草思社のblog

ノンフィクション書籍を中心とする出版社・草思社のブログ。

高学年以降は伸びづらい「見える力」を育む 『考える力がつく算数脳パズル 図形なぞぺー<小学1年~3年>』高濱正伸ほか著

考える力がつく算数脳パズル 図形なぞぺー<小学1年~3年>

高濱正伸 著/川島慶 著 /新山智也 著

◆子どもが自分からやりたがる! シリーズ60万部突破の人気問題集に新作登場

 シリーズ累計60万部突破した人気の問題集『なぞぺー』シリーズに、図形・幾何問題の基礎力を育む『図形なぞぺー』が加わりました。『なぞぺー』シリーズは、著者が主宰する大人気学習教室・花まる学習会で使われてきた問題集を書籍化したもの。花まる学習会は、幼児や小学生の数理的思考力を伸ばすことに定評がある学習塾ですが、『なぞぺー』はそのコアとなる教材です。掲載されているのは、子どもたちが自分から楽しみ、夢中で取り組めるよう、教育の現場で子どもたちの反応を見ながらつくられ、改良されてきた面白い問題ばかりです。『なぞぺー』シリーズは保護者の方々からも「子どもが自分からやりたがる問題集」と、高い評価をいただいてきました。

◆高学年以降は伸びづらい図形・幾何の基礎力「見える力」が身につく

 著者の高濱正伸さんは、教育の現場での長年の経験から、子どもの数理的思考力の成長には臨界期があり、小学校3年生くらいまでに伸ばせるかどうかで、その後に大きな違いが生まれると感じてきました。とくに、高濱さんが「見える力」と呼ぶ能力には、その傾向が強いようです。「見える力」とは、「補助線」が思い浮かぶ力や、図形の中の必要な線だけを選択的に見る力、図を描くなど試行錯誤して答えを見つける能力のこと。子どもが将来挑むことになる、図形の証明問題、面積や角度を求める問題といった幾何学の領域では、問題にどこから手をつけてよいかが一様でなく、マニュアルが通用しないため、「見える力」が非常に重要です。そのため、この能力の有無が、学力の伸びに大きな差を生むことになるのです。
 本書『図形なぞぺー』はこの「見える力」をテーマとした問題集で、しかも子どもたちが遊びのように取り組める「パズル」としてつくられています。実際に解いてみるとわかりますが、大人もすぐには答えにたどり着けないのに、子どもでも解くことができる絶妙な難易度で、解けたときに「できた!」と声に出したくなるような、心地よい達成感が得られるようつくられています。
ぜひ、親子で「できた!」と声に出しながら、数理的思考力を育んでください。

(担当/久保田)

著者紹介

高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
1959年、熊本県生まれ、東京大学大学院修士課程卒業。93年に、学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック委員会理事。著書に『小3までに育てたい算数脳』(健康ジャーナル社)、『考える力がつく算数脳パズル』シリーズの『なぞぺー1~3 改訂版』『空間なぞぺー』『整数なぞぺー』『迷路なぞぺー』『絵なぞぺー』(以上、草思社)などがある。
川島慶(かわしま・けい)
1985年神奈川県生まれ。栄光学園高校・東京大学・同大学院卒。2011年、花まる学習会入社。2014年、株式会社「花まるラボ」を設立。2016年、思考力教材アプリ「Think! Think!」を一般公開。2017年、同アプリが米Googleにより子ども向けアプリの世界ベスト5に選出(Google Play Awards 2017)。高濱との共著に『考える力がつく算数脳パズル 迷路なぞぺー』、同シリーズの『新はじめてなぞぺー』『整数なぞぺー』『論理なぞぺー』『絵なぞぺー』(以上、草思社)など。
新山智也(にいやま・ともや)
1989年山口県生まれ。東京大学理学部卒。株式会社 花まるラボの問題作成を担当。花まる学習会の進学部門にて、最難関中学をターゲットにした授業の教材開発や指導をしながら、思考力教材アプリ「Think!Think!」の問題作成などを行う。

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考える力がつく算数脳パズル 図形なぞぺー<小学1年〜3年> | 書籍案内 | 草思社

