草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

答えは「身体」の中にある! アスリートが「最適の動き」を作りだすために 不可欠な機能解剖学の知見が満載の一冊! 『アスリートのための解剖学』大山卞圭悟 著

アスリートのための解剖学

ーートレーニングの効果を最大化する身体の科学

大山卞圭悟 著

 本書は日本トレーニング指導者協会(JATI)の機関誌『JATI EXPRESS』に連載された「GTK現場で使える機能解剖学」の内容に加筆・修正を加えて再構成した一冊です。著者はトップアスリートとしての競技歴(砲丸投げで全日本実業団優勝など)や陸連トレーナーとしての活動歴を持つ研究者で、本書ではアスリート、トレーナー、コーチ、研究者としての豊富な経験を存分に活かして、私たち人間の身体の仕組みの謎に迫っています。
「この筋肉は何のためにあるのか?」という問題意識がこの本の出発点だと著者は述べています。身体の構造や仕組みを理解していなくても、私たちは理にかなった動作を行なうことができますが、「良い動きを戦略的につくり出したり、無数にある選択肢の中から最適のものを選び出すときには、構造に関する理解が大きな助けとなります」ということです。人間の身体、とくに運動器はなんと二百余りもの骨と六百を超える骨格筋(筋肉)によって構成されているのですが、それぞれの骨の配置や形態にはすべて機能的な背景があるのです。このような筋骨格系の機能と形態とのつながりを、一つ一つ答え合わせ的に眺めてみることで、アスリートは自身の動作に潜んでいるパフォーマンスの制限要因に気づき、より効率的な動きを手に入れることができるのです。その結果、ケガを防ぐことも可能になります。
 現代のトレーニング環境は以前とはすっかり様変わりしています。さまざまな動画共有サイトを閲覧していけば、世界トップレベルの競技者たちがどのようなトレーニングを行なっているのかを知ることも可能です。情報の入手という面ではかつてない恵まれた環境が整っているわけですが、「このような状況であるからこそ、競技者、指導者ともにそれぞれの手段について根拠を持って説明をつけ、判断していく姿勢と確かな能力が求められている」と著者は指摘しています。そして、手段に対する〈根拠づけ〉の大きな拠り所となるものとして、解剖学的な知識が不可欠になるのです。機知にとんだ解説とともに私たちを解剖学の世界に誘う本書は、一般のトレーニング愛好者を含むすべてのアスリートに、パフォーマンス向上のヒントを授けてくれる一冊になりそうです。
(担当/碇)

著者紹介

大山卞圭悟(おおやま・べん・けいご)

1970年兵庫県西脇市生まれ。93年筑波大学体育専門学群卒業。修士(体育科学)。99年筑波大学体育科学系 講師、2001年筑波大学大学院人間総合科学研究科講師を経て、13年より筑波大学体育系 准教授(現在に至る)。99年より現在まで、筑波大学陸上競技部コーチ(主に投擲競技を担当)、日本陸連医事委員会トレーナー部委員を務める。99年、01年、05年ユニバーシアード陸上競技日本選手団トレーナー。JATIトレーニング指導者養成講習会講師(担当講義「機能解剖」)。著書に『トレーニング指導者テキスト 理論編改訂版〔分担執筆〕』『コンテクスチュアルトレーニング〔監訳〕』(いずれも大修館書店)。

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「知っている」より大切な「疑問をもつ力」を育む 『考える力がつく 理科なぞぺー』高濱正伸・川幡智佳著

考える力がつく 理科なぞぺー<小学3年~4年生>

高濱正伸 川幡智佳 著

◆シリーズ累計70万部の学習パズルに「理科」が登場!

 大人気の学習教室・花まる学習会のメソッドがつまった学習パズル『考える力がつくなぞぺー』シリーズに、ついに「理科」が加わりました。「子どもが自分からやりたがる」「子どもが勉強好きになった」と保護者からも大好評をえて、累計70万部となった『なぞぺー』。その好奇心を刺激する楽しさは、新しい『理科なぞぺー』にも存分に盛り込まれています。
 「白身魚と赤身魚の違いって、なに?」「昼間に見える月はまん丸にならないって、本当?」「銀の折り紙には電気が流れるのに、金の折り紙には電気が流れない?」など、大人も答えを知らない(?)、おもしろい問題ばかり。「そういえば、なぜ? なに? そうなの?」と興味をそそられ、じっと考えて「わかった!」とうれしくなったり、答えを見て「そうだったのか!」と驚いたりするうちに、理科が好きになり、考える力がついていきます。

