草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

「なにもできない。でも、力になりたい。」誰もがそう思った3.11から10年。『「陽」 HARU Light&Letters』平林克己 写真 横川謙司 文

「陽」 HARU Light&Letters

3.11 見ようとすれば、見えるものたち。

平林克己 写真 横川謙司 文

2021年02月13日、10年という時機をまるで見定めたかのように、東北で大きな地震が起きました。2011年3月11日、東日本大震災から10年。日本中が一丸となって復興に向かった被災直後。それから月日が経ったいま、その後の復興は順調に進んでいるでしょうか、それとも停滞しているでしょうか。新型コロナウイルスに見舞われ、誰もが目の前のことで精いっぱいではありますが、見過ごしてはいけないことを、見過ごしてしまってはいないでしょうか。本書は、震災以降、復興ボランティアに従事しながら平林克己氏が撮りためてきた写真と、その写真を各地で展覧した際に横川謙司氏が添えた、これからの世界を見据えるための言葉をまとめた、気づきのための道しるべとなるような写真集です。
3.11から今日まで、熊本地震や西日本豪雨、台風19号、さらにはコロナと、異常気象や災害が絶え間なく日本を襲うようになりました。この10年間の間にかけた数々の困難は、未だ出口が見えない状況にあると言えます。そういった人知を超えた巨大な脅威にたいして、人は麻痺してしまったり、無力感を覚えたりしてしまいます。しかし、それらに正しく向き合った先に、進むべき道が見えてくるものではないでしょうか。すべての写真に収まる太陽は、超越的な自然そのものであると同時に、希望の象徴のようでもあります。本書に寄稿くださった作家・玄侑宗久氏はこう述べます。「朝陽とは、あまりに非情で平等だからこそ、なけなしの弱い心にも希望を芽生えさせるのではないか」。大きすぎる数々の困難を乗り越えるきっかけを、本書から掴み取っていただければ幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

平林克己(ひらばやし・かつみ)

写真家。獨協大学卒業後、カメラを手に渡欧。東日本大震災では復興ボランティアに従事する傍ら、被災地に昇る朝陽を撮り続ける。これまでに開催した写真展は二十数回を数え、日本国内のみならずベルギー、フランス、中国、韓国、台湾など世界で高い評価を受ける。

横川謙司(よこかわ・けんじ)

慶應大学卒業後、広告代理店・電通に入社。コピーライターとしてこれまでに80 社超の広告制作を手がける。東日本大震災を機に平林克己と出会う。共に東北を旅する中で、「Light&Letters」の構想を抱き、平林の写真にコピーで加勢。受賞歴に、日経広告賞、朝日広告賞、広告電通賞、日本雑誌広告賞、TCC 新人賞、ACC 賞、ギャラクシー賞など。

f:id:soshishablog:20210225095225j:plain f:id:soshishablog:20210225095241j:plain

Amazon:「陽」 HARU Light&Letters:平林克己 写真 横川謙司 文:本

楽天ブックス: 「陽」 HARU Light&Letters - 3.11 見ようとすれば、見えるものたち。 - 平林 克己 - 9784794225061 : 本

頁をめくるたびに心が和む、魅力いっぱいの言葉の絵本!『フィンランドの不思議なことわざ』カロリーナ・コルホネン著 柳澤はるか訳

フィンランドの不思議なことわざ

マッティの言葉の冒険

カロリーナ・コルホネン著 柳澤はるか訳

えっ、なにコレ……? ちょっと謎めいたフィンランドのことわざが盛りだくさん! 
世界幸福度ランキング3年連続1位のフィンランド発、
頁をめくるたびに心が和む、魅力いっぱいの言葉の絵本!

