草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

書評歴32年、日経夕刊「目利きが選ぶ3冊」でもおなじみの著者が、本の究極の楽しみを満を持して紹介!『本を読む 3000冊の書評を背景に』中沢孝夫 著

本を読む

――3000冊の書評を背景に

中沢孝夫 著(福井県立大学名誉教授)

探す楽しみ、読む楽しみ、評す楽しみ――
本の楽しみについて書き尽くす!

 本書は、書評歴32年、約3000冊の書評を書いてきた著者が、これまでにどんな本を読み、どう楽しんできたかを綴る自伝的エッセイです。
 著者の書評を書くときの基本姿勢は「自己の抑制」。大切なことは「自分が得をすることや、自分を輝かすことではなく、本を輝かすこと」と言い切ります。そこには本に対する深い敬意と愛情が表れています。それゆえ「自分を輝かすための書評」に対しては大いなる苦言を呈しています。
 ほめるためか? 批判するためか? 結局何のために書評があるのか、書評の意義についても改めて考えさせられることでしょう。

 本の中では、『福翁自伝』(福沢諭吉)、『ポーツマスの旗』(吉村昭)、『自省録』(マルクス・アウレーリウス)、『生きがいについて』(神谷恵美子)、『経済思想』(猪木武徳)、『読書論』(小泉信三)、『蟬しぐれ』(藤沢周平)など、著者が人生で感銘を受けた本が随所に紹介されており、古典から教養、娯楽の書までさまざまなタイプの本と出会えるブックガイドとしても楽しめるようになっています。
 今でも繰り返して読んで楽しんでいるという意外な本、週に一回は必ず書店に足を運び自分で本を探し、喫茶店でビールを飲みながら買った本を開くときのワクワク感……著者と本との長年の付き合い方を通して、自分の人生とともにある本を見つけることの幸いや豊かさが伝わってきます。

 本書によって、本の楽しみ方を再発見することにつながれば幸いです。ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊です。

(担当/吉田)

 

目次より

第1章 本を読む楽しみ  
本を読む楽しみ、本屋に通う楽しみ  
読書はときに苦役  
45歳で立教大学に入学  
書評の始まり  
書評を書くときの基本姿勢は「自己の抑制」  
ほめるための紹介か?  
本を読むことは楽しいこと  
近年の書評の事例  
選択肢としての書評  

第2章 本の読み始め  
本を読む習慣  
本で大人の世界を垣間見る  
ほったらかしだったことの幸い  
読書環境の重要性  
吉本隆明・高坂正堯・マルクス  
文学学校のこと  
労組の専従時代の経験と出会い  
書き手になる  
本の良し悪しの基準  
大学教師のスタート  
大学の現実に愕然  
「紙の情報」の意味と他者の好意  

第3章 書評について  
時代の変化と書評  
自己啓発本と神谷美恵子などとの違いについて  
知の広がりは基礎知識が支えとなる  
楽しみで読む本の事例  
書評の対象は古典ではなく、新刊書  
書評の作法、選本について  

第4章 本と教養  
本とは「言葉」  
代表的な英語による本と知られざる本  
著者杉本鉞子について  
「暮らしのため」本を書くということ  
被引用率のこと  
何をどう読むか、「人間の顔とは何か」  
池田潔と小泉信三のこと  
書評の真髄  
トランプ大統領の登場の意味  

第5章 書評の事例  

終章 本を読む意味

 

著者紹介

中沢孝夫(なかざわ・たかお)

福井県立大学名誉教授。博士(経営学)。1944年生まれ。高校を卒業後、郵便局勤務から全逓労組専従を経て、45歳で立教大学法学部に入学、1993年卒業。2000年10月に姫路工業大学(現在の兵庫県立大学)教授に就任。2008年から福井県立大学経済学部教授。2014年から2018年3月まで福山大学教授。専門は、経営組織論、中小企業論、ものづくり論、人材育成論。2000社(そのうち100社は東南アジアの企業)以上の企業からの聞き取りをし、ミクロな領域で研究活動を行ってきた。「日本経済新聞」での「目利きが選ぶ3冊」や「週刊東洋経済」および 「週刊朝日」などに長く書評を寄稿。著書に『良質な社会と自己訂正能力』『起業家新時代』(以上平原社)、『働きものたちの同時代』(東京新聞出版局)、『中小企業新時代』『変わる商店街』(以上岩波新書)、『すごい製造業』(朝日新書)、『就活のまえに』(ちくまプリマ―新書)、『グローバル化と中小企業』(筑摩選書)、『転職のまえに』(ちくま新書)、『働くことの意味』(夕日書房)ほか。

