草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

『それホントに体にいい?無駄? 「健康神話」を科学的に検証する』生田哲 著

それホントに体にいい?無駄?

「健康神話」を科学的に検証する

生田哲 著

■あらゆるところにニセ情報が潜んでいる!

 世の中には真偽のわからない「健康神話」が多数流布しています。
たとえば、健康に必要不可欠というイメージの強いカルシウム。健康のために牛乳やサプリなどで積極的にカルシウムを摂取している人も多いのではないでしょうか? 実はこうした行為がかえって危険なのです。
 本書によれば、カルシウムが足りているのに必要以上にカルシウムを摂取することが、心臓病や脳卒中などの血管系の病気のリスクを高めることは、すでに科学的な研究では明らかにされています。また健康に良いイメージのある牛乳ですが、「1日3杯以上牛乳を飲むと死亡率が上がる」というのも科学的研究では明らかな事実だというのです。
 間違った健康神話を妄信して、かえって健康被害を受けては身も蓋もありません。

■科学的根拠に基づいた健康の最終結論を提供

 本書は、氾濫する健康情報に惑わされず自分の身を守るために、様々な「健康神話」を取り上げ、その真偽を一つひとつ科学的に判定し、科学的根拠にもとづく健康知識を提供していきます。
 科学的検証の際に著者が採用した文献のほとんど全部が、海外の一流科学・医学雑誌に掲載された論文であり、企業がスポンサーになっていない(公正な)研究によって得られた論文です。つまり、本書が提供する健康情報は、非常に信ぴょう性が高いものばかりです。
 幅広い健康情報を扱う本書を読むことで、健康リテラシーが上がり、おのずと人生の質も上がること間違いありません。ぜひ多くの方に知っていただければと願っております。

(担当/吉田)

 

目次より
01・バイ菌についての4つの神話
神話1:公衆トイレの便座に座るとバイ菌がつく 
神話2:バイ菌はお湯で流すと殺菌できる 
神話3:寒い季節はカゼを引きやすい 
神話4:抗生物質がカゼの原因とされるバイ菌を殺す      
02・コーヒーについての6つの神話
神話1:コーヒーは健康によい 
神話2:コーヒーは依存を引き起こす
神話3:コーヒーを飲むと脱水が起こる 
神話4:コーヒーの浅煎りは、深煎りにくらべ、カフェインが少ない
神話5:妊娠中にコーヒーを飲むと胎児に悪影響がある    
神話6:発育が妨げられるのでティーンエイジャーは、コーヒーを飲まないほうがいい  
03・チョコレートについての5つの神話  
神話1:チョコレートにはカフェインが非常に多く含まれている
神話2:チョコレートをたくさん食べると中毒になる
神話3:チョコレートは性欲を高める   
神話4:ホルモンレベルが不安定になると、チョコレートを無性に食べたくなる
神話5:ダークチョコレートはスーパーフードである 
04・アルコールについての4つの神話
神話1:ワインとビールをちゃんぽんで飲むと悪酔いや二日酔いする 
神話2:少しの飲酒はまったく飲まないよりも健康にいい 
神話3:二日酔いには「迎え酒」が効果的 
神話4:適量のお酒なら休肝日がなくても大丈夫 
05・ビタミンサプリについての6つの神話
神話1:ビタミンのサプリを飲んだ効果は証明されていない 
神話2:食事でビタミンを十分に摂っていれば、サプリを摂る必要はない 
神話3:ビタミンを買う際にブランドを気にする必要はない 
神話4:グミ状のサプリでも錠剤のサプリでも効果は同じ
神話5:基準量のビタミンを摂取しているから、大丈夫 
神話6:水溶性ビタミンは排泄されてしまうから、たくさん摂っても意味がない
06・砂糖についての5つの神話
神話1:甘味料にはアガベシロップ、メープルシロップ、ブラウンシュガー、ふつうの砂糖などがあるが、ある種の砂糖は健康によい 
神話2:砂糖は摂取しないほうが体にいい 
神話3:砂糖には依存性がある 
神話4:健康のためには清涼飲料水よりも100%果汁のジュースを飲むほうがいい 
神話5:ケーキ、チョコレートなどの甘いものをやめればニキビが消える 
07・人工甘味料についての5つの神話
神話1:人工甘味料は「ニセ砂糖」である 
神話2:ゼロカロリー甘味料を使えば、太らない  
神話3:人工甘味料は虫歯ができにくい 
神話4:人工甘味料の摂り過ぎは、がんを引き起こす 
神話5:政府が承認した人工甘味料は安全である
08・水についての5つの神話
神話1:ペットボトルの水は水道水よりも美味しくて体にいい 
神話2:水をたくさん飲むほど皮膚が健康になって、肌がきれいになる 
神話3:レモン水は健康にいい  
神話4:健康を維持するには、1日にコップ8杯の水を飲むべきだ 
神話5:水はいくら飲んでも体に悪影響はない
09・がんについての6つの神話
神話1:がんは遺伝子の病気である 
神話2:がんの主な原因は食事とタバコである 
神話3:新しく発見された抗がん剤が生存期間を延ばし、QOL(生活の質)を高める 
神話4:抗がん剤は新たながんを発生させ、転移を促進する 
神話5:がんになったので人生、もうお終いだ 
神話6:日本で、がんによる死者数が増え続けている 
10・抗生物質についての5つの神話
神話1:ある抗生物質新型コロナウイルスにも効く  
神話2:抗生物質は細菌を殺すことで効果を発揮する   
神話3:感染症の特効薬、抗生物質はこれからも効く 
神話4:黄色か緑色の鼻水やタンが出れば、細菌による感染なので抗生物質を服用すべきだ 
神話5:畜産業において健康な動物を病気から守るために、抗生物質をエサに混ぜるのがいい 
11・牛乳についての6つの神話
神話1:昔から日本人は牛乳を飲んできた 
神話2:牛乳は健康にいい 
神話3:子どもが牛乳を飲むと背が高くなる 
神話4:牛乳は骨を丈夫にし、骨粗しょう症を防ぐ
神話5:1日3杯以上の牛乳を飲むと死亡率が高くなる
神話6:牛乳はある種のがんの発症を防ぐ
12・カルシウムについての5つの神話
神話1:食事からより多くのカルシウムを摂取したり、カルシウムをサプリで摂取したりするのは健康にいい
神話2:日本人はカルシウムが不足している
神話3:すべての骨粗しょう症の人はカルシウムが不足している
神話4:カルシウムサプリを摂取すれば骨折を防ぐことができる
神話5:骨密度が高くなると、骨が強くなる
13・肥満・代謝についての6つの神話
神話1:私は太る体質なので、食べなくても太る
神話2:代謝は遺伝で決まっている
神話3:カロリー制限を厳格に実践すると効果的にやせられる
神話4:厳格なカロリー制限+激しい運動で効果的にやせられる
神話5:運動によって基礎代謝が上がる
神話6:サプリメントの摂取で代謝が上がる
14・糖尿病についての5つの神話
神話1:糖尿病は太った人だけの病気である  
神話2:糖尿病になるのは糖質の摂取が多いからである 
神話3:子どもの糖尿病は1型だけである  
神話4:糖尿病を発症したらインスリン注射が欠かせない 
神話5:インスリン注射は体重を増やす
15・瞑想についての5つの神話
神話1:瞑想は宗教的な感じがするので嫌だ 
神話2:マインドフルネス瞑想は、ストレスの軽減だけに効果がある
神話3:瞑想を行うときは姿勢が大事 
神話4:短時間の瞑想ではあまり効果がない      
神話5:瞑想は腹式呼吸で行うのが正しい
16・ビタミンDについての4つの神話
神話1:かつて日光浴は結核の治療に用いられていた
神話2:ビタミンDを摂取すれば乳がんの半数を予防できる 
神話3:大腸がんの3分の2はビタミンDで予防できる
神話4:ビタミンDサプリを摂取すれば体重が低下する

