草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

従来のイメージを覆す新しい人物像を丁寧に解説。今の時代にこそ求められるリーダーの姿『偉人 大久保利通 「正解なき時代」のリアリスト』真山知幸 著

偉人 大久保利通

――「正解なき時代」のリアリスト

真山知幸 著

大久保利通といえば、明治維新の立役者。倒幕を成功させて、日本を近代国家へ導いた人物です。正直に言うと、これまで私は「冷酷な独裁者」「西郷隆盛の陰に隠れた人」といったイメージを持っていました。
しかし本書では、そのイメージとはまったく違った人物像が見えてきます。
大久保は部下の意見に耳を傾け、礼を尽くし、筋を通すことを何よりも大切にしていた。強面のイメージとは裏腹に、実はとても人間味あふれる存在だった――そんな姿が次々に描かれ、ページをめくる手が止まりませんでした。
外交で理不尽な要求に屈せず、粘り強く交渉を重ねる姿も印象的。威張るのではなく、相手にきちんと向き合って日本を守ろうとする。その現実的で誠実な姿勢は、現代のリーダー像にも通じる気がします。
著者の真山知幸さんは『ざんねんな偉人伝』などでおなじみの偉人研究家。ユーモラスな切り口の著作から真面目な伝記まで、幅広く手がけていらっしゃいます。
今回はこれまでの作品とはひと味違い、一人の偉人にスポットを当てており、大久保利通を新しい目で見直せる、とても熱のこもった評伝になりました。
特に印象的だったのは、著者のこんな言葉です。
「組織を支えるのは人心であり、人心を納得させるのは当事者の公正な態度である」
忙しい中でも周囲に気を配り、礼を尽くしながら改革を進めた大久保。その姿を思うと、仕事で迷ったときに「大久保ならどうする?」と問いかけた著者の気持ちがよく分かる気がします。
歴史ファンはもちろん、日々の仕事や人間関係で悩む人にもヒントをくれる一冊です。

(担当/五十嵐)

 

目次

第1章 薩摩藩内の覚醒期(1830~1862年)
誕生 大久保や西郷を育てた薩摩藩の教育システム
不遇 父の処罰で世の理不尽さを味わった青年時代
接近 下級藩士の大久保が西郷に倣った出世の極意
同志 すれ違いは昔から? 大久保利通と西郷の本当の仲
説得 絶望して自殺を図った西郷に大久保がかけた胸刺す言葉
尻拭 大久保が青ざめた西郷の唐突な暴言
共通 大久保を抜擢した「島津久光」の意外な辣腕
突破 初対面の岩倉具視に意見を押し通す強引さ
強引 勅命を受け入れるべく老中を恫喝した身のほど知らず
抜擢 34歳で死に直面しながらも異例の出世

第2章 倒幕活動の奔走期(1862~1868年)
守勢 英国に戦争をふっかけた薩摩藩の「意外な戦略」
冷静 天皇の意向も無視 「好機も動かず」大久保の算段
奇策 薩摩藩が幕末に「スイカ売り決死隊」を作った真剣な訳
難敵 大久保を倒幕へ動かした「徳川慶喜」の仰天行動
念願 大久保が復帰に動いた「西郷隆盛」の意外な変身
転換 「変節の西郷」と「粘り腰の大久保」が目指す共和政治
交渉 大久保も徳川慶喜も活用 「心動く説得」の裏技とは
苦心 実は口約束? 歴史が動いた薩長同盟の意外な真実
強敵 家康の再来と倒幕派が評す「徳川慶喜」の意外な辣腕
困惑 倒幕派を追い詰めた」大政奉還」の意外な裏側
決行 「王政復古の大号令」で新政権樹立もかわす慶喜
誤算 慶喜の立ち回りのうまさで同情論が噴出する
挑発 西郷も弱気になった武力制圧をブレずに推進した
策略 「戊辰戦争」で西郷と大久保が3倍の敵を圧倒したワケ

