草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

試し読み 『勝海舟 歴史を動かす交渉力』山岡淳一郎著

第四章「大江戸開城の大交渉」より抜粋

 勝は、西郷を圧倒する気魄で談判(江戸開城交渉)に臨むために恐るべき戦術をたてていた。もしも交渉が決裂して官軍が攻撃に移ろうとしたら、即座に四方八方へ秘かにしらせ、「江戸市街を焼き、敵の進退を断ち切り、焦土となす」作戦の準備をしていたのである。火炎の壁で官軍の進軍を阻む「江戸焦土作戦」は、一八一二年にナポレオン・ボナパルトがロシア遠征でモスクワに侵入したときに炎上する街をあとに退却した史実を参考にしていた。
 現代のビジネスにおける「交渉学」では、しばしば「BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)=合意が成立しなかったときの最善策」が重要だといわれるが、百五十年も前に途方もない規模で、勝はそれを用意していた。

 

 焦土作戦を立てるに当たって、勝はごくしぜんに庶民を使おうとした。そのなかには最下層の人びともいた。そもそも江戸の治安維持は勝の変わらぬ役目であった。官軍の急迫で人心がかき乱され、江戸府下の不埒な輩が財物を強奪し、火を放って町が灰燼に帰すのを防ごうとした。まず勝はメモ用の帳面を持って、火消組の頭、博徒の長、非人の長、名望のある親分と言われる者たち三十五、六名の間を飛び回り、密かに火災を防ぐ組織をこしらえた。かれらを一堂に集め、「おれの指図で動いてくれ」と説き、納得させた。

 

理屈をこねるばかりではない。雑費として幾ばくかの金を与え、「めいめい勝手な行動は慎んでくれよ」と言い渡す。水面下で庶民の防災ネットワークをこしらえたのである。勝から直接頼まれた面々はいたく感激し、「あっしも男だ。勝先生に命を預けやす。子分に暴れさせたりは致しやせん」と誓った。組織のことは他言しないと誓い合い、勝の号令一下で一斉に火消しに奔走する態勢がつくられたのだった。

 

(中略)

 

 …組織した下層のネットワークを、勝は、西郷との談判をまえに「火消し」から一転「火つけ」に百八十度転換しようというのだから、強面の親分連中も驚いたのなんの。焦土作戦を話し合う寄合いで、火消組の頭は、「勝先生、あっしは親の代から火を消してめぇりやした。隣近所からも喜ばれ、纏を振ってきた者でございます。いまさら、火つけをしろと……ほんとうにやっちまっていいんでしょうか」と当惑した。
「そうだ。思いっきり、やってくれろ。火をつけて官軍のやつらを江戸市中に近づけねぇためだ。だがな、おれが合図するまで、早まっちゃいけねぇよ。何も、江戸の民を焼き殺そうってわけじゃねぇんだ。ここからが肝心だ。聞いておくれ。おい、船頭さんたち」
 と、勝は、少し離れて控えていた船方衆を話の輪に引き入れた。

 

「火を放つと決まったら、船頭さん、おめぇさんたちは、房総から江戸前あたりの大小の船を速やかに江戸に引き入れ、川の河岸という河岸、着船場、ありとあらゆるところで人を乗せて、運んでやってくれ。一人も残しちゃいけねぇよ。助けるんだ」
「へぇ。すぐに船は集めやしょう。どうぞご安心を」と船頭の親方が胸を叩いた。

 

 避難民の護衛は、魚河岸の兄さんたちに任される。武器は魚をさばく出刃包丁だ。
「よしきたッ。包丁でサツマイモ(薩摩軍)をぶった切りましょうかね」
「そんときゃ、頼むぜ。まぁいいや。焦土作戦は、最後の最後、奥の手だ。くれぐれも、早まるんじゃねぇよ。おれが合図をしたら、一気呵成にやるんだ」

 

 勝の肚は据わった。
 談判をまとめなければ、江戸が火の海となる。大悪行に手を染めてしまうのだ。もう後はない。退路を断った勝は、池上本門寺の西郷に面談を申し込む手紙を送った。

 

両雄は、高輪の薩摩藩下屋敷で、三月十三日に相まみえることとなった。

 

(以下、いよいよ歴史を動かす大交渉へ)

 著者紹介

山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」を共通テーマに近現代史、政治・経済、建築、医療など分野を超えて旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書に『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(以上草思社文庫)、『日本電力戦争』(草思社)、『神になりたかった男 徳田虎雄』『気骨 経営者土光敏夫の闘い』(以上平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『成金炎上 昭和恐慌は警告する』(日経BP社)、『原発と権力』『インフラの呪縛』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(以上ちくま新書)ほか。東京富士大学客員教授。一般社団デモクラシータイムス同人。

