人はどこまで合理的か(上・下)
スティーブン・ピンカー 著 橘明美 訳
■『21世紀の啓蒙』『暴力の人類史』の著者による最新作。全米ベストセラー
本書は2021年に刊行された全米ベストセラー、Rationality: What It Is, Why It Seems Scarce, Why It Mattersの邦訳です。
近年、フェイクニュースや陰謀論がはびこり、党派的議論も横行していると、多くの人が嘆くようになりました。その一方で、IT、人工知能、医療などの科学技術は急速な進歩を遂げ、新型コロナワクチンはわずか1年足らずで開発されました。この状況は、2つのことを示しています。
1つは、人間の合理性には、確かにとても大きな力があるということ。もう1つは、人間はつねに合理的なわけではなく、注意を怠ればたちまち非合理に陥るということ。どうすれば、私たちは、非合理に陥らず、より合理的に思考できるようになるのでしょうか。
■合理的思考の最強のツール群を幅広い学問分野から抽出し、伝授する初めての本
この1000年あまりの間に、人類は、本来持っている合理性を拡張すべく、数多くの合理性ツールをつくり出してきました。そのツールとは、「論理」「批判的思考」「確率・統計」「意思決定理論」「ゲーム理論」などの幅広い学問分野から生まれた、合理的に思考するためのさまざまな“道具”で、さまざまな判断の基準や枠組み、考え方のルールを提供してくれます。
さらに、「人はなぜ・どのように、非合理に陥るのか」についても、心理学や行動経済学などの分野で研究されており、さまざまな知見が蓄積されてきました。この研究は非常に活発で、ノーベル賞が与えられるような大きな発見も得られています。非合理に陥りやすい状況・条件などを教えてくれるものと言えるでしょう
合理性のツールや、非合理に関する知見は、私たちが非合理に陥ることを防ぐために大変、役立つものです。危険な選択を修正し、疑わしい主張を値踏みし、おかしな矛盾に気づき、非合理に陥りそうな場面を事前に警戒できるようになるなど、人生にとっても社会にとっても、非常に実用的な意味を持つ知識です。にもかかわらず、これらツール・知見をすべてまとめて説明する本はこれまでどこにもありませんでした。本書はそれを実現した初めての本です。
本書の元となったのは、バーバード大学で著者が受け持つ一般教養の講義。そのため、専門的な知識ナシで読み進められるように書かれています。人生と社会をよりよいものにするために、多くの方々、特に若い方に読んでいただきたい一冊です。
(担当/久保田)
■上巻目次
序文
第1章 人間という動物はどのくらい合理的か
■狩猟採集民は驚くほど合理的である
■「なぜ人間は時に非合理になるか」は研究されている
■人間の非合理さを露呈させる簡単な数学の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な論理学の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な確率の問題
■人間の非合理さを露呈させる簡単な予測の問題
■認知的錯覚と「目の錯覚」の類似点
第2章 合理性と非合理性の意外な関係
■「理性に従う」ことはかっこ悪いのか
■理性なしにはあらゆる議論が不可能
■理性は妥当かつ必要だと考えられる理由
■理性は情念の奴隷? 情念が理性の奴隷?
■自分の中にある複数の目的間の葛藤
■今の自分と未来の自分とのあいだの葛藤
■あえて無知でいるほうが合理的な場合もある
■無能や非合理でいることが合理的な場合
■考えることや訊ねることがタブーとされる場合
■道徳は合理的な根拠をもちうるか
■理性の誤りも理性で正すことができる
第3章 論理の強さと限界はどこにあるか
■論理の力で論争は解決できるか
■「もし」や「または」の論理学上の意味は通常と異なる
■形式論理のよくある誤用の例
■論理の飛躍や誤謬に気づく方法「形式的再構成」
■非形式的誤謬のさまざまなバリエーション
■論理が万能でない理由―論より証拠
■論理が万能でない理由―文脈や予備知識の無視
■論理が万能でない理由―家族的類似性
■ニューラルネットワークで家族的類似性を扱う
■人間の理性は家族的類似性も論理も扱える
第4章 ランダム性と確率にまつわる間違い
■偶然と不確実にどう向き合うべきか
■ランダム性とは何か。それはどこからくるのか
■「確率」の意味は複数あり混乱の元になっている
■利用可能性バイアスで確率の見積もりを誤る
■「大衆の怒り」はバイアスだけでは説明不能
■ジャーナリズムがバイアスを増幅させる理由
■連言確率、選言確率、条件付き確率の混同
■確率にまつわる誤謬は専門家でも気づきにくい
■〈AまたはB〉の確率と〈Aでない〉確率の計算