第3章 近代国家の建設期(1868~1873年)
慎重 「鳥羽・伏見の戦い」勝利にも浮かれず
大胆 倒幕後に「大坂遷都」をぶち上げた納得の理由
変更 遷都でなく奠都「首都東京」誕生の歴史的事情
巧妙 反発必至の「版籍奉還」を首尾よく進める
厄介 明治維新で大久保利通を最も困らせた意外な藩
選択 西郷と大久保がリーダーに推薦した「木戸孝允」の実力
迷走 まとまらない明治政府に若手が立ち上がる
断行 戦争も覚悟した「廃藩置県」 不意打ちで実現
貪欲 内政を取り仕切る立場ながら2年も視察へ
沈黙 「岩倉使節団」での人生初の欧米視察で絶望する
洞察 時代に名を残す人物を正確に見極めていた
情熱 鉄血宰相ビスマルクの言葉に奮起する
不動 無謀な「征韓論」もスルーして休暇を取った
摩擦 西郷と大久保でも制御不能な男の正体
対決 「カミソリ」と称された明治政府きっての切れ者と対峙
寝技 大久保が「明治6年の政変」を仕かけて西郷は下野する

第4章 内政重視の宰相期(1873~1878年)
混沌 自らに権力を集中させた「孤独の権力者」 
人事 思慮浅い男すら賢く使い「佐賀の乱」を誘発
非情 「佐賀の乱」の醜態を批判して江藤新平をさらし首に
決断 「征韓論反対」の大久保利通 「台湾には出兵」の背景
外交 理想を追わずにベストに近い選択を愚直に繰り返す
覚悟 かつての恩人「島津久光」を排除する
知略 「琉球併合」で清に密かに仕掛けた驚きの罠
対策 躍進の陰に大久保利通 「三菱」が海運で発展したワケ
頑固 官僚に「爺さん」と呼ばれた大久保の性格
改革 大久保利通が国力を育てる模範にした「意外な国」
不穏 地租改正への反発で大久保が恐れたこと
悲嘆 西郷の参戦に「そうであったか」と涙を流した
疑惑 西南戦争の裏にあった西郷隆盛「暗殺計画」の内実
無念 西郷と逢えずに「西南戦争」へと突入
着実 戦争の最中に「内国勧業博覧会」を開いて大成功
誤解 大久保利通「西郷の死をほくそ笑んだ」の噂
貫徹 維新の志を貫いて近代国家の礎を築いた
暗殺 「明治維新30年構想」を語って生涯を閉じる

 

著者紹介

真山知幸(まやま・ともゆき)

伝記作家、偉人研究家、名言収集家。1979年兵庫県生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年から著述活動に専念。『偉人名言迷言事典』『逃げまくった文豪たち』『10分で世界が広がる15人の偉人のおはなし』『泣ける日本史』『大器晩成列伝 遅咲きの人生には共通点があった!』など著作は60冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーに。「調査月報」「朝日中高生新聞」「毎日小学生新聞」など各媒体で連載中。「東洋経済オンラインアワード2024」でロングランヒット賞を受賞。大学での講師活動やメディア出演を行い、YouTube「【偉人研究家】真山知幸チャンネル」でも発信を続ける。

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多奏的な「かたち」のつながりを読み解く、新たな韓国文化論『韓国「かたち」紀行 東アジア・建築・人びと』石山修武・中谷礼仁 著 中里和人 写真

韓国「かたち」紀行

――東アジア・建築・人びと

石山修武・中谷礼仁 著 中里和人 写真

韓国には、日本と深く結びついた建築物、風景が多く存在しており、それらを比較することで、アジアを見渡す新たな発見が得られます。 本書は、2023年8月に行われた石山修武、中谷礼仁、中里和人、野田尚稔、川井操、米田雅樹らによる韓国旅行をきっかけに生まれた、圧倒的な密度の「文化的ガイドブック」と言えます。海印寺、河回村、浮石寺をへて、扶餘の浄林寺、弥勒寺などの古代遺跡を巡った一週間弱の旅で得た発見をもとに制作されました。韓国の建築、色彩論、大地と屋根の関係、地形と風水といった実に多彩なエッセイを中心に、写真、スケッチのほか、韓国古建築の見方がわかる入門と、韓国古建築の20選も収録しています。ガイドとしてはもちろん、韓国文化の入門としても必携の1冊となっています。 

