草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

ヒトラーはなぜ「合法的」に権力を掌握できたのか? 世界の運命を決めた半年を克明に描く!『ヒトラー、権力までの180日』ティモシー・W・ライバック 著 山田美明 訳

ヒトラー、権力までの180日

ティモシー・W・ライバック 著 山田美明 訳

 本書は、アドルフ・ヒトラーがドイツ首相に任命されるまでの約半年間(ナチスが議会で第一党になった1932年7月末~ヒトラーが首相になった1933年1月末)の緊迫した政治プロセスを、当事者の日記やその時々の新聞記事を使って精密に描き出した歴史ノンフィクションです。
 ヒトラーについて書かれた本は数多くあり、その権力獲得のプロセスもすでにたくさんの本で説明されていますが、本書がこれまでの本と異なるのは、その圧倒的な解像度の高さです。いつ、どこで誰が誰と会って、何を語り、何が決まったのか。そして当事者はそのとき何を思っていたのか。著者はこれまでアクセスできなかったアーカイブ資料なども駆使して、ヒトラーが権力の座に上りつめた最後の半年を「当時報道され、認識されたとおりに」再現していくのです。
 この期間、じつはヒトラー自身もぎりぎりまで追いつめられていました。選挙での失速、党内の路線対立、資金難、支持層の離反……。本書は、しばしば見落とされがちな「失敗し続けるヒトラー」の姿も丹念に描いています。にもかかわらず、ヴァイマル共和国を支えていたエリートたちは、それぞれの思惑と欲望、保身のなかで、ヒトラーを「使える存在」と誤認していくのです。もしこの場面で別の選択がなされていれば、もしこの人が最後まで妥協しなければ……そう思わずにはいられないような状況が随所で描かれています。そうした歴史の分岐点を具体的に積み重ねていくことで、著者はヒトラーの登場は「不可避だった」という神話を解体し、民主主義という仕組みが内包する脆弱性を読む者に突きつけるのです。
 ヒトラーの権力掌握の背景となった既成の政党政治への不信、政治的な暴力の蔓延、エリート層の過信――といった社会状況は、今日でも世界中で変わらずに見られます。運命論的な解説や単純化された善悪の物語を排し、二〇世紀最大の悲劇の「前夜」を克明に再現する本書が多くの読者に届くことを願ってやみません。

(担当/碇)

 

目次

第1章 星空を見上げて
・二枚組のレコード「国民への訴え」
・「政治的陰謀の達人」のネットワーク
・「難しい選択。吐きそうなほどだ」
・「ドイツ、ドイツ、ただドイツあるのみ!」
・ゲッベルスの疑念
・二つの選択肢

第2章 民主主義の犠牲者
・政治的暴力の拡大
・ヴェルサイユ条約第八八条
・ポテンパ村の殺人事件

第3章 木製の巨人
・陸軍元帥の晩節
・「ボヘミアの伍長」への失望と警戒
・ナチ党員が称賛した「テロ対策」法令

第4章 ヒトラーの賭け
・「それは合法的な手段によって?」
・相次ぐ女性スキャンダル
・突撃隊リーダーの友情と圧力
・会談前夜の苛立ち

第5章 一三日の土曜日
・差し出された「二番目の地位」
・「何が起きても私は知らない」
・「大統領に叱責されるヒトラー」報道

第6章 多数決原理
・黙殺されたナチ党版の議事録
・四分の三だけ支配する資格

第7章 ボイテンの男たち
・殺人者擁護の理論
・死刑判決が招いた混乱

第8章 抑止効果
・「二五・四八・五三」方式
・パーペン首相の「爆薬」

第9章 民主主義の武器庫
・七五歳の共産党議員による国会開会の辞
・「共和制の仕組みを使って、その制度を麻痺させる」
・ブリューニングの疑念
・ゲーリング議長、内閣不信任投票を強行
・ヒトラー後の指導者候補

第10章 虚偽の帝国
・メディアのナチ党包囲網
・フーゲンベルクとの確執の原因
・「破局政治」キャンペーン
・ハルツブルク戦線での小競り合い
・ドイツ国籍を取得し大統領選へ出馬

第11章 黄金の雨
・飛行機を駆使した遊説活動
・「私はむしろ愚か者でありたい」
・リーフェンシュタールを魅了したヒトラー演説
・「全国的にナチへの飽きが見られる」

第12章 虚像と実像
・「二〇〇万票減」の衝撃
・失われた無党派層の支持
・活動資金の枯渇

第13章 膠着状態
・連立政権をめぐる綱引き
・「絶対的権限」へのこだわり

第14章 出口なし
・深まる孤立感と焦燥
・グレゴール・シュトラッサーの目論み
・露呈したナチ党内の路線対立
・鮮明になる党勢の凋落

第15章 裏切り
・「敗北主義者」を批判するヒトラー
・国会開幕式での大乱闘
・古参幹部の離脱
・「穏やかに、穏やかに、穏やかに」

第16章 クリスマス・プレゼントの亡霊
・困窮したナチ党員の暴発
・苦難の一二月
・「一九三三年は勝利の年となるだろう」

第17章 リッペ州のヒトラー
・「血と土」の思想
・秘密会談の露見
・狙われた保守穏健派の牙城

第18章 シュトラッサーの出処進退
・「現実主義者」の挫折
・分裂させるか、穏健化を待つか

第19章 訪問者たち
・交錯する思惑
・「一党支配にはこだわらない」
・謀略家の油断

第20章 ヒンデンブルクにささやきかける声
・目前に迫った「憲法の麻痺」
・補助金スキャンダルの余波

第21章 運命の週末
・「ほかの可能性を試みる必要がある」
・ヒトラーの過大な要求
・宙に浮く首相の座
・国防軍の立場と軍事クーデターの可能性
・首相就任の条件
・高まる軍事衝突の可能性
・疑心暗鬼の連鎖

