草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

風で旅する、動物にくっつく、数千年も発芽の時を待つ……子孫繁栄を願い、タネたちはがんばっている! 『スイカのタネはなぜ散らばっているのか』稲垣栄洋 著 西本眞理子 絵

スイカのタネはなぜ散らばっているのか
――タネたちのすごい戦略
稲垣栄洋 著 西本眞理子 絵

 著者の稲垣氏は、過去に草思社で「身近な雑草のゆかいな生き方」(2003)、「身近な野菜のなるほど観察記」(2005)、「蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか」(2006)を刊行し、近年も、「弱者の戦略」(2014、新潮選書)、「たたかう植物」(ちくま新書、2015)など、植物や動物を時に擬人化したユニークなエッセイを多数刊行してきました。その稲垣氏が植物の「タネ」にしぼって、その不思議に迫ったのが本書です。

 昨今、「ウニはすごい、バッタもすごい デザインの生物学」「ざんねんないきもの事典 おもしろい!進化のふしぎ」など、生きもの本が人気ですが、本書もそうした“生命の不思議本”として読んでいただける本です。

 植物の生き残り戦略とは、つまるところ、「タネをいかに拡散するか」です。植物は移動できませんが、タネは移動できます。タネたちの「移動」への執念と知恵には、驚くばかりです。
 たとえば、オオバコのタネは靴の裏や車のタイヤにくっついて移動し、テッポウウリは時速200㎞もの速度で実からタネを長距離噴射、キク科の雑草のタネは綿毛を利用してスカイツリーより空高く飛行し、カエデのタネは2枚のプロペラで回転移動、スミレのタネは栄養豊富なゼリーを餌にしてアリに運ばせます。いったいどうやって、そのような移動の知恵を身につけたのでしょう。

 このほか、「柿のタネは丸いのに、なぜお菓子の柿の種は細長い?」「イチゴの表面のつぶつぶは、タネじゃなくて実!」「梅干しのタネもサクランボのタネも、じつはタネじゃない!」「ヒマワリのタネは、なぜ白と黒のシマ模様なのか?」などの、タネトリビアも満載です。
 
 ところで、本書のタイトルにもなっているスイカですが、なぜタネが実の中で散らばっているのでしょう。メロンやカボチャなどはタネが実の中心にまとまっているので、タネだけ取り除いて食べることができますが、スイカはそういうわけにはいきません。このあたりにスイカの戦略がありそうです(くわしくは本書で)。

 本書には、ほぼ全項目に、美しいボタニカルアートを掲載(約60点)。イラストレーターの西本氏は、日本植物画倶楽部会員で、朝日新聞に植物画を連載するなど、この道の大ベテラン。絵を眺めるだけでも楽しい本です。

(担当/貞島)

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)
1968年静岡県生まれ。静岡大学大学院農学研究科教授。農学博士。専門は雑草生態学。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省、静岡県農林技術研究所上席研究員などを経て、現職。著書に、『身近な雑草のゆかいな生き方』『身近な野菜のなるほど観察記』『蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか』(いずれも草思社)、『身近な野の草 日本のこころ』(筑摩書房)、『弱者の戦略』(新潮社)、『徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか』(東洋経済新報社)、『雑草キャラクター図鑑』(誠文堂新光社)など。

イラスト

西本眞理子 (にしもと・まりこ)
1955年兵庫県生まれ。日本植物画倶楽部会員。神戸大学教育学研究科修士課程修了(美術科教育)。兵庫県内の小中学校教諭を経て現在、岡山理科大学非常勤講師。NHK文化センター福山、公民館、植物園等で植物画とフランス語を教える。著書に『植物画 はじめての彩色レッスン』『花のポートレート春・夏』『花のポートレート秋・冬』『やさしく学ぶ植物画』(いずれも日貿出版社)など。また『日本カヤツリグサ科植物図譜』(星野卓二・正木智美著、平凡社)の絵を担当。