(担当/吉田)

 

目次

旅程図/米田正樹
初めての海外が韓国だったのは幸運だった/石山修武
原ハフェマウル 朝鮮の村落と風水への理解/中谷礼仁
コラム:韓国古建築20選/ 前川歩
浮石寺小考/ 石山修武 
山上の版木倉庫の聖性・冥府殿の色彩/ 石山修武
コラム:旅への眼差しとスケッチ/ 野田尚稔
韓国古層の共同体の基底 シャーマニズム小考/ 石山修武
コラム:近江の流域圏からの渡来の系譜/ 川井操
マサ土の角度 扶餘・弥勒寺と飛鳥・大官大寺/ 中谷礼仁
韓国からアジア西方へ ナーランダ・バビロニア/ 石山修武
コラム:韓国古建築入門 / 前川歩

 

著者紹介

石山修武(いしやま・おさむ)

1944年生まれ。建築家。早稲田大学理工学部名誉教授。1985年「伊豆の長八美術館」で第10回吉田五十八賞、1995年 「リアス・アーク美術館」で日本建築学会賞、1996年「ヴェネチア・ビエンナーレ建築展」で金獅子賞ほか受賞。 主な作品に「幻庵」、「世田谷村」、「ひろ しまハウス」など。主な著書に『笑う住宅』(筑摩書房)、『生きのびるための建築』(NTT出版)、『原視紀行』(コトニ社)などがある。

 

中谷礼仁(なかたに・のりひと)

1965年生まれ。 建築史。 早稲田大学創造理工学部建築学科教授。主な著書に『未来のコミューン』 (インスクリプト、2019年、日本建築学会著作賞) 『動く大地、住まいのかたち』(岩波書店、 2017年、日本建築学会著作賞)、『今和次郎「日本の民家」 再訪』 (平凡社、2012年、日本生活学会今和次郎賞ほか)、『セヴェラルネス+一事物連鎖と都市・建築・人間』(鹿島出版会、2011年)、 主な設計に「高床の家」 (福島加津也と共同、2022年)などがある。

 

写真家紹介

中里和人(なかざと・かつひと)

1956年生まれ。写真家。東京造形大学名誉教授。日本各地の地誌的ドキュメントを中心に、身体的スケールから見え出す社会的景観を発表。主な写真集に『小屋の肖像』、『キリコの街』、『路地』、『東京』、『Night in Earth』。共著に『こやたちのひとりごと』(文・谷川俊太郎)、『SELF BUILD』(文・石山修武)などがある。

 

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「リンゴの唄」の赤と青の色はどのような色だったのか。『占領下の日本 カラーフィルム写真集』衣川太一 編著

