草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

松竹娯楽映画の王道を歩んだ監督の一代記、創作の秘密。『増補新版 映画の匠 野村芳太郎』野村芳太郎 著 小林淳、田中ひろこ 編 野村芳樹 監修

増補新版 映画の匠 野村芳太郎

野村芳太郎 著 小林淳、田中ひろこ 編 野村芳樹 監修

 野村芳太郎は松竹の映画監督で、生涯88本の作品を残した。『砂の器』『張込み』『拝啓天皇陛下様』『五辨の椿』『事件』『疑惑』『震える舌』など多くの話題作・ヒット作がある。ミステリーや犯罪映画から、コメディ、時代劇、青春もの、歌謡映画まで、多くはいわゆる娯楽作品である。
 この本はその松竹娯楽映画の伝統を背負った職人監督の、映画作りにかけた人生を自身の言葉(インタビュー、日記・メモ類、エッセイ)や関係者証言(岩下志麻、大竹しのぶほか)など多くの資料をもとに描き、創作の秘密を解き明かしたものである。2020年に最初の版が出て、その年のキネマ旬報「映画本大賞」に選ばれた良書であるが、今回松竹の「野村芳太郎 再発見再評価」プロジェクトに合わせて、新資料を増補し、決定版として刊行した。
 カバーは『拝啓天皇陛下様』の渥美清の大きな顔写真である。この作品は野村監督も自身の代表作の一つと言っている作品だが、山田洋次監督の『男はつらいよ』の原型になったとも言われ、本書の序文に山田監督は「わが師、野村芳太郎」という跋文を寄せている。いまや日本映画の代表ともいうべき山田洋次監督の兄貴分というか、まさに師匠的存在である。
 また『張込み』『東京湾』『ゼロの焦点』『影の車』『砂の器』など松本清張原作、橋本忍脚本、川又昂撮影(一部違う)のドキュメンタリー・タッチのミステリー映画も記憶に残る。松本清張とは霧プロダクションという制作会社を作っていたし、橋本忍とは氏の監督作『幻の湖』(怪作!)を手伝うまでの仲である。
 今回補足した資料では①日大芸術学部で行った野村監督へのロングインタビューの抜粋を掲載した。ここで氏は生い立ちを詳細に語っているが、ここは日本映画史の裏面を知る上でも興味深い話題が満載である。祖父は二代目野村芳國という京都の芝居絵師。リュミエール商会が日本に初めてシネマトグラフを持ち込んで、神戸・大阪・京都あたりで上映活動を行ったときに協力したという。父は戦前の松竹の大監督で蒲田撮影所長でもあった野村芳亭(小津安二郎や清水宏などの上司)。芝居絵師の修行から興行の手伝いなどを経て、松竹が映画に進出したもっとも初期から製作にかかわりサイレント時代に多くのヒット作を作った。一人息子の芳太郎は蒲田撮影所内の芳亭の家で育ったいわば生粋の映画っこ。②として従軍経験を生々しく語っているインタビューを入れた。氏は最も過酷と言われたビルマのインパール撤退作戦に従軍し「白骨街道」を生き延びた。その体験をもとに映画化の企画を温めていたが実現せず、テレビドキュメンタリーとなった。この体験は氏の作品作りに大きな影響を与えていないか。
 この本は文字通り松竹映画とともに生まれて生きた一職人監督の誠実な映画作りを作品ごとに記録した(松竹や野村家より借用の写真類、詳細なフィルモグラフィー、年譜など)労作であり、読みごたえがであり映画史、昭和史の資料としても貴重な一冊である。

(担当/木谷)

 

著者紹介

野村芳太郎(のむら・よしたろう)
映画監督。1919年、東京市浅草区生まれ。祖父は絵師の二代目・野村芳圀、父は映画監督で戦前の松竹の大監督、野村芳亭。蒲田撮影所内で育つ。1936年、暁星中学校、1941年、慶應義塾大学文学部芸術学科卒業。同年、松竹大船撮影所に入所。42年、召集され入営。インパール作戦などに参加。終戦後復職、黒澤明、川島雄三らの助監督を経て、1952年のSP作品『鳩』で監督昇進が決定し、1953年、第一回作品『次男坊』から以後1985年『危険な女たち』まで、生涯88本の映画作品を発表し続けた。代表作に『砂の器』『張込み』『事件』などがある。1985年、紫綬褒章、1995年、勲四等旭日小綬章受章。2005年4月8日、歿(享年85)。

