草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

現代中国の政治とビジネスの関係をこれほどヴィヴィッドに描いたものは珍しい。『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』デズモンド・シャム著 神月謙一訳

私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット

ーー中国の富・権力・腐敗・報復の内幕

デズモンド・シャム著 神月謙一訳

 本書は上海の貧しい教師の家に生まれた著者が新中国の経済発展の時代に生きて大成功をおさめ、そして習近平時代を迎えて失脚するまでを回想した半生記である。個人の体験を書いているのできわめて具体的で、こんなこと書いていいのかと思うほど実名入りの各種エピソードを交えて書いている。海外の書評などを読むと、これほど新中国でのビジネスと政治の関係を内側からヴィヴィッドに書いたものは珍しいとのことである。
 2012年に北京の環状高速線でフェラーリが激突炎上事故を起こした。運転していた青年と同乗の二人の女性は死亡、女性たちは半裸だった。男は胡錦涛の側近中の側近、令計画の息子(令谷)だった。「赤い貴族」と言われる党のエリートの腐敗した生活の象徴と騒がれ、一大スキャンダルになった。次期中央委員ともいわれた令計画はこれで失脚した(2016年に終身刑)。著者は令谷をよく知っているが、たしかに車好きではあるものの他の乱れた「赤い貴族」の子弟のような感じではなかったという。どちらかというと思索的な男だった。「私には、何かが違うような気がした」と書いている。令計画はこれが仕組まれた事件だと主張していた。
 胡春華という政治家が次世代のホープと言われている。この秋(2022年)の党大会で習近平の第三期目の続投が決まるだろうと言われているが、次は胡春華がチャイナ7(中央政治局常務委員会)に名を連ねるという噂もある。かつて、この胡春華と並び称される次世代のホープと言われたのが孫政才である。この二人は非常に似たような出世コースを歩んできた。
「彼(胡春華)と孫政才が2022年に空席となる二つのトップのポストに就くように育てられているのは明らかだった。唯一の問題は、どちらが党の総書記として頂点に立ち、どちらがナンバーツーとして総理になるかである。」(201頁)
 2017年9月、本書の主人公の一人、著者の元妻であるホイットニー・デュアン(段偉紅)が拘束され失踪したが、孫政才も同年、汚職でつかまり終身刑を受けている(本書口絵に裁判でうなだれる孫政才の写真が入っている)。孫は習近平体制の中で権力抗争に敗れ、粛清されたと見ていい。ホイットニーは温家宝首相の夫人である張培莉(張おばさん)に可愛がられ、温家宝一族の資産形成のアドバイザー的な存在だった。温家宝が退いていく中で新たに有望な政治家と組んで(後見してもらい)仕事をしていこうと考えていた。その一人が先ほどの令計画であり、もう一人がこの孫政才だった。二人とかなり親しかったというエピソードが本書には書かれているが、ホイットニーの失踪もこれらの粛清劇の一環であると考えられそうである。
 本書の終りの方で著者は次のように書いている。
「もし令計画と孫政才が粛清されなかったら、今ごろは二人とも中央政治局常務委員になっていただろう。そして、中国共産党は、1980年代に鄧小平が生み出した集団指導体制という考え方を維持していただろう。」
 毛沢東独裁という過去を反省して、集団指導体制をとり、改革開放経済下で一大成長を遂げた中国が再び習近平独裁という誤った選択に向かっているという危惧がこの本の最終的な結論のようである。

(担当/木谷)

著者紹介

デズモンド・シャム(desmond shum、沈棟)

1968年に上海で身分の低い教員の家庭に生まれる。9歳のとき香港に移住し、名門の皇仁書院に入学する。アメリカのウィスコンシン大学で金融と会計を学び、1993年に卒業、香港に戻って株式仲買人となる。その後、投資会社に勤務しているときに、のちに妻となるホイットニー・デュアンと出会い、共同で都市開発事業に乗り出す。二人は、改革開放の好景気に乗って、北京空港の物流センターや北京中心部の再開発などの事業を成功させ、莫大な資産を築く。現在はホイットニーと離婚し、一人息子とイギリスに在住。

訳者紹介

神月謙一(かみづき・けんいち)