第22章 一九三三年一月三〇日
・突然の国防大臣人事
・運命の一日

終章 その後
・政敵の粛清と国会放火事件
・栄光と転落
・合法的に葬られた共和国

 

著者紹介

ティモシー・W・ライバック(Timothy W. Ryback)

ハーグ歴史的正義・和解研究所所長。パリ国際外交アカデミー事務次長、ザルツブルク・グローバルセミナー副会長兼常任取締役、ハーヴァード大学の歴史・文学領域の講師も務めている。『ヒトラーの秘密図書館』(赤根洋子訳、文藝春秋、2012年)、『The Last Survivor』『Hitler's First Victim』などの著作があり、世界各国の出版社から40以上の版で出版されているほか、アトランティック・マンスリー誌、フィナンシャル・タイムズ紙、ニューヨーカー誌、ニューヨーク・タイムズ紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙にも寄稿、また数々のドキュメンタリー番組にも出演している。

訳者紹介

山田美明(やまだ・よしあき)

英語・フランス語翻訳家。訳書に『スティグリッツ 資本主義と自由』(東洋経済新報社)、『人種差別主義者たちの思考法』『アスペルガー医師とナチス』(ともに光文社)、『AMERICAN MARXISM アメリカを蝕む共産主義の正体』『大衆の狂気』(ともに徳間書店)、『ホロコースト最年少生存者たち』(柏書房)、『批評の「風景」ジョン・バージャー選集』 (草思社)などがある。

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米国政治を操り民主主義を脅かすものたち『ロビイストに蝕まれるアメリカ』ケイシ―・ミシェル 著 小金輝彦 訳

ロビイストに蝕まれるアメリカ

ケイシ―・ミシェル 著 小金輝彦 訳

 ナチスの国際的イメージを操作する
 本書は、アメリカ人ロビイストたちが「外国代理人(foreign agents)」すなわち外国勢力の代弁者として、いかにして国内政策に影響を及ぼし、民主主義の根幹を揺るがせてきたかを明らかにする重厚なノンフィクションである。
 出発点として描かれるのは、20世紀初頭、パブリック・リレーションズ(PR)の先駆者とされるアイヴィー・リーの活動だ。リーは国内企業のイメージ捏造にとどまらず、ドイツIGファルベン社を通してゲッベルスらと面会、広報戦略を指南するなど、アメリカ世論をドイツに有利に誘導するための助言を与えた。こうした手法が、こんにち数多く暗躍する「外国代理人」の教科書になったと言っていい。

 世界各国の独裁政権を顧客に抱える
 海外からの脅威に対抗するべく、1938年には「外国代理人登録法」(FARA)が制定されたが、その後の数十年間、FARAの運用は極めて限定的で実効性を欠いた。その間にも、米国のロビイストたちは、冷戦下の反共政策やグローバル資本の論理を利用し、しばしば独裁者の支援に手を貸してきた。
 代表例がポール・マナフォートである。彼は1980年代から各国の独裁政権を顧客に抱え、PRと政治戦略を武器にワシントンでの影響力を行使した。アンゴラ武装勢力の残忍な指導者サヴィンビを「自由の闘士」としてメディアに売り込んだのもその一例だ。

 ドナルド・トランプの選挙対策本部長
 そしてこのマナフォートこそが、2016年アメリカ大統領選でドナルド・トランプの選挙対策本部長を務めた人物である。本書がとりわけ警鐘を鳴らしているのは、こうした外国ロビイストたちが、トランプ政権の中枢にまで入り込み、アメリカの政策決定に実質的な影響を与えていたという事実である。実際、トランプ陣営の側近には、外国政府の利益を代弁しながらFARAに登録しなかった罪で起訴・有罪判決を受けた人物が複数存在する。国家安全保障補佐官だったマイケル・フリンもその一人であり、ロシアやトルコ政府との関係が問題視された。

 ロシアによる大統領選挙介入
 トランプはまた、ロシアによる選挙介入を公然と受け入れ、選挙戦で利益を得た最初のアメリカ大統領である。こうした行為は、単なる政治的スキャンダルではなく、FARAの理念である「対米影響力の透明化」を根底から覆すものであり、アメリカの民主主義を外から、そして内側からも侵食する動きとして本書は分析している。

 米国憲法上の「請願の自由」という権利
 本書が示すのは、ロビー活動が「請願の自由」という憲法上の権利として正当性を持つ一方で、外国勢力にとってはそれが都合の良い侵入口ともなり得るという現実である。そしていまや、有力法律事務所や元議員などの政府関係者までがロビイスト業界に積極的に参入し、外国代理人として、海外の独裁政権、専制政治の代弁者となり、シンクタンクや一流大学までが彼らの都合のいい道具となっている。

 背後に「見えないロビイストたち」の存在
 アメリカ民主主義が抱える構造的問題を、アイヴィー・リーからマナフォート、そしてドナルド・トランプへと続く人物史を通して、鮮やかな筆致で描き出す本書は、歴史の記述であると同時に、現代世界への警鐘でもある。
 トランプ現象の本質、トランプという世界的災禍の本質を理解するうえで、彼を取り巻く外国ロビー活動の実態を知ることが不可欠である。トランプ政権の背後に暗躍する「見えないロビイストたち」の生態を明らかにする本書は、その意味でもいま必読の一冊である。

