草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

燃えない、壊れない、沈まない…建物を支える「構造」の秘密『世界を変えた建築構造の物語』ロマ・アグラワル著 牧尾晴喜訳

世界を変えた建築構造の物語

ロマ・アグラワル 著 牧尾晴喜 訳

みなさんが今そこにいる建物は、なぜ壊れないのでしょうか。
あまりにも当たり前に利用している建物ですが、それはこれまでに考え出された、
建物を壊さないための工夫の積み重ねによって、日々を平和に過ごせているのです。

本書は、そんな建物を支える構造のアイデアが、どのようにして生み出されたのかを、
世界的な建物の構造設計を担当する現役のエンジニアが分かりやすく語ったものです。

まず建物にとっての脅威は、どんなものがあるでしょうか。
日本に住んでいれば、まず自身が思い浮かぶかもしれません。台風といった自然の力のほかに、火災や建てる地盤が弱いといったことも脅威になりえます。建物が高くなるほど、自身の重さ=重力にあらがう力もより重要になります。
これらのすべてに耐えられなければ、建物は人間を守ることはできません。
構造とは、こういった力に対抗するために人間が生み出した知恵なのです。

ここでひとつ、高層ビルはあんなに高いのに、どうやって地震や風の力に耐えられるのかを考えてみましょう。一つの考え方として、人間と同じように、強い「背骨」をつくって耐えるというアイデアがあります。
働いているオフィスで、エレベーターや階段、トイレが「まとまっている」のがなぜか、考えたことがありますか?これは、それらをまとめて厚い壁で覆うことで、ビルのなかに「背骨」をつくっているからなのです。ですが、これはコンクリート以外の素材ではとても値段が高くなります。
なので別の方法として、鉄骨でできているビルの場合には、亀の甲羅のような「外骨格」を用いることがあります。鉄をVやX字にした「ブレース」構造で建物の全体を覆うことで、外側をつよい殻で覆ってしまうというアイデアです。
このような様々な工夫によって、建物は安全に建てられているのです。

著者はこういった工夫を考えるスペシャリストであり、
西ヨーロッパで最高を誇る「ザ・シャード」の構造ほか、さまざまなランドマーク的な建物を担当しています。彼女自身は、幼いころにインドでテロに巻き込まれた経験があり、
建物が人間の命を守らなければならないという構造設計の理念は、概念的なものではなく、
実体験に基づいています。そういった自身のエピソードも交えて語られるので、一人のエンジニアの奮闘記としても読みごたえがあります。

本書を読み終えたころには、身の回りの建物を見る目がきっと変わっているはずです。

(担当/吉田)

目次

エンジニアの/としての物語 STORY
建物が支える力 FORCE
炎を防ぐ FIRE
土を建材にする CLAY
鉄を使いこなす METAL
石を生み出す ROCK
空を目指す SKY
地面を飼いならす EARTH
空洞を利用する HOLLOW
水を手に入れる PURE
衛生のために CLEAN
理想の存在 IDOL
最高の橋たち BRIDGE
夢のような構造を実現する DREAM

著者紹介

ロマ・アグラワル(ROMA AGRAWAL)

構造エンジニア。インド系イギリス系アメリカ人。オックスフォード大学で物理学の学士号を取得した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造工学の修士号を取得。西ヨーロッパ一の高さを誇るビル「ザ・シャード」やノーザンブリア大学歩道橋をはじめとして、数々の有名な建造物の構造設計に関わる。英国王立工学アカデミーのルーク賞を含む数々の国際的な賞を受賞している。

訳者紹介

牧尾晴喜(まきお・はるき)

株式会社フレーズクレーズ代表。建築やデザイン分野において、翻訳や記事制作を手がけている。1974年、大阪生まれ。メルボルン大学での客員研究員などを経て独立。一級建築士、博士(工学)。主な訳書・監訳書に、『幾何学パターンづくりのすべて』、『〈折り〉の設計─ファッション、建築、デザインのためのプリーツテクニック』、『箱の設計─自由自在に「箱」を生み出す基本原理と技術』(以上、ビー・エヌ・エヌ)、『世界の橋の秘密ヒストリア』、『あるノルウェーの大工の日記』(以上、エクスナレッジ)などがある。「AXIS(アクシス)」、「VOGUE JAPAN」、「GQ JAPAN」、「GA」といった雑誌で記事の翻訳・執筆も手がけている。