翻訳家。青森県生まれ。東京都立大学人文学部卒業。大学教員を17年間勤めたのち現職。主な訳書に、『微生物・文明の終焉・淘汰』(ニュートンプレス)、『デジタル・エイプ:テクノロジーは人間をこう変えていく』(クロスメディア・パブリッシング)など。

Amazon:私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット:デズモンド・シャム著 神月謙一訳:本

楽天ブックス: 私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット - 中国の富・権力・腐敗・報復の内幕 - デズモンド・シャム - 9784794225993 : 本

元素を知れば、複雑な世界が面白いほどわかる!『世界の見方が変わる元素の話』ティム・ジェイムズ 著 伊藤伸子 訳

世界の見方が変わる元素の話

ティム・ジェイムズ 著 伊藤伸子 訳

宇宙はどう誕生したのか。なぜ携帯電話で通信できるのか。環境負荷を減らすにはどうしたらよいのか……本書は、この世界の最小の材料である「元素」が、身近な疑問から世界規模の課題まで、どのように世界を成り立たせているのかという「世界のレシピ」について紹介するものです。

■元素のおもしろエピソードを選りすぐり

突然ですがみなさんは、リンはどのようにして発見されたかご存じでしょうか。実は、尿が金色なので、これを煮詰めれば金を得られるのではないかと考えた錬金術師が、それを実行した結果発見したのです。いきなりこんな話で始まって恐縮ですが、これは目に見えている現象が理解できなくても、元素について理解すると途端にわかるという、化学の面白さを端的に表しているエピソードだといえます。
本書は、そのエピソードのセレクトの秀逸さと、語り口のユーモアにおいて、これまでの化学本とは一線を画しています。例えば、元素のベスト10を決めようと思ったけど、傑出した9つと、ものすごく役立たない1つを紹介することにした結果、「ここではっきり言おう。ジスプロシウムは人類の歴史から取りのぞいても、いっさい何も変わらない唯一の元素である。周期表で最もつまらない元素であるジスプロシウムに敬意を表する。」とコメントしてしまう著者のセンスに脱帽です。これほど面白がって読める化学の読み物というのはそうお目にかかれないことでしょう。

■化学の教養もしっかり身につく

とはいえ、本書ではただ面白い話を紹介しているのではなく、それらの逸話をうまく構成して、元素の発見の歴史、周期表が現在の形に整えられてゆく過程もしっかり押さえられています。笑いながら読んでいるうちに、元素とこの世界の関係が身についてしまっていること請け合いです。

(担当/吉田)


目次
第1章  炎を追いかけた人々
第2章 これ以上分割できないもの
第3章 マシンガンとプディング
第4章 原子はどこから来たのか
第5章 マス目ごとに
第6章 量子力学が危機を救う
第7章 大きな音をとどろかせるもの
第8章 錬金術師の夢
第9章 急進派の原子
第10章 酸、結晶、光
第11章 生きている! たしかに生きている!
第12章 世界を変えた九つの元素(と、変えなかった元素)

 

著者紹介

ティム・ジェイムズ(Tim James)

高校で科学の教師として働くかたわら、ユーチューバー、ブロガー、インスタグラマーとしても活躍。ナイジェリア生まれ。宣教師のもとで育ち、15歳で科学の魅力に気づいて以来、科学に恋をしつづけている。化学の修士号を取得(専門は計算量子力学)後、すぐに教師の職につき、現在は高校だけでなくさまざまな場所で科学を教えている。

訳者紹介

伊藤伸子(いとう・のぶこ)

翻訳者。主な訳書に、『世界を変えた10人の女性科学者』『ビジュアル大百科 元素と周期表』(以上化学同人)、『周期表図鑑』(ニュートンプレス)、『もっと知りたい科学入門』(東京書籍)、『ワインの味の科学』(エクスナレッジ)などがある。