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楽天ブックス: 本を読む - 3000冊の書評を背景に - 中沢 孝夫 - 9784794227225 : 本

ドラフトでチームはここまで変わる! 『挫折と覚醒の阪神ドラフト20年史』小関順二 著

挫折と覚醒の阪神ドラフト20年史

小関順二 著

長年「失敗ドラフト」を繰り返してきた阪神は、いつ、どのようにして甦ったのか?

 昨シーズン、38年ぶりの日本一に輝いた阪神タイガースには、長く苦しい冬の時代がありました。即戦力として獲得したはずの投手はなかなか機能せず、スタメンには他球団から獲得したベテラン選手が目立つ――。そんなシーズンが長いこと続いていたのです。それが今やどうでしょう。スタメンにはドラフト上位指名の若手が並び、投打ともに12球団屈指のタレント集団へと変貌を遂げているのです。
 阪神はいつ、どのようにして生まれ変わったのでしょうか。本書は「ドラフトがチームを変える」をモットーに2000年以降、12球団の全指名選手について年度版『プロ野球 問題だらけの12球団』でレビューし、同時に各球団のチーム編成についても詳細に観察してきた著者が、当時の自身の記述を振り返りつつ阪神のチーム作りの変遷をたどる一冊です。
 ドラフトにおいては、即戦力(大学生・社会人)か将来性(高校生)重視か、投手か野手か、という究極の選択があるわけですが、著者はいずれにしても「ドラフト1位で将来の主軸を構成する」という方針をいかにブレずに貫けるかがチームの浮沈のカギを握る、と述べています。
 そして、この点において注目に値するのが、監督就任にあたって「ドラフトですぐ使える便利屋のような選手を多く取る球団の体質が、生え抜きが育たない要因」と喝破した金本知憲氏による「改革」なのです。監督として大きな結果を残すことはできませんでしたが、阪神のドラフト指名の傾向を検証したとき金本監督の功績は明らかです。本書では、同氏の監督就任以前と以後でどんな変化が起こったか、そしてチーム力がどうなったかを検証していますが、そのあまりの違いに驚かれる方も多いかもしれません。
 プロ野球チームという研ぎ澄まされた才能の持ち主が集う人間集団の編成において、「絶対的な正解」があるはずはありませんが、問題の根本に向き合って生まれ変わった阪神タイガースの軌跡は、やはり球史に残る歩みではないかと思えます。プロ野球をより深く楽しむために、ぜひお読みいただきたい一冊です。

(担当/碇)

 

【目次】

第1章 大転換――ドラフトでチームはここまで変わる 
金本知憲の監督就任を境に激変した阪神ドラフト 
「野手の1位指名」が意味するもの 
スタメンに名を連ねる「ドラフト1位の野手」たち 
大学生&社会人出身で形成された強力投手陣 
高校卒投手の活躍が少ないのは阪神の伝統か
レギュラー野手に高校卒は何人いればいいのか
ドラフト1位投手が主力になれないのはなぜか 
球界の流れに乗り遅れていた阪神とオリックス 
ウエイトトレーニングがもたらした変化 
常勝軍団を作るための土台 

第2章 暗中模索からの起死回生――2000年からのチーム作りを再検証
チームを蝕む「伝統」の呪縛●2000年版の指摘● 
「小技の2番タイプ」を上位指名する伝統/投手は線の細いスレンダー志向

「名将」野村克也の挫折●2001年版の指摘● 
大物外様監督の明と暗/慢性的な攻撃力不足を招いた投手偏重ドラフト/「再生工場」は稼働せず、即戦力ドラフトも不発

「劇薬」投入●2002年版の指摘● 
監督就任直後から圧倒的なスカウト力を発揮/野村と星野、監督として何が違ったのか/井川慶の本格化で急激な新旧交代が勃発

引き継がれない「強さ」●2003年版の指摘● 
優勝監督・星野が遺した「負の遺産」/スタメンにドラフト上位指名選手が少なすぎる
分離ドラフトで失われた高校卒選手への「嗅覚」

