草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

国際的映画ビジネスの大変さ、日本映画の契約意識の低さなど。『黒澤明の弁護士』乗杉純 著

黒澤明の弁護士

乗杉純 著

 本書は第6回(2021年度)文芸社草思社W賞金賞受賞作のノンフィクションである。
著者の乗杉純氏は弁護士で個人事務所を経営している。国際間の契約の交渉、知的所有関係などに長けていて、黒澤プロとも近年までさまざまな案件で仕事を請け負っていた。
 本書は3章に分かれているが前の2章が黒澤明関係の仕事の話であり、3章は大島渚監督『戦場のメリークリスマス』製作の話である。3章は著者が初めて映画の契約の仕事に足を踏み入れた作品ということ、また『乱』と同じプロデューサーの話ということで、ここに付け加えた。
 黒澤明監督の『乱』は仲代達矢主演の戦国時代劇で超大作であり、『赤ひげ』(1965)『どですかでん』(1970)のあと、『トラ・トラ・トラ!』の降板、自殺未遂などをへて『デルスウザーラ』(1975)でようやく復調した黒澤が満を持して企画した作品である。製作費がかかりすぎるということから、フランスからの出資を求めて日仏合作になった。結局あとから企画された『影武者』(1980)の方が先行し、『乱』は1985年に完成した。出資条件や何かで、すったもんだが繰り返され、難航した契約交渉に1980年代初めの段階で著者も加わり合意に至った過程が本書では回想として描かれている。『乱』は結局興行では赤字だったが、アカデミー賞外国映画賞をとっている。
 外国の独立映画プロデューサーが個人としてかなりしたたかであることは有名であり、どれも曲者である。『乱』のサージ・シルバーマン(一般にはセルジュ・シルベルマンと呼ばれている)も例外にもれず、一度約束したことを反故にしたり、記憶にないと言ったり、自分に都合のいいように契約条件を持っていこうとする。若い弁護士の彼が翻弄され頑張る姿がここでは描かれている。シルバーマンはルイス・ブニュエルのフランスでのカムバック(メキシコからの)に大いに貢献し晩年の『欲望のあいまいな対象』『自由の幻想』などを手掛けた名物映画人である。ユダヤ人で強制収容所の体験があるという。その人物像、それに振り回される黒澤明のイライラぶりが興味深い。この過程はヘラルド・エースの原正人(『乱』の日本側のプロデューサー)の著作等でも語られているが、法律家当事者の眼で描かれているのは貴重である。
 本書で特に興味深いのは第2章の『七人の侍』再映画化権の訴訟である。『七人の侍』は今日では映画史の上できわめて高く評価されていて、映画史上のベストワンに押す人も多い名作中の名作である。にもかかわらず東宝の扱いはぞんざいであり、当初ハリウッドのアルシオナプロというところへ再映画化権をすべて売り渡していて、しかも黒澤・橋本忍小国英雄の三人の脚本家の了解も得ていなかった。のちにこの映画の世評が高まるうちに黒澤のところへ再映画化の許諾を求める人が多くあらわれ、権利が売られていて黒澤本人には権利がないということがわかり、訴訟が発生したのだ。
 このややこしい訴訟を1960年代にまでさかのぼって糸をときほぐすように解明し、何とか着地に持っていったのが著者の仕事であり、実は日本の映画会社に監督や脚本家の著作権への配慮がなかったことの典型的事例である。時は流れて今では著作権の扱いも慎重になっているが、天下の東宝でさえ近年までこんなありさまだったのだ。
 本書は法律の実務家から見た映画製作の実情を描いた稀少な体験談・記録として読むに値する作品になっている。

(担当/木谷)

著者紹介

乗杉純(のりすぎ・じゅん)

東京生まれ。1971年、早稲田大学第一法学部卒業・司法試験合格。1975年、ミシガン大学ロースクール留学(LLM)。1995年、乗杉綜合法律事務所設立。企業間の国際的商取引契約を得意とする。