流れゆく時間を慈しむ感受性から生まれてきた魅力的な言葉を多数、収録! 『一日の言葉、一生の言葉』白井明大著

一日の言葉、一生の言葉 旧暦でめぐる美しい日本語
白井明大 著

 本書は、『日本の七十二候を楽しむ』(東邦出版)で旧暦ブームを呼びおこした詩人が、流れる時間をいつくしむ旧暦の世界観の中から生まれた味わい深い言葉・表現の数々を「一日の言葉」「一月の言葉」「一年の言葉」「一生の言葉」に分けて紹介する本です。
 一日という小宇宙を彩る言葉。月の動きとともにめぐる一月(ひとつき)の言葉。一年、また一年と暮らしていくための言葉。そして、今ここに生きている命を肯定する一生の言葉。
 「時というのはふしぎで、一年があっという間に過ぎることもあれば、ほんの一瞬が永遠のように感じられることもある。だからこそ昔の人は、そのときそのときを愛おしむように、目の前に現れるものごとに、こまやかに名前をつけて呼んできたのかもしれない」と著者は書いています。
 言葉を知ることは、この世界をより深く理解する手掛かりであり、それはまた、より良く生きるためのよすがにもなります。本書に収められた味わい豊かな言葉が、読んでいただいた皆様の心に暖かな灯をともすことを願ってやみません。

【一日の言葉】明けぐれ(あけぐれ) かぎろい 糸遊(いとゆう) ほがらほがら 夕凪(ゆうなぎ) 彼は誰(かわたれ) 日にち薬(ひにちぐすり)…ほか

【一月の言葉】月旦(げったん) 待宵(まつよい) 十五夜(じゅうごや) 雨月(うげつ) 満月(まんげつ) 星月夜(ほしづくよ) 地球照(ちきゅうしょう)…ほか

【一年の言葉】春隣り(はるとなり) 花筏(はないかだ) 桃始めて笑う(ももはじめてわらう) 白南風(しろはえ) 夏ぐれ(なつぐれ) 白雨(はくう) 金風(きんぷう)…ほか

【一生の言葉】息吹き(いぶき) 手児(てご) 幸う(さきわう) ぬちぐすい 草の縁(くさのゆかり) 手六十(てろくじゅう) 有涯(うがい) 常しえ(とこしえ)…ほか

◇本書より一部抜粋◇
日にち薬【ひにちぐすり】
月日が経つことが、心身を癒してくれる何よりの薬、という言葉が、日にち薬。…過ぎゆく日々が薬になる、というのは、人間を包むこの世のやさしさだと信じたい。

白南風【しろはえ】
梅雨のさなか、どんよりと黒い雨雲の下で吹く南風のことを、黒南風という。…いつしか雨雲を吹き払い、梅雨明けを運んでくる南風が、白南風。夏の到来を告げる風。 

有涯【うがい】
限りがある人の一生のことを、有涯という。人には、たしかに寿命があり…死があり、別れがある。それなのに有涯という言葉を目にすると、なんだか心が鼓舞される気がする。…一生を生き抜いた人の生涯というものが、一人一人に厳然と有ると、この言葉に告げられているかのよう。    

(担当 碇)

著者紹介

白井明大(しらい・あけひろ)

詩人。1970年東京生まれ。詩集に『心を縫う』(詩学社)、『くさまくら』(花神社)、『歌』(思潮社)、『島ぬ恋』(私家版)、『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊記念現代詩賞)。2012年に刊行した『日本の七十二候を楽しむ ─旧暦のある暮らし─』(東邦出版)が旧暦への静かなブームを呼び起こす。そのほか『季節を知らせる花』(山川出版社)、『暮らしのならわし十二か月』、『七十二候の見つけかた』(ともに飛鳥新社)、『島の風は、季節の名前。旧暦と暮らす沖縄』(講談社)など、季節や旧暦に関する著書多数。

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試し読み 『勝海舟 歴史を動かす交渉力』山岡淳一郎著

第四章「大江戸開城の大交渉」より抜粋

 勝は、西郷を圧倒する気魄で談判(江戸開城交渉)に臨むために恐るべき戦術をたてていた。もしも交渉が決裂して官軍が攻撃に移ろうとしたら、即座に四方八方へ秘かにしらせ、「江戸市街を焼き、敵の進退を断ち切り、焦土となす」作戦の準備をしていたのである。火炎の壁で官軍の進軍を阻む「江戸焦土作戦」は、一八一二年にナポレオン・ボナパルトがロシア遠征でモスクワに侵入したときに炎上する街をあとに退却した史実を参考にしていた。
 現代のビジネスにおける「交渉学」では、しばしば「BATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)=合意が成立しなかったときの最善策」が重要だといわれるが、百五十年も前に途方もない規模で、勝はそれを用意していた。