 この本はフィンランドの人気絵本マッティ・シリーズの最新刊で、フィンランドの味わい深いことわざ・言い回しをマッティが文字通り「体当たり」で表現しています。ちなみに「マッティ」とは、
・馴れ馴れしいのが苦手
・雑談や自己主張も苦手
・褒められるのも苦手
・混んでいるところが苦手
・コーヒーとサウナが好き
・平穏と静けさを愛する
……という「ごく一般的なフィンランド人」の特徴を体現したキャラクターで、フィンランドではコミック部門売り上げで年間No.1を記録したこともある人気者です。
また、本シリーズの第1作目が(『マッティは今日も憂鬱』、方丈社、2017年)が邦訳された際には、その性格が「日本人にそっくり!」ということで反響を呼びました。謎めいたフレーズに込められた先人の知恵、そして先人からのエールを、マッティの愉快な七変化ととともに味わっていただければ幸いです。

【不思議なことわざ・例】
◎ネコのしっぽはネコが上げるもの
→他人の評価を期待せず、自分で自分を誇りなさい

◎勇者は濃いスープを飲む
→果敢に挑戦する人には幸せが訪れる

◎簡単ソーセージ!
→お茶の子さいさい!

◎カラスはカラスの声で歌う
→みんな頑張っている

◎茂みに腰を下ろして考えよ
→大丈夫、きっとなんとかなる

◎ほら、玉ねぎ!
→これで全部! 以上!


(担当/碇)

著者紹介

カロリーナ・コルホネン

フィンランドのデジタルデザイナー。 夫と2匹の猫と暮らす。趣味はコンピュータゲームと空想。毎朝、コーヒーは必須(できれば2杯)。

訳者紹介

柳澤はるか(やなぎさわ・はるか)

東京在住の翻訳者。翻訳や執筆、講演を通じてフィンランド文化を紹介している。訳書に『マッティは今日も憂鬱』『マッティ、旅に出る』『フィンランドの幸せメソッドSISU(シス)』(いずれも方丈社)がある。

f:id:soshishablog:20210219172756j:plain f:id:soshishablog:20210219172815j:plain

Amazon:フィンランドの不思議なことわざ マッティの言葉の冒険:カロリーナ・コルホネン著 柳澤はるか訳:本 

楽天ブックス: フィンランドの不思議なことわざ - マッティの言葉の冒険 - カロリーナ・コルホネン - 9784794225023 : 本

難読漢字は日本語の歴史を知る「化石」として残っている。『難読漢字の奥義書』円満字二郎著

難読漢字の奥義書

円満字二郎 著

 漢字は中国で紀元前1400年ぐらいに生まれたとされる。中國北部の黄河流域が発祥の地とされる。日本へは4世紀ぐらいに入って来たらしい。古墳時代のことで、古墳の副葬品に漢字が書かれているものがある。ただ何度にもわたって別々の地域から入って来たので中国語読みである「音読み」でも呉音、唐音、漢音などが入り乱れているうえ、さらにうまく発音できなくて中国風訛りになっているものもある。また訓読みというのが画期的な発明で、原日本語の発音で同じ意味の漢字を読んだ読み方である。(一種の翻訳と言っていい。)
 漢字という輸入された文字・言語で、原日本人の間で交わされていた音声としての日本語を書き表そうというのであるから、そこにはたいそうな工夫や技術が生じる。漢字を簡略化した平仮名やカタカナなどの発明をまじえて、何とか使い勝手のいい言語にしようと今日までつとめた日本人の努力は、すごいと言えばすごいのである。この間1600年ぐらいかかっている。自前の言語でない漢字を工夫して使って使って、今や日本語は世界の言語の中で有数の、実に精妙な、そして正確な意味を伝えられる近代的な言語になっている。
 ただし、例えば「瘧」(おこり)とか「膕」(ひかがみ)とか今ではあまり使わない読み方の中に過去の苦闘の歴史が「化石」のように残っているのが面白い。難読漢字が今日クイズなどで興味を集めているのはそんな文化遺産としての日本語の味わいなのだろう。本書はその優れた手引書として申し分なくできている。

 (担当/木谷)

著者紹介

円満字二郎(えんまんじ・じろう)