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北欧のコテージに現れる生物たちの出会いが生む、生命への思索『森の来訪者たち 北欧のコテージで見つけた生命の輝き』ニーナ・バートン著 羽根由訳

森の来訪者たち

――北欧のコテージで見つけた生命の輝き

ニーナ・バートン著 羽根由訳

リス、ミツバチ、キツネ、ワタリドリ、アナグマ
詩人のコテージには、さまざまな生物たちとの出会いがあふれています。本書は、コテージがもたらす生命への哲学的な思考を、詩的に紡いだサイエンス・エッセイです。著者はスウェーデン文学の最高峰であるアウグスト賞の受賞作家で、叙情豊かな文体が生命への想像を膨らませてくれます。

スウェーデンの郊外にあるコテージには、豊かな自然に囲まれていることから、様々な動物がやってきます。例えば、リスの出会いはある意味予想どおりにかわいらしいものですが、コテージの天井裏に四六時中いれば、時にはその「生活」音は、著者をいらだたせもします。しかし、そういったリアルな体験をし、それを詩人の感性で言葉にすることで、生命の本質に迫ってゆきます。
その生物たちへのまなざしは、詩的な響きに満ちています。

「(ミツバチは)紙をつくる才能を持って生まれ、それで自分の生涯を満たすはずだったのだろう。これは一種の詩ではないだろうか?」
「優れた話し手は、話の本筋から脱線するのを避けるものだが、生命にとっては分岐こそが重要だった。」
「一個の遺伝子は百の和音を持っているとも言われ、他の遺伝子と相まって、古いテーマをまったく新しいサウンドに変えることができる」

そしてこれらは、単なる比喩にとどまるものではありません。著者にとって詩を書くことは、自然界の営みとそのまま地続きの行為であり、つまり人間が文章を書くことは、とても自然的な行為だということが、本書の最大のメッセージなのです。

「実際、スウェーデン語で『アルファベット』を意味するbokstavは、ブナ(bok)材に文字を刻んだことに由来する。それ以来、何十億ものアルファベットが木材チップからつくった紙に書かれている。文字と紙は協力して、ミツバチが花から蜂蜜をつくるよりも素晴らしいものを創造しなければならない。書くことの目的は、未来へ向けて生命の本質を伝えることではないだろうか。」

SDGsなど環境問題が注目される昨今ですが、本書のように身近な生命に耳を傾け、自然とは何かということについて想像力を羽ばたかせることから始めるのが、実はとても大事なことなのかもしれません。

(担当/吉田)

著者紹介

ニーナ・バートン(Nina Burton)

抒情詩とサイエンスを組み合わせた独自のスタイルで有名なスウェーデンの詩人・エッセイスト。2016年、『The Gutenberg Galaxy Nova』でスウェーデン国内でもっとも権威あるアウグスト賞(ノンフィクション部門)を受賞。スウェーデン・ノーベル・アカデミーのエッセイ賞なども受賞している。

訳者紹介

羽根由(はね・ゆかり)

大阪市立大学(現・大阪公立大学)法学部卒業。スウェーデン・ルンド大学法学部修士課程修了。共訳書にラーゲルクランツ『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』(2015)、ルースルンド&トゥンベリ『熊と踊れ』(2016、以上、早川書房)、ノーデンゲン『「人間とは何か」はすべて脳が教えてくれる』(誠文堂新光社、2020)、『海馬を求めて潜水を』(みすず書房、2021)など。単訳書にゴールドベリ&ラーション『マインクラフト 革命的ゲームの真実』(KADOKAWA、2014)、エルンマン他『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社、2019)、『ノーベル文学賞が消えた日』(平凡社、2021)などがある。

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ダイエット論争に突きつけられた決定的エビデンス『運動しても痩せないのはなぜか』ハーマン・ポンツァー著 小巻靖子訳

運動しても痩せないのはなぜか

――代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」

ハーマン・ポンツァー著 小巻靖子訳

◆1日の総消費カロリーは、運動しても増えていなかった!

