草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

伝説的ラジオ番組の書籍化、完結篇! 『菊地成孔の粋な夜電波 シーズン13-16 ラストランと♂ティアラ通信篇』菊地成孔、TBSラジオ 著

菊地成孔の粋な夜電波

シーズン13-16 ラストランと♂ティアラ通信篇

菊地成孔、TBSラジオ 著

◆伝説的ラジオ番組の番組本が遂に完結

 2011年4月から18年12月まで約8年に亘って放送された伝説的ラジオ番組、「菊地成孔の粋な夜電波」(TBSラジオ)。ジャズミュージシャンにして文筆家の菊地成孔氏が、選曲、構成から出演まで、構成作家なしで行った音楽トーク番組です。いまだに番組終了を惜しむ声が多く、著名人をはじめ熱狂的なファンに愛聴されてきました。
 本書は、放送台本、フリートークから作品を厳選して収録した人気シリーズの第四弾にして、番組終了までの最後の二年間を収めた完結篇です。

◆完結篇には感動の最終回も収録

 本書はシーズン13-16(17年4月9日-18年12月29日)から103作品と、同期間にオンエアされたセットリスト(曲名リスト)を収めています。
 番組名物「前口上」をはじめ、女子アナをゲストに迎えた「コント」や「ラジオドラマ」の台本はもちろん、人気アイドルグループKing & Princeの楽曲分析や、感動的な最終回エンディングなど、「神回」の放送を文字で楽しむことができます。「ラジオ番組はもうやらない」と公言する菊地氏ですが、本書を紐解くことによって、豊饒な番組の魅力の一端を味わっていただけますと幸いです。

(担当/渡邉)

著者紹介

菊地成孔(きくち・なるよし)
1963年、千葉県生まれ。音楽家、文筆家。DC/PRG、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールを主宰するほか、ジャズ・ドミュニスターズ、SPANK HAPPYとしても活動。著書に『ユングのサウンドトラック』『時事ネタ嫌い』『レクイエムの名手 菊地成孔追悼文集』『菊地成孔の欧米休憩タイム』『菊地成孔の映画関税撤廃』など多数。

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一筋縄ではいかない男、吉田謙吉は大陸で何を見たか。『吉田謙吉が撮った戦前の東アジア』塩澤珠江 著 松重充浩 監修

吉田謙吉が撮った戦前の東アジア

―― 1934年満州/1939年南支・朝鮮南部

塩澤珠江 著 松重充浩 監修

 吉田謙吉は今日それほど有名ではないが、日本の近代文化史を考えるにはキーパーソンの一人である。根っからのアヴァンギャルドであり、モダン文化の最先端を突っ走った男である。多彩な仕事ぶりから、その本質をとらえにくいため、評価されていないのだろう。(草思社既刊『父・吉田謙吉と昭和モダン』塩澤珠江著に詳しい)。
 日本橋浜町の生まれで(母親は三味線の師匠)、府立一中、東京芸大(東京美術学校)図案科卒のデザイナー。今和次郎とともに震災後の東京で「考現学」を提唱し、一世を風靡する。これはモダン東京の風俗採集や新しい生活文化の称揚を掲げた一種の社会学・社会運動だった。さらに小山内薫や「赤い貴族」土方与志とともに築地小劇場の創設に参画している。築地小劇場は日本の新劇運動の画期ともなる常設劇場である。その後、プロレタリア演劇の牙城として新劇界をリードした。上演第一作の『海戦』(土方与志・作)の舞台装置、ポスター等を手掛けたほか、初期の上演活動にデザイナーとして貢献した。植草甚一は回想記の中でこの初期の吉田謙吉作のポスターを当時の最先端のデザイン、欧米のデザインに匹敵するポスターとして、少年時代に夢中になったと書いている。
 映画では帰山教生監督作品のサイレントの字幕デザイン、溝口健二監督のごく初期作品『不戦無敗』(日活太秦)の美術やこの本で取り上げた『奥村五百子』の前年に有名な日独合作映画『新しき土』の美術も務めている。この映画は日独軍事同盟締結の時代背景のもとに鳴り物入りで作られた作品で、ドイツのアーノルト・ファンクと伊丹万作の共同監督ほか、原節子、早川雪州主演、山田耕筰音楽ほかオールジャパンで作られている。ここに美術監督吉田謙吉が名を連ねていることは当時日本での謙吉の評価がいかに高かったかがわかる。
 戦後は天津での抑留後、活躍は戦前ほどではないが、舞台美術監督の後進の育成や、広告・宣伝物のデザインで広告ブームの先鞭をつけた。
 左翼かと思うと国策に協力したり、芸術と実生活の融合を主張したり、のちには日本でのパントマイム演劇の推進を手掛けている。