占領下の日本 カラーフィルム写真集

衣川太一 編著

 「赤いリンゴにくちびる寄せて 黙って見ている青い空」、戦後を象徴する歌謡曲、並木路子の「リンゴの唄」に歌われているリンゴの赤い色や青い空の青さはどのような色であったか。本書を見ていると赤と青の色彩の美しさに驚く。カバーに使われている瓦礫越しの国会議事堂の写真も赤さびた破壊された真っ赤な自動車の向こうに、青い空を背景に終戦直後の国会議事堂が立っている。本書の特徴はこの青と赤の色彩かもしれない。
 占領時代1945年から1952年がどういう時代であったかは、だんだん解明されつつある。政治的・社会的に何が行われたのかが多くの研究・書物で明らかにされつつある。江藤淳氏の名著『閉ざされた言語空間』以来、それが今日の日本文化にどのような変容を与えたかもわかってきた。別のアプローチとして、その変容やバイアスがどのようなものであったかを知るために本書の写真を眺めてみるのは一助になるかもしれない。
 本書に集められた100カットの写真は編著者の衣川太一氏のコレクション1万3千カットの中から選び抜かれたものである。占領時代、日本を訪れた米軍人たちが観光目的で撮った写真が主になっている。その特徴は一つには、コダクロームというカラーフィルムで撮られていること。日本人には当時やや高価で高根の花だったカラー写真で日本国中を興味本位で撮り歩いていることである。カラーということが重要で、しかも高品質のコダクローム、色彩の再現性が高い。当時の日本人の写真(報道写真や家庭写真なども)は白黒が普通でカラーはあまりない。リバーサルのスライド用フィルムで発色がいい。占領時代のカラー写真はないことはないが、フィルム資料研究家の衣川氏によるコレクションでは良質なものを選定して、さらにクリーニングしたりして、劣化や褪色などの程度の少ないものを取り上げている。つまり占領時代の風景はどのような色彩であったかをかなり忠実に再現してくれている。
 もう一つの特徴は進駐してきた軍人が撮影したものだけに、日本人が記録していないものが映っていることである。
 当時の米軍は日本各地を接収して日本人をオフリミット(立ち入り禁止)にしていた。偶然映ってしまったものに面白い風景がある。外国人には珍しい風俗(木炭自動車や闇市で売っている魚や食品など)。あるいは日本人には撮らせてもらえなかった施設内の写真(基地内の写真とか)。記録として珍しい写真があるということだ。
 本書は占領下の日本を記録した写真類として極めて貴重な価値があると思うと同時に、当時の敗戦に打ちひしがれているかと思う日本人たちが意外や、元気そうで活力にあふれていることを新たに気づかせてくれる。一読の価値がある写真集である。

(担当/木谷)

 

編著者紹介

衣川太一(きぬがわ・たいち)

1970年大阪生まれ。神戸映画資料館研究員、フィルム資料研究者。著書に『占領期カラー写真を読む』(佐藤洋一と共著、岩波新書、2023)、『増補新版 戦後京都の「色」はアメリカにあった!』(植田憲司・佐藤洋一と共編著、小さ子社、2023)。論文に『占領期写真の複合的活用に関する試み : 一九四五年東京・銀座のケーススタディ』(佐藤洋一と共著、昭和のくらし研究 / 昭和館編 第19号、 2021年3月)。神戸を舞台とした映画のロケ地を調査する『ロケ地探索』講座を2021年より神戸映画資料館で開催中。日本大学藝術学部映画学科卒業。

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「大人の世界」が見えてくる、最もキケンな時代――。『中学生あらくれ日記』椎名誠 著

中学生あらくれ日記

椎名誠 著

チンピラへの復讐、空気銃研究、油プール潜水、抜刀騒動…
楽しく熱くヤバすぎた“あの頃”をつづる衝撃エッセイ!

 

『中学時代というのはどの世代のヒトもなんとなく
「暗い」という気配を持っているのではないだろうか。
「中学時代といったら楽しくて楽しくて」などというヒトがいたら
お目にかかりたい。
もっともお目にかかってもどう対応していいのかわからないのだけれど。』
――(本文より)

 

今まで巧みに避けてきた中学時代の“極秘話”の数々……を、ついに赤裸々告白! 
リンチを仕掛けてきた不良グループへの復讐を期して拳を鍛えた夏。
古木材を拾い集め叔父さんと完成させた秘密のアジト。
悪友らと校庭で3輪オートバイ走行。
小遣い欲しさに道端や工事現場で「真鍮(しんちゅう)(銅)」探し……。
人生で一番“危うかった”時代のシーナが今蘇る。
中学時代の「前史」として小学生時代や就学前の懐かしき思い出も吐露。
作家45周年記念作品!