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勝海舟 歴史を動かす交渉力 | 書籍案内 | 草思社

西郷は「肚」(はら)ができていた。「肚」はどう作るか。 『声に出して読みたい・こどもシリーズ こども西郷どん』齋藤孝著 平井きわ絵

声に出して読みたい・こどもシリーズ こども西郷どん

齋藤孝 著 平井きわ 絵

 西郷隆盛は身体が大きかった。180センチ、110キロぐらいあったらしい。当時の日本人としてはかなり大柄だ。日本人男性の平均身長が160センチ以下だった時、180センチというのはかなり大きい。西郷は大きな男だったというのはこの肉体的な大きさを言うことと同時に、精神的な大きさも言うことが多い。大らかな慈愛に満ちた心、包容力、志を持った高潔さ、そして何事にも動じない肚のすわった意志力や勇気である。
 最後の「肚がすわった男」というのがあまり作今言われない徳の一つである。齋藤孝先生は目指すべき人間の人格として、論語などに倣って「知・仁・勇」ということを言っている。これに身体の各部所を当てはめ、「頭」に手を当てて「知」、「胸、心臓」に手を当てて「仁」、
「腹、肚」に手を当てて「勇」と覚えなさいと、生徒に指導している。この三つの徳が備わった人間を目指すというのが日本の伝統的な修養なのだが、なかでは「腹、肚」に宿る「勇」という徳が現代では一番忘れられているのではないだろうか。
 西郷の体現している理想の人間像はまさに「知・仁・勇」なのだが、最後の「肚がすわった」「勇気のある」人間というのは、いちばんわかりにくいし、実現しにくい。
「肚」(はら)という字が忘れられているように、知性(知)や他人への優しさ(仁)などはわかるが、西郷のような「肚のすわった器の大きな男」(勇)は現代日本にいるのか。
 パワハラやセクハラなどが昔より厳しく問われ、コンプライアンスに戦々恐々としている現代社会では、そういう人徳は育ちにくいかもしれない。作今の政治家や役人や企業経営者などの顔を思い出せばそれがよくわかる。
 人間の「肚」をどう作るかがこの本(『こども西郷どん』)のテーマの一つである。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)など多数。近著に『語彙力こそが教養である』(角川書店)『こども孫子の兵法』(日本図書センター)『こども論語』『こどもギリシア哲学』(いずれも草思社)など。NHK・ETV「にほんごであそぼ」監修など、マスコミでも活躍中。

平井きわ(ひらい・きわ)/絵

女子美術大学卒業後、企業のキャラクターデザイナーとしての勤務を経て、フリーランスで活動中。

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「生産性を上げるには、従業員を幸せにすればいい」という話 『文庫 データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男著

文庫 データの見えざる手

――ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

矢野和男 著

◆コストゼロで生産性が13%も向上できた!

 ビッグデータとAIを駆使した、新時代の生産性研究の名著『データの見えざる手』が文庫化されました。本書の単行本版は、最近の「働き方改革」や生産性向上にかんする議論を先取りする形で、2014年に刊行されました。しかも、人々が働く現場で実験・計測した科学的研究を元に生産性にかんする議論を展開しており、その内容は現在も他の追随を許さない高みにあると言えます。
 では、具体的には、生産性はどのような方法によって上がるのでしょうか。本書ではいくつか実例が挙げられていますが、端的な例を挙げれば「従業員が幸せになればいい」というものです。
 以前にも心理学者などによるアンケート調査を使った実験により、従業員が幸せな状態になると生産性が高くなることは、数多くの研究で示されていました。しかし、アンケート調査では、リアルタイムで「幸福度」を測ることができず、幸福になるような施策を行った結果を、詳細に計測することはできませんでした。
 ところが著者らは、従業員の体の動きを詳細に検知するウエアラブルセンサのデータを分析し、アンケート調査による幸福度と非常に相関の高い、体の動きのパターンを抽出することに成功。これを指標とすることで、リアルタイムに幸福度を測定することを可能としました。これを応用した実験の結果は驚くべきものです。
 ある職場で、それまではシフトの関係から、従業員が時間をずらしてバラバラに昼食をとっていたものを、なるべく同世代の人同士で一緒に昼食をとるように変更する実験を行いました。すると、従業員の幸福度の指標が上昇、生産性(本実験の場合は受注率)も13%向上した、というのです。会社側はまったくコストをかけず、ただシフトを工夫しただけで、生産性を向上させることができたことになります。