 さてこの本はその文化人、吉田謙吉が大陸に出かけて行って何を見たかを知ることができる点で興味深い。というのも戦前の東アジア関係の写真は戦争写真や報道写真が主で、小型カメラ・ライカ(昭和初期に輸入、きわめて高価)を手にした謙吉のようなフットワークのいいスナップ写真は稀なのである。
謙吉の興味の対象は子どもたちやとりわけ少女、女性たち、働く庶民であることに気づかされる。謙吉は震災後の被災した庶民たちのバラックをスケッチして「バラック芸術社」に参加、考現学へ発展したし、プロレタリア芸術の築地小劇場など、出発点は常に貧しき庶民の生活への関心にあった。日本国内でもそうなのだから、大陸へわたって見るものと言えばやはり貧しき庶民の生活実相なのである。撫順の炭鉱に行けば、苦力の生活する家を撮影しスケッチする。奉天のスラムにも入ってみる。珠江デルタの蛋民の子供たち、慶州の市場の物売りなどなど。
 とりわけ彼の写真が精彩を放つのは少女を撮らえた写真である。本書P50~51の北満鉄路の車両の窓から顔を出す中国人少女、P69の哈爾浜キタイスカヤ街に座る中国人少女、P97の珠江デルタ蛋民の少女がスパスパ煙草を吸う図などは出色であろう。
 吉田謙吉は芸術家の目から「弱きもの」、子ども、女性、貧民などに目を奪われた。当時の報道写真、宣伝写真、戦争写真が「強きもの」ばかりを写している中で、彼は軍部の報道員として行っても、撮るもの見るものは戦争という大きな歴史ではなく、小さな庶民実相なのである。過去、日本は東アジアでひどいことをしたとよく言われる。本当にそうだったのか。吉田謙吉の見た東アジアの風景はそうした先入見を中和してくれる良さがある。

(担当/木谷)

著者紹介

塩澤珠江

1942年、東京生まれ。日大芸術学部卒。吉田謙吉の長女。「吉田謙吉・資料編纂室」室長。著書に『父、吉田謙吉と昭和モダン(草思社)。

監修者紹介

松重充浩
1960年、山口県生まれ。早稲田大学卒。日大文理学部史学科教授。東洋史専攻。共編著に『二〇世紀満洲歴史事典』。

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教科書を間違いなく読む力が楽しみながら身につく『考える力がつく 読解力なぞぺー』〈小学2~3年〉高濱正伸・竹谷和著

考える力がつく 読解力なぞぺー〈小学2~3年〉

高濱正伸(花まる学習会代表)・竹谷和(花まる学習会)著

◆子どもの読解力低下に、『なぞぺー』が歯止めをかける!

 大人気の学習教室・花まる学習会のメソッドがつまった学習パズル『考える力がつくなぞぺー』シリーズに、「読解力」をテーマとした問題集が加わりました。
 読解力の低下は、昨今、子どもだけでなく大人にも広がっていると、大きな注目を集めています。ここでいう読解力とは、いわゆる文学作品の読解に限らないもので、教科書を読み解き、算数の文章題を間違いなく理解するといった、知識獲得や学習、問題解決、論理的思考などのために必ず必要な言語能力までを含みます。この能力の差は、学年が進むにつれて、さまざまな教科における学習成果に大きな差を生みます。また、社会へ出てからも、メールなどのテキスト・ベースで仕事を進めることが増えた現代において、読解力の欠如は、多くの場面で問題となりがちです。
 本書は、低学年のうちに「丁寧に読んだからこそ、わかった!」「わかるから、楽しい!」という体験をしてもらうことで、読むこと全般に知的な喜び・感動を見出して、将来にわたって知識を広げる意欲をより強く持ってもらうことを目標とした問題集です。