 

著者紹介

生田哲(いくた・さとし)

1955年、北海道に生まれる。薬学博士。がん、糖尿病、遺伝子研究で有名なシティ・オブ・ホープ研究所、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)などの博士研究員を経て、イリノイ工科大学助教授(化学科)。遺伝子の構造やドラッグデザインをテーマに研究生活を送る。現在は日本で、生化学、医学、薬学、教育を中心とする執筆活動や講演活動、脳と栄養に関する研究とコンサルティング活動を行う。著書に、『遺伝子のスイッチ』(東洋経済新報社)、『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』(育鵬社)、『ビタミンCの大量摂取がカゼを防ぎ、がんに効く』(講談社)、『よみがえる脳』(SBクリエイティブ)、『子どもの脳は食べ物で変わる』(PHP研究所)、など多数。

Amazon:それホントに体にいい?無駄? 「健康神話」を科学的に検証する:生田哲:本

楽天ブックス: それホントに体にいい?無駄? 「健康神話」を科学的に検証する - 生田 哲 - 9784794226280 : 本

プーチンはなぜ「ネオナチ」という言葉を多用するのか。『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』三好範英 著

ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方

三好範英 著

 プーチンウクライナを侵攻した当初、侵攻はウクライナを「非武装化するため」、「ネオナチ化を防ぐため」であると強弁していた。プーチンのこの相手への決めつけ、「ネオナチだ」「ファシズムだ」というのは一貫している。それはなぜなのか。
 本書は読売新聞でベルリン特派員として10年近く、ドイツに暮らした著者によるウクライナ戦争の背景や原因を探ったノンフィクションである。著者は今回のウクライナ戦争を見るとき、特にドイツとロシア、そしてそこに挟まれた国々の歴史を見ることから始めている。この領域に狭義の意味でのウクライナ戦争の原因も影響も詰まっているということだ。
 とくに第二次大戦の独ソ戦の影響は甚大で、死者は一説には5000万人とも言われているから、簡単にはその傷は癒えていない。ウクライナは第二次大戦では最初、ナチスに協力したが、最後はソビエト・ロシアと一緒に戦ってナチス・ドイツを倒した。だからロシアは東ヨーロッパの諸国に「ファシストのナチを一緒に戦って破った我々は団結しよう」というプロパガンダで西側に対抗しようとする。プーチンの「ネオナチ」という言葉は単純なレッテル張りを何回も言うプロパガンダの常道である。実際には「ネオナチ化」などは起こっていないのに、「反ロシア的なもの」「ロシアへの敵意」にはすべて「ネオナチ」というのである。
 このドイツ、そしてポーランドバルト三国フィンランドスウェーデンなどの各国の微妙な立ち位置と、恐露病ともいうべき歴史の重さを描く著者の筆には納得できる。
 もう一つこの本で巧みに描かれているのは、ドイツの「平和ボケ」からの覚醒についてである。著者は戦闘地そのものには入っていないが、4月から5月ウクライナ西部の国境近くの街リヴィウポーランド、ドイツに取材に入っている。ここで見たことは、侵略の恐ろしいばかりのインパクトである。そして侵略にびっくりしたものの、すぐに一致団結して対応に入れたことは各民族のDNAにロシアへの恐怖が組み込まれていることを示している。
 さて慌てふためくドイツの大胆ともいえる政策転換は見事であったが、それまでリベラル志向の強い政権がエネルギー政策を中心に対ロシア融和策の甘い夢にふけっていた経緯があり、この問題は潜在的には変わっていない。最近になっては、ドイツは本当に覚醒したのかという危惧もいだく。もともとドイツ内にあるロシアとの親和性の要素は残っているし、またEUといっても一枚岩ではなくポーランドハンガリーのような非リベラル志向の国家もあり、移民政策、環境問題、LGBT問題、ナショナリズムなどをめぐる対立もある。これらの民主国家内の分断は、民主主義の弱点でもあるが、それが自由のコストでもある。プーチンはあるインタビューで西洋のリベラル思想への批判を語っているが、それを受けて著者はこう書いている。
プーチンには、西側世界、特に西欧社会をリベラリズムの文明と見て、その堕落に対抗するのがロシア文明という意識があるのだろう。西側世界が混乱に陥っているとの認識を持ち、侮ったことが、ウクライナに侵攻した一つの背景だろう」(296ページ)
 プーチンは民主国家内にある分断に乗じて侵略を企てたと見ることもできる。この指摘に今の日本が学ぶべき点は多いだろう。

