草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

あの京大吉田寮の「今」を記録する、写真によるドキュメント

京大吉田寮

平林克己:写真 宮西建礼・岡田裕子:文

 吉田寮は、京都大学の学生寄宿舎であり、1913年に建設された日本最古の学生寮です。本書は、その寮の関係者から、寮のことを記録してほしいという依頼を受けた写真家の平林克己さんが撮影した写真をもとに構成されています。さらに、実際に吉田寮に暮らした宮西建礼氏、岡田裕子氏による、寮での暮らしや歴史、自治の在り方等についての解説テキストも記載されています。実際の寮の姿、寮生の生活がどのようなものなのかを記録した、フォトドキュメンタリーとも呼べる本書ですが、書籍の制作にあたり、撮影から使用写真、テキストまで、吉田寮自治会の了解を得ながら進行しました。

 吉田寮はアルファベットの「E」の水平部分を長くしたような平面に、120の和室があり、原則的に相部屋で使われています。第三高等学校学生寄宿舎(竣工1889年)を譲り受けた旧・京都帝国大学寄宿舎の材料を一部再利用しており、部分的には130年もの歴史がある建物で、日本建築学会近畿支部・日本建築史学会も、その資料的な価値を指摘しています。

 寮では、運営に関わることは寮生たち自身で決定し、実行する「学生自治」が行われているのですが、その様子を本文から以下に紹介します。
「吉田寮では、100 年以上も寮生による自治が行われてきた。自分たちに関することは自分
たちで決める、ということだ。したがって、毎年二回行われる部屋割りでは、入寮選考委
員会が複数人に人数分の面積の居室を提供し、居室の使い方は構成メンバーが話し合って
決める。4 人3 部屋なら、1 室は寝室に、1 室は遊び部屋に、1 室は勉強部屋といったふ
うに。」
 初めは男子寮としてつくられた吉田寮ですが、今ではあらゆるジェンダーの人が入寮できます。もちろん年齢制限も存在せず、なかには59歳で京大に入学し、吉田寮に入ったという寮生もいるとのこと。

 そんな独自の文化を持ち、建築としての歴史的な価値もある吉田寮ですが、2017年に、京都大学は耐震性を理由に、寮から退舎するよう通達を出しました。現在、寮生は大学と立ち退きをめぐり裁判中です。寮の存続が揺れていますが、まずは吉田寮のことを客観的に知ることこそが、求められているのではないでしょうか。
 寮を記録するプロジェクトの代表である岡田さんがあいさつ文に込めた思いが、本書の核心を伝えています。
「様々な情報が溢れ、様々な問題に接する機会が増えています。勿論全ての問題を把握するのは、無理なことだと思います。しかしそこで諦めてしまっては、何も解決しないのではないでしょうか。相手が何を考え、感じ、生活しているかを受け止める姿勢が、多くの問題へのアプローチになるのではと願っています。」

(担当/吉田)

著者紹介

写真:平林克己(ひらばやし・かつみ)

東京生まれ。ウィーンを拠点に東ヨーロッパで写真を始める。外資系商社勤務を経て、写真家として独立。世界8カ国、20都市以上で写真展を開催。「撮った写真に仕事をさせる」ことを第一に掲げ、写真を通じて世界を、そして人をつなぐことを理念としている。作品に、希望をテーマとし、東日本大震災後の東北を撮り続けた『陽』(河出書房)、僧侶たちとともに禅の世界を伝える『禅』、などがある。

文:西宮建礼(にしみや・けんれい)

1989年、大阪府生まれ。吉田寮の元寮生。2013年に「銀河風帆走」で第四回創元SF短編賞を受賞。近作に「もしもぼくらが生まれていたら」(『宙を数える 書き下ろし宇宙SFアンソロジー』(東京創元社)収録)がある。

文:岡田裕子(おかだ・ひろこ)

2006年、京都精華大学芸術学部ストーリーマンガコースを卒業。07年、北海道アイヌ民族と生活を送る。08年、知床ナチュラリスト協会に勤務。16年、鍼灸師/柔道整復師の資格を取得。17年、京都大学人間・環境学研究科入学。

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郵便配達の仕事に従事しながら6年がかりで東大に合格。 フルタイムの仕事と学業を両立させた中年男性の奇跡の実話! 『41歳の東大生』小川和人著

