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なぜ彼らは自分の異常さに気づけないのか? 人間の心の病理に迫る。  『自分の「異常性」に気づかない人たち』西多昌規 著

自分の「異常性」に気づかない人たち

―― 病識と否認の心理

西多昌規 著

◆自分の異常性を気づく機能「病識」とは何か?

 精神科には、「自分はおかしくない」「病気じゃない」と言う本人の意志に反して、家族や会社の上司、警察など第三者に半ばムリヤリ連れて来られる人がいる。多くは統合失調症に代表される妄想性疾患である。このように明らかにまわりに迷惑をかけているのに自分が精神的に病的かどうかを認識できないことを、精神医学では「病識が無い」という。重篤な心の病気と診断されたにもかかわらず、本人の病識欠如のため治療を受けず、他者に危害を加え重大な犯罪に発展したり、自殺に及んだりする事例が後を絶たない。
 本書は精神科医である著者が、20年の臨床経験の中で出会った、さまざまな「病識無き人たち」を取り上げ、なぜ彼らは異常な行動をやめられないのか、なぜ他人に迷惑をかけていることがまったく理解できないのか、無理解にはどんなパターンがあるのかなどを解説し、彼らの隠された心の病理を解明しながら、対処法など処方箋を提供するものである。

◆軽微な「異常」を見分けるのは専門家でも難しい

 今や100万人を越え国民病の様相を呈しているうつ病でも、病識を失ってしまう場合がある。本書でも紹介されているが、「自分のせいで仕事がダメになった」というネガティブ思考に囚われたうつ病患者には、その考えの異常性を指摘し、説得して自信をつけさせようとしても、うまくいかないことが多い。自己愛型パーソナリティ障害の患者の中にはクレーマー的行動をしてしまっても、その異常性を認識できない人が少なくない。また、人の気持ちや考えを思いやる社会的想像性に支障が生じることで人間関係の問題を抱えがちな自閉症スペクトラム症。これらの人びとも、自分の精神状態を洞察する能力を欠いていることがある。
 日常に視点を落としてみても、もっと軽微な「異常」を抱える人の中に、もしかすると「病識」が不十分な人は、実はかなりいるのではないだろうか。
大学病院で働く精神科医たちの本音も散りばめられた本書は、精神医療のリアリティにあふれている。人間の心の病理に関心のある方はもとより、「自分の異常性に気づかない人たち」に困惑している方、さらには現代精神医療の現状に興味のある方など、幅広く多くの方に読んでいただきたい一冊である。

 (担当/吉田)

著者紹介

西多昌規(にしだ・まさき)

精神科医・医学博士。スタンフォード大学医学部精神行動科学客員講師。石川県出身、東京医科歯科大学卒業。国立精神・神経医療研究センター病院、茨城県立こころの医療センターなどで精神科医としてのトレーニングを積む。ハーバード大学医学部精神科研究員、東京医科歯科大学助教、自治医科大学講師として勤務。大学病院精神科では、数多くの患者を診察するだけでなく、医学生・研修医の教育・指導を行う。メンタルクリニックや企業産業医としての診療経験も豊富である。日本精神神経学会専門医、睡眠医療認定医など、専門医資格も多数持つ。専門はうつ病や睡眠障害を中心とした臨床精神医学・睡眠医学、脳波・脳機能画像などを扱う精神生理学。国内外の専門誌に学術論文を精力的に発表している。現在はスタンフォード大学医学部にて睡眠医学の在外研究を行っている。

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