(担当/貞島)

 

目次

Ⅰ 房総の白い海 光る風

トラックに乗って千葉に向かった
食べられちゃった五目まぜごはん
家のまわりを生け垣に
煙突の多い風景
戦前暴走族だった父
芋飴を作る家
二つの川
浜田川の春の賑い
呼吸するように動く海
美味しい海で釣りざんまい

Ⅱ ベカ舟漂流騒動

こわい水脈(みお) 
静止している工事現場
夢のトロッコ路線
人間花火
浚渫船に大コーフン
パイプラインを行く
木の上のつかみ鬼
町の三大有名フーテン人
夏の夜風に躍るスクリーン
映画とそばとデパートと

Ⅲ 汐風びゅんびゅん赤土中学校

中学入学前の幕張
イモ中の面白先生
いろいろな教師
中学への登校風景
ごったがえしの時代
おいてけぼりの不安
昼休みに見たいさかい
イサムと桃子と消えたヘビ
自転車こいで谷津遊園へ
教室の壁は穴だらけ
漁業権放棄でにわか長者

Ⅳ 蟬しぐれの中の復讐

消された臨海産業
父の死と先生
疎林への呼び出し
十五対一のタタカイ
黙って鍛錬、そして反撃開始
復讐は蟬しぐれの中
二人目成功、逃げる標的

Ⅴ  ツギハギ小屋をつくる

家庭内独立作戦
角材拾いの日々
届いた引き違い窓
三畳半のガイコツ小屋
夢の「天守閣」
感動の棟上げ式
落成祝い
流しのスズメ撃ち
あこがれの自転車オートバイ
トコロテン小屋
秘密の物体

Ⅵ キケンな水中探検隊

アームの店に行く
油まじりの黒いプール
青春タンメン事件
公民館で夢のショウ     
主役を食ったシャックリの大男 

Ⅶ ダイコン畑の死闘

ボロ小屋のファイトクラブ
思いがけない苦情
ひそかな暗雲
刀としんばり棒

あとがき

 

著者紹介

椎名誠(しいな・まこと)

一九四四年、東京生まれ。東京写真大学中退。流通業界誌編集長を経て、作家、エッセイスト。『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。『アド・バード』(日本SF大賞)『武装島田倉庫』『銀天公社の偽月』などのSF作品、『わしらは怪しい探検隊』シリーズなどの紀行エッセイ、『犬の系譜』(吉川英治文学新人賞)『岳物語』『大きな約束』などの自伝的小説、『犬から聞いた話をしよう』『旅の窓からでっかい空をながめる』などの写真エッセイと著書多数。近刊に『思えばたくさん吞んできた』(草思社)など。映画『白い馬』では、日本映画批評家大賞最優秀監督賞ほかを受賞。

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誰も1000万ドル以上持つべきではない!超富裕層による世界の歪みを正す、資産制限という衝撃の提案 『リミタリアニズム 財産上限主義の可能性』イングリッド・ロベインス 著 田中恵理香 訳 玉手慎太郎 監訳・解説

リミタリアニズム

――財産上限主義の可能性

イングリッド・ロベインス 著 田中恵理香 訳 玉手慎太郎 監訳・解説

昨今、イーロン・マスクやトランプ大統領といった、超富裕層のやりたい放題ともいえる言動が世間を騒がせています。彼らが世界を揺るがし続けている以上、超富裕層が存在しえない仕組みを真剣に考えるべき時が来ているのだと言えます。
しかし、それはどのように実現するのでしょうか。気鋭の経済学者イングリッド・ロベインスは、大胆にも「個人の資産に上限を設けること」=「リミタリアニズム」(財産上限主義)により、彼らの生む世界の歪みを正すことを提案します。本書は、そのラディカルな政治哲学により、民主主義を見つめなおすように迫る1冊です。

実際問題、超富裕層はどのくらいわたしたちより豊かなのでしょう。ある研究で、その参加者はCEOの給料は未熟練労働者の平均10倍くらいと考えていて、これを4・6倍までに抑えるのがよいと回答しました。しかし実際には、研究でデータが得られた国の大半で、CEOの給料は未熟練労働者の給料の10倍をはるかに超え、何十、何百倍だったのです(アメリカ:350倍超、フランス:50倍)。つまり、私たちは超富裕層の資産をかなり低く見積もっており、またそのために、超富裕層の資産は適正と思える範囲内でないにもかかわらず、あまりにもその富が大きすぎて現実の資産の差を認識できていないのです。