◆学習意欲を伸ばす「わかった!」の感動は、読解力から

 本書には、遊園地の乗り物の案内や、運動会のスケジュール表、料理のレシピ、地図を使った会話など、身近なものを題材とした問題をたくさん用意しました。身近な題材の問題だから、「そこを見落としたからわからなかったのか」「ん? なにがいいたいのかな?」といったように、「読むこと」に知的格闘としての面白さを見出しやすく、知識を広げる楽しさを体験しやすいでしょう。それだけでなく、このような文章や図表が読み取れると、たとえば旅行の計画について大人と会話ができたり、さらには自分で新たに別の案を立てたりもできるようになり、世界が広がることを実感できます。
 そのような問題のほかにも、「解けない算数の文章問題はどれ?」というちょっと笑ってしまうような問題や、「一歩前で、前へならえ」の体の動きをプログラミングのように表現する問題など、おもしろい問題をたくさん掲載しています。
 『なぞぺー』シリーズは、子どもたちに「わかった!」という成功体験をしてもらうことで、どんな問題でも自分で解きたい、わかりたいという気持ちを育み、学習意欲を伸ばすことを目標としています。その「わかった!」の感動の基礎にあるのは、読解力です。本書を読んだ子どもたちが読解力を身につけ、たくさんの「わかった!」の感動を味わえるようになることを願っています。

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(担当/久保田)

 著者紹介

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)

1959年、熊本県生まれ、東京大学大学院修士課程卒業。93年に、学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック委員会理事。著書に『小3までに育てたい算数脳』(健康ジャーナル社)、『考える力がつく算数脳パズル』シリーズの『なぞぺー1~3 改訂版』『空間なぞぺー』『整数なぞぺー』『迷路なぞぺー』『絵なぞぺー』(以上、草思社)などがある。

竹谷和(たけたに・かず)
花まる学習会教材開発部所属。年中から中学3年生までの幅広い学年に対しての教材開発、そして各種教材/参考書出版にも携わる。毎年行われている「花まる作文コンテスト」統括、読書感想文講座の実施、研修等、講演会以外に「書くこと」についての楽しい経験を生み出すべく活動。主な著書に『作文・読書感想文 子どもの「書く力」は家庭で伸ばせる』(実務教育出版、高濱との共著)がある。

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いま、都市こそが生物進化のフロンティアだった!『都市で進化する生物たち』メノ・スヒルトハウゼン 著 岸由二 訳 小宮繁 訳

都市で進化する生物たち

―― “ダーウィン”が街にやってくる

メノ・スヒルトハウゼン 著 岸由二 訳 小宮繁 訳

進化といえば、「手つかずの自然で、何千年もかけて起こるもの」。こう考えている人が多いのではないでしょうか。実はそうではありません。人間が、自分たちのために作り上げた都市こそが、いま生物にとって進化の最前線になっているのです。本書は、そんな私たちの身近に起きている進化の実態に迫ります。
著者は、都市環境に対する適応を、網羅的かつ多角的に紹介しています。 その中の重要な例の1つに、「前適応」と呼ばれる現象があります。これは、都市にある環境と似た環境が自然界に存在し、その自然界の環境に適応していることで、都市の似た環境にスムーズに住み着くことができるというものです。 また、好奇心が強く、知的な性格の生物ほど、都市への適応がしやすいということも分かってきています。
一方、なぜ都市は生物にとって進化を促す場所になったのでしょうか。それには様々な理由があります。都市がもともと豊かな場所に作られるので環境として好条件であること、都市の周辺の環境が悪化して生物が流入してくること、車や毒性物質などの危険が淘汰圧を高めること、などがあります。これらの条件が重なることで、都市は生物にとって様々な生態学的な余地を提供しているのです。しかも、世界中の都市が似たように発展しかつ物流が世界的につながることで、同時多発的に似た環境が出現し、この都市進化の流れは、全世界的に生じている現象になっているのです。
このように考えると、都市は人工物であっても、生物からすれば「自然」に他なりません。本書を一読いただき、生物にとっての都市の価値について考えを巡らせていただければ幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