「冒険心」なきチーム作り●2004年版の指摘● 
新戦力の抜擢が上手い岡田新監督/主力と同ポジションの大物アマ選手を獲得する伝統/少なすぎる「生え抜き高校卒」投手

阪神フロントの問題点とは?●2005年版の指摘● 
球界再編騒動の余波/進まない野手の世代交代/JFKの奮闘

岐路となった分離ドラフト●2006年版の指摘● 
広がるセ・パの戦力差/セ・リーグの低迷は高校生ドラフトの失敗から始まっている/セの低迷を象徴する阪神のドラフト下手

ドラフトとファームを軽視してはいけない●2007年版の指摘● 
「育成+抜擢」のサイクルが喪失/井川慶のメジャー流出で投手陣が弱体化

「急場しのぎ」の代償●2008年版の指摘● 
なぜ高校生を上位指名すべきなのか?/歴史的な「V逸劇」を演じて監督交代へ

失われたチーム像●2009年版の指摘● 
「ガス欠」を招いたビジョンなき編成/「育成する時間はない」という言い訳/思想が感じられないドラフト指名

「外人部隊」の役割とは?●2010年版の指摘● 
生え抜き選手はスタメンに2人だけ/3年連続で「即戦力投手」を1位指名

俎上にのぼった「編成の問題」●2011年版の指摘● 
坂井信也オーナーの「叱責」/統一球の登場で化けの皮が剝がれる/本塁打を打っているのは移籍選手と外国人

「守秘義務」を徹底すべし●2012年版の指摘● 
「本当は高橋周平を獲りたかった」/外れ1位で指名するのは「無難な技巧派」タイプ
/33年ぶりの大物、藤浪晋太郎の獲得

藤浪という「起爆剤」●2013年版の指摘● 
藤浪晋太郎賛歌/解消されないレギュラー野手の高齢化問題/ドラフトで3人の「成功選手」を獲得

育成か勝利か●2014年版の指摘● 
高校生に投資すると言った楽天トップ/ドラフト1位、2位、4位で社会人の投手を指名

慢性化した貧打●2015年版の指摘● 
鳥谷敬の後継者問題/「走攻守」という呪縛

ドラフト改革の始まり●2016年版の指摘● 
金本知憲監督の改革がスタート/大器・藤浪晋太郎の挫折/金本の「厳しさ」、その功罪

チーム作りの「理想と現実」●2017年版の指摘● 
「超変革」が意味していたもの/糸井嘉男獲得で露呈したフロントの不安/青柳晃洋の覚醒

新旧交代の狭間で●2018年版の指摘● 
ドラフト改革の成果が見え始めた/23年の日本一を呼び込んだ「18年ドラフト」

「金本路線」の継承●2019年版の指摘● 
「70点をめざす指名」への後退はありえない/建て直しも瓦解も「8年」が目安

将来を見据えた指名とは?●2020年版の指摘● 
育成ドラフトに対する姿勢/驚異の「20年ドラフト組」にも高校生は1人だけ

オリックスの変化から何を学ぶか●2021年版の指摘● 
新型コロナウイルスの余燼が燻る中での異例のシーズン/ドラフトでチームを変えるために必要な時間

スケール感を増すチーム●2022年版の指摘● 
大山悠輔の成長から生まれた好循環/記録的連敗でもCS出場まで持っていく地力

充実した戦力だが、課題も●2023年版の指摘● 
WBCの主力メンバーから見えてくる阪神の課題/ドラフトでチームを甦らせた阪神

第3章 未来の担い手 
2023年のドラフト1位指名から見えてくること 
独立リーグで野球をするメリット 
2人の高校卒遊撃手への期待 
下位指名「即戦力」投手の特徴 
育成指名2選手のポテンシャル 
受け継がれる「金本メソッド」 

阪神ドラフト〈成功選手〉年表 

 

著者紹介

小関順二(こせき・じゅんじ)