Amazon:世界を変えた建築構造の物語:ロマ・アグラワル著 牧尾晴喜訳:本

楽天ブックス: 世界を変えた建築構造の物語 - ロマ・アグラワル - 9784794226044 : 本

『老子』には本当は何が書かれているのか?『真説 老子 世界最古の処世・謀略の書』高橋健太郎 著

真説 老子

――世界最古の処世・謀略の書

高橋健太郎

■日本で誤解されてきた『老子

 『老子』と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか? 中国古典に興味がある方だと、もしかすると「無為自然」「足るを知る」「上善如水」など、『老子』に書かれている有名なフレーズのいくつかが浮かぶかもしれません。またある人は「流れに身を任せよ」「あるがままに生きよ」とラクに生きるための心構えや哲学について書かれた本だと思っているかもしれません。
 しかし、本書で紹介する『老子』はこれまでのイメージとはまったく逆、『老子』を一貫した処世・謀略術の体系として読み解くものです。

■「あるがままでいい」とは「何もしない」ことではない

 事実、歴史的にみると『老子』を真正面から謀略術として理解する行為は、中国や日本において伝統的に行われていた解釈法でした。『老子』は、兵法や戦略の書である『孫子』や『韓非子』に多大な影響を与えていますし、かの毛沢東も『老子』を戦略書として愛読していたと言われています。
 『老子』は単に無欲で厭世的な哲学書ではないのです。

■乱世とも呼べる現代にこそ役立つ老子の教え

 著者は、「『老子』全体を謀略術の体系と解釈してはじめてわかる教えがある」とし、「実社会に生きる我々を、生き残る者と亡びる者、成功する者と失敗する者、勝つ者と負ける者、幸福な者と不幸な者に分けるものの正体がつかめる」と言います。
 本書で紹介される「老子」流処世・謀略の理論の数々は、乱世と言っても過言ではない現代にも通用するものばかりです。
 これまで抽象的で難解だと言われていた『老子』をこれほどまでに明快に解説した本はないでしょう。もう一度『老子』を読み直したい、もっと『老子』を深く知りたい、理解したいという人にも最適です。
 ぜひ新しい『老子』の世界観を堪能していただければ幸いです。

(担当/吉田)

目次より
1章 「あるがままでいい」というウソ──封印された『老子』謀略術
2章 「道」は成功者を必ず殺す──『老子』が喝破した世界の仕組みとは?
3章 『老子』とは「道」を利用した戦略である──「反」と「柔弱」
4章 「足るを知る」本当の意味──人間の欲望が生死を分ける
5章 「王」はいかに人を動かすべきか──権力と敵意の構造
6章 「隠君子」という生き方──なぜ真の成功者は隠れているのか

著者紹介

高橋健太郎(たかはし・けんたろう)

作家。横浜市生まれ。上智大学大学院文学研究科博士前期課程修了。国文学専攻。専門は漢文学。古典や名著を題材にとり、独自の視点で研究・執筆活動を続ける。近年の関心は、謀略術、処世術、弁論術や古典に含まれる自己啓発性について。著書に『鬼谷子』(草思社文庫)、『どんな人も思い通りに動かせる アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(文響社)、『哲学ch』(柏書房)など多数。