(担当/藤田)

 

本書目次

プロローグ よからぬビジネス
下院聴聞会のアイヴィー・リー/ナチスにアドバイスする米国人/残忍なゲリラ指導者がワシントンへ/外国代理人の脅威にさらされる米国

第I部 毒薬

第1章 悲惨な結末
請願の自由から生まれたロビー活動/政策立案者に揺さぶりをかける人々/アラスカ購入をめぐる画策と疑惑/グラント大統領に群がるロビイスト/コンゴをめぐるベルギー国王の野望

第2章 事実とは何か? 
ラドローの虐殺とロックフェラー一族/過剰な自尊心と狂信、権威への敬愛/民主党予備選の広報マネジャー/一般大衆と企業を結び付ける存在/鉄道産業が生き延びるための透明性戦略/偏屈な財閥トップを慈善家に仕立てあげる/全米から企業がアイヴィー・リーに押し寄せる

第3章 広報の達人
欧州で出会ったムッソリーニのファシズム/独裁政権と米国の橋渡し役/新たな共産主義政権にビジネスチャンス/金庫室にあふれる皇帝コレクション/ソヴィエト承認のためのキャンペーン

第4章 破滅
ナチスを奉ずる産業帝国IGファルベン/ベルリンとニューヨークでキャンペーン活動/米国民にナチスを売り込む広報担当者/ファシズムと共産主義が全米に浸透/非米活動委員会からの厳しい追及/説明のつかない多額の報酬/紙面を飾る「毒薬アイヴィー」の悪行/PR業界の第一人者が抱える頭痛

第II部 怪物たち

第5章 秘密の握手
外国代理人登録法(FARA)の誕生/わずか数年で形骸化してしまったFARA/憲法に守られた「請願権」を悪用/適用除外の恩恵が弁護士ロビイストに/人材不足で司法省担当部署が機能せず/冷戦後にロビイストの存在感が急拡大

第6章 賢い男たち
マナフォート・シニア市長の汚職事件/野暮ったかった60年代のロビイスト/ジェファーソン候補を推すフランス政府の思惑/第三党・ウォーレス候補をスターリンが支援/冷戦期ソヴィエトが民主党候補にアプローチ/米国大統領選にクレムリンが積極関与/〝盗まれた〟高校生一日市長選挙

第7章 過剰こそが最善
共和党保守化の源流に著作『保守派の良心』/うわべの謙虚さとは裏腹のずる賢さ/共和党青年部でのし上がった二人/レーガン革命を支えた若い政治工作員/ロビー活動とコンサルティングを両輪に/先住アメリカ人カジノをめぐる画策/ロビー産業界のモンテ・クリスト伯

第8章 恥を感じるのは臆病者だ
『スパイ』誌の「たちの悪い会社ランキング」/世界各地の独裁者をつぎつぎと顧客に/暴君マルコスの事例を大統領選の試金石に/市民団体の厳しい監視の目/メディアを通じて被害者が「泥棒政治」を告発/ワシントンで最も恥知らずなロビイスト/クレジットカードで膨らんだ分厚い財布

第III部 革命

第9章 独裁政権にとって安全
外国代理人やロビー活動への無関心/新法「ロビー活動公開法」の落とし穴/イメージ操作で独裁政権を安泰に/ロビー企業経由で議員に渡る資金/泥棒政治家のためのターンテーブル/外国顧客になりすましたジャーナリストの実験

第10章 ウクライナ・カクテル
オリガルヒが頼った共和党の重鎮/議員退職後は専制国家を相手に商売/マナフォートがつくる「政治的なテレビ」/ウクライナの親欧米勢力を封じ込めるために/謀略をめぐらすウクライナの「石油男爵」/大統領失脚からの返り咲きを狙う/キャッチフレーズを連呼して人種差別を煽る/米軍の合同演習に不可解な抗議運動/米国に独裁者ヤヌコーヴィチを売り込む

第11章 血塗られた金
腐敗を象徴する独裁者の宮殿/目の前の政敵を牢獄に送り込んで排除/有力法律事務所がロビー業界に参入/外国政府に身売りする米国の政治家たち/報告書を改竄してメディアに拡散/引退政治家が集まる「ハプスブルク・グループ」/あきらめずに抗議を続けたウクライナ国民/娘たちが交わしたメールに父の悪行

第12章 儲けるためではなく
大富豪の高額寄付に隠された意図/クリントン財団への寄付が露骨に増減/世界中の独裁者が並ぶ寄付者リスト/米議員団のアゼルバイジャン視察を前に/国営ガス会社から米国NPOへの秘密の送金/米国議員倫理委員会の調査に下院から横槍/訴訟とスキャンダルに追いつめられたマナフォート

第IV部 反乱

第13章 黄金の壺
お粗末ででたらめなFARA申請書類/トランプ候補に接近するマナフォート/史上最も奇妙な大統領誕生の舞台裏/ロシアのハッカーがクリントン陣営のメールを暴露/クレムリンに渡った大統領選の内部情報/ロシアが演出するウクライナの「平和」/裏帳簿に並んだマナフォートの名

