在ドイツ経済振興組織などでの勤務を経て、英日・独日翻訳に従事。訳書に『熟睡者』(サンマーク出版)、『Amazon創業者ジェフ・ベゾスのお金を生み出す伝え方』(文響社)などがある。

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晩年に成し遂げられた、日本近代文学史上の奇蹟 『黄昏の光 吉田健一論』松浦寿輝 著

黄昏の光 吉田健一論

松浦寿輝 著

松浦寿輝氏は、十代後半に初めて出会ってから、吉田健一の文章を五十年以上にわたって読み返してきたといいます。氏は一九八七年、三十三歳の時に吉田健一『ヨオロツパの世紀末』筑摩叢書版に解説「視線と記念碑」を寄せることになりますが、それ以降、吉田についての批評やエッセイを幾篇も執筆し、対談や講演を行ってきました。

本書はそのすべてを一冊に収めたもので、「冬枯れの池」(二〇一五年発表)に本年(二〇二四年)付記として加えられた文章は七十歳の著者によるものです。

この間一貫して変わらないのは、吉田が描く「黄昏の光」への関心です。本書の中で繰り返し引用される短篇小説「航海」の一節をご覧ください。

「夕方つていふのは寂しいんぢやなくて豊かなものなんですね。それが来るまでの一日の光が夕方の光に籠つてゐて朝も昼もあつた後の夕方なんだ。我々が年取るのが豊かな思ひをすることなのと同じなんですよ、もう若い時のもやもやも中年のごたごたもなくてそこから得たものは併し皆ある。それでしまひにその光が消えても文句言ふことはないぢやないですか」

「人生のなかでいちばん輝く時間」として老いを捉えた吉田健一が、実際その晩年に成し遂げた「文業の質と量、豊かさと密度の高さ」を、松浦氏は「日本近代文学史上の奇蹟の一つ」と評します。「深く濃密な文学的な興趣を湛えた、すばらしいエッセイや小説ばかりだった」。

なぜこうした成熟が可能だったのか。松浦氏が解き明かす「今もなお大きな謎でありつづけている」吉田健一の魅力を是非ご一読ください。

(担当/渡邉)

 

内容紹介

批評、エッセイをはじめ、講演録、対談録まで、
吉田健一論を集成。

その晩年に成し遂げた文業の質と量、
豊かさと密度の高さを
「日本近代文学史上の奇蹟」の一つと評する、
吉田健一の人物と作品の魅力を解き明かす。

わたしは吉田健一のエッセイや評論や小説を若い頃からずっと愛読してきました。吉田さんの文章は三十年、四十年にわたって読み返しつづけても、まだまだ面白い、汲めども尽きせぬ魅力に満ち溢れている文章です。同じものを何度読み返しても決して飽きることがない、稀有な魅力を備えた文章を彼は書いた。(「黄昏の文学」より)

 

目次


黄昏の文学
光の変容


森有正と吉田健一
すこやかな息遣いの人
冬枯れの池
大いなる肯定の書
生成と注意
吉田健一の「怪奇」な官能性
プルーストから吉田健一へ
吉田健一の贅沢
時間を物質化する人
視線と記念碑
変化と切断
「その日は朝から曇つてゐたですか、」
黄昏と暁闇
因果な商売
わたしの翻訳作法


黄昏へ向けて成熟する 清水徹氏との対談
夕暮れの美学 吉田暁子氏との対談

あとがき

 

著者紹介

松浦寿輝(まつうら・ひさき)

一九五四年、東京都生まれ。詩人、小説家、批評家。著書に詩集『冬の本』(高見順賞)、『吃水都市』(萩原朔太郎賞)、『afterward』(鮎川信夫賞)、『松浦寿輝全詩集』、小説『花腐し』(芥川賞)、『半島』(読売文学賞)、『名誉と恍惚』(谷崎潤一郎賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)、『人外』(野間文芸賞)、『無月の譜』(将棋ペンクラブ大賞文芸部門大賞)、批評『エッフェル塔試論』(吉田秀和賞)、『折口信夫論』(三島由紀夫賞)、『知の庭園 19世紀パリの空間装置』(芸術選奨文部大臣賞)、『明治の表象空間』(毎日芸術賞特別賞)など多数。

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