 

 焦土作戦を立てるに当たって、勝はごくしぜんに庶民を使おうとした。そのなかには最下層の人びともいた。そもそも江戸の治安維持は勝の変わらぬ役目であった。官軍の急迫で人心がかき乱され、江戸府下の不埒な輩が財物を強奪し、火を放って町が灰燼に帰すのを防ごうとした。まず勝はメモ用の帳面を持って、火消組の頭、博徒の長、非人の長、名望のある親分と言われる者たち三十五、六名の間を飛び回り、密かに火災を防ぐ組織をこしらえた。かれらを一堂に集め、「おれの指図で動いてくれ」と説き、納得させた。

 

理屈をこねるばかりではない。雑費として幾ばくかの金を与え、「めいめい勝手な行動は慎んでくれよ」と言い渡す。水面下で庶民の防災ネットワークをこしらえたのである。勝から直接頼まれた面々はいたく感激し、「あっしも男だ。勝先生に命を預けやす。子分に暴れさせたりは致しやせん」と誓った。組織のことは他言しないと誓い合い、勝の号令一下で一斉に火消しに奔走する態勢がつくられたのだった。

 

(中略)

 

 …組織した下層のネットワークを、勝は、西郷との談判をまえに「火消し」から一転「火つけ」に百八十度転換しようというのだから、強面の親分連中も驚いたのなんの。焦土作戦を話し合う寄合いで、火消組の頭は、「勝先生、あっしは親の代から火を消してめぇりやした。隣近所からも喜ばれ、纏を振ってきた者でございます。いまさら、火つけをしろと……ほんとうにやっちまっていいんでしょうか」と当惑した。
「そうだ。思いっきり、やってくれろ。火をつけて官軍のやつらを江戸市中に近づけねぇためだ。だがな、おれが合図するまで、早まっちゃいけねぇよ。何も、江戸の民を焼き殺そうってわけじゃねぇんだ。ここからが肝心だ。聞いておくれ。おい、船頭さんたち」
 と、勝は、少し離れて控えていた船方衆を話の輪に引き入れた。

 

「火を放つと決まったら、船頭さん、おめぇさんたちは、房総から江戸前あたりの大小の船を速やかに江戸に引き入れ、川の河岸という河岸、着船場、ありとあらゆるところで人を乗せて、運んでやってくれ。一人も残しちゃいけねぇよ。助けるんだ」
「へぇ。すぐに船は集めやしょう。どうぞご安心を」と船頭の親方が胸を叩いた。

 

 避難民の護衛は、魚河岸の兄さんたちに任される。武器は魚をさばく出刃包丁だ。
「よしきたッ。包丁でサツマイモ(薩摩軍)をぶった切りましょうかね」
「そんときゃ、頼むぜ。まぁいいや。焦土作戦は、最後の最後、奥の手だ。くれぐれも、早まるんじゃねぇよ。おれが合図をしたら、一気呵成にやるんだ」

 

 勝の肚は据わった。
 談判をまとめなければ、江戸が火の海となる。大悪行に手を染めてしまうのだ。もう後はない。退路を断った勝は、池上本門寺の西郷に面談を申し込む手紙を送った。

 

両雄は、高輪の薩摩藩下屋敷で、三月十三日に相まみえることとなった。

 

(以下、いよいよ歴史を動かす大交渉へ)

 著者紹介

山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。「人と時代」を共通テーマに近現代史、政治・経済、建築、医療など分野を超えて旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書に『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(以上草思社文庫)、『日本電力戦争』(草思社)、『神になりたかった男 徳田虎雄』『気骨 経営者土光敏夫の闘い』(以上平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『成金炎上 昭和恐慌は警告する』(日経BP社)、『原発と権力』『インフラの呪縛』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(以上ちくま新書)ほか。東京富士大学客員教授。一般社団デモクラシータイムス同人。

