草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

数式は最小限、面白い実例は満載。統計学入門書最新決定版『統計学の極意』デイヴィッド・シュピーゲルハルター 著 宮本寿代 訳

統計学の極意

デイヴィッド・シュピーゲルハルター 著 宮本寿代 訳

◆英国で異例のベストセラーとなった統計学入門書。著者は元・英国統計学会会長

 本書は、英国統計学会(王立統計学会)の元会長である著者による、数式をほとんど使わない統計学入門書、The Art of Statistics: Learning from Data by David Spiegelhalterの邦訳版です。英国では、この種の本としては異例のベストセラーとなり、英Amazonの書籍総合ランキングで最高28位となりました。
 ベストセラーになったのには理由があります。本書は徹頭徹尾、すべての項目で、現実の事件・事故・世論調査などを例にとって解説しています。扱われる事例は、タイタニック号沈没事故や、数百人を殺めた連続殺人医師、発掘されたリチャード3世のものと目される遺体の真偽、ベーコンの発癌リスクや、さらには英国人の性的パートナーの生涯人数の調査まで、いずれも興味を惹くものばかり。これらのデータに、適切な統計学的な手法を当てはめると、驚くべきことがわかること(あるいは意外にも、わからないこと)を、次々と示していきます。一貫して、数式はほとんど出てきませんが、そのロジックはきっちりと解説。そのわかりやすさ・面白さに多くの人が驚き、本書は高い評価を得ることとなりました。

◆「PPDACサイクル」「ブートストラップ法」「再現性の危機」など現代的論点を網羅

 本書は、統計学教育でも長年の経験を持つ著者が、データサイエンス時代に対応した新しい統計学入門書を著そうと、書いた本です。このために著者は、「PPDACサイクル」を骨子として、議論を展開しています。これは「問題(Problem)」「計画(Plan)」「データ(Data)」「分析(Analysis)」「結論・コミュニケーション(Conclusion, Communication)」の頭文字をとったもので、この順に探究を進め、最後にまた「問題」に戻ることを繰り返すことで、対象への理解を深めていくという、近年、統計学教育においても注目されている、問題解決志向のアプローチです。旧来の統計学教育では、定型的な数学的テクニックの使い方(「分析」の数学的な側面)を偏重してきましたが、本書はそこばかりではなく、おろそかにされがちな実験や調査の「計画」や、「データ」の吟味、さらには、適切なデータビジュアライゼーションで「結論」を伝えることの重要性も、詳細に解説します。
 ブートストラップ法を多用したり、機械学習についても1章を費やしたりと、計算機統計学的な手法について詳しく解説していることも特徴でしょう。さらに、初学者を混乱させがちな確率論を極力、冒頭では扱わず、本の後半に入ってからじっくりと解説していることも本書の良さで、わかりやすさにつながっています。著者は、ベイズ統計学を信奉する「ベイズ派」であることを自認しているだけに、主観的確率や認識論的不確実性といった概念についても詳述、ベイズ統計による推論についても1章をさいて、基礎からベイズ統計モデリングまで、とてもわかりやすく解説しています。
 このほかにも、P値ハッキングなどの「再現性の危機」の問題、統計学的結果が誇張されて報道される問題、さらに報道の読者・視聴者がそれを批判的に吟味できないというデータリテラシーの問題なども取り上げています。本書は、入門者が知るべき統計学の現代的論点を網羅しており、まさに待ち望まれた「統計学入門書最新決定版」と言えるでしょう。本書が多くの初学者の助けとなることを願っています。

(担当/久保田)

 