Amazon:真説 老子 世界最古の処世・謀略の書:高橋健太郎 著:本

楽天ブックス: 真説 老子 - 世界最古の処世・謀略の書 - 高橋 健太郎 - 9784794226006 : 本

33人の作家たちに学ぶ「年の取り方」『作家の老い方』草思社編集部 編

作家の老い方

草思社編集部 編

誰しも青年期を過ぎ、中年期を迎える頃には、身心の不調や衰えを感じたり、家族のケアが必要になったりと、「老い」に向き合わざるを得ません。
今日では老いは若さを失うという面でネガティブに捉えられがちですが、古来「老いる」とはめでたいことでありました。
  めでたき人のかずにも入(いら)む老のくれ  芭蕉
本書では、「老い」を描いたエッセイ、小説、詩歌三十三篇を選りすぐって収録しました。年を取ることの寂しさ、哀しさ、愉しさ、歓びが、書き手それぞれの独自の筆致で表現されています。
これまでの人生を振り返りながら、老いゆく自分を認め、いずれ必ずやってくる「死」に対峙する――。「老い」を描くということは、「いかに生きるか」を描くことと同義であると感じさせられます。

(担当/渡邉)

【収録作家】(掲載順)
芭蕉あさのあつこ角田光代向田邦子井上靖河野多惠子山田太一古井由吉佐伯一麦島田雅彦谷崎潤一郎筒井康隆金子光晴萩原朔太郎堀口大學杉本秀太郎富士川英郎吉田健一松浦寿輝谷川俊太郎室生犀星木山捷平吉行淳之介遠藤周作吉田秀和河野裕子森澄雄、中村稔、穂村弘倉本聰鷲田清一中井久夫太田水穂

【目次】
芭蕉「めでたき人のかずにも入む老のくれ」
あさのあつこ「いい人生?」
角田光代「加齢とイケメン」
向田邦子「若々しい女について」
井上靖「少年老いやすし――教科書の中の時限爆弾――」
河野多惠子「せっかく逝くのだから少し珍しい最期を」
山田太一「老いの寒さは唇に乗するな」
古井由吉「人も年寄れ」
佐伯一麦「年も老いもっと愚かに」
島田雅彦「老人とジム」
谷崎潤一郎「老いのくりこと 抄」
筒井康隆「いくつになっても色気を」
金子光晴「若さとは」
萩原朔太郎「老年と人生」
堀口大學「酒」
杉本秀太郎「和楽のつどい」
富士川英郎「夕陽無限好」
吉田健一「早く年取ることが出来ればと……」
松浦寿輝「孤蓬浮雲
谷川俊太郎「明日が」
室生犀星「老いたるえびのうた」
木山捷平「辛抱」
吉行淳之介葛飾
遠藤周作「老いて、思うこと」
吉田秀和「不条理と秩序」
河野裕子「存命のよろこび」
森澄雄「虚空の遊び――「私の履歴書」」
中村稔「老いについて」
穂村弘「人生後半の壁」
倉本聰「まどろむ」
鷲田清一「「忘れ」の不思議」
中井久夫「老年期認知症への対応と生活支援」
太田水穂「病床夢幻(二) 抄」
著者略歴・出典

Amazon:作家の老い方:草思社編集部 編:本

楽天ブックス: 作家の老い方 - 草思社編集部 - 9784794226051 : 本

現代中国の政治とビジネスの関係をこれほどヴィヴィッドに描いたものは珍しい。『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』デズモンド・シャム著 神月謙一訳