◆大切なのは、疑問を持ち、考え抜いて、知る喜び

 本書の目的は、「知っているかどうか」を試すことではなく、「疑問に思い、なぜだろう、どうしてだろうと予測する」という体験をしてもらうことです。そのため、学年別教科書準拠の内容ではなく、子どもが興味を持ちやすいテーマを選んで問題にしています。
 著者の高濱さんは本書で、「『ん? なんで?』と湧いてきた疑問を心の中で捉えきる習慣を持つこと。その疑問は、見えないけれどとてもとても大切な宝物なのです」と述べています。そしてその疑問について、考えたり調べたりして、ついに答えを知ったときには、醍醐味とも言える喜びを感じることでしょう。「この一連の躍動する脳の状態を、大切にしてほしいのです」といいます。
 疑問に思い、じっくり考え、知る喜びを体験する。だから次も疑問を探したくなるし、答えを追究したくなる――。多くの子どもたちにとって、本書が、理科を大好きになる入り口となることを願っています。

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(担当・久保田)

著者紹介

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)

1959年、熊本生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年、学習教室「花まる学習会」を設立。著作に『考える力がつく算数脳パズルなぞぺ~①②③』をはじめ同シリーズの『新はじめてなぞぺ~』『空間なぞぺ~』『絵なぞぺ~』『迷路なぞぺ~』(以上、草思社)などがある。

川幡智佳(かわばた・ちか)

1985年、埼玉県生まれ。北里大学卒業後、東京大学大学院修士課程卒業。2013年花まる学習会入社。同グループ進学部門であるスクールFC所属。小4総合コースの理科や、科目横断型・総合的学習の時間である「合科」の立ち上げに携わる。夏休みや休日などに開催する、親子参加型理科イベントも担当。著書に『カワハタ先生の動物の不思議―どこがおなじでどこがちがうの? 』(実務教育出版)がある。

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ラグビーW杯、日本躍進の陰にはこの男のビジョンがあった!比類なき先見性で時代を切り拓いた稀代のラガーマンの軌跡『平尾誠二を語る』橋野薫・込山駿 著

平尾誠二を語る

橋野薫 著 込山駿 著

 本書は、プレーヤーとしてもリーダーとしても圧倒的な輝きを放ち、日本社会に向けても力強いメッセージを発信しつづけた「ミスターラグビー」平尾誠二(1963~2016)の軌跡を、ゆかりの人々へのインタビューで再構築した一冊です。読売新聞オンラインに連載された「平尾誠二を語る」の内容に加えて、2019年ワールドカップ(W杯)日本代表メンバーやコーチ、ご家族のメッセージも収録し、唯一無二の個性で時代を切り拓いたラガーマンの人間像に迫ります。
 平尾と同じグラウンドに立っていたラグビー関係者のほか、親交のあった山中伸弥教授をはじめとする各界の著名人の言葉によって明らかになるのは、その比類なき先見性です。そして、その先見性は自由な精神の産物でした。一人ひとりのプレーヤーが個としての能力を上げ、自在に判断できるようにならないと世界で勝てない、と言いつづけた平尾のビジョンは、2019年のW杯において、ついに現実のものとなります。そして、その代表チームを率いたのは平尾が監督時代に日本代表に選び、その後、ヘッドコーチ(HC)就任にも関わったジェイミー・ジョセフでした。
 特に平尾が代表監督の時代に、多くの外国人選手を日本代表に招集し、主将にもはじめて外国人選手(アンドリュー・マコーミック)を指名したことには多くの批判もあったといいます。ですが、これこそが、昨年の「ONE TEAM」の源流になったのです。日本のラグビーが長く苦しい試行錯誤の時間をくぐり抜けてW杯ベスト8という快挙を達成したとき、多くのラグビー関係者やファンが改めて平尾誠二の名前を口にしたのには、このような理由があるのです。
 新型コロナウィルスの感染拡大で、日本社会はいま、かつてない危機に直面しています。山中教授は大きな問題が起こったとき、「平尾さんやったら、どうするかな」と考えると述懐しています。この本が苦しい毎日を強いられているすべての読者に、ささやかな希望をもたらすことができたら、これに優るよろこびはありません。