41歳の東大生

小川和人 著

 人生100年時代を見すえたキャリアプランの一環として、「社会人の学び直し」に注目が集まっています。ですが「働きながら学ぶ」のは、現在でも決して容易なことではありません。本書は今よりもはるかにその両立が難しかった時代(著者は1997年に東大入学、2001年卒業)に、郵便配達員としてフルタイムでの仕事を続けながら東大に入り、ストレートで卒業した著者による前代未聞の「学び直し」の記録です。
 郵便配達の仕事を天職と考え、実際に東大卒業後も定年まで郵便配達員として勤め上げた著者がわざわざ東大をめざした理由は何だったのか? そして、実際にはどんな学生生活を送ることになったのか? 詳しくはぜひ本書をお読みいただければと思いますが、さまざまなハードルを乗り越え続けた著者を支えたのが「自分には、やり残したことがある」という思いだったという点は、強調しておきたいところです。そういう思いに苛まれることがあっても、日々の慌ただしさに追われて特に何をするわけでもなく年齢を重ねっていってしまうのが私たちですが、著者はそこを諦めず、自身の燃える向学心を満たすための場所と時間を手に入れたのです。
 とはいえ、著者は決して声高に「正しい生き方」を語ったりはしません。実際に起こったこと、出会った人たちを明朗な文体で描写するところに著者の真骨頂があります。〈出席をとるとき、(最初、先生は)「小川君」と呼んだが、第二回目の授業からは、「小川さん」に変わった〉といった調子で、飄々とユーモラスに自身の経験をつづります。また、〈(この同級生は)説明は難しいが、東大生と聞いて、誰もが「あー、やっぱり」と納得するようなタイプの好青年である。私とは全然違った〉という叙述に見られるような、独特の観察眼も本書に味わいを添えています。
 学び直すことは生き直すこと。そして、それはやる気になれば自分にもできるのではないか。ページをめくるうちにそんな気分にさせられる一冊です。
(担当 碇)

 著者紹介

小川和人(おがわ・かずと)

1956年、千葉県市川市生まれ。1980年、明治学院大学社会学部社会学科卒業。証券会社勤務、学習塾講師、教材制作会社勤務を経て、1988年、江戸川郵便局集配課(現日本郵便株式会社)勤務。1997年、東京大学教養学部文科Ⅲ類入学。2001年、東京大学文学部思想文化学科(インド哲学仏教学専修課程)卒業。2016年、日本郵便株式会社定年退職。東京都江戸川区で育ち、結婚後、東京都豊島区(西池袋、目白)で暮らし、現在は神奈川県川崎市麻生区在住。趣味は内田樹氏の本を読むこと、映画鑑賞、野球観戦、競馬観戦、東京ディズニーシーで一日をのんびり過ごすこと。家族は妻と子ども二人(男)、孫一人(女)。

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人はどのような過程を経てテロリストになっていくのか? 現地取材をもとに新たなテロリスト像を提示する力作ノンフィクション! 『テロリストの誕生』国末憲人著

テロリストの誕生

ーーイスラム過激派テロの虚像と実像

国末憲人 著

 2015年から16年にかけてフランスとベルギーで相次いで起きた下記の四つのテロは、世界に大きな衝撃を与えました。
▼辛辣な風刺で知られる週刊紙の編集部が標的となった「シャルリー・エブド襲撃事件」(同時に起こったユダヤ教スーパー襲撃事件と合わせて17名が死亡)
▼街角のカフェや劇場が襲われ130名の犠牲者を出した「パリ同時多発テロ」
▼EUの拠点で空港・地下鉄が狙われ32名の犠牲者を出した「ブリュッセル連続爆破テロ」
▼海岸沿いの遊歩道を散策する86名の生命が奪われた「ニース・トラック暴走テロ」