 ダイエットに関して長年にわたり論争となってきた問題に、ついに決定的な証拠がもたらされました。ダイエットばかりか、栄養学やスポーツ科学、果ては人類学までの常識をひっくり返すその研究を発表した人類学者こそが、本書の著者ハーマン・ポンツァー氏です。研究内容は世間に大きな衝撃をもたらし、ニューヨークタイムス紙やBBCなどの一般向けメディアでも大きく取り上げられました。
 その「決定的な証拠」とは何かを一言で言えば「運動しても1日の総消費カロリーは増えていなかった」ということ。つまり、運動したところで、それだけで痩せることはなく、痩せるためには摂取カロリーを減らすしかない、ということです。しかしだからといって「運動なんか意味がない」という結論には決してなりません。逆に、運動しても1日の消費カロリーが増えないからこそ、運動は必ずしなければならない、と結論づけられるのです。どういうことでしょう?

◆運動に使われなかったカロリーが不必要な「炎症」を起こし、現代病の原因に

 著者の発見を裏返せば「運動しなくても1日の消費カロリーは減らない」ということでもあります。となると、運動に使われずに余ったカロリーは、別のことに使われているはず。じつは、これが体に良くないことを引き起こすのです。余ったカロリーの使い道として、もっとも身体に悪いと思われるのが「炎症」。本来であれば必要のないところで、余ったカロリーは炎症を起こします。これがアレルギーや関節炎、動脈疾患のほか、さまざまな「現代病」の原因となっているのです。運動すれば、これらのムダな炎症が抑えられ、健康が維持される、というわけです。

◆最新の「消費カロリー測定法」で狩猟採集民、都会人、類人猿などを計測

 しかし、なぜこんなに大事なことが、100年以上の歴史を持つ栄養学や代謝の科学の領域で気づかれないままだったのでしょうか。じつは意外にも、動物の1日の消費カロリーを正確に測定するのは最近まで非常に難しく、推定することしかできませんでした。そこに著者らは、「二重標識水法」という新手法を持ち込み、先進国の人や狩猟採集民、さらにはオランウータンやチンパンジーなどの類人猿まで、数多くの対象の消費カロリーを測定したのです。その結果、上記の発見に至っただけでなく、その他にも驚くような発見がいくつもなされたことが、本書に綴られています。たとえば「オランウータンも、チンパンジーも人間より何割も消費カロリーが少ない」「一般に成人の1日の消費カロリーは2000キロカロリーとされているが、これは間違い。じつはそれよりずっと多い」など。さらにこれらの知見から発展して、スポーツ科学や人類学についても、衝撃的な事実がいくつも明らかになっていきます。自分自身の体に興味のあるすべての人が、ぜひ読んでみるべき一冊といえるでしょう。

(担当:/久保田)

目次

第1章 ヒトと類人猿の代謝の定説が覆った
    ◇ライオンから奪ってでも、食料を手に入れる
    ◇カロリーに関する一般的な理解はまちがいだらけ
    ◇ヒトは哺乳類の中で特別に成長と老化が遅い
    ◇類人猿を対象とする実験が非常に困難な理由
    ◇オランウータンの消費カロリーは非常に少なかった
    ◇霊長類の代謝の速さは他の哺乳類の半分にすぎない
    ◇ヒトだけが飛び抜けて他の霊長類より代謝が速い
    ◇狩猟採集民と先進国の人では代謝はどう違うのか

第2章 代謝とはいったい何か
    ◇知っているつもりで、実は説明できないこと
    ◇わかりやすくいうと代謝とは何か
    ◇「あなたはあなたの食べたものでできている」
    ◇昼食に食べたピザは体の中でどうなるか
    ◇カロリーの燃焼とはATPをつくることである
    ◇脂肪の燃焼と糖質制限ダイエット
    ◇植物が大量絶滅の原因となったことがある
    ◇ミトコンドリアを味方にして酸素が利用可能に
    ◇基礎はわかった。で、運動すれば痩せるの?

