草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

文明発展の基礎たる「砂」は、いま密かに姿を消し始めている 『砂と人類 いかにして砂が文明を変容させたか』ヴィンス・バイザー 著 藤崎百合 訳

砂と人類

ーーいかにして砂が文明を変容させたか

ヴィンス・バイザー 著 藤崎百合 訳

今年のオリンピックのメイン会場として注目される新国立競技場は、木をふんだんに利用したように見える外観が話題だが、その化粧の下にある実態は鉄と大量のコンクリートである。こういった巨大建造物はもちろん、住宅のような木造建築であってもその土台の基礎にはコンクリートが使われる。そのコンクリートの最も重要な原料こそが「砂」である。
それだけではない。いまこのテキストを読むのに使用している端末のシリコンチップ、あるいは携帯電話の液晶ガラスもまた、砂からできている。さらに、エネルギーの地政学的バランスを変えうる要素として注目されるシェールオイルも、その採取のためには水だけでなく砂が不可欠である。つまり私たちの生活・文明は、砂なくしては成り立たないのである。しかし、この普段その存在すら考えることのない砂は、ひそかに地球上から姿を消し始めている。

本書は、地上で最も重要な個体である砂と、人類の関わりを描いたノンフィクション巨編である。原題の『The World in a Grain』は、詩人ウィリアム・ブレイクの『無垢の予兆』の冒頭、「ひと粒の砂に世界を見る」に由来する。著者のヴィンス・バイザーは、技術・社会問題等に詳しいジャーナリストで、大学時代には中東研究を先行している。彼が調べた膨大な数的データを縦糸に、隠ぺい体質の強い砂企業や砂マフィアが潜む街への捨て身すれすれの取材を横糸に織りなされた本書から浮かびあがるのは、砂が文明を変革し、さらにより砂を利用しつづけるように進んできた、人間の飽くなき欲望の歴史である。

第一部では、コンクリート・ガラスをテーマに、近代から現代における建築・都市と、道路の発展の歴史が砂を通して語られる。今の私たちの生活基盤が、いかに砂に依存しているかがお分かりいただけるだろう。
続く第二部では、デジタル時代をハード面で支えるシリコンチップ、シェールオイル採掘、さらには中国での止まない建設ラッシュと、ドバイにおける「養浜」についても触れられている。現代生活の利便さ・経済の加速を支えているのもまた砂なのである。
本書では、インドなどに台頭してきた砂マフィアの存在にも触れられている。この大きくても2ミリほどの小さな物体をめぐって、人命が奪われることさえあるのだ。
砂をめぐる状況は、環境的な面、経済活動の面からみても、かなりシリアスな事態に置かれているのだ。

「石川や 浜の真砂は 尽くるとも 世に盗人の 種は尽くまじ」という歌が日本にはあるが、本書を読むと、本当に砂泥棒の前に砂そのものが先に消えてしまいかねない実情がわかる。本書が、砂という「地球で最も重要な個体」の存在が注目されるきっかけになれば幸いである。

(担当/吉田)

著者紹介

ヴィンス・バイザー

ジャーナリスト。『WIRED』、『ハーパーズ』、『アトランティック』、『マザー・ジョーンズ』、そして『ニューヨーク・タイムズ』をはじめとする雑誌や新聞に寄稿している。カリフォルニア大学バークレー校の出身で、現在ロサンゼルスで暮らしている。

訳者紹介

藤崎百合(ふじさき・ゆり)

高知県生まれ。名古屋大学理学部物理学科卒業。同大学大学院人間情報学研究科にて博士課程単位取得退学。技術系企業や図書館での勤務を経て、技術文書や人道支援活動に関する資料の翻訳、字幕翻訳などに携わってきた。近年は、科学や映画に関する書籍の翻訳が中心となっている。訳書に『すごく科学的』、『ディープラーニング革命』、『生体分子の統計力学入門』(共訳)などがある。

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欺瞞に満ちた「一国二制度」によって呼びさまされた 香港人意識(=本土意識)をキーワードに香港危機の本質を読み解く!『香港はなぜ戦っているのか』李怡(リー・イー)著 坂井臣之助 訳