目次

図表一覧

序文  
英国史上最多殺人犯と統計学
経験をデータに変えることの難しさ
問題解決志向で統計学を教える
本書について
まとめ
第1章 割合を比較するとき カテゴリデータとパーセンテージ  
病院の管理のずさんさは統計に表れるか?
データ提示のしかたと受ける印象
カテゴリ変数とは何か、どうグラフに表すか?
2つの割合を比較するのがやっかいな理由
まとめ
第2章 数値データを要約して伝える 数値がたくさんある場合  
数の分布を図に表す方法と多くの数の代表値
データ分布の広がりかたを表現する方法
分布の広がりのパターンの違いを表現する
2つの変数間の関係の程度を表現する
時系列での傾向を表現する
統計学における情報伝達のルール
統計学はストーリーを語る
まとめ
第3章 データから学ぶためデータについて考える 母集団と測定値  
生のデータから知りたいことを導くまで
データから学ぶ 「帰納的推論」のプロセス
すべてのデータが手に入る場合
母集団分布が「鐘形曲線」の場合
実はわかりづらい「母集団とは何か?」
まとめ
第4章 何が何の原因か?  
原因と見せかけて原因でないもの
「相関関係は必ずしも因果関係を意味しない」
ともあれ「因果関係」とは何か?
無作為化ができない場合にはどうするか?
観測された相関が因果関係ではない場合
観察的データから本当に因果を結論できるのか?
まとめ
第5章 回帰を使って関係性をモデリング  
2変数間の関係を表す回帰直線
統計モデルの構成要素「シグナルとノイズ」
説明変数が複数ある場合の回帰モデル
応答変数が比率や時間の場合の回帰モデル
回帰モデル以外にもモデルはある
まとめ
第6章 アルゴリズム、分析、予測  
データから学んで答えを提供するシステム
パターンを見つけるアルゴリズム
分類と予測を行なうアルゴリズムの種類
分類ツリーを使って判定する場合
アルゴリズムのパフォーマンスを評価する方法
確率的予測の優秀さを測る合成尺度
過剰適合とは何か、それを抑える方法は?
回帰モデルも予測に使うことができる
より複雑なテクニックなら能力は向上するか?
アルゴリズムを実社会で運用する際の課題
人工知能は統計学的手法を超えるか?
まとめ
第7章 標本調査の結果にどれほど確信が持てるか? 推定値と区間  
失業者の調査はどのように行なわれているか?
性的パートナー数調査の統計量の許容誤差
まとめ
第8章 確率とは何か? 不確実性と変動性を伝える手段  
確率理論は比較的新しく、実際に難解
期待度数で考えると確率は理解しやすくなる
確率がほかの事象に依存する条件付き確率 
いずれにしても「確率」とは何か?
数学的確率分布に驚くほどしたがう現実の事象
まとめ
第9章 確率と統計をまとめる  
不確定区間を確率理論を使って推定する
無秩序から秩序が生まれる中心極限定理
確率論で観測値から不確定区間を求めるには?
信頼区間を計算によって求める
世論調査の許容誤差はどれくらいか?
統計学で推測した許容誤差は信じられるか?
数学的確率分布から母数の経時的変化を考える
まとめ
第10章 問いに答えるのに必要なこと 発見の意味を知る  
いよいよ仮説検定の段階へ
統計学的モデルにおいて「仮説」とは何か?
帰無仮説を使う正式な検定の考えかた
統計的有意性とP値の関係
確率論を使う検定のさまざまな実例
何度も有意性検定を重ねることの危うさ
ネイマン-ピアソンの理論による検定
まとめ
第11章 ベイズ統計学による推論の方法 経験から学ぶ  
統計学の根本原理は統一されていない
ベイズ統計学のアプローチとは何か?
ベイズの定理で重要なオッズと尤度比
尤度比で証拠の確からしさを考える
ベイズ統計学による推論のさまざまな利点
統計学界の長年にわたるイデオロギーの戦い
まとめ
第12章 統計学の誤用・悪用・誤解釈  
統計学が正しく運用されていない場合
「再現性の危機」とはどのような問題か?
意図的なごまかしは統計学で発見できるか?
「好ましくない研究行為」とは何か?
好ましくない研究行為が行なわれる頻度
結果の伝達の段階でも機能不全が起こる
文献として表に出る研究はどのようなものか?
広報担当により誇張されるプレスリリース
注目を惹くためにマスメディアがすること
まとめ
第13章 統計学をよりよくするには?  
統計学に関わる3つのグループ
研究の現場での統計学の実践を改善する
統計の伝達を改善し誇張をなくす
質の低い実践をチェックする人たち
発表バイアスを見つける方法
統計学による主張や記事を評価する
統計学的証拠に基づく主張への10の問い
データ倫理はより重要になるだろう
優れた統計科学の例――総選挙の出口調査
まとめ
第14章 おわりに  
効率的な統計実務のための10箇条
謝辞  

用語集
原注

 

著者紹介

デイヴィッド・シュピーゲルハルター(David Spiegelhalter)

ケンブリッジ大学数理科学センターのウィントンリスク・エビデンスコミュニケーションセンター所長。2014年に医学統計学への貢献によりナイトの称号を授与。英国統計学会会長(2017-2018)を務め、2020年に英国統計局の非常勤理事に就任。邦訳されている著書に『もうダメかも:死ぬ確率の統計学』(共著、みすず書房)がある。

訳者紹介

宮本寿代 (みやもと・ひさよ)

お茶の水女子大学大学院理学研究科数学専攻修了。『ニコラ・テスラ 秘密の告白』(ニコラ・テスラ著、成甲書房)、『マスペディア1000』(リチャード・エルウィス著、ディスカヴァー21)、『地球温暖化はなぜ起こるのか』(真鍋淑郎/アンソニー・J・ブロッコリー著、講談社)、『EARTH 図鑑 地球科学の世界』(共訳、東京書籍)、『食品会社が絶対に知られたくない添加物の正体』(リンダ・ボンヴィー/ビル・ボンヴィー著、IMK Books)など理系書の翻訳に従事。

Amazon:統計学の極意:デイヴィッド・シュピーゲルハルター 著 宮本寿代 訳:本

楽天ブックス: 統計学の極意 - デイヴィッド・シュピーゲルハルター - 9784794226921 : 本

三〇通りの理想と現実の折り合いの付け方『英米の大学生が学んでいる政治哲学史』グレアム・ガラード/ジェームズ・バーナード・マーフィー 著

英米の大学生が学んでいる政治哲学史

――三〇人の思索者の生涯と思想

グレアム・ガラード 著 ジェームズ・バーナード・マーフィー 著 神月謙一 訳

孔子、プラトン、マキャヴェッリ、ルソー、トクヴィル、マルクス、クトゥブ、アーレント、ロールズ、ヌスバウム――。本書は古代ギリシャの哲学者をはじめ、儒教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神学者や指導者、そして「フェミニズムの母」やエコロジストを含む近現代哲学者まで、三〇人の賢者たちの人生と思想を通史的に解説した一冊です。