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トランプはなぜ韓国を「物乞いのようだ」と言ったのか 『韓国は消滅への道にある』李度珩 著

韓国は消滅への道にある

李度珩 著

 八月末の北朝鮮のミサイル実験後、日米電話会談でトランプ大統領は韓国大統領を「物乞いのようだ」と批判したという。北朝鮮に対話と融和的政策を求める文在寅大統領がアメリカに不信感もたらしていることがわかる。本書の冒頭で、退任する在韓米軍の司令官が著者に自分の命令は北のもう一人の司令官(金正日)に筒抜けだったことを述懐するエピソードが出てくる。韓国は米との同盟軍から作戦司令の権限を返還させることを目標にしているし、ソウル周辺の大規模の米軍基地を南に下げるように交渉している。また究極には米軍の韓国からの撤収ももくろんでいる。
 朝鮮戦争は1950年6月、米軍の軍事顧問団が撤退したすきを狙って、北からの侵攻で始まった。1953年、中国人民軍と北朝鮮軍と米軍との間で休戦条約が結ばれた。韓国は一方の当事者ではなかった。それから64年、この休戦状態は本質的に変わっていない。「自由民主主義」を国是として米国の支援の下に誕生した韓国と、「共産主義一党独裁」の北朝鮮が38度線で対峙しているのだ。軍事的空白が生まれるとたちまち北は南を飲み込みかねない。
 韓国の現在の国民はかなり親北・容共的な傾向を示している。トランプはこの韓国の北との対決姿勢を示さない(核実験後は変わってきたとはいえ)対応に苛立っているのだ。
 北朝鮮の核による恫喝の末、この先、朝鮮半島はどうなるのか。すでに南北合意した連邦制の統一国家ができるのか。著者はその時は北朝鮮の主導のもとに共産主義的国家になると見ている。一つは長年の朝鮮労働党による地下工作活動が功を奏して、韓国は司法、教育、メディアまで北に浸食されているからだという理由である。もう一つは韓国人の性質、気質からくるものという理由。
「韓国人、朝鮮人の心の底にはウエグックノム(外国の奴)の影響を受けずに、水入らずの同族同士で平和に暮らしたいという切望が潜んでいるのかもしれない」。そういう意味で「自力で核兵器やミサイルを開発して米日を脅かしている金正恩は『偉い』となって北を支持するということになってしまう」(P169)。
 民主主義という国是を忘れた韓国と強固な意志による共産党独裁を貫く北朝鮮、もう目の前に韓国崩壊と北朝鮮による統合が見えている。核兵器を持った反日的な統一朝鮮が、半島に生まれたら日本はどうなるだろうか。それを考えるための格好の評論書である。

(担当/木谷)

著者紹介

李度珩(イ・ドヒョン)

1933年、ソウル生まれ。50年、ソウル工高在学中に軍隊に入隊。53年、陸軍中尉任官。アメリカ陸軍広報学校修了、陸軍政訓学校教官。64年、予備役編入、陸軍大尉。この間、62年、建国大学国文科卒業。64年、朝鮮日報社入社。ベトナム特派員、外信部長、日本特派員、論説委員を経て、92年退社。75年~76年、慶應義塾大学新聞研究所留学。金大中政権以来、最も厳しい言論の締めつけを加えられながら、これに抗して、鋭い批評活動を展開。現在、、四百三十余名の会員を擁する新聞・放送ウォッチャーの会Argus会長。会誌「現象と真相」(月刊)発行人。韓国戦略問題研究所顧問。韓日協力委員会常任理事、英国戦略問題研究所元会員、日本国際文化会館会員。著書に『韓国人が見た日本』(共著)『金大中 韓国を破滅に導く男』『ソウル発信 日本検証』『北朝鮮化する韓国』ほか多数。

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残酷な社会実験がもたらしたディストピア状況をピューリッツァー賞受賞記者が活写 『中国「絶望」家族』メイ・フォン著 小谷まさ代訳