香港はなぜ戦っているのか

李怡(リー・イー)著 坂井臣之助 訳

 「逃亡犯条例」の改正に端を発する香港の騒乱が世界中の注目を集めています。なぜ、香港の人々はこれほど激しく抵抗しているのか。そして、その背景にはどんな社会状況があるのか。本書は香港在住七十年のベテランジャーナリストが、中国への返還以降、香港の人々を苛んできた「一国二制度」のいびつな実態を暴くとともに、中国政府の圧迫によって生まれた「本土意識(香港人意識)」の高揚にも光を当てるタイムリーな一冊です。
 著者の李怡(リー・イー)氏は一九三六年生まれで、政論雑誌の編集長として三十数年、そのあとはコラムニストとして香港社会や中国政府の動向を観察してきた人物です。香港人のエスニックな感情を理解するうえで不可欠な広東語を自在に操り、その皮膚感覚に裏打ちされた筆致は鋭く、時にユーモラスでもあります。
 著者が、現在の香港の状況を読み解くキーワードとして繰り返し使っているのが「本土意識」という言葉です。「本土意識」とは、香港をみずからの「ふるさと」と考え、香港の現状(法治主義)を尊重し、広東語の文化を愛し、香港の利益を優先するローカリズム(地域主義)の意識である――と、本書の訳者であり、やはり多年にわたり香港を取材してきたジャーナリストの坂井臣之助氏は本書の「解説」で述べています。本書では、香港で「本土意識」が台頭するいきさつから、本土派の中の過激派と穏健派の対立、旧香港人と新香港人の対立、中国に傾斜する香港の政治・経済の現況、親・中国団体と裏社会との関係など、多岐にわたる論点から本土意識の在りようを紹介しています。
 本書をお読みいただければ、香港の現在の状況が突発的に発生したものではなく、多年にわたって香港の人々が被ってきたさまざまな苦難が臨界点を超えた結果であることがご理解いただけるのではないかと思います。著者は日本の読者に向けた序文を、「みずからの力のほどもわきまえずに自由、法治の保持を追求するこの小さな土地に関心を払ってくださったことに感謝したい」という言葉で結んでいます。香港の人々が現在、直面している問題は、いずれ日本人が直面する問題なのかもしれません。その意味でも本書は今こそ必読の一冊といえます。

(担当/碇)

著者紹介

李怡(リー・イー)

 1936年中国広州市生まれ。本名・李秉堯,ペンネームは舒樺、齊辛など。香港の時事評論家、コラムニスト。1956年から文筆・編集活動に入る。1970年に政論月刊誌『七十年代』(後に『九十年代』に改称)を創刊、編集長を28年間務める。1998年に雑誌廃刊後、日刊紙『蘋果日報』の社説やコラム「世道人生」を執筆。また香港の公共放送(RTHK)の番組「一分間の閲読」を主宰し、今日に至る。2013年に出版した本書(原題『香港思潮』)は香港各界から高く評価される。他に『最も悪い時代、最も良い時代』『世道人生之八十自述』など著書多数。

訳者紹介

坂井臣之助(さかいしんのすけ)

1941年東京生まれ。慶應大学経済学部卒業。共同通信社入社。2度の香港特派員、編集委員兼論説委員を歴任。共著に『香港返還』(大修館書店)、著書に『直視台湾』(広角鏡出版社)、訳書に『超限戦』(共同通信社、後に角川新書)、『中国現代化の落とし穴』『中央宣伝部を討伐せよ』(以上、草思社)がある。

 

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大いなる謎への驚きと、人間の生き方への示唆 『世界でいちばん変な虫 珍虫奇虫図鑑』海野和男 写真と文