メノ・スヒルトハウゼン

1965年生まれ。オランダの進化生物学者、生態学者。ナチュラリス生物多様性センター(旧オランダ国立自然史博物館)のリサーチ・サイエンティスト、ライデン大学教授。著書に『ダーウィンの覗き穴:性的器官はいかに進化したか』(早川書房)などがある。

訳者紹介

岸由二(きしゆうじ)
慶應義塾大学名誉教授。生態学専攻。NPO法人代表として、鶴見川流域や神奈川県三浦市小網代の谷で〈流域思考〉の都市再生・環境保全を推進。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『リバーネーム』(リトル・モア)『「奇跡の自然」の守りかた』(ちくまプリマー新書)など。訳書にドーキンス『利己的な遺伝子』(共訳、紀伊國屋書店)ウィルソン『人間の本性について』(ちくま学芸文庫)ソベル『足もとの自然から始めよう』(日経BP)など。 鶴見川流域水委員会委員。
訳者紹介

小宮繁(こみやしげる)
翻訳家。慶應義塾大学文学研究科博士課程単位取得退学(英米文学専攻)。専門は20世紀イギリス文学。2012年3月より、慶應義塾大学日吉キャンパスにおいて、雑木林再生・水循環回復に取り組む非営利団体、日吉丸の会の代表をつとめている。訳書にステージャ『10万年の未来地球史』(岸由二監修、日経BP)。エマ・マリス『「自然」という幻想』(共訳、草思社)

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都市で進化する生物たち | 草思社

世界中のビジネスが1つの勝ちパターンに呑み込まれつつある 『なぜ、それは儲かるのか――〈フリー+ソーシャル+価格差別〉×〈データ〉が最強な理由』山口真一

なぜ、それは儲かるのか

――〈フリー+ソーシャル+価格差別〉×〈データ〉が最強な理由

山口真一 著(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授)

◆企業経営の「では、どうすればいいのか」に答える!

 「プラットフォーム化だ」「SaaS化だ」「サブスクリプションへ移行せよ」「DXを急げ」……。小売り業や製造業など、日本を支えるビジネスの多くが岐路に立たされ、方針転換を迫られてることは論を待ちません。しかし、「では、どうすればいいのか」については、様々な掛け声が先行するものの、「それをすればどうなるのか」「なぜしなければならないのか」が見えず、多くの企業が方針さえ立てられないでいるのではないでしょうか。
 本書は、その「では、どうすればいいのか」に答える本です。今後のビジネスが「フリー=無料提供」「ソーシャル=ネットワーク効果活用+ソーシャルネットワーク活用」「価格差別=多様な人に多様な価格で販売」と「データ利活用」の4つを相互作用させるビジネスモデル、つまり本書で言う「FSP-Dモデル」に支配されていくことを明らかにし、方針を決めあぐねているビジネスパーソンのための「経営戦略の未来地図」となるべく書かれました。
 ここに挙げた4つは、これまでも個別には論じられてきました。しかし、実は相互作用させることではじめて、大きな効果を発揮することはあまり知られていません。GAFA、メルカリ、LINE、Netflix、コマツなど、注目の企業はいずれも、これらの相互作用を利用するFSP-Dモデルで、高収益を上げているのです。

◆「フリー」と「価格差別」の相互作用で高収益を達成するLINEとモバイルゲーム

 ここでは「フリー」と「価格差別」を相互作用させる例を紹介しましょう。多くのフリーのサービスは、「無料会員」と、月額費用を払う「プレミアム会員」がいる「フリーミアム」モデルで運営されています。これも0円と月額数百円という2段階の価格設定があるので「価格差別」があるとも言えますが、本書では「多段階価格差別」モデルについて詳述しています。たとえば、LINEもモバイルゲームも基本無料ですが、より楽しみたい人はLINEスタンプや、ゲーム内アイテムなどの「デジタル財」を購入します。その購入量には制限がないので、LINEによるコミュニケーションや、モバイルゲームが大好きな人は、好きなだけ買える(課金できる)という「多段階価格差別」モデルになっているのです。これらの熱心なユーザは、月に数千円や、時には数万円単位でデジタル財を買うこともあります。
 この「多段階価格差別」は非常に大きな利益を生みます。詳しくは本書の内容に譲りますが、従来の一物一価や、単純なフリーミアムモデルと比べ、数倍から10倍近い収益となることがわかっています。