Amazon:世界の見方が変わる元素の話:ティム・ジェイムズ 著 伊藤伸子 訳:本

楽天ブックス: 世界の見方が変わる元素の話 - ティム・ジェイムズ - 9784794225924 : 本

「自分の足」だけを頼りに、ゆっくり自由に旅することで人生を取り戻す。『歩き旅の愉しみ 風景との対話、自己との対話』ダヴィッド・ル・ブルトン著 広野和美 訳

歩き旅の愉しみ

――風景との対話、自己との対話

ダヴィッド・ル・ブルトン著 広野和美 訳

 本書はフランスの社会学者が、〈歩いて移動する〉という行為と、そこから生まれる感慨について味わいのある文章でつづった思索の書です。自身もまた歩き旅の愛好者である著者は、これまでのみずからの経験に加えて古今東西のさまざまな書物の一節も引用しながら、歩き旅の豊かな可能性について述べています。
《ルソーは、その著書『エミール』で旅について言及し、そのことをうまく表現している。「わたしたちは、都合のいいときに出発する。好きなときに足を休める。うんと歩きたいと思えばうんと歩くし、そう歩きたくなければすこししか歩かない。わたしたちはその土地のすべてを観察する。右へ曲がったり、左へ曲がったりする。わたしたちの心をひくあらゆるものをしらべてみる。どこでも見晴らしのいいところには足をとめる」。これこそが、歩き旅の大切な哲学であり、その人その人にふさわしい大自然の中での歩き方だ。》(本書より)
 さまざまなテクノロジーのおかげで、現代人は驚くほど容易に目的地に到達することができるようになりましたが、著者は歩き旅において大切なのは目的地にたどりつくことではなく、一歩一歩踏みしめて歩くことだといいます。そうすることで「道は無限に続くこと」「たくさんの生き方があること」、そして自分には「経験してみたかったことがたくさんあること」に気づくのです。私たちの日常を支配している効率やスピード感は、ここでは必要なくなるのです。
 そして歩き旅はまた、今は亡き大切な存在を思い出すよすがにもなると著者は書いています。フランスの旅行作家シルヴィアン・テッソンの「なぜ亡くなった者の思い出は、風に揺れる木の枝や丘の尾根の連なりのような何でもない光景と結びついているのだろう?」という一文を引用しながら、著者は「道を歩きながら抱くはかない幸福感は、かつて大切だったけれども今はこの世にいない親しい者たちの振る舞い、微笑み、笑顔を思い出させる。道歩きは過去をよみがえらせ、自分の生き方を考え直させ、人生のさまざまな瞬間に自分のそばにいてくれた人たちのことを思い出させる」と述べています。歩き続けることで研ぎ澄まされた感覚によって、わたしたちは自分の重心を再び確認するのかもしれません。あわただしい日々の暮らしの中ですり減った心を一休みさせるのに、好個の一冊といえそうです。

(担当/碇)

著者紹介

ダヴィッド・ル・ブルトン(David Le Breton)

ストラスブール大学教授(社会学・人類学)。フランス大学研究院の上級会員、ストラスブール大学高等研究院の正教授。人間の身体や感覚の変容、青少年の問題行動についての研究に取り組む。歩き旅の魅力を考察した著書やRire. Une anthropologie du rieur(笑う:笑いの人類学)、La saveur du monde(世界の味わい)など多数がある。本書は初の邦訳書となる。

訳者紹介

広野和美(ひろの・かずみ)

フランス語翻訳者。大阪外国語大学フランス語科卒。訳書に『フランスの天才学者が教える脳の秘密』(TAC出版)、『フランス式おいしい肉の教科書』『フランス式おいしい調理科学の雑学』(パイ インターナショナル)、共訳書に『0 番目の患者』(柏書房)、『世界で勝てない日本企業』(幻冬舎)などがある。

Amazon:歩き旅の愉しみ 風景との対話、自己との対話:ダヴィッド・ル・ブルトン著 広野和美 訳:本

楽天ブックス: 歩き旅の愉しみ - 風景との対話、自己との対話 - ダヴィッド・ル・ブルトン - 9784794225917 : 本

人間はなぜこんなに賢く、こんなに愚かなのか?『人はどこまで合理的か(上・下)』スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳

人はどこまで合理的か(上・下)

スティーブン・ピンカー 著 橘明美

■『21世紀の啓蒙』『暴力の人類史』の著者による最新作。全米ベストセラー

 本書は2021年に刊行された全米ベストセラー、Rationality: What It Is, Why It Seems Scarce, Why It Mattersの邦訳です。
近年、フェイクニュース陰謀論がはびこり、党派的議論も横行していると、多くの人が嘆くようになりました。その一方で、IT、人工知能、医療などの科学技術は急速な進歩を遂げ、新型コロナワクチンはわずか1年足らずで開発されました。この状況は、2つのことを示しています。
 1つは、人間の合理性には、確かにとても大きな力があるということ。もう1つは、人間はつねに合理的なわけではなく、注意を怠ればたちまち非合理に陥るということ。どうすれば、私たちは、非合理に陥らず、より合理的に思考できるようになるのでしょうか。