私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット

ーー中国の富・権力・腐敗・報復の内幕

デズモンド・シャム著 神月謙一訳

 本書は上海の貧しい教師の家に生まれた著者が新中国の経済発展の時代に生きて大成功をおさめ、そして習近平時代を迎えて失脚するまでを回想した半生記である。個人の体験を書いているのできわめて具体的で、こんなこと書いていいのかと思うほど実名入りの各種エピソードを交えて書いている。海外の書評などを読むと、これほど新中国でのビジネスと政治の関係を内側からヴィヴィッドに書いたものは珍しいとのことである。
 2012年に北京の環状高速線でフェラーリが激突炎上事故を起こした。運転していた青年と同乗の二人の女性は死亡、女性たちは半裸だった。男は胡錦涛の側近中の側近、令計画の息子(令谷)だった。「赤い貴族」と言われる党のエリートの腐敗した生活の象徴と騒がれ、一大スキャンダルになった。次期中央委員ともいわれた令計画はこれで失脚した(2016年に終身刑)。著者は令谷をよく知っているが、たしかに車好きではあるものの他の乱れた「赤い貴族」の子弟のような感じではなかったという。どちらかというと思索的な男だった。「私には、何かが違うような気がした」と書いている。令計画はこれが仕組まれた事件だと主張していた。
 胡春華という政治家が次世代のホープと言われている。この秋(2022年)の党大会で習近平の第三期目の続投が決まるだろうと言われているが、次は胡春華がチャイナ7(中央政治局常務委員会)に名を連ねるという噂もある。かつて、この胡春華と並び称される次世代のホープと言われたのが孫政才である。この二人は非常に似たような出世コースを歩んできた。
「彼(胡春華)と孫政才が2022年に空席となる二つのトップのポストに就くように育てられているのは明らかだった。唯一の問題は、どちらが党の総書記として頂点に立ち、どちらがナンバーツーとして総理になるかである。」(201頁)
 2017年9月、本書の主人公の一人、著者の元妻であるホイットニー・デュアン(段偉紅)が拘束され失踪したが、孫政才も同年、汚職でつかまり終身刑を受けている(本書口絵に裁判でうなだれる孫政才の写真が入っている)。孫は習近平体制の中で権力抗争に敗れ、粛清されたと見ていい。ホイットニーは温家宝首相の夫人である張培莉(張おばさん)に可愛がられ、温家宝一族の資産形成のアドバイザー的な存在だった。温家宝が退いていく中で新たに有望な政治家と組んで(後見してもらい)仕事をしていこうと考えていた。その一人が先ほどの令計画であり、もう一人がこの孫政才だった。二人とかなり親しかったというエピソードが本書には書かれているが、ホイットニーの失踪もこれらの粛清劇の一環であると考えられそうである。
 本書の終りの方で著者は次のように書いている。
「もし令計画と孫政才が粛清されなかったら、今ごろは二人とも中央政治局常務委員になっていただろう。そして、中国共産党は、1980年代に鄧小平が生み出した集団指導体制という考え方を維持していただろう。」
 毛沢東独裁という過去を反省して、集団指導体制をとり、改革開放経済下で一大成長を遂げた中国が再び習近平独裁という誤った選択に向かっているという危惧がこの本の最終的な結論のようである。

(担当/木谷)

著者紹介

デズモンド・シャム(desmond shum、沈棟)

1968年に上海で身分の低い教員の家庭に生まれる。9歳のとき香港に移住し、名門の皇仁書院に入学する。アメリカのウィスコンシン大学で金融と会計を学び、1993年に卒業、香港に戻って株式仲買人となる。その後、投資会社に勤務しているときに、のちに妻となるホイットニー・デュアンと出会い、共同で都市開発事業に乗り出す。二人は、改革開放の好景気に乗って、北京空港の物流センターや北京中心部の再開発などの事業を成功させ、莫大な資産を築く。現在はホイットニーと離婚し、一人息子とイギリスに在住。

訳者紹介

神月謙一(かみづき・けんいち)

翻訳家。青森県生まれ。東京都立大学人文学部卒業。大学教員を17年間勤めたのち現職。主な訳書に、『微生物・文明の終焉・淘汰』(ニュートンプレス)、『デジタル・エイプ:テクノロジーは人間をこう変えていく』(クロスメディア・パブリッシング)など。

Amazon:私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット:デズモンド・シャム著 神月謙一訳:本

楽天ブックス: 私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット - 中国の富・権力・腐敗・報復の内幕 - デズモンド・シャム - 9784794225993 : 本

元素を知れば、複雑な世界が面白いほどわかる!『世界の見方が変わる元素の話』ティム・ジェイムズ 著 伊藤伸子 訳

世界の見方が変わる元素の話

ティム・ジェイムズ 著 伊藤伸子 訳

宇宙はどう誕生したのか。なぜ携帯電話で通信できるのか。環境負荷を減らすにはどうしたらよいのか……本書は、この世界の最小の材料である「元素」が、身近な疑問から世界規模の課題まで、どのように世界を成り立たせているのかという「世界のレシピ」について紹介するものです。