第3章 カロリー消費量研究に起きた革命
    ◇カロリー消費量測定が重要な研究課題である理由
    ◇消費カロリーの測定はどのようにされてきたか
    ◇「歩く」「走る」「泳ぐ」のにかかるエネルギー
    ◇安静時の体0のエネルギー消費はどれくらいか
    ◇BMRを超える基本的身体機能のエネルギー消費
    ◇エネルギーを効率よく使い子孫を多く残すゲーム
    ◇動物の寿命は代謝率で決まるのか
    ◇一般的な総カロリー消費量推定法はまちがっている
    ◇二重標識水法で正確な総カロリー消費量を測定
    ◇ヒトの代謝の科学の新時代が始まった

第4章 親切で、適応性に富み、太ったサル
    ◇トレッドミル代謝から離れて、発掘へ
    ◇180万年前の人類化石がユーラシア大陸
    ◇ユーラシアにやってきた侵入種・ホミニン
    ◇初期人類は利己的で怠け者のベジタリアン
    ◇ヒトは分け合うことで大成功をおさめた
    ◇「分け合い」がヒトの代謝革命を起こした
    ◇「分け合い」と「代謝向上」のマイナス面

第5章 運動しても痩せないのはなぜか
    ◇ハッザ族の驚くほどの回復力と適応性
    ◇ハッザ族は厳しい環境で重労働をしている
    ◇ハッザ族のエネルギー消費は先進国の人と同じ
    ◇制限的日次カロリー消費モデルで考えると……
    ◇運動しても痩せないのはなぜか
    ◇ダイエット番組参加者を追跡調査した研究結果
    ◇脳は厳格にエネルギーの収支を監視している
    ◇肥満の原因を代謝が低いせいと考えるのは誤り
    ◇私たちの研究への反響は予想外に大きかった

第6章 ダイエット論争にデータを突きつける
    ◇人類は300万年前から炭水化物を食べてきた
    ◇過熱するダイエット論争と最新の科学的知見
    ◇「スーパーフード」には多くの場合、根拠はない
    ◇脂質悪玉説と糖質悪玉説、論争の真実
    ◇ケトン食などの食事法はなぜ成功するのか
    ◇肥満のわなに陥らないためにはどうすればよいか
    ◇実際の狩猟採集民の食生活はどのようなものか

第7章 ヒトの体は運動を必要としている
    ◇運動しないチンパンジー、運動が必要なヒト
    ◇運動した方がいい理由はたくさんある
    ◇運動に使われなかったカロリーの行き先
    ◇過剰な運動で性ホルモンの分泌が低下する理由
    ◇体にいい運動の量はどれくらいか
    ◇運動で減量はできないが体重維持に運動は必須
    ◇「運動しても痩せない」は〝不都合な真実〟か

第8章 ヒトの持久力の限界はどこにあるか
    ◇超過酷な持久競技選手のカロリー収支
    ◇持久力の限界を決めるのは何か
    ◇何日、何週間、何カ月にも及ぶ持久走での実験
    ◇人間の持久力の限界を示すグラフ
    ◇代謝の限界を決めるのは消化管だった
    ◇妊娠と出産も代謝の限界に支配される
    ◇マイケル・フェルプスは何がすごいのか
    ◇エネルギー消費の上限を押し広げる進化の末路

第9章 エネルギー消費とヒトの過去・現在・未来
    ◇現代人のとんでもないエネルギー消費量
    ◇道具による筋力の有効活用から火の利用へ
    ◇技術が進むにつれ食料獲得が容易になった
    ◇1人当たりの消費エネルギーがゾウ並みに
    ◇「人間動物園」を望ましいものに改造せよ
    ◇数年ぶりに訪れたハッザのキャンプで見たもの

謝辞
原注

 

著者紹介

ハーマン・ポンツァー(Herman Pontzer)