人が、個人やコミュニティーとして、どうすればより良く生きられるか、普遍的な知恵を追い求めてきたのが本書が紹介する思索者たちです。

例えばアリストテレスは、政治的共同体を「人間の望ましい生活について合意を共有する理性的な人間の集まり」と定義します。選挙は最も優れた人物を選ぶことが目的なのだから、貴族制にこそふさわしいと言います。

マキャヴェッリにとっては、残酷であることが当たり前であった政治の世界において、二つの善や、善と悪からではなく、二つの悪の中からよりましなほうを選ぶことが倫理的に正しい選択でした。

バークにとって統治の技術は理論ではなく実践的なものでした。時間をかけて徐々に進化する伝統的な習慣や慣例に従うべきだと考えたのです。

ガンディーが政治手法とした非暴力主義は、肉体的な欲求を無視し、苦痛や死さえ受け入れられるようにする厳しい訓練に基づいたものでした。

是非本書を紐解いて、私たち自身が生きる政治的環境において、いかに理想と現実の折り合いを付けるか、何らかの新たな視点を見出してください。

(担当/渡邉)

 

【内容紹介】

孔子、プラトン、アリストテレス、アウグスティヌス、アル=ファーラービー、マイモニデス、トマス・アクィナス、マキャヴェッリ、ホッブズ、ロック、ヒューム、ルソー、バーク、ウルストンクラフト、カント、ペイン、ヘーゲル、マディソン、トクヴィル、ミル、マルクス、ニーチェ、ガンディー、クトゥブ、アーレント、毛沢東、ハイエク、ロールズ、ヌスバウム、ネス――。

古代ギリシャの哲学者をはじめ、儒教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神学者や指導者、そして「フェミニズムの母」やエコロジストを含む近現代哲学者まで、三〇人の賢者たちの人生と思想を通史的に解説。

本書は、歴史上有数の政治学者たちの話をこっそり聞ける場所に読者を案内する。読者は、三〇の短い章を通じて、さまざまな魅力的な人物と知り合えるだろう。(中略)
彼らは皆、同時代の政治的情報から真の知識を抽出し、その知識を、人が、個人やコミュニティーとして、どうすればより良く生きられるかについての普遍的な知恵に変えようとした。私たちが選んだのは、最も賢明で、最も大きな影響を後世に与えた三〇人の政治思想家である。彼らの出身地は、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカと、広範にわたる。また、各章の終わりでは、それぞれの賢者が現代の政治的問題に対して提供し得る知恵について考察している。(「序章 政治――かつては力が正義だった」より)

 

【目次】

序章 政治――かつては力が正義だった

古代
第一章 孔子――聖人
第二章 プラトン――劇作家
第三章 アリストテレス――生物学者
第四章 アウグスティヌス――現実主義者(リアリスト)

中世
第五章 アル=ファーラービー――先導者(イマーム)
第六章 マイモニデス――立法者
第七章 トマス・アクィナス――調停者(ハーモナイザー)

近代
第八章 ニッコロ・マキャヴェッリ――愛国者
第九章 トマス・ホッブズ――絶対主義者
第一〇章 ジョン・ロック――清教徒(ピューリタン)
第一一章 デイヴィッド・ヒューム――懐疑論者
第一二章 ジャン=ジャック・ルソー――市民(シトワイヤン)
第一三章 エドマンド・バーク――反革命主義者
第一四章 メアリー・ウルストンクラフト――フェミニスト
第一五章 イマヌエル・カント――純粋主義者(ピュアリスト)
第一六章 トマス・ペイン――煽動者
第一七章 ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル――神秘主義者
第一八章 ジェームズ・マディソン――建国の父(ファウンダー)
第一九章 アレクシ・ド・トクヴィル――預言者
第二〇章 ジョン・スチュアート・ミル――個人主義者
第二一章 カール・マルクス――革命思想家
第二二章 フリードリヒ・ニーチェ――心理学者

現代
第二三章 モーハンダース・ガンディー――戦士
第二四章 サイイド・クトゥブ――聖戦主義者(ジハーディスト)
第二五章 ハンナ・アーレント――除け者(パーリア)
第二六章 毛沢東――主席
第二七章 フリードリヒ・ハイエク――リバタリアン
第二八章 ジョン・ロールズ――リベラル
第二九章 マーサ・ヌスバウム――自己啓発者(セルフディベロッパー)
第三〇章 アルネ・ネス――登山家

結論――政治と哲学の不幸な結婚

 

著者紹介

グレアム・ガラード

一九九五年からイギリスのカーディフ大学で、二〇〇六年からはアメリカのハーバード大学サマースクールでも政治思想を教えている。カナダ、アメリカ、イギリス、フランスのさまざまな大学で二五年間講義を行ってきた。

ジェームズ・バーナード・マーフィー

アメリカのニューハンプシャー州ハノーバーにあるダートマス大学で一九九〇年から教壇に立ち、現在は政治学の教授を務めている。

訳者紹介

神月謙一(かみづき・けんいち)

翻訳家。青森県生まれ。東京都立大学人文学部卒業。国立大学の教員を一三年間勤めたのち現職。訳書に『戦争と交渉の経済学 人はなぜ戦うのか』『私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット』(ともに草思社)など多数。