スポーツライター。1952年神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。プロ野球のドラフト(新人補強)戦略の重要性に初めて着目し、野球メディアに「ドラフト」というカテゴリーを確立した。2000年より年度版として刊行している『プロ野球 問題だらけの12球団』シリーズのほか、『プロ野球 問題だらけの選手選び─あの有名選手の入団前・入団後』『甲子園怪物列伝』『「野球」の誕生 球場・球跡でたどる日本野球の歴史』(いずれも草思社)、『ドラフト未来予想図』(文藝春秋)、『野球力 ストップウォッチで判る「伸びる人材」』(講談社+α新書)、『間違いだらけのセ・リーグ野球』(廣済堂新書)、『大谷翔平 奇跡の二刀流がくれたもの』『大谷翔平 日本の野球を変えた二刀流』(いずれも廣済堂出版)など著書多数。CSテレビ局スカイ・A sports+が中継するドラフト会議の解説を1999~2021年まで務める。同会議の中継は20年度の衛星放送協会オリジナル番組アワード「番組部門中継」の最優秀賞を受賞。15年4~7月に、旧新橋停車場 鉄道歴史展示室で行われ好評を博した「野球と鉄道」展の監修を務める。

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初めての大人向け「ナナフシのすべて」。これはすごい。 『不思議の虫ナナフシ ヘンな虫のヘンな暮らし』海野和男 写真 伊地知英信 文

不思議の虫ナナフシ

――ヘンな虫のヘンな暮らし

海野和男 写真 伊地知英信 文

 本書はナナフシという虫についての本である。枯れ枝そっくりの細い身体を持ち、樹木や葉っぱの中に紛れ込んでいるのでよく見えない。一種の擬態の名人である。
 ナナフシというのは通称で、正式にはナナフシモドキとかカレエダナナフシというのが種名である。これまでナナフシについて書かれた本は2、3の児童向けのものはあったが(絵本のような)、本格的な大人向けの本は本書が初めてである。
 実はナナフシは日本に普通にいるし、身近にもよくいる虫なのである。日本に20種ぐらい、世界には2000種ぐらいいる。この本には内外100種ぐらいの写真が収められている。目立たないのであまり着目されていないだけで、面白い形態、面白い生態を持った昆虫である。昆虫写真家としては第一人者の海野和男氏によるカラー精細写真160点が収められている。日本及び世界各地で撮影された驚くべきバリエイションのナナフシ類の写真が先ず驚異である。日本では地味で目立たないと言ったが、東南アジアやニューギニアではとんでもない形のナナフシがいる。マレーシアに棲むセラティペスオオトビナナフシという種は手足を伸ばすと50センチを超え、世界最長の昆虫である。パプア・ニューギニアで見つけたゴライアスオオトビナナフシなどは世界最重量の昆虫である。世界最長も世界最重量もナナフシなのである。
 生態は単為生殖でオスが見つかっていないものも多い。死んだふり――擬死が得意、危機になると足を切り離す自切をするがまた生えてくる。一般に翅はないのだが、ときに突然大きな派手な翅を広げる種もあり、威嚇のためという。体に大きなとげとげを持つ種もある。熱帯の種は、おとなし気な日本のナナフシに比べ総じて派手である。
 基本、植物をエサにして隠れている平和的な昆虫である。動作ものろい。実は先年、世界のナナフシ類を網羅した図鑑がヨーロッパで出たのだが、日本でよりもヨーロッパでのほうが人気ある昆虫かもしれない。本書には共著者・伊地知英信氏によるナナフシ飼育法が終章に収められているが、飼いやすく、面白いペット昆虫として有名である。
 伊地知英信氏はサイエンスライターというか、自然に関する記事や書籍に寄稿しているベテランのライターである。本書にはナナフシの軽妙な解説、またナナフシ文化史ともいうべきエピソード、例えば学名が「ミカド」というのはなぜかなど興味深い話題を提供している。まずは本書を開いてその昆虫の驚くべき姿に刮目すべし。

(担当/木谷)

 

写真家紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。東京農工大卒。昆虫写真家。『昆虫の擬態』(平凡社)で日本写真家協会年度賞。『世界のカマキリ観察図鑑』『増補新版 世界で最も美しい蝶は何か』『蝶が来る庭』『ダマして生きのびる蝶の擬態』(いずれも草思社)ほか多数。伊地知英信氏と共著に『ファーブル昆虫記 誰も知らなかった楽しみ方』(草思社)。ウェブサイト「小諸日記」運営。