■合理的思考の最強のツール群を幅広い学問分野から抽出し、伝授する初めての本

 この1000年あまりの間に、人類は、本来持っている合理性を拡張すべく、数多くの合理性ツールをつくり出してきました。そのツールとは、「論理」「批判的思考」「確率・統計」「意思決定理論」「ゲーム理論」などの幅広い学問分野から生まれた、合理的に思考するためのさまざまな“道具”で、さまざまな判断の基準や枠組み、考え方のルールを提供してくれます。
 さらに、「人はなぜ・どのように、非合理に陥るのか」についても、心理学や行動経済学などの分野で研究されており、さまざまな知見が蓄積されてきました。この研究は非常に活発で、ノーベル賞が与えられるような大きな発見も得られています。非合理に陥りやすい状況・条件などを教えてくれるものと言えるでしょう
 合理性のツールや、非合理に関する知見は、私たちが非合理に陥ることを防ぐために大変、役立つものです。危険な選択を修正し、疑わしい主張を値踏みし、おかしな矛盾に気づき、非合理に陥りそうな場面を事前に警戒できるようになるなど、人生にとっても社会にとっても、非常に実用的な意味を持つ知識です。にもかかわらず、これらツール・知見をすべてまとめて説明する本はこれまでどこにもありませんでした。本書はそれを実現した初めての本です。
 本書の元となったのは、バーバード大学で著者が受け持つ一般教養の講義。そのため、専門的な知識ナシで読み進められるように書かれています。人生と社会をよりよいものにするために、多くの方々、特に若い方に読んでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

 

■上巻目次

序文

第1章 人間という動物はどのくらい合理的か
■狩猟採集民は驚くほど合理的である
■「なぜ人間は時に非合理になるか」は研究されている
■人間の非合理さを露呈させる簡単な数学の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な論理学の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な確率の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な予測の問題
■認知的錯覚と「目の錯覚」の類似点

第2章 合理性と非合理性の意外な関係
■「理性に従う」ことはかっこ悪いのか
■理性なしにはあらゆる議論が不可能
■理性は妥当かつ必要だと考えられる理由
■理性は情念の奴隷? 情念が理性の奴隷?
■自分の中にある複数の目的間の葛藤
■今の自分と未来の自分とのあいだの葛藤
■あえて無知でいるほうが合理的な場合もある
■無能や非合理でいることが合理的な場合
■考えることや訊ねることがタブーとされる場合
■道徳は合理的な根拠をもちうるか
■理性の誤りも理性で正すことができる

第3章 論理の強さと限界はどこにあるか
■論理の力で論争は解決できるか
■「もし」や「または」の論理学上の意味は通常と異なる
■形式論理のよくある誤用の例
■論理の飛躍や誤謬に気づく方法「形式的再構成」
■非形式的誤謬のさまざまなバリエーション
■論理が万能でない理由―論より証拠
■論理が万能でない理由―文脈や予備知識の無視
■論理が万能でない理由―家族的類似性
ニューラルネットワークで家族的類似性を扱う
■人間の理性は家族的類似性も論理も扱える

第4章 ランダム性と確率にまつわる間違い
■偶然と不確実にどう向き合うべきか
■ランダム性とは何か。それはどこからくるのか
■「確率」の意味は複数あり混乱の元になっている
■利用可能性バイアスで確率の見積もりを誤る
■「大衆の怒り」はバイアスだけでは説明不能
■ジャーナリズムがバイアスを増幅させる理由
■連言確率、選言確率、条件付き確率の混同
■確率にまつわる誤謬は専門家でも気づきにくい
■〈AまたはB〉の確率と〈Aでない〉確率の計算
■条件付き確率の計算は混乱しやすいが重要
■〈AのときのB〉の確率と〈BのときのA〉の確率
■後知恵確率を事前確率と取り違える誤謬
■人間の「かたまり」を見つける能力が誤謬を生む
■それでも人は幸運の連鎖に魅了される