◆気鋭の経済学者が実証研究に基づいて描く経営未来地図

 本書の著者は『ネット炎上の研究』(勁草書房)などの著書で知られる気鋭の経済学者。自身の学術研究をもとにしているので、もし企業人が著者だったら「秘中の秘」として絶対明かさないような驚きの事実も、余すところなく書かれています。
 たとえば、上記のモバイルゲームにおいて、ユーザに課金を促す施策をやり過ぎると「課金疲れ」が起きてユーザ離れにつながることが知られています。では、その「課金疲れ」が起きる課金額の「分水嶺」は、月額いくらなのか…という点も研究されており、本書で明かされているのです。
 もう1つ、本書で明かされている研究の例として挙げたいのは、フリマアプリに関する衝撃的な事実です。メルカリのような中古売買を行うフリマアプリが普及したせいで、新品の購入が阻害されると恐れる方は多いでしょう。しかし、著者の研究により、フリマアプリの普及は新品購入を阻害するどころか、促進していることがわかりました。便利と思って新品を買ったが実際は使わなかったという場合でも、気軽に売ることができるので、新品購入の敷居が下がるからです。その経済効果の規模についても算出されており、本書に記されています。
 新しいパースペクティブの提示を、最新の実証研究に基づいて行っている本書は、すべてのビジネスパーソンが読むべき一冊と言えるでしょう。

 (担当/久保田)

著者紹介

山口真一(やまぐち・しんいち)

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。博士(経済学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報社会のビジネス論、プラットフォーム戦略など。「あさイチ」「クローズアップ現代+」(NHK)や「日本経済新聞」をはじめとして、メディアにも多数出演・掲載。組織学会高宮賞受賞(2017年)、情報通信学会論文賞受賞(2017年・2018年)、電気通信普及財団賞受賞(2018年)。主な著作に『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)、『ネット炎上の研究』(勁草書房)、『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(勁草書房)などがある。他に、日本リスクコミュニケーション協会理事、海洋研究開発機構(JAMSTEC)アドバイザー、グリー株式会社アドバイザリーボード、東洋英和女学院大学兼任講師などを務める。

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日本の学校は今のままでいいのか? 苦悩する教育現場からの真摯な問いかけ 『教師という接客業』齋藤浩 著

教師という接客業

齋藤浩 著

 文部科学省の発表によると、昨年度の公立小学校の教員採用試験の倍率は2.8倍で過去最低となりました。もっとも倍率が高かった2000年度は12.5倍ですから、驚くべき人気低迷ぶりです。また毎年、5千人前後の教員が心を病んで休職に追い込まれている実態も広く知られるようになっています。いま日本の教育現場で何が起こっているのでしょうか。長年、神奈川県内の公立学校で教鞭をとってきた著者は、問題の根源は「学校の接客業化」にあると断言し、いびつな「顧客志向」で本来の教育機能を失いかけている学校の現状に警鐘を鳴らしています。
 本書の「はじめに」で著者は、ある校長が口にした「先生も聖職者と見られている時代ではありません。子どもや保護者が大いに満足できるように、サービス業としての視点も大事にしてください」という言葉を紹介しています。著者ももちろん、子どもや保護者の考えを尊重すること自体に異存はありません。ですが、「学校においてサービス業という言葉は、『顧客、つまり子どもや保護者の望むことを極力実現させるべきだ』というニュアンスで使われている。そこにはたして教育的な意図や戦略があるのか、大いに危惧される」という問題があるのです。
〇「学校に行きたがらないので先生が迎えにきてください」
〇「ウチの子の嫌いなものは給食に出さないでください」
〇「ウチの子がクラスで一番の『良いところ』を挙げてほしい」
 こんな保護者からの要望にも対応せざるをえないのが今の学校だと著者は述べています。そんなふうに子どもたちを「お客さま扱い」することが、彼らの将来にとってプラスにならないのは火を見るより明らかなのに、先生たちは「サービス業としての視点を持て」という指示のもと、保護者の要望にノーと言うことが難しいのです。時に一部の保護者による恫喝的な要求に右往左往し、一方で教育者としての本分を果たせない無力感や苛立ちに日々さいなまれる。こんな状況が日本の先生たちを追い詰めているのだということが、本書をお読みくださればお分かりいただけるかと思います。著者は本書の結びで、今こそ教師は「とりあえず承る」という姿勢を捨て、自身のプロフェッショナリズムを確立することが不可欠だ、と述べています。教師自身のためではありません。子どもたちがより良い未来をつかめるようにしっかりと教え、導くためです。この勇気ある問題提起の書が多くの読者に届くことを願ってやみません。 
(担当/碇)