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巨星たちの「魂」に触れる、渾身の近現代文学論 『文学の黄昏』松浦寿輝 著

文学の黄昏

松浦寿輝 著

二〇二〇年に古井由吉が、そして二三年に大江健三郎が逝去した。大江は一三年発表の『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』が最後の小説となり、古井は死の直前まで書き継がれた連作短篇が『われもまた天に』という大変美しい表題で刊行された。この二人の死に、我が国の近現代文学の一つの区切りを感じた読者は多いのではないか。いずれも戦前生まれの、日本を代表する大作家であった。

松浦寿輝氏による最新刊『文学の黄昏』には、総論としての第Ⅰ部「平準化と特異化」に続いて、日本文学を論じた第Ⅱ部の冒頭に古井、大江をめぐる文章が数篇ずつ収められている。古井については「静かな暮らし」の執拗な持続とそこに孕まれるある種の狂気を、大江については他者から強いられそして自ら強いた「誠実と猛烈」を生きた様が指摘される。

第Ⅱ部ではそのほか中上健次、三島由紀夫から西脇順三郎、内田百閒、萩原朔太郎、北村透谷、樋口一葉まで、年代を遡って巨星たちを描いた批評、随想、講演録、インタビューが続く。そして第Ⅲ部は海外文学について、第Ⅳ部は複数の作品や作家についての文章が集成されている。

いずれも作品世界の丁寧な読解に基づき、自身と作品とのかかわりや交流のあった作家についての私的なエピソードが交えられながら、彼らの「魂」に触れるようにして、それぞれの文学者のポートレイトが描出されるとともに、文学史にいかなる達成をもたらしたのかが端的に表される。

詩、小説の実作者にして、研究者としての批評眼を持ち続ける著者による本書は、文学愛好者によって味読されるのはもちろん、若い読者にとって近現代文学の入門書として親しまれることでしょう。是非ご高覧ください。

(担当/渡邉)

 

本書の内容

樋口一葉、北村透谷、萩原朔太郎から
三島由紀夫、中上健次、大江健三郎、古井由吉まで、
巨星たちの「魂」に触れる、渾身の近現代文学論。
この二十年間に発表された批評、随想、講演録、インタビューを集成。

詩も小説も言葉で書かれる。絵でも映像でも楽音でもなく、言葉によって表現されるものが文学である。何を今さらそんな初歩的なことを、と首をかしげる向きもあるかもしれないが、自明と見えるこの一事を改めて再確認することからしか、文学をめぐるいかなる論も始められないというのがわたしの考えだ。(「平準化と特異化」より)

徹底的に特異たらんとする意志が不意に徹底的な普遍性の空間へ突き抜けてしまうということがあるのであり、そこに「魂」と「魂」の間の交流が実現する。それが文学の持つかけがえのない「質」であり「徳」であり「力」なのであり、それを通じて人は国籍も人種も階級もない「無゠場(アトポス)」に連れ出される。(「平準化と特異化」より)

 

目次

平準化と特異化

Ⅱ
古井由吉さんを悼む
静かな暮らし――古井由吉
もはや年齢がない――偏愛的「古井由吉他撰作品」
古井由吉の文――三回忌に寄せて
追悼 大江健三郎
大江健三郎の死
誠実と猛烈――大江健三郎
ドナルド・キーンさんを悼む
ドナルド・キーンの世界
キーンさんのこと
「非凡な人物」の肖像――ドナルド・キーン『石川啄木』
小さな名著――ドナルド・キーン『二つの母国に生きて』
平凡社ライブラリー 私の一冊――高階秀爾『ルネッサンス夜話 近代の黎明に生きた人びと』
言語をゾンビ化する――筒井康隆
「人間的」とは――筒井康隆
中上健次の「文」
名前の悲劇――中上健次『岬』『枯木灘』『地の果て 至上の時』
荒事師にして色事師――吉増剛造全詩集によせて
自由人・高橋睦郎
弔辞 阿部良雄先生を送る
栄光ある孤立――丸谷才一『エホバの顔を避けて』
四十代の奇蹟――辻邦生
三島という大きな謎――三島由紀夫
山中智恵子の一首
葛原妙子の美と戦慄
疲労と憤怒――追悼 吉本隆明
悲嘆と慰藉――森有正
男性というものの秘密――太宰治「彼は昔の彼ならず」
遅滞のない速度――金子光晴『マレー蘭印紀行』
詩集の全体を堪能する――西脇順三郎『Ambarvalia・旅人かへらず』
詩をどう読むか――石原吉郎、西脇順三郎、粕谷栄市、松浦寿輝
内田百閒生誕百三十年に寄せて
言葉の冥界をさまよう――内田百閒「冥途」
萩原朔太郎の天才
『月に吠える』――その力業、唄、冒険
「憂鬱なる花見」の年に――パンデミックのなかで萩原朔太郎を読み直す
荷風という男
「言文一致」――書き言葉の激変
透谷と一葉――もう一つの〈近代〉
小川町界隈――夏目漱石
薄日さす町の宿命――芥川龍之介