著者紹介

伊地知英信(いじち・えいしん)

1961年東京生まれ。北里大学卒。自然科学書や博物館展示物の編集者・ライター。自然観察のインタープリター。集英社版『完訳ファーブル昆虫記』10巻20冊の編集および脚注・訳注の執筆に関わる。『しもばしら』(岩崎書店)で第58回児童福祉文化賞など。

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なぜ1970年を境にゴダールはつまらなくなったのか。 『ゴダール/映画誌』山田宏一 著

ゴダール/映画誌

山田宏一 著

 本書は2022年9月に91歳で自死したジャン=リュック・ゴダール監督について書かれた山田宏一氏の映画評論集であり、氏のゴダール論の集大成である。と言っても書かれているのは1960年代のゴダールのみ。『勝手にしやがれ』(1959年)から『ウイークエンド』(1967年)までの15本の長編と9本の短編、いわゆるポーリン・ケイル女史の言う「豊穣の60年代ゴダール」についてだけである。さらに若干の追悼文が収められている(「キネマ旬報」と「ユリイカ」への寄稿文)のみ。なぜそうなっているのだろうか。
 山田宏一氏は処女評論集『映画について私が知っている二、三の事柄』(1971年、三一書房)の第一章「ゴダールについて私が知っている二、三の事柄」から評論活動を始めているように稀代のゴダール・ファンであった(この書のタイトル自体がゴダール映画『彼女について私が知っている二、三の事柄』のもじり)。
 追悼文の中で山田宏一氏はゴダールこそ映画表現の革新を促した一人であり、真の革新性を持った映画監督であったと述べている。ゴダールの「ジャンプ・カット」はグリフィスの「クローズ・アップ」、エイゼンシュテインの「モンタージュ」、オーソン・ウエルズの「パン・フォーカス」と並ぶ映画表現の4大革命だと述べたあと、ゴダールに夢中になったパリ留学の日々を懐かしんでいる。
 それが1968年パリの五月革命以後のゴダール作品についてはあえて触れていない。『勝手にしやがれ』が世界の若者と映画人に与えた大きな影響、山田氏のパリ滞在時代(1964年から1967年)に夢中になったアンナ・カリーナを主演にする一連のゴダール映画、それが急速に政治化し、高邁になり、抽象化し、輝きを失ってしまったことへの落胆がこの背景にはある。本書の巻末には盟友フランソワ・トリュフォーがパリ五月革命以降にゴダールに出した訣別状(手紙)を収めているが、そのトリュフォーのゴダールへの詰り方に山田宏一氏の思いが仮託されているというのはうがちすぎの見方であろうか。
 トリュフォーはゴダールの女性関係と金に汚いこと、自分が権力化したことに気づかない鈍感さなどを悲痛に訴え、弱いものに味方しないことへの裏切りを攻撃する。映画監督ジャン=ピエール・メルヴィルはヌーヴェル・ヴァーグとは「ゴダール・スタイル」のことだと喝破したが、その見方は一面正しいものの、トリュフォーと彼の仲間たちの支えがあってこその成果であり、独善的になった70年代以降のゴダールははるか高みに駆け上がり、一部信者だけの存在になってしまった。それにつれて神(GОD、ゴダールのもじり)格化されたゴダール作品は、映画が大衆娯楽的な要素を不可欠とし、彼もその映画ファン的世界から出てきただけに、それを捨ててしまえば表現がやせ細り、トリュフォーと決別するのも当然と言えば当然のことであった。世界中のインテリ映画ファンにはったり的手法でなぞかけをし、最後は孤立の中で自死を遂げたゴダール。「あとがき」の中で、著者は監督ベルナルト・ベルトルッチの言葉を引用している。「1960年代のゴダールは現実と直接、生に結びついていました。しかし、その後彼はある種の謙虚さを失ってしまったように思われるのです。…世界の涙にひたることもなく、世界の笑いにも参加することのないダイヤモンド、無色透明で自己完結し…美の宇宙の内部だけで生まれ、生きて、死んでいくように思われるのです…」。著者は追悼文の末尾で「さらばゴダール、さらば映画」と叫んでいます。こんなに豊かだった私のゴダールはどこへ行ったのかという悲痛な叫びでもあり、20世紀のある種の映画への惜別でもあるのでしょう。