著者紹介

齋藤浩(さいとう・ひろし)
1963(昭和38)年、東京都生まれ。横浜国立大学教育学部初等国語科卒業。佛教大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。現在、神奈川県内公立小学校教諭。日本国語教育学会、日本生涯教育学会会員。これからの時代に合った学校教育の在り方を研究している。著書に『子どもを蝕む空虚な日本語』(草思社)、『理不尽な保護者への対応術』『学校のルーティンを変えてみる』(以上、学事出版)などがある。

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答えは「身体」の中にある! アスリートが「最適の動き」を作りだすために 不可欠な機能解剖学の知見が満載の一冊! 『アスリートのための解剖学』大山卞圭悟 著

アスリートのための解剖学

ーートレーニングの効果を最大化する身体の科学

大山卞圭悟 著

 本書は日本トレーニング指導者協会(JATI)の機関誌『JATI EXPRESS』に連載された「GTK現場で使える機能解剖学」の内容に加筆・修正を加えて再構成した一冊です。著者はトップアスリートとしての競技歴(砲丸投げで全日本実業団優勝など)や陸連トレーナーとしての活動歴を持つ研究者で、本書ではアスリート、トレーナー、コーチ、研究者としての豊富な経験を存分に活かして、私たち人間の身体の仕組みの謎に迫っています。
「この筋肉は何のためにあるのか?」という問題意識がこの本の出発点だと著者は述べています。身体の構造や仕組みを理解していなくても、私たちは理にかなった動作を行なうことができますが、「良い動きを戦略的につくり出したり、無数にある選択肢の中から最適のものを選び出すときには、構造に関する理解が大きな助けとなります」ということです。人間の身体、とくに運動器はなんと二百余りもの骨と六百を超える骨格筋(筋肉)によって構成されているのですが、それぞれの骨の配置や形態にはすべて機能的な背景があるのです。このような筋骨格系の機能と形態とのつながりを、一つ一つ答え合わせ的に眺めてみることで、アスリートは自身の動作に潜んでいるパフォーマンスの制限要因に気づき、より効率的な動きを手に入れることができるのです。その結果、ケガを防ぐことも可能になります。
 現代のトレーニング環境は以前とはすっかり様変わりしています。さまざまな動画共有サイトを閲覧していけば、世界トップレベルの競技者たちがどのようなトレーニングを行なっているのかを知ることも可能です。情報の入手という面ではかつてない恵まれた環境が整っているわけですが、「このような状況であるからこそ、競技者、指導者ともにそれぞれの手段について根拠を持って説明をつけ、判断していく姿勢と確かな能力が求められている」と著者は指摘しています。そして、手段に対する〈根拠づけ〉の大きな拠り所となるものとして、解剖学的な知識が不可欠になるのです。機知にとんだ解説とともに私たちを解剖学の世界に誘う本書は、一般のトレーニング愛好者を含むすべてのアスリートに、パフォーマンス向上のヒントを授けてくれる一冊になりそうです。
(担当/碇)

著者紹介

大山卞圭悟(おおやま・べん・けいご)

1970年兵庫県西脇市生まれ。93年筑波大学体育専門学群卒業。修士(体育科学)。99年筑波大学体育科学系 講師、2001年筑波大学大学院人間総合科学研究科講師を経て、13年より筑波大学体育系 准教授(現在に至る)。99年より現在まで、筑波大学陸上競技部コーチ(主に投擲競技を担当)、日本陸連医事委員会トレーナー部委員を務める。99年、01年、05年ユニバーシアード陸上競技日本選手団トレーナー。JATIトレーニング指導者養成講習会講師(担当講義「機能解剖」)。著書に『トレーニング指導者テキスト 理論編改訂版〔分担執筆〕』『コンテクスチュアルトレーニング〔監訳〕』(いずれも大修館書店)。

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