中国「絶望」家族 ――「一人っ子政策」は中国をどう変えたか
メイ・フォン著 小谷まさ代訳

 数十年前まで、多くの新興国にとって増え続ける人口をどう抑制するかは喫緊の課題でした。そんな中、中国共産党が採用したのが前代未聞の社会実験「一人っ子政策」です。「人間の数を減らし、そのぶんだけ人間の質を上げる」という短絡的な政策を発案したのはロケット科学者でした。文革の嵐が収まった1980年から本格的に採用され、2015年まで続けられたこの政策は、結果的に中国社会が数十年かかっても解決できない数多くの問題を引き起こすことになります。
 本書はウォール・ストリート・ジャーナル特派員として2000年代に中国各地を取材し、急激な経済発展の裏側を活写する報道でピューリッツァー賞を受賞した女性記者(2007年、取材チームで受賞。国際報道部門)が、世界一の人口大国が背負うことになった負の遺産の実態を生々しく綴った本です。「一人っ子政策」はどのようにして生まれ、どのように社会に適用され、そして国民にどのような影響を与えたか。著者はその全貌を明らかにすべく中国全土をまわり、農民、役人、知識人、反体制派など、さまざまな立場の人びとに話を聞いています。
 社会の末端にまで張りめぐらされた「人口警察」のネットワーク、強制的に行なわれてきた中絶手術、「財源」として恣意的に罰金を科す地方役人たち、そして極端な人口抑制策がもたらした歪な人口バランスと結婚難、超高齢化……。地方の農村は結婚相手の女性が存在しない「光棍村(独身者の村)」となり、唯一のわが子に先立たれた老親たちには病院や施設にも入れない老後が待ち受けている――。それらはまるでディストピア小説の中の出来事のようでもありますが、著者は統計上の数字からは決して見えてこない個々人の物語を丹念に紡ぐことで、あらゆる「正しさ」を為政者が独占する国に生きる人びとの諦観と、その反動として生まれる剥き出しのプラグマティズムをも描き出してみせます。国家による家族計画の顛末を追うことで見えてくるのは、21世紀の超大国たらんとしている隣国が抱える闇であり、そこに生きる人びとの深い苦悩です。
 すぐれたノンフィクション作品は、隠された事実を明らかにするだけではなく、読み手の人生観を大きく揺さぶる力を持っています。本書はまさにそうした一冊です。
(担当/碇)

◆著者紹介

メイ・フォン Mei Fong
マレーシア生まれの中国系アメリカ人ジャーナリスト。ウォール・ストリート・ジャーナル中国支局の記者として中国・香港の取材を担当し、2007年ピューリッツァー賞を受賞(国際報道部門)。中国の出稼ぎ労働者に関する記事でアムネスティ・インターナショナルと香港外国記者会からアジア人権報道賞も得ている。南カリフォルニア大学(USC)アネンバーグ・コミュニケーション・ジャーナリズム学部で教鞭をとったのち、現在はワシントンDCのシンクタンクNew Americaの研究員を務めている。


目次
第1章 大地震と家族
〇一三キロ離れて暮らす親と子
〇一人っ子政策の実験区を襲った悲劇
〇「中国にいたら、生まれていなかった」
〇急速に老いる人口大国
〇一人っ子政策は「不必要な政策」だった
〇戸籍を求める少女――一三万人の無戸籍中国人
〇苦しみに耐える「無限の力」
〇「流動人口」として生きる夫婦の現実
〇「当局の責任は問わない」という誓約書


第2章 空虚な宴 
〇子供をもつべきか否か 
〇一人っ子政策の副作用 
〇「級友の孫を見るのが辛い」 
〇人の数を減らし、人の質を高める 
〇中国人アスリートの弱点、「大球・小球」説 
〇「われらの前途はひたすら洋々」 
〇死んだ子供の写真を掲げる親たち 
〇「失独」という悪夢 