 これらのテロはいずれも「イスラム過激派」によるものと報じられましたが、犯人側が死亡していることもあり、現在にいたるまで凶行の全体像が解き明かされたとはいえません。本書は朝日新聞の外信部で長く現地取材にたずさわってきた著者が、欧米社会を震撼させたこれらのテロの深層に迫ったノンフィクションです。
 多くは欧州で生まれ育ち、一度は欧米社会の価値観になじんだ若者たちが、どのようなプロセスを経て自身の命を犠牲にすることすら厭わないテロリストになっていったのか。著者は丹念な取材と多角的な分析によって、人がテロリストになっていく過程を浮き彫りにしていきます。
 本書には注目すべき記述が数多くありますが、なかでも重要なのは、彼らを凶行に駆りたてたのは信仰心や思想信条ではなかったという指摘です。
 本の冒頭で著者は、「テロに関しては、これまで『貧困こそが過激派を生み出す』『テロの背景にはイスラム教徒への差別がある』といった俗説が広く信じられてきた。このような根拠に乏しい言説が流布される一方で、テロの根本的な原因である過激派ネットワークの実態はしばしば見過ごされた」「社会の問題を解決しないとテロもなくならないと思うなら、テロリストの論理の術中にはまる」と述べています。
 本書では、宗教組織ではなく犯罪組織とテロ集団との関係性を指摘する興味深い研究も紹介されています。
テロという異常な現象はどのようして起きるのか。そして、テロの背後にはどんな人間がいるのか。本書はこれまでにないテロリスト像を提示する刺激的な一冊といえます。

(担当/碇)

著者紹介

国末憲人(くにすえ・のりと)

朝日新聞ヨーロッパ総局長。1963年岡山県生まれ。1985年大阪大学卒。1987年パリ第2大学新聞研究所を中退し、朝日新聞社に入社。パリ支局員、パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長などを経て現職。著書に『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(以上、草思社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(以上、新潮社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『ポピュリズムと欧州動乱』(講談社)などがある。

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加齢はパフォーマンスの「敵」ではなく「味方」だった! 『アスリートは歳を取るほど強くなる』ジェフ・ベルコビッチ著

アスリートは歳を取るほど強くなる

ーーパフォーマンスのピークに関する最新科学

ジェフ・ベルコビッチ 著 船越隆子 訳

ここ数年の年長アスリートの活躍には目を見張るものがあります。2019年は4月にイチロー選手が45歳で引退しましたが、阪神の福留孝介選手は42歳でも活躍中。サッカーの三浦知良選手にいたっては52歳で現役です。またテニスでは、30後半のフェデラーとナダルが、トップ争いをもう何年も続けています。普通に考えれば、若い方が身体のパフォーマンスは高いはずです。しかし、これらの現状を見ると事実は逆に思えてきます。つまり、歳を取るほどパフォーマンスは高くなるのではないか、と……
本書はまさに、「アスリートは歳を取るほど強い」ことを、科学的に正しいと明らかにするものです。トップの年長アスリートがどのような訓練、回復法、食事を行っているのか取材し、彼らが熟年になっていっそう活躍を続ける謎に迫ります。選手だけではなく、スポーツ科学者や心理学者らまで、最新の科学的見地を踏まえたさまざまな知見が盛り込まれています。そこには従来の常識を覆すようなものも。
“アスリートの身体は最新科学の実験場”、という言葉が出てくるように、本書のいくつかの技術はプロ向けです。しかし一方、「最もワクワクするのは、実現の兆しが見えかかっているあっと驚くような新しい小道具や、医学的な奇跡に対してではない。僕たちがいま利用できる知識なのだ」と著者がいうように、素人でも意識すれば参考にできることこそ重要であり、それが本書の主役です。これらを取り入れることで、加齢は私たちにとってパフォーマンスを向上させる「武器」となるのです。また、ドナルド・トランプの「身体はバッテリーのようなものだと信じているから運動はしない」という言葉を受けて、「身体はバッテリーではなく銀行であり、運動はローンだから、貸せば貸すほど利息がついて返ってくる」という言葉も出てくるように、運動することは老後に向けて身体の「利息」を溜めておくことにもなるのです。
ここで一つ、「速さ」に関する内容を紹介します。常識的には、アスリートは若いほど身体スピードが速く、したがって試合でも有利に立ち回れることになります。ところが、本書に登場する、アメリカの女子サッカー選手で2015年になでしこジャパンを完膚なきまでに叩きのめしたあのカーリー・ロイドは、なぜか身体のスピードを「遅くする」ためのトレーニングを行っていたのです。実はそこに、歳を取ると有利になることと深い関係があるのですが、その詳細が気になる方は、ぜひ本書をお読みいただければと思います。
歳を取るほどスポーツが上達することは、プロにはもちろん朗報ですが、そうでない人にも同じぐらい重要なことです。それは人生100年と言われる時代に、これからの長い人生において老いるほどにスポーツが上手くなるとしたら、それほど明るい未来はないからです。それを現実にしたいと真剣に考える人に、ぜひお手に取っていただきたいと思います。

(担当/吉田)

