草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

「未知の世界」に挑み続けることはなぜ重要なのか?『越境と冒険の人類史 宇宙を目指すことを宿命づけられた人類の物語』アンドリュー・レーダー著 松本裕訳

越境と冒険の人類史

――宇宙を目指すことを宿命づけられた人類の物語

アンドリュー・レーダー著 松本裕訳

 この本の著者はSpaceXでミッションマネジャーを務めている宇宙工学者です。原書のタイトルは“Beyond the Known”、つまり本書は「未知の世界へ」と誘われて歴史を刻んできた人類の壮大な旅の物語です。アフリカを出た人類の祖先は世界各地にどのように到達したのか、イヌイットがヴァイキングを滅ぼした可能性、貧しいヨーロッパが繁栄するアジアに出た大航海時代の裏事情、歴史を変えることになったコロンブスの誤解、飛行機が「もっとも安全な交通手段」になるまでの試行錯誤、そして宇宙開発競争の実態……など、めくるめく冒険の物語が、それぞれの時代の躍動感とともに綴られていきます。
 著者は本書を「歴史が何か教訓を与えてくれたとすれば、それは人類がまだ誰もなしとげていない何かに挑戦すると、驚くようなことが起こるというものだ。祖先がリスクを取ることを恐れていたら、人類はいまだにアフリカの大地溝帯の中に閉じこもる、興味深いが取るに足らない生き物のままだっただろう。だが、人類には探検家の血が流れている。自分たちと子孫のために未来を創造するべく、決然として不可能に挑んだ人々の血だ。人類には驚異的なことをなしとげる能力がある。必要なのは、挑戦しようという意思だけだ」という言葉でしめくくっています。
 誰かが無謀で過酷な長い旅に出たことで、イノベーションが起こり、新たな繁栄の足掛かりとなったことが、この本を読んでいただければご理解いただけるかと思います。その過程にはさまざまな悲劇や過ちもありましたが、それらを克服しながら人類は歩み続けています。歴史や宇宙に関心のある方にはもちろん、「過酷な旅や宇宙旅行になんの意味があるのか?」というような疑問を持つ方にもぜひ読んでほしい一冊です。                                              (担当/碇)

【目次】

第1部 起源 
 第1章 ゆりかごを出て 
複数の「人類」が存在する世界/ネアンデルタール人の痕跡/農業がもたらした大転換
 第2章 初期の放浪 
オーストラリアへの到達/南北アメリカ大陸への到達/イヌイットがなしとげた偉業/ネイティブアメリカンを襲った災禍
 第3章 海の人々 
広大な海洋文化圏の成立/「偶然の発見」か「意図された旅」か/ポリネシア人の航海心得/南への冒険、東への冒険/古代の船乗りたちによる香辛料貿易
 第4章 古代世界の探検者たち 
文化の「高速道路」としての地中海/古代エジプト人が目指した場所/パピルスに記された冒険譚/フェニキア人の広大な海運王国/最初の世界地図
 第5章 越境するギリシャ・ローマ 
すべてはクレタ島から始まった/西洋文明を生み出した力/ギリシャ人対ギリシャ人の大海戦/アレクサンドロス大王の冒険/ギリシャ文化を軸につながった東西/画期的な発明・発見/「蛮族」の地を旅したピュテアス/一般市民による科学的発見の旅/ローマを強国にした「好奇心」/史上最初の100万都市/「インドがローマ帝国から搾りとる」/「大秦」への使節団

第2部 世界の再発見 
 第6章 北からやってきた「蛮族」たち 
カエサルを苦しめた造船・航海技術/アイルランド人修道僧の航海/バイキング時代の始まり/文化の中心的存在としての船/侵略から定住へ/西方への拡大/グリーンランドの発見/北米への入植活動/アメリカで生まれた最初のヨーロッパ人/バイキングの北米入植はなぜ失敗したか
 第7章 初期の遭遇 
サツマイモ、ココヤシ伝播の謎/太平洋を航海したインカの皇帝/〈コンチキ号〉〈ラー号〉の挑戦/「接触」を示唆する数々の手がかり/流れ着いていた人々
 第8章 もう一つの地中海 
世界の中心だったインド洋/ルクソール神殿に落書きしたインド人/東南アジアに拡大したインド文化/東南アジア史上最大の帝国の出現/イブン・バットゥータの壮大な旅/インド洋の共通語としてのアラビア語/過去の栄光を呼び覚ます香辛料/遅れてきたヨーロッパ人の挑戦/ポルトガル対オスマン帝国
 第9章 中国の大航海時代 
革新的な大型海洋船舶ジャンク/モンゴル帝国の勃興/破壊者の功績/『東方見聞録』のインパクト/フビライ・ハーンの知的欲求/マルコ・ポーロの時代の旅人たち/後進地域としてのヨーロッパ/発明大国としての中国/中国が世界の覇権を握った可能性/鄭和の巨大艦隊/内向きになった大国の運命
 第10章 インドへの航路 
イタリア諸都市の覚醒/コグ船、カラック船、カラベル船/エンリケ「航海王子」の慧眼/「危険の父」を越えて/アフリカ大陸に立てられた十字架/世界を二分する境界線/バルトロメウ・ディアス、「最果て」への旅/「すべての海の提督」バスコ・ダ・ガマ/ポルトガル人の日本上陸が意味すること
 第11章 略奪と黄金 
コロンブスの確信/歴史を変えたコロンブスの錯誤/スペイン王室の思惑/「陸だ!」/「高潔な野蛮人」の発見/凱旋/それからのコロンブス/新大陸に移植された奴隷制度/「征服者」たちの出自/コルテスはなぜ成功したか/ピサロと182人の男たち
 第12章 世界一周 
事実誤認から生まれる大発見/マゼラン船団の不穏な航海/マゼランの死/世界一周の遺産

