日本の若者はなぜ希望を持てないのか
鈴木賢志 著
◆希望がある若者はわずか12%。やはり日本は若者にきつい国だった!
2013年に日本と主要6カ国(アメリカ、イギリス、スウェーデン、フランス、ドイツ、韓国)で行われた若者(13歳~29歳)の国際意識調査。その結果から浮かび上がってきたのはきわめて特異な日本の若者像でした。日本の若者のうち「自分の将来について明るい希望を持っている」割合はたった12%で、この数字は他のどの国よりも突出して低いものだったのです(アメリカ56%、スウェーデン52%、お隣の韓国ですら42%)。
さらに特徴的だったのは、日本では、「将来に心配がないにもかかわらず希望は持てない」若者の割合がきわめて高いということでした。平和で衣食住に恵まれている日本で、なぜ若者は将来に希望を持てないでいるのか、本書は、その答えを探すべく、もう一度調査結果を洗い直し、経済状況、家族・人間関係、学歴、仕事など、若者から希望を奪うと予想される様々な社会の問題点を7カ国で徹底比較し、日本が抱える本質的な問題点に迫ろうとするものです。
◆若者が希望を取り戻すヒントは「国際交流」にあり
本書での様々な比較を通して、著者は日本の若者について全般的に言えることとして、現状のマイナス要因が将来の希望を引き下げる度合いが強いことをあげています。これは受験や就職で一度失敗すると、なかなか挽回できない、硬直的な日本の社会システムを反映していると言えます。
その上で、著者は希望を持つ若者を増やす最も確実な方法として、日本の社会システムをより柔軟にし、一度失敗して今がダメでも、明日は成功する可能性があると思える世の中にすること、そのための努力を重ねていくことは大切であると結論付けています。
しかし、これはそう簡単なことではありません。そこで、問題を解決に導くための取り組みやすい具体例として著者は、日本の若者の国際交流を増やすことを提言しています。
意外かもしれませんが、国際調査の中で、「国際交流活動を経験したことのある若者の方が、そうでない若者よりも将来に希望を持っている割合がずっと高い」という調査結果が出されています。著者の考察によれば、国際交流の最も大きなポイントは、日本にあるシステムやルールが世の中の全てではない、ということに気付くことであり、そのことが若者の希望を高めていると考えられるというのです。たとえ海外留学をする費用が無くても、現在はSNS等を通じて積極的に海外とも接点を持てる時代です。世界には様々な国があって、様々な人がいるということを理解するだけで、視野が広がり、精神的にもかなり違ってくるというのです。こうしたところに、若者が希望を取り戻すための大きなヒントが隠されているのではないかと締めくくられています。
80超のグラフや表を随所に用いながら、諸外国と日本との違いを浮き彫りにし、客観的に日本の若者像をとらえなおした本書は、これからの日本を考える上でも重要な視点をいくつも提供するものとなっています。ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。
<本書目次より>
■ 第1章 希望のメカニズム
- 本書における希望の定義
- 若者調査でわかること
- 13~17歳と18~24歳の間で発生する「希望の落差」
- 幸福感が希望に与える影響
- 将来に心配がないのに希望を持てない若者の存在
■ 第2章 経済状況と希望
- 閉塞感を生み出す日本の低成長率と深刻な所得格差
- 最もお金に対する不安が強い国はどこか
- 自国の経済成長への信頼感が希望度を大きく高める
- 貧困率は高いのに、所得格差を感じない日本の若者
- 7カ国比較、社会で成功する要因(1 身分・家柄・親の地位/2 個人の努力、個人の才能/3 学歴/4 運やチャンス)
■ 第3章 家族・人間関係と希望
- 変化する日本の家族構造と意識
- 家庭生活に対する満足度が突出して低い日本の若者
- 離婚は本当に子どもの希望を失わせるのか
- 家族の絆や親の愛情度はドイツに完敗
- 友達はいるのに安心感は持てない日本の不思議な人間関係
- パートナー問題はフランスより日本のほうが深刻
■ 第4章 学歴と希望
- 学費と進学率の微妙な関係
- 日米比較、中退・休学者の驚くべき希望度の差
- 7カ国比較、若者は大学をどう見ているのか
- 学歴が重視されるフランス、されないドイツ
- 日韓比較、学歴で得られるものは何か
- ゆとり世代とゆとり教育
- ゆとり・脱ゆとり世代の学校観
- 日本の中学・高校生の学校の意義は「友情をはぐくむ場」
■ 第5章 仕事と希望
- 新卒一括採用制度の功罪
- 男性ほど雇用形態と希望度が強くリンクする
- 7カ国中第1位、なぜ日本では専業主婦の希望度が高いのか
- どの国よりも長い日本の失業期間
- 転職したいのに、転職しにくい日本の現状
- 職場への満足度、7カ国中日本は最下位
■ 第6章 社会との関わりと希望
- 社会に関心を持つ若者は増加傾向
- 大きな問題は、政治的リテラシーの欠如
- 「何も変えられない」絶望感
- 愛国心の強さは日本がトップ
- 若者は日本のどこに誇りを感じているのか
- 国際交流こそが希望度を高める秘策になる
■ 終章 若者の希望は社会に何をもたらすのか
- 希望とやる気
- 若者の希望がつくる将来の家庭
- 積極的進学へ、大学の意義が変わる
- 興味と能力に基づいた仕事選びへ
- 政治に関心を持ち、国の役に立つ人が増える
- 日本の問題点が凝縮した若者の自殺率の「大人化」
- 若者の未来を拓く日本をつくるために
◆著者紹介
鈴木賢志(すずき・けんじ)
明治大学国際日本学部教授。専攻は政治・国際研究。
1968年東京生まれ。1992年東京大学法学部卒業後、株式会社富士総合研究所で官公庁の受託調査に従事。1995年イギリスに渡りロンドン大学政治経済学部(LSE)でヨーロッパ政治研究の修士号を得る。その後同国ウォーリック大学で日英の経済政策を研究し、2000年に博士号(PhD)取得。ウォーリック大学在学中の1997年にスウェーデンのストックホルム商科大学欧州日本研究所に客員研究員として赴任、以後、同研究所で助教授、准教授を歴任。日本の政治経済に関する研究・講義を担当。2008年日本に帰国。2013年より現職。日本社会の様々な制度と、その集合体であるシステムについて、諸外国と比較しつつ、また国民性の違いを勘案しながら論じている。
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