(担当/木谷)

著者紹介

三好範英(みよし・のりひで)

1959年生まれ。東京大学教養学部卒。読売新聞バンコクプノンペン、ベルリン特派員、編集委員を経て、現在フリーランスのジャーナリスト。著書に『特派員報告カンボジアPKO』(亜紀書房)、『戦後の「タブー」を清算するドイツ』(同)、『蘇る「国家」と「歴史」』(芙蓉書房出版)、『メルケルと右傾化するドイツ』(光文社)、『本音化するヨーロッパ』(幻冬舎)。『ドイツリスク』(光文社)で山本七平賞特別賞受賞。編著に外交官岡崎久彦氏の回想録『国際情勢判断・半世紀』(育鵬社)、同加藤良三氏の回想録『日米の絆』(吉田書店)がある。

Amazon:ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方:三好範英 著:本

楽天ブックス: ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方 - 三好範英 - 9784794226228 : 本

なぜ芭蕉はこの男を随行させたのか?『曾良の正体 『奥の細道』の真実』乾佐知子 著

曾良の正体

――『奥の細道』の真実

乾佐知子 著

日本最高の古典『奥の細道』の旅は、決して芭蕉一人の力で成し得たものではない。芭蕉に影のように付き添い、ある時は道案内の先導役を務め、ある時は旅の資金のやりくりに頭を痛め、宿の手配に奔走するといった仕事をやり遂げた河合曾良がいた。
彼が腰に下げていた小さな腰帳は、その日の天気や距離、人物などが詳細に記帳されており、その事務能力の高さに後世の人々は度肝を抜かれた。
みちのく出発直前に忽然と現れ、予定されていた路通に替わり、随行者に抜擢された曾良とはいったい何者か。
江戸時代中期は幕藩体制が整い、武家諸法度の強化された時代だ。商家の長男として生まれたにもかかわらず、曾良は次々と養子に出され、成人となるや伊勢長島の大智院で過ごしていたが、やがて久松松平家の家臣となる。商家の子供が武士になるなど当時は絶対にあり得ないことであった。
曾良第一の謎ともいえる武士誕生の陰には、幕府をも黙らせる大きな力が働いていたと考えるのが妥当であるだろう。ではその大きな力とは何か。
本書は、曾良の生涯を「家康の六男・松平忠輝の落し子」説に沿って辿ることで、旅の出立をはじめ、仙台藩での湯ざまし事件、村上に滞在した三日間など、これまで謎とされてきた旅の真相を解き明かす。
奥の細道』読解の参考としてはもちろん、曾良芭蕉が実人生での体験をいかに作品化したかを理解する一助として、広く俳句に興味のある読者に一読いただきたい一冊。

(担当/渡邉)

【目次】
第一章 曾良の実像
曾良の生い立ち/曾良の名前/家康の六男、松平忠輝松平忠輝の落し子としての曾良/伊勢長島、大智院での曾良/伊勢長島藩主、松平良尚/曾良と俳句との出合い/江戸へ出た曾良曾良吉川惟足

第二章 曾良芭蕉の出会い
芭蕉と藤堂藩/芭蕉曾良はいつ出会ったか/藤堂家の血筋を引く芭蕉甲州谷村での出会い/曾良が谷村を訪れた理由/谷村以降の曾良松平忠輝の死

第三章 『奥の細道』旅の目的
江戸に戻った芭蕉/『野ざらし紀行』、蛙合、『鹿島紀行』/路通から曾良へ/『奥の細道』旅の準備/旅の経費はいくら掛かったか/旅の資金はどこから出たのか/水戸光圀と松平良尚/綱吉と光圀との微妙な関係/松平定重と芭蕉/情報収集としての旅/『奥の細道』旅の真の目的/関係諸藩と伊奈家との関わり

