草思社のblog

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戦争の心の傷はいかに癒やせるか?退役軍人の心の旅の記録。『帰還兵の戦争が終わるとき』トム・ヴォス著 レベッカ・アン・グエン著 木村千里訳

帰還兵の戦争が終わるとき

――歩き続けたアメリカ大陸2700マイル

トム・ヴォス 著 レベッカ・アン・グエン 著 木村千里 訳

◆戦争が終わっても、兵士の心の平穏は戻らない

先日、バイデン大統領がアフガニスタンから完全撤退することが報道され話題になりましたが、米国同時多発テロを発端とした戦争が、アメリカ兵たち自身に与えた傷の深さはどれほどのものだったのでしょうか。戦争そのものによる米兵の死者は6800人以上とされていますが、退役軍人による自殺はアメリカ合衆国退役軍人省の試算では1日に20人にものぼり、退役後も兵士たちの「心の中の戦争」が終わっていないことが分かります。本書は、イラク戦争に従軍したアメリカ兵士が、戦争で抱えた深い精神の傷にどのように向き合い、傷を癒やしていったかを克明に描き切ります。

◆トラウマに向き合うための2700マイル

トムは、従軍中のミッションで、部隊の判断ミスにより上官を失った経験から退役後も自責の念に苛まれます。追い詰められた彼が、このままではいけないと思い考えついたのが、アメリカ大陸を徒歩で縦断するという途方も無い試みでした。この膨大な距離と時間だけが、自分のトラウマに向き合うことができる唯一の行為だと考えたのです。旅の中で、同じように苦しんでいる退役軍人たちが懸命に生きている姿を見たり、心を鎮める方法にヒントを与えてくれるネイティブアメリカンと出会ったりするなかで、自分が軍人であることでいかに「他人に頼ってはいけない」という考え方にとらわれていたかや、上司の死が自分を責めるべき出来事ではなかったことなどに次第に気づきます。旅の終わりに、物語はひとまずの決着を迎えますが、トムの癒しの本当の旅はこれから先にあります。戦争で受けた凄惨な心の傷が癒えることはありえるのか、深く傷ついた人間の精神がどのようにして回復しうるのか。この深遠な問いに対する一つの解答が、本書にはあります。

(担当/吉田)

著者紹介

トム・ヴォス

2003~2006 年の3年間、アメリカ陸軍で現役勤務。陸軍初のストライカー歩兵旅団の1つ、第25 歩兵師団第1旅団を構成する第21 歩兵連隊第3大隊に所属。前哨狙撃兵小隊の偵察歩兵を務める。

レベッカ・アン・グエン

トムの姉。ノースカロライナ州シャーロットを拠点として活動する作家。

訳者紹介

木村千里(きむら・ちさと)

上智大学文学部英文学科卒業。システムインテグレーターにてシステム開発および英文抄訳に従事したのちフリーランス翻訳者となる。訳書に『ウォートン・スクールの本当の成功の授業』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ウェルビーイングの設計論』(共訳/ビー・エヌ・エヌ新社)、『1440 分の使い方』(パンローリング)、『HYPNOTIC WRITING』(共訳/IMKブックス)がある。

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