Ⅲ
カズオ・イシグロのこと
パトリック・モディアノ
身体に根ざした豊饒な世界開く――ル・クレジオの文学
追悼 ジョン・ル・カレ
「太陽宮」の魅惑――E・R・バローズ
喪は過ぎ去らない――ロラン・バルト『喪の日記』
「反知性主義」に陥らないための必読書――バートランド・ラッセル
チェスタトン、ゴダール、モンティ・パイソン
クレピュスキュールの人――ヴァレリー
「波打ち際」と暴力――ヴァレリー
懐かしい本――ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』
不思議な光芒を放つユートピア譚――ケネス・グレーアム『たのしい川べ』
思い出の絵本・心に残る児童文学――ヒュー・ロフティング『ドリトル先生物語』

Ⅳ
本から本へ
私の「海外の長篇小説ベスト10」
英国の近・現代文学をめぐって
読書日録
私が薦める河出の本
この三冊 上海
岩波文庫私の三冊
歳月を考えるためのブックリスト
私の偏愛書――『ガードナーの数学パズル・ゲーム』
「二〇世紀の夢」を読む十冊――『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』刊行記念選書

あとがき――黄昏を讃える

 

著者紹介

松浦寿輝(まつうら・ひさき)
一九五四年、東京都生まれ。詩人、小説家、批評家。著書に詩集『冬の本』(高見順賞)、『吃水都市』(萩原朔太郎賞)、『afterward』(鮎川信夫賞)、『松浦寿輝全詩集』、小説『花腐し』(芥川賞)、『半島』(読売文学賞)、『名誉と恍惚』(谷崎潤一郎賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)、『人外』(野間文芸賞)、『無月の譜』(将棋ペンクラブ大賞文芸部門大賞)、批評『エッフェル塔試論』(吉田秀和賞)、『折口信夫論』(三島由紀夫賞)、『知の庭園 19世紀パリの空間装置』(芸術選奨文部大臣賞)、『明治の表象空間』(毎日芸術賞特別賞)、『黄昏の光 吉田健一論』など多数。

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残酷で理不尽なこの世界を正しく自由に生き抜くための少年マンガ論『生きのびるための現代少年マンガ論 『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』を読み解く』杉田俊介 著

生きのびるための現代少年マンガ論

――『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』を読み解く

杉田俊介 著

なぜ、現代の少年マンガはこれほどまでに残酷で理不尽なのか。
それにもかかわらず、なぜ熱狂的に支持されているのか。

『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』の4つの大ヒット少年マンガについて、現代の社会的現実がどのようにストーリーに組み込まれているのか、その作品ごとに込められた意味を読み解きます。著者の杉田俊介氏は、『宮崎駿論』『ジョジョ論』『ドラえもん論』など、サブカルチャー作品を社会背景や思想と結びつけて読み解く評論を手がけてきた批評家です。

著者は、「少年少女たちは戦っている。/何に対してか。/生まれた時から何かを理不尽に奪われている、という運命に対して」と初めに述べています。現代の少年マンガには、現代の若者が現実に抱く逃れがたい運命や絶望感が深く関係していて、それ故に若者に大きな支持を得ているのではないでしょうか。だからこそ、作品において、どのように若者たちにとってのリアリティーが構造化されているかを見ていくことが重要なのです。

ここで、それぞれの作品ごとの批評的みどころのいくつかをご紹介します。
◇『進撃の巨人』では、歴史の偽造・隠ぺいがあったり記憶の混濁があったりと、常に世界の真実が入れ替わるような「ポストデモクラシー」的世界であり、しかしそのなかでより良い世界を希求していく物語であり、そこにデモクラシーの別の可能性が示されていたのではないか。

◇『鬼滅の刃』における、「自然の摂理」の考え方。昨年話題になった劇場版の猗窩座と炭治郎の戦いの最中に、「弱者には虫唾が走る 反吐が出る 淘汰されるのは自然の摂理に他ならない」という、ダーウィニズムを髣髴させるものがありますが、炭治郎は「お前の言ってることは全部間違ってる」と反論し、ケア論的な正義によって自然の摂理を意味づけようとしているように読めます。