第四章 『奥の細道』旅の真実
奥の細道』出立の謎/小菅の伊奈郡代屋敷/清水寺から預かった書状/杉風の訪問/日光大楽院の客/白河の関須賀川、福島、仙台/松島、瑞巌寺/湯ざまし事件/伊達騒動とは/『奥の細道』における奥州平泉/出羽越え、尿前の関/尾花沢、立石寺出羽三山/象潟と「みのの国の商人 低耳」/越後路、村上滞在の真相/村上での歓待の理由/絶海の孤島、佐渡佐渡大久保長安/金沢から山中温泉へ/山中温泉から敦賀、色の浜へ/水戸藩大垣藩に守られた旅/芭蕉、大智院を訪ねる/別行動をとった曾良

第五章 『奥の細道』以降の曾良芭蕉
江戸に戻った曾良近畿地方を巡った曾良/晩年の芭蕉/『奥の細道』の成立/芭蕉の臨終/芭蕉没後の曾良曾良が墓参できなかった理由

第六章 曾良の晩年
諏訪帰郷と芭蕉墓参/長島松平家断絶/六代将軍徳川家宣/幕府巡見使の御用人として九州へ/曾良が御用人になれた理由/壱岐へ/対馬藩とは/曾良の終焉/密命を帯びた曾良対馬を巡った曾良/本土生存説/河西浄西に学んだ生き方/榛名山に消えた仙人/故郷に集う「あぢさゐ忌」

著者紹介

乾佐知子(いぬい・さちこ)

1942年、神奈川県生まれ。日本大学文理学部国史科卒業。政治経済史学会で学ぶ。俳句結社「春耕」同人。俳人協会会員。著書に『句集 藻の花』がある。

Amazon:曾良の正体 『奥の細道』の真実:乾佐知子著:本

楽天ブックス: 曾良の正体 - 『奥の細道』の真実 - 乾 佐知子 - 9784794226235 : 本

その土地のことは、窓を見ればわかる。アジアの窓の旅行譚『アジア「窓」紀行 上海からエルサレムまで』田熊隆樹 著・写真

アジア「窓」紀行

――上海からエルサレムまで

田熊隆樹 著・写真

窓は、室内を快適にするために外気や光を遮り、外と隔てるものでもあれば、逆に風を取り入れたり、外の景色を眺めたりと、外とつなげるものでもあります。また、地域特有の文化に基づいた豪奢な装飾が施されることもしばしばです。言うなれば、窓は環境的な風土と文化がもっともよく表れた部位であり、「窓を見ればその土地のことが分かる」といっても過言ではありません。そんな窓を見つめて、アジアを端から端まで旅したのが本書です。

上海の窓から生える謎の棒、鉢状の地形に密集した宗教都市の窓が圧巻のラルンガル・ゴンパ、シェムリ・アップの戸と庇を兼ねた窓ほか、日本あるいは西洋などの地域では見られないような魅惑的な窓が、写真のみならず建築家である著者によるスケッチや図面とともに語られます。どういった理屈でそれらの空間がつくられているのか、そのうえでどう窓を設けているのかをわかりやすく伝えています。

例に、中国の河南省にある張村を見てみましょう。この地域にあるヤオトンという地面に穴を掘ってできた住居形式は、かの習近平が暮らしていたものとしても有名です。もはや「建てる」という言葉を使うのがためらわれる住居は、無限に掘ればどこまでも広くできそうですが、入口と窓しか開口がなく奥に行くほど湿気がひどいため、「新聞紙貼り仕上げ」によって湿度の緩和が図られるなど、生活に根付いたユニークな知恵を垣間見ることができます。また、掘るのは非常に大変な労働であるために、窓を減らす工夫として、入口を2部屋で共有する場合があるのです。そのため、隅の部分では、イスラム風のアーチを用いた開口でありながらきれいなアーチになっていない場合があるのです。これはまさに、文化的な意匠と、機能がぶつかり合った細部としての窓なのです。

著者が「窓からのぞいたアジアは、たしかにひとつではないが、そんなにバラバラでもない」というように、多様な地域性とともに、人間のもっとも根源的な欲求に応えるという点で普遍性も同時に兼ね備える、奥深い装置が窓なのです。本書を読んでぜひ世界の窓を観察しに行っていただきたいところですが、コロナが終息せずかつてのような自由な旅はできない中でも、身近な窓から生活と文化、環境の関わり方を読みとる視点を持っていただけたら幸いです。

(担当/吉田)

著者紹介

田熊隆樹(たぐま・りゅうき)

1992年東京生まれ。早稲田大学大学院建築学専攻修了。大学院休学中にアジア・中東11カ国の建築・集落・民家を巡って旅する。2017年より台湾・宜蘭(イーラン)のFieldoffice Architectsにて美術館、公園、駐車場、バスターミナルなど大小の公共空間を設計している。ユニオン造形文化財団在外研修生、文化庁新進芸術家海外研修制度研修生。

Amazon:アジア「窓」紀行 上海からエルサレムまで:田熊隆樹 著・写真:本

楽天ブックス: アジア「窓」紀行 - 上海からエルサレムまで - 田熊 隆樹 - 9784794226129 : 本

ほぼすべての国産車を詳細にレビュー!『2023年版 間違いだらけのクルマ選び』島下泰久 著

2023年版 間違いだらけのクルマ選び

島下泰久 著

※2022年12月24日ころ発売です。

ニューカー大量デビュー。さらに外見不変・中身激変の「隠れ大改良」も多数。

売れ筋のミニバン御三家、セレナ、ノア/ヴォクシー、ステップワゴンが揃って代替わり。クラウンが驚くべき大変身をとげて新型に。この時代に直6エンジン・FRシャシーを新開発、マツダのCX-60。今期も話題の新型車が大量デビュー! …ですが、その陰で、外観はほぼ不変で中身大刷新の大改良が多数あったのが今期の特徴。カローラ、キックス、フィット、エスクード、IS500…。これらの気づきづらい「隠れ大改良」はもちろん、小改良まで含め、国産車のほとんどを網羅する『間違いだらけ』ならではの詳細レビューが、今期は特に見逃せません。

見通しづらいクルマ業界の将来像、良いクルマがたくさん出て難しくなったクルマ選び。その両方がわかる定番ガイドが今年も発売。例年にも増して、マストな1冊です!