Amazon:英米の大学生が学んでいる政治哲学史 三〇人の思索者の生涯と思想:グレアム・ガラード 著 ジェームズ・バーナード・マーフィー 著 神月謙一 訳:本

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清少納言の「枕草子」に生き方を学ぶ。新しいタイプの人生指南書『ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考』下重暁子 著

ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考

下重暁子 著

2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で平安時代に注目が集まるなか、紫式部のライバルとして名高い清少納言にもスポットライトが当たっています。本書は「私は紫式部より清少納言のほうが断然好き」と公言してはばからない著者が、人生の愛読書「枕草子」をわかりやすく解説しながら、「いとをかし」的な前向きな生き方を現代のシニア世代に提案する新しいタイプの指南本。いかに生きて、いかに死ぬか? 年齢を重ねても縮こまらず、何事も清少納言のように面白がりながら意見を持ち自立して生きていくことの大切さを説く、渾身の書き下ろしエッセイです。

著者は生い立ちから死をむかえるまでの清少納言の心境を「枕草子」を、読み解くことによって自分なりに推理し、共感していきます。気の張る宮仕えをしながら、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり綴り、四季を味わいつつ日々を重ねる清少納言の姿に、これからの生き方のヒントを見つける方も多いのではないでしょうか。著者は「清少納言の文体は俳句に近い」という自説も披露し、清少納言の文体の魅力を新たな視点で掘り下げていきます。終章では、清少納言に自らの死生観を重ね、家族や友だちと別れることになったとき、ひとりになったときにどのような心持ちで生きていけばよいかを切々と綴ります。まさに「下重暁子の新境地」となる意欲作です。

(担当/五十嵐)

 

〈「はじめに」より〉
平安時代の一人の秀れた女性作家と付き合うことで、なぜ清少納言に惹かれたかがわかった。その理由は、人間性である。「枕草子」からは、恥ずかしがり屋だが正直な清少納言の、生身の人間性が感じられる。(中略)清少納言の晩年に見る「あわれ」や「をかし」。それを自分のものとする機会を得た。

 

【目次】

第一章 なぜ今、清少納言なのか
第二章 「枕草子」の美意識
第三章 四季で知る「いとをかし」
第四章 清少納言は俳句人間?
第五章 ひとりになったら、ひとりにふさわしく

 

著者紹介

下重暁子(しもじゅう・あきこ)

1959年早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。同年NHKに入局。アナウンサーとして活躍後、1968年フリーとなる。民放キャスターを経て、文筆活動に。公益財団法人JKA(旧:日本自転車振興会)会長、日本ペンクラブ副会長などを歴任。現在、日本旅行作家協会会長。『家族という病』『極上の孤独』(ともに幻冬舎新書)、『鋼の女 最後の瞽女・小林ハル』(集英社文庫)、『人生「散りぎわ」がおもしろい』(毎日新聞出版)、『結婚しても一人』(光文社新書)など著書多数。

Amazon:ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考:下重暁子 著:本

楽天ブックス: ひとりになったら、ひとりにふさわしく 私の清少納言考 - 下重 暁子 - 9784794227065 : 本

先生を取り巻く苛酷すぎる現状 『追いつめられる教師たち』齋藤浩 著

追いつめられる教師たち

齋藤浩 著

ベテランの公立小学校教諭が忖度なしに綴る「先生不足」の本当の理由

 昨年、うつなどの精神疾患が原因で休職を余儀なくされた公立学校の先生の数は6539人で、過去最高を記録しました。先生のメンタルヘルスについては近年、大きな問題となっており、文科省でも対策に乗り出してはいますが、いっこうに改善の兆しはありません。また先生のなり手不足も深刻で、教員採用試験の倍率は記録的な低さになってしまっています。いま日本の先生に何が起こっているのでしょうか。なぜ教師という職業はかつての輝きを失ってしまったのでしょうか。本書はまもなく定年を迎えるベテラン教師が、自身の豊富な現場経験にもとづいて、「日本の教育のために、最後にこれだけは絶対に言っておきたい!」という思いでつづった問題提起の書です。
 著者はまず、教師を「なんでも屋」のように使役しようとする一部の保護者のせいで教師がどれほど疲弊しているかについて具体的に書いています。放課後も休日もおかまいなしに寄せられる要望の数々……。恐ろしいことに、そこで対応を誤るとしばしば「訴えるぞ!」という脅し文句すら投げつけられるのです。しかし、教育委員会も校長も先生を守ろうとはせず、保護者の顔色をうかがって負担を現場の教師に押し付けます。誰も守ってくれない状況で、孤立感を深めながら長時間労働を続け、心身の限界を迎えていく……。本書には、心ある先生が追い込まれていく状況がさまざまな実体験を交えながら描かれています。
著者は前著『教師という接客業』において、「サービス業」意識で生徒・保護者に相対することを求められ大混乱に陥っている教育現場の状況を克明に描きましたが、本書においては、その状況を変えるために動くべき学校の管理職(校長)や教育委員会、文科省がいかに状況認識を誤り、問題を深刻化させているかについても言及しています。そこには現場感覚の欠如や事なかれ主義といった、あらゆる組織をダメにする問題がはっきり見てとれるのですが、公教育の世界においては誰も火中の栗を拾おうとはせず、事態は「このままでは、まともな教師がいなくなる!」というところまできたのです。公教育の担い手が毎年、数千人単位で心を病んで教壇に立てなくなるような国に未来はありません。今、目の前にある大きな危機に気づいていただくために、多くの読者に手にとっていただきたい一冊です。