◆これまでの常識を覆す、生産性向上のヒントが満載

 本書にはこの他にも、驚くべき生産性向上施策の数々が紹介・解説されています。「量販店の店舗で、ある特定の場所に従業員がいつもいるようにするだけで、顧客の購買単価が15%向上した」とか、「職場で各人の『知り合いの知り合い』の数が増えるように、互いを面談させる介入を行ったら、開発遅延がなくなった」など。いずれも、センサとデータ、AIなどを活用して行われた生産性向上施策です。
面白いのはAIやデータを活用した結果、行われた生産性向上施策の方が、管理と長時間労働に頼った従来の方法より、ずっと人間的で、ずっと効果的なことです。
 いま、著者の研究は「働き方改革」と生産性向上を同時に実現するものとして大変な注目を集めています。また、文庫版には、単行本刊行後の研究や現状にかんする、著者自身による15ページにおよぶ解説も収録。単行本版を読んだ方もそうでない方も、生産性について興味のあるすべての方が読むべき一冊です。

(担当/久保田)

著者紹介

矢野和男(やの・かずお)

株式会社日立製作所フェロー。2004年から先行してウエアラブル技術とビッグデータ解析で世界を牽引。論文被引用件数は2500件。特許出願350件。「ハーバードビジネスレビュー」誌に、「Business Microscope(日本語名:ビジネス顕微鏡)」が「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介されるなど、世界的注目を集める。のべ100万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。2014月に上梓した著書『データの見えざる手』(単行本)が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会 副会長。東京工業大学大学院特定教授。文科省情報科学技術委員。1994年ISSCC 最優秀論文賞、2007年BME Erice Prize、2012年Social Informatics国際学会最優秀論文など国際的な賞を多数受賞。

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『バノン 悪魔の取引』「訳者あとがき」より:秋山勝(本書訳者) 『バノン 悪魔の取引』ジョシュア・グリーン 著 秋山勝 訳

バノン 悪魔の取引

―― トランプを大統領にした男の危険な野望

ジョシュア・グリーン 著 秋山勝 訳

 

バノンとトランプ、暗黙のうちに結ばれた「悪魔の取引」
 2016年アメリカ大統領選でヒラリー・クリントンを制し、ドナルド・トランプを第45代大統領に仕立てあげた男、スティーブ・バノン――本書は、トランプの元側近中の側近だった人物の正体とその桁はずれの経歴、またこの人物が奉じる危険で際どい思想を明らかにした1冊である。…ご一読いただければ、バノンとトランプとのそもそもの出会いや二人がどのような関係にあったのか、また暗黙のうちに結ばれた両者の盟約とは何かが了解していただけるはずだ。この点を了解していなければ、2017年8月18日のバノン退任の意味、そして2018年に起きた一連の騒動のいきさつや思惑をすんなりと理解することはできないだろう。

 

「アメリカの政治史上、もっとも危険な策謀家」
 著者のジョシュア・グリーンがバノンを知ったのは、原書が刊行される6年前の2011年初夏のことだった。当時、香港から帰国したバノンは保守系プロパガンダ映画のプロデューサーとして活動していた。…グリーンはひと目でバノンの存在感に圧倒された。…そうして書き上げた記事が「アメリカの政治史上、この男はもっとも危険な策謀家」である。 
記事は2015年8月8日、ブルームバーグ・ポリティクスに掲載された。…この記事をベースに、バノンや関係スタッフへの取材を改めて行い、さらにはトランプ本人とのロングインタビューを踏まえたうえで、投票日翌日の朝までの出来事が本書には書かれている。

 

主流メディアを手玉にとる巧妙な戦略
 バノンがトランプ陣営の選挙参謀に就任したのは2016年8月17日。11月8日の本選挙まで、その時点ですでに3カ月を切っていた。だが、ロバート・マーサーという奇矯な大富豪の支援を受け、トランプとは無関係な場所で反クリントンの包囲網はすでに周到に進められていた。トランプにすればまさに渡りに船である。注目すべきはそのメディア戦略だ。ブライトバート・ニュースと政府アカウンタビリティー協会(GAI)との連携、さらに主流メディアを手玉にとり、リベラルなメディアに反クリントンの記事を書かせる手口はまさにバノンならではのものだろう。そして、選挙資源を北中西部地域、すなわちラストベルトに集中させていく。民主党を見限った白人労働者を取り込むことで、劣勢にあった陣営の立て直しをバノンは見事に図った。