世界でいちばん変な虫

珍虫奇虫図鑑

海野和男 写真と文

 昆虫は名前をつけられたものだけでも120万種ぐらいいて(一説には100万種ともいう)、毎年、新種が発見され続けており、地球上でもっとも繁栄した生物といわれている。多種多様で無限に近い変容、変種が生み出されている。
本書では、われわれの周囲にいる「普通の虫」ではなく、いわゆる誰でも見ればわかる「珍虫奇虫」を取り上げている。昆虫が変容の幅が大きく、想像を絶する形になるのは、体長が平均5ミリぐらいと小さくて、さまざまに微小な環境(ニッチェ)に適応して生きていけるからである。世代交代も早くて進化適応がどんどんすすみ、その環境に特化した形になる。ただテングビワハゴロモの派手な長い突起のように(本書P30~33)、なぜその長い突起が必要なのかがわからない(解明されていない)ことも多い。いまだ手つかずの謎が多い生物でもある。本書ではその謎が謎を呼ぶ不思議な形態・生態を著者苦心の写真で味わってもらいたい。19世紀のウォーレスやダーウィンなどの博物学者たちの素朴な驚きを追体験していただきたい。
 もう一つの読み方は昆虫には人間の生き方への示唆があるという側面である。
 例えば本書P96とP97の見開きページに取り上げられている「サガペド」と「オドリバエ」の解説を読んでみよう。
 サガペドはキリギリスの一種でヨーロッパから西アジアに生息する体長10センチぐらいの虫である。小見出しには「獰猛で、メスだけで勝手に生きている」とあるように単為生殖の昆虫で、メスだけで繁殖する。オスは見つかっていない。交尾の相手を見つける必要がないので、翅も退化し、飛ぶことができず行動範囲も狭い。単為生殖だから繁殖も簡単だろうと思うと、実はこのサガペドは絶滅の危機に瀕しているという。生殖が簡単だからいいというわけではないらしい。翅を使って飛び回り、生息域を広げ、繁栄してきたのが昆虫なので、これに反した生き方には何か無理があるらしい。これは何を意味しているのか。
 オドリバエというのは1センチぐらいのハエで、もっと小型の昆虫をエサにしている肉食のハエである。このオドリバエはオスがエサになる獲物を捕らえるとそれをメスにプレゼントすることで交尾ができることになる。掲載されている写真を見ると、メスがプレゼントされた獲物を食べている間にオスは交尾している。メスは基本的に獲物をとることをしないという。オスが交尾の代償として持ってくる獲物を食べるだけである。これだけでも面白いが、オドリバエのオスの中には脚から糸を出して獲物をラッピングする種類がある。ところがそのラッピングした獲物の中身が空の場合があるそうだ。メスはその空のラッピングされた獲物を受けとっても交尾する。「こうなると、贈り物はメスの栄養補給にはならないから、交尾のための儀式的贈り物ということになる。プレゼントをもらったら、中には何も入っていない。これで満足するというのもおかしな話だと思うが、儀式というものはそういうものかもしれない」と著者は書いている。このサガペドとオドリバエの二つの事例だけでも人間の男女関係への示唆に富んでいる、というのは考えすぎだろうか。

(担当/木谷)

著者紹介

海野和男(うんの・かずお)

1947年東京生まれ。昆虫を中心とする自然写真家。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学ぶ。アジアやアフリカで昆虫の擬態写真などを長年撮影。著書『昆虫の擬態』は1994年、日本写真協会年度賞を受賞。主な著書に『蝶の飛ぶ風景』『昆虫 顔面図鑑』、また草思社より『図鑑 世界で最も美しい蝶は何か』『甲虫 カタチ観察図鑑』『世界のカマキリ観察図鑑』『海野和男の蝶撮影テクニック』など。日本自然科学写真協会会長、日本動物行動学会会員など。海野和男写真事務所主宰。公式ウェブサイトに「小諸日記」がある。

https://www.goo.ne.jp/green/life/unno/

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ネットで世界中の情報にアクセスできる時代に、なぜあえて旅に出る必要があるのか。スウェーデンの人気作家による魅惑の旅論!『旅の効用』ペール・アンデション著