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西郷は「肚」(はら)ができていた。「肚」はどう作るか。 『声に出して読みたい・こどもシリーズ こども西郷どん』齋藤孝著 平井きわ絵

声に出して読みたい・こどもシリーズ こども西郷どん

齋藤孝 著 平井きわ 絵

 西郷隆盛は身体が大きかった。180センチ、110キロぐらいあったらしい。当時の日本人としてはかなり大柄だ。日本人男性の平均身長が160センチ以下だった時、180センチというのはかなり大きい。西郷は大きな男だったというのはこの肉体的な大きさを言うことと同時に、精神的な大きさも言うことが多い。大らかな慈愛に満ちた心、包容力、志を持った高潔さ、そして何事にも動じない肚のすわった意志力や勇気である。
 最後の「肚がすわった男」というのがあまり作今言われない徳の一つである。齋藤孝先生は目指すべき人間の人格として、論語などに倣って「知・仁・勇」ということを言っている。これに身体の各部所を当てはめ、「頭」に手を当てて「知」、「胸、心臓」に手を当てて「仁」、
「腹、肚」に手を当てて「勇」と覚えなさいと、生徒に指導している。この三つの徳が備わった人間を目指すというのが日本の伝統的な修養なのだが、なかでは「腹、肚」に宿る「勇」という徳が現代では一番忘れられているのではないだろうか。
 西郷の体現している理想の人間像はまさに「知・仁・勇」なのだが、最後の「肚がすわった」「勇気のある」人間というのは、いちばんわかりにくいし、実現しにくい。
「肚」(はら)という字が忘れられているように、知性(知)や他人への優しさ(仁)などはわかるが、西郷のような「肚のすわった器の大きな男」(勇)は現代日本にいるのか。
 パワハラやセクハラなどが昔より厳しく問われ、コンプライアンスに戦々恐々としている現代社会では、そういう人徳は育ちにくいかもしれない。作今の政治家や役人や企業経営者などの顔を思い出せばそれがよくわかる。
 人間の「肚」をどう作るかがこの本(『こども西郷どん』)のテーマの一つである。

(担当/木谷)

著者紹介

齋藤孝(さいとう・たかし)

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。著書に『身体感覚を取り戻す』(日本放送出版協会、新潮学芸賞)『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)など多数。近著に『語彙力こそが教養である』(角川書店)『こども孫子の兵法』(日本図書センター)『こども論語』『こどもギリシア哲学』(いずれも草思社)など。NHK・ETV「にほんごであそぼ」監修など、マスコミでも活躍中。

平井きわ(ひらい・きわ)/絵

女子美術大学卒業後、企業のキャラクターデザイナーとしての勤務を経て、フリーランスで活動中。

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「生産性を上げるには、従業員を幸せにすればいい」という話 『文庫 データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男著

文庫 データの見えざる手

――ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

矢野和男 著

◆コストゼロで生産性が13%も向上できた!

 ビッグデータとAIを駆使した、新時代の生産性研究の名著『データの見えざる手』が文庫化されました。本書の単行本版は、最近の「働き方改革」や生産性向上にかんする議論を先取りする形で、2014年に刊行されました。しかも、人々が働く現場で実験・計測した科学的研究を元に生産性にかんする議論を展開しており、その内容は現在も他の追随を許さない高みにあると言えます。
 では、具体的には、生産性はどのような方法によって上がるのでしょうか。本書ではいくつか実例が挙げられていますが、端的な例を挙げれば「従業員が幸せになればいい」というものです。
 以前にも心理学者などによるアンケート調査を使った実験により、従業員が幸せな状態になると生産性が高くなることは、数多くの研究で示されていました。しかし、アンケート調査では、リアルタイムで「幸福度」を測ることができず、幸福になるような施策を行った結果を、詳細に計測することはできませんでした。
 ところが著者らは、従業員の体の動きを詳細に検知するウエアラブルセンサのデータを分析し、アンケート調査による幸福度と非常に相関の高い、体の動きのパターンを抽出することに成功。これを指標とすることで、リアルタイムに幸福度を測定することを可能としました。これを応用した実験の結果は驚くべきものです。
 ある職場で、それまではシフトの関係から、従業員が時間をずらしてバラバラに昼食をとっていたものを、なるべく同世代の人同士で一緒に昼食をとるように変更する実験を行いました。すると、従業員の幸福度の指標が上昇、生産性(本実験の場合は受注率)も13%向上した、というのです。会社側はまったくコストをかけず、ただシフトを工夫しただけで、生産性を向上させることができたことになります。