 

アメリカの政治史上かつてない逆転劇
 こうして、アメリカの政治史上かつてない番くるわせが実現する。当のアメリカ国民のみならず、世界中の誰もがその結果に息をのんだ。開票のさなか、トランプ陣営のスタッフが「やばいな。本当に大統領になってしまうぞ」と声を漏らすような衝撃である。その衝撃的な事実がなぜ起きたのか。本書を読まれたいま、それは偶然などではなく、起こるべくして起きた必然のなりゆきだと納得できるのではないだろうか。


アメリカを導いた〝影のナンバー2〟
 政権移行にともない、バノンも大統領の最側近としてホワイトハウス入りを果たす。任命された首席戦略官は新設ポストで、上級顧問としての権限は〝影のナンバー2〟である首席補佐官にほぼ匹敵した。ホワイトハウス在任は8月18日までと1年にも満たないが、この間、メディアとは激しく対立している。ニューヨーク・タイムズの電話インタビューに、トランプの勝利を予想できなかったメディアは口をつぐめと言い放つと、主流メディアは野党だと切り捨てた。「イスラムは世界最大の脅威」と叫び、「行政国家の解体」を宣言、パリ協定離脱へとアメリカを導いた影の中心人物こそスティーブ・バノンにほかならない。

 

「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」
「ホワイトハウスのラスプーチン」「バノン大統領」「トランプを操る男」などの異名をとったが、自身に抱いていたバノン本人のイメージはそうではないようだ。大統領選直後の2016年11月18日、エンターテインメント業界の情報誌ハリウッド・リポーターに対し、バノンは単独インタビューを許可している(このときのライターが『炎と怒り:トランプ政権の内幕』の著者マイケル・ウォルフである)。
「闇とはいいものだ。ディック・チェイニー、ダース・ベイダー、サタン、それは力だ」「私は白人至上主義者ではない。私はナショナリストで、経済ナショナリズムを信奉している」とバノンらしい言葉が続く。
記事の最後に発したひと言は「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」であった。

(抜粋)

著者紹介

ジョシュア・グリーン
1972年生まれ。ジャーナリスト。コネチカット大学卒業後、ノースウェスタン大学メディル・ジャーナリズム研究科で学位を取得、その後ワシントン・マンスリー、アトランティックの記者や編集デスクなどを経て、現在、ブルームバーグ・ビジネスウィークの上級通信員として国内問題を担当している。ボストン・グローブ、ニューヨーカー、エスクァイア、ローリングストーンなどへの寄稿のほか、Morning Joe(MSNBC)、Meet the Press(NBC)、Real Time with Bill Maher (HBO) Washington Week(PBS)などの番組にも定期的に出演している。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、デヴィッド・マカルー『ライト兄弟』、曹惠虹『女たちの王国』(以上、草思社)、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(以上、朝日新聞出版)など。

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日本の鉄道は特殊すぎて世界で役立つ場所が見つからない。 『日本の鉄道は世界で戦えるか 国際比較で見えてくる理想と現実』川辺謙一 著

日本の鉄道は世界で戦えるか
――国際比較で見えてくる理想と現実

川辺謙一 著

◆「世界一」というのは思い込みに過ぎない!?

 日本は、新幹線という世界で初めての高速鉄道を、1964年に実現した国です。日本の鉄道は、その後もどんどん便利になりました。毎年、新規開業や延伸があり、相互乗り入れや増発などでサービスが向上し続けたのです。ですから、日本人は「日本の鉄道は世界一」と、ごく自然に考えてきました。当然、新幹線の輸出もうまく行くはず、でした――。
 新幹線を含む鉄道の海外展開は、アベノミクス成長戦略における「インフラ輸出」の一環として重視されています。日本の鉄道は優秀だから、海外へどんどん輸出できて当然、と思っていた方も多いでしょう。でも、その割には海外から「引く手あまた」という状況にはないようですし、苦戦しているというニュースも耳にすることがあります。一体これは、どうしてなのでしょう。
 本書は、日本の鉄道の実力、特性の本当のところ、すなわち日本の鉄道の「立ち位置」を明らかにするべく、日英仏独米のおもに5カ国の鉄道を国際比較するものです。

