草思社のblog

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憲法改正の難問を突破する、またとない妙案

新平和憲法のすすめ ――そして日本はどこへ

英正道 著

憲法改正論議が再びかまびすしいが、なぜ戦後70年も改正できなかったのだろうか。著者は現憲法の果たした一定の役割を認めつつも、もはや冷戦終結後の厳しい世界の現実に合わなくなってきたことを憂え、改正をおこなうべきだとの立場を取るが、これまでの改正案が失敗してきた経緯を考えて、一つの妙案を考えるに至った。それはまず「憲法前文」だけを改正することであり、この短い前文だけを改正できれば他は順次、議論を尽くしていけば自ずと改正の実は達成できると考える。

 衆参両院の三分の二の発議が必要であるとか、憲法九条改正をめぐるヒステリックなアレルギー反応は乗り越えられそうもないハードルであり、また諸外国からも改正の意図を危ぶまれ、おかしな「謀略」に巻き込まれかねない。著者は本書で「二つの罠」に気を付けよと言っているのが、そのことである。一つは従来の改正論議は全面改正をうたっていたことで、改正賛成者の中にも不信感を抱かせてしまっていた。また九条改正をいたずらに先走って論点に据え、ここでも対立を煽りすぎていた。これが第一の罠である。

 もう一つの罠は、諸外国の仕掛ける「謀略」に巻き込まれる愚を犯さないようにという指摘で、「レジーム・チェンジ」とか「戦後体制の再構築」とかの不用意な言説が、国際政治において、いかに悪影響があるかの認識が日本国民に欠けていることである。東京裁判によって確定された戦後の世界秩序に日本が挑戦するかのようなメッセージは中国・韓国はもちろんのこと、米国にさえマイナスイメージを抱かせかねない。

 著者は憲法前文において、日本が平和的な民主主義国であり、文化国家であるという認識を明確に打ち出し、国内外の不信感を払拭する立場を鮮明にすべしと説く。この点の合意は比較的たやすく実現できる(否定する国民はいないだろう)から、第一段階としてこの改正に傾注すべきだというのだ。そして改正前文の試案を書いている。

卓抜な憲法改正案であり、一読に値する憲法論である。

 (担当/木谷)

著者略歴

英正道(はなぶさ・まさみち)

1933年、東京生まれ。慶応義塾大学卒業後、1958年に外務省に入り、経済協力局長、外務報道官、ニューヨーク総領事、駐イタリア大使等を務め、1997年に退官した。鹿島建設常任顧問の傍ら、日本英語交流連盟、日本ヴェルディ協会の設立に尽力し、加えてアジア・欧州財団、ソニー教育財団、文化財保護・芸術研究助成財団、日伊音楽協会などの非営利活動を積極的に行って来た。特に日本からの対外発信活動 に強い関心を持ち、日本英語交流連盟のサイトに設けられたコラム「日本人の意見」で、志を共にする多くの有識者と、英語で日本人の意見を世界に向け積極的に発表して来た。著書に"Trade Problems between  Japan and Western Europe"(英文)、『君は自分の国をつくれるか 憲法前文試案』(小学館文庫)がある。現在、公益財団法人日伊協会名誉会長。

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