また、その超富裕層は、現実にはどのように世界を歪めているのでしょうか。以下のような具体的な社会的な不正義の例をあげることができます。
・巨万の富は、そもそも非常に多くが、不正な手段を通じている場合が多い。
・膨大な資金により政治家、権力者をコントロールすることで、民主主義を歪め、政治的不安定さを生んでいる。
・資産上位10%が炭素排出全体の48%を占めるなど、環境負荷の最も高い存在である。

とはいえ、個人の資産を制限するということは、どのように正当化されうるでしょうか。それについて、本書では先述の「不正な手段による蓄積」の点と、「高額の報酬も当人のみの努力の結果に帰するものではない」という観点から、丁寧に触れています。

もし、リミタリアニズムが実装された場合、どのような社会の改善が期待できるのでしょうか。経済的権力の均衡、極端な貧困層への即時的対応、階級の分断の緩和などのほかに、なにより超富裕層自身にとっても、その富が生み出している様々な過剰な重圧から逃れるメリットがあるといいます。本書の提案をきっかけに議論がうまれ、社会がよりよくなるきっかけとなれば幸いです。

(担当/吉田)

 

著者紹介

イングリッド・ロベインス(Ingrid Robeyns)

哲学者、経済学者。ユトレヒト大学倫理研究所教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会的排除分析センターの客員教授も務める。2018年、オランダ王立芸術科学アカデミーの会員に選出。2021年、ウィーンのFLAX財団から不平等研究とフェミニズムに関する功績を称えられ、エマ・ゴールドマン賞を受賞。

訳者紹介

田中恵理香(たなか・えりか)

東京外国語大学英米語学科卒、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士課程修了。訳書に、『「失われた30年」に誰がした:日本経済の分岐点』(早川書房)、『女性はなぜ男性より貧しいのか?』『RITUAL(リチュアル):人類を幸福に導く「最古の科学」』(ともに晶文社)、『むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史』(みすず書房)、『巨大企業17社とグローバル・パワー・エリート 資本主義最強の389人のリスト』(パンローリング)などがある。

監訳・解説者紹介

玉手慎太郎(たまて・しんたろう)

東北大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京大学医学部特任研究員などを経て、2021年より学習院大学法学部政治学科教授。専門は倫理学・政治哲学。主な著書として、『ジョン・ロールズ:誰もが「生きづらくない社会」へ』(講談社現代新書、2024年)、『公衆衛生の倫理学:国家は健康にどこまで介入すべきか』(筑摩選書、2022年)がある。

Amazon:リミタリアニズム 財産上限主義の可能性:イングリッド・ロベインス 著 田中恵理香 訳 玉手慎太郎 監訳・解説:本

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キュレーションでアート、そして世界を変えた男の半生『未完の人生 ハンス・ウルリッヒ・オブリストは語る』ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著 北代美和子訳

未完の人生 ハンス・ウルリッヒ・オブリストは語る

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト 著 北代美和子 訳

もし一人、「世界一のキュレーター」はだれかと問われたら、恐らく彼の名が筆頭にあがるのは、ほぼ異論ないのではないでしょうか。「HUO」=ハンス・ウルリッヒ・オブリストは、革新的なキュレーションで知られ、アート界はもちろん、建築その他の分野でも大きな影響を与えている人物です。

彼の行ってきた革新的な展示の代表的なものには、アーティストに指示を出し、各地の美術館が実行する「Do It」や、サーペンタイン・ギャラリーでのマラソン形式のトーク&パフォーマンス、既存の美術館での展示の枠を超えて公共空間やメディアを展示空間とする試み「museum in progress」などがあげられるでしょう。(本書の原題「Une vie in progress」はそこからきており、「未完の人生」という邦題にそのニュアンスを含めています)。既存の美術館に陳列される展示から、美術館の外へ、人々を巻き込みながら、完結しないような展示の在り方を彼は模索し続けています。いまでこそそのような展示方法も定着してきていますが、彼の実践なくしてはいまのような形はあり得なかったかもしれません。
また、『アイ・ウェイウェイは語る』といった著書でインタビューの名手としても知られるところです。

