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破綻国家・北朝鮮がなぜミサイルを撃ちつづけられるのか?『ラザルス 世界最強の北朝鮮ハッカー・グループ』ジェフ・ホワイト著 秋山勝訳

ラザルス

――世界最強の北朝鮮ハッカー・グループ

ジェフ・ホワイト著 秋山勝訳

日本政府が名指しで非難、注意喚起をうながした「ラザルス」グループとは?

 昨年10月、警察庁金融庁・内閣サイバーセキュリティ―センターが連名で、「北朝鮮の下部組織」としてのハッカー集団「ラザルス」について名指しで非難した。このハッカー集団が奪取した暗号資産などの被害総額は800億円とも1300億円ともみられている。ラザルスの秘匿された行動の痕跡を詳細に追いかけたのが本書である。
「ラザルス」の名が一躍知られるきっかけとなったのは、2014年のソニー・ピクチャーズエンタテインメントへのハッキング事件。膨大な量のメールや個人情報が晒され、未公開映画が流出するという事態となった。2016年にはバングラデシュ中央銀行がハッキングされている。さらにワナクライと呼ばれるランサムウエアが世界中にばらまかれ、イギリスの医療システムが攻撃、甚大な被害が発生。そして現在では、世界中の巨大な暗号資産が次々に食い物にされている。こうして奪取された金は、フィリピンやマカオなどを舞台に、事情を知らない人間まで利用するという巧妙な手法によって洗浄(ロンダリング)されていた。本書では、これらの驚くべき実態が次々と明らかにされていく。

それはもはや軍事組織。選び抜かれた精鋭サイバー兵士たちが世界を食い荒らす。

 ラザルスの上部組織と特定されている「北朝鮮」は、経済的に破綻しているにもかかわらずなぜ存続できているのか。その資金源はどこにあるのか? かつてスーパーノート(偽100ドル札)や覚醒剤の製造が取りざたされたが、それらが身をひそめると入れ替わるようにハッキングが始まっている。
 本書は北朝鮮国内でサイバー兵士のようにハッカーを育て上げるシステムにも言及する。もはや北朝鮮ハッカー組織は軍隊と呼ぶべき恐るべき脅威でしかない。
 ラザルスの標的は世界に広がっているが、日本はその最たる好餌のひとつと見て間違いないだろう。この巨大な犯罪は、しかしつねに秘密裡に行われており、次々と新たな方法が生み出されているはずだ。本書はこうした新たな脅威について、明確な危機意識を持つうえできわめて貴重な情報に満ちた一冊である。

(担当/藤田)

 

本書目次

プロローグ ラザルスグループ

第1章 ジャックポット
キャッシュカードの束を持つ男たち
「隠者の国」の隠された一面
標的はATMのシステム・プログラム
無効にされた暗証番号
FBIが銀行に発した極秘の警告
逮捕されたのはただの「運び屋」
銀行襲撃の背後にいる者たち

第2章 破産国家
終わっていない戦争
粉飾されていた「北の楽園」
過激な孤立主義が破滅へと導く
「出身成分」という階級制度
金日成が犯した二つの誤算
性に執着した国家主席
二代目国家主席のジレンマ
強制収容所のおぞましい日々
どこから資金を調達しているのか?

第3章 スーパーノート
偽100ドル札の精度
本物よりシャープな印刷
捕まった元赤軍派・田中義三
本物の印刷機・用紙・インク
イングランドの運び屋
モスクワの北朝鮮大使館
覚醒剤の製造拠点
アメリ東海岸での一斉摘発
偽札作りをやめた真意

第4章 〈ダークソウル〉
韓国で開かれた新たな戦端
グーグル会長が見た北朝鮮の内側
コンピューター化の真の狙い
切り札は核兵器開発
支配階級に許された無制限のアクセス
ハッカー育成の選抜システム
急速に向上する攻撃能力
非対称性サイバー戦争

第5章 ハリウッドをハックする
襲われたソニー・ピクチャーズ
「これは始まりにすぎない」
金正恩が殺されるコメディ映画
システム侵入の波状攻撃
未公開映画作品を流出させる
さらされる何万通もの個人メール
「本当に北朝鮮か」という人たち

第6章 フォールアウト
ウィキリークスで暴露された個人情報
一生払い続ける情報流出の代償
その名は〈ラザルスグループ〉  
北朝鮮を甘く見たバラク・オバマ
金正日にとっての「映画」
処刑される高官たち

第7章 事前準備
反応しないプリンター
10億ドルの送金指示
極秘扱いされたハッキング 
暴かれていく襲撃の手口
裏の裏をかく戦術 
書き換えられたアクセスコード
ソニー襲撃とバングラデシュ銀行を結ぶもの

第8章 サイバースレイブ
中国に派遣された男
謎をつないだメールアドレス
実行犯の顔写真つき履歴書
北朝鮮企業のビジネスモデル
なぜ北朝鮮のために働くのか  
選り抜きのサイバー兵士たち
人質として拘束される家族

第9章 逃走迷路
五つの銀行口座
紛糾するフィリピンの公聴会
深まっていく支店長への疑惑
途切れてしまった資金の行方
マネーロンダリングの三段階

第10章 バカラ三昧
カジノに持ち込まれた現金
マネーロンダリングの第二段階
決して負けない賭け方
溶けていく金
フィリピンから中国へ

第11章 陰謀の解明
寄付を申し出る「日本人」支援者
「JICA」を騙る文書
日本と北朝鮮を結ぶ点と線
《ササキタダシ》へのインタビュー
すべてはマカオ

第12章 東洋のラスベガス
二人の中国人
金賢姫金正男
なぜクアラルンプールで殺されたのか?
それぞれの結末

第 13 章 ランサムウェア
ロンドンの病院襲撃
無限に感染拡大するランサムウェア
ウイルスの緊急停止スイッチ
脆弱性利用型不正プログラム
ブロックチェーンの痕跡 

第14章 暗号資産
見せかけの南北融和
暗号資産の恩恵
盗まれた2億3000万ドルの暗号資産
北朝鮮とつながる海運会社
暗号資産の最先端知識

第15章 さらなる強奪
金正恩ドナルド・トランプ
「最重要指名手配」
共犯者たちのネットワーク
ビジネスメール詐欺
ドバイのインフルエンサー

結び 軍事組織としてのハッカー集団

 

著者紹介

ジェフ・ホワイト(Geoff White)
イギリスを代表するテクノロジージャーナリスト。20年以上におよぶ調査報道の経歴を通じて選挙のハッキング、マネーロンダリング、個人情報の売買、サイバー犯罪の実態について報道してきた。「スノーデン事件」やイギリス最大のインターネットサービスプロバイダ「TalkTalk」のハッキング事件に関する記事でいくつもの賞を受賞。本書にもあるBBCのポッドキャスト「ラザルス・ハイスト」はイギリスのアップルポッドキャストのランキングで1位、アメリカでも上位にランクインしている。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒。日本文藝家協会会員。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ケイシー・ミシェル『クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇』、マイク・アイザック『ウーバー戦記』、サイラグル・サウトバイ『重要証人』、パンカジ・ミシュラ『怒りの時代』、リチャード・ローズ『エネルギー400年史』、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、ジェイミー・バートレット『操られる民主主義』(以上、草思社)、ティム・ウー『巨大企業の呪い』、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』(以上、 朝日新聞出版)など。

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