草思社のblog

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難読漢字は日本語の歴史を知る「化石」として残っている。『難読漢字の奥義書』円満字二郎著

難読漢字の奥義書

円満字二郎 著

 漢字は中国で紀元前1400年ぐらいに生まれたとされる。中國北部の黄河流域が発祥の地とされる。日本へは4世紀ぐらいに入って来たらしい。古墳時代のことで、古墳の副葬品に漢字が書かれているものがある。ただ何度にもわたって別々の地域から入って来たので中国語読みである「音読み」でも呉音、唐音、漢音などが入り乱れているうえ、さらにうまく発音できなくて中国風訛りになっているものもある。また訓読みというのが画期的な発明で、原日本語の発音で同じ意味の漢字を読んだ読み方である。(一種の翻訳と言っていい。)
 漢字という輸入された文字・言語で、原日本人の間で交わされていた音声としての日本語を書き表そうというのであるから、そこにはたいそうな工夫や技術が生じる。漢字を簡略化した平仮名やカタカナなどの発明をまじえて、何とか使い勝手のいい言語にしようと今日までつとめた日本人の努力は、すごいと言えばすごいのである。この間1600年ぐらいかかっている。自前の言語でない漢字を工夫して使って使って、今や日本語は世界の言語の中で有数の、実に精妙な、そして正確な意味を伝えられる近代的な言語になっている。
 ただし、例えば「瘧」(おこり)とか「膕」(ひかがみ)とか今ではあまり使わない読み方の中に過去の苦闘の歴史が「化石」のように残っているのが面白い。難読漢字が今日クイズなどで興味を集めているのはそんな文化遺産としての日本語の味わいなのだろう。本書はその優れた手引書として申し分なくできている。

 (担当/木谷)

著者紹介

円満字二郎(えんまんじ・じろう)

1967 年、兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で国語教科書や漢和辞典などの担当編集者として働く。2008 年、退職してフリーに。著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』『四字熟語ときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『数になりたかった皇帝 漢字と数の物語』『漢字の植物苑 花の名前をたずねてみれば』(以上、岩波書店)、『雨かんむり漢字読本』(草思社文庫)などがある。

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