◆世界の鉄道利用者の3割が日本! あまりに特殊な日本の鉄道

 本書の第1章の章題は「日本の鉄道は特殊である」。読み始めれば、今まで何の疑問もなく見てきた日本の鉄道が、世界のなかでは、あまりに変わった存在であることに驚かされます。
 たとえば、日本は鉄道利用者の数が極端に多い国です。世界中で鉄道を利用している人のうち、3割が日本の鉄道の利用者というほど。新幹線と他国の高速鉄道とを比べても同様です。日本の東海道新幹線では、1時間に10本を超える時間帯もあるほど高密度な運転間隔となっていますが、他国ではせいぜい1時間に1~2本程度。日本くらい高速鉄道の需要が大きな国はほかにないでしょう。
 本書を読み進めるうちに、「日本の鉄道は特殊すぎて、世界で役立つ場所が見つけられない」という現実が徐々に明らかになります。それだけでなく、その特殊性に気づかない国民は現状認識を誤って、鉄道に過大な期待を抱いており、そのことが鉄道関係者に大きなプレッシャーとなっていることもわかることでしょう。さらには、日本の鉄道の未来が、実は楽観できるものでないことも……。
 日本の鉄道は、日本で、そして世界で、どのように生き残っていけばいいのか? 鉄道ファンだけでなく、鉄道業界に身を置く方や、鉄道業界の将来に興味のある方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
(担当/久保田)

著者略歴

川辺謙一(かわべ・けんいち)

交通技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書は『東京道路奇景』『日本の鉄道は世界で戦えるか』(草思社)、『東京総合指令室』(交通新聞社)、『図解・燃料電池自動車のメカニズム』『図解・首都高速の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・地下鉄の科学』(講談社)、『鐡道的科学(中国語版)』(晨星出版)など多数。

目次

はじめに
第1章 日本の鉄道は特殊である
1・1 鉄道利用者数が極端に多い国、日本
1・2 なぜ日本で鉄道が特異的に発達したのか
第2章 日本の鉄道を海外と比較
2・1 英仏独米日の鉄道をくらべる
2・2 鉄道史をくらべる
2・3 鉄道の現状をくらべる
第3章 日本と海外の都市鉄道をくらべる
3・1 米英仏独日の都市鉄道をくらべる
3・2 都市鉄道史をくらべる
3・3 より具体的にくらべる
第4章 日本と海外の高速鉄道をくらべる
4・1 日英仏独米の高速鉄道をくらべる
4・2 高速鉄道史をくらべる
4・3 リニアとハイパーループによる高速化
4・4 より具体的にくらべる
第5章 空港アクセスと貨物の鉄道を国際比較
5・1 空港アクセス鉄道
5・2 貨物輸送
第6章 イメージと現実のギャップ
6・1 日本人は鉄道が好き?
6・2 日本の鉄道技術は世界一なのか
6・3 鉄道ができると暮らしが豊かになるのか
6・4 鉄道に対する認識のギャップ
6・5 認識のギャップが過剰な期待を生じさせる
第7章 これからの日本の鉄道と海外展開
7・1 鉄道の維持は難しくなる
7・2 鉄道が時代の変化に対応するには
7・3 鉄道の海外展開を成功に導くには
7・4 「競争」から「融合」へ
第8章 国際会議で見た日本の鉄道の立ち位置
8・1 第9回UIC世界高速鉄道会議
8・2 イノトランス2016
おわりに
参考文献

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「ギリシア哲学」の「ロゴス」が再び我々には必要ではないか 『こどもギリシア哲学』齋藤孝 著 オフィスシバチャン 絵

声に出して読みたい・こどもシリーズ
こどもギリシア哲学

―― 汝自身を知れ!

齋藤孝 著 オフィスシバチャン 絵

 中沢新一氏が最近提唱しているのが西洋的な「ロゴス」に対してインド的な「レンマ」という概念である。「群像」2月号から氏は「レンマ学」という連載を始めて一部で注目されている。内容はなかなか難解だが、要は西欧的「ロゴス」が行き詰った現代ではそれと対立する「全体を一瞬で把握する直観的」思考「レンマ」が必要だということだ。

 ここで対比されている「ロゴス」というのは「ギリシア哲学」由来の「ロゴス」である。本書でも紹介しているヘラクレイトスの「ロゴスに従え」という有名な言葉がある。ロゴスはただ「理」(ことわり)と表記されたり、理論、理性、言語であったりする。西欧哲学や自然科学の根幹にあるものという意味では、われわれの近代文明にとっては最重要な概念の一つであるはずだ。中沢氏はこれを批判的にとらえて、最新の物理学や量子力学では、ロゴスが描いてきた世界観では理解できない現象があるとして、「ロゴス」から「レンマ」の時代へと、もはや世界は移りつつあるとも言っている。相変わらず人を煙に巻くことが得意の氏だが、はたしてそれは正しいのだろうか。