その膨大なコネクションと熱意、行動力はどこから来ているのか。なぜこれほど一線のキュレーターでいつづけることができているのか。そのことに、彼の人生はどのように関連しているのか。本書は、自身の語りでその半生について語る、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト初の自伝となります。

彼の生まれと、幼年期の事故は彼の方向性を決定づける大きな要素でした。山々、そして他の国々に囲まれたスイスで生まれた彼にとって、その山は越えていくべきものでした。「越境」という概念が、生まれながらに育まれる環境があったと言えます。そして、6歳の時の交通事故により命の重要さを痛感し、深い絶望を経験したことが、アートという「希望のフォルム」を希求することに直結していきます。

彼は、とにもかくにもアーティストに会います。当時の美術雑誌にのっていた芸術家の電話番号に連絡をひたすら取り、直接会うことを絶対視していました。そこで、その後のキュレーター人生に深い影響を与える、重要な助言の数々を得ることになります。また、精神的な師と仰ぐ、グリッサンとの出会いも決定的であったでしょう。
展示についても、先の上げたもののほかに、デビューとなる、自宅での「キッチン展覧会」や、建築家レム・コールハースらも参加した移動型展覧会「Cities on the Move」、さらにデジタルゲームのアートの可能性にフォーカスした「WorldBuilding」などに触れています。

それらのアーティストたちと出会いの詳細や、展示についての記述はぜひ本編をお読みいただければと思いますが、強調しておきたいのは、彼の足跡が示すのは、キュレーション、ひいてはアートの可能性そのものと言えることです。作品の展示方法や見方を拡張してきた氏の生き方には、芸術やものの見方を変えてくれる力があります。激動の時代にこそお勧めしたい1冊です。

(担当/吉田)

 

本書で触れられるアーティストの一部
ゲルハルト・リヒター、クリスチャン・ボルタンスキー、エテル・アドナン、アビ・ヴァールブルグ、 H・R・ギーガー、アネット ・メサジェ、ルイーズ・ブルジョワ、ナム・ジュン・パイク、オラファー・エリアソン、ウンベルト・エーコ、エドゥアール・グリッサン、ハラルド・ゼーマン、アルベルト・ジャコメッティ、レム・コールハース、etc…

 

著者紹介

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト(Hans Ulrich Obrist)

スイス出身のアートキュレーター、評論家、美術史家。ロンドンのサーペンタイン・ ギャラリーの芸術監督やLUMA財団のシニアアドバイザーを務めるほか、様々な世界的展示プロジェクトを手掛ける 。『アートレビュー』誌において、 2009 年と 2016 年に世界で最もアートに影響力のある 人物に選ばれている 。著作に『コールハースは語る 』(筑摩書房、 2008)、『キュレーション』(フィルムアート 社、 2013)、『キュレーションの方法』(河出書房新社、 2018) などがある。

訳者紹介

北代美和子(きただい・みわこ)

翻訳家。上智大学大学院外国語学研究科言語学専攻修士課程修了。日本通訳翻訳学会元会長。訳書にエルサ・モランテ『アンダルシアの肩かけ』『嘘と魔法』ジャン・ルオー『名誉の戦場』(以上、河出書房新社)、クレスマン・テイラー『届かなかった手紙』(文藝春秋)、ビル・ビュフォード『フーリガン戦記』、ビリー・クルーヴァー『ピカソと過ごしたある日の午後』(以上、白水社)、『シャルロット・ペリアン自伝』『イサム・ノグチ エッセイ』(以上、みすず書房)、ロランス・コセ『新凱旋門物語 ラ・グランダルシュ』(草思社)ほか多数。