第3章 カサンドラとロケット科学者 
〇計画出産の実験区「翼の町」 
〇「四対二対一」の悲劇 
〇ロケット科学者が唱導した人口抑制プラン 
〇人口爆発が脅威だった時代 
〇なぜ中国で「過激な社会実験」が可能だったか 
〇政治に奉仕する科学 
〇人口増加は予測できない 
〇改革派対中国政府 
〇強制中絶事件の衝撃 
〇「出産の自由」への長い道のり 


第4章 人口警察 
〇八五〇〇万人のパートタイム指導員 
〇テレビ、自転車、洗濯機……妊娠したら家財没収 
〇「嫌な仕事だけど誰かがやらなければ」 
〇「ノルマを守るためなら何をしても許される」 
〇「元モンスター」が語る強制執行の実態 
〇罰金は地方の貴重な収入源 
〇「社会扶養費」問題という突破口 
〇封印されつづける悲劇 


第5章 「小皇帝」、大人になる 
〇一人っ子世代の親が病気になるとき 
〇ヒーローになった孝行息子 
〇小皇帝調査の意外な結果 
〇悲観的で安全志向な小皇帝世代 
〇大学は出たけれど 
〇「負け犬」の流行語化に当局が苦言 
〇ゲーム業界のカリスマが感じる負い目 
〇親の過大な期待と過酷な入試制度 
〇中国版ジャック・ケルアックの主張 
〇性同一性障害の若者が考える「親孝行のかたち」 


第6章 人形の家へようこそ 
〇社会をむしばむ異常な男女比 
〇逃亡した花嫁、残った借金 
〇独身男性が増えて好戦的な国に 
〇マンションなくして結婚なし 
〇悩める親たちのための「婚活マーケット」 
〇ホワイトカラー向け婚活イベントに参加 
〇政府による「剰女」啓蒙キャンペーン 
〇「儒教ワークショップ」の教え 
〇恩恵を受ける女性、商品化される女性 
〇「相手は人形でも、セックスはリアル」 
〇中国の伝統としての男女差別 


第7章 老いる場所、死ぬ場所 
〇社会の高齢化で失われる「創造力」 
〇中国老人だけで「世界第三位の人口大国」に 
〇豊かになる前にやってきた「老い」 
〇高齢者向けビジネスの難しさ 
〇中国の高齢者がいちばん望むこと 
〇退職後の人生、光と陰 
〇国ができないことは家族がやれ 
〇農村で頻発する老人虐待事件 
〇「裸足の医者」が不可欠な場所 
〇親の「脱神秘化」 
〇減速する経済、間に合わない社会保障 
〇世界最低ランクの「死ぬ環境」 
〇変わりゆく家族のかたち 


第8章 運命の糸 
〇中国人養子の経歴調査会社 
〇人道的行為か、人身売買か 
〇蔓延する乳幼児売買 
〇養父母の九五パーセントが知りたくない事実 
〇フィクションだった「感動のエピソード」 
〇きっかけは「発見情報料」 
〇孤児院の過半数が人身売買に関与? 
〇養子の子供たちに共通する喪失感 
〇DNA調査というパンドラの箱 
〇子供を誘拐する地方役人たち 
〇「幸せな暮らし」で犯罪を正当化できるか 


第9章 国境を超える子供たち 
〇北京で不妊治療を受ける 
〇中国で双子が急増した理由 
〇「男児確約サービス」を打ち出す業者 
〇生殖に憑りつかれた人たち 
〇中国人カップルが米国での代理母出産を決めた理由 
〇代理母の動機、依頼者の動機 
〇知能、身長、容姿、血液型、二重まぶた 
〇中国人と優生学の親和性 
〇「合理主義」の行き着く先

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なぜ「情報隠蔽」は悪いことなのか? 『大惨事と情報隠蔽』ドミトリ・チェルノフ+ディディエ・ソネット著/橘明美+坂田雪子訳