(担当/碇)


【本書より】
 われわれ教師が必要以上に愛想よく、なんでも受け入れそうな姿勢を見せ続けたからだろうか、保護者の一部には、
「学校の先生はいくら使ってもタダなんだから、なんでも言わないと損するわよ」
 と教師をバカにするような態度を隠さない保護者もいるらしい。
「それは、ダメでしょう」
 と別の保護者が注意しても、悪びれる様子はなかったという。
「だって、先生たちは公務員でしょう。私たちのために動いてくれて当然じゃないの」
 言っておくが、われわれ教師は雑用係ではない。大学で教職の単位をとり、教科の指導法などを学んで教壇に立っている教育のプロなのだ。
「家のまわりに変な中学生がいるんです。先生、ちょっと見にきてくれませんか」
 実際にある保護者からこんな依頼を受けたときは、心底驚いた。悪びれた様子などまったくない。家のまわりのパトロールまで教師の仕事だと思いこんでいるのだ。

 

【目次】

はじめに 教師の我慢も限界にきている!

第1章 教師は「なんでも屋」じゃない!
「だって、先生たちは公務員でしょう」
「なくなった教科書を探して!」
「放課後も学校で子どもを預かって!」
「猫の引き取り手を探して!」
「ゲームをやり過ぎないように注意して!」
「他の保護者とのトラブルの仲裁をして!」
「少年サッカーのコーチをして!」
「できるだけ子どもと一緒に遊んで!」
「子どもたちの様子を学校のブログにあげて!」
「答えられそうな表情をしていたら指名してあげて!」
「子どもの発表会を見にきて!」
「嫌いなものを食べて吐かないか見ていて!」
「水筒を持ち帰るように呼びかけて!」
「旅行先からオンライン授業に参加させて!」
「具合が悪いけど学校に行かせたので面倒を見て!」
「つねに笑顔で授業をして!」
「クラスごとに違いがないようにして!」

第2章 訴えたいのは教師のほうだ!
教師と保護者の関係が歪むとき
「訴える!」と言われれば哀しいけど怯むよ
クレームの行き着く先はの多くが教育委員会
被害妄想とナルシスト、二つのタイプのクレーマー
言った保護者は忘れても言われた教師は覚えている
突然、保護者にビンタされた校長
病院中に響きわたった罵声
「不登校は先生のせいです」
それでも教師が訴えない理由

第3章 親はきちんと躾をしてから入学させろ!
「誰、このおじさん?」
「うちはうちのやり方で躾をしていますから」
「注意しないで」子どもが立派に育つと思っているのか
せめて座って人の話を聞けるようにしてくれ
自分から手を出しても「大目に見てほしい」
「泣けばなんとかなると思っていた」
哀しき挨拶運動
写真を撮りまくる保護者、ガムを噛む保護者
保護者も時間どおりに行動してください!
親は子どもに「本当の楽しさ」を教える必要があるのだ
クラスの全員と気が合うはずはないだろう
チャイムが鳴ったら教室に戻るぞ!

第4章 文部科学省も教育委員会も教師の味方じゃない!
教師という仕事はなぜ魅力を失ってしまったのか
最低賃金を下回る教師の「残業代」
現場を知らない役人による意思決定の弊害
教師不足の根本原因から目をそらす文科省
「空いた時間を見つけて授業をやっている」という感覚
「#教師のバトン」プロジェクトの欺瞞
教育委員会はもっと教師の声に耳を傾けるべきだ
教育委員会はなぜ「子どもの使い」のようなまねをするのか
教育長が専用車で移動する必要があるのか
異常な学校間格差はなぜ生まれるのか
全国学力・学習状況調査は誰のためにやっているのか
自治体は教師不足の本当の理由をわかっているのか

第5章 覚悟のない人間が校長になるな!
「触らぬ神に祟りなしですよ」
「校長になったことを、私の母も大変よろこんでおりまして」
「私にはこうして謝ることしかできません」
「教育委員会でも、そう言っているので……」
学校はなんのために謝罪会見を開くのか
校長なら言ってみろ①「私がなんとかしましょう」
校長なら言ってみろ②「一生懸命やっているのだから恐れることはありません」
校長なら言ってみろ③「保護者との人間関係が悪くなってもしかたない」
校長なら言ってみろ④「ここまでやったんだから、もういいよ」
校長なら言ってみろ⑤「クレームはすべて引き受けます」
校長なら言ってみろ⑥「思いきって業務を減らしましょう」
「そのように育てたのは、あなたですよ」

終章 これ以上バカにするなら、まともな教師がいなくなるぞ!
処方箋などあるはずがない
結局は誰もが損をする
「一〇年後」では手遅れなのだ

 

著者紹介

齋藤浩(さいとう・ひろし)
1963(昭和38)年、東京都生まれ。横浜国立大学教育学部初等国語科卒業。佛教大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。現在、神奈川県内公立小学校教諭、日本獣医生命科学大学非常勤講師。日本国語教育学会、日本生涯教育学会会員。著書に『教師という接客業』『子どもを蝕む空虚な日本語』『お母さんが知らない伸びる子の意外な行動』(いずれも草思社)、『ひとりで解決!理不尽な保護者トラブル対応術』『チームで解決!理不尽な保護者トラブル対応術』(いずれも学事出版)などがある。