■元素のおもしろエピソードを選りすぐり

突然ですがみなさんは、リンはどのようにして発見されたかご存じでしょうか。実は、尿が金色なので、これを煮詰めれば金を得られるのではないかと考えた錬金術師が、それを実行した結果発見したのです。いきなりこんな話で始まって恐縮ですが、これは目に見えている現象が理解できなくても、元素について理解すると途端にわかるという、化学の面白さを端的に表しているエピソードだといえます。
本書は、そのエピソードのセレクトの秀逸さと、語り口のユーモアにおいて、これまでの化学本とは一線を画しています。例えば、元素のベスト10を決めようと思ったけど、傑出した9つと、ものすごく役立たない1つを紹介することにした結果、「ここではっきり言おう。ジスプロシウムは人類の歴史から取りのぞいても、いっさい何も変わらない唯一の元素である。周期表で最もつまらない元素であるジスプロシウムに敬意を表する。」とコメントしてしまう著者のセンスに脱帽です。これほど面白がって読める化学の読み物というのはそうお目にかかれないことでしょう。

■化学の教養もしっかり身につく

とはいえ、本書ではただ面白い話を紹介しているのではなく、それらの逸話をうまく構成して、元素の発見の歴史、周期表が現在の形に整えられてゆく過程もしっかり押さえられています。笑いながら読んでいるうちに、元素とこの世界の関係が身についてしまっていること請け合いです。

(担当/吉田)


目次
第1章  炎を追いかけた人々
第2章 これ以上分割できないもの
第3章 マシンガンとプディング
第4章 原子はどこから来たのか
第5章 マス目ごとに
第6章 量子力学が危機を救う
第7章 大きな音をとどろかせるもの
第8章 錬金術師の夢
第9章 急進派の原子
第10章 酸、結晶、光
第11章 生きている! たしかに生きている!
第12章 世界を変えた九つの元素(と、変えなかった元素)

 

著者紹介

ティム・ジェイムズ(Tim James)

高校で科学の教師として働くかたわら、ユーチューバー、ブロガー、インスタグラマーとしても活躍。ナイジェリア生まれ。宣教師のもとで育ち、15歳で科学の魅力に気づいて以来、科学に恋をしつづけている。化学の修士号を取得(専門は計算量子力学)後、すぐに教師の職につき、現在は高校だけでなくさまざまな場所で科学を教えている。

訳者紹介

伊藤伸子(いとう・のぶこ)

翻訳者。主な訳書に、『世界を変えた10人の女性科学者』『ビジュアル大百科 元素と周期表』(以上化学同人)、『周期表図鑑』(ニュートンプレス)、『もっと知りたい科学入門』(東京書籍)、『ワインの味の科学』(エクスナレッジ)などがある。

