草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

昭和を駆け抜けたメディア・スターの知られざる姿に迫る!

メディア・モンスター ――誰が「黒川紀章」を殺したのか?

曲沼美恵著

◆あの時の不可思議な行動の真相を解き明かす

 2007年春、東京都知事選に出馬し、世間をあっと驚かせた建築家の黒川紀章(1934-2007)。そこであえなく敗退するも、すかさず同年夏の参議院議員選挙で共生新党を立ち上げて、妻で女優の若尾文子氏とともに出馬し、再び落選。隅田川を下る派手な選挙用クルーザーや水玉模様の目立つ選挙カーなど、テレビ報道でご覧になった方も少なくないでしょう。黒川氏は、二度の落選から数カ月後の同年10月、あえなく急逝してしまいます。

 本書は、その黒川紀章氏の実像に迫った初の評伝的ノンフィクション。建築の評論ではありません。突然の出馬と死というあまりにも唐突すぎた最晩年は、彼の死後、その生涯を振り返らせる余地すら与えず、メディアでは、半ば抹殺されたかのように触れられないまま時が過ぎています。

◆「カプセルホテル」→「ノマド」→「情報化社会」を描いた啓蒙家KUROKAWA

 実際の黒川氏は、20代で前衛建築家の旗手として颯爽とメディアに登場。その後は、「饒舌過ぎる男」と言われるほどメディアに露出し、持論を語り、数多くの本も出版しています。

 次々と話題の建築作品を発表するよりも、本人がテレビや雑誌に出ずっぱりだったことから「メディア型建築家」と呼ぶ評論家もいますが、東京・銀座の「中銀カプセルタワービル」(1972)から「国立新美術館」(2006)まで、数多くの建築作品を残し、海外では現在も継続するプロジェクトがある、戦後の日本を代表する世界的建築家のひとり。

 加えて、「カプセルホテル」の生みの親でもあり、「ノマド」「情報化社会」という言葉をいち早く使って、1人ひとりの「個」が自立し、共に支えながら生きる=「共生」という将来ビジョンを描き、それを大衆にわかりやすく知らせることに力を注いできた未来予測家、啓蒙家でもありました。

 とはいえ、毀誉褒貶が激しかったその行動には謎も多く、著者の曲沼美恵さんは、「饒舌過ぎる男」の知られざる姿を解き明かすべく6年もの歳月をかけました。未公表の事実や証言を元に、高度成長期をメディアの中で駆け抜けたスター建築家の生涯と思想、そして共に生きた周囲の人々の熱くも、ほろ苦い青春を鮮やかに描いてみせます。

◆メディア・モンスターとは、何か? 黒川紀章の存在を抹殺したのは、誰か?

 黒川氏の行動や言説をたどると、「メディアはメッセージである」というテーゼで知られるマーシャル・マクルーハンの『メディア論』(1964)の影響を強く受けていることがわかります。誰よりもマスメディアに登場し、過剰な自己宣伝で自身の存在感を圧倒的なものとした「モンスターKUROKAWA」。

 マスメディアによる情報の流れと影響力は、時とともに変遷し、「官」から「民」そして「個」へとフラット化し、ソーシャルメディア全盛の現在に至ります。その過程と黒川氏の言行は、合わせ鏡のようにぴたりと重なり合い、時代に翻弄されながら生きる大衆の姿、メディア、巨大都市東京もまた、不気味に浮かび上がってくるのです。

 モンスターとは何か? 誰が「黒川紀章」の存在を抹殺したのか?

 そんな謎解きもまた読者の楽しみのひとつ。ファンの方はもちろんのこと、あまり興味がなかった方、知らなかった方でも本書の物語に引き込まれるはずです。黒川ファンでもある装丁家・岩瀬聡さんの見事なブックデザインと長年、黒川作品を撮影してこられた大橋富夫さんの写真も一見の価値あり。今年を代表するノンフィクション作品のひとつとなることでしょう。

(担当/三田)

著者略歴

曲沼美恵(まがぬま・みえ) 

1970年福島県生まれ。福島大学卒業後、1993年日本経済新聞社入社。記者として東京都の行政や雇用問題、教育問題、脳死臓器移植問題等の取材に携わる。2002年からフリーランスとなり、経営誌、ネット媒体にて企業経営や人材マネジメントに関する記事、人物インタビューを中心に執筆。著書に『ニート―—フリーターでもなく失業者でもなく』(共著、幻冬舎)がある。本書は、著者初の書き下ろし作品となる。

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