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運動機構の「見どころ」を詳説!『アスリートのための解剖学〈アドバンス編〉』大山卞圭悟 著

アスリートのための解剖学〈アドバンス編〉

大山卞圭悟 著

 本書は2020年に刊行されて以来、多くの読者を得て版を重ねている『アスリートのための解剖学』の姉妹編です。前著と同じく、日本トレーニング指導者協会(JATI)の機関誌『JATI EXPRESS』に連載された「GTK現場で使える機能解剖学」の内容に加筆・修正を加えて再構成した一冊です。著者はトップアスリートとしての競技歴(砲丸投げで全日本実業団優勝など)や陸連トレーナーとしての活動歴を持つ研究者であり、本書ではそうした多彩な経験をもとに、私たち人間の身体の仕組みの謎に迫っています。
〈人体の骨は200余り、筋は600を超えるといわれています。この数は、ほとんど変化しないにもかかわらず、身体の使い方に関する「みどころ」というのは、追求すればするほど、無限に生じるものです。本書では筆者の視点を通して見える、身体の運動機構の見どころについて図と共にお話ししていきたいと思います〉
 本書の冒頭で著者はこのように述べています。今回の本では筋肉の生理学的な特性や筋腱周辺の細やかな構造に関する解説、体幹から上肢に関するトピックス、そして各部位間の仕組みと動きのつながりに注目した「キネティックチェーン」についても、わかりやすい解説がなされており、さらには、ストレッチングやテーピングといったコンディショニング手技についても機能解剖学的な視点から解説されています。
 近年はネット上の動画などによってもアスリートに必要な情報が収集できるようになってきていますが、そうした情報の中には「解剖学的な理解が必ずしも正確でないと思われる情報も一定数見受けられます」と著者は述べています。では、何を基準に判断すればよいのか。「身体の仕組みや運動の成り立ちを取り扱う立場から、それぞれの情報が信ずるに足るものかどうかを見極める際の、もっとも信頼できる拠り所となるのが解剖学」なのです。トレーニング愛好者を含むすべてのアスリート及びトレーナーに、ぜひ目を通していただきたい一冊です。

(担当/碇)

 

【本書より】

 アスリートが競技の現場で繰り出す高い出力、身体への負担の大きな動きというのは、生存や種の維持に関わらないところであっても、最大出力や身体を傷つける可能性があるくらいの大きな負荷を「みずからすすんで」つくり出しているわけです。これはきわめて「人間らしい」営みといえるでしょう。
 そういう意味では、動物の中ではまったく特殊です。そのようなアスリートの活動であるからこそ、日常生活の負荷ではトレーニング効果を得るには不十分なことがほとんどで、意図的な負荷や動きづくりを考えていく必要があります。
 このような見方からいうと、ヒトと動物の違いは、目的が同様の動きであっても意図的、戦略的にコントロール様式を変えていくことができる点ではないでしょうか。

 

【目次】

巻頭コラム 私の解剖学事始
Chapter1 筋の力発揮特性と補助機能のはなし
Chapter2 キネティックチェーンのはなし
Chapter3 体幹のはなし
Chapter4 上肢のはなし
Chapter5 ストレッチングとテーピングのはなし
巻末コラム 恐怖の悪循環

 

著者紹介

大山卞圭悟(おおやま・べん・けいご)

1970年兵庫県西脇市生まれ。93年筑波大学体育専門学群卒業。修士(体育科学)。99年筑波大学体育科学系 講師、2001年筑波大学大学院人間総合科学研究科 講師を経て、13年より筑波大学体育系 准教授(現在に至る)。99年より現在まで、筑波大学陸上競技部部長・コーチ(主に投擲競技を担当、06~11年同監督)、日本陸連医事委員会トレーナー部長を務める。99年、01年、05年ユニバーシアード陸上競技日本選手団トレーナー。JATIトレーニング指導者養成講習会講師(担当講義「機能解剖」)。著書『トレーニング指導者テキスト 理論編改訂版(分担執筆)』『コンテクスチュアルトレーニング(監訳)』(いずれも大修館書店)、『解剖学』(化学同人)、『アスリートのための解剖学』(草思社)。

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その翻訳、機械まかせでいいですか?先人に学ぶ翻訳の本質『生と死を分ける翻訳 聖書から機械翻訳まで』アンナ・アスラニアン著 小川浩一訳

生と死を分ける翻訳

――聖書から機械翻訳まで

アンナ・アスラニアン著 小川浩一訳

いまでは機械翻訳が驚くほど発達し、翻訳が手軽かつ身近になりました。しかし、この翻訳・通訳という行為は、その過去を振り返って見ると、数々の歴史的な重大局面にかかわっており、表舞台には名前が出てこない翻訳者たちが涙ぐましい努力、創意工夫、そして勇気とともに行われてきたものです。それはまた少なからず、自分の命がかかったり世界の歴史を決定するような、重大な行為であることも少なくありませんでした。
本書は、さまざまな「歴史的な翻訳」のエピソードを見ることでその本質を知るものです。本書から先人の知恵を学び、翻訳の本質を理解しておくことは、まさに「AI翻訳時代」のいまこそ知っておくべき内容と言えます。