Amazon:世界の見方が変わる元素の話:ティム・ジェイムズ 著 伊藤伸子 訳:本

楽天ブックス: 世界の見方が変わる元素の話 - ティム・ジェイムズ - 9784794225924 : 本

「自分の足」だけを頼りに、ゆっくり自由に旅することで人生を取り戻す。『歩き旅の愉しみ 風景との対話、自己との対話』ダヴィッド・ル・ブルトン著 広野和美 訳

歩き旅の愉しみ

――風景との対話、自己との対話

ダヴィッド・ル・ブルトン著 広野和美 訳

 本書はフランスの社会学者が、〈歩いて移動する〉という行為と、そこから生まれる感慨について味わいのある文章でつづった思索の書です。自身もまた歩き旅の愛好者である著者は、これまでのみずからの経験に加えて古今東西のさまざまな書物の一節も引用しながら、歩き旅の豊かな可能性について述べています。
《ルソーは、その著書『エミール』で旅について言及し、そのことをうまく表現している。「わたしたちは、都合のいいときに出発する。好きなときに足を休める。うんと歩きたいと思えばうんと歩くし、そう歩きたくなければすこししか歩かない。わたしたちはその土地のすべてを観察する。右へ曲がったり、左へ曲がったりする。わたしたちの心をひくあらゆるものをしらべてみる。どこでも見晴らしのいいところには足をとめる」。これこそが、歩き旅の大切な哲学であり、その人その人にふさわしい大自然の中での歩き方だ。》(本書より)
 さまざまなテクノロジーのおかげで、現代人は驚くほど容易に目的地に到達することができるようになりましたが、著者は歩き旅において大切なのは目的地にたどりつくことではなく、一歩一歩踏みしめて歩くことだといいます。そうすることで「道は無限に続くこと」「たくさんの生き方があること」、そして自分には「経験してみたかったことがたくさんあること」に気づくのです。私たちの日常を支配している効率やスピード感は、ここでは必要なくなるのです。
 そして歩き旅はまた、今は亡き大切な存在を思い出すよすがにもなると著者は書いています。フランスの旅行作家シルヴィアン・テッソンの「なぜ亡くなった者の思い出は、風に揺れる木の枝や丘の尾根の連なりのような何でもない光景と結びついているのだろう?」という一文を引用しながら、著者は「道を歩きながら抱くはかない幸福感は、かつて大切だったけれども今はこの世にいない親しい者たちの振る舞い、微笑み、笑顔を思い出させる。道歩きは過去をよみがえらせ、自分の生き方を考え直させ、人生のさまざまな瞬間に自分のそばにいてくれた人たちのことを思い出させる」と述べています。歩き続けることで研ぎ澄まされた感覚によって、わたしたちは自分の重心を再び確認するのかもしれません。あわただしい日々の暮らしの中ですり減った心を一休みさせるのに、好個の一冊といえそうです。

(担当/碇)

著者紹介

ダヴィッド・ル・ブルトン(David Le Breton)

ストラスブール大学教授(社会学・人類学)。フランス大学研究院の上級会員、ストラスブール大学高等研究院の正教授。人間の身体や感覚の変容、青少年の問題行動についての研究に取り組む。歩き旅の魅力を考察した著書やRire. Une anthropologie du rieur(笑う:笑いの人類学)、La saveur du monde(世界の味わい)など多数がある。本書は初の邦訳書となる。

訳者紹介

広野和美(ひろの・かずみ)

フランス語翻訳者。大阪外国語大学フランス語科卒。訳書に『フランスの天才学者が教える脳の秘密』(TAC出版)、『フランス式おいしい肉の教科書』『フランス式おいしい調理科学の雑学』(パイ インターナショナル)、共訳書に『0 番目の患者』(柏書房)、『世界で勝てない日本企業』(幻冬舎)などがある。

Amazon:歩き旅の愉しみ 風景との対話、自己との対話:ダヴィッド・ル・ブルトン著 広野和美 訳:本

楽天ブックス: 歩き旅の愉しみ - 風景との対話、自己との対話 - ダヴィッド・ル・ブルトン - 9784794225917 : 本

人間はなぜこんなに賢く、こんなに愚かなのか?『人はどこまで合理的か(上・下)』スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳

人はどこまで合理的か(上・下)

スティーブン・ピンカー 著 橘明美

■『21世紀の啓蒙』『暴力の人類史』の著者による最新作。全米ベストセラー

 本書は2021年に刊行された全米ベストセラー、Rationality: What It Is, Why It Seems Scarce, Why It Mattersの邦訳です。
近年、フェイクニュース陰謀論がはびこり、党派的議論も横行していると、多くの人が嘆くようになりました。その一方で、IT、人工知能、医療などの科学技術は急速な進歩を遂げ、新型コロナワクチンはわずか1年足らずで開発されました。この状況は、2つのことを示しています。
 1つは、人間の合理性には、確かにとても大きな力があるということ。もう1つは、人間はつねに合理的なわけではなく、注意を怠ればたちまち非合理に陥るということ。どうすれば、私たちは、非合理に陥らず、より合理的に思考できるようになるのでしょうか。