第14章 ブラックホール
裏の顔をもつアゼルバイジャン研究者/大学とシンクタンクがロビー活動の主役に/米国の一流大学に集まる外国政府からの寄付/オフショア口座を使った「特別な贈り物」/シンクタンクは情報開示が不要なので好都合/生み出されるのは研究ではなくプロパガンダ/腐敗と不正のメリーゴーランド

第15章 おまえは終わりだ
選挙対策本部長の自宅にFBI捜査/他国に支援された米国大統領選/中国政府と密かにつながるカジノ王/外国ロビイストを積極的に受け入れるトランプ/トランプのホテルに大金を落とす面々/大統領選へのロシア介入をようやく本格調査/マナフォートの有罪を決定づける証拠の山/トランプ側近や法律事務所をつぎつぎと起訴

第16章 共和制が危険にさらされている
追いつめられたトランプがマナフォートを恩赦/オリガルヒのための「影響工作」の数々/トランプ恩赦がワシントンに与えた大打撃/バイデン周辺もまたロビー活動の泥沼に/透明性はバイデン政権でむしろ後退/「外国代理人」登録を免れた有名弁護士/法解釈に阻まれた検察の敗北/マッキンゼーのグローバルな倫理的腐敗/資金潤沢なサウジ政権のロビー工作

第17章 ミスター・リーの広報ブック
ウクライナの惨状を語るとき欠かせない人物/外国ロビー業界の拡大を止められるのか/請願権を敵対国に売り渡す米国人たち/他国から押し寄せる影響力vs議会の戦い/民間も業界もこぞって独裁政権に協力/独裁者や専制君主のための「倫理基準」/ロビー活動と影響工作の深い闇

 

著者紹介

ケイシー・ミシェル(Casey Michel)

ジャーナリスト。ヒューマン・ライツ・ファウンデーション(HRF)でクレプトクラシー(泥棒政治)と戦うプログラムの責任者を務める。前著『クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇』(秋山勝訳、草思社)は、エコノミスト誌で金融犯罪を理解するために最良の書に選ばれた。オフショア金融、外国ロビー活動、独裁主義、違法資金に関する記事をフィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、フォーリン・アフェアーズ、ワシントン・ポスト」などに寄せている。また不法な金融ネットワークと国家安全保障の関係について米上院司法委員会で証言している。

訳者紹介

小金輝彦(こがね・てるひこ)

英語・フランス語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。ラトガース大学MBA。訳書に『シャドウ・ウォー:中国・ロシアのハイブリッド戦争最前線』(原書房)、『ゴッホが見た星月夜 天文学者が解き明かす名画に残された謎』(日経ナショナルジオグラフィック)などがある。

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従来のイメージを覆す新しい人物像を丁寧に解説。今の時代にこそ求められるリーダーの姿『偉人 大久保利通 「正解なき時代」のリアリスト』真山知幸 著

偉人 大久保利通

――「正解なき時代」のリアリスト

真山知幸 著

大久保利通といえば、明治維新の立役者。倒幕を成功させて、日本を近代国家へ導いた人物です。正直に言うと、これまで私は「冷酷な独裁者」「西郷隆盛の陰に隠れた人」といったイメージを持っていました。
しかし本書では、そのイメージとはまったく違った人物像が見えてきます。
大久保は部下の意見に耳を傾け、礼を尽くし、筋を通すことを何よりも大切にしていた。強面のイメージとは裏腹に、実はとても人間味あふれる存在だった――そんな姿が次々に描かれ、ページをめくる手が止まりませんでした。
外交で理不尽な要求に屈せず、粘り強く交渉を重ねる姿も印象的。威張るのではなく、相手にきちんと向き合って日本を守ろうとする。その現実的で誠実な姿勢は、現代のリーダー像にも通じる気がします。
著者の真山知幸さんは『ざんねんな偉人伝』などでおなじみの偉人研究家。ユーモラスな切り口の著作から真面目な伝記まで、幅広く手がけていらっしゃいます。
今回はこれまでの作品とはひと味違い、一人の偉人にスポットを当てており、大久保利通を新しい目で見直せる、とても熱のこもった評伝になりました。
特に印象的だったのは、著者のこんな言葉です。
「組織を支えるのは人心であり、人心を納得させるのは当事者の公正な態度である」
忙しい中でも周囲に気を配り、礼を尽くしながら改革を進めた大久保。その姿を思うと、仕事で迷ったときに「大久保ならどうする?」と問いかけた著者の気持ちがよく分かる気がします。
歴史ファンはもちろん、日々の仕事や人間関係で悩む人にもヒントをくれる一冊です。

(担当/五十嵐)

 

目次

第1章 薩摩藩内の覚醒期(1830~1862年)
誕生 大久保や西郷を育てた薩摩藩の教育システム
不遇 父の処罰で世の理不尽さを味わった青年時代
接近 下級藩士の大久保が西郷に倣った出世の極意
同志 すれ違いは昔から? 大久保利通と西郷の本当の仲
説得 絶望して自殺を図った西郷に大久保がかけた胸刺す言葉
尻拭 大久保が青ざめた西郷の唐突な暴言
共通 大久保を抜擢した「島津久光」の意外な辣腕
突破 初対面の岩倉具視に意見を押し通す強引さ
強引 勅命を受け入れるべく老中を恫喝した身のほど知らず
抜擢 34歳で死に直面しながらも異例の出世