デューク大学人類進化学准教授、デューク・グローバルヘルス研究所グローバルヘルス准教授。人間のエネルギー代謝学と進化に関する研究者として国際的に知られている。タンザニアの狩猟採集民ハッザ族を対象としたフィールドワークや、ウガンダ熱帯雨林でのチンパンジーの生態に関するフィールドワークのほか、世界中の動物園や保護区での類人猿の代謝測定など、さまざまな環境において画期的な研究を行っている。その研究は、ニューヨークタイムズ紙、BBCワシントンポスト紙などで取り上げられている。

訳者紹介

小巻靖子(こまき・やすこ)

大阪外国語大学(現、大阪大学国語学部)英語科卒業。訳書に『移民の世界史』『サブスクリプションマーケティング』『ティム・ウォーカー写真集 SHOOT FOR THE MOON』など多数。

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燃えない、壊れない、沈まない…建物を支える「構造」の秘密『世界を変えた建築構造の物語』ロマ・アグラワル著 牧尾晴喜訳

世界を変えた建築構造の物語

ロマ・アグラワル 著 牧尾晴喜 訳

みなさんが今そこにいる建物は、なぜ壊れないのでしょうか。
あまりにも当たり前に利用している建物ですが、それはこれまでに考え出された、
建物を壊さないための工夫の積み重ねによって、日々を平和に過ごせているのです。

本書は、そんな建物を支える構造のアイデアが、どのようにして生み出されたのかを、
世界的な建物の構造設計を担当する現役のエンジニアが分かりやすく語ったものです。

まず建物にとっての脅威は、どんなものがあるでしょうか。
日本に住んでいれば、まず自身が思い浮かぶかもしれません。台風といった自然の力のほかに、火災や建てる地盤が弱いといったことも脅威になりえます。建物が高くなるほど、自身の重さ=重力にあらがう力もより重要になります。
これらのすべてに耐えられなければ、建物は人間を守ることはできません。
構造とは、こういった力に対抗するために人間が生み出した知恵なのです。

ここでひとつ、高層ビルはあんなに高いのに、どうやって地震や風の力に耐えられるのかを考えてみましょう。一つの考え方として、人間と同じように、強い「背骨」をつくって耐えるというアイデアがあります。
働いているオフィスで、エレベーターや階段、トイレが「まとまっている」のがなぜか、考えたことがありますか?これは、それらをまとめて厚い壁で覆うことで、ビルのなかに「背骨」をつくっているからなのです。ですが、これはコンクリート以外の素材ではとても値段が高くなります。
なので別の方法として、鉄骨でできているビルの場合には、亀の甲羅のような「外骨格」を用いることがあります。鉄をVやX字にした「ブレース」構造で建物の全体を覆うことで、外側をつよい殻で覆ってしまうというアイデアです。
このような様々な工夫によって、建物は安全に建てられているのです。

著者はこういった工夫を考えるスペシャリストであり、
西ヨーロッパで最高を誇る「ザ・シャード」の構造ほか、さまざまなランドマーク的な建物を担当しています。彼女自身は、幼いころにインドでテロに巻き込まれた経験があり、
建物が人間の命を守らなければならないという構造設計の理念は、概念的なものではなく、
実体験に基づいています。そういった自身のエピソードも交えて語られるので、一人のエンジニアの奮闘記としても読みごたえがあります。

本書を読み終えたころには、身の回りの建物を見る目がきっと変わっているはずです。

(担当/吉田)

目次

エンジニアの/としての物語 STORY
建物が支える力 FORCE
炎を防ぐ FIRE
土を建材にする CLAY
鉄を使いこなす METAL
石を生み出す ROCK
空を目指す SKY
地面を飼いならす EARTH
空洞を利用する HOLLOW
水を手に入れる PURE
衛生のために CLEAN
理想の存在 IDOL
最高の橋たち BRIDGE
夢のような構造を実現する DREAM

著者紹介

ロマ・アグラワル(ROMA AGRAWAL)