(担当/木谷)

 

著者紹介

山田宏一(やまだ・こういち)

1938年ジャカルタ生まれ。東京外国語大学フランス語科卒業。1964~1967年フランスへ留学、その間映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」同人。ゴダール、トリュフォーなど多くのヌーヴェル・ヴァーグ監督たちと知り合う。映画評論家。著書に『友よ映画よ―わがヌーヴェル・ヴァーグ誌』『フランソワ・トリュフォー ある映画的人生』(ドゥマゴ文学賞)『何が映画を走らせるのか?』など多数。

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レシピ考案・食材捕獲・調理・盛りつけをくまモンが担当!前代未聞の料理本『くまモンのりょうり男子』くまモン 著

くまモンのりょうり男子

――レシピ30品、全部自分で作ったモン!

くまモン 著

 

実は料理もデキるんです! くまモンの初のレシピ本、

2024年3月21日発売!!

 

これまで、様々なことにチャレンジしてきたくまモンが、ついにレシピ本を刊行。熊本県産の新鮮な食材などを使用した「たいぎゃうまか」(とてもおいしい)オリジナル料理を紹介するくまモンのレシピブックの登場です。おかずからスイーツまで、どなたでもチャレンジできる30品を掲載。そのほかに鯛をまるごと一匹をおろしたり、畑や海へ食材を捕獲に行ったりと、レシピ以外にも見どころがいっぱい。料理初心者やお子さんでも作れるレシピも紹介しています。毎日の食卓ではもちろんのこと、食育に、プレゼントに幅広くご活用いただける充実の内容です。

 

目次

Chapter1 出勤前の元気チャージ飯
Chapter2 お仕事終わりのお疲れごほうび飯
Chapter3 裏のないおもてなし料理
Chapter4 目指せマッチョ!筋肉増強飯
Chapter5 休日☆癒やしのあまあまスイーツ

 

「むぎゅカプレーゼ」(32~33ページ)より

 

著者紹介

くまモン

熊本県営業部長兼しあわせ部長。誕生日は3月12日。好奇心旺盛なやんちゃな男の子。2010年2月、翌年の九州新幹線全線開業を見据えた「くまもとサプライズ」キャンペーンのロゴと同時に「おまけ」として誕生。同年10月、くまもとサプライズ特命全権大使に就任。2011年9月、蒲島郁夫熊本県知事より、知事、副知事に次ぐ3番目の地位である営業部長に抜擢された。同年11月「ゆるキャラⓇグランプリ2011」で優勝し、快進撃が始まる。海外での人気も高く、これまで22の国(地域)を訪れている。2014年からは「しあわせ部長」を兼任。2016年「熊本地震」、2019年「令和2年7月豪雨」などの災害においては復興支援の旗振り役として県民を牽引してきた。関連グッズの売り上げは2022年までに累計約1兆2932億円に上る。

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奇跡の海峡突破を成し遂げた男を突き動かした「大義」とは──『国境の人 間宮林蔵 探検家にして幕府隠密、謎多き男の実像を追う』髙橋大輔 著

国境の人 間宮林蔵

――探検家にして幕府隠密、謎多き男の実像を追う

髙橋大輔 著

列強のアジア進出で緊張高まる江戸後期に、国内外を雄飛し続けた男の生涯!

「間宮海峡」で高名な江戸後期の探検家、間宮林蔵。彼の生涯は、サハリン島(カラフト・北蝦夷)やアムール川流域を探査し、蝦夷地(北海道)の測量・地図制作に従事した30〜40代半ばまでの前半生と、幕府隠密として薩摩などの西国の城下に潜入した40代後半以降の後半生に分かれますが、彼は、ただの探検家や隠密ではありません。
林蔵の足跡は、その生涯にわたって、当時の日本の「国境」と関わっているのです。
当時の日本には、異国との交易や外交のための「4つの口」(長崎口、薩摩口、対馬口、松前口)があり、そのいずれにも林蔵の関与が見られるのです。
彼はなぜ、国境の地を目指したのか。そこで果たした役割とは──。
現代日本の国境は林蔵らが残した大いなる遺産の上にあるとさえ言えます。北方領土、竹島、尖閣諸島など国境・領土問題に直面する今こそ、読んでおきたい一冊です。