旅の効用
人はなぜ移動するのか
ペール・アンデション 著 畔上司 訳

 本書はスウェーデンの作家・ジャーナリストであるペール・アンデションの著作のはじめての邦訳です。同国の著名な旅行雑誌『ヴァガボンド』の共同創業者としても知られる著者は、若いころからインドを中心として世界各地をバックパッカーとして旅してきました。2015年に刊行した最初の著作(スウェーデン人女性に恋したインド人男性がスウェーデンまで自転車での旅をして結婚する、という内容。未邦訳)が母国スウェーデンで35万部超という驚異的な大人気を博したのち、2017年に出版されたのが本書です。今回の本ではこれまでの自身の旅の記憶を丁寧にたどりながら、「人が旅に出る理由」をさまざまに考察しています。
 おカネも時間も労力もかかり、時に危険とも隣り合わせなのに、なぜ私たちは旅に誘われるのでしょうか。著者は、そもそも人類は遊牧民だったというところから話を始め、旅先での他者・異物との出会い、そして、そこで自分の中に生まれる新たな感覚にこそ至上の価値があると持論を述べています。不確実性の中に身を置くことで、人は自分の世界観・人生観をアップデートすることができるということです。前もって綿密に計画され準備された「ツアー」では、こうした旅の効用は生まれません。著者はジャック・ケルアックについて触れた箇所で「旅は、前もって予見可能であってはならず、ページを開いた瞬間の本のようでなければならなかった。旅人は、自分が今から何と出会うか、誰と遭遇するかを知っていてはならなかった」と書いています。検索サイトのアルゴリズムによって自分に最適化された情報にばかり晒されている現代人にこそ、旅が必要なのです。
 また著者は「旅とは、未知の音、噂、慣習と相対することだ。当初は不安になり心が混乱したとしても何とかなるものだ。旅に出れば、一つの問題にも解決法が何種類かあることを知って心が落ち着くようになる」とも書いています。「唯一の正解」を探そうと前のめりになりがちな現代人の視野を広げてくれるのが旅なのです。ネット上で世界中の情報にアクセスできる時代に、なぜ私たちは旅をする必要があるのか。本書はその理由を改めて確認できる一冊といえます。
(担当・碇)

著者紹介

ペール・アンデション

スウェーデンのジャーナリスト・作家。1962年、同国南部のハルスタハンマル生まれ。同国でもっとも著名な旅行誌『ヴァガボンド』の共同創業者。過去30年にわたってインドを中心に世界各地を旅する。現在ストックホルム在住。2015年刊行の前著がベストセラーになり、一躍人気作家となる。

訳者紹介

畔上司(あぜがみ・つかさ)

1951年長野県生まれ。東京大学経済学部卒。ドイツ文学・英米文学翻訳家。共著に『読んでおぼえるドイツ単語3000』(朝日出版社)、訳書に『5000年前の男』(文藝春秋)、『ノーベル賞受賞者にきく子どものなぜ?なに?』(主婦の友社)、『エンデュアランス号 シャクルトン南極探検の全記録』(ソニー・マガジンズ)、『アインシュタインの旅行日記』(草思社)などがある。

 

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ビル・ゲイツ絶賛。「啓蒙の理念」の重要性を説いた全米ベストセラー!『21世紀の啓蒙(上・下)』スティーブン・ピンカー著 橘明美+坂田雪子訳

21世紀の啓蒙(上・下)

理性、科学、ヒューマニズム、進歩

スティーブン・ピンカー 著 橘明美・坂田雪子 訳

 ビル・ゲイツ氏が「生涯の愛読書となる、新しい一冊」と激賞した全米ベストセラー、『21世紀の啓蒙』(原題:Enlightenment Now)の邦訳がついに刊行となります。ハーバード大学心理学教授である著者、スティーブン・ピンカーは、これまで数多くのベストセラーを著し、とくに前著『暴力の人類史』(青土社刊)は日本でも高く評価されました。そのピンカーが新作で中心に据えたテーマは「啓蒙主義の理念」。その背景にはポピュリズムの台頭や、社会の二極化があります。
 啓蒙主義の理念(理性、科学、ヒューマニズム、進歩など)は、今、かつてないほど大きな成功を収め、人類に繁栄をもたらしています。多くの人は普段、気に留めないかもしれませんが、世界中から貧困も飢餓も、戦争も、暴力も減り、人々は健康・長寿になり、知能さえも向上して、安全な社会に生きています。どれも、人類が啓蒙主義の理念を実践してきた成果です。
 にもかかわらず、啓蒙主義の理念は、今、かつてないほど擁護を必要としています。右派も左派も悲観主義に陥り、進歩の否定や科学の軽視が横行、理性的な意見よりも党派性を帯びた主張のほうが声高に叫ばれています。たとえば、過去を理想化して進歩を否定、自国の衰退を嘆いてみせ、自分こそが再び国を偉大にすると主張した政治家。環境問題を科学技術の発展で解決することを不可能と決めつけ、極端なまでの自己犠牲を人々に強いる活動家。さまざまなところに例を見出すことができるでしょう。