◇『呪術廻戦』の人外魔境新宿決戦での宿儺と五条悟の戦いは、ある意味「マウント合戦」として見ることができる。そして、本作で本当の「悪」たりえる可能性を持っていたのは、宿儺でも羂索でもなかったのではないか、という刺激的な説を展開。

◇『チェンソーマン』は、第二部の最終回が否定的な意見を多く呼びましたが、本作に残されていた可能性、ポストトゥルースに対抗する「破壊的変身」の可能性を、作品を精読することで細かく探求。

本書を読めば、現代少年マンガの重苦しさは必然的に背負ったものであって、そこにこの厳しさ極まる時代において、「自由に、正しく」生き抜くヒントが記されていることが分かるはずです。
作品のファンの方はもちろん、現代社会の問題について考えたい方にもぜひ一読いただきたい一冊です!

(担当/吉田)

 

著者紹介

杉田俊介(すぎた・しゅんすけ)

1975年生まれ。批評家。主な著作に『宮崎駿論』(NHKブックス)、『長渕剛論』(毎日新聞出版)、『非モテの品格』(集英社新書)、『ジョジョ論』(作品社)、『ドラえもん論』(Pヴァイン)、『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』(集英社新書)、『橋川文三とその浪曼』(河出書房新社)、『神と革命の文芸批評』(法政大学出版局)、『男がつらい!』(ワニブックスPLUS新書)など。

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アートからSNSまで、キュレーションはどのように世界を席巻したのか?『キュレーション主義 いかにしてキュレーションはアートから世界までを席巻したのか』デイヴィッド・バルザ― 著 牧尾晴喜 訳

キュレーション主義

――いかにしてキュレーションはアートから世界までを席巻したのか

デイヴィッド・バルザ― 著 牧尾晴喜 訳

Amazonでの買い物、マッチングアプリのスワイプ、SNSでの「イイね」……
あなたが普段何気なく行うこれらはすべて「キュレーション」だといえます。
もともとはアートの世界で主に使われていたこの言葉は、どのように生まれ、私たちの日常にまで浸透したのでしょうか。本書は、いまや世界中に広まった「キュレーション」の歴史と未来を読み解く一冊です。

・キュレーションが成立するまで
まず、キュレーターが誕生するまでの歴史を、かいつまんで見てみましょう。
言葉の語源は古代ローマにまで遡ります。当時の「クラートーレス(curatores)」は、公共事業を担う官僚を指していました。語源となったラテン語の「クラ(cura)」には「世話」という意味があり、本来は「世話をする者」を意味していたのです。

中世になると、この言葉はキリスト教会に取り込まれ、「教区司祭」を指すようになります。当時の役割は、「法(行政)」と「信仰(宗教)」の間に位置する二重の務めを果たしていました。この構造は、現代の大型美術機関におけるキュレーターの姿にも重なります。アートの価値を人々に提示して信じてもらう一方で、美術館という組織のなかで作品の貸与や購入といった現実的な務めをこなす必要があるからです。

近代になり、いわゆる博物館の学芸員的な存在の先駆けとして登場するのは、科学者のロバート・フックです。彼は王立協会の所蔵品を、定期的に実演する担当者でしたが、収蔵品を公開し、一般の人にプレゼンするという概念は、中世の従属的にふるまうキュレーターの在り方を現代的に大きく一歩踏み出していると言えます。そこから、18,19世紀と進むにつれて、いわゆる美術品を扱うキュレーションという今日の在り方が登場してくるのです。

そして、20世紀前半には、展示空間「ホワイトキューブ」の登場により「作品に新たな価値を付与する力」が求められるようになります。さらに1960〜70年代のコンセプチュアル・アートブームによって膨大な作品が生まれると、「作品を整理・解釈・仲介する存在」としての重要性が急増。こうして、時代の寵児たる「スター・キュレーター」たちが誕生しました。