第2章 倒幕活動の奔走期(1862~1868年)
守勢 英国に戦争をふっかけた薩摩藩の「意外な戦略」
冷静 天皇の意向も無視 「好機も動かず」大久保の算段
奇策 薩摩藩が幕末に「スイカ売り決死隊」を作った真剣な訳
難敵 大久保を倒幕へ動かした「徳川慶喜」の仰天行動
念願 大久保が復帰に動いた「西郷隆盛」の意外な変身
転換 「変節の西郷」と「粘り腰の大久保」が目指す共和政治
交渉 大久保も徳川慶喜も活用 「心動く説得」の裏技とは
苦心 実は口約束? 歴史が動いた薩長同盟の意外な真実
強敵 家康の再来と倒幕派が評す「徳川慶喜」の意外な辣腕
困惑 倒幕派を追い詰めた「大政奉還」の意外な裏側
決行 「王政復古の大号令」で新政権樹立もかわす慶喜
誤算 慶喜の立ち回りのうまさで同情論が噴出する
挑発 西郷も弱気になった武力制圧をブレずに推進した
策略 「戊辰戦争」で西郷と大久保が3倍の敵を圧倒したワケ

第3章 近代国家の建設期(1868~1873年)
慎重 「鳥羽・伏見の戦い」勝利にも浮かれず
大胆 倒幕後に「大坂遷都」をぶち上げた納得の理由
変更 遷都でなく奠都「首都東京」誕生の歴史的事情
巧妙 反発必至の「版籍奉還」を首尾よく進める
厄介 明治維新で大久保利通を最も困らせた意外な藩
選択 西郷と大久保がリーダーに推薦した「木戸孝允」の実力
迷走 まとまらない明治政府に若手が立ち上がる
断行 戦争も覚悟した「廃藩置県」 不意打ちで実現
貪欲 内政を取り仕切る立場ながら2年も視察へ
沈黙 「岩倉使節団」での人生初の欧米視察で絶望する
洞察 時代に名を残す人物を正確に見極めていた
情熱 鉄血宰相ビスマルクの言葉に奮起する
不動 無謀な「征韓論」もスルーして休暇を取った
摩擦 西郷と大久保でも制御不能な男の正体
対決 「カミソリ」と称された明治政府きっての切れ者と対峙
寝技 大久保が「明治6年の政変」を仕かけて西郷は下野する

第4章 内政重視の宰相期(1873~1878年)
混沌 自らに権力を集中させた「孤独の権力者」 
人事 思慮浅い男すら賢く使い「佐賀の乱」を誘発
非情 「佐賀の乱」の醜態を批判して江藤新平をさらし首に
決断 「征韓論反対」の大久保利通 「台湾には出兵」の背景
外交 理想を追わずにベストに近い選択を愚直に繰り返す
覚悟 かつての恩人「島津久光」を排除する
知略 「琉球併合」で清に密かに仕掛けた驚きの罠
対策 躍進の陰に大久保利通 「三菱」が海運で発展したワケ
頑固 官僚に「爺さん」と呼ばれた大久保の性格
改革 大久保利通が国力を育てる模範にした「意外な国」
不穏 地租改正への反発で大久保が恐れたこと
悲嘆 西郷の参戦に「そうであったか」と涙を流した
疑惑 西南戦争の裏にあった西郷隆盛「暗殺計画」の内実
無念 西郷と逢えずに「西南戦争」へと突入
着実 戦争の最中に「内国勧業博覧会」を開いて大成功
誤解 大久保利通「西郷の死をほくそ笑んだ」の噂
貫徹 維新の志を貫いて近代国家の礎を築いた
暗殺 「明治維新30年構想」を語って生涯を閉じる

 

著者紹介

真山知幸(まやま・ともゆき)

伝記作家、偉人研究家、名言収集家。1979年兵庫県生まれ。同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年から著述活動に専念。『偉人名言迷言事典』『逃げまくった文豪たち』『10分で世界が広がる15人の偉人のおはなし』『泣ける日本史』『大器晩成列伝 遅咲きの人生には共通点があった!』など著作は60冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーに。「調査月報」「朝日中高生新聞」「毎日小学生新聞」など各媒体で連載中。「東洋経済オンラインアワード2024」でロングランヒット賞を受賞。大学での講師活動やメディア出演を行い、YouTube「【偉人研究家】真山知幸チャンネル」でも発信を続ける。

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誰も1000万ドル以上持つべきではない!超富裕層による世界の歪みを正す、資産制限という衝撃の提案 『リミタリアニズム 財産上限主義の可能性』イングリッド・ロベインス 著 田中恵理香 訳 玉手慎太郎 監訳・解説

リミタリアニズム

――財産上限主義の可能性

イングリッド・ロベインス 著 田中恵理香 訳 玉手慎太郎 監訳・解説

昨今、イーロン・マスクやトランプ大統領といった、超富裕層のやりたい放題ともいえる言動が世間を騒がせています。彼らが世界を揺るがし続けている以上、超富裕層が存在しえない仕組みを真剣に考えるべき時が来ているのだと言えます。
しかし、それはどのように実現するのでしょうか。気鋭の経済学者イングリッド・ロベインスは、大胆にも「個人の資産に上限を設けること」=「リミタリアニズム」(財産上限主義)により、彼らの生む世界の歪みを正すことを提案します。本書は、そのラディカルな政治哲学により、民主主義を見つめなおすように迫る1冊です。