 「ロゴス」という理性や理論、物事の筋道、論理的に考え、論理的に他者を説得する手続きなどは、古来日本にもあったとはいえ、西洋から意識的に学んだものの一つだ。小学生にも有用であり、本絵本シリーズでも、東洋的な「論語」の教えに次いで「ギリシア哲学」をテーマに据えた。むしろ「ロゴス」がいまだ確立していないことのほうが問題であり、「ロゴス」を小学生の時期から徹底的に教育することのほうが重要ではないかと思うのだが、いかがだろうか。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとうたかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『宮澤賢治という身体』(世織書房、宮沢賢治賞奨励賞)『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)など多数。近著に『語彙力こそが教養である』(角川書店)『こども孫子の兵法』(日本図書センター)『世界の見方が変わる50の概念』(草思社)など。NHK・ETV「にほんごであそぼ」企画監修など、マスコミでも活躍中。

オフィスシバチャン/絵

静岡県出身、東京都在住。グラフィックデザイナー、 Webデザイナーを経て、 フリーランスのイラストレーターとして独立。書籍、雑誌、広告をメインにイラストを制作。

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膨大な情報を頭の中でどう知性に変換すればいいのか? 『東大教授が教える知的に考える練習』柳川範之 著

東大教授が教える知的に考える練習

柳川範之 著

◆記憶することに能力を費やすのではなく、考えることに能力を使うべき時代

 現代において、人間は、自らの思考力をどのようなことに使うべきでしょうか。
いまや、ネットの爆発的な普及によって、誰もが大量の情報を簡単に手に入れることができるようになりました。単純な知識はネットで調べればすぐにわかるようになったので、覚えるためにわざわざ頭を使う必要が少なくなってきています。
 しかし、楽になった一方、あまりにも情報が簡単に手に入るようになったために、自分で考えたり、頭を使って工夫したりするクセがつきにくくなるという新たな弊害が生まれています。これはこの先人間を脅かすと言われる人工知能(AI)の急速な進捗が叫ばれ、変化が激しい今の時代に、大きな問題となっています。
 本書はこうした現状をふまえ、人間が「頭を使う」意義をあらためて問い直し、情報洪水時代の今だからこそ、自分の頭で考えることの重要性を説くものです。

◆「考えるとは情報を『調理』すること」「忘れてしまう情報は、どんどん捨ててかまわない」

 では、そもそも大量情報時代においてじっくり考えることとはどういうことなのでしょうか? たくさんの情報を使って何をすればいいのでしょうか? ……著者はこのような現代ならではの問題・疑問に答え、自らが実践する「頭の使い方」を具体的に紹介していきます。 
 本書の「知的に考える練習」を通じて、情報のたんなる受け売りではなく、どんな状況においても、自分自身の独自の考え、メッセージを頭の中から自由自在にアウトプットできる力が磨かれることは間違いありません。いわば、勉強においても、仕事においても、人生においても応用できる、あらゆる思考のもとになる「考える土台」が身につく本と言えます。
 本書は社会人はもとより、中学生や高校生でも十分読めるようにやさしい言葉で書かれています。ぜひ多くの方に知っていただければ幸いです。

(担当/吉田)

■目次より 
1章 情報洪水時代で変わる「頭の使い方」
2章 頭の中に質の良い情報が集まる「網」を張る
3章 知的に考えるための「調理道具」を揃える
4章 情報は流れてくるまま、流しっぱなしに
5章 頭に残った情報は熟成し、やがて知性に変わる
(小見出し)●考えるとは情報を「調理する」こと●考える土台を鍛えれば、より高度な思考が可能になる●入ってくる情報は絞らず、意図的に間口を広げておく●あがかないで機が熟すのを待つ●いかに違う情報同士を積極的にくっつけていくか●教養や歴史の本当の意義●絶えず視点を変え、頭を揺らす思考実験を…

著者紹介

柳川範之(やながわ・のりゆき)

1963年生まれ。東京大学経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤にともないブラジルへ。ブラジルでは高校に行かずに独学生活を送る。大検を受け慶応義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続ける。大学を卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。現在は契約理論や金融関連の研究を行うかたわら、自身の体験をもとに、おもに若い人たちに向けて学問の面白さを伝えている。著書に『法と企業行動の経済分析』(第50回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社)など。

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