1967 年、兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの担当編集者として働く。2008 年、退職してフリーに。著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』『四字熟語ときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『数になりたかった皇帝 漢字と数の物語』『漢字の植物苑 花の名前をたずねてみれば』(以上、岩波書店)、『雨かんむり漢字読本』(草思社文庫)などがある。

f:id:soshishablog:20210217153957j:plain f:id:soshishablog:20210217154014j:plain

 Amazon:難読漢字の奥義書:円満字二郎:本

楽天ブックス: 難読漢字の奥義書 - 円満字 二郎 - 9784794225054 : 本

生まれながらのランナーが、走ることの本当の意味に気づくまでの物語『人生を走る ウルトラトレイル女王の哲学』リジー・ホーカー著

人生を走る ――ウルトラトレイル女王の哲学

リジー・ホーカー著 藤村奈緒美 訳

過酷な長距離競技で圧倒的な記録をもつ女性ランナーのメモワール

リジ-・ホーカー氏は、2005年、博士課程終了の記念イベントにと、長距離陸上競技のなかでも特に過酷であるとされる「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」に軽い気持ちで参加したところ、いきなり女性部門で優勝を果たしてしまいます。しかしこれは、のちにこの2005年大会を含めて5回この競技で優勝することになる伝説の幕開けに過ぎませんでした。この生まれながらのランナーは、どのような人生を歩むことで、この前人未到の偉業にたどり着いたのか。本書は、この衝撃的なデビュー戦から、ヒマラヤからカトマンドゥまでを走る挑戦を含む、数々のレースの記録について綴られたものです。
これらの挑戦の詳細な描写から伝わるのは、競技の過酷さと、彼女の強靭な精神と身体ですが、もっとも胸を打つのは、自然の荘厳な美しさや、サポートしてくれる人たちや現地の人々の暖かさといった、「走ることでつながっている世界の素晴らしさ」について触れられる部分です。勝敗を超えた「圧倒的な精神の高み」から競技に挑んでいる著者だからこそ、見ることが出来た視点だと言えるでしょう。

人生に試されて初めて知る「走る意味」

筋肉痛とは無縁だと自負する「鉄人」の彼女にも、疲労骨折という魔の手が忍び寄ります。走ることがすべてである人間から走ることが奪われたとき、彼女は真のランナーとは何かという問いに否応なく向き合うことになります。「走れなくても、走ることと関わることはできる」。このとき、彼女は走ることが自分のためだけではなく、世界と関わる方法そのものであるということに気が付くのです。競技の記録という体裁を軽々と超えて、生きることの真理に触れんとする本書。すべての「走る人」にぜひ読んでいただきたい1冊です。

(担当/吉田)

著者紹介

リジー・ホーカー

1973年イギリス生まれ。サウサンプトン大学で海洋物理学の博士号を取得。高低差8500m、155㎞を走るUTMBで5回の優勝を収めるほか、IAU100km世界選手権での優勝など、数々のレースでの受賞歴をもつ。

訳者紹介

藤村奈緒美(フジムラ・ナオミ)

1973年生まれ。東京大学文学部言語文化学科卒。司書職を経て翻訳家となる。主な訳書に、『フィリップ・グラス自伝 音楽のない言葉』、『成功する音楽家の新習慣』(以上、ヤマハミュージックメディア)、『世界の美しい名建築の図鑑』、『世界を変えた本』(以上、エクスナレッジ)などがある。

f:id:soshishablog:20210208101417j:plain f:id:soshishablog:20210208101430j:plain

 Amazon:人生を走る ウルトラトレイル女王の哲学:リジー・ホーカー著 藤村奈緒美 訳:本

楽天ブックス: 人生を走る - ウルトラトレイル女王の哲学 - リジー・ホーカー - 9784794224958 : 本

「どうせ自分なんて……」。自己否定のスパイラルから抜け出すための考え方・学び方・働き方!『「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい』安井元康著