【目次】
1 「平尾さんやったら、どうするかな」と考えます
――京都大学iPS細胞研究所長 山中伸弥

2 進化したラグビーの創造者だった
――元京都市立伏見工高ラグビー部監督 山口良治

3 オオカミの目、自由な心
――密着撮影を30年以上続けた写真家 岡村啓嗣

4 希代のリーダー対決、美しきノーサイド
――元新日鉄釜石選手兼監督・元日本代表スタンドオフ 松尾雄治

5 「哲学するラガーマン」をめぐる追想
――元文部科学副大臣 鈴木寛

6 「洋魂和才」、日本代表に息づく平尾イズム
――サントリー酒類常務執行役員・日本ラグビー協会理事 土田雅人

7 勝負師2人の「与えれば与えられる」絆
――将棋 羽生善治九段

8 失敗プロジェクトと銀のレガシー
――平尾プロジェクト1期生・元クボタスピアーズ副将 高橋銀太郎

9 助手席のミスターラグビー
――元神戸製鋼スタンドオフ・日本ラグビー協会広報部長 藪木宏之

10 夜の神戸で衝撃の店「許されるのよ、彼だけは」
――元プロテニスプレーヤー・現解説者 沢松奈生子

11 「運命の日」の開幕戦、スタジアムに父が来ていたような気がする
――長男 平尾昂大


(担当/碇)

 

著者略歴

橋野薫(はしの・かおる)

読売新聞大阪本社勤務。1965年4月、京都市生まれ。同志社大学から89年に入社。京都総局を経て96年から通算17年、運動部記者としてラグビー、プロ野球などを担当。ラグビーワールドカップは2003、07年大会を取材した。運動部デスク、松江支局長などを務め、現在は販売局勤務。ラグビーは同志社香里高1年で始め、現役時代のポジションはスクラムハーフ。

込山駿(こみやま・しゅん)

読売新聞東京本社勤務。1973年3月、東京都生まれ。早稲田大学から96年に入社。2003~12年は運動部記者としてサッカー、ボクシング、大相撲などを担当。なでしこジャパン女子W杯優勝、亀田3兄弟のトラブル、新弟子死亡事件などを取材した。スポーツ以外では山形など5支局や中部支社(名古屋市)を渡り歩き、2017年9月から読売新聞オンラインの記者・編集者を務める。

 

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自分で考えて身につけた社会科の力は、AIにも負けない!『考える力がつく 社会科なぞぺー』高濱正伸・狩野崇 著

考える力がつく 社会科なぞぺー

高濱正伸・狩野崇 著

自分で考える力がつく「なぞぺー」シリーズに、ついに社会科が登場!

累計70万部を突破した、大人気学習教室「花まる学習会」のメソッドが詰まった小学生向け問題集「なぞぺー」シリーズに、このたびついに社会科が登場しました
歴史、地理、公民、生活科の4ジャンルを網羅し、単なる丸覚えではなく、子どもたちが考えることに夢中になり、自分で解くことに嬉しさを覚えるような問題を厳選して掲載しています。ある時代を描いたイラストの中から、実はその時代になかったものを探す「イラストまちがい探し」や、「城の塀はまっすぐな方がいいか、折れ曲がっている方がいいか」といったおしろの機能を考える問題、地名クロスワードほか、問題もバラエティに富んでおり、それらを解くほどに社会科の力がついていきます。

AIに負けない思考力をつける

著者の高濱正伸氏は、本書の目的についてこう言っています。「もちろん、一般的な参考書や問題集のように、子どもたちに基本的な知識を覚えて社会の教養を身につけてほしいという思いもあります。しかし、この本の一番の目的は、社会科を学ぶ喜びと面白さに触れ、そのことを通じて「考える力」をつけてもらうことです。」 では、 本書が暗記ではない問題集だとして、具体的にはどのような問題があるのでしょうか。
例えば「イラスト間違い探し」では、平安時代の貴族はかき氷を食べていたかのかどうか、うちわを使って涼んでいたのかどうかというような、大人でも一見してすぐには全問正解できないような、本物の歴史の知識を問う絶妙な問題になっています。この問題について、「 突破するのに必要なのは、歴史を好きになり、その時代時代のイメージを豊かではっきりしたものにすること」だと高濱さんは述べます。このように自分の力で想像し、考え抜くことで培われる「考える力」こそが、コンピューターの思考にも負けない、本物の教養という「一生使える能力」となるのです。さらに、この「自分で考えて正解を出す」という経験が、考えることそのものを好きにさせる最も重要な要因でも在るのです。

