おべんとうと日本人
加藤文俊著
◆おべんとうは日本を代表する食文化である。
遠足、運動会、お花見——。行事や行楽に欠かせないおべんとう。誰しもそれを広げて過ごしたり、毎日学校や職場に持って行ったり、忙しい合間をぬって作ったり、とおべんとうにまつわるエピソードを持っているでしょう。
いまやおべんとうは、日本を代表する食文化のひとつ。欧米では小箱に見栄えを考えて主食やおかずを詰めた日本式BENTOが人気を集め、ハロウィンにキャラ弁が作られているそう。英語版Wikipediaには、BENTOという項目まであります。
本書は、そんなおべんとうと私たちの食にまつわる現状について、社会学者である著者がコミュニケーション論、メディア論の視点からまとめた作品です。
◆おべんとうはコミュニケーションツールである。
ひと言でおべんとうといっても家庭で作られるものから、コンビニ弁当、持ち帰り専用の「ほか弁」、駅弁、デパ地下の豪華弁当や仕出しまで、その種類は多岐にわたります。
本書では家庭で作られるものを中心に、その歴史、作られる背景や作る時間、食べる場所、おべんとう用に開発された商品やおべんとうづくりに使われる3Dプリンタなどの最新技術、もはやメディアと化したキャラ弁など、おべんとうにまつわるさまざまな事象をパズルのピースのようにつないでいきます。
よく、おべんとうを作る人(女性が多いですが)は、「フタを開けて空っぽになっているとホッとする」と言います。実際に、ご飯やおかずと一緒に「召し上がれ!」という作り手のメッセージが詰まった箱が、空になって帰ってくれば、それは食べた人の「ごちそうさま!」というメッセージが詰まっている証拠かもしれない。つまり、おべんとうという小さな包み(パケット)は、私たちのコミュニケーションをつなぐ存在になっているのだと、著者は指摘するのです。
だからこそ、本書では、女性だけでなく、男性も、子どもたちも、おべんとうを作ることを提案しています。しかも、忙しい朝のおべんとうづくりには、臨機応変の対応力が身につく効果あり、とか。とにかく、読めば、読むほど、おべんとうに魅せられる、ユニークな食文化論の登場です!
(担当/三田)
◆著者紹介
加藤文俊(かとう・ふみとし)
慶應義塾大学環境情報学部教授。1962年京都府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。龍谷大学国際文化学部助教授などを経て、現職。2003年より「場のチカラ プロジェクト」を主宰。学生たちと全国のまちを巡りながら「キャンプ」と呼ばれるワークショップ型のフィールドワークを実践。近著に『つながるカレー』(フィルムアート社)『キャンプ論: あたらしいフィールドワーク』(慶應義塾大学出版会)『X-design』(同、共著) など。「カレーキャラバン」の活動では、2015年度グッドデザイン賞を受賞した。
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