著者紹介

ジェフ・ベルコビッチ

ジャーナリスト。『New York times』, 『GQ』への寄稿、『Forbes』シニアエディターを経て、ビジネス誌『Inc.』のサンフランシスコ支社長。科学技術やIT経営者関係を中心に担当している。

訳者紹介

船越隆子(ふなこし・たかこ)

1957年徳島県生まれ。東京大学文学部英文科卒業。訳書に、『夕光の中でダンス―認知症の母と娘の物語』(オープンナレッジ)、『ブレイキング・ポイント』(小学館)など。スポーツ観戦が好きで、特にサッカーファン。

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『天井桟敷の人々』『勝手にしやがれ』などから20世紀の映画史を俯瞰『山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる』山田宏一著

山田宏一映画インタビュー集 映画はこうしてつくられる

山田宏一著

 本書は映画評論家・山田宏一氏が19人の映画人にインタビューしているが、そのテーマはさまざまである。まったく無名の人(ルネ・リシティグ=修復・編集、サム・レヴァン=スチールマン・肖像写真家)などから高名なジャン゠リュック・ゴダール(監督)、キム・ノヴァク(ハリウッド女優)などまで多彩である。この19人の人選は偶然的なものであるが、また山田宏一氏の入念な人選でもあるのだろう。『映画はこうしてつくられる』というタイトルには、20世紀の芸術である映画がこうしてつくられてきたという各種スタッフ、俳優、監督、製作者といった多方面からの証言を集めて、できるだけ現場の目で、立体的に浮き上がらせようとする氏の実証的なアプローチ、ドキュメンタリストとしての一貫した手法が見て取れる。そしてそれは成功している。こういう形でしか映画史をとらえることができないのだという優れた方法論である。
 本書で触れられている主なテーマは以下のようなものである。各人がオーバーラップしてふれられている
●ジャン・ルノワール監督の映画づくり(ピエール・ブロンベルジェ=ルノワールの戦前からのプロデューサー、サム・レヴァン=ルノワール映画のスチールマン、ルネ・リシティグ=晩年のルノワール作品の記録・編集)。『大いなる幻影』『ピクニック』など
●『勝手にしやがれ』とゴダールの演出術(ラウル・クタール=『勝手にしやがれ』ほかゴダール映画のキャメラマン、ジャン゠ポール・ベルモンド=『勝手にしやがれ』の主演俳優、アンナ・カリーナ=初期のゴダール映画の主演女優・元夫人、ピエール・ブロンベルジェ=初期のゴダール映画のプロデューサー・発掘者の一人、サミュエル・フラー監督=『勝手にしやがれ』のゲスト出演者)。『女は女である』『はなればなれに』など。
●名作『天井桟敷の人々』はどのようにつくられたか(マルセル・カルネ=『天井桟敷の人々』の監督、アレクサンドル・トロ―ネル=『天井桟敷の人々』の美術監督)
●フランソワ・トリュフォー監督の映画づくり(クロード・ミレール監督=トリュフォーに心酔する監督、マドレーヌ・モルゲンステルヌ=元トリュフォー夫人、シャルル・アズナヴール=『ピアニストを撃て』の主演俳優、ピエール・ブロンベルジェ=トリュフォーの初期の映画のプロデューサー・発掘者の一人)『大人は判ってくれない』『ピアニストを撃て』など。
●左岸派やヌーヴェルヴァーグ周辺の人びと(アラン・レネ=いわゆる左岸派の代表格の監督、ルイ・マル=少し上の世代のヌーヴェルヴァーグの先駆け監督、クロード・ルルーシュ=少し下の世代の監督)『死刑台のエレベーター』『二十四時間の情事』など。
●ニコ・パパタキスがやっていたサンジェルマンデプレのミュージックホールの思い出(イヴ・ロベール=俳優・監督、マルセル・カルネ監督、ルイ・マル監督などがボリス・ヴィアンや、ジャック・タチなどが出ていたアヴァンギャルドな店の雰囲気と1950年代のパリの文化シーンを語る)
他にも話題はたくさん出てくるが20世紀の映画の歴史を画した名作たち『大いなる幻影』『天井桟敷の人々』『勝手にしやがれ』などが語られることで映画づくりの変遷が期せずしてよく見えてくる。
もはや21世紀の映画は別のものに変質して新たな位相に達しているかもしれない。ただ20世紀に発展した映画の表現はいまだ古典としての価値を持っている。本書は「映画とは何か」「映画づくりとは何か」の本質へ真っ直ぐに向かっていく著者の長編評論として読んでいただきたい。これだけ意を尽くしたインタビューは本国フランスにもないと思う。