「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい

安井元康 著

 本書は、マウスコンピューターを擁するMCJの経営者として活躍するかたわら、東洋経済オンラインの人気連載《非学歴エリートの熱血キャリア相談》で長年にわたってビジネスパーソンや学生の悩みに答えてきた著者が、自身の経験をベースに綴った学歴論・キャリア論です。
 20代にして上場企業の役員となり、ケンブリッジ大でMBAを取得後に入社したコンサル会社では30代半ばで幹部に昇進、そして30代後半でMCJ社長に就任……という仰天すべきキャリアを歩んでいる著者ではありますが、いわゆる「エリートコース」を歩んできたわけではありません。中堅私大と呼ばれる大学から就職氷河期のどまん中にベンチャー企業に入社、「自分には学歴がない」という焦りをエネルギーに変えて努力を重ねてきた結果が、このキャリアなのです。
 学歴社会の崩壊はずいぶん前から言われていますが、「それでも、人は自身の(パッとしない)学歴を幾つになっても、意外と引きずってしまうもの」と著者は書いています。問題はそこから生まれる「どうせ自分なんて……」という自己否定のスパイラルからいかに脱するか、そしてそれを未来を変えるための力に変えていけるかです。本書では著者自身の経験も交えながら、「学歴なんて関係ない」人生を送るための考え方と働き方・学び方を紹介しています。何より大切なのは学歴ではなく「学習歴」であり、人生のフェーズごとに学びと実践を積み重ねていくことで、人はアイデンティティが上書きされて過去の学歴など気にならなくなるという著者の言葉には、万鈞の重みがあります。自分の生き方を模索しているすべての方に読んでいただきたい一冊です。                             (担当/碇)

【目次】
第1章 なぜ学歴が気になるのか
・なぜ今、学歴について語るのか
・学歴が「安心材料」になる時代は終わっている
・「他人の評価」を成功の基準にしてはいけない
・新型コロナウイルスの流行が問いかけるもの

第2章 「高学歴な人たち」の正体
・残念な高学歴の人たち
・実録こんな高学歴には要注意
・イケてる高学歴の人たち
・人生の最高経営責任者(CEO)は自分自身
・「残念な高学歴」よりも残念な人

第3章 学歴よりも学習歴
・社会人になってからの学習歴
・自分の市場価値をどう高めるか
・社会人を待ち受ける4つの「罠
・忙しい社会人は「何を」「どのように」学ぶべきか
・モチベーション×時間×効率
・学び方をどう工夫するか
・参考:私の学習歴

第4章  学歴に頼らず仕事で成功するために
・それでも進むべき道が見えないなら
・自分の「ポジション」をつねに意識する
・自分の「やり方」を把握・構築する
・見栄やプライドを捨てる勇気
・戦略的に逃げる勇気
・自分の「幸せの基準」をつねに意識する

第5章  それでも学歴が気になるのなら
・一生ついてまわる学歴
・学歴の「代わりになるもの」を手に入れる
・要は「最終学歴」という考え方
・学歴と年齢の関係性
・学歴を「ネタ」にできるようになるのが理想

第6章 非学歴時代の人生設計
・個としての選択が問われる時代
・固定制の生き方から変動制の生き方へ
・プランBをつねに持っておく
・コロナ禍を契機に考えるべきこと、やるべきこと 
・彼を知り己を知る

著者紹介

安井元康(やすい・もとやす)

MCJ社長。1978年東京生まれ。都立三田高校、明治学院大学国際学部卒業後、2001年にGDH(現ゴンゾ)に入社。2002年に株式会社エムシージェイ(現MCJ)に転職し、同社のIPO実務責任者として東証への上場を達成、26歳で同社執行役員経営企画室長(グループCFO)に就任。その後、ケンブリッジ大学大学院に私費留学しMBAを取得。帰国後は経営共創基盤(IGPI)に参画。さまざまな業種における成長戦略や再生計画の立案・実行に従事。同社在職中に、ぴあ執行役員(管理部門担当)として2年間事業構造改革の他、金融庁非常勤職員等、社外でも活躍。2016年にMCJに復帰、2017年より同社社長兼COO。2014年より東洋経済オンラインで「非学歴エリートの熱血キャリア相談」を連載中。著書に『極端のすすめ』(草思社)、『非学歴エリート』『下剋上転職』(ともに飛鳥新社)、『99・9%の人間関係はいらない』(中公新書ラクレ)などがある。

f:id:soshishablog:20210208100359j:plain f:id:soshishablog:20210208100423j:plain

 Amazon:「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい:安井元康著:本

楽天ブックス: 「学歴なんて関係ない」はやっぱり正しい - 安井 元康 - 9784794225030 : 本

「映画」と「科学」の意外な共通点『ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学』リック・エドワーズ 著 マイケル・ブルックス 著 藤崎百合 訳

ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学

リック・エドワーズ 著 マイケル・ブルックス 著 藤崎百合 訳

◆映画と科学の共通点「死を避ける方法を探しつづけていること」

 どうにかして「死」を逃れたい……。多くの映画は、このためにストーリーが展開し、人食いサメや殺人ロボット、全面核戦争と戦ったり逃げたりして、私たちはそれを夢中で観ることになります。科学も、「真理の探究」という高尚な目的はあるものの、実際上は、感染症から加齢、小惑星衝突にいたるさまざまな「死」の要因を回避する方法を探究・開発する営みとして、役割を果たしてきました。
 つまり、「映画」と「科学」と「死」は、とっても相性がいいテーマなのです! 