実際問題、超富裕層はどのくらいわたしたちより豊かなのでしょう。ある研究で、その参加者はCEOの給料は未熟練労働者の平均10倍くらいと考えていて、これを4・6倍までに抑えるのがよいと回答しました。しかし実際には、研究でデータが得られた国の大半で、CEOの給料は未熟練労働者の給料の10倍をはるかに超え、何十、何百倍だったのです(アメリカ:350倍超、フランス:50倍)。つまり、私たちは超富裕層の資産をかなり低く見積もっており、またそのために、超富裕層の資産は適正と思える範囲内でないにもかかわらず、あまりにもその富が大きすぎて現実の資産の差を認識できていないのです。

また、その超富裕層は、現実にはどのように世界を歪めているのでしょうか。以下のような具体的な社会的な不正義の例をあげることができます。
・巨万の富は、そもそも非常に多くが、不正な手段を通じている場合が多い。
・膨大な資金により政治家、権力者をコントロールすることで、民主主義を歪め、政治的不安定さを生んでいる。
・資産上位10%が炭素排出全体の48%を占めるなど、環境負荷の最も高い存在である。

とはいえ、個人の資産を制限するということは、どのように正当化されうるでしょうか。それについて、本書では先述の「不正な手段による蓄積」の点と、「高額の報酬も当人のみの努力の結果に帰するものではない」という観点から、丁寧に触れています。

もし、リミタリアニズムが実装された場合、どのような社会の改善が期待できるのでしょうか。経済的権力の均衡、極端な貧困層への即時的対応、階級の分断の緩和などのほかに、なにより超富裕層自身にとっても、その富が生み出している様々な過剰な重圧から逃れるメリットがあるといいます。本書の提案をきっかけに議論がうまれ、社会がよりよくなるきっかけとなれば幸いです。

(担当/吉田)

 

著者紹介

イングリッド・ロベインス(Ingrid Robeyns)

哲学者、経済学者。ユトレヒト大学倫理研究所教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会的排除分析センターの客員教授も務める。2018年、オランダ王立芸術科学アカデミーの会員に選出。2021年、ウィーンのFLAX財団から不平等研究とフェミニズムに関する功績を称えられ、エマ・ゴールドマン賞を受賞。

訳者紹介

田中恵理香(たなか・えりか)

東京外国語大学英米語学科卒、ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士課程修了。訳書に、『「失われた30年」に誰がした:日本経済の分岐点』(早川書房)、『女性はなぜ男性より貧しいのか?』『RITUAL(リチュアル):人類を幸福に導く「最古の科学」』(ともに晶文社)、『むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史』(みすず書房)、『巨大企業17社とグローバル・パワー・エリート 資本主義最強の389人のリスト』(パンローリング)などがある。

監訳・解説者紹介

玉手慎太郎(たまて・しんたろう)

東北大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京大学医学部特任研究員などを経て、2021年より学習院大学法学部政治学科教授。専門は倫理学・政治哲学。主な著書として、『ジョン・ロールズ:誰もが「生きづらくない社会」へ』(講談社現代新書、2024年)、『公衆衛生の倫理学:国家は健康にどこまで介入すべきか』(筑摩選書、2022年)がある。

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「習近平」とは何者なのか?『紅い皇帝 習近平』マイケル・シェリダン 著 田口未和 訳

紅い皇帝 習近平

マイケル・シェリダン 著 田口未和 訳

 党・国家・軍を支配下に置いた終身国家主席

 現在の中華人民共和国には三つの権力が存在する。中国共産党総書記、国家主席、軍事委員会主席(人民解放軍)であり、習近平はひとりでこの三権を掌握している。毛沢東以来、誰も独占しえなかった強大な権力の頂点だ。
 いま、終身国家主席となり「中華民族の偉大な復興」を高々と掲げ、国内外への強権的な膨張政策を進める習近平とは、いったい何者なのか?
 本書は、習近平の生い立ちから、幾多の謀略、粛清、権力闘争を生き抜いて現在の座にたどりつくまでを詳細に描き、その実像に肉薄するものである。

 過酷な下放生活から這い上がっていく

 習近平は1953年、北京市で共産党高級幹部の習仲勲の息子として生まれる。それら高級幹部の子弟は「太子党」と呼ばれる特権的地位にある。
 だが習仲勲は毛沢東の猜疑心から粛清の対象となり、文化大革命時には息子の習近平も地方に「下放」される。その過酷な経験を通じて忍耐力と庶民感覚を養い、政治的適応力を培ったという。文革終了後に特権的地位である「太子党」として復帰、共産党に入党する。太子党の人脈を活かしながら福建省、浙江省、上海市等の地方統治で実績を積んでいく。
 やがて中央政界に上り、政治的対立を避けつつ実務能力を評価され、胡錦濤時代の派閥闘争を乗り越えて2008年、国家副主席に就任、12年には中国共産党中央委員会総書記(最高指導者)に。13年に国家主席に就任し18年には憲法を改正して終身統治の座を獲得する。

 粛清と情報統制、個人崇拝による権力

 しかしながら、習近平の統治はきわめて強権的で、個人崇拝と独裁色が強い。反腐敗運動を掲げながらも、実際には政敵排除の手段として利用、対立していた薄熙来を失墜させ、権力の集中を進めていった。また、言論統制と情報操作、個人崇拝を日常化させ強力な監視社会を構築している。同時に新疆ウイグル自治区や香港での弾圧、台湾への圧力も強化していき、対外的にも「一帯一路」戦略で経済的影響力を拡大するものの、各国の債務問題を引き起こして国際社会との対立を深めている。