大惨事と情報隠蔽
――原発事故、大規模リコールから金融崩壊まで

ドミトリ・チェルノフ+ディディエ・ソネット 著 橘明美+坂田雪子 訳

◆人はなぜ情報を隠したがり、それはなぜ大惨事を引き起こすか。徹底検証し対策を示す

 「こんなこと上司に報告すると、また面倒なことになるな…」と考えて、見なかったことにする。「今までずっとうまく行っているんだから、そんなこと気にする必要ないよ」と深刻さを過小評価し、報告しない――。事の大小はあれ、こんな経験、あるのではないでしょうか?
 昨今、政界・官界・財界など、世の中じゅうで問題となっている「情報隠蔽」。情報隠蔽が問題なのは、それが不正の徴候だからというだけではありません。情報が共有・公開されないと、恐るべき大惨事が起こる可能性があるからなのです。本書は、大事故や社会的事件、消費者問題や経済危機などの大惨事の主因が情報隠蔽(特にリスク情報隠蔽)にあることを25余りの幅広い事例から示したノンフィクションであると同時に、その対策をリスク管理やリスク・コミュニケーションの専門家である著者が示すビジネス書です。
 著者によれば、情報隠蔽にはいくつかのパターンがあります。たとえば、リスクの存在を認めると、コストのかかる対策をしなければならなかったり、儲け話を見送ることになったり、期日に仕上げることが不可能になったりするからと、その情報を隠蔽するパターン。また、「日本のものづくりは優秀で、日本人は勤勉だからそれは問題にならない」〔日本〕とか、「資本主義に毒されていない我が国では、そのような問題は起こりえない」〔旧ソ連〕などの、国家主義的な「おごり」により、リスクを矮小化したり、無視したりする形の情報隠蔽。さらには、従業員の待遇が悪いことなどから、担当者が頻繁に辞めて入れ替わり、現場の履歴やノウハウの情報が共有されなくなるという、広義の情報隠蔽のパターンもあります。
 どれもこれも社会のあらゆるところで、私たちがよく目にし、耳にする事柄ですが、本書ではそれらが深刻な大惨事へと発展した事例を検証します。読者は、ページを繰るごとに身につまされ、自分の所属する会社や組織を、情報隠蔽が起こりにくいものに変革しなければならないと、強く感じさせられることでしょう。

◆トヨタ・リコール問題、福島原発等を含む日米欧露亜の多様な事例。共通項が明らかに

 本書の強みの一つは、事例の豊富さと幅広さです。日米欧露およびアジアの事例を偏りなく検証しています。日本の例ではトヨタ・リコール問題や福島原発、水俣病が取り上げられるほか、情報共有・公開がうまく行った例として、トヨタ生産方式やソニーのバッテリーリコールを紹介。業種・分野の多様さにも特筆すべきものがあります。この種の本で取り扱われることがほとんどない、エンロン事件やサブプライム危機などの金融の大惨事、独ソ戦初期におけるソ連軍の失敗や、SARSの世界的感染拡大といった社会的大事件が取り扱われているのです。もちろん、メキシコ湾原油流出やチャレンジャー号爆発事故、インド・ボーパールの毒ガス漏洩などの工業的大事故、豊胸手術用シリコン不正製造やフォルクスワーゲン・ディーゼル排ガス問題などの消費者問題も取り扱われます。
 驚かされるのは、これらの事件事故が、洋の東西、業種・分野の多様さを越えて、どれも同じような情報隠蔽に端を発して起こったとわかること。ノンフィクション好きの方にオススメなのはもちろん、会社組織のリスク管理担当者や、経営に携わる方々が是非とも読むべき一冊です。

(担当/久保田)

著者紹介

ドミトリ・チェルノフ
チューリッヒ工科大学の「企業家リスク」講座に所属する研究者。ロシアで一五年以上にわたりコーポレート・コミュニケーション(企業広報)のコンサルタントを務め、とくにクライシス・コミュニケーション(危機管理広報)に注力してきた。