(担当/木谷)

著者紹介

山田宏一(やまだ・こういち)

映画評論家。1938年、ジャカルタ生まれ。東京外国語大学フランス語科卒業。1964年~1967年、パリ在住。その間「カイエ・デュ・シネマ」誌同人。著書に『[増補]友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ誌』『〔増補]トリュフォー、ある映画的人生』『ゴダール、わがアンナ・カリーナ時代』『ハワード・ホークス映画読本』『ヒッチコック映画読本』『映画とは何か』『何が映画を走らせるのか?』『森一生 映画旅』(山根貞男と共著)『キン・フー武侠電影作法』(宇田川幸洋と共著)『ヒッチコックに進路を取れ』(和田誠と共著)『ジャック・ドゥミ&ミシェル・ルグラン シネマ・アンシャンテ』(濱田高志と共著)など。訳書に『〔定本〕映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(蓮實重彦と共訳)など。1987年、フランスより芸術文化勲章シュバリエ受勲。1991年、第1回Bunkamuraドゥマゴ文学賞(『トリュフォー、ある映画的人生』に対して)。2007年、第5回文化庁映画賞(映画功労表彰部門)。2017年、第35回川喜多賞受賞。

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現在の文明はどのような形で崩壊するのか? フランスでベストセラーとなった警世の書! 『崩壊学 人類が直面している脅威の実態』パブロ・セルヴィーニュ/ラファエル・スティーヴンス著

崩壊学ーー人類が直面している脅威の実態

パブロ・セルヴィーニュ著 ラファエル・スティーヴンス著 鳥取絹子訳

 異常気象を伝えるニュースで「数十年に一度の」というフレーズが頻繁に使われ始めたのはいつごろからでしょうか。いまや異常が「通常」となった感もありますが、この現象は日本にとどまりません。昨年から今年にかけてヨーロッパ各地でも熱波や豪雨、洪水が頻繁に起こり、多くの人々が地球の歯車が狂いだしたのでないかという危惧を抱くようになりました。2015年にスイユ社より刊行されていた本書に注目が集まり、フランスでベストセラーに躍り出た背景には、そのような背景があります。
 この本の原題は“Comment tout peut s’effondrer:Petit manuel de collapsologie à l’usage des générations présentes”で、直訳すれば「こうしてすべてが崩壊する:現世代のための崩壊学ハンドブック」という意味になります。「崩壊学(collapsologie/コラプソロジー)」というのは、著者たちの造語で、私たちの現代文明が近い将来(現世代が生きているあいだ)に崩壊する可能性が高いことを膨大なデータや指標もとに予測し、その前提の上に立って対応策を考えようとする学際的な学問です。著者は「崩壊」について「人口の大半に(法的な枠組では)衣食住やエネルギーといった生活必需品が供給されなくなるプロセス」であると定義しています。
 私たちの危機意識は異常気象にじかに結びつく地球温暖化に向けられがちですが、本書では地球温暖化の問題にとどまらず、エネルギーの枯渇(とくにオイルピークの問題)、人口問題、金融システムの脆弱性、生物多様性の喪失……といったさまざまな角度から、私たちが直面している危機の実態を明らかにしています。本書には数多くの驚くべき指摘がありますが、特に衝撃的なのは、仮に人類が現在抱えている問題を克服できる新技術を生み出すことができても、現在の肥大化した社会システムにおいては、社会学でいう「ロック・イン現象」が働いて改革が進まない、という指摘です。たとえ再生可能エネルギーに可能性が見えても、それによって莫大な資金が投資されて運営されている石油精製施設や原子力関連施設を放棄することはできない、ということです。
 過去にも栄華を誇った多くの文明が崩壊の時を迎えましたが、それはいずれも「ある地域」に限定された出来事でした。ですが、今日の世界は「グローバルなシステム系リスク」によって覆われていて、供給や物流のささいな断絶ですら巨大なドミノ現象を引き起こされる可能性があります。非常事態が避けられないのであれば、それをどう「人間的に切り抜ける」かを考えるべきだというのが著者たちの主張で、その点で本書はいわゆる終末論とは一線を画しています。危機を足掛かりにどう「より良い未来」を構築できるか。私たちは何から変えていけばいいのか。これからの時代を生きるすべての方に読んでいただきたい一冊です。