◆世界は決して、暗黒へ向かってなどいない

 このような誤った現状認識は、著者が専門とする心理学の言葉で言えば「認知のゆがみ」「認知バイアス」の一種です。ゆがんだ認知にもとづき判断・行動すると、悲惨な結果を招きます。私たちはどうすれば、正しく世界の現状を認識できるでしょうか。答えは「数えること」と著者は言います。「今生きている人が何人で、その中の何人が暴力の犠牲になっているのか」といったことを数え、それが過去から現在に向かい減っているのか増えているのかを見ること――。すなわち「データ」で世界をとらえ直すこと、それによって啓蒙の理念の実践が確実な成果を上げていると知ることが本書の目的です。本書は70以上のグラフで、さまざまな領域の過去から現在に至るデータを示していますが、そこに見られる改善ぶりに驚くとともに、そのために人類が傾けてきた努力の積み重ねに敬服することでしょう。
 世界は良くなってきたし、これからも良くなると考える十分な理由がある。このことを正しく認識し、世界を良くしてきたものは何かを知れば、世界をさらに良くする方法を正しく考えられるようになります。「世界は暗黒に向かっているから一度完全に壊れた方がマシだ」とか、「社会を悪化させているあいつらを排除しろ」といった煽動からも、距離を置いて考えることができるようになるでしょう。本書では、このような煽動を行う「反啓蒙主義者」の系譜や現状についても詳しく論じ、強く批判しています。本書はすべての読書人が読むべき、事実に基づいた「希望の書」です。

著者紹介

スティーブン・ピンカー

ハーバード大学心理学教授。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『良い文章とは(The Sense of Style)』(未邦訳)があり、最新の『21世紀の啓蒙』が10冊目になる。研究、教育ならびに著書で数々の受賞歴があり、2004年には米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に、2005年にはフォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」に選ばれた。米国科学アカデミー会員。『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』の語法諮問委員会議長も務めている。

訳者紹介

橘明美(たちばな・あけみ)

英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学卒。訳書にドミトリ・チェルノフ+ディディエ・ソネット『大惨事と情報隠蔽』(草思社、共訳)、ジェイミー・A・デイヴィス『人体はこうしてつくられる』(紀伊國屋書店)、フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』(太田出版)ほか。

坂田雪子(さかた・ゆきこ)

英語・フランス語翻訳家。神戸市外国語大学卒。訳書にドミトリ・チェルノフ+ディディエ・ソネット『大惨事と情報隠蔽』(草思社、共訳)、ロバート・I・サットン『スタンフォードの教授が教える 職場のアホと戦わない技術』(SBクリエイティブ)、クリストフ・アンドレ『はじめてのマインドフルネス』(紀伊國屋書店)ほか。

(担当/久保田)

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鉱物書の金字塔が、より鮮明に、より美しくなって登場 『愛蔵版 楽しい鉱物図鑑』堀秀道 著 門馬綱一 監修

愛蔵版 楽しい鉱物図鑑

堀秀道 著 門馬綱一 監修

鉱物書の金字塔にして、堀秀道氏の代表作である『楽しい鉱物図鑑』①②巻。本書は、これを1冊に合本、大判化し愛蔵版にしたものです。原書に使用したフィルムを高解像度スキャンし、判型を120%以上拡大した写真は、鉱物の表情・色味が驚くほど鮮明に再現されています。これらはすべて、堀氏自身の鉱物コレクションを撮影したもので、それゆえにここまでの美しさを表現することができました。テキストは、科学的な内容はもちろん、文学・歴史ほか、あらゆるジャンルから鉱物に関する知識がちりばめられ、知的に刺激されるものであると同時にユーモアに満ちており、読み物としても類まれなる傑作です。