ディディエ・ソネット
チューリッヒ工科大学の「企業家リスク」講座を担当する金融学教授で、金融危機研究所(FCO)所長。チューリッヒ工科大学リスクセンター共同設立者、スイス金融研究所のメンバーでもある。邦訳されている著書に『[入門]経済物理学―暴落はなぜ起こるのか?』(PHP研究所)がある。

橘明美(たちばな・あけみ)
英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学文教育学部卒。訳書にチャールズ・マレー『階級「断絶」社会アメリカ』(草思社)、ピエール・ルメートル『その女アレックス』(文藝春秋)ほか。

坂田雪子(さかた・ゆきこ)
英語・フランス語翻訳家。神戸市外国語大学中国学科卒。訳書にマイケル・ラルゴ『図説 死因百科』(共訳)、クリストフ・アンドレ『はじめてのマインドフルネス』(共に紀伊國屋書店)ほか。

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ボランティアはなぜ、被災地に通い続けるのか? 『震災ジャンキー』小林みちたか 著

震災ジャンキー

小林みちたか 著

◆被災者でもなく、ジャーナリストでもない。ボランティアが見た東日本大震災の深層

 2011年3月11日の東日本大震災から6年以上の月日が経ち、その間に起こった事柄はさまざまな形で報道され、書籍としても著されてきました。本書は、震災被害に遭った当事者でもなく、あるいはジャーナリストや研究者としての立場からでもなく、ボランティアの視点からで書かれたルポルタージュです。

 震災発生当時、NPO法人AAR Japanに所属していた著者は、東北の被災地に入って支援物資配達などの業務を行い、非常に厳しい現場を体験しました。恐るべき現実のなかに身を置いた被災者たちは、ボランティアである著者の支援活動に対して、一様の反応を表すわけではありませんでした。
 高台に新しく家を建てたばかりに自分だけが助かってしまったと泣きながら、近隣の人のために支援を要請する女性。「ほどこしは受けない」と厳しい表情で必要最低限の物資だけを受け取る避難所のまとめ役。孤立した小さな島から電話で、底をつきかけた飲料水を届けてほしいと話しながらも、そのおっとりと落ちついた口調でこちらの心まで静めてくれるような、島の区長。著者はそれら一人ひとりに、心を動かされたり、近づきがたいと感じたり、本当に役に立てているのだろうかと自問したりしながら、緊急支援活動を続けました。
 著者はその後、AAR Japanを退職しますが、ひきつづきボランティアとして被災地に何度となく足を運び、支援活動を続けます。緊急支援の折に知り合った被災者とも親交を温めてきました。本書には、震災直後に知り合った被災者と被災地の変化や、その後の支援活動の中で知り合った被災者たちの様子が描かれています。そこにあるのは、冷徹な分析でも、型にはまった同情でも、イデオロギー的な言辞でもありません。その場に身を置き、困っている人を助けようと体を動かした人間だけが語り得る、震災の現実が記されています。

◆何のため、誰のためのボランティアか。支援する側も自問自答を繰り返す

 ときに「自己満足にすぎない」「偽善だ」と中傷されることもあるボランティア。実際に、配慮を欠いた《支援》は被災者に負担をかけるだけに終わることもあります。被災者の「ありがとう」という言葉や、笑顔とは裏腹に、「ありがた迷惑」な《支援》だったということも。困っている人がいて、それを助けるという、一見単純なことであっても、本当に役立つのは難しいという事実に、著者や仲間のボランティアが自問自答する姿も、本書には描かれています。そのような葛藤を抱えながらも、ボランティアたちはなぜ、支援を続けたいという気持ちを持ちつづけるのでしょう?
 被災地の現実をこれまでとは異なる視点から考えてみたいという方はもちろん、今後ボランティアに身を投じてみたいと考えている方にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

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動物園で象を詠んだり、1月1日に鉄腕アトムを詠んだり 『1ランクアップのための 俳句特訓塾』ひらのこぼ 著