構造エンジニア。インド系イギリス系アメリカ人。オックスフォード大学で物理学の学士号を取得した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンで構造工学の修士号を取得。西ヨーロッパ一の高さを誇るビル「ザ・シャード」やノーザンブリア大学歩道橋をはじめとして、数々の有名な建造物の構造設計に関わる。英国王立工学アカデミーのルーク賞を含む数々の国際的な賞を受賞している。

訳者紹介

牧尾晴喜(まきお・はるき)

株式会社フレーズクレーズ代表。建築やデザイン分野において、翻訳や記事制作を手がけている。1974年、大阪生まれ。メルボルン大学での客員研究員などを経て独立。一級建築士、博士(工学)。主な訳書・監訳書に、『幾何学パターンづくりのすべて』、『〈折り〉の設計─ファッション、建築、デザインのためのプリーツテクニック』、『箱の設計─自由自在に「箱」を生み出す基本原理と技術』(以上、ビー・エヌ・エヌ)、『世界の橋の秘密ヒストリア』、『あるノルウェーの大工の日記』(以上、エクスナレッジ)などがある。「AXIS(アクシス)」、「VOGUE JAPAN」、「GQ JAPAN」、「GA」といった雑誌で記事の翻訳・執筆も手がけている。

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『老子』には本当は何が書かれているのか?『真説 老子 世界最古の処世・謀略の書』高橋健太郎 著

真説 老子

――世界最古の処世・謀略の書

高橋健太郎

■日本で誤解されてきた『老子

 『老子』と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか? 中国古典に興味がある方だと、もしかすると「無為自然」「足るを知る」「上善如水」など、『老子』に書かれている有名なフレーズのいくつかが浮かぶかもしれません。またある人は「流れに身を任せよ」「あるがままに生きよ」とラクに生きるための心構えや哲学について書かれた本だと思っているかもしれません。
 しかし、本書で紹介する『老子』はこれまでのイメージとはまったく逆、『老子』を一貫した処世・謀略術の体系として読み解くものです。

■「あるがままでいい」とは「何もしない」ことではない

 事実、歴史的にみると『老子』を真正面から謀略術として理解する行為は、中国や日本において伝統的に行われていた解釈法でした。『老子』は、兵法や戦略の書である『孫子』や『韓非子』に多大な影響を与えていますし、かの毛沢東も『老子』を戦略書として愛読していたと言われています。
 『老子』は単に無欲で厭世的な哲学書ではないのです。

■乱世とも呼べる現代にこそ役立つ老子の教え

 著者は、「『老子』全体を謀略術の体系と解釈してはじめてわかる教えがある」とし、「実社会に生きる我々を、生き残る者と亡びる者、成功する者と失敗する者、勝つ者と負ける者、幸福な者と不幸な者に分けるものの正体がつかめる」と言います。
 本書で紹介される「老子」流処世・謀略の理論の数々は、乱世と言っても過言ではない現代にも通用するものばかりです。
 これまで抽象的で難解だと言われていた『老子』をこれほどまでに明快に解説した本はないでしょう。もう一度『老子』を読み直したい、もっと『老子』を深く知りたい、理解したいという人にも最適です。
 ぜひ新しい『老子』の世界観を堪能していただければ幸いです。

(担当/吉田)

目次より
1章 「あるがままでいい」というウソ──封印された『老子』謀略術
2章 「道」は成功者を必ず殺す──『老子』が喝破した世界の仕組みとは?
3章 『老子』とは「道」を利用した戦略である──「反」と「柔弱」
4章 「足るを知る」本当の意味──人間の欲望が生死を分ける
5章 「王」はいかに人を動かすべきか──権力と敵意の構造
6章 「隠君子」という生き方──なぜ真の成功者は隠れているのか

著者紹介

高橋健太郎(たかはし・けんたろう)