1992年刊行の①巻「はじめに」では、鉱物は当時すでにある程度の市民権を得ていたものの、「これも一時の流行現象で、シャボン玉のように消えてしまうかも知れない」と述べ、鉱物趣味の定着はまだ遠いものと堀氏は感じていたようです。しかし、今の日本をみれば、見事に鉱物ファンが根付いています。それは、堀氏が2019年に亡くなるまで、あらゆる方面で日本における鉱物の普及に全力を尽くしてきた賜物です。鉱物趣味の会、「鉱物同志会」を設立したり、テレビ東京の番組「開運!なんでも鑑定団」で石の鑑定士を務めたりしました。東京国際ミネラルフェアの発起人の一人でもあります。そして、『楽しい鉱物図鑑』①②巻もそれを後押ししたことは、言うまでもありません。

①巻の刊行から27年、新しい鉱物の発見や、グループの再編など、鉱物界にも様々な変化がありました。今回の愛蔵版化にあたり、内容については基本的にオリジナルのテキストを残しつつ、堀氏が生前に改稿のために残していたメモをベースに、国立科学博物館研究員の門馬綱一氏により、科学的な内容を最新のものにアップデートしています。また、標本に関する情報等については、ご子息であり現在のホリミネラロジー店主である堀洋紀氏が監修しています。監修の門馬氏は、中学の時に秀道氏に出会い、以降個人的に、また鉱物同志会のアルバイト等で秀道氏の元に通い詰めていました。つまり、秀道氏の直接の弟子といってもいい人物なのです。堀秀道氏の思いを継ぐ洋紀氏・門馬氏によって、本書は現在における愛蔵版として生まれ変わることができました。門馬氏が「研究者として、標本商として、また一人の鉱物愛好家として、無数の鉱物を観察し、世界各地の鉱物産地をご自分の足で歩かれてきた堀秀道博士。その経験から紡ぎ出される鉱物の物語は、地球のロマンを教えてくれる」と語る本書は、鉱物書の1つの到達点であり、これを読まれた方が、秀道氏がそう望んでいたように、それぞれ「自らの鉱物学」を築いていかれることを心より願います。

(担当/吉田)

著者紹介

堀秀道(ほり・ひでみち)

1934年、東京生まれ。アマチュア鉱物界の泰斗、桜井欽一氏に師事し、中学校時代より鉱物を愛好する。北里大学化学科助手、モスクワ大学地質学部留学を経て、鉱物標本の販売および鑑定・研究の機関、「ホリミネラロジー」(旧・鉱物科学研究所)を設立。その所長として鉱物漬けの日々を送る。2019年1月3日、敗血症のため死去。長石の新種「ストロナ長石」をはじめ3種の新鉱物を自身発見、研究・発表し、これらの業績に「櫻井賞」を贈られている。その後も岩代石などを発見。また「東京国際ミネラルフェア」の開催に主導的な役割を果たし、アマチュア愛好会「鉱物同志会」の主宰、テレビ東京の人気番組『開運!なんでも鑑定団』の石の鑑定レギュラー、各地の博物館の開設協力など、日本における健全な科学趣味の普及に大きな貢献を残す。著書に『楽しい鉱物学』『堀秀道の水晶の本』(草思社刊)『鉱物 人と文化をめぐる物語』(ちくま学芸文庫、2017)など。訳書に『石の思い出』(フェルスマン著、草思社刊)、『合成宝石』(バリツキー著、新装飾刊)などがある。理学博士。

監修者紹介

門馬綱一(もんま・こういち)

1980年生まれ。中学生の頃よりホリミネラロジー(旧・鉱物科学研究所)に通い、『楽しい鉱物図鑑』を愛読。2009年に東北大学大学院理学研究科博士課程を修了し博士(理学)となる。2011年より国立科学博物館研究員。専門は鉱物学、結晶学。研究に携わった新鉱物に「千葉石」「房総石」などがある。著書に、松原聰・宮脇律郎共著『図説 鉱物の博物学』(秀和システム)、 監修書に『大迫力バトル鉱物キャラ超図鑑』(西東社)、『KOUBUTSU BOOK 飾って、眺めて、知って。鉱物のあるインテリア』(ビー・エヌ・エヌ新社)などがある。

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世界のリングで活躍する名選手が「職業としてのプロレス」の深奥をつづる!『プロレスラーは観客に何を見せているのか』TAJIRI著