◆これまでの常識を覆す、生産性向上のヒントが満載

 本書にはこの他にも、驚くべき生産性向上施策の数々が紹介・解説されています。「量販店の店舗で、ある特定の場所に従業員がいつもいるようにするだけで、顧客の購買単価が15%向上した」とか、「職場で各人の『知り合いの知り合い』の数が増えるように、互いを面談させる介入を行ったら、開発遅延がなくなった」など。いずれも、センサとデータ、AIなどを活用して行われた生産性向上施策です。
面白いのはAIやデータを活用した結果、行われた生産性向上施策の方が、管理と長時間労働に頼った従来の方法より、ずっと人間的で、ずっと効果的なことです。
 いま、著者の研究は「働き方改革」と生産性向上を同時に実現するものとして大変な注目を集めています。また、文庫版には、単行本刊行後の研究や現状にかんする、著者自身による15ページにおよぶ解説も収録。単行本版を読んだ方もそうでない方も、生産性について興味のあるすべての方が読むべき一冊です。

(担当/久保田)

著者紹介

矢野和男(やの・かずお)

株式会社日立製作所フェロー。2004年から先行してウエアラブル技術とビッグデータ解析で世界を牽引。論文被引用件数は2500件。特許出願350件。「ハーバードビジネスレビュー」誌に、「Business Microscope(日本語名:ビジネス顕微鏡)」が「歴史に残るウエアラブルデバイス」として紹介されるなど、世界的注目を集める。のべ100万日を超えるデータを使った企業業績向上の研究と心理学や人工知能からナノテクまでの専門性の広さと深さで知られる。2014月に上梓した著書『データの見えざる手』(単行本)が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会 副会長。東京工業大学大学院特定教授。文科省情報科学技術委員。1994年ISSCC 最優秀論文賞、2007年BME Erice Prize、2012年Social Informatics国際学会最優秀論文など国際的な賞を多数受賞。

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『バノン 悪魔の取引』「訳者あとがき」より:秋山勝(本書訳者) 『バノン 悪魔の取引』ジョシュア・グリーン 著 秋山勝 訳

バノン 悪魔の取引

―― トランプを大統領にした男の危険な野望

ジョシュア・グリーン 著 秋山勝 訳

 

バノンとトランプ、暗黙のうちに結ばれた「悪魔の取引」
 2016年アメリカ大統領選でヒラリー・クリントンを制し、ドナルド・トランプを第45代大統領に仕立てあげた男、スティーブ・バノン――本書は、トランプの元側近中の側近だった人物の正体とその桁はずれの経歴、またこの人物が奉じる危険で際どい思想を明らかにした1冊である。…ご一読いただければ、バノンとトランプとのそもそもの出会いや二人がどのような関係にあったのか、また暗黙のうちに結ばれた両者の盟約とは何かが了解していただけるはずだ。この点を了解していなければ、2017年8月18日のバノン退任の意味、そして2018年に起きた一連の騒動のいきさつや思惑をすんなりと理解することはできないだろう。

 

「アメリカの政治史上、もっとも危険な策謀家」
 著者のジョシュア・グリーンがバノンを知ったのは、原書が刊行される6年前の2011年初夏のことだった。当時、香港から帰国したバノンは保守系プロパガンダ映画のプロデューサーとして活動していた。…グリーンはひと目でバノンの存在感に圧倒された。…そうして書き上げた記事が「アメリカの政治史上、この男はもっとも危険な策謀家」である。 
記事は2015年8月8日、ブルームバーグ・ポリティクスに掲載された。…この記事をベースに、バノンや関係スタッフへの取材を改めて行い、さらにはトランプ本人とのロングインタビューを踏まえたうえで、投票日翌日の朝までの出来事が本書には書かれている。

 

