草思社のblog

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ジャレド・ダイアモンド著・草思社文庫『若い読者のための 第三のチンパンジー』:「人間」はなぜこれほど奇妙に進化してしまったのか?

 ジャレド・ダイアモンド博士の第一作をより読みやすくコンパクトに
 ピュリッツァー賞受賞の『銃・病原菌・鉄』が世界的ベストセラーとなったジャレド・ダイアモンド博士は、1992年に初めての著作『人間はどこまでチンパンジーか?』(The Third Chimpanzee、新曜社刊)を発表、いきなりベストセラー作家となりました。
 その後『文明崩壊』『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(いずれも草思社刊)『昨日までの世界』(日本経済新聞出版社刊)を続々と発表、いずれも話題の書として多くの読者を得ています。
 本書は大部の書である『人間はどこまで…』を、その刊行以降に発表された最新の研究成果をふまえつつ、「For Young People」シリーズで定評のあるレベッカ・ステフォフ氏が、中心となるテーマをコンパクトに編集し、関連する興味深い写真を数多く配置したものです。

 「人間」はなぜこれほど奇妙な生きものなのか?
 本書は「サル学」の本ではありません。ダイアモンド博士が一貫して追究しているのは「ヒト学」あるいは「ホモ・サピエンス学」と呼ぶべきものです。
 この書名は、ヒトとチンパンジーのDNAレベルでの比較から生まれたもの。チンパンジーには、いわゆるコモンチンパンジーとボノボ(ピグミーチンパンジー)の2種類がいますが、彼らとヒトとは、DNAのなんと98.4%が同じ。いわば人間は「三番目のチンパンジー」だというのが書名の由来。
 たった1.6%の違いが、なぜ人間と他の動物のとてつもない違いを産み出したのか? なぜ人間はなぜこれほど奇妙な動物なのか? 道具を作り、言葉を操り、農耕を行い、巨大な都市を造りあげ、環境から収奪し、特定の生物を絶滅させ、人間同士で大量に殺戮し合う。この「人間」とは何なのか? これが一貫したダイアモンド博士の問題意識です。

 ダイアモンド博士が展開していくテーマが凝縮された「入門書」
 この大きなテーマが、多様な学問領域、進化生物学、生物地理学、人類生態学、古環境学、古病理学、文化人類学、言語学などの幅広い知見を縦横に駆使して考察され、博士の柔軟で新鮮な思考に驚かされます。
 本書では、『銃・病原菌・鉄』以降の著作でさらに展開されていくさまざまなテーマの根幹がコンパクトに記述されています。いわば「ジャレド・ダイアモンド入門」のインデックス書と言ってもいいかもしれません。
 たとえば本書の第4部「世界の征服者」は、『銃・病原菌・鉄』で展開される文明の格差・偏在の問題。旧大陸の人間が新大陸を征服し、なぜその逆は起こらなかったのかという考察につながっていきます。
 第5部「ひと晩でふりだしに戻る進歩」は、『文明崩壊』で展開される、巨大な文明がなぜ跡形もなく崩れ去っていったのか、なぜそれが繰り返されてきたのかという問題につながります。
 第2部「奇妙なライフスタイル」では、『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』で考察されるセックスとメイティング、他の動物とあまりに異なる人間の「性」の問題を通じて、人間が生み出す文化文明の奇妙さを問います。

 「人間」はどこから来たのか? どこに向かっているのか?
 これらの問題の考察は、「人間とは何か」を突き詰めることであり、私たちがどこから来たのかを検証し、私たちがどこに向かっているのかを見極めることにつながるものです。現在、私たち人類が向き合っている複雑に絡みあった問題の見取り図であり、総目録でもあります。
 解答の見えない難題におおわれている現在こそ、ぜひ多くの読者に読んでいただきたい一冊です。
 巻末には『人間はどこまでチンパンジーか?』の訳者である長谷川眞理子先生に非常に示唆に富んだ「解説」を寄せていただきました。

 

【本書目次より】
はじめに 人間を人間であらしめるもの

第1部 ありふれた大型哺乳類
 第1章 三種のチンパンジーの物語
 第2章 大躍進
第2部 奇妙なライフサイクル
 第3章 ヒトの性行動
 第4章 人種の起源
 第5章 人はぜ歳をとって死んでいくのか
第3部 特別な人間らしさ
 第6章 言葉の不思議
 第7章 芸術の起源
 第8章 農業がもたらした光と影
 第9章 なぜタバコを吸い、酒を飲み、危険な薬物にふけるのか
 第10章 一人ぼっちの宇宙
第4部 世界の征服者
 第11章 最後のファーストコンタクト
 第12章 思いがけずに征服者になった人たち
 第13章 シロかクロか
第5部 ひと晩でふりだしに戻る進歩
 第14章 黄金時代の幻想
 第15章 新世界の電撃戦と感謝祭
 第16章 第二の雲
おわりに なにも学ばれることなく、すべては忘れさられるのか
 
解説:長谷川眞理子(総合研究大学院大学・学長)

 

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