・キュレーターが不在になってゆく
しかし、スター・キュレーターになれるのは一握りであり、やがてキュレーションのあり方は大きく変化していきます。
一つは、「キュレーターの置き換え」で、著名なアーティスト、有名人(マドンナ、ファレル・ウィリアムスのような)を「ゲスト・キュレーター」として起用することで、セレブの持つネームバリューやファン層の方が、専門的なキュレーターよりも直接的に観客と資金を引き寄せられるため、本職のキュレーターの影が薄くなっていきました。
もう一つは「キュレーターなきキュレーション」の台頭です。大企業は、自前の資金とディレクター陣だけで展示を行うようになり、また展覧会がテンプレート化することで、企業内で一般社員が作品を選定したり、さらにはデジタル空間(SNSやアルゴリズム)で消費者が自らキュレーションを行うようになっていったのです。そこで「専門職としてのキュレーター」は、現場や日常から段階的に排除されていきました。

・キュレーションは本当に要らないのか?
今やあまりに当たり前に「キュレーション」させられている私達にとって、もはや私たちはその概念自体を意識することすら少なくなっています。
しかし、キュレーションが辿ってきた歴史を振り返れば、「何かを選び取り、見せ方を工夫する」という行為には、物に新しい魅力や価値を与える大きな力があることに気づくはずです。AIがさまざまな作業を自動でこなす現代だからこそ、この「人間の手による選別と価値づけの力」を改めて見直すべき時が来ているのではないでしょうか。

(担当/吉田)

 

著者紹介

デイヴィッド・バルザ―(David Balzer)

カナダのウィニペグ生まれ。『ザ・ビリーバー』、『モダン・ペインターズ』、「Artforum.com」、『グローブ・アンド・メール』などの出版媒体に寄稿しているほか、『カナディアン・アート』誌の副編集長の経験がある。著作に『Contrivances』(2012)、『This is Not New : Art, Culture, and the Promise of Change』(2025)がある。批評家、編集者、教育者として働いたのち、現在はニューブランズウィック州で弁護士を務める。

 

訳者紹介

牧尾晴喜(まきお・はるき)

建築やデザイン、アート分野の翻訳を手がけている。メルボルン大学客員研究員などを経て、同志社女子大学で兼任教員。博士(工学)。主な訳書に、『HUMANISE 建築で人間味のある都市をつくる』、『建築のかたちと金融資本主義:氷山、ゾンビ、極細建築』(以上、草思社)、『暗闇の美術』(求龍堂)、『立体の設計』(ビー・エヌ・エヌ)、などがある。一級建築士。株式会社フレーズクレーズ代表。

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イェール大学の超人気講座が待望の書籍化!『心理学とは何か フロイトから脳科学、進化心理学まで』ポール・ブルーム 著 田沢恭子 訳

心理学とは何か

――フロイトから脳科学、進化心理学まで

ポール・ブルーム 著 田沢恭子 訳

情報爆発の時代に、人間の不完全さを見つめて「よく生きる」ためのまったく新しい入門書。

 「こころの正体は脳の電気信号である」という発見以来、心の営みを次々と解き明かしてきた心理学は、現代においてはマーケティングや人材管理の技術として社会の発展に不可欠なものとなっている。一方で、人間の認知の弱点をつくようなコンテンツを世に溢れさせ、社会の分断を助長する道具としても使われるという問題も顕わになってきた。
 真偽不明な情報が飛び交い、エビデンスすらもその根拠を疑われて信用を失いつつある世の中で、わたしたちは「こころ」について知ろうとすればするほど、「人間とは何か」という素朴で根源的な問いに答えられなくなっているのではないか……。

 そのような現状を憂いた著者は心理学を、人間の可能性をひらき、「われわれはどう生きるべきか」という指針を示しうるものとして再定義しようと試みる。
 本書は、いまだ答えの出ていない次の問いから始まる。
 “たった1.5kgの肉塊である脳は、どのようにしてわれわれの意思や感情を生み出したのか”

 心理学の歴史は200年ほどで、哲学や自然科学に比べればまだまだ若い学問だ。著者はその限界を認め、心理学の源流である西洋思想の歴史にさかのぼり、人間の本性を辿る旅に出る。
 フロイトの無意識やスキナーの行動主義の理論に新たな光をあて、われわれがふと感じる身近な疑問について最新研究の知見をもとに答えていく、まったく新しい入門書の決定版。

●ショート動画を見続けてしまうのはなぜか
●賢い人ほど陰謀論にハマってしまう?
●怒りや嫉妬の感情が人間社会に不可欠な理由
●科学的に正しい恋のかけ引き――気になる人へのメッセージの返信頻度とは?
●人生は遺伝で決まっているのか、それとも経験や環境で変わるのか 

 心理学の歴史から行動経済学や進化心理学、ポジティブ心理学などの最新分野まで、多彩なストーリーテリングで縦横無尽に徹底解説。

(担当/幸崎)