主流メディアを手玉にとる巧妙な戦略
 バノンがトランプ陣営の選挙参謀に就任したのは2016年8月17日。11月8日の本選挙まで、その時点ですでに3カ月を切っていた。だが、ロバート・マーサーという奇矯な大富豪の支援を受け、トランプとは無関係な場所で反クリントンの包囲網はすでに周到に進められていた。トランプにすればまさに渡りに船である。注目すべきはそのメディア戦略だ。ブライトバート・ニュースと政府アカウンタビリティー協会(GAI)との連携、さらに主流メディアを手玉にとり、リベラルなメディアに反クリントンの記事を書かせる手口はまさにバノンならではのものだろう。そして、選挙資源を北中西部地域、すなわちラストベルトに集中させていく。民主党を見限った白人労働者を取り込むことで、劣勢にあった陣営の立て直しをバノンは見事に図った。

 

アメリカの政治史上かつてない逆転劇
 こうして、アメリカの政治史上かつてない番くるわせが実現する。当のアメリカ国民のみならず、世界中の誰もがその結果に息をのんだ。開票のさなか、トランプ陣営のスタッフが「やばいな。本当に大統領になってしまうぞ」と声を漏らすような衝撃である。その衝撃的な事実がなぜ起きたのか。本書を読まれたいま、それは偶然などではなく、起こるべくして起きた必然のなりゆきだと納得できるのではないだろうか。


アメリカを導いた〝影のナンバー2〟
 政権移行にともない、バノンも大統領の最側近としてホワイトハウス入りを果たす。任命された首席戦略官は新設ポストで、上級顧問としての権限は〝影のナンバー2〟である首席補佐官にほぼ匹敵した。ホワイトハウス在任は8月18日までと1年にも満たないが、この間、メディアとは激しく対立している。ニューヨーク・タイムズの電話インタビューに、トランプの勝利を予想できなかったメディアは口をつぐめと言い放つと、主流メディアは野党だと切り捨てた。「イスラムは世界最大の脅威」と叫び、「行政国家の解体」を宣言、パリ協定離脱へとアメリカを導いた影の中心人物こそスティーブ・バノンにほかならない。

 

「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」
「ホワイトハウスのラスプーチン」「バノン大統領」「トランプを操る男」などの異名をとったが、自身に抱いていたバノン本人のイメージはそうではないようだ。大統領選直後の2016年11月18日、エンターテインメント業界の情報誌ハリウッド・リポーターに対し、バノンは単独インタビューを許可している(このときのライターが『炎と怒り:トランプ政権の内幕』の著者マイケル・ウォルフである)。
「闇とはいいものだ。ディック・チェイニー、ダース・ベイダー、サタン、それは力だ」「私は白人至上主義者ではない。私はナショナリストで、経済ナショナリズムを信奉している」とバノンらしい言葉が続く。
記事の最後に発したひと言は「私はチューダー朝のトマス・クロムウェルだ」であった。

(抜粋)

著者紹介

ジョシュア・グリーン
1972年生まれ。ジャーナリスト。コネチカット大学卒業後、ノースウェスタン大学メディル・ジャーナリズム研究科で学位を取得、その後ワシントン・マンスリー、アトランティックの記者や編集デスクなどを経て、現在、ブルームバーグ・ビジネスウィークの上級通信員として国内問題を担当している。ボストン・グローブ、ニューヨーカー、エスクァイア、ローリングストーンなどへの寄稿のほか、Morning Joe(MSNBC)、Meet the Press(NBC)、Real Time with Bill Maher (HBO) Washington Week(PBS)などの番組にも定期的に出演している。

訳者紹介

秋山勝(あきやま・まさる)
立教大学卒業。出版社勤務を経て翻訳の仕事に。訳書に、ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』、デヴィッド・マカルー『ライト兄弟』、曹惠虹『女たちの王国』(以上、草思社)、ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』、マーティン・フォード『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(以上、朝日新聞出版)など。

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日本の鉄道は特殊すぎて世界で役立つ場所が見つからない。 『日本の鉄道は世界で戦えるか 国際比較で見えてくる理想と現実』川辺謙一 著

日本の鉄道は世界で戦えるか
――国際比較で見えてくる理想と現実

川辺謙一 著

◆「世界一」というのは思い込みに過ぎない!?

