草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

ジョブズにも影響を与えた、「生ける伝説」の渾身の評伝 『ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生』ジョン・マルコフ 著

ホールアースの革命家 スチュアート・ブランドの数奇な人生

ジョン・マルコフ 著 服部桂 訳

「Stay hungry. Stay foolish.」から50年。
スティーブ・ジョブズが2005年6月にスタンフォード大学の卒業式スピーチで口にし、一躍有名になった「Stay hungry. Stay foolish」(ハングリーであれ、愚かであれ)という言葉。この言葉は、ある雑誌の引用であることはご存じでしょうか?それは、1974年に刊行された、「ホールアース・カタログ」のシリーズである「ホールアース・エピローグ」の裏表紙に書かれたものでした。「ホールアース・カタログ」は、地球全体の姿を映した写真をはじめて一般の前にさらし、そこから様々な文化に影響を与えた伝説的な雑誌です。来年で「ホールアース・エピローグ」の刊行から50年となりますが、この象徴的なタイミングで、その創刊者であるスチュアート・ブランドの全貌に迫るのが本書です。

「情報はフリーになりたがっている」など、最先端の事象に影響を与え続ける
ブランドは「ホールアース・カタログ」で環境問題やカウンターカルチャー、ヒッピー文化、DIY文化といったジャンルに深い影響を与えました。環境問題に関しては、「宇宙船地球号」を提唱したバックミンスター・フラーの思想と時代的に共鳴し、地球を俯瞰してとらえるという現代的な環境の見方を作った人物であるということができます。
その後ブランドは、コンピューターやハッカー文化に関心を持ちます。ホールアース・カタログは、カテゴリーごとに地球のすべてを紹介し、「紙のインターネット」と呼ばれることからすると、その流れは自然に見えるかもしれませんが、このことが、のちのデジタル文化に非常に大きい影響を与えることになります。ブランドが情報に関して発した言葉で非常に有名なのが、「情報はフリー(自由、無料)になりたがっている」というものです。これは1984年のハッカー会議での発言ですが、いまでこそフリーミアムなどが当たり前になり、情報のフリー化がますます進んでいますが、それをブランドは数十年前にすでに予言しており、その先見性には目を見張るものがあります。
ジョブズの他にも、ブランドが代表を務める、一万年の時を刻む「ロング・ナウ時計」のプロジェクトには、ジェフ・ベゾスが多額の支援をしているように、シリコンバレーのスターたちは、ブランドに色濃く影響されていることが分かります。シリコンバレー界隈がコンピューターの次に宇宙に関心を持っていることは、いわば「ホールアース」の世界観からいまだにインスピレーションを受けていることに他ならないのです。
また、WIREDの創刊編集長は、ホールアース・カタログの編集部に在籍していたケヴィン・ケリーであり、ケリーは『インターネットの次に来るもの』(NHK出版)などで次の時代を予見してみせ日本でも大いに話題になりましたが、これらは「ホールアース」のまさに思想的後継であるといえ、その影響力はいまだに大きいものであることがお判りいただけると思います。

デジタルテクノロジーの今後の展開、環境問題の本質的な検討など、根本的な課題を多く抱える現代において、スチュアート・ブランドという、最先端の事象に影響を与え続けてきた人物のたどった道筋を抑えておくことは、今後の社会の行く末を考えるうえで避けて通ることはできないといっても、あながち言い過ぎではないでしょう。

(担当/吉田)

 

著者紹介

ジョン・マルコフ(John Markoff)

カリフォルニア州生まれのジャーナリスト。オレゴン大学で社会学を学ぶ。1988年にニューヨーク・タイムズ紙に入社。2013年には労働と自動化の関係を探ったニューヨーク・タイムズのプロジェクトで、解説報道部門におけるピュリッツァー賞を受賞。著書に『パソコン創世「第3の神話」』(NTT出版)などがある。

訳者紹介

服部桂(はっとり・かつら)

1951年生まれ。早稲田大学理工学部で修士取得後、1978年に朝日新聞社に入社。84年にAT&T通信ベンチャー(日本ENS)に出向。87年から89年まで、MITメディアラボ客員研究員として未来のメディア研究。科学部記者や雑誌編集者を経て2016年に定年退職。関西大学客員教授。早稲田大学、女子美術大学、大阪市立大学などで非常勤講師。著書に『人工現実感の世界』(工業調査会)『人工生命の世界』(オーム社)『メディアの予言者』(廣済堂出版)『マクルーハンはメッセージ』(イースト・プレス)『VR原論』(翔泳社)。訳書に『デジタル・マクルーハン』『ハッカーは笑う』『パソコン創世「第3の神話」』『ヴィクトリア朝時代のインターネット』『謎のチェス指し人形「ターク」』『チューリング 情報時代のパイオニア』(以上、NTT出版)『テクニウム』(みすず書房)『<インターネット>の次に来るもの』(NHK出版)など多数。

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