 

目次

第1章 神経心理学―1.5kgの肉塊が「私」をつくる?
第2章 生理心理学―意識という主観的経験の謎
第3章 深層心理学―フロイトが暴いた「手に負えない無意識」
第4章 行動心理学―外的環境が行動をデザインする
第5章 発達心理学―子どもの知性はいかに世界を創り出すか
第6章 言語心理学―言葉を話すサル
第7章 認知心理学―脳がつくり出す「現実」
第8章 非合理な心と意思決定の心理学
第9章 進化心理学―生存本能で読み解く欲望の系譜
第10章 心理学実験と再現性の危機
第11章 社会心理学―関係性・バイアス・服従実験
第12章 集団心理学―差別とカテゴリー化の力学
第13章 パーソナリティ心理学―唯一無二の自分と遺伝の力
第14章 臨床心理学―苦しむ心を癒すには?
第15章 ポジティブ心理学―人生の成功と詐欺師たち

 

著者紹介

ポール・ブルーム(Paul Bloom)

トロント大学心理学教授。イェール大学心理学名誉教授(ブルックスおよびスザンヌ・レーゲン冠教授職)。道徳、アイデンティティ、快楽の心理学を探求している。学術誌『ネイチャー』や『サイエンス』のほか、『ニューヨーク・タイムズ』『ニューヨーカー』『アトランティック・マンスリー』にも寄稿。著書に『ジャスト・ベイビー―赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源』(NTT出版)、『反共感論―社会はいかに判断を誤るか』(白揚社)、『苦痛の心理学―なぜ人は自ら苦しみを求めるのか』(草思社)など。

訳者紹介

田沢恭子(たざわ・きょうこ)

翻訳家。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科英文学専攻修士課程修了。訳書に『アルゴリズム思考術』、『「夢のエネルギー」核融合の最終解答』、『クッキーをつくれば宇宙がわかる』(以上、早川書房)、『戦争がつくった現代の食卓』、『ルーズな文化とタイトな文化』、『人はなぜ物を愛するのか』(以上、白揚社)、『酵母 文明を発酵させる菌の話』、『AIが職場にやってきた』、『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』(以上、草思社)などがある。

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フランスで6万部の大ヒット!自然を愛する全ての人に捧げる「反骨的庭づくり」のススメ!『パンク・ガーデニング宣言 エコロジカルで型破りな庭園論』エリック・ルノワール 著 北代美和子 訳

パンク・ガーデニング宣言

――エコロジカルで型破りな庭園論

エリック・ルノワール 著 北代美和子 訳

ガーデニングというと、どこか手間がかかって、お金も必要なものだという先入観を持っている人も少なくないのではないでしょうか。
本書は、そんなガーデニングに対する概念を「ぶっこわす」ような、型破りなガーデニングの考え方=パンク・ガーデンを提唱するものです。
フランス本国で大ヒットとなり、サン・フィアクル賞 、ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ賞といった名誉あるアワードを受賞しています。

ここでいう「パンク」とは何なのでしょうか。一見怖そうに思うかもしれませんが、ご安心ください。
この「パンク」とは、単なる反抗精神ではなく、あえて完璧な管理を手放すことで、
あらゆる場所の可能性を認識し、改善し、生物多様性を回復し、自然への再注目を高めるように促すことを指しています。

■パンク的な庭造りの考え方
・反・完璧主義: きれいに整えられた芝生や、派手な花を否定。代わりに、その土地にもともと生えている「雑草」とされるような植物を主役に据える。
・ローコスト・低エネルギー: 化学肥料や農薬はもちろん、大量の水やりや頻繁な草刈りも不要とします。「何もしないこと」が、実は最も豊かな生態系を作るという考え方。
・レジリエンス(回復力): 劣悪な土壌やコンクリートの隙間でも、植物が自力で育つ力を尊重する。
・DIY精神: 専門家のアドバイスを待つのではなく、手元にある材料と今ある環境で、誰でも今すぐ始められることを重視する。

本書は、実践的でありながらも、「パンク・ガーデンを実践するとはつまり、実践する時点ですでに、不変と見えるものを変える能力が、自分にはあると感じることである」という言葉にあらわれているように、環境と自分自身についての哲学的な思索でもあるのです。
困難な時代に生きる、すべての自然を愛する人に捧げる1冊です。

(担当/吉田)

 

著者紹介

エリック・ルノワール(Eric Lenoir)