著者YouTubeチャンネルと連動、記事内のQRコードから動画が閲覧可能!

 

◎第1特集:新生! クラウン・シビック・Z

一斉に代替わりしたビッグネームの真価を問う。過去の『間違いだらけ』で各車の歴史も振り返る。

◎第2特集:マツダはなぜ元気なのか?

この時代に「直6・FR」を新開発し今期CX-60を発売。その裏にあるマツダの徹底的合理性とは。

◎第3特集:3大ミニバン頂上決戦

揃って新型となったミニバン御三家、セレナ、ステップワゴン、ノア/ヴォクシー。ベストはどれ?

 

  • 2023年版の指摘

・外見不変・中身激変の商品改良多数。見逃すな!

・国産メーカーのBEV戦略は真面目すぎないか?

・各社揃って言う「BEVの空間価値」って何だ?

・国産メーカーは新しいクルマの価値を模索せよ

SUVに様々な技術が展開。ますます面白い!

 

※カバー画像のダウンロードが下記リンクより可能です。

https://bit.ly/2023machigaidarake

またはhttps://drive.google.com/file/d/1aOaDLdBeRx1yYwevgVLyNiP7Df3P7H_V/view?usp=sharing

 

車種評より

◎新型プリウス

方向性はこれで良かったのか?

 

カローラ

驚愕の大幅アップデート。見逃すな!

 

◎ZR-V

特筆すべき操舵性。今度こそヒットか

 

◎エクストレイル

原点回帰と上級移行、大幅進化

 

◎RX

持ち前の快適性に走りの楽しさ加わった

 

◎サクラ/eKクロスEV

クルマは間違いなく良い。どう使われるか…

 

◎bZ4X/ソルテ

トヨタらしからぬ躓き。走り・乗り心地△

 

◎クラウン・クロスオーバー

驚嘆の大変身だが、これぞあるべき姿

 

シエンタ

外装の“アレ”に似ている感以外は見事

 

◎CX-60

内外装も燃費も素晴らしい。乗り心地は△

 

◎新型セレナ

プロパイロットと家族目線の細かな配慮

 

◎2023年版のニューカー

クラウン・クロスオーバー/シビックe:HEV/シビック・タイプR/フェアレディZ/CX-60/セレナ/ノア/ヴォクシー/ステップワゴン/クロストレック/ZR-V/エクストレイル/RX/プリウス/サクラ/eKクロスEV/アリア/bZ4X/ソルテラ/RZ/ムーブキャンバス/アルト/スペーシアベース/タントファンクロス/シエンタ/GRカローラシトロエンC5 X/テスラ・モデルY

 

著者紹介

島下泰久(しました・やすひさ)

1972年神奈川県生まれ。立教大学法学部卒。国際派モータージャーナリストとして自動車、経済、ファッションなど幅広いメディアへ寄稿するほか、講演やイベント出演なども行なう。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『間違いだらけのクルマ選び』を2011年から徳大寺有恒氏とともに、そして2016年版からは単独で執筆する。YouTubeチャンネル「RIDE NOW -Smart Mobility Review-」の主宰など更に活動範囲を広げている。

 

 

Amazon:2023年版 間違いだらけのクルマ選び:島下泰久 著:本

楽天ブックス: 2023年版 間違いだらけのクルマ選び - 島下 泰久 - 9784794226174 : 本

すべてが視覚化する時代に、「触れたい」建築を考える『建築と触覚 空間と五感をめぐる哲学』ユハニ・パッラスマー著 百合田香織訳

建築と触覚

――空間と五感をめぐる哲学

ユハニ・パッラスマー 著 百合田香織 訳

SNSメタバース空間の登場など、世界がますます視覚を重視していくかのように感じられる昨今。そんな視覚以外の空間体験が薄まっていくような時代に、空間における五感の重要性を考えるのが本書のテーマです。
建築は、視覚の芸術である側面を強くもちつつも、触れたくなるような質感や温度・光の質の調節、静寂を生み出すといった、五感のすべてを統合する術として誕生しました。それがどのようにして視覚を重視するようになったのか。あるいは、そのことを批評した思想家や建築家にはどのような人がいたのか。それを古代から現代の建築家まで考察し、今あるべき「触れたくなるような」建築の姿を問いかけます。

思想の面では、哲学や美学に多分に触発されています。例えば、デカルトと比較しつつ、メルロ=ポンティについて「ポンティの哲学の著作は、一貫して知覚全般、なかでも特に視覚に主眼をおいたものだ。ただデカルト的な外部観察の眼とは違い、メルロ = ポンティの言う見る感覚とは『世界の肉』の一部という肉体化された視覚である」と述べ、身体的な感覚を伴った視覚の在り方について考察していくことで、視触覚的な建築についての考察を展開していきます。西洋を中心にしていますが、谷崎潤一郎岡倉天心にも言及があります。