第5章 信念と証拠に基づく判断=ベイズ推論
ベイズ推論は全人類が学ぶべき理性の道具
■基準率無視と代表性ヒューリスティック
■基準率無視が科学の再現性危機の根源
■基準率を無視するほうが合理的である場合
ベイズ推論を直観的に使えるようにするには

原注

■下巻目次

第6章 合理的選択理論は本当に合理的か
■悪者にされ嫌われてきた「合理的行為者」の正体
■合理的行為者が満たす7つの公理
■「限界効用の逓減」と保険とギャンブルと大惨事
■共約可能性・推移性の公理違反を犯す場合
■非合理と言い切れない、独立性の公理違反
■「プロスペクト理論」による公理違反と合理性
■合理的選択が本当に合理的なことはやはり多い

第7章 できるだけ合理的に真偽を判断する
■不完全な情報を基に合理的な決定を下すには
■信号とノイズを見分けるのはなぜ難しいか
■反応バイアスを最適に設定する方法
■測定の感度を上げればミスも誤警報も減る
■法廷における信号検出の精度は十分か
■科学研究の「再現性の危機」と信号検出理論

第8章 協力や敵対をゲーム理論で考える
ゲーム理論なしでは社会の重大問題に向き合えない
■じゃんけん・ゼロサムゲーム・混合戦略・ナッシュ均衡
■猫に鈴・非ゼロサムゲーム・ボランティアのジレンマ
■待ち合わせ・調整ゲーム・フォーカルポイント
■チキンゲームとエスカレーションゲームへの対処法
囚人のジレンマの克服法「掟」「しっぺ返し戦略」
囚人のジレンマの多人数版「共有地の悲劇

第9章 相関と因果を理解するツールの数々
■違うとわかっていても混同する相関と因果
■相関があるかどうかは散布図と回帰分析でわかる
■特異な現象の繰り返しは少ない「平均への回帰」
■実は答えるのが意外に難しい「因果関係とは何か」
■因果をつなぐのは一本道ではなくネットワーク
■その相関は因果関係か――ランダム化と自然実験
■その相関は因果関係か――マッチング、重回帰など
■「主効果」「交互作用」で因果を賢明に考察する
■あらゆる手段を駆使しても人間は予測しきれない

第10章 なぜ人々はこんなに非合理なのか
■理性の衰退を懸念させるデマや陰謀論、迷信の流布
■たわごとの蔓延に関する説明にならない説明
■望ましい結論に誘導する「動機づけられた推論」
■党派性に侵された議論「マイサイドバイアス」
■非合理な両極化を引き起こす原因は何か
陰謀論は「神話のマインドセット」の信念
■人はなぜ疑似科学・超常現象などに騙されるのか
■エンタメとしての都市伝説・フェイクニュース
陰謀論が蔓延しやすいのには理由がある
■社会から非合理を減らすためにできること
■「合理性の共有地の悲劇」を防ぐ制度も必要

第11章 合理性は人々や社会の役に立つのか
■理性は人生とこの世界をより良いものにするか
■合理的に判断することは人生の役に立つのか
■世界の物質的進歩は合理性の成果だ
■道徳の進歩も合理性によりもたらされたのか
■道徳を進歩させた合理的で健全な議論の数々

参考文献

原注

誤謬の索引・人名索引

 

著者紹介

スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)

ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学マサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『21世紀の啓蒙』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。

訳者紹介

明美(たちばな・あけみ)

英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学卒。訳書にスティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』(草思社、共訳)、ジェイミー・A・デイヴィス『人体はこうしてつくられる』(紀伊國屋書店)、フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』(太田出版)ほか。

Amazon:人はどこまで合理的か(上):スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳:本

Amazon:人はどこまで合理的か(下):スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳:本

楽天ブックス: 人はどこまで合理的か 上 - スティーブン・ピンカー - 9784794225894 : 本

楽天ブックス: 人はどこまで合理的か 下 - スティーブン・ピンカー - 9784794225900 : 本

鉄道開業150周年。電車もいいけど、駅のデザインにも注目してみませんか?『東京の名駅舎』大内田史郎 著 傍島利浩 写真

東京の名駅

大内田史郎 著 傍島利浩 写真

皆さんは、電車で目的の駅の改札を出た後に、うしろを振り返ったことがあるでしょうか?
誰もが利用しているのに、普段は見過ごされている駅舎。
しかし、そこには設計者がデザインに託したさまざまな思いや考え方が込められています。
本書は、そんな駅の「建築としてのデザイン」に着目した、ありそうでなかった書籍です。
東京圏の、70以上の駅舎を収録しています。いくつか、登場する駅舎を紹介します。