 紅い皇帝が支配する「習王朝」の強権的な構造に肉薄する

 こうした軌跡を描いてきた習近平という人物とは何者なのか? 
 それぞれの時代において周辺の人びとは習近平をこう評する。
無口で勤勉で慎重、つねに周囲を観察し中立をたもつが、冷徹で計算高く、敵対者には容赦がない、そして現在は古いタイプの統治者であり、個人崇拝を求める絶対的支配者。
 本書では、習近平の権力闘争と粛清の詳細な実態のみならず、知られざる彼の私生活や家族、一族の巨額資産にも迫り、習政権の核心にある危険な力の実態に肉薄する。

(担当/藤田)

 

本書目次
第一章 一九五三年、北京
第二章 毛沢東に仕えた父・習仲勲
第三章 文化大革命の嵐
第四章 下放という試練
第五章 復権した「太子党」
第六章 『習近平と愛人たち』
第七章 史上最年少の省長
第八章 伝説の歌姫と再婚
第九章 天安門事件
第十章 権力の座に昇る表舞台へ
第十一章 習一族の莫大な資産
第十二章 権力への険しい道のり
第十三章 スターリンを手本とする統治システム
第十四章 薄熙来との対立
第十五章 政敵薄熙来の破滅
第十六章 完全統制
第十七章 粛 清
第十八章 個人崇拝
第十九章 「一帯一路構想」
第二十章 パンデミックの年
エピローグ 二人の独裁者

 

著者紹介

マイケル・シェリダン(Michael Sheridan)

1989年6月に香港と中国から最初のレポートを送り、その後は『サンデー・タイムズ』紙の極東特派員を20年間続け、中国の興隆、1997年の香港返還と香港民主化運動を報じた。それ以前にはロイター通信、ITN、『インディペンデント』紙などで、中東の戦争、国際外交とヨーロッパの政治などを、ローマ、ベイルート、エルサレムを拠点に報道した。『スペクテイター』、『タブレット』、『ヴァニティフェア』、香港の『信報財經新聞』などにも寄稿している。2021年に香港の歴史を批判的に描いた『The Gate to China』を出版した。

訳者紹介

田口未和(たぐち・みわ)

上智大学外国語学部卒。新聞社勤務を経て翻訳業に就く。主な訳書に『中国の「一帯一路」構想の真相』『国旗で知る国際情勢』(以上、原書房)、『神と銃のアメリカ極右テロリズム』(みすず書房)、『デジタルフォトグラフィ』(ガイアブックス)など。

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追いつめられる金一族、成熟しない韓国政治。またもや半島が波瀾の目に。『自壊する北朝鮮 分裂する韓国』西岡力 著

自壊する北朝鮮 分裂する韓国

西岡力 著

 北朝鮮が父祖以来の「南北統一」を国是から外したのは2023年の末だった。本書のカバー写真で使われている「三大憲章統一塔」などの各地の巨大記念物は2024年1月には撤去・破壊されている。憲法も変えたし、国内や国外(朝鮮総連など)の教科書も「南北統一」をうたわなくなった。金正恩は韓流ドラマやK‐POPなどの文化浸透が北朝鮮の体制崩壊につながることを恐れて国を内向きに閉じ、韓国を「敵」と認定した。これは大変動の始まりだった。
 金正恩は習近平から改革開放経済への転換を迫られ、港湾の借用などを要求されて拒絶するうちに中国との離反が始まり、金一族御用達の贅沢物資の停止などの「いじめ」が起こった。逆にウクライナ戦争を契機にロシアとの蜜月が始まり、兵器やさらに兵員までを供給する代わりに食料やエネルギー、金銭まで受けとるようになった。この傭兵で死んだ兵隊の賃金は金一族が受けとって遺族には何の謝礼もないということでビラがばらまかれ内乱の潜在要因にもなっている。
 著者はウクライナ戦争が停戦などの収束に向かえば北朝鮮は中国からもロシアからも見捨てられ、アメリカと日本に接近するのではないかと見通しを述べている。そうすれば拉致問題解決の千載一遇のチャンスになるのか。
 一方の韓国では尹錫悦大統領が2024年12月に突然、戒厳令を発布して軍隊を動かした。国会や選挙管理委員会にまで軍隊を入れて憲法違反に問われ、4月初め、弾劾罷免ということになった。この罷免をめぐって左右両極のデモ隊の激しい対立がソウル中心部で連日行われた。6月初めには大統領選挙が行われる予定だ。両勢力は拮抗しているので結果はわからない。左派系の李在明が今のところ優勢とみられている。
 この戒厳令は本書では不正選挙というデマに踊らされた尹錫悦の「悪手」だと分析されている。医療改革の失敗、夫人のスキャンダル、左派による国政妨害などの内政行き詰まりが彼を狂わせたということだ。右派には現在、尹錫悦を擁護するような言説が多いが、これはどうか。彼は保守の朴槿恵元大統領追い落としの時の検事総長であり、本当の保守主義者、自由主義者ではないようだ。韓国全体の右派への傾きは暴力的な性向も秘めており弾劾罷免の決定でかろうじて民主主義が機能した。李在明はこれを見て「私は実は保守主義者なのだ」と言説を翻している。左右両方の候補とも機械主義的なのだ。
 著者は韓国のナショナリズムは「反韓反日」主義を乗り越えないかぎり本物ではないと言っている。これはどういうことかというと、韓国80年代世代がとらわれていた歴史認識の誤りを正さないかぎり、本物の自由主義に立脚した民主主義は行われず、それにもとづいた南北統一も難しいということだ。本書を読むとまたしても19世紀末から20世紀初頭の朝鮮半島をめぐる政治状況が再来したのではないかと思わざるを得ない。