(担当/貞島)

 

目次

第1章 探検家のゆりかご      
第2章 サハリン追跡        
第3章 失われたデレンを求めて   
第4章 アムール漂流 
第5章 持ち去られた古地図
第6章 血族
第7章 間宮海峡へ
第8章 隠密説の謎   

 

著者紹介

髙橋大輔(たかはし・だいすけ)

1966年、秋田市生まれ。探検家。「物語を旅する」をテーマに、世界各地に伝わる神話や伝説の背景を探るべく、旅を重ねている。2005年、米国のナショナル ジオグラフィック協会から支援を受け、実在したロビンソン・クルーソーの住居跡を発見。2022年に王立地理学協会(ロンドン)より勅許地理学者(CGeog)の称号を受ける。探検家クラブ(ニューヨーク)フェロー会員。著書に『漂流の島 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』(草思社)、『12月25日の怪物』(草思社文庫)、『剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む』(朝日新聞出版)、『最高におもしろい人生の引き寄せ方』(アスコム)、『仮面をとった浦島太郎』(朝日文庫)などがある。

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セ・パの覇者「阪神」「オリックス」を切り崩すのは、どの球団か?『2024年版 プロ野球 問題だらけの12球団』小関順二 著

2024年版 プロ野球 問題だらけの12球団

小関順二 著

「即戦力ドラフト」から焦りが垣間見える巨人、リリーフ陣の層の薄さがチーム順位の乱高下を招いているヤクルト、ドラフト上位指名がなかなか育たないソフトバンク、2年連続最下位の日本ハム・中日よりもチーム状況が深刻な楽天……。
プロ・アマ合わせて5800試合以上を球場で観戦してきたドラフト研究の第一人者が、「チーム編成」の視点から12球団の戦力を徹底分析。エースのメジャー流出や新戦力の台頭で混沌必至の2024年シーズンを読み解きます。プロ野球ファン必読の決定版ガイドです! 

(担当/貞島)

 

12球団 今季はどうなる?

阪神
「アメとムチ」を巧みに使い分ける岡田監督の手腕

広島
野手のドラフト1位が過去5年間でゼロは問題だ

DeNA
新戦力の「育成+抜擢」のサイクルを生み出せるか

巨人
チームの命運を左右する門脇誠のショート定着

ヤクルト
なぜ期待の高校卒ドラフト1位投手が伸び悩むのか

中日
「二遊間集めドラフト」をやっている余裕はないはずだ

オリックス
山本由伸が抜けても山下舜平大がいる

ロッテ
今年こそ佐々木朗希の「出力全開」が見たい

ソフトバンク
新監督は「抜擢しない伝統」を打破することができるか

楽天
球団のビジョンが見えず、このままでは暗黒時代に

西武
空前絶後の投手力を擁して覇権をめざす

日本ハム
新球場移転が可能にした逆襲の大補強

 

著者紹介

小関順二(こせき・じゅんじ)

スポーツライター。1952年神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。プロ野球のドラフト(新人補強)戦略の重要性に初めて着目し、野球メディアに「ドラフト」というカテゴリーを確立した。2000年より年度版として刊行している『プロ野球 問題だらけの12球団』シリーズのほか、『プロ野球 問題だらけの選手選び─あの有名選手の入団前・入団後』『甲子園怪物列伝』『「野球」の誕生 球場・球跡でたどる日本野球の歴史』(いずれも草思社)、『ドラフト未来予想図』(文藝春秋)、『野球力 ストップウォッチで判る「伸びる人材」』(講談社+α新書)、『間違いだらけのセ・リーグ野球』(廣済堂新書)、『大谷翔平 奇跡の二刀流がくれたもの』『大谷翔平 日本の野球を変えた二刀流』(いずれも廣済堂出版)など著書多数。CSテレビ局スカイ・A sports+が中継するドラフト会議の解説を1999~2021年まで務める。同会議の中継は20年度の衛星放送協会オリジナル番組アワード「番組部門中継」の最優秀賞を受賞。15年4~7月に、旧新橋停車場 鉄道歴史展示室で行われ好評を博した「野球と鉄道」展の監修を務める。

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