1ランクアップのための 俳句特訓塾

ひらのこぼ 著

 俳句上達はなかなかに難しい。上達の要諦を述べた本は古今あまたあり、この本の著者ひらのこぼ氏の以前の書『俳句開眼100の名言』(草思社)では、100冊以上もあるその一部を紹介している。また、言語芸術であるだけにその極意は、抽象的、精神論的になりがちである。「見たままを詠め」と言われても、凡人にはにわかにはわかりにくい。
 その上達法に風穴を開けたのがひらのこぼ氏の出世作『俳句がうまくなる100の発想法』(草思社文庫)である。これは「裏側を詠んでみる」(羽子板や裏絵さびしき夜の梅――荷風)とか「名前を付けてみる」(吉良常と名づけし鶏は孤独らし――穴井太)とか、名句を発想の型に分類して、すぐに活用できるようにした本で、その臆面のない分類にかえって洒落気を感じたものである。
 ひらのこぼ氏は元コピーライターでまた、理数系の大学を出ていることもあり、妙に合理的であり、理論的にアプローチをするところが面白い。
 今回の本でも、2章、3章の無理やりにでも俳句を作ってしまえとでもいうべき、集中トレーニングの設定が大変ユニークである。

「毎日、動物園に通って動物の顔を見て一句」、
象も耳立てて聞くかや秋の風――永井荷風)、
また、「毎日誰かの忌日だったり、記念日だったりするので、それをお題に一句」、例えば1月1日は鉄腕アトムの日ということなので、
年新た無敵の空がありにけり――こぼ)
「好きな俳人と10番勝負してみよう」、というところでは、例えば正岡子規とでは、
秋風や伊予ヘ流るる汐の音――子規)
向こう面張りて野分の過ぎゆけり――こぼ)
などとやってみる。

 ほかにも〈俳筋力〉アップのトレーニング法をいくつか紹介しているが、大真面目にならず、俳諧的センスの本質に適ったノウハウであるところが、本書の良い点である。

(担当/木谷)

著者紹介

ひらのこぼ

昭和23年、京都生まれ。大阪大学工学部卒業。汽船会社設計部を経て、昭和48年広告会社へコピーライターとして入社。奈良市在住。平成10年、銀化(中原道夫主宰)に入会。現在、銀化同人。著書に『俳句がうまくなる100の発想法』『俳句がどんどん湧いてくる100の発想法』などの俳句発想法シリーズのほか、『俳句発想法歳時記』春・夏・秋・冬+新年各篇(以上、草思社文庫)などがある。

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半世紀の封印を破って刊行された、元米大統領による驚愕の第二次世界大戦史! 裏切られた自由【上】ハーバート・フーバー 著 ジョージ・H・ナッシュ 編 渡辺惣樹 訳

裏切られた自由【上】
――フーバー大統領が語る第二次世界大戦の隠された歴史とその後遺症
ハーバート・フーバー 著 ジョージ・H・ナッシュ 編 渡辺惣樹 訳

 本書『裏切られた自由』(原題FREEDOM BETRAYED:Herbert Hoover’s Secret History of the Second World War and Its Aftermath)は、第31代アメリカ大統領ハーバート・フーバー(任期1929~33)が20年の歳月をかけて第二次世界大戦の過程を検証した回顧録です。
 スターリンと手を組んだルーズベルト大統領を「自由への裏切り」と批判した本書は、アメリカでも完成後、半世紀の長きにわたって公開されませんでしたが、2011年にフーバー研究所から刊行され、話題を呼んでいます。
 国家の意思決定の仕組みを熟知し、同時にさまざまな機密情報にもアクセスできた元大統領が、同時代の政治指導者としての使命感から精魂をかたむけて世界大戦の実情を記録したのが本書です。原書は1000頁を超える大著で、日本語版では上・下巻に分割しての刊行になりました。上巻(本書)には開戦前の国際情勢の分析から1944年までが、下巻(*2017年11月に刊行予定)にはヤルタ会談以降の状況と補足資料が収録されています。
 本書には数多くの特筆すべき記述があります。たとえば、真珠湾攻撃にいたる日米関係について関係者の証言をまじえて分析し、日米戦争はルーズベルトの欺瞞に満ちた外交によって引き起こされた、と結論づけています。また著者は、大戦中に各地で行なわれた首脳会談について詳細に記録しています。戦後世界の枠組みを決めることになる会談の裏でどのようなせめぎ合いがあったのか。首脳外交の現場を熟知した著者ならではの分析には説得力があります。
 本書の膨大な記述は、従来の歴史認識に根本的な見直しを迫るものです。それはとりもなおさず、あの戦争における日本側の立場を擁護することにもつながるのですが、ここで強調しておきたいのは、フーバーは決して日本贔屓の政治家ではなかったという点です。彼の経歴や大統領時代のスタッフを見れば、むしろ逆であった可能性が高いでしょう。
 しかし、そのような人物の手による著作だからこそ、本書の記述には大きな価値があるのです。第二次世界大戦の一方の当事者として、私たち日本人に必読の一冊と断言します。