■条件付き確率の計算は混乱しやすいが重要
■〈AのときのB〉の確率と〈BのときのA〉の確率
■後知恵確率を事前確率と取り違える誤謬
■人間の「かたまり」を見つける能力が誤謬を生む
■それでも人は幸運の連鎖に魅了される
第5章 信念と証拠に基づく判断=ベイズ推論
■ベイズ推論は全人類が学ぶべき理性の道具
■基準率無視と代表性ヒューリスティック
■基準率無視が科学の再現性危機の根源
■基準率を無視するほうが合理的である場合
■ベイズ推論を直観的に使えるようにするには
原注
■下巻目次
第6章 合理的選択理論は本当に合理的か
■悪者にされ嫌われてきた「合理的行為者」の正体
■合理的行為者が満たす7つの公理
■「限界効用の逓減」と保険とギャンブルと大惨事
■共約可能性・推移性の公理違反を犯す場合
■非合理と言い切れない、独立性の公理違反
■「プロスペクト理論」による公理違反と合理性
■合理的選択が本当に合理的なことはやはり多い
第7章 できるだけ合理的に真偽を判断する
■不完全な情報を基に合理的な決定を下すには
■信号とノイズを見分けるのはなぜ難しいか
■反応バイアスを最適に設定する方法
■測定の感度を上げればミスも誤警報も減る
■法廷における信号検出の精度は十分か
■科学研究の「再現性の危機」と信号検出理論
第8章 協力や敵対をゲーム理論で考える
■ゲーム理論なしでは社会の重大問題に向き合えない
■じゃんけん・ゼロサムゲーム・混合戦略・ナッシュ均衡
■猫に鈴・非ゼロサムゲーム・ボランティアのジレンマ
■待ち合わせ・調整ゲーム・フォーカルポイント
■チキンゲームとエスカレーションゲームへの対処法
■囚人のジレンマの克服法「掟」「しっぺ返し戦略」
■囚人のジレンマの多人数版「共有地の悲劇」
第9章 相関と因果を理解するツールの数々
■違うとわかっていても混同する相関と因果
■相関があるかどうかは散布図と回帰分析でわかる
■特異な現象の繰り返しは少ない「平均への回帰」
■実は答えるのが意外に難しい「因果関係とは何か」
■因果をつなぐのは一本道ではなくネットワーク
■その相関は因果関係か――ランダム化と自然実験
■その相関は因果関係か――マッチング、重回帰など
■「主効果」「交互作用」で因果を賢明に考察する
■あらゆる手段を駆使しても人間は予測しきれない
第10章 なぜ人々はこんなに非合理なのか
■理性の衰退を懸念させるデマや陰謀論、迷信の流布
■たわごとの蔓延に関する説明にならない説明
■望ましい結論に誘導する「動機づけられた推論」
■党派性に侵された議論「マイサイドバイアス」
■非合理な両極化を引き起こす原因は何か
■陰謀論は「神話のマインドセット」の信念
■人はなぜ疑似科学・超常現象などに騙されるのか
■エンタメとしての都市伝説・フェイクニュース
■陰謀論が蔓延しやすいのには理由がある
■社会から非合理を減らすためにできること
■「合理性の共有地の悲劇」を防ぐ制度も必要
第11章 合理性は人々や社会の役に立つのか
■理性は人生とこの世界をより良いものにするか
■合理的に判断することは人生の役に立つのか
■世界の物質的進歩は合理性の成果だ
■道徳の進歩も合理性によりもたらされたのか
■道徳を進歩させた合理的で健全な議論の数々
参考文献
原注
誤謬の索引・人名索引
著者紹介
スティーブン・ピンカー(Steven Pinker)
ハーバード大学心理学教授。スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学でも教鞭をとっている。認知科学者、実験心理学者として視覚認知、心理言語学、人間関係について研究している。進化心理学の第一人者。主著に『言語を生みだす本能』、『心の仕組み』、『人間の本性を考える』、『思考する言語』(以上NHKブックス)、『暴力の人類史』(青土社)、『21世紀の啓蒙』(草思社)などがある。その研究と教育の業績、ならびに著書により、数々の受賞歴がある。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」、ヒューマニスト・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた。米国科学アカデミー会員。
訳者紹介
橘明美(たちばな・あけみ)
英語・フランス語翻訳家。お茶の水女子大学卒。訳書にスティーブン・ピンカー『21世紀の啓蒙』(草思社、共訳)、ジェイミー・A・デイヴィス『人体はこうしてつくられる』(紀伊國屋書店)、フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』(太田出版)ほか。
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