・「クズマの母」とは何者か?
本書で取り上げられる事例には、冷戦時の東西の意見を懸命に訳した通訳者、ヒトラーやムッソリーニのような独裁者の通訳、聖書という最も困難な翻訳書、ボルヘスと二人三脚で翻訳をした人物の貢献、ジャーナリズム翻訳というジャンルならではの苦労など、さまざまな時代、分野の翻訳エピソードに触れられます。
ひとつ例を挙げてみましょう。冷戦下、ニキータ・フルシチョフとリチャード・ニクソンは、対談でお互いのイデオロギーの優位性を示すべく「言葉による殴り合い」と称される諺を多用した対話を繰り広げましたが、それにあたった通訳者は大変な苦労を強いられました。このように諺が多用される場合、ときにその諺に適切な訳がその場で出ず直訳するしかないということもあります。フルシチョフは、「クズマの母をお見せしよう」という表現を何度か用いたことがありました。アメリカ側は、このことが具体的な人物なのか、あるいは比喩的な意味なのか分からず戦々恐々としていましたが、この「得体のしれない謎の母親」の正体は、「一度も見たことがないもの」という程度の意味のロシアの慣用句に過ぎなかったのです。直訳は意訳による誤解を防ぐこともあるので効果的な場面もありますが、一方で混乱につながる場合もあるのです。
本書ではほかにも、「翻訳先の文化にはない単語は変えてもいいのか」「ジョークをどこまで翻訳するか」「独裁者の通訳はそうでない人と何か変える必要があるのか」など、翻訳や通訳の際に経験する「あるある」ともいえるテーマのもっとも極端に表れた事例を、多数収録しています。

・翻訳者はまだ死んでいない。
端的にいってしまうと、翻訳とはそもそもイコールではない二つの言語を、翻訳・通訳者が必死につなげる行為です。これはほとんど、2つの宇宙に橋を架けるような行為と言っても過言ではありません。そのような言語の本質が理解できたときに、翻訳行為に人間がかかわることの意味が見えてくると思います。言葉が、適切な単語を適切な順序で並べるだけのものになり下がらない限り、「翻訳者」は存在し続けるのです。

(担当/吉田)

 

目次

序章 翻訳者はロープの上で踊る
第一章 世界を揺るがせる 諺の知識が世界を救う
第二章 笑いの効用 通訳にユーモアが必要な理由
第三章 追従術 翻訳者の処世術
第四章 観測と解析 科学分野の翻訳も楽ではない
第五章 英語の宝物 翻訳は言語そのものを豊かにもする
第六章 崇高な門 翻訳力が権力を持つとき
第七章 不貞 前代未聞の離婚通訳劇
第八章 ヒトラーの言葉の正確性 第二次世界大戦の通訳者たち
第九章 小物 戦争裁判の被告と通訳者
第十章 二人のラストドラゴマン アラブ世界とヨーロッパのはざまに消えゆく
第十一章 「私の方が彼に近しいと思うのだが」 翻訳と翻案のはざまで
第十二章 ボルヘスの五十パーセント 翻訳者という枠を超えた二人三脚
第十三章 単語を変えるのはアリか? 聖書という困難な翻訳の対象
第十四章 ジャーナレーション ジャーナリズム翻訳に求められるもの
第十五章 現地人との付き合い方 通訳の不遇さの古今東西
第十六章 名を正す 危機の時代における通訳のあり方
第十七章 権限のある機関の義務 翻訳のサービス化を考える
第十八章 非論理的要素 機械翻訳と翻訳者の未来

 

著者紹介

アンナ・アスラニアン(ANNA ASLANYAN )

ジャーナリスト、翻訳家。『ガーディアン』や『タイムズ文芸付録』などに書籍やアート関連の記事を寄稿している。ロシア語の文学やノンフィクションを英訳しており、「Post-Post Soviet? Art, Politics and Society in Russia at the Turn of the Decade」などの英訳書がある。 

訳者紹介

小川浩一(おがわ・こういち)

1964年京都市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。英語とフランス語の翻訳を児童書から専門書まで幅広く手掛ける。主な訳書に、『アーティストのための形態学ノート』(青幻舎)、『GRAPHIC DESIGN THEORY』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『いろんなたまご』(大日本絵画)、『ディープラーニング学習する機械』(講談社)、『軍事の科学』(ニュートンプレス)などがある。

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物語と文体の力が伝える家康の生涯 『日本外史 徳川氏正記』頼山陽 著 木村岳雄 訳・解説

日本外史 徳川氏正記

頼山陽 著 木村岳雄 訳・解説

『日本外史』は、源平から徳川までの武家の興亡を、司馬遷の『史記』の紀伝体に倣って記述した歴史書です。本書は『日本外史』全二十二巻のうち、巻之十八から巻之二十二までに相当する「徳川氏正記」を扱っています。徳川氏の出自からその死後まで、家康の生涯を格調高い名文(書き下し文)に丁寧な解説・現代語訳を付しています。

頼山陽は江戸時代後期の漢学者にして詩人。二十一歳で安芸国(広島県)を出奔、自宅幽閉赦免ののち、京都で開塾。詩、書に才能を発揮しました。山陽二十三歳の時に初稿として書き上げられた『日本外史』は、その後二十三年をかけ推敲されて完成。死後評判を呼び、疾風怒濤の時代のベストセラーとなり、幕末の志士たちを奮起させることになりました。