◆パンデミックから世界最終戦争まで、11の映画の死と滅亡のシナリオを科学する

 本書は11の映画について、それぞれ1章ずつを割り当てて、ウイルスや不眠、人工知能兵器など、死や滅亡をもたらす災厄にまつわる科学を探究していくものです。意外な映画が真剣に科学を踏まえて描かれていたり、実際の科学者が本当に映画と同じようなことを考えているとがわかったりして、驚かされること間違いありません。
 例えば『エルム街の悪夢』の中で描かれる「悪夢で死ぬ」という話は、1970年代に大量虐殺の恐怖を味わってアメリカへ逃げてきたベトナムやカンボジアの難民たちの間で、PTSDによる不眠と悪夢、それに続く睡眠中の心臓発作による死が数多く起こり、その一例が報道されたことが脚本のもとになったといいます。そうなんです! 悪夢は時として、本当に人を死に追いやることがあるのです。
 また、世界最終戦争を描いた『博士の異常な愛情』では核抑止力のゲーム理論が重要なテーマになっています。そのゲーム理論によれば、米国トランプ前大統領の予測不可能な北朝鮮に対する外交は、相手に警戒感を抱かせて慎重な対応を促すことにつながり、意外にも、世界をより安全にした可能性があるとのこと。その名も「マッドマン・セオリー(狂人理論)」と呼ばれる戦略で、理論的な根拠があるというのです!
 そして、第1章で紹介される映画『コンテイジョン』は真剣にパンデミックを描いた作品で、本書でも次のパンデミックを予言するものと高く評価されています。実は、本書の原書は、コロナ蔓延の直前に刊行されたのですが、ウイルスの生物学から感染の数理モデルまで、著者らによる解説はコロナ以後に読んでもビックリするほど的を射たもので、いままさに読まれるべき内容となっています。

 本書は、著者2人が出演するイギリスの人気Podcast番組から派生したもので、前作『すごく科学的― SF映画で最新科学がわかる本』(草思社刊)に続く第2弾です。前作同様、クスリと笑える2人の映画談義の掛け合いも魅力のひとつ。映画好きにも科学好きにもオススメでき、映画も科学も、よりいっそう楽しめるようになる1冊です。

(担当/久保田)

 

●本書で扱う映画
『コンテイジョン』……映画から感染を防ぐ方法が学べる?
『アルマゲドン』……小惑星衝突回避にペンキが役立つ?
『ジョーズ』……ヒトが社交的なのは捕食者のおかげ?
『ターミネーター』……兵器の自動化は現実にかなり進んでる?
『トゥモロー・ワールド』……人類は不妊で滅びつつある……?
『ジオストーム』……温暖化は工学的手段で止められる?
『エルム街の悪夢』……悪夢のせいで死ぬことが実際にある?
『人類SOS! トリフィドの日』……植物には知能があり会話も?
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』……人類は近い将来、老化を克服する?
『博士の異常な愛情』……最終戦争がまだ起きてないのはなぜ?
『フラットライナーズ』……臨死体験はつくりだせる?

 

著者紹介

リック・エドワーズ

ライター、テレビ司会者。BBC Oneのクイズ番組「!mpossible」の司会をしている。ケンブリッジ大学で自然科学の学位を取得したが、ようやくそれが少しは役立つようになった。

マイケル・ブルックス

著述家、科学ジャーナリストで、「ニューサイエンティスト」誌のコンサルタント。現在のところ、彼の最大の業績は、量子力学で博士号を得たことではなく、リックが好きな科学書『まだ科学で解けない13の謎』(草思社)を書いたこと。

訳者紹介

藤崎百合(ふじさき・ゆり)