(担当/碇)

著者紹介

パブロ・セルヴィーニュ

1978年ヴェルサイユ生まれ。農業技師で生物学博士。崩壊学とトランジション、環境農業、相互扶助の専門家。著書に『危機の時代のヨーロッパで食を供給する』(未訳、2014年)などがある。

ラファエル・スティーヴンス

ベルギー出身。環境コンサルタント。社会環境システムのレジリエンスの専門家。環境問題の国際的コンサルタント組織「グリーンループ」の共同創設者。

訳者紹介

鳥取絹子(とっとり・きぬこ)

翻訳家、ジャーナリスト。主な著書に『「星の王子さま」 隠された物語』(KKベストセラーズ)など。訳書に『私はガス室の「特殊任務」をしていた』(河出文庫)、『巨大化する現代アートビジネス』(紀伊國屋書店)、『地図で見るアメリカハンドブック』『地図で見る東南アジア』『地図で見るアフリカ』(以上、原書房)など多数。

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「大陸への雄飛」という禁断感情が解かれるとき。 『旅行ガイドブックから読み解く 明治・大正・昭和 日本人のアジア観光』小牟田哲彦 著

旅行ガイドブックから読み解く 明治・大正・昭和 日本人のアジア観光

小牟田哲彦 著

 本書は戦前から現在まで大量に刊行された外国おもにアジアへの旅行ガイドブックを丹念に読み解いた本で、旅行や鉄道の愛好家である著者が紙上旅行を企てているかのように読むことができる。実に楽しげであり、宮脇俊三の紀行エッセイ研究家ならではの面白さに満ちている。どんなところに泊まってどんなものを食べるか。汽車や船を乗り継いでどこまで行けるか。通貨や言語はどうするか。そういった鉄道・旅行マニアの最大の関心事によく焦点が合わさっており、戦前の中国大陸の緊迫した歴史情勢にはあまり関心がないようでもある。
実はそこがかえって面白いのである。本書の面白さのいちばんの点はこの類書には見られない、言ってみれば無邪気ともいえる叙述や分析の面白さである。
「キーセン観光」や「日露戦跡ツアー」に触れることは今やタブーであり、「ハルピンのロシアダンサー」にも配慮しなくてはならない。華北を抑えていた日本軍の軍政下で観光旅行はどのようにできたか、通貨やパスポートはどうなっていたかなどは、歴史学者はあまり教えてくれない。いまだにのっぴきならない政治的な問題が絡んでいるからである。ところが本書の著者はきわめてそういった事象にはニュートラルであり、闊達である。もう戦後は終わったのではないかという古くからある言葉を思い出す。
 金正恩は先日のハノイ会談の時、平壌からベトナムのドンダンまで鉄道で移動した。著者はこのルートを実際に全行程乗っているそうである。4000キロ、65時間、二日半かかる長距離をなぜ金正恩は鉄道で移動したのかはいまだに謎であるが、そのこととは直接関係なくとも、鉄道マニアはこの移動した鉄道の路線と乗り換え、列車や軌道のことには関心があるのである。戦前の朝鮮や満州、北支などにあった日本の鉄道にはいまだに使われているものもあり、歴史の継続性に気づかされる。
 日本人が明治・大正・昭和の時代に「大陸への雄飛」なり「アジアの解放」なりを叫んで出て行った大陸にどんな地理感覚を持っていたか、旅行感覚を抱いていたかを知るためには格好の本である。戦後日本人は内地に逼塞してアジアへのかかわりを持たないできたが、
もっと大らかに世界を見ることを思い出させてくれる一書でもある。

(担当/木谷)

著者略歴

小牟田哲彦(こむた・てつひこ)

昭和50年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒業、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程単位取得退学。日本及び東アジアの近現代交通史や鉄道に関する研究・文芸活動を専門とする。平成7年、日本国内のJR線約2万キロを全線完乗。世界70ヵ国余りにおける鉄道乗車距離の総延長は8万キロを超える。平成28年、『大日本帝国の海外鉄道』(東京堂出版)で第41回交通図書賞奨励賞受賞。ほかに『鉄馬は走りたい―南北朝鮮分断鉄道に乗る』(草思社)、『鉄道と国家―「我田引鉄」の近現代史』(講談社現代新書)、『去りゆく星空の夜行列車』(草思社文庫)など著書多数。日本文藝家協会会員。

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