社会科に含まれる 歴史、地理、公民、生活科という科目は、国際化・情報化に伴って複雑化していく世界において、最も重要な素養の一つです。その社会科を、暗記で済ますのはもったいなさすぎます。

1人でも多くのお子さんが、本書をきっかけに、社会科を自分で考える教科であるととらえて、その面白さに気づいてくれることを願っています。

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(担当/吉田)

 

著者紹介

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
1959年、熊本生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年、学習教室「花まる学習会」を設立。著作に『考える力がつく算数脳パズルなぞぺ~①②③』をはじめ同シリーズの『新はじめてなぞぺ~』『空間なぞぺ~』『絵なぞぺ~』『迷路なぞぺ~』(以上、草思社)などがある。

狩野崇(かのう・たかし)
群馬生まれ。花まるグループ進学塾部門スクールFCで社会、国語などを担当。通常授業以外にも座学とフィールドワークを融合したユニークな講座を展開する。大人向けの教養講座や、親子向け講座(「お城を学ぶ 城下町で学ぶ」「親子で学ぼう!中東イスラーム」「武士の都・鎌倉 歴史巡りの旅」「地図から考える世界と日本」など)も多数開催。

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文明発展の基礎たる「砂」は、いま密かに姿を消し始めている 『砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか』ヴィンス・バイザー 著 藤崎百合 訳

砂と人類

ーーいかにして砂が文明を変容させたか

ヴィンス・バイザー 著 藤崎百合 訳

今年のオリンピックのメイン会場として注目される新国立競技場は、木をふんだんに利用したように見える外観が話題だが、その化粧の下にある実態は鉄と大量のコンクリートである。こういった巨大建造物はもちろん、住宅のような木造建築であってもその土台の基礎にはコンクリートが使われる。そのコンクリートの最も重要な原料こそが「砂」である。
それだけではない。いまこのテキストを読むのに使用している端末のシリコンチップ、あるいは携帯電話の液晶ガラスもまた、砂からできている。さらに、エネルギーの地政学的バランスを変えうる要素として注目されるシェールオイルも、その採取のためには水だけでなく砂が不可欠である。つまり私たちの生活・文明は、砂なくしては成り立たないのである。しかし、この普段その存在すら考えることのない砂は、ひそかに地球上から姿を消し始めている。

本書は、地上で最も重要な個体である砂と、人類の関わりを描いたノンフィクション巨編である。原題の『The World in a Grain』は、詩人ウィリアム・ブレイクの『無垢の予兆』の冒頭、「ひと粒の砂に世界を見る」に由来する。著者のヴィンス・バイザーは、技術・社会問題等に詳しいジャーナリストで、大学時代には中東研究を先行している。彼が調べた膨大な数的データを縦糸に、隠ぺい体質の強い砂企業や砂マフィアが潜む街への捨て身すれすれの取材を横糸に織りなされた本書から浮かびあがるのは、砂が文明を変革し、さらにより砂を利用しつづけるように進んできた、人間の飽くなき欲望の歴史である。

第一部では、コンクリート・ガラスをテーマに、近代から現代における建築・都市と、道路の発展の歴史が砂を通して語られる。今の私たちの生活基盤が、いかに砂に依存しているかがお分かりいただけるだろう。
続く第二部では、デジタル時代をハード面で支えるシリコンチップ、シェールオイル採掘、さらには中国での止まない建設ラッシュと、ドバイにおける「養浜」についても触れられている。現代生活の利便さ・経済の加速を支えているのもまた砂なのである。
本書では、インドなどに台頭してきた砂マフィアの存在にも触れられている。この大きくても2ミリほどの小さな物体をめぐって、人命が奪われることさえあるのだ。
砂をめぐる状況は、環境的な面、経済活動の面からみても、かなりシリアスな事態に置かれているのだ。

「石川や 浜の真砂は 尽くるとも 世に盗人の 種は尽くまじ」という歌が日本にはあるが、本書を読むと、本当に砂泥棒の前に砂そのものが先に消えてしまいかねない実情がわかる。本書が、砂という「地球で最も重要な個体」の存在が注目されるきっかけになれば幸いである。