Amazon:未完の人生 ハンス・ウルリッヒ・オブリストは語る:ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著 北代美和子訳:本

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数学者が綴る読解と思索の旅。“読む人”に向けて綴る珠玉のエッセイ『夏蜜柑とソクラテス』新井紀子 著

夏蜜柑とソクラテス

新井紀子 著

主著に『数学は言葉』(東京図書)、『AI vs 教科書が読めない子どもたち』、『AIに負けない子どもを育てる』、『シン読解力』(東洋経済新報社)などがあり、AIと教育・数学リテラシーをめぐる活動で国際的にも知られる著者が、日々の出来事や大切な思い出に寄り添いながら綴ったエッセイを収録。過去の風景、大切な人とのやりとり、なぜか今でも心に残る一瞬…それらをそっと取り出して言葉にし、その過程を通じて、「記憶とは何か」「人間とは何か」を深く洞察しています。

表題作の『夏蜜柑とソクラテス』にこんな一文があります。
「包丁で夏蜜柑の皮を切るのは重労働だし、土用に梅を干せば日焼け止めクリームを塗っていてもシミが増えることだろう。それでも、そうしたい。そうする、と決めている。「ていねいな暮らし」のような意味ではなく、そうしておいたほうが『身のため』のような気がするのだ」
「なるべく機械に頼らず、野性の勘を研ぎすましていたい」と考える著者の姿勢にハッとさせられますが、その「ハッとさせられる」気づきが、この本の隅々にたくさん潜んでいます。

カバーには、著者の手編みのセーターを掲載。「余り毛糸で自分のセーターを編む時間が好き」と言う著者は、このセーターを「パウル・クレーのセーター」と呼んで愛用していますが、カバー写真を見ていると網目の一つひとつにこれまでの著者の日々が編み込まれているようであたたかい気持ちになります。
「日本エッセイスト・クラブ賞」など数々の賞を受賞した著者が、数式では表せない記憶、感情、言葉の余白を表現し尽くした、まさに新境地となる1冊です。
(担当/五十嵐)

 

目次

はじめに
 Ⅰ
人工知能が情緒を感じるようになる日 
ポトスが買えない深いわけ 
猫と金魚と喫茶店 
夏蜜柑とソクラテス 
浅草の男 
老犬の恋 
昆布を炊く 
筋金入り 
マンザナールの子どもたち 
赤い雨 
アイスストーム 
もっか!の『おだんごぱん』
うちのリカちゃん 
ユーミンと猫

Ⅱ 
これさえあれば、生きていける 
「解ける」より「わかる」が尊い 
数学の言葉が果たす役割 
博士に愛されない数 
ロボットは東大に入れるか 
新書は「世界の断片」を提供してくれる 
痴漢という犯罪に、科学の力で立ち向かう 
教科書から学ぶ 
心に残る本『赤毛のアン』 
絵本を買いに 
エリート男子の高校国語 
土を耕す 
ぐっちーさんへの追悼文 
卵を料る(日本エッセイスト・クラブ賞受賞の言葉)


旅立ちの歌 
雪降る里の蕎麦 
あるお茶会の話 
メインステージからの風景 
ハーバードのお誕生日会 
定理を釣る 
人間キャンセル界隈 
哲学を捨てる 
運動音痴と読解力 
魔法を学ぶ(令和五年度一橋大学入学式に寄せて)
おわりに

 

著者紹介

新井紀子(あらい・のりこ)

国立情報学研究所 社会共有知研究センター長・教授。一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学五年一貫制大学院を経て、東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。科学技術分野の文部科学大臣表彰、日本エッセイスト・クラブ賞、石橋湛山賞、山本七平賞、大川出版賞、エイボン女性教育賞、ビジネス書大賞などを受賞。主著に『数学は言葉』(東京図書)、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)、『ロボットは東大に入れるか』(新曜社)、『AI vs.教科書が読めない子どもたち』『AIに負けない子どもを育てる』『シン読解力―学力と人生を決めるもうひとつの読み方』(以上、東洋経済新報社)など多数。

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