高知県生まれ。名古屋大学大学院人間情報学研究科、博士課程単位取得退学。バイザー『砂と人類』(草思社)、アーニー他『ぶっ飛び!科学教室』(化学同人)など、主に科学に関する書籍の翻訳を幅広く手掛ける。最近は女性だらけのスタトレ新シリーズに胸熱の日々。

f:id:soshishablog:20210120155354j:plain f:id:soshishablog:20210120155407j:plain

Amazon: ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学:リック・エドワーズ 著 マイケル・ブルックス 著 藤崎百合 訳:本

楽天ブックス: ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学 - リック・エドワーズ - 9784794224910 : 本

教育は簡単にできるものか、難しいものか。『教師の仕事がブラック化する本当の理由』喜入克 著

教師の仕事がブラック化する本当の理由

喜入克 著

 著者は本書の中で、人間とは複雑なものであると繰り返し書いている。その一つの例として近年流行りの「命を守る教育」というものを上げている。そこでは学校で優先されるべきものはまず「生徒の命を守る」ことだとされ、最近、年頭の校長訓示の中でも、よく声高に語る人が多い。それで何が起こったかというと「生徒が家出した」という一報が入ったら、担任教師は大慌てで各方面に連絡し、その一日、対応で追われ、他の生徒の教育はおろそかにされる。そのあげく当の生徒といえばゲームセンターで遊んでいましたなどと言ってけろりとした顔で出てくる場合が多い。
「家出した生徒は自殺しかねない」から出来る限り探さなくてはならないという論理なのだ。しかし、もちろん生徒の命は大切にしなければならない、そんなことは当たり前だ。
だが、人が自殺するのは何の兆候もなく行われることもあり、そのような行動を完全に防ぐことはできない、最近ではまったくそのそぶりも見せなかった有名男優や女優が相次いで自殺するという事件もあった。
 人間とは複雑なものであるというのが著者の人間観であり、また教育の根幹にもそれがあるというのが著者の考えである。これを単純化し、教育は効率化して簡単に行えるようにできる、という論理によって、どんどん官僚主義がのさばり、教育のカルチャーセンター化、予備校化、スポーツクラブ化が進んでいる。その一方で教師は現場で本来の意味での教育を行うために孤軍奮闘を強いられる。これが教師の仕事がブラック化する根本原因である。
 人間は複雑なものだから教育のしがいもあるのだと著者は訴える。
 この根本的な人間観の違いがあるので教育行政はうまく行っていない。例えば生徒の命を守ることが最大の目的なら警察や精神科医や福祉関係の人、弁護士などを総動員でことにあたらなければならない。それを一教師に担わせれば、本来行われるべき教育活動は著しく縮小されるし、教師にないものねだりをしているのが父兄であり、行政側である。A=Bにならないのが教育なのだという考え、だから商品売買のようなサービスとはなじまない、むしろ「贈与」的な教育観から考え、ある種の理想や誇りをもって行うのが教師なのだと著者は主張している。長年の教師体験をもとに書かれた本書は今日の教育を考えるうえで非常に重要な問題を衝いている。

(担当/木谷)

著者紹介

喜入克(きれい・かつみ)

1963年、東京生まれ。立命館大学文学部卒。1988年から都立高校の教師となる。2012年~2018年まで、三つの都立高校で、副校長を務める。管理職として都立高校の改革を目指したが、うまくいかなかった。そのため、2019年から、管理職を辞めて、一教師に戻る。現在、東京23区内の都立高校の教務主任。教科は国語科。プロ教師の会(埼玉教育塾)の会員、都立高校の現場から、教育を考えるミニコミ誌『喜入克の教育論「空色」』を主催している。著書に『高校が崩壊する』(革思社、1999年)、『それでもまだ生徒を教育できるのか?』(洋泉社、2002年)『「教育改革」は改革か』(PHP研究所)、『叱らない教師、逃げる生徒―この先にニートが待っている』(扶桑社、2005年)など。

f:id:soshishablog:20210119151140j:plain f:id:soshishablog:20210119151155j:plain

 Amazon:教師の仕事がブラック化する本当の理由:喜入克 著:本

楽天ブックス: 教師の仕事がブラック化する本当の理由 - 喜入 克 - 9784794224927 : 本