新釈 猫の妙術
ーー武道哲学が教える「人生の達人」への道
佚斎樗山 著 高橋有 訳・解説
本書の親本である『猫の妙術』は、江戸時代の中頃に書かれた「剣術指南本」です。著者である佚斎樗山(いっさい・ちょざん)は下総国関宿(せきやど)藩の久世家に仕えた侍ですが、当時の啓蒙書「談義本」を多く書き、人気を博した人物でもありました。
幕末の剣聖・山岡鉄舟は自分の所蔵する多くの兵法書を門下に自由に閲覧させていましたが、この『猫の妙術』だけは容易に人に見せなかったといいます。そんな剣聖にとっても唯一無二の書であり、また武道をたしなむ人間の間でひそかに読み継がれてきた『猫の妙術』は、剣術指南本とはいいながらも技術的なことにはまったく触れず、ひたすらに「心」の在り方を問題にする不思議な本でもあります。
無敵の大ネズミをみごとに退治してみせた古猫が、剣術家と若い猫たちに「勝負」に際しての心の持ちようを教え諭す――というシンプルな枠組の物語ではありますが、そこに含まれている内容は深淵で、十全に内容を理解するには、老荘思想や禅の知識なども必要になるとされているのです。
その古典の奥深い教えを、現代風にわかりやすく紹介するのが本書です。原典の物語のセリフや背景を補い、予備知識なしでもすっきり頭に入る内容になっています。また、より深く理解していただくために、最後に訳者によるガイドもつけてあります。
私たちは人生のさまざまな場面で否応なく「勝負」に直面します。そんなとき、肩の力を抜いて自然体で臨むことができたら、どんなに素晴らしいでしょうか。この本は、まさにそのための心構えを教えてくれる一冊なのです。
【目次より】
〈新釈パート〉
第一章 猫、大鼠の退治に臨む
第二章 古猫、「勝負」と「上達」を語る
第三章 勝軒、「世界」を我がものにす
〈解説パート〉
・三匹の猫はなぜ負けたのか
・「無限」に対応できる「技」でなければ勝つことはできない
・「浩然の気」とは何か?
・「作為」をなくす二つの段階
・「道理」は、「技」と一貫している
・すべてが一貫した先にある境地
・「勝ちたがる自分」を殺す
・物事の「とらえ方」の枠組みを外す
・「一」で物事をとらえれば人生の苦しみもなくなる
・「言葉」から「道理」を会得する
(担当・碇)
著者紹介
佚斎樗山(いっさい・ちょざん)
万治2年(1659年)~寛保元年(1741年)。下総国関宿藩の久世家に仕えた。当時の啓蒙書「談義本」を多く書き人気を博す。本名・丹羽十郎右衛門忠明。
訳者紹介
高橋有(たかはし・ゆう)
東京都生まれ。文学修士(国文学専攻・専門は漢文学)。幼少期より剣道、空手、柔術、総合格闘技などさまざまな武術を経験。現在も修行中。
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