(担当/木谷)

 

著者紹介

西岡力(にしおか・つとむ)

1956年、東京都生まれ。国際基督教大学卒業。筑波大学大学院修士課程修了。外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務、「現代コリア」編集長、東京基督教大学教授などを経て、現在(公財)モラロジー道徳教育財団教授・歴史研究室室長。麗澤大学特任教授。「救う会」会長。歴史認識問題研究会会長。著書に『日韓誤解の深淵』(亜紀書房)『増補新版・よくわかる慰安婦問題』『増補新版・でっちあげの徴用工問題』(草思社文庫)『日韓「歴史認識問題」の40年』『韓国の大統領はなぜ逮捕されるのか』(草思社)『狂った隣人』(ワック)など。

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徴用工って「たぶんこうだったのだろう」と納得できる研究論文。『朝鮮人「徴用工」問題 史料を読み解く』長谷亮介 著

朝鮮人「徴用工」問題 史料を読み解く

長谷亮介 著

 本書は若手研究者による最新の研究論文をまとめた本である。戦時中の朝鮮人労働者の問題は長い間、論争の種になって来た。それは1965年に刊行された朴慶植著『朝鮮人強制連行の記録』(未来社)によるところが大きい。軍国日本によって強制的に連行され、奴隷労働をさせられた、かわいそうな朝鮮人というイメージが作られた。これは日韓の賠償問題にまで発展し、今日まで尾を引いている。しかし、それは本当だろうか。いま韓国でもこの歴史観に異を唱える学者や論文も現れている。
 まず第一に戦時中の日本は兵隊にとられる若者が多く、労働力が不足して困っていた。一方、朝鮮国内は徴兵を免除され、若年労働力が余っていた。また朝鮮は労働生産性が低く貧しかったので、内地に出稼ぎに行こうという人が多かった。入国制限をかいくぐって隙あらば内地でひと稼ぎしたい若者が多くいたのである。
 これを活用しない手はない。政府も日本企業側もこれを細心の注意をもっておこなっていたことがわかる。初期段階の応募による人集めから、官斡旋の段階、そして大戦末期の「徴用」までそろそろと拡大していった。これはあまり一気に大量に入ると途中でより有利な職へ逃亡するものが増えて、管理ができないからである。そういう兆候も見えていた。
 本書では一次資料を丹念に読み解くことによって当時の労働実態を再現しようと試みている。例えば第4章で北海道最北端の炭田、日曹天塩炭鉱の賃金表の研究というのがあげられる。著者が近年発掘した新史料の検証である。よく言われる朝鮮人労働者は日本人労働者より安く使われ、給与水準が低かったという指摘のウソ。どう見ても似たような待遇だし、やめてもらったら困るから、企業側もいろいろ工夫して待遇を考えていることがわかる。当時の一般国民の給与水準よりいいぐらいだ。
 第3章では『特高月報』という、悪名高き特高警察が発行していた資料を読み解くことをしている。朝鮮人労働者は特別高等警察の監視対象者だったので、このような監視報告が残されているのである。これまでこの『特高月報』は「朝鮮人奴隷労働説派」の有力な資料として使われていた。労働争議やもめ事が細かく書かれていたからだ。監督官による過酷な管理、虐待、体罰が原因で起こったもめ事の証拠として使われていた。ところがそのもめ事も朝鮮人側の原因によることも多かった。サボタージュや素行不良、飲酒して暴れるというようなことだ。それをとがめて逆に集団で押しかけ、騒動になることがある。これらを「奴隷労働説派」は無視している。著者の検証ではどう考えても朝鮮人の方が悪いという事件もあった。企業側は何とかみんなをなだめて気持ちよく働いてもらおうと努めているのがわかる。これらからわかることは朝鮮人労働者側も一方的に抑圧されていたわけではなく、いたって元気であり、何か起こると集団で管理側を追い詰める力を持っていたようだ。
 朝鮮人戦時労働者の実態というのは、もちろんなかなかわからない。生き残っている労働者に取材して語ってもらうのも一法だが、それもバイアスがかかっていることもある。
 本書では残されている一次資料をまず虚心を持って読み解き、全体像をつかむことの必要性を述べている。歴史学者の基本ではなかろうか。本書を読むと、当時の朝鮮人労働者は体力旺盛で、よりよい待遇の職を求めて、逃亡も辞さず、日本での過酷な労働をものともせず、ある意味異国の生活を楽しんでいたようにも思えるがいかがだろうか。

(担当/木谷)

 

著者紹介

長谷亮介(ながたに・りょうすけ)

西岡力氏が主宰する「歴史認識問研究会」研究員。麗澤大学国際問題研究センター客員研究員。1986年、熊本生まれ。熊本大学文学部歴史学科卒業。法政大学大学院国際日本学インスティテュート博士後期課程修了。学位論文は「日本の学会における『南京事件』研究の考察」(修士論文)、「『戦後歴史学』から見る戦後日本における歴史学の変遷-歴史学研究会を例にして-」(博士論文)。博士号取得。大学院修了後に歴史認識問題研究会に所属し、朝鮮人戦時労働者問題を中心に研究を進める。共著に『朝鮮人戦時労働の実態』(一般財団法人産業遺産国民会議)がある。

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