(担当/吉田)

著者紹介

ヴィンス・バイザー

ジャーナリスト。『WIRED』、『ハーパーズ』、『アトランティック』、『マザー・ジョーンズ』、そして『ニューヨーク・タイムズ』をはじめとする雑誌や新聞に寄稿している。カリフォルニア大学バークレー校の出身で、現在ロサンゼルスで暮らしている。

訳者紹介

藤崎百合(ふじさき・ゆり)

高知県生まれ。名古屋大学理学部物理学科卒業。同大学大学院人間情報学研究科にて博士課程単位取得退学。技術系企業や図書館での勤務を経て、技術文書や人道支援活動に関する資料の翻訳、字幕翻訳などに携わってきた。近年は、科学や映画に関する書籍の翻訳が中心となっている。訳書に『すごく科学的』、『ディープラーニング革命』、『生体分子の統計力学入門』(共訳)などがある。

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欺瞞に満ちた「一国二制度」によって呼びさまされた 香港人意識(=本土意識)をキーワードに香港危機の本質を読み解く!『香港はなぜ戦っているのか』李怡(リー・イー)著 坂井臣之助 訳

香港はなぜ戦っているのか

李怡(リー・イー)著 坂井臣之助 訳

 「逃亡犯条例」の改正に端を発する香港の騒乱が世界中の注目を集めています。なぜ、香港の人々はこれほど激しく抵抗しているのか。そして、その背景にはどんな社会状況があるのか。本書は香港在住七十年のベテランジャーナリストが、中国への返還以降、香港の人々を苛んできた「一国二制度」のいびつな実態を暴くとともに、中国政府の圧迫によって生まれた「本土意識(香港人意識)」の高揚にも光を当てるタイムリーな一冊です。
 著者の李怡(リー・イー)氏は一九三六年生まれで、政論雑誌の編集長として三十数年、そのあとはコラムニストとして香港社会や中国政府の動向を観察してきた人物です。香港人のエスニックな感情を理解するうえで不可欠な広東語を自在に操り、その皮膚感覚に裏打ちされた筆致は鋭く、時にユーモラスでもあります。
 著者が、現在の香港の状況を読み解くキーワードとして繰り返し使っているのが「本土意識」という言葉です。「本土意識」とは、香港をみずからの「ふるさと」と考え、香港の現状(法治主義)を尊重し、広東語の文化を愛し、香港の利益を優先するローカリズム(地域主義)の意識である――と、本書の訳者であり、やはり多年にわたり香港を取材してきたジャーナリストの坂井臣之助氏は本書の「解説」で述べています。本書では、香港で「本土意識」が台頭するいきさつから、本土派の中の過激派と穏健派の対立、旧香港人と新香港人の対立、中国に傾斜する香港の政治・経済の現況、親・中国団体と裏社会との関係など、多岐にわたる論点から本土意識の在りようを紹介しています。
 本書をお読みいただければ、香港の現在の状況が突発的に発生したものではなく、多年にわたって香港の人々が被ってきたさまざまな苦難が臨界点を超えた結果であることがご理解いただけるのではないかと思います。著者は日本の読者に向けた序文を、「みずからの力のほどもわきまえずに自由、法治の保持を追求するこの小さな土地に関心を払ってくださったことに感謝したい」という言葉で結んでいます。香港の人々が現在、直面している問題は、いずれ日本人が直面する問題なのかもしれません。その意味でも本書は今こそ必読の一冊といえます。

(担当/碇)

著者紹介

李怡(リー・イー)

 1936年中国広州市生まれ。本名・李秉堯,ペンネームは舒樺、齊辛など。香港の時事評論家、コラムニスト。1956年から文筆・編集活動に入る。1970年に政論月刊誌『七十年代』(後に『九十年代』に改称)を創刊、編集長を28年間務める。1998年に雑誌廃刊後、日刊紙『蘋果日報』の社説やコラム「世道人生」を執筆。また香港の公共放送(RTHK)の番組「一分間の閲読」を主宰し、今日に至る。2013年に出版した本書(原題『香港思潮』)は香港各界から高く評価される。他に『最も悪い時代、最も良い時代』『世道人生之八十自述』など著書多数。

訳者紹介

坂井臣之助(さかいしんのすけ)