■合理的思考の最強のツール群を幅広い学問分野から抽出し、伝授する初めての本

 この1000年あまりの間に、人類は、本来持っている合理性を拡張すべく、数多くの合理性ツールをつくり出してきました。そのツールとは、「論理」「批判的思考」「確率・統計」「意思決定理論」「ゲーム理論」などの幅広い学問分野から生まれた、合理的に思考するためのさまざまな“道具”で、さまざまな判断の基準や枠組み、考え方のルールを提供してくれます。
 さらに、「人はなぜ・どのように、非合理に陥るのか」についても、心理学や行動経済学などの分野で研究されており、さまざまな知見が蓄積されてきました。この研究は非常に活発で、ノーベル賞が与えられるような大きな発見も得られています。非合理に陥りやすい状況・条件などを教えてくれるものと言えるでしょう
 合理性のツールや、非合理に関する知見は、私たちが非合理に陥ることを防ぐために大変、役立つものです。危険な選択を修正し、疑わしい主張を値踏みし、おかしな矛盾に気づき、非合理に陥りそうな場面を事前に警戒できるようになるなど、人生にとっても社会にとっても、非常に実用的な意味を持つ知識です。にもかかわらず、これらツール・知見をすべてまとめて説明する本はこれまでどこにもありませんでした。本書はそれを実現した初めての本です。
 本書の元となったのは、バーバード大学で著者が受け持つ一般教養の講義。そのため、専門的な知識ナシで読み進められるように書かれています。人生と社会をよりよいものにするために、多くの方々、特に若い方に読んでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

 

■上巻目次

序文

第1章 人間という動物はどのくらい合理的か
■狩猟採集民は驚くほど合理的である
■「なぜ人間は時に非合理になるか」は研究されている
■人間の非合理さを露呈させる簡単な数学の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な論理学の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な確率の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な予測の問題
■認知的錯覚と「目の錯覚」の類似点

第2章 合理性と非合理性の意外な関係
■「理性に従う」ことはかっこ悪いのか
■理性なしにはあらゆる議論が不可能
■理性は妥当かつ必要だと考えられる理由
■理性は情念の奴隷? 情念が理性の奴隷?
■自分の中にある複数の目的間の葛藤
■今の自分と未来の自分とのあいだの葛藤
■あえて無知でいるほうが合理的な場合もある
■無能や非合理でいることが合理的な場合
■考えることや訊ねることがタブーとされる場合
■道徳は合理的な根拠をもちうるか
■理性の誤りも理性で正すことができる

第3章 論理の強さと限界はどこにあるか
■論理の力で論争は解決できるか
■「もし」や「または」の論理学上の意味は通常と異なる
■形式論理のよくある誤用の例
■論理の飛躍や誤謬に気づく方法「形式的再構成」
■非形式的誤謬のさまざまなバリエーション
■論理が万能でない理由―論より証拠
■論理が万能でない理由―文脈や予備知識の無視
■論理が万能でない理由―家族的類似性
ニューラルネットワークで家族的類似性を扱う
■人間の理性は家族的類似性も論理も扱える

第4章 ランダム性と確率にまつわる間違い
■偶然と不確実にどう向き合うべきか
■ランダム性とは何か。それはどこからくるのか
■「確率」の意味は複数あり混乱の元になっている
■利用可能性バイアスで確率の見積もりを誤る
■「大衆の怒り」はバイアスだけでは説明不能
■ジャーナリズムがバイアスを増幅させる理由
■連言確率、選言確率、条件付き確率の混同
■確率にまつわる誤謬は専門家でも気づきにくい
■〈AまたはB〉の確率と〈Aでない〉確率の計算
■条件付き確率の計算は混乱しやすいが重要
■〈AのときのB〉の確率と〈BのときのA〉の確率
■後知恵確率を事前確率と取り違える誤謬
■人間の「かたまり」を見つける能力が誤謬を生む
■それでも人は幸運の連鎖に魅了される