(担当/碇)

以下、本書より引用

 いま二人の独裁者(ヒトラーとスターリン)が死闘を繰り広げている。二人はイデオロギーに凝り固まった夢想家であり、兄弟のようなものである。……我が国(アメリカ)は防衛力をしっかりと整備し、両者の消耗を待つべきである。……我が国の掲げる理想にもかかわらずスターリンと組むことは、ヒトラーと同盟を組むことと同じであって、アメリカ的理念への叛逆である。

 国民も議会も我が国(アメリカ)の参戦に強く反対であった。したがって、大勢をひっくり返して参戦を可能にするのは、ドイツあるいは日本による我が国への明白な反米行為だけであった。ワシントンの政権上層部にも同じように考える者がいた。彼らは事態をその方向に進めようとした。つまり我が国を攻撃させるように仕向けることを狙ったのである。

 ハルは自身の回顧録の中で、ここ(本書)で記した日本政府との交渉の模様をほとんど書いていない。そして交渉についてはただ否定的に書いている。……その文章には真実がほとんど書かれていない。 

 近衛(首相)の失脚は二十世紀最大の悲劇の一つとなった。彼が日本の軍国主義者の動きを何とか牽制しようとしていたことは称賛に値する。彼は何とか和平を実現したいと願い、そのためには自身の命を犠牲にすることも厭わなかったのである。

 ルーズベルト氏は「非帝国化構想」を持っていた。彼の標的はドイツ、イタリア、日本だけではなかった。彼はイギリス、フランス、オランダの非帝国化を目論んでいた。そうでありながら、彼の構想には一か国だけ例外があった。巨大できわめて攻撃的な帝国ソビエトであった。

 著者紹介

ハーバート・フーバー(Herbert Hoover)
1874年アイオワ生まれ。スタンフォード大学卒業後、鉱山事業で成功をおさめ、ハーディング大統領、クーリッジ大統領の下で商務長官を歴任、1929年~1933年米国大統領(第31代)。人道主義者として知られ、母校スタンフォードにフーバー研究所を創設。1964年死去。

編者紹介
ジョージ・H・ナッシュ(George H. Nash)
歴史家。ハーバード大学で歴史学博士号取得。2008年リチャード・M・ウィーヴァー賞受賞(学術論文部門)。フーバー研究の第一人者として知られる。著者に“Herbert Hoover and Stanford University”他。

訳者紹介
渡辺惣樹(わたなべ・そうき)
日本近現代史研究家。北米在住。1954年静岡県下田市出身。77年東京大学経済学部卒業。30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著作が高く評価される。著書に『日本開国』『日米衝突の根源1858-1908』『日米衝突の萌芽1898-1918』(第22回山本七平賞奨励賞受賞)『朝鮮開国と日清戦争』『アメリカの対日政策を読み解く』など。訳書にマックファーレン『日本1852』、マックウィリアムス『日米開戦の人種的側面 アメリカの反省1944』など。

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