1941年東京生まれ。慶應大学経済学部卒業。共同通信社入社。2度の香港特派員、編集委員兼論説委員を歴任。共著に『香港返還』(大修館書店)、著書に『直視台湾』(広角鏡出版社)、訳書に『超限戦』(共同通信社、後に角川新書)、『中国現代化の落とし穴』『中央宣伝部を討伐せよ』(以上、草思社)がある。

 

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大いなる謎への驚きと、人間の生き方への示唆 『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』海野和男 写真と文

世界でいちばん変な虫

珍虫奇虫図鑑

海野和男 写真と文

 昆虫は名前をつけられたものだけでも120万種ぐらいいて(一説には100万種ともいう)、毎年、新種が発見され続けており、地球上でもっとも繁栄した生物といわれている。多種多様で無限に近い変容、変種が生み出されている。
本書では、われわれの周囲にいる「普通の虫」ではなく、いわゆる誰でも見ればわかる「珍虫奇虫」を取り上げている。昆虫が変容の幅が大きく、想像を絶する形になるのは、体長が平均5ミリぐらいと小さくて、さまざまに微小な環境(ニッチェ)に適応して生きていけるからである。世代交代も早くて進化適応がどんどんすすみ、その環境に特化した形になる。ただテングビワハゴロモの派手な長い突起のように(本書P30~33)、なぜその長い突起が必要なのかがわからない(解明されていない)ことも多い。いまだ手つかずの謎が多い生物でもある。本書ではその謎が謎を呼ぶ不思議な形態・生態を著者苦心の写真で味わってもらいたい。19世紀のウォーレスやダーウィンなどの博物学者たちの素朴な驚きを追体験していただきたい。
 もう一つの読み方は昆虫には人間の生き方への示唆があるという側面である。
 例えば本書P96とP97の見開きページに取り上げられている「サガペド」と「オドリバエ」の解説を読んでみよう。
 サガペドはキリギリスの一種でヨーロッパから西アジアに生息する体長10センチぐらいの虫である。小見出しには「獰猛で、メスだけで勝手に生きている」とあるように単為生殖の昆虫で、メスだけで繁殖する。オスは見つかっていない。交尾の相手を見つける必要がないので、翅も退化し、飛ぶことができず行動範囲も狭い。単為生殖だから繁殖も簡単だろうと思うと、実はこのサガペドは絶滅の危機に瀕しているという。生殖が簡単だからいいというわけではないらしい。翅を使って飛び回り、生息域を広げ、繁栄してきたのが昆虫なので、これに反した生き方には何か無理があるらしい。これは何を意味しているのか。
 オドリバエというのは1センチぐらいのハエで、もっと小型の昆虫をエサにしている肉食のハエである。このオドリバエはオスがエサになる獲物を捕らえるとそれをメスにプレゼントすることで交尾ができることになる。掲載されている写真を見ると、メスがプレゼントされた獲物を食べている間にオスは交尾している。メスは基本的に獲物をとることをしないという。オスが交尾の代償として持ってくる獲物を食べるだけである。これだけでも面白いが、オドリバエのオスの中には脚から糸を出して獲物をラッピングする種類がある。ところがそのラッピングした獲物の中身が空の場合があるそうだ。メスはその空のラッピングされた獲物を受けとっても交尾する。「こうなると、贈り物はメスの栄養補給にはならないから、交尾のための儀式的贈り物ということになる。プレゼントをもらったら、中には何も入っていない。これで満足するというのもおかしな話だと思うが、儀式というものはそういうものかもしれない」と著者は書いている。このサガペドとオドリバエの二つの事例だけでも人間の男女関係への示唆に富んでいる、というのは考えすぎだろうか。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。昆虫を中心とする自然写真家。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学ぶ。アジアやアフリカで昆虫の擬態写真などを長年撮影。著書『昆虫の擬態』は1994年、日本写真協会年度賞を受賞。主な著書に『蝶の飛ぶ風景』『昆虫 顔面図鑑』、また草思社より『図鑑 世界で最も美しい蝶は何か』『甲虫 カタチ観察図鑑』『世界のカマキリ観察図鑑』『海野和男の蝶撮影テクニック』など。日本自然科学写真協会会長、日本動物行動学会会員など。海野和男写真事務所主宰。公式ウェブサイトに「小諸日記」がある。

https://www.goo.ne.jp/green/life/unno/

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