作家。横浜市生まれ。上智大学大学院文学研究科博士前期課程修了。国文学専攻。専門は漢文学。古典や名著を題材にとり、独自の視点で研究・執筆活動を続ける。近年の関心は、謀略術、処世術、弁論術や古典に含まれる自己啓発性について。著書に『鬼谷子』(草思社文庫)、『どんな人も思い通りに動かせる アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(文響社)、『哲学ch』(柏書房)など多数。

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33人の作家たちに学ぶ「年の取り方」『作家の老い方』草思社編集部 編

作家の老い方

草思社編集部 編

誰しも青年期を過ぎ、中年期を迎える頃には、身心の不調や衰えを感じたり、家族のケアが必要になったりと、「老い」に向き合わざるを得ません。
今日では老いは若さを失うという面でネガティブに捉えられがちですが、古来「老いる」とはめでたいことでありました。
  めでたき人のかずにも入(いら)む老のくれ  芭蕉
本書では、「老い」を描いたエッセイ、小説、詩歌三十三篇を選りすぐって収録しました。年を取ることの寂しさ、哀しさ、愉しさ、歓びが、書き手それぞれの独自の筆致で表現されています。
これまでの人生を振り返りながら、老いゆく自分を認め、いずれ必ずやってくる「死」に対峙する――。「老い」を描くということは、「いかに生きるか」を描くことと同義であると感じさせられます。

(担当/渡邉)

【収録作家】(掲載順)
芭蕉あさのあつこ角田光代向田邦子井上靖河野多惠子山田太一古井由吉佐伯一麦島田雅彦谷崎潤一郎筒井康隆金子光晴萩原朔太郎堀口大學杉本秀太郎富士川英郎吉田健一松浦寿輝谷川俊太郎室生犀星木山捷平吉行淳之介遠藤周作吉田秀和河野裕子森澄雄、中村稔、穂村弘倉本聰鷲田清一中井久夫太田水穂

【目次】
芭蕉「めでたき人のかずにも入む老のくれ」
あさのあつこ「いい人生?」
角田光代「加齢とイケメン」
向田邦子「若々しい女について」
井上靖「少年老いやすし――教科書の中の時限爆弾――」
河野多惠子「せっかく逝くのだから少し珍しい最期を」
山田太一「老いの寒さは唇に乗するな」
古井由吉「人も年寄れ」
佐伯一麦「年も老いもっと愚かに」
島田雅彦「老人とジム」
谷崎潤一郎「老いのくりこと 抄」
筒井康隆「いくつになっても色気を」
金子光晴「若さとは」
萩原朔太郎「老年と人生」
堀口大學「酒」
杉本秀太郎「和楽のつどい」
富士川英郎「夕陽無限好」
吉田健一「早く年取ることが出来ればと……」
松浦寿輝「孤蓬浮雲
谷川俊太郎「明日が」
室生犀星「老いたるえびのうた」
木山捷平「辛抱」
吉行淳之介葛飾
遠藤周作「老いて、思うこと」
吉田秀和「不条理と秩序」
河野裕子「存命のよろこび」
森澄雄「虚空の遊び――「私の履歴書」」
中村稔「老いについて」
穂村弘「人生後半の壁」
倉本聰「まどろむ」
鷲田清一「「忘れ」の不思議」
中井久夫「老年期認知症への対応と生活支援」
太田水穂「病床夢幻(二) 抄」
著者略歴・出典

Amazon:作家の老い方:草思社編集部 編:本

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現代中国の政治とビジネスの関係をこれほどヴィヴィッドに描いたものは珍しい。『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』デズモンド・シャム著 神月謙一訳