景観デザイナー、造園家、園芸家、苗木商。パリ生まれ。パリ市立ブルイユ園芸学校卒業。景観設計と造園にエコロジー的視点を導入。植物が本来もつ生命力に注目して庭園の概念を根本的に改革し、自然のサイクルを尊重した新しい庭づくりを目指す。2018年、「Le concours Jardiner Autrement」(異なるやり方の園芸コンクール)優勝。2019年、本書でサン=フィアクル賞受賞。その他の著作に『Créer simplement un bassin de jardin』(2013)、『Plantes aquatiques & de terrains humides』(2016)、『Le grand traité du jardin punk』(2021) 、『Manuel magique de mon jardin』(2025)などがある。2011年、ブルゴーニュに土地を購入し、実験的な庭園ル・フレリアルを開園。生物多様性の維持、資源保全などの問題に取り組むとともに、知識の伝達や教育啓蒙活動にも力を入れている。

訳者紹介

北代美和子(きただい・みわこ)

翻訳家。上智大学大学院外国語学研究科言語学専攻修士課程修了。日本通訳翻訳学会元会長。訳書にエルサ・モランテ『『嘘と魔法』ジャン・ルオー『名誉の戦場』(以上、河出書房新社)、クレスマン・テイラー『届かなかった手紙』(文藝春秋)、ビリー・クルーヴァー『ピカソと過ごしたある日の午後』(白水社)、『シャルロット・ペリアン自伝』『イサム・ノグチ エッセイ』(以上、みすず書房)、フランチェスカ・スコッティ『亀たちの時間』(現代書館)、ロランス・コセ『新凱旋門物語 ラ・グランダルシュ』ハンス・ウルリッヒ・オブリスト『未完の人生 ハンス・ウルリッヒ・オブリストは語る』(以上、草思社)ほか多数。

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儀式が先か、宗教が先か、部族が先か? 答えは「本能が先」である!『本能の人類史 順応主義、宗教、部族主義』ハーヴィー・ホワイトハウス 著 柴田裕之 訳

本能の人類史

――順応主義、宗教、部族主義

ハーヴィー・ホワイトハウス 著 柴田裕之 訳

 

儀式があるから人はそれを模倣するのか、それとも儀式を模倣する「本能」が先にあるのか。
超現実的な現象があるから人は神を信じるのか、それとも神を信じる「本能」が 先にあるのか。
部族があるからアイデンティティが形成されるのか、それとも部族を生み出す「本能」が先にあるのか。

■ビッグデータを取り入れた全く新しい考古学
本書は、これらの本質的かつ答えるのが困難なテーマに対し、果敢にも「本能が先にある」という回答を示す、刺激的な書である。この難題にこたえるのは容易ではないが、著者は、考古学で蓄積された知見に、「ビッグデータ」というサイエンスの手法を融合させることで、それを実現している。さらに、革命後のリビアや、ワールドカップブラジル大会に赴き、当事者を対象にした「自然実験」を行うことで、フィールドワークの手法も見事に組み合わされており、革新的な書籍となっている。

著者は、オックスフォード大学社会人類学教授であり、社会結束研究センターの所長を務め、人間文化の進化的基盤に関する世界有数の専門家として知られる。

■人類の歴史をつくった「3つの本能」とは?
本書の核となる「3つの本能」について具体的に見ていこう。

・第1の本能「順応主義」
順応主義は、目的が不明瞭な行動(儀式)さえも模倣し、集団への所属を証明しようとする本能である 。4〜5歳の子供たちに、女性がテーブルの上の色鮮やかな物体を特定の順番で回したり叩いたりする動画を見せ、その後、「物がすべて元の場所に戻される」場合と「1つの物が最終的に銀色の箱の中に入れられる」場合を見せる実験がある。この場合、目的があるように見える後者の方が被験者がよりマネしそうだと思われるが、実際にはなんと、目的性がない前者の方が模倣される割合が高かった。つまり、人類にはあらかじめ、行動を模倣し、集団に順応しようとする本能が組み込まれているのである。

・第2の本能「宗教性」
宗教性は、心身二元論や超自然的な行為主体を信じやすい脳の進化上の副産物であり 、かつては支配者の権威を正当化し、後には「道徳的評価を示す宗教(枢軸性)」として大規模社会の統合を支えた 。赤ちゃんを対象にした実験で、物理法則に従う映像と、物理法則に反する映像(壁をすり抜けるボール、空中に浮く物体)を見せ、その注視時間を測定すると、後者のほうが有意に長時間見つめることが判明した。人間には、あらかじめ超常的な力に引き付けられる本能があり、このことが宗教性へと繋がっていくのである。