第3部 近代 
 第13章 貿易の帝国 
ヨーロッパの興隆の一因となった自然条件/印刷技術の普及は文字数の違い/オランダ興隆の理由/オランダの時代/英仏の角逐/奴隷制度
 第14章 開かれる大陸 
ハドソンの悲劇/マッケンジー/ルイス・クラーク探検隊/太平洋に到達/ベーリングの偉業
 第15章 科学のフロンティア 
略奪から科学的な調査へ/クック船長はなぜタヒチに向かったのか/南方の巨大大陸を探して/北西航路の発見/旅する科学者フンボルト/女性として世界初の海外旅行作家
 第16章 氷と雪の大地 
北極圏の氷に閉ざされた2隻の船/近代技術でも征服できない未踏の北極点/原子力潜水艦が北極点で浮上する/シャクルトンの偉大な救出劇/国際的な管理責任となった南極大陸
 第17章 空へ 
飛行機はもっとも安全な移動手段/必要以上の安全性で設計される/大西洋を横断した初の女性飛行士/「空の女王」イアハート/太平洋上に消えたイアハート
 第18章 宇宙競争 
宇宙旅行の基礎を築いた世捨て人/ナチスのロケット研究チームが戦後アメリカの宇宙計画を担う/世界を変えた〈スプートニク〉/宇宙競争に先行するソビエト/撮影された「地球の出」/月面に降り立ったアームストロング
 第19章 ロボットの目を通じて見た世界 
ロボットが月面を探索する/灼熱の金星と呪われた火星/私たちは火星人かもしれない/銀河の終わりまで旅する〈ヴォイジャー〉/NASAが別世界の生命探索に乗り出した/太陽系外惑星を発見するケプラー宇宙望遠鏡

第4部 『スタートレック』への道 
 第20章 未来へ 
超知性を持つAIの時代/人工知能は人類に悪意を抱くか/ブラックホールと腫瘍を発見する天体分光/宇宙への探求が新たなイノベーションを生む/宇宙に乗り出す人類
 第21章 火星への道 
地球に落下しないために超高速で移動する/予算不足でかろうじて生きているNASA/スペースシャトルは最悪のコストパフォーマンス/アポロ計画は冷戦時代の産物/宇宙飛行でもっとも成功している民間企業SpaceX/ロケットの再利用/最適な目的地は、月か火星か/火星の豊富な水資源/火星移住計画
 第22章 宇宙旅行者への道 
人類の二つの未来/宇宙の豊富な資源とエネルギー/惑星間の宇宙旅行は安くて簡単/宇宙採掘は莫大な利益を生む/宇宙で野菜を育てる/宇宙に豊富なヘリウム3を燃やして電力を生成する/金星の雲の中に浮かぶ都市/もっとも魅力的な土星の衛星タイタン/温室効果を生み出して火星を地球化する/太陽系に地球の子孫があふれる
 第23章 星間を旅する 
史上最高速の探査機でも6500年かかるプロキシマ/ロケットに適用されるニュートンの第三法則/宇宙船の推進力に核爆弾を使う「オリオン計画」/核融合ロケットは可能か/宇宙を「ワープ」させて移動する/人類は銀河系を横断できるか/「世代宇宙船」あるいは多世代にわたる旅/人類は探検家の血筋を引き継いでいる
 第24章 異世界の生命 
地球外生命体の可能性/衛星の闇の海を泳ぐ微生物/火星に生命体は存在するか/生命の起源はRNA(リボ拡散)の鎖から/多様な生物の化石/ヒトの祖先「ピカイア」/「目」を進化させた地球の生物/知的生命体の身体的特徴/コミュニケーションを取る知的生命体/人類のような奇跡の進化を遂げた地球外知的生命体/高度な文明の宇宙人との遭遇
 第25章 最終目的地 
宇宙史の分岐点に立つ人類/確実に進歩している文明/特定の星に適応する進化/不老不死への道筋/世界がシミュレーションである可能性/探険に挑み続ける人類

著者紹介

アンドリュー・レーダー

SpaceXでミッション・マネジャーを務める航空宇宙工学者。マサチューセッツ工科大学でPhDを取得(宇宙工学)したのち、いくつかの宇宙関連企業を経て現職。著作に“Leaving Earth: Why One-Way to Mars Makes Sense”(未邦訳)がある。

訳者紹介

松本裕(まつもと・ゆう)

翻訳家。ミアーズ『VIP』(みすず書房、2022)、ヴァイディアナサン『アンチソーシャルメディア』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2020)、コリンガム『大英帝国は大食らい』(河出書房新社、2019)、ブラウン『カミングアウト』(英治出版、2018)ほか訳書多数。

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