『日本外史』の何が同時代の日本人の心を打ったのでしょうか。一つは訳・解説者の木村岳雄氏が師・西部邁氏から学んだという「historyとはhis storyである」という言葉に見出せます。『日本外史』に採用された史料は軍記物が中心で、史実に合致しない記述が散見されるのは確かですが、正確さ以上に同時代、そして後世の日本人が「天下人の家康」として語り継いできた物語の力がここには脈打っています。

そしてもう一つは木村氏が「引き締まり研ぎ澄まされた文体に、思わず声に出して読みたくなるような律動を帯び、しかもそこはかとなく清艶ささえ漂わす」と記す頼山陽の文章の持つ力です。

是非本書を紐解いて、当時の日本人を奮い立たせた活気の幾分かでも味わってください。

(担当/渡邉)

 

【内容紹介】

幕末の志士たちを奮起させた、
疾風怒濤の時代のベストセラー!

家康の生涯を格調高い名文と丁寧な解説・現代語訳で読む。

徳川氏の出自/家康の誕生/清洲同盟/三河一向一揆/姉川の戦い/三方ヶ原の戦い/長篠の戦い/武田家の滅亡/本能寺の変/神君伊賀越え/天正壬午の乱/羽黒の戦い/小牧長久手の戦い/小田原征伐/江戸入府/朝鮮出兵/秀吉、薨ず/天下の政務を執る/伏見城の戦い/小山評定/岐阜城の戦い/関ヶ原の戦い/家康、征夷大将軍に/大坂冬の陣/大坂夏の陣/秀頼の自殺/家康、薨る/徳川氏論賛 ほか

【「はじめに」より】
幕末から戦前にかけての日本人の精神史を語る上で『日本外史』の歴史観を欠かすことはできない。この時代の若者たちはみな『日本外史』を咀嚼し反芻し消化し血肉化し、そこから獲た精神の活力で次の新しい歴史を切り開いていったのである。(中略)
天朝の式微を嘆き、武門の専横を憤る『日本外史』の「尊王斥覇」の主調低音。それはやがて討幕維新の志士の言葉や行動へと変換されていく。

【目次】
はじめに

巻之十八 徳川氏正記 徳川氏一
徳川氏の出自/松平氏、西三河を平定す/森山崩れ/家康の誕生/広忠死す/竹千代の元服/信康の誕生/清洲同盟/三河一向一揆/名を家康と改める/徳川への改姓/姉川の戦い

巻之十九 徳川氏正記 徳川氏二
武田氏と兵難を構える/三方ヶ原の戦い/信玄、死す/勝頼の来攻/長篠の戦い/遠江の諸城の回復/築山殿と信康の死/武田家の滅亡/本能寺の変/神君伊賀越え/天正壬午の乱

巻之二十 徳川氏正記 徳川氏三
信雄、家康に援けを願う/羽黒の戦い/小牧長久手の戦い/秀康を養子に遣る/第一次上田合戦/家康、秀吉の妹を娶る/家康西上し、秀吉と会す/秀吉、九州を平定す/北条氏の討伐を決す/小田原征伐/八王子城の戦い/徳川氏、関東八ヵ国を領有す/江戸入府/朝鮮出兵/秀次事件/秀吉、病に罹る/秀吉、薨ず

巻之二十一 徳川氏正記 徳川氏四
天下の政務を執る/七将三成襲撃計画/会津征伐を決す/伏見城の戦い/小山評定/家康、秀忠の出陣/伏見城の陥落/岐阜城の戦い/家康、西上す/家康の着陣/関ヶ原の戦い/秀忠の遅参/九州、四国を平定す/諸将将士の論功行賞/於大の方死す/家康、征夷大将軍に/秀忠の長男、家光誕生/秀忠、征夷大将軍に/琉球侵攻/家康、秀頼と会す

巻之二十二 徳川氏正記 徳川氏五
方広寺鐘銘事件/大坂冬の陣/真田丸の攻防/和議の成立/大坂夏の陣/諸軍向かう所を定める/死を恐るゝ者はこれより去れ/家康、諸将を部署す/家康、また勝つ/秀頼の自殺/秀忠、賞罰を評議す/武家諸法度、禁中並公家諸法度/一国一城令の布告/家康、薨る/秀忠、政権に就く/秀忠、薨る/島原の乱/家光、薨る/家綱、四代将軍に就く/徳川氏論賛

おわりに
主要参考文献一覧

 

著者紹介

頼山陽(らい・さんよう)

一七八〇〜一八三二年。江戸時代後期の漢学者、詩人。二十一歳で安芸国(広島県)を出奔、自宅幽閉赦免ののち、京都で開塾。詩、書に才能を発揮。著書は『日本外史』の他、『日本政記』『日本楽府』『山陽詩鈔』など。

訳者・解説者紹介

木村岳雄(きむら・たけお)

一九六三年、埼玉県生まれ。京都大学文学部卒業。発言者塾で西部邁氏に師事。現在は東洋大学で非常勤講師を務める。他に講演活動、漢文塾を主宰、学習塾で指導。著書に『白川静読本』(共著)、『論語清談』(監修)がある。

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