まずは、東京の駅といえば東京駅ですが、これは駅舎のカテゴリーに限らず、「様式建築の横綱」と呼ぶことができます。また、同じレトロな建築でも、小湊鐵道のように、壮大なデザインではないけれど、風土にマッチするような佇まいのものもあります。
また、第一線で活躍する安藤忠雄隈研吾といった建築家たちが、一級の現代建築として設計した、高輪ゲートウェイ駅などの駅舎も収録されています。さらには、竜宮城のような片瀬江ノ島駅、SL機関車の形をした真岡駅など、普通の建物ではありえないような形のものさえも存在しているのが、駅という建築の面白さです。

駅舎と一口に言っても、そこには非常に豊かな形が存在しています。それは、駅舎の機能が満たされていれば、そのほかは案外自由であるということなのかもしれません。また、形はさまざまに異なっていても、そのまちの歴史や地域性に見事に合うように計画されているという点ではどの駅でも共通しています。駅舎とは、そのまちと鉄道をつなぐ形としてデザインされているのです。
この本を読んだ後は、ぜひ改札を出てから後ろを振り返ってみてください。
そこには、そのまちの名建築としての駅の姿が見えるはずです。

(担当/吉田)

 

■風格のある様式建築
旧新橋停車場、東京駅、両国駅、旧原宿駅南甲府駅…

■スタイリッシュな現代建築
高輪ゲートウェイ駅、銀座線渋谷駅、日立駅上州富岡駅

■最新の木造駅舎
戸越銀座駅旗の台駅参宮橋駅

インパクトのある個性的な駅舎
片瀬江ノ島駅真岡駅国道駅土合駅

帯文:藤森照信

 

著者紹介

大内田史郎(おおうちだ・しろう)

工学院大学建築学部建築デザイン学科教授 。1974年静岡県生まれ。1999年工学院大学大学院工学研究科修士課程修了、東日本旅客鉄株式会社入社。2001年から2012年まで東京駅丸の内駅舎の保存・復原に携わり、2006年に「東京駅丸ノ内本屋の意匠と技術に関する建築史的研究」にて東京大学大学院から博士(工学)の学位を授与。2014年工学院大学建築学部建築デザイン学科准教授、2020年から現職。一般社団法人DOCOMOMO Japan 理事。著書に『東京建築遺産さんぽ』(エクスナレッジ)、共著に『建築学の広がり』(ユウブックス)がある。

写真家紹介

傍島利浩(そばじま・としひろ)

1965年大阪生まれ。1991年より藤塚光政に師事。1996年よりフリーランス。建築、インテリア、プロダクト、アート、人物を中心とした雑誌、広告、竣工写真などを手がける。1999年、写真展「都市放浪 PART l」(セラトレーディング)開催。2000年、写真展「都市放浪 PART ll」(セラトレーディング)開催。2006年、株式会社プンクトゥム設立。2016年、iPhone写真展「iSnap 4s+6」(ANOTHER FUNCTION)開催。共著に「日本の不思議な建物 101」(エクスナレッジ)、「日本の美しい酒蔵」(エクスナレッジ)、「東京建築遺産さんぽ」(エクスナレッジ)、「奇跡の住宅 旧渡辺甚吉邸と室内装飾」(LIXIL出版)がある。


Amazon:東京の名駅舎:大内田史郎 著 傍島利浩 写真:本

楽天ブックス: 東京の名駅舎 - 大内田 史郎 - 9784794225887 : 本

その目の異常、「心の叫び」かもしれません!『心をラクにすると目の不調が消えていく』若倉雅登 著

心をラクにすると目の不調が消えていく

若倉雅登 著(井上眼科病院 名誉院長・心療眼科医)

■目からの警告サインを無視してはいけない!