第5章 信念と証拠に基づく判断=ベイズ推論
ベイズ推論は全人類が学ぶべき理性の道具
■基準率無視と代表性ヒューリスティック
■基準率無視が科学の再現性危機の根源
■基準率を無視するほうが合理的である場合
ベイズ推論を直観的に使えるようにするには

原注

■下巻目次

第6章 合理的選択理論は本当に合理的か
■悪者にされ嫌われてきた「合理的行為者」の正体
■合理的行為者が満たす7つの公理
■「限界効用の逓減」と保険とギャンブルと大惨事
■共約可能性・推移性の公理違反を犯す場合
■非合理と言い切れない、独立性の公理違反
■「プロスペクト理論」による公理違反と合理性
■合理的選択が本当に合理的なことはやはり多い

第7章 できるだけ合理的に真偽を判断する
■不完全な情報を基に合理的な決定を下すには
■信号とノイズを見分けるのはなぜ難しいか
■反応バイアスを最適に設定する方法
■測定の感度を上げればミスも誤警報も減る
■法廷における信号検出の精度は十分か
■科学研究の「再現性の危機」と信号検出理論

第8章 協力や敵対をゲーム理論で考える
ゲーム理論なしでは社会の重大問題に向き合えない
■じゃんけん・ゼロサムゲーム・混合戦略・ナッシュ均衡
■猫に鈴・非ゼロサムゲーム・ボランティアのジレンマ
■待ち合わせ・調整ゲーム・フォーカルポイント
■チキンゲームとエスカレーションゲームへの対処法
囚人のジレンマの克服法「掟」「しっぺ返し戦略」
囚人のジレンマの多人数版「共有地の悲劇

第9章 相関と因果を理解するツールの数々
■違うとわかっていても混同する相関と因果
■相関があるかどうかは散布図と回帰分析でわかる
■特異な現象の繰り返しは少ない「平均への回帰」
■実は答えるのが意外に難しい「因果関係とは何か」
■因果をつなぐのは一本道ではなくネットワーク
■その相関は因果関係か――ランダム化と自然実験
■その相関は因果関係か――マッチング、重回帰など
■「主効果」「交互作用」で因果を賢明に考察する
■あらゆる手段を駆使しても人間は予測しきれない

第10章 なぜ人々はこんなに非合理なのか
■理性の衰退を懸念させるデマや陰謀論、迷信の流布
■たわごとの蔓延に関する説明にならない説明
■望ましい結論に誘導する「動機づけられた推論」
■党派性に侵された議論「マイサイドバイアス」
■非合理な両極化を引き起こす原因は何か
陰謀論は「神話のマインドセット」の信念
■人はなぜ疑似科学・超常現象などに騙されるのか
■エンタメとしての都市伝説・フェイクニュース
陰謀論が蔓延しやすいのには理由がある
■社会から非合理を減らすためにできること
■「合理性の共有地の悲劇」を防ぐ制度も必要

第11章 合理性は人々や社会の役に立つのか
■理性は人生とこの世界をより良いものにするか
■合理的に判断することは人生の役に立つのか
■世界の物質的進歩は合理性の成果だ
■道徳の進歩も合理性によりもたらされたのか
■道徳を進歩させた合理的で健全な議論の数々

参考文献

原注

誤謬の索引・人名索引

 

著者紹介

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)

ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学マサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『21世紀の啓蒙』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。

訳者紹介

明美(たちばな・あけみ)

英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学卒。訳書にスティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』(草思社、共訳)、ジェイミー・A・デイヴィス『人体はこうしてつくられる』(紀伊國屋書店)、フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』(太田出版)ほか。

Amazon:人はどこまで合理的か(上):スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳:本

Amazon:人はどこまで合理的か(下):スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳:本

楽天ブックス: 人はどこまで合理的か 上 - スティーブン・ピンカー - 9784794225894 : 本

楽天ブックス: 人はどこまで合理的か 下 - スティーブン・ピンカー - 9784794225900 : 本