プロレスラーは観客に何を見せているのか

TAJIRI著

 本書は、世界最大のプロレス団体「WWE」で長年にわたって活躍し、ゼロ年代には全米で「イチローより有名な日本人」と言われた名レスラーが、プロレスというエンターテインメントビジネスの魅力と奥深さを語り尽くした一冊です。
 本書の冒頭で著者は、「プロレスとはキャラクター産業である」というWWE総帥ビンス・マクマホンの言葉を引用しています。この言葉にこそプロレスというジャンルの真理が込められているという著者ですが、興味深いのは「プロレスにおけるキャラクターは、その人がもともと持っている資質を活かしたものでないとうまくいかない」という指摘です(著者は稀代の人気選手ジョン・シナの「ラッパーキャラ」を例にあげて、ブレイクするキャラと不発に終わるキャラの違いを論じています)。
 さらに著者は、プロレスのリングにおいて選手が繰り出す技は「自身のキャラクターを紹介するためのツールにすぎない」と断言しています。技自体を披露することを目的とした試合は、それがどんなに派手な技であっても見る者の心に残らないのです。「(プロレスラーが)お客さんに見せるものは技自体ではなく、あくまでもその技を通して見えてくるプロレスラーの『キャラクター』と、その『心情』なのだ」という記述は、多くのプロレスファンにとって目からウロコではないでしょうか。プロレスラーにはオリジナリティのある完成度の高い技が必要不可欠ですが、その技を通してその選手のキャラクターが観客に伝わらなければまったく意味がないのです。観客に明確に「伝える」ための方法論を、本書ではサイコロジーという言葉を使って詳しく解説しています。
 かつて、これほどまでに深く重層的にプロレスというジャンルの特質を語った本はありませんでした。WWEからインディペンデント団体まで、世界中でさまざまなリングに上がり、またみずから団体をプロデュースした経験も豊富な著者だからこそ書きえたプロレス論といえます。プロレスファンのみならず、エンターテインメントや表現に関心のあるすべての方にぜひお読みいただきたい一冊です。

【本書より】
〈プロレスは「人に見られること」が大前提なので、「見るに値する何か」を提示できないプロレスラーには存在理由がない。〉

〈WWEのプロレスは、サイコロジーにより徹底的に整備されている。緻密で合理的なサイコロジーによって、無駄な要素は一切排除される。時にはそうではない作品もあるのだが、少なくとも「すべて、そうあるべきだ」という方向性がつねにある。
そこでは映画やマンガと同様に「意味のないシーンが一瞬でもあってはならない」という、エンターテインメントと呼ばれるジャンルの基本が徹底されているのだ。〉

〈全員ミーティングで、毎回ビンスが最後に決まって話していたのは「表情でプロレスをしろ!」ということだった。両手で四角いフレームを作り、それを顔の前で交互に動かし、「マネー・イズ・ヒア!」
「プロレスというビジネスでは、マネーは『ここ(顔の表情)』によって生み出されるんだ!」というのがビンスの最重要なプロレス哲学の一つだった。〉

〈いま、プロレス界には「楽しいプロレス」という概念が蔓延している。もちろん、楽しいという打ち出し方も「一つの正解」で、それを否定するつもりは微塵もない。(中略)しかし、プロレスを見せる側までその概念に染まってしまって、その範疇から外れたものを提供することにビビッてしまってはいけない。プロレスというジャンルはもっと奥深いものなのだ。〉

(担当/碇)

著者紹介

TAJIRI(タジリ)

プロレスラー。1970年生まれ。1994年IWAジャパンでデビュー。大日本プロレスを経てメキシコへ渡ったのち、米国ECWでトップ選手に。2001年にWWEに入団し、長きにわたって「日本人メジャーリーガー」として活躍。帰国後はハッスルでの活動を経て、SMASH、WNCで選手兼プロデューサーとして団体を率いる。その後、WRESTLE-1などを経て、現在は世界各地のさまざまなリングに上がっている。WWEクルーザー級王座、WWE世界タッグ王座、世界ジュニアヘビー級王座、GAORA TVチャンピオンシップなど、国内外で数多くのベルトを戴冠。著書に『TAJIRI ザ ジャパニーズバズソー』(マガジンハウス)、『TAJIRIのプロレス放浪記』(ベースボールマガジン社)がある。鍼灸師としても活動中。

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