 まばたきが増える、まぶしい、目が痛い、急激な視力低下……。目に明らかな不具合があるのに、眼科の検査では異常が見つからない。最近こうした原因不明の目の不調を訴える人が増えています。重症化するとまぶたがうまく開閉できない、光がまぶしくて室内でもサングラスをかけざるを得ない、目を少し動かすだけで吐き気がするなど、日常生活に支障をきたすほど深刻な状態となると言います。
 著者は、その原因が、「眼球」自体にはなく、視覚を司る「目と脳の連携システム」にあると指摘します。いったい「目と脳の連携システム」に何が起こっているのでしょうか。

■脳の働きが落ちると、なぜ目と心に不具合が出るのか

 私たちは普段、無意識のうちに目と脳が緻密に連携することによって、「ものを見る(判断する)」ということをしています。しかし、近年「目」をめぐる環境は激変し、近距離でのスマホタブレットの長時間の使用により、私たちの目はつねに、人工的な強い光と人工画像による強い刺激にさらされるようになったのです。
 今や目から脳へと入る情報量はかつてないほど膨大になり、そのため脳に過度なストレスがかかっているというのです。そして、目と脳の酷使により、脳の働きが落ちているのです。
 著者によれば、脳の働きが落ちることで、目と脳の連携システムに不具合が出て、目や目の機能が低下したり、精神状態が不安定となり、うつの症状が出ることもあると強く警鐘を鳴らします。そのため普段からの「目の使い方」の見直しが急務だと言います。

■目の使い方を見直し、人生の質を向上させる

 本書は目の不調に悩む方に向け、眼科で診断がつかない症例を数多く治療してきた神経眼科・心療眼科の第一人者である著者が、目と脳との関係に踏み込んで、不調の根本原因をやさしく解きほぐします。さらには、「きょろきょろ運動」や「視環境の整え方」など、普段から目と心を健康に保つ秘訣や方法などもわかりやすく教えてくれます。
 ぜひ多くの方に知っていただければと願っております。

(担当/吉田)


■目次
1章    あなたの目と脳は疲れ切っている
・急増する原因不明の目の不調 
・ものは眼球だけで見ているわけではない 
スマホで人間の視環境が激変 
・目からの情報過多は脳への負担を増やす 
・ものを見るプロセスは脳に入ってからが本番 
・目と脳の深いつながり 
・脳のバランス制御システムを崩しやすい現代社会 
・目の疲れや痛み、不快症状は脳から来ている 
・心療眼科的アプローチの重要性

2章    あまりに目を酷使する現代人の悪習慣
スマホで目の使い方が単一に 
・近視化した状態はすぐには戻らない 
・過剰な近見は自律神経のバランスも崩しやすい 
スマホが目に悪いのは「光」のせいでもある 
・「まぶしい」と訴える患者さんが一番多い 
・視機能のパターン化は脳のエネルギーを奪う? 
・子どものスマホ依存、ゲーム依存はとくに危険 
・新たな現象「スマホ内斜視」「子どもの心因性の視力低下」 
・目の持久力の低下、集中力の低下が問題 
・眼精疲労は単なる目の疲れではない 
・目からの警告サインを無視してはいけない 
・見え方の質の低下は心の不調に直結する 

3章    目の不調の裏にある心の異常
・感覚で感じる不調は数値化できない 
・心療眼科で扱うもの 
・「視野が狭い」の背景に隠れていたのは? 
・心の叫びが視力低下につながることがある 
・生活の質も心の質も低下する目の病気「眼瞼けいれん」 
・視界にノイズが生じてしまう「小雪症候群」 
・原因不明の現代病はすべてつながっている? 
・心を元気にするための薬が目の不調をつくっている 
・薬の影響と眠れないことへの恐怖 

4章    心がラクになると、目も癒える
・疲れたら思い切って休む、心の叫びを無視しない 
・ストレスへの耐性を少しでも上げていく 
・自分にあった明るさ、視環境をつくろう 
・きょろきょろ運動で目と脳の使い方に変化を 
前頭葉を活性化させよう 
・自分の症状に納得することの大切さ 
・むずかしい病気との付き合い方 
・生体リズムを尊重し、自然回復力を取り戻す 
・睡眠不安、睡眠依存から抜け出そう 
・弱音を吐く、自分をほめる 
セーフティネットが心の安寧をもたらす 