・第3の本能「部族主義」
部族主義は、儀式などの強烈な共有経験を体験させることで、個人のアイデンティティが集団と溶け合う「アイデンティティ融合」を引き起こし、時に自己犠牲を厭わない強力な団結を生み出すものである 。

■3つの本能の発展
これらの本能は、歴史においてどのように拡張されたのだろうか。

・順応主義の拡張
順応主義においては、狩猟採集から農耕への移行期に、儀式が「日常化」していった。それは、稀で強烈な儀式から、頻繁で標準化された儀式への変化が、見知らぬ人同士を共通のアイデンティティで結ぶ「想像上のコミュニティ」を可能にしたからであり、その結果として、大規模社会の形成と未来志向性を形成するに至った。

・宗教性の拡張
宗教性では、超自然的権威の社会が複雑化するにつれて、宗教が社会統制の道具として「手懐けられ」ることになった 。先祖崇拝による規範の強制から始まり、超自然的な力を持つとされる支配者の神格化、そして人身御供による恐怖支配へと発展した 。しかし、社会規模が100万人を超える「メガ社会」になると、それらに代わり、普遍的な正義や公平さを説く「枢軸性」が、多様な民衆を統合する新たな接着剤となった。 

・部族主義の拡張
部族主義については、大規模な軍隊を動かすために、小規模な絆である「融合」を巨大な集団に投影する「拡大融合」や、妥協不可能な「聖なる価値観」が発明されることで拡張され、その結果として、帝国主義や聖戦、現代の過激主義の基盤となったと論じられる。

■人類の本能は、いまでは機能不全を起こしている
このようにして3つの本能は拡大し、人類の発展に多大な貢献をもたらすが、これらの本能はいまとなって、現代の人類とミスマッチを起こし、様々な不都合を招いている。
順応主義に基づく資本主義の習慣が気候危機を招き 、宗教性は広告やメディアにハイジャックされて消費主義や社会的分断を助長している 。また、部族主義に支えられた軍事技術の進化は、核時代において全人類の生存を脅かしている 。現代社会は、人類の本能をハックすらしているのだ。

■人類の本能を新たに生かす道
では、人類の本能は、もはや現代では有効ではなくなっているのか。本書では、最後に本能をもう一度、人類の未来のために有効に利用する道筋を示している。パプアニューギニアの「キヴング運動」などの知見を頼りに、市民議会による合意形成や新たな「日常的儀式」の導入によって、バイアスを賢明に管理し直すことを著者は提案している 。人類が共通の起源と運命を分かち合う単一の部族「テラ部族」として自らを再定義し、拡大融合の力を平和的協力と地球保護へと向かわせることで、文明を救い、持続可能な未来を築いていく可能性を記している。

科学的・歴史的根拠とともに、人類の本能が歴史を形作った展開と、今日における限界と解決策までを示すのは圧巻である。
危機の時代において、ヒトの本性を見直し、あるべき平和な未来を考えるためにぜひ一読いただきたい1冊だ。

(担当/吉田)

 

著者紹介

ハーヴィー・ホワイトハウス(Harvey Whitehouse)

オックスフォード大学社会人類学講座教授であり、社会結束研究センターの所長を務める。人間文化の進化的基盤に関する世界有数の専門家である彼は、40年にわたり、アラブの春の戦場から太平洋諸島の千年王国主義カルト、南米の過激なサッカーファンに至るまで、地球上で最も過激な集団の研究に取り組んできた。その過程で、彼は世界有数の重要な遺跡、脳スキャン施設、児童心理学研究所などで研究を行ってきた。これらはすべて、人間社会の研究に向けた新たな科学的アプローチを開拓することを目的としたものである。

訳者紹介

柴田裕之(しばた・やすし)

翻訳家。訳書に、シュミル『世界の本当の仕組み』(草思社)、ジェインズ『神々の沈黙』、ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する』、ベジャン『流れとかたち』(以上、紀伊國屋書店)、ハラリ『サピエンス全史』『ホモ・デウス』『NEXUS』(以上、河出書房新社)、ディルサス『独裁者の倒し方』、クラース『「偶然」はどのようにあなたをつくるのか』(以上、東洋経済新報社)、コルカー『統合失調症の一族』(早川書房)、リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、ケーガン『「死」とは何か』(文響社)、ガザニガ『人間とはなにか』(ちくま学芸文庫)などがある。

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