 日本は、新幹線という世界で初めての高速鉄道を、1964年に実現した国です。日本の鉄道は、その後もどんどん便利になりました。毎年、新規開業や延伸があり、相互乗り入れや増発などでサービスが向上し続けたのです。ですから、日本人は「日本の鉄道は世界一」と、ごく自然に考えてきました。当然、新幹線の輸出もうまく行くはず、でした――。
 新幹線を含む鉄道の海外展開は、アベノミクス成長戦略における「インフラ輸出」の一環として重視されています。日本の鉄道は優秀だから、海外へどんどん輸出できて当然、と思っていた方も多いでしょう。でも、その割には海外から「引く手あまた」という状況にはないようですし、苦戦しているというニュースも耳にすることがあります。一体これは、どうしてなのでしょう。
 本書は、日本の鉄道の実力、特性の本当のところ、すなわち日本の鉄道の「立ち位置」を明らかにするべく、日英仏独米のおもに5カ国の鉄道を国際比較するものです。

◆世界の鉄道利用者の3割が日本! あまりに特殊な日本の鉄道

 本書の第1章の章題は「日本の鉄道は特殊である」。読み始めれば、今まで何の疑問もなく見てきた日本の鉄道が、世界のなかでは、あまりに変わった存在であることに驚かされます。
 たとえば、日本は鉄道利用者の数が極端に多い国です。世界中で鉄道を利用している人のうち、3割が日本の鉄道の利用者というほど。新幹線と他国の高速鉄道とを比べても同様です。日本の東海道新幹線では、1時間に10本を超える時間帯もあるほど高密度な運転間隔となっていますが、他国ではせいぜい1時間に1~2本程度。日本くらい高速鉄道の需要が大きな国はほかにないでしょう。
 本書を読み進めるうちに、「日本の鉄道は特殊すぎて、世界で役立つ場所が見つけられない」という現実が徐々に明らかになります。それだけでなく、その特殊性に気づかない国民は現状認識を誤って、鉄道に過大な期待を抱いており、そのことが鉄道関係者に大きなプレッシャーとなっていることもわかることでしょう。さらには、日本の鉄道の未来が、実は楽観できるものでないことも……。
 日本の鉄道は、日本で、そして世界で、どのように生き残っていけばいいのか? 鉄道ファンだけでなく、鉄道業界に身を置く方や、鉄道業界の将来に興味のある方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
(担当/久保田)

著者略歴

川辺謙一(かわべ・けんいち)

交通技術ライター。1970年三重県生まれ。東北大学大学院工学研究科修了後、メーカー勤務を経て独立。高度化した技術を一般向けに翻訳・紹介している。著書は『東京道路奇景』『日本の鉄道は世界で戦えるか』(草思社)、『東京総合指令室』(交通新聞社)、『図解・燃料電池自動車のメカニズム』『図解・首都高速の科学』『図解・新幹線運行のメカニズム』『図解・地下鉄の科学』(講談社)、『鐡道的科学(中国語版)』(晨星出版)など多数。

目次

はじめに
第1章 日本の鉄道は特殊である
1・1 鉄道利用者数が極端に多い国、日本
1・2 なぜ日本で鉄道が特異的に発達したのか
第2章 日本の鉄道を海外と比較
2・1 英仏独米日の鉄道をくらべる
2・2 鉄道史をくらべる
2・3 鉄道の現状をくらべる
第3章 日本と海外の都市鉄道をくらべる
3・1 米英仏独日の都市鉄道をくらべる
3・2 都市鉄道史をくらべる
3・3 より具体的にくらべる
第4章 日本と海外の高速鉄道をくらべる
4・1 日英仏独米の高速鉄道をくらべる
4・2 高速鉄道史をくらべる
4・3 リニアとハイパーループによる高速化
4・4 より具体的にくらべる
第5章 空港アクセスと貨物の鉄道を国際比較
5・1 空港アクセス鉄道
5・2 貨物輸送
第6章 イメージと現実のギャップ
6・1 日本人は鉄道が好き?
6・2 日本の鉄道技術は世界一なのか
6・3 鉄道ができると暮らしが豊かになるのか
6・4 鉄道に対する認識のギャップ
6・5 認識のギャップが過剰な期待を生じさせる
第7章 これからの日本の鉄道と海外展開
7・1 鉄道の維持は難しくなる
7・2 鉄道が時代の変化に対応するには
7・3 鉄道の海外展開を成功に導くには
7・4 「競争」から「融合」へ
第8章 国際会議で見た日本の鉄道の立ち位置
8・1 第9回UIC世界高速鉄道会議
8・2 イノトランス2016
おわりに
参考文献

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