また、建築家への言及ですが、最大の巨匠であるル・コルビュジエについてみてみましょう。彼は雑誌などのメディアにどう建築が映えるかを非常によく計算していた人であり、そういう意味では視覚的建築を重んじた人でした。「建築は造形のものだ。造形とは、目に見えるもの、目が測れるものだ」という言葉もあるほどです。しかし、実際の作品では、「コルビュジエの作品において手は眼に劣らぬほど献身的にその役割を果たしていたのだ。コルビュジエのスケッチや絵画には触覚の要素が力強く現れているし、そうした触感的な感覚はコルビュジエの建築に対する考えにしっかり組み込まれている」と著者は述べます。そのほか、アアルトやツムトア、安藤忠雄といった現代建築家の作品における五感についての設計についても触れています。

このように、古代だけでなく近代、現代の優れた建築家は、視覚重視に陥ることなく、建築空間における五感の統合ということを意識してきていました。彼らのこの遺産を、現代において正しく批評的に継承することで、視覚の流行に流されない、人間にとって「親密な関係性」をもつことができる空間をいまでも作り出すことができるはずです。そして、建築というリアルな空間を扱うものこそが、五感の重要性について世に問いかけるうえで最も有効なものでもあるはずなのです。あらゆるものが視覚重視になっているいま、それに対する批評性を空間そのもので建築が提示していくということが、これほど求められている時代もないのではないでしょうか。

日本では、高名な建築批評家であった長谷川堯氏(長谷川博己の父)が『神殿か獄舎か』のなかで、権威的な視覚重視の建築を批判し、親密さのある装飾性や触覚的な建築の重要性を訴えていました。本書で直接言及されているわけではないものの、問題意識としては非常に連続性があり、長谷川氏の主張を、別の角度から現代に呼び起こすような読み方もできると思います。

著者は、ヘルシンキ工芸大学学長、フィンランド建築博物館館長、ヘルシンキ工科大学建築学部教授・学部長を歴任しており、「The Thinking Hand: The Thinking Hand: Existential and Embodied Wisdom in Architecture 」、「The Embodied Image: The Embodied Image: The Imagination and Imagery in Architecture 」(John Wiley & Sons)のほか、『知覚の問題-建築の現象学- Questions of Perception-Phenomenology of Architecture-』(エー・アンド・ユー)に「七感の建築」という論考を寄稿していますが、日本語で読める単著は今回が初であり、待望の翻訳と言えます。本書は、ArchiDailyが選ぶ名建築書ベスト125に、ラスキンヴェンチューリといった錚々たる名著とともに選ばれており、海外ではすでに高く評価されています。https://www.archdaily.com/901525/116-best-architecture-books-for-architects-and-students

最後に、本書をラスムッセン以降の最重要建築理論家だと賞賛する建築家スティーヴン・ホール氏が本書に寄せた言葉を引きます。
「この雑音だらけの現状のなかで、本書は、深い思索の孤独と決意――かつてパッラスマーが『静寂の建築』と呼んだもの――を呼び覚ます。……『私たちの存在の深み』は薄氷の上に立たされている」

(担当/吉田)

 

目次より
前書き 「薄氷」スティーヴン・ホール
序論 世界に触れる

第一部
視覚と知識
視覚中心主義への批判
ナルシストの眼とニヒリストの眼
声の空間と視覚の空間
網膜の建築、立体感の喪失
視覚イメージとしての建築
物質性と時間
「アルベルティの窓」の拒絶
視覚と感覚の新たなバランス

第二部
身体中心
複数の感覚による経験
陰影の重要性
聴覚の親密さ
静寂、時間、孤独
匂いの空間
触覚の形状
石の味
筋肉と骨のイメージ
行為のイメージ
身体的同化
身体の模倣
記憶と想像の空間
多感覚の建築
建築の役割

 

著者紹介

ユハニ・パッラスマー

現代のフィンランドを代表する建築家、建築思想家。ヘルシンキ工芸大学学長、フィンランド建築博物館館長、ヘルシンキ工科大学建築学部教授・学部長を歴任。著作にThe Thinking Hand: The Thinking Hand: Existential and Embodied Wisdom in Architecture (John Wiley & Sons, 2009)、The Embodied Image: The Embodied Image: The Imagination and Imagery in Architecture (John Wiley & Sons, 2011)などがある。

訳者紹介

百合田香織(ゆりた・かおり)

神戸大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。専攻は建築/建築史研究室。公務員として公共プロジェクトに従事し英国赴任同行を機に退職。建築を巡りつつ翻訳スクールに通い翻訳者として活動を始める。訳書『名建築は体験が9割』『名建築の歴史図鑑』『世界の夢の動物園』(以上、エクスナレッジ)、『配色デザインカラーパレット』(ビー・エヌ・エヌ)など。

Amazon:建築と触覚 空間と五感をめぐる哲学:ユハニ・パッラスマー 著 百合田香織 訳:本

楽天ブックス: 建築と触覚 - 空間と五感をめぐる哲学 - ユハニ・パッラスマー - 9784794226167 : 本

キャンセルカルチャー、ポリコレ問題を知るための必読書『傷つきやすいアメリカの大学生たち』グレッグ・ルキアノフ/ジョナサン・ハイト著 西川由紀子訳

傷つきやすいアメリカの大学生たち

――大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体

グレッグ・ルキアノフ 著ジョナサン・ハイト 著 西川由紀子 訳

◆全米ベストセラー『アメリカンマインドの甘やかし』、ついに邦訳

 本書は、アメリカでベストセラーとなったThe Coddling of the American Mind(直訳すると『アメリカンマインドの甘やかし』)の全訳です。アメリカの大学におけるキャンセルカルチャー、ポリコレ問題の実態を紹介し、その原因を分析、対策までを提言して高く評価された本です。
 アメリカの大学では近年、立場の異なる論者の講演に対し、学生たちが破壊や暴力を伴う激しい妨害を行うことが増えています。また、教員の発言の言葉尻を悪意に捉えて、学生達が激しいデモで糾弾、さらには当の教員や学部長、学長などを軟禁し、暴言を浴びせるなどの事態に発展した例もあります。