5章    視界良好、快適な目が人生の質を向上させる
・目も老いる 
・老眼だけではない、目の加齢変化 
・症状にとらわれない、こだわらない 
・病気も人生も俯瞰すると気持ちがラクになる 
・「医者任せ」をやめてみる 
・患者と医師のあるべき関係 
・病気に人生を振り回されてはいけない 
・大事にしたい「後ろに前進する」という考え方

著者紹介

若倉雅登(わかくら・まさと)

井上眼科病院名誉院長。1949年東京生まれ。80年北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年井上眼科病院院長、12年から現職。07年より日本心療眼科研究会共同代表、14年NPO法人目と心の健康相談室を立ち上げ、現在副理事長。その他東京大学非常勤講師、慶應義塾大学非常勤講師、北里大学客員教授日本神経眼科学会理事長を歴任。現在は井上眼科病院で神経眼科、心療眼科を専門とした予約診療、眼球使用困難症調査研究(厚労省)に関わるほか、著作、講演、相談室や患者会などでのボランティア活動を行っている。

Amazon:心をラクにすると目の不調が消えていく:若倉雅登 著:本

楽天ブックス: 心をラクにすると目の不調が消えていく - 若倉 雅登 - 9784794225870 : 本

どうして私には好きになってくれる相手がいないんだろう。『失われたモテを求めて』黒川アンネ著

失われたモテを求めて

黒川アンネ 著

 本書は、小さい頃からずっと太っていることがコンプレックスで、自分に自信を持てず、異性との交際に消極的だった著者が、モテを求めて奮闘する2年半の様子を綴った記録です。
 シャネルの口紅を買いに行ったり、映画や本からモテのヒントを学んだり、ランニングをしたり、マッチングアプリ用に資生堂フォトスタジオで写真を撮ったり……。
 ある時は、整った顔立ちをしたファッションセンスの良い友人から「一人に執着してはダメだよ、次に行かなきゃ」「1年に100人と会え」とアドバイスをもらい、飲み会で知り合った男性を誘ってみます。
 またある時は、お笑い芸人が六本木ヒルズの多目的トイレで不倫をしていたという報道に接し、「私は(多目的トイレに呼び出されたら)行く側の人間かもしれない」と、恋愛関係の非対称性について考察を深めます。
 そしてまたある時は、「エロいと思ってほしいからパイパンにしているけど、実際には自分がすごく快適」との友人の勧めを受けて、陰毛の永久脱毛にチャレンジ。
 最終章では、海外の友人から精子提供を約束され、不妊治療を体験、一つの卵子を凍結するに至ります。
 「モテ」とは一体何なのか。なぜ人は誰かを求めるのか――。そんな根源的なテーマに取り組む著者の姿は決して他人事ではありません。誰もが一度はモテに悩まされたはず。是非ご一読ください。

(担当/渡邉)

【目次】
1 臆することなくシャネルで口紅を買う
2 失われたモテ
3 「ともかく人に会え」
4 子どもと避妊
5 どうしてモテたいの?
6 モテの途中下車?
7 一人でいること
8 (ソフィア・ベルガラに学ぶ)自信を持つこと
9 モテは生死に直結する―就職活動について
10 新型コロナ時代のシングル女性
11 明るい部屋でのおこもり生活
12 コロナ禍でモテを世界中で味わってみたら……
13  短絡的ハッピーエンド思考について
14 三浦春馬なき世界で
15 内から輝きを放つ、自信が香り立つ顔が私もほしい
16 思い直すとしっかりと傷ついている、そんな経験
17 「Go To行きませんか?」
18 銀座キラキラ生活で穏やかさの感触を手に入れる
19 どうして私たちはパートナーが欲しいと思うのだろう?
20 「パイパン」問題
21 ラフォーレ原宿で膣トレボール購入
22 一つの卵子を凍結できました
あとがき

 

著者紹介

黒川アンネ(くろかわ・あんね)

編集者、翻訳者、コラムニスト。1987年生まれ。一橋大学社会学部在学中にドイツに派遣留学。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。現在は都内の出版社勤務。

Amazon:失われたモテを求めて:黒川アンネ著:本

楽天ブックス: 失われたモテを求めて - 黒川 アンネ - 9784794225863 : 本