私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット

ーー中国の富・権力・腐敗・報復の内幕

デズモンド・シャム著 神月謙一訳

 本書は上海の貧しい教師の家に生まれた著者が新中国の経済発展の時代に生きて大成功をおさめ、そして習近平時代を迎えて失脚するまでを回想した半生記である。個人の体験を書いているのできわめて具体的で、こんなこと書いていいのかと思うほど実名入りの各種エピソードを交えて書いている。海外の書評などを読むと、これほど新中国でのビジネスと政治の関係を内側からヴィヴィッドに書いたものは珍しいとのことである。
 2012年に北京の環状高速線でフェラーリが激突炎上事故を起こした。運転していた青年と同乗の二人の女性は死亡、女性たちは半裸だった。男は胡錦涛の側近中の側近、令計画の息子(令谷)だった。「赤い貴族」と言われる党のエリートの腐敗した生活の象徴と騒がれ、一大スキャンダルになった。次期中央委員ともいわれた令計画はこれで失脚した(2016年に終身刑)。著者は令谷をよく知っているが、たしかに車好きではあるものの他の乱れた「赤い貴族」の子弟のような感じではなかったという。どちらかというと思索的な男だった。「私には、何かが違うような気がした」と書いている。令計画はこれが仕組まれた事件だと主張していた。
 胡春華という政治家が次世代のホープと言われている。この秋(2022年)の党大会で習近平の第三期目の続投が決まるだろうと言われているが、次は胡春華がチャイナ7(中央政治局常務委員会)に名を連ねるという噂もある。かつて、この胡春華と並び称される次世代のホープと言われたのが孫政才である。この二人は非常に似たような出世コースを歩んできた。
「彼(胡春華)と孫政才が2022年に空席となる二つのトップのポストに就くように育てられているのは明らかだった。唯一の問題は、どちらが党の総書記として頂点に立ち、どちらがナンバーツーとして総理になるかである。」(201頁)
 2017年9月、本書の主人公の一人、著者の元妻であるホイットニー・デュアン(段偉紅)が拘束され失踪したが、孫政才も同年、汚職でつかまり終身刑を受けている(本書口絵に裁判でうなだれる孫政才の写真が入っている)。孫は習近平体制の中で権力抗争に敗れ、粛清されたと見ていい。ホイットニーは温家宝首相の夫人である張培莉(張おばさん)に可愛がられ、温家宝一族の資産形成のアドバイザー的な存在だった。温家宝が退いていく中で新たに有望な政治家と組んで(後見してもらい)仕事をしていこうと考えていた。その一人が先ほどの令計画であり、もう一人がこの孫政才だった。二人とかなり親しかったというエピソードが本書には書かれているが、ホイットニーの失踪もこれらの粛清劇の一環であると考えられそうである。
 本書の終りの方で著者は次のように書いている。
「もし令計画と孫政才が粛清されなかったら、今ごろは二人とも中央政治局常務委員になっていただろう。そして、中国共産党は、1980年代に鄧小平が生み出した集団指導体制という考え方を維持していただろう。」
 毛沢東独裁という過去を反省して、集団指導体制をとり、改革開放経済下で一大成長を遂げた中国が再び習近平独裁という誤った選択に向かっているという危惧がこの本の最終的な結論のようである。

(担当/木谷)

著者紹介

デズモンド・シャム(desmond shum、沈棟)

1968年に上海で身分の低い教員の家庭に生まれる。9歳のとき香港に移住し、名門の皇仁書院に入学する。アメリカのウィスコンシン大学で金融と会計を学び、1993年に卒業、香港に戻って株式仲買人となる。その後、投資会社に勤務しているときに、のちに妻となるホイットニー・デュアンと出会い、共同で都市開発事業に乗り出す。二人は、改革開放の好景気に乗って、北京空港の物流センターや北京中心部の再開発などの事業を成功させ、莫大な資産を築く。現在はホイットニーと離婚し、一人息子とイギリスに在住。

訳者紹介

神月謙一(かみづき・けんいち)

翻訳家。青森県生まれ。東京都立大学人文学部卒業。大学教員を17年間勤めたのち現職。主な訳書に、『微生物・文明の終焉・淘汰』(ニュートンプレス)、『デジタル・エイプ:テクノロジーは人間をこう変えていく』(クロスメディア・パブリッシング)など。

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