◆意見の表明・研究発表を躊躇させる、表現の自由・学問の自由の危機

 本書の中で、そのような多くの事例が紹介されていますが、事態は典型的には次のような流れで発生・進行します。①教員や講演者が政治的に賛否両論ありうる意見や研究結果を明らかにする(または、そうしようと試みる)。②それを「差別的」などとして学生達が集団で糾弾。ときには暴力や脅迫も使われる。③大学側は学生達の行動について、是正指導や処罰を行わない。それどころか、学生達の行動に理解を示し、要求を丸呑みする。④同僚の教員は、陰では対象となった教員を助けることもあるが、巻き添えを恐れて表立っての支持は行わない。⑤講演者は講演中止を余儀なくされ、当の教員は辞任を選ばざるを得なくなる。⑥教員達や学生達の間で、議論の余地ある見解を表明することに対する萎縮が起こる。
 なぜこのような事態は発生し、収拾がつかなくなるまで悪化してしまうのでしょうか。本書では原因として、「現代の学生達は、受験競争の激化などのため、親たちに過保護に育てられている」「大学の教員が左派に偏っており、政治的多様性に乏しい」「アメリカ社会の政治的二極化が進んだ」「アメリカ国内で政治的な問題が近年多発し、学生達が社会正義に敏感になっている」「大学が企業化し、職員が官僚化している」などが挙げられています。著者らは背景を詳しく分析し、アメリカの大学や思想、社会が抱えている問題を指摘、学生達やその親、大学の教職員に対して改善のための指針までを示し、米国で非常に大きな反響を得ました。

アメリカでは大学への信頼が大きく低下している

 上記のような事態が主な原因となり、アメリカでは大学をはじめとする高等教育への国民の信頼が、近年、大きく低下したことが世論調査で明らかになっています。
国際的な大学ランキングでは、上位の多くをアメリカの大学が占めており、日本でもそのことは大きく報道されていますが、一方で、アメリカで大学不信が増大していることはあまり知られていません。
 しかも、上記のような事例の多くは、国際的な大学ランキングで上位に位置づけられるような、名門校で起きています。本書では、イェール大学、ブラウン大学、カリフォルニア大学バークレー校などの有名校での事例が紹介されています。本書は、アメリカの大学教育や研究環境に関する、日本ではあまり語られることのない側面を明らかにする本でもあります。
 ポリコレ問題やキャンセルカルチャーに興味のある方には必読の本であるだけでなく、教育問題やアメリカの社会問題に興味のある方にもぜひ読んでいただきたい一冊です。

(担当/久保田)

 

※本書の原書に関して、批評家のベンジャミン・クリッツァーさんが、ウェブメディア「現代ビジネス」にて、よくわかる紹介・解説を書いています。
こちらもぜひご覧ください。

アメリカの大学でなぜ「ポリコレ」が重視されるようになったか、その「世代」的な理由
アメリカン・マインドの甘やかし』(1)
https://gendai.media/articles/-/77766

「ポリコレ」を重視する風潮は「感情的な被害者意識」が生んだものなのか?
アメリカン・マインドの甘やかし』(2)
https://gendai.media/articles/-/77812

アメリカでの「ポリコレ」の加熱のウラにいる「i世代」の正体
アメリカン・マインドの甘やかし』(3)
https://gendai.media/articles/-/77976

ポリティカル・コレクトネスの拡大と「2010年代のアメリカ社会」の深い関係
アメリカン・マインドの甘やかし』(4)
https://gendai.media/articles/-/78045

 

<目次>

はじめに
3つのエセ真理を広める神
 なぜこの本を書こうと思い立ったか
 原書が刊行された2018年までの3年間の激動
 原書タイトルの「甘やかされた」に込めた意味
本書の概要

第1部 3つのエセ真理とその弊害

第1章 脆弱性のエセ真理:困難な経験は人を弱くする
ピーナッツアレルギーのパラドックス
困難に学び適応し成長する力=反脆弱性
「危険」や「トラウマ」という言葉の意味の拡大
討論会のために用意された「セーフスペース」
iGen(=Z世代)とともに安全イズムが広まった
まとめ

第2章 感情的決めつけのエセ真理:常に自分の感情を信じよ
自分の感情を過信すると不安は増幅する
うつの治療に効果を発揮する認知行動療法
 悪意ない言葉を糾弾「マイクロアグレッション」
「不快」を理由とする講演キャンセルが横行
まとめ

第3章 味方か敵かのエセ真理:人生は善人と悪人の闘いである
言葉尻をとらえて教員を糾弾、辞職へ追い込む
人間は簡単に味方と敵に分かれてしまう
アイデンティティ政治のあり方は2種類ある
 共通の人間性を訴えるアイデンティティ政治
 共通の敵を持つアイデンティティ政治
 現代的マルクーゼ理論――白人男性は「悪」
 共通の敵を持つアイデンティティ政治が有害な理由
「共通の人間性」を強調することの現代的意味
まとめ

第2部 エセ真理が引き起こしたこと

第4章 脅迫と暴力が正当化された
名門UCバークレーで起きた流血の講演妨害デモ
言葉を「暴力」と認定し、本物の暴力を正当化
UCバークレーの暴力後も脅迫・暴力は続いた
死者が出たシャーロッツビルの暴動とその後
授業・講演の妨害が増加した2017年秋
「言葉は『暴力』」と教えることが有害な理由
まとめ

第5章 大学で「魔女狩り」が起きている
無実の者を標的とする運動は「魔女狩り」である
論文が集団処罰の標的となった事例
反論のための論文撤回要求という新しい動き
大学教員の政治的多様性が低下、左に偏っている
全米有数の進歩的大学で起きた魔女狩りと暴力
大学は3つのエセ真理の過ちを何度も犯した
まとめ

第3部 なぜこうなったかに関する6つの論題

第6章  二極化を促進するスパイラル
学生たちと大学に何が起きたのか。6つの論題
政治的二極化が進み沸点に達した
キャンパス外の右派による威嚇行為
キャンパス外からもたらされる脅威が現実に
まとめ

第7章 不安症とうつ病に悩む学生の増加
うつや不安を抱える学生が増えている
未熟で脆弱、不安・うつが多い世代「iGen」
SNSは子どもの心の健康を悪化させるか
なぜ女子の方が心の健康悪化の傾向が強いのか
iGenが大学入学、カウンセリング需要が急増
SNSなどと精神疾患の関係は研究途上だが……
まとめ

第8章 パラノイア的子育ての蔓延
子どもを一人歩きさせることへの非難
親の恐怖を増幅させてきたもの
犯罪が減少しても親の妄想的恐怖は増大
すべてを危険ととらえて過保護にすることこそ危険
「過保護」にしていないと逮捕――親への圧力
社会階級によって過保護の程度に違いがある
パラノイア的子育てに見られる認知の歪み
まとめ

第9章 自由遊びの時間が減少
子どもにとって遊びは欠かせないもの
自由遊び、野外遊びの時間は減少した
子ども時代が受験準備のために費やされる
熾烈な受験競争、履歴書アピール競争
自由遊び時間減少で民主主義運用能力が低下?
まとめ

第10章 大学の官僚主義が安全イズムを助長
学生を守るためとして大学が採る異常な対応
教員以外の職員が増大。大学が企業化
大学が極端な市場重視に。学生はお客様扱い
職員が認知の歪みの手本を学生に示している
 過剰反応の事例
 過剰規制の事例
「不審なものを見かけたら、通報してください」
「ハラスメント」のコンセプト・クリープ
対立の解決を第三者に頼る「道徳的依存」
 まとめ

第11章 社会正義の探求の時代
「社会正義の時代」を経験した若者たち
 心理学による正義の実用的直感的定義
 分配的正義に関する心理学研究
 手続的正義に関する心理学研究
平等な機会と権利――均衡的手続的社会正義
平等な結果を目指す社会正義の問題点
結果の格差は必ずしも不正義のせいではない
まとめ

第4部 賢い社会づくり

第12章 賢い子どもを育てる
過保護をやめ、たくましく育てる
1.かわいい子には旅をさせ、人生の厳しさを体験させよ
2.油断すると、自らの思考が最大の敵以上の害となる
3.善と悪を分け隔てる境界線は、すべての人間の中にある
4.〈大いなるエセ真理〉に立ち向かう学校に協力する
5.電子デバイスの使用時間を制限し、使い方を見直す
6.新しい全米基準:大学入学前の奉仕活動または就労

第13章 より賢い大学へ
大学が希求すべき最も重要なものは「真理」
1.自分のアイデンティティを探求の自由を結びつける
2.多様性ある学生を迎え入れ、使命を果たす
3.〈生産的な意見対立〉を志向し、啓蒙する
4.コミュニティを取り囲む大きな円を描く

結び より賢い社会へ

謝辞
付録1 認知行動療法の実践方法
付録2 表現の自由の原則に関するシカゴ大学の声明
参考文献
原注

 

著者紹介

グレッグ・ルキアノフ(Greg Lukianoff)

教育における個人の権利のための財団(FIRE)の会長兼CEO。アメリカン大学とスタンフォード大学ロースクールを卒業し、高等教育における言論の自由憲法修正第1条の問題を専門としている。著書にUnlearning Liberty: Campus Censorship and the End of American Debate and Freedom from Speech(自由の学習棄却:キャンパスでの検閲とアメリカの議論と言論の自由の終焉)がある。

ジョナサン・ハイト(Jonathan Haidt)

ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス教授(倫理的リーダーシップ論)。1992年にペンシルバニア大学で社会心理学の博士号を取得後、バージニア大学で16年間教鞭をとる。著書に『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を超えるための道徳心理学』(紀伊國屋書店)、『しあわせ仮説:古代の知恵と現代科学の知恵』(新曜社)がある。

訳者紹介

西川由紀子(にしかわ・ゆきこ)

大阪府生まれ。神戸女学院大学文学部英文学科卒業。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修了。ITエンジニア、青年海外協力隊ベリーズ)を経て翻訳家に。訳書に『理系アタマがぐんぐん育つ 科学の実験大図鑑』(新星出版社)、『人に聞けない!?ヘンテコ疑問に科学でこたえる!どうしてオナラはくさいのかな?』(評論社)など。

Amazon:傷つきやすいアメリカの大学生たち 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体:グレッグ・ルキアノフ 著ジョナサン・ハイト 著 西川由紀子 訳:本

楽天ブックス: 傷つきやすいアメリカの大学生たち